第2章 違反被疑事件の審査及び処理

第1 改正独占禁止法の円滑な運用

  談合・横並び体質からの脱却を図り,21世紀にふさわしい競争政策を確立する観点から,
 (1)課徴金制度の見直し,(2)課徴金減免制度の導入,(3)犯則調査権限の導入,(4)審判手
 続の見直し等を内容とする独占禁止法改正法が平成17年4月に成立し,平成18年1月から
 施行されている。
  改正独占禁止法の運用は,次のとおり,円滑に行われており,期待された効果も着実に
 現われつつあると考えられる。
 (1)  課徴金
  ア 課徴金算定率の引上げ等
    独占禁止法改正法により,課徴金制度については,(1)算定率の引上げ,(2)違反を
   繰り返した事業者に対する算定率の割増制度の導入,(3)調査開始前に短期間で違反行
   為をやめた事業者に対する算定率の軽減制度の導入,(4)課徴金の適用対象範囲の拡大
   といった制度改正が行われた。これらの制度については,平成18年1月4日以降の違
   反行為が対象となっているところ,平成18年度において適用された事例はなかった。
  イ 課徴金減免制度
    独占禁止法改正法により課徴金減免制度が導入されたところ,平成18年度において
   は,79件の報告等が行われた(独占禁止法改正法施行(平成18年1月)以降の件数は,
   105件)。課徴金減免制度に基づく情報を活用して法的措置が採られた事件として,旧
   首都高速道路公団発注のトンネル換気設備工事に係る入札談合事件等がある。
    また,平成18年度においては,入札談合事件6件に係る延べ16名の申請事業者につ
   いて,当該事業者からの申出より,これらの事業者の名称等を公表した(注)。
   (注)公正取引委員会は,課徴金減免制度の適用を受けた事業者から公表の申出があ
     る場合には,課徴金納付命令を行った際などに,公正取引委員会のホームページ
     (http://www.jftc.go.jp/genmen/kouhyou.html)に,当該事業者の名称,所在地,
     代表者名及び免除の事実又は減額の率を公表することとしている。

 (2)  犯則調査
   独占禁止法改正法により,犯則調査権限が導入された。平成18年度においては,新設
  された犯則審査部において調査を行った結果,し尿処理施設建設工事の入札談合事件及
  び名古屋市営地下鉄に係る土木工事の入札談合事件の2件を検事総長に告発した。改正
  法により,特定の独占禁止法違反行為に係る刑事訴訟の第一審の裁判権は地方裁判所に
  属することとされており,これら2件は,いずれも,地方裁判所(大阪及び名古屋)に
  公訴が提起された。
 (3)  排除措置命令及び事前手続
   独占禁止法改正法により,勧告制度が廃止され,意見申述等の機会の付与等の事前手
  続を経た上で,排除措置命令を行うこととなった。また,課徴金納付命令を排除措置命
  令と同時に行うことができるようになった。
   平成18年度においては,課徴金の対象となる違反行為に対する法的措置9件のうち,
  課徴金納付命令のみを行った1件を除く8件について,排除措置命令と課徴金納付命令
  を同時に行った。
   また,排除措置命令及び課徴金納付命令の事前手続において,命令の名あて人となる
  べき者等から申出があった場合には,公正取引委員会の認定した事実又は課徴金の計算
  の基礎若しくはその課徴金に係る違反行為を基礎付けるために必要な証拠について説明
  している。平成18年度中に法的措置を採った事件においては,申出のあった延べ51事業
  者に対して説明を実施した。


