第11章 消費者取引に関する業務

第1 概説

 近年,消費者ニーズの多様化,経済のサービス化・国際化等,消費者を取り巻く経済社
会情勢は大きく変化してきており,また,規制緩和の進展に伴い,消費者への適切な情報
提供を推進し,消費者の適正な商品・サービスの選択を確保していくことが重要な課題と
なっている。
 公正取引委員会では,独占禁止法及び景品表示法を厳正に運用し,違反事件の排除に努
めるほか,消費者の関心の高い商品・サービスや電子商取引等の新しい分野における実態
調査を行うこと等を通じて,景品表示法上の考え方を明らかにするためのガイドラインの
策定等を行い,公正かつ自由な競争を促進し,消費者取引の適正化に努めている。

第2 消費者取引の適正化への取組

1 消費者向け電子商取引の適正化への対応

 公正取引委員会は,一般家庭におけるインターネットの急速な普及とともに広く行われ
るようになった消費者向け電子商取引について,健全な発展と消費者取引の適正化を図る
観点から,次のような取組を行った。

・ 電子商取引監視調査システムによる常時監視の実施
   インターネット上の広告表示については,消費者向け電子商取引の健全な発展と適
  正化を図る観点から,従来,一般消費者80名に,「電子商取引調査員」としてインター
  ネット上の広告表示の調査を委託して,問題となるおそれがあると思われる表示につ
  いて報告を受け(電子商取引監視調査システム),景品表示法違反事件の端緒,景品
  表示法の遵守について啓発するメールの送信等に利用している。
   平成18年度は電子商取引監視調査システムを通じ,991件のインターネット上の広告
  表示について,電子商取引調査員から問題のおそれがあるとの報告を受けた。また,
  「消費者向け電子商取引における表示についての景品表示法上の問題点と留意事項」
  (平成14年6月公表。以下「留意事項」という。)に照らして問題があると認められ
  た60サイトの管理者に対し,景品表示法の遵守について啓発するメールを送信するこ
  とにより,同管理者に自主的な表示の改善を促した。その結果,ほとんどの表示につ
  いて改善がみられるなど一定の成果を上げている。

2 表示実態調査
(1) 黒酢及びもろみ酢の表示に関する実態調査(平成18年5月)
  食酢は,近年の健康ブームを反映し,希釈して直接飲用する利用が増えており,この
 ような需要に対応して,特に黒酢を中心に,調味料としてではなく直接飲用するタイプ
 の商品も開発されている。また,食酢ではないが,「もろみ酢」と呼ばれている泡盛等
 のもろみ粕を利用した比較的新しい商品も登場し,消費者の人気が高い。
  これらの商品には,○○県産等の地域に関する表示,健康,ダイエット等に関する表
 示等が多くみられるほか,黒酢であるのかもろみ酢であるのかが紛らわしく,一般消費
 者が両者を混同するおそれがある表示も見受けられる。
  このため,公正取引委員会は,一般消費者の適正な商品選択に資する観点から,黒酢
 及びもろみ酢の表示に関する実態調査を行い,景品表示法上の考え方を整理し,これを
 公表した。
  当該実態調査の結果を受け,公正取引委員会は,黒酢については,引き続き,全国食
 酢公正取引協議会等による食酢の表示の適正化への取組を支援していくこととし,もろ
 み酢については,適正表示の観点からみて問題がある表示もあったことから,沖縄県酒
 造組合連合会のもろみ酢協議会等に対し,公正競争規約の設定を含め表示適正化への取
 組を積極的に支援していくこととした。
(2) 果汁・果実表示のある加工食品の表示に関する実態調査(平成18年11月)
  果汁,果実及びこれらを粉末,ペースト状等にしたもの(以下「果汁等」という。)
 を原材料として使用した加工食品,あるいは,果汁等は使用せずに,香料,着色料等に
 よって果汁の風味を付けた加工食品には,果実の写真,絵,名称等や,果汁の含有率等
 を強調した表示(以下「果汁等の強調表示」という。)が多くみられる。これらの商品
 の中には,実際には果汁等が使用されていない,あるいは,写真,絵,名称等で表示さ
 れている果実とは異なる果汁を使用しているものなどが見受けられた。
  このため,公正取引委員会は,一般消費者の適正な商品選択に資する観点から,果汁
 等の強調表示のある加工食品のうち,キャンデー,グミ等の固形タイプの商品を対象に
 表示の実態調査を行い,景品表示法上の考え方を整理し,公表した。
  当該実態調査の結果を受け,公正取引委員会は,関係業界における表示適正化への自
 主的な取組について支援してきたところ,飴菓子類の業界団体である全国飴菓子工業協
 同組合において,「果実・果汁等の表示のあるキャンデー(飴菓子)類の表示に関する
 自主基準」が制定された。
(3) 短期の語学留学等の表示に関する実態調査(平成18年12月)
  近年,若者を中心に留学あっせんサービスを利用した短期の語学留学等(3か月未満
 の語学学校への留学等を目的としたもので,通常ビザの必要のないものをいう。)が増加
 する傾向にあるといわれているところ,一般消費者の適正な商品選択に資する観点から,
 短期の語学留学等の表示に関する実態調査を行い,景品表示法上の考え方を整理し,公
 表した。
  当該実態調査の結果を受け,公正取引委員会が関係団体に対し,表示の適正化に向け
 た取組を行うよう要望したところ,留学あっせん業者を会員に含む社団法人日本旅行業
 協会傘下のホームステイツアー等適正化協議会及び特定非営利活動法人海外留学協議会
 は,今回示した景品表示法上の考え方を踏まえてガイドラインを作成し,傘下会員に周
 知した。また,募集型企画旅行の表示に関する公正競争規約を運用する旅行業公正取引
 協議会は,今回示した景品表示法上の考え方を取り入れるため,同規約の運用基準を改
 正した。

