8 平成14年(判)第61号タキイ種苗(株)ほか18社に対する審決(元詰種苗の価格カル   テル事件)
   

 (1) 被審人
   

 (2) 事件の経過
    本件は,公正取引委員会が(株)タキイ種苗ほか31名に対し,独占禁止法第48条第2項
   の規定に基づき勧告を行ったところ,(株)タキイ種苗ほか18社(以下「被審人ら」とい
     う。)がこれを応諾しなかったので,被審人らに対し同法第49条第1項の規定に基づき
     審判開決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
     当委員会は,被審人らが担当審判官の作成した審決案に対し,独占禁止法第53条の2
    の2の規定に基づき当委員会に対し直接陳述の申出を行ったので,平成18年11月6日に
   に被審人らから陳述聴取を行い,審決案を調査の上,審決案と同じ内容の審決を行った。
  (3) 認定した事実の概要及び判断の概要
   ア 事実の概要
     被審人ら及び13名は,共同して,遅くとも平成10年3月19日以降,はくさい,キャベ
   ツ,だいこん及びかぶの交配種の種子(以下「4種類の元詰種子」という。)について,
     各社が販売価格を定める際の基準となる価格(以下「基準価格」という。)を毎年決定
   し,各社は当該基準価格の前年度からの変動に沿って,品種ごとに販売価格を定め,取
     引先販売業者及び需要者に販売する旨合意していた。
   イ 主要な争点及びそれに対する判断
   (ア) 品種間価格競争の存否について
       産地において推奨品種の指定を行っている農協は, 価格にはほとんど関心を払
        っていないが,どのような価格であっても農家が購入すると考えているわけではな
    い。また,同一品種に関する小売店同士の価格競争は行われており,この競争により
    ある品種の価格が低下することとなれば品種間の価格バランスから同様の特性を有
    する他の品種の価格にも影響が及ぶことがあり得る。
      したがって,需要者における品種選択において品種間価格競争が顕在化していな
     いとしても,品種間価格競争が存在しないということはできない。
   (イ) 本件合意の主体について
      被審人ら及び13名が本件合意の主体であることは,被審人ら及び13名の代表者等
     の供述から導かれる。基準価格の決定の場が討議研究会であったことや,討議研究
     会に被審人ら及び13名以外の者が在席していたことは,被審人ら及び13名による本
     件合意の内容と矛盾するものではなく,本件合意の存在を裏付ける上で何ら妨げに
     ならない。のみならず,本件において,基準価格の決定は,これを事業者団体の行
     為として評価し得るとしても,同時に,被審人ら及び13名が本件合意を各年度ごと
     に実行する手段として行った行為と評価することができる。
   (ウ) 本件合意の相互拘束性について
      独占禁止法第2条第6項の「相互にその事業活動を拘束し」とは,本来自由であ
     るべき各事業者の事業活動を相互に制約することをいうのであって,具体的な販売
     価格を定めない限り事業活動の拘束に当たらないとは解されない。本件においては,
     毎年基準価格を決定し,被審人ら及び13名がそれに基づき販売価格を定める旨を合
    意していたのであり,これは事業活動の拘束に該当する。
   (エ) 本件合意の実効性について
      被審人らは,基準価格と自社及び同業他社の価格設定は大体同様のものとなると
     考えており,基準価格は,被審人ら及び13名の意見を収れんさせるプロセスを経た
     ものであって,各社の価格表価格の設定に影響すべきものとの認識を有していたと
     認められる。そして,被審人ら及び13名は,基準価格が決定されたこと及びその内
     容を知った上で自社の価格表価格を設定していると認められるので,基準価格の変
     動どおりの価格設定をしない品種が一部あるとしても,基準価格と無関係な価格設
     定を行っていたとは認められない。
  (4)  法令の適用
     独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)
  (5) 命じた措置
   ア 被審人らは,前記(3)アの合意を破棄していることを確認しなければならない。
   イ 被審人らは,次の事項を4種類の元詰種子のそれぞれの取引先販売業者及び需要者
    に周知徹底させなければならない。
   (ア) 前項に基づいて採った措置
   (イ) 今後国内において販売する4種類の元詰種子の販売価格に関し,被審人ら及び13
     名の相互の間において,各社が販売価格を決める際の基準となる価格を毎年決定し,
      各社は当該価格の前年度からの変動に沿って品種ごとに販売価格を定め,取引先販
    売業者及び需要者に販売する旨合意をせず,各社がそれぞれ自主的に決める旨
  ウ 被審人らは,今後,4種類の元詰種子の販売価格に関し,他の事業者と相互に事業
   活動を拘束する合意をしてはならない。