第2 違反被疑事件の審査及び処理の状況

  独占禁止法は,事業者が私的独占又は不当な取引制限をすること,不公正な取引方法を
 用いること等を禁止しており(第3条,第19条ほか),公正取引委員会は,一般から提供
 された情報,自ら探知した事実等を検討し,これらの禁止規定に違反する事実があると思
 料するときは,独占禁止法違反被疑事件として必要な審査を行っている。
  審査事件のうち必要なものについては独占禁止法第47条の規定に基づく権限を行使して
 審査を行い,違反する事実があると認められたときは,排除措置命令の名あて人となるべ
 き者に対し,予定される排除措置命令の内容等を通知し(第49条第5項),意見を述べ,
 及び証拠を提出する機会の付与を行い(第49条第3項),その内容を踏まえて,排除措置
 命令を行っている。
  また,排除措置命令等の法的措置(注1)を採るに足る証拠が得られなかった場合であっ
 ても,違反の疑いがあるときは,関係事業者等に対して警告を行い,是正措置を採るよう
 指導している(注2)。
  さらに,違反行為の存在を疑うに足る証拠が得られないが,違反につながるおそれのあ
 る行為がみられた場合には,未然防止を図る観点から注意を行っている。
  なお,法的措置及び警告については,当該事実を公表している。また,注意及び打切り
 については,競争政策上公表することが望ましいと考えられる事案については,関係事業
 者から公表する旨の了解を得た場合又は違反被疑の対象となった事業者が公表を望む場合
 は,その旨公表している。
  平成18年度における審査件数(小売業における不当廉売事案で迅速処理したもの(第1
 −2表)を除く。)は,前年度からの繰越しとなっていたもの18件,年度内に新規に着手
 したもの141件,合計159件であり,このうち本年度内に処理した件数は131件である。
  131件の内訳は,排除措置命令等の法的措置13件,警告9件,注意74件及び違反事実が認
 められなかったため審査を打ち切ったもの35件となっている(第1−1表参照)。
  (注) 1 排除措置命令等の法的措置とは,旧法に基づく「勧告」,「排除措置命令」,及び「勧告又は排除措置命令を
      行っていない課徴金納付命令」である。
      2 独占禁止法改正法施行後においては,警告を行う場合にも,命令の際の事前手続に準じた手続を経ることを
       明らかにしているところ,独占禁止法改正法施行前に警告を行った事件についても,名あて人に対し事前に警
       告内容の説明等を行っていた。


    
 
 (注) 1 ( )内の数字は,勧告又は課徴金納付命令に係る審判開始決定を行った事件数である。
      2 勧告又は排除措置命令を行っていない課徴金納付命令事件数である。
      3 事件の関係人の一部のみを対象として納付を命じる場合( 一部の関係人について審判が行われたため
       関係人によって課徴金の納付を命じた時期が異なった場合等)には,最初の課徴金納付命令が行われた
       年度に事件数を計上している。
      4 ( )内の数字は,課徴金納付命令に係る審判開始決定を行った関係人数である。
      5 課徴金の納付を命じる審決を含み,審判手続を開始したものを含まない。



    

    

  平成18年度において,法的措置,警告,注意又は打切りのいずれかの処理を行ったもの
 を行為類型別にみると,私的独占2件,価格カルテル30件,入札談合6件,その他のカル
 テル2件,不公正な取引方法77件,その他14件となっている(第2表参照)。法的措置を
 行った事件は13件であり,この内訳は,価格カルテル3件,入札談合6件,不公正な取引
 方法4件となっている(第3表,第3図及び第4表参照)。
  平成18年度において,独占禁止法の規定に違反する事実があると恩科され,公正取引委
 員会に報告(申告)された件数は5,250件となっている(第2図参照)。この報告が書面で
 具体的な事実を摘示して行われた場合には,措置結果を通知することとされており(第45
 条第3項),平成18年度においては,2,430件の通知を行った。
  また,公正取引委員会は,独占禁止法違反被疑行為の端緒情報をより広く収集するため,
 平成14年4月からインターネットを利用した申告が可能となる電子申告システムを公正取
 引委員会のホームページ上に設置しているところ,平成18年度においては,同システムを
 利用した申告が261件あった。
  なお,平成18年度において,独占禁止法改正法により導入された課徴金減免制度に基づ
 き,事業者により自らの違反行為に係る事実の報告等が行われた件数は,79件であった。

    

    
 
(注) 1  価格カルテルとその他のカルテルが関係している事件は,価格カルテルに分類している。また,複数
      の行為類型に係る事件は,主たる行為に即して分類している。
      2  「その他のカルテル」とは,数量,販路,顧客移動禁止,設備制限等のカルテルである。
     3  第8条第1項第5号に係る事件は,不公正な取引方法に分類している。
     4  「その他」とは,事業者団体による構成事業者の機能活動の制限等である。



    
  (注) 1 価格カルテルとその他のカルテルが関係している事件は,価格カルテルに分類している。また,複数
       の行為類型に係る事件は,主たる行為に即して分類している。
     2  「その他のカルテル」とは,数量,販路,顧客移動禁止,設備制限等のカルテルである。
     3  第8条第1項第5号に係る事件は,不公正な取引方法に分類している。
     4  「その他」とは,事業者団体による構成事業者の機能活動の制限等である。