第3 消費者モニター制度

1 概要

 消費者モニター制度は,独占禁止法及び景品表示法の施行その他公正取引委員会の消費
者政策の諸施策の的確な運用に資するため,当委員会の依頼するアンケート調査への回答,
消費者としての体験,見聞等の報告その他当委員会の業務に協力を求めるものであり,昭
和39年度から実施している。
 また,平成17年度からは,消費者モニター制度内に,全国で200人以内の規模で構成され
る消費者取引適正化推進員制度を新設し,特定事項に関する調査,景品表示法等に違反す
る疑いのある行為に関する情報収集,公正取引委員会が行う消費者取引適正化のための諸
施策に関する意見の提出,景品表示法の普及・啓発等について協力を求めた。
 平成18年度の消費者取引適正化推進員を除く消費者モニターの各地区の配置数は,関東
甲信越地区265名,北海道地区63名,東北地区90名,中部地区110名,近畿地区145名,中国
地区70名,四国地区50名,九州地区105名,沖縄地区12名であった。
 また,平成18年度の消費者取引適正化推進員の各地区の配置数は,関東甲信越地区70名,
北海道地区7名,東北地区10名,中部地区25名,近畿地区35名,中国地区10名,四国地区
10名,九州地区20名,沖縄地区3名であった。

2 活動状況
 平成18年度においては,消費者モニター及び消費者取引適正化推進員を対象に3回のア
ンケート調査を行ったほか,随時,独占禁止法及び景品表示法の違反被疑事実の報告,意
見等を求めた。
(1) アンケート調査
   平成18年度におけるアンケート調査の概要は,次のとおりである。
  ア 加工食品の果実・果汁表示に関するアンケート調査
     加工食品の果実・果汁表示に関する消費者の意識を把握するため,アンケート調査
    を行った。
  イ 電子商店街等の消費者向けeコマースに関するアンケート調査
     電子商店街等の消費者向けeコマースに関する消費者の意識を把握するため, アン
    ケート調査を行った。
  ウ 電力・ガス・電気通信事業に関するアンケート調査
     電力・ガス・電気通信事業に関する消費者の意識等を把握するため,アンケート調
    査を行った。
(2) 自由通信
   消費者モニター及び消費者取引適正化推進員は,前記アンケート調査のほか,自由通
  信という形で,随時,公正取引委員会に対し,自由に意見及び情報を提供している。こ
  れは,<1>独占禁止法及び景品表示法の違反被疑事実の通報,<2>景品表示法に基づいて
 設定された公正競争規約の遵守状況等についての情報提供,<3>その他一般的な意見の提
 供等を行うものであり,平成18年度においては合計4,598件の自由通信が寄せられた(第
 1表参照)。

   

(3) 各種会合等への参加
   公正取引委員会は,景品表示法の運用に当たり,消費者団体との懇談会,試買検査会
  等に消費者モニター及び消費者取引適正化推進員の出席を求め,一般消費者の立場から
  の意見を求めている。
   平成18年度においては,各地区における消費者団体との懇談会,試買検査会等(第2
  表参照)に消費者取引適正化推進員を中心とする消費者モニターが出席した。