9 平成11年(判)第7号コスモ石油(株)ほか2社に対する審決(防衛庁調達実施本 部(現在の防衛省装備本部)発注の石油製品の入札談合事件)
   

  (1) 被審人
   

  (2) 事件の経過
    本件は,公正取引委員会がコスモ石油(株)ほか10社に対し,独占禁止法第48条第2項
    の規定に基づき勧告を行ったところ,コスモ石油(株)ほか2社( 以下「被審人ら」と
     いう。)がこれを応諾しなかったので,被審人らに対し同法第49条第1項の規定に基づき
     審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
     当委員会は,被審人らが担当審判官の作成した審決案に対し,独占禁止法第53条の2
    の2の規定に基づき当委員会に対し直接陳述の申出を行ったので,被審人らから陳述聴
    取を行い,審決案を調査の上,同審決案と同じ内容の審決を行った。
  (3) 認定した事実の概要及び判断の概要
   ア 事実の概要
    被審人らは,防衛庁調達実施本部(現在の防衛省装備本部)発注の石油製品(自動車ガ
   ソリン,灯油,軽油,A重油及び航空タービン燃料)について,遅くとも平成7年4月
     以降,ほか8社(航空タービン燃料についてはほか6社)と共同して,油種ごとに受注
     予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。
   イ 主要な争点及びそれに対する判断
   (ア) 本件違反行為の存否について
     a 防衛庁調達実施本部は,本件石油製品について発注物件ごとに,業者を指名し
      て,指名競争入札(以下「当初入札」という。)を通常,3回実施し,3回目の
      入札においても予定価格に達する者がいないときは当初入札を不調とし,3回目
      の入札までには1社を除き指名業者が辞退するため3回目の入札に応札した業者
      と随意契約を前提とした商議と称する価格交渉(以下「商議」という。)を行い,
      商議においても予定価格に達しないときは商議を不調として終了し,その後,商
      議を踏まえた新たな予定価格を設定し,新たな指名競争入札(以下「新たな入札」
      という。)を行うことによって本件石油製品を調達していた。
     b 被審人ら及びほか8社は,防衛庁調達実施本部発注の本件石油製品について,
      遅くとも,平成7年4月以降,各社の安定した受注量及び利益を確保するため,
      発注ごとの各社の本件石油製品の油種ごとの受注数量の割合が,前年度の各社の
      本件石油製品の油種ごとの受注実績の割合に見合うものとなるように,発注ごと
      に当初入札の数日前に配分会議を開催するなどして,物件ごとの受注予定者を決
      定し,受注予定者以外の指名業者は受注予定者が受注できるよう協力する旨の合
      意の下に,当初入札を不調に終わらせることにより新たな予定価格を引き上げさ
      せ,もって受注価格を引き上げるため,当初入札において,予定価格を上回る価
      格で入札するとともに,受注予定者以外の指名業者は3回目の入札までに辞退し
      て入札を不調とさせ,さらに,商議を不調とさせた上,新たな入札において,受
      注予定者以外の指名業者は受注予定者の入札価格より高い価格で入札することに
      より受注予定者が受注できるようにしていた。
       このことは,被審人ら及びほか8社が,当初入札及び商議を不調にさせ,新た
      な入札において,受注予定者が新たな予定価格と同額で入札することにより,価
      格競争を制限したということができ,防衛庁調達実施本部発注の本件石油製品の
      油種ごとの取引分野における競争を実質的に制限していたものと認められる。
   (イ) 排除措置を命じる必要性について
      自動車ガソリン,灯油,軽油及びA重油については,発注方法が変更されるなど
     して,被審人ら及びほか8社の入札への参加及び受注が激減し,市場が大きく変化
     して,被審人ら及びほか8社の影響力は,ほとんどなくなっているものと認められ,
     将来その影響力が回復すると見込まれる事情も認められないので,再発のおそれが
     あると認めることはできず,また,前記競争状況の大きな変化から,本件違反行為
     の結果が残存していて,競争秩序の回復が不十分であると認めることもできない。
     したがって,独占禁止法第54条第2項に規定する「特に必要があると認めるとき」
     に該当しない。
      航空タービン燃料については,平成11年度第4期以降も,主に指名競争入札の方
     法により発注され,被審人ら及びほか6社に対する契約停止措置期間中を除き,販
     売業者等は指名されず,被審人ら及びほか6社がすべて受注しており,市場の変化
     はないこと,本件違反行為は,いわゆる入札談合行為であり,平成7年4月以降3
     年7か月余の期間にわたり継続され,被審人ら及びほか6社が自発的に終了させた
     ものではないこと,被審人らは,石油製品の販売に関する不当な取引制限行為につ
     いて,既に3回審決を受けており,さらに,刑事罰を受けたことがありながら,本
     件違反行為を行うに及んでいることからして,被審人らの独占禁止法遵守体制に不
     備があったこと,航空タービン燃料については,本件石油製品全体の中で,落札金
     額において約半分を占める重要な市場であることなどの諸事情を考慮すれば,将来
     本件違反行為と同様の違反行為が再び行われるおそれがあると認めることができ,
     独占禁止法第54条第2項に規定する「特に必要があると認めるとき」に該当すると
     いうべきである。
  (4) 法令の適用
     独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)
  (5) 命じた措置
   ア  被審人らは,遅くとも平成7年4月以降行っていた,防衛庁調達実施本部が指名競
    争入札の方法により発注する航空タービン燃料について,受注予定者を決定し,受注
    予定者が受注できるようにしていた行為を取りやめていることを確認しなければなら
    ない。
   イ  被審人らは,次の事項を防衛省装備本部に通知し,自社の従業員に周知徹底させな
    ければならない。
   (ア) 前項に基づいて採った措置
   (イ) 今後,共同して,防衛省装備本部が指名競争入札の方法により発注する航空ター
     ビン燃料について,受注予定者を決定せず,各社がそれぞれ自主的に受注活動を行
     う旨
   ウ  被審人らは,今後,それぞれ,相互に又はほかの事業者と共同して,防衛省装備本
    部が競争入札の方法により発注する航空タービン燃料について,受注予定者を決定し
    てはならない。
   エ  被審人らが,遅くとも平成7年4月以降行っていた,防衛庁調達実施本部が指名競
    争入札の方法により発注する自動車ガソリン,灯油,軽油及びA重油について,油種
    ごとに受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた行為は,独占禁
    止法第3条の規定に違反するものであり,かつ,違反行為は既になくなっているもの
    と認める。
   オ  前記エの違反行為については,被審人らに対し,格別の措置は命じない。

10 平成14年(判)第36号東燃テクノロジー(株)及び新日石エンジニアリング(株)に
  に対する審決(国家石油備蓄会社発注の石油備蓄基地保全等工事の入札談合事件)


   

 (1) 被審人
   

 (2) 事件の経過
     本件は,公正取引委員会が7社に対し,独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告
    を行ったところ,東燃テクノロジー(株)及び新日石エンジニアリング(株)(以下「被審
   人ら」という。)がこれを応諾しなかったので,被審人らに対し同法第49条第1項の規
     定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
   当委員会は,担当審判官の作成した審決案に対し,被審人東燃テクノロジー(株)が異議
    の申立てを行ったので,審決案を調査の上,審決案と同じ内容の審決を行った。
  (3) 認定した事実の概要及び判断の概要
   ア 事実の概要
      遅くとも平成10年4月1日以降,被審人ら及び4社の6社(平成11年4月27日以降
     にあっては被審人ら及び5社の7社)は,共同して,国家石油備蓄会社6社(同日以
     降にあっては7社)の各本社が,自社の中核エンジニアリング会社(以下「中核エン
     ジ」という。)及び他の国家石油備蓄会社の中核エンジを含む複数の者を指名して指
    名競争入札等の方法により発注する石油貯蔵施設等の保全等工事(国家石油備蓄会社
    の本社が発注する同工事を以下「本件保全等工事」という。)について,受注予定者
    を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。
  イ  主要な争点及びそれに対する判断
   (ア)  本件における「一定の取引分野」の範囲について
      国家石油備蓄会社7社がそれぞれ指名競争入札等の方法により発注する本件保全
     等工事については,いずれも各中核エンジ間で競争が可能であり,同7社の発注す
     る同工事全体で一つの取引分野を形成する。
   (イ)  競争関係の有無について
      本件保全等工事は,いずれも汎用的なもので,中核エンジ以外の石油エンジニア
     リング会社であっても技術的・採算的に施工可能であった。また,入札日から着工
     日までの日程が短く,当該中核エンジ以外の会社で施工困難なものもあったが,こ
     のような期間設定は,工事の性質によるとの事情が全くうかがわれないことをも考
     え合わせると,受注調整により当該中核エンジが受注することを前提としてなされ
     たものと推認され,本件における競争関係が受注調整がなくても存在しなかったと
     する根拠となるものではない。
      したがって,本件保全等工事については,被審人ら及び5社の7社間に競争関係
     があった。
   (ウ)  基本合意の存否について
      本件証拠によれば,本件基本合意の存在を優に認めることができる。
   (エ)  排除措置の必要性の有無について
      被審人東燃テクノロジー(株)が,本件違反行為の後,エクソンモービル社が策定し
     たコンプライアンス体制を導入し,そのプログラムを実施していたとしても,その
     措置が実効性を有するかどうかは今後の実績を待たなければ明らかではないし,む
     つ小川原石油備蓄株式会社との間で締結したコンストラクション・マネジメント業
     務委託契約につき入札参加制限が課せられているとしても,他の入札物件への参加
     は可能であり,また,同委託契約は平成20年3月31日を終期とするもので,同終期
     到来後も契約の更新等により継続することが確実であるとはいえないこと等からす
     れば,本件審判手続終結時において,なお,将来における違反行為再発のおそれが
     あると認められ,同被審人に対して排除措置の必要性がある。
      被審人新日石エンジニアリング(株)については,既に解散し,清算結了登記を経て
     いるが,審判開始決定がされた本件審判事件において被審人としての手続を行うこ
     とは,会社法第481条第1号に規定する清算人の現務に属するから,その手続が存続
     する限り,なお清算は結了していないものというべく,清算結了登記がされていて
     も,同被審人の法人格はその限りでなお存続しているものと解される。しかし,同
     被審人が事業を再開する見込みはなく,再び違反行為を行うおそれがあるというこ
     とはできないため,同被審人に対しては排除措置を命ずる実益はなく,その必要性
     があるとは認められない。
  (4)  法令の適用
     独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)
  (5) 命じた措置
   ア 被審人東燃テクノロジー(株)について
   (ア)  被審人東燃テクノロジー(株)は,前記(3)アの行為を取りやめていることを確認し
        なければならない。
   (イ)  被審人東燃テクノロジー(株)は,次の事項を操業サービス会社7社(平成16年2月
     1日以降,国家石油備蓄事業において「操業サービス会社」と称する会社が石油貯
     蔵施設等の保全等工事の発注を行っている。)に通知しなければならない。
     a 前項に基づいて採った措置
     b 今後,他の事業者と共同して,操業サービス会社7社が発注する前記(3)アの工
      事について,受注予定者を決定せず,自主的に受注活動を行う旨
   (ウ)  被審人東燃テクノロジー(株)は,今後,他の事業者と共同して,操業サービス会
         社7社が競争入札又は見積り合わせの方法により発注する前記(3)アの工事につい
         て,受注予定者を決定してはならない。
   イ  被審人新日石エンジニアリング(株)について
   (ア)  被審人新日石エンジニアリング(株)が行った前記(3)アの行為は,独占禁止法第
     3条の規定に違反するものである。
   (イ)  被審人新日石エンジニアリング(株)の前項の違反行為については,同被審人に対
    し,格別の措置は命じない。

11 平成16年(判)第2号東日本電信電話(株)に対する審決について(光ファイバ接
 続サービスの私的独占)

   

 (1) 被審人
   

 (2)  事件の経過
     本件は,公正取引委員会が東日本電信電話(株)(以下「被審人」という。)に対し,
    独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告を行ったところ,被審人がこれを応諾し
   なかったので,被審人に対し同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い,
   審判官をして審判手続を行わせたものである。
    当委員会は,被審人が担当審判官の作成した審決案に対し,独占禁止法第53条の2
   の2の規定に基づき当委員会に対し直接陳述の申出を行ったので,平成19年3月5日
   に被審人から陳述聴取を行い,審決案を調査の上,審決案と同じ内容の審決を行った。
  (3)  認定した事実の概要及び判断の概要
   ア 事実の概要
     被審人は,平成14年6月1日以降,戸建て住宅向けのFTTHサービスとして新たに
     に「ニューファミリータイプ」と称するサービスを提供するに当たり,被審人の電話局
   から加入者宅までの加入者光ファイバについて,1芯の光ファイバを複数人で使用する
   る分岐方式(以下「分岐方式」という。)を用いるとして,ニューファミリータイプの
   FTTHサービス の提供に用いる設備との接続に係る接続料金の認可を受けるととも
   に,当該サービスのユーザー料金の届出を行ったが,実際には分岐方式を用いず,電話
   局から加入者宅までの加入者光ファイバについて1芯を1人で使用する方式(以下「芯
   芯線直結方式」という。)を用いて当該サービスを提供した。被審人は,当該サービス
   のユーザー料金を,当初月額5,800円,平成15年4月1日以降は月額4,500円と設定した
   が,いずれも,他の電気通信事業者が被審人の光ファイバ設備に芯線直結方式で接続し
   してFTTHサービスを提供する際に必要となる接続料金を下回るものであった。
    なお,被審人は,平成16年4月以降,「ニューファミリータイプ」の新規ユーザー
   に対して,芯線直結方式でサービスを提供することをやめている。
   イ 争点等及びそれに対する判断
   (ア) 被審人のニューファミリータイプの導入及びその値下げは,他の電気通信事業者
     の事業活動を排除する行為といえるかについて
      被審人は,電気通信事業法にいう第一種電気通信事業者であり,同法第38条の規
     定により,一定の場合を除き,他の電気通信事業者から電気通信設備に接続すべき
     旨の請求を受けたときには,その請求に応じる義務を負うほか,規則等に照らせば,
     被審人には,当該設備の接続料金と自己の設定するFTTHサービス のユーザー料
        金との関係について,公正競争の観点から,当該設備に接続することによりFTT
        Hサービス事業に参入しようとする他の電気通信事業者の参入を困難ならしめるこ
        とのないように配慮すべきことが求められているものというべきである。
     東日本地区において戸建て住宅向けFTTHサービスを提供している事業者としてみ
    てみるべき者は,被審人のほかは2社の事業者に限られていたところ,被審人は,
    その基盤となる加入者光ファイバの保有量においても ,戸建て住宅向け FTTH
    サービスの開通件数においても,極めて大きなシェアを占め,加えて,被審人以外の
        事業者が保有する光ファイバ設備は地域的に限定されており,かつ,被審人が保有
    する光ファイバ設備に比べて接続しにくいなど,FTTHサービス事業に参入しようと
    する事業者にとって ,被審人の加入者光ファイバ に接続することが極めて重要で
    あったから,被審人のFTTHサービスの内容,ユーザー料金,接続料金のいかんは,
    新規事業者との間の競争の在り方に大きな影響を及ぼすものであった。
     被審人が行った前記ア記載の行為は,被審人の保有する加入者光ファイバ設備に
     接続して新規にFTTHサービス事業に参入しようとする事業者においては,被審
    人に対して支払う接続料金を上回るユーザー料金を設定しなければ,継続的合理的
    な事業の実施を見込むことができないことなどから,加入者光ファイバ設備を保有
    しない他の電気通信事業者が,被審人の加入者光ファイバ設備に接続して戸建て住
    宅向けFTTHサービス事業に参入することを困難にし,これを排除していたものと認
    めることができる。
   (イ) 戸建て住宅向けFTTHサービス市場に一定の取引分野が成立するかについて
     FTTHサービスは,ブロードバンドサービスの中でも,サービス提供に係る通信設
    備の違いから,ADSL等と比べ,より高速大容量の通信が可能であり,上り下りの通
    信速度が同じであり,接続が安定していることなどから,FTTHサービス事業に
    ついて独立した市場を観念することができる。さらに,戸建て住宅向けFTTHサー
    ビスと集合住宅向け FTTHサービスとでは,加入者光ファイバ の設備形態及び
     ネットワークに違いがあり,ユーザーやFTTHサービス事業者にとって両サービ
    ス間の代替性は極めて限定的であるから,戸建て住宅向けFTTHサービスと集合住宅
    向けFTTHサービスとで,それぞれ,一定の市場を画定することができる。
   (ウ) 被審人が行った前記ア記載の行為は,競争の実質的制限をもたらすものであった
     かについて
      独占禁止法第2条第5項に規定する「一定の取引分野における競争を実質的に制
     限すること」とは,裁判例上,「市場における競争自体が減少して,特定の事業者
     又は事業者集団が,その意思で,ある程度自由に,価格,品質,数量,その他各般
     の条件を左右することによって,市場を支配することができる形態が現れているか,
     又は少なくとも現れようとする程度に至っている状態をいう」などとされていると
    ころ,このような趣旨における市場支配的状態を形成,維持,強化することをいう
    ものと解される。被審人が行った本件排除行為は,市場支配的状態を維持し,強化
    する行為に当たり,東日本地区における戸建て住宅向けFTTHサービスの取引分
    野における競争を実質的に制限するものに該当するというべきである。
   (エ) 排除措置の必要性について
      被審人の前記ア記載の行為は,平成16年3月31日まで存在していたが,それ以降
     は,被審人が芯線直結方式でニューファミリータイプを新たに提供することがなく
     なっているから,違反行為は終了したものということができ,現時点において,排
     除措置を命じることによって排除すべき違反行為の残存効果が存在するとは認めら
     れず,また,その後,新規事業者が参入しやすい接続形態等が導入され,実際に戸
     建て住宅向けFTTHサービス市場に新規事業者が参入していることなど,同サー
     ビス市場における変化がみられることにかんがみると,今後,被審人が前記ア記載
     の行為と同様の行為を行うことを防止するための措置を採る必要があるとは認めら
     れない。したがって,独占禁止法第3条の規定に違反する行為はあったが,同法第54
     条第2項に規定する「特に必要があると認めるとき」に該当する事情があるとはい
     えないものというべきである。
  (4) 法令の適用
     独占禁止法第3条(私的独占の禁止)
  (5) 主文
    被審人の前記(3)ア記載の違反行為は,既になくなっていると認められるので,被審人
   に対し,格別の措置を命じない。



第3 同意審決


 1 鹿島建設(株)ほか39社に対する審決(新潟市発注の下水道開削工事等の入札談合事件)

 (1) 事件の経過
    本件は,公正取引委員会が(株)本間組ほか54社,(株)佐藤企業ほか47社,(株)本間組ほ
    か55社に対し,それぞれ,独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告を行ったところ,
    55社,29社,45社がこれを応諾しなかったので,55社,29社及び45社に対し,それぞれ,
   同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせ
   たものである。本年度において,それぞれ,後記(2)のとおり,被審人38社(延べ65社)
   から,同法第53条の3及び当委員会の審査及び審判に関する規則第81条の規定に基づき
   同意審決を受ける旨の申出があり,具体的措置に関する計画書が提出されたので,これ
   を精査した結果,適当と認められたことから,その後の審判手続を経ないで審決を行っ
   た。

   

 (2) 被審人
  ア 平成16年(判)第18号
   

   

  イ 平成16年(判)第19号
   

   

  ウ 平成16年(判)第20号
   

   

 (3) 認定した事実の概要
  ア 平成16年(判)第18号
    前記(2)アの表の各被審人は,平成17年度に同意審決を受けた2社,自社を除く前記
   (2)アの表記載の事業者及び新潟市の区域において建設業を営む事業者と共同して,遅
   くとも平成11年4月1日以降,新潟市が制限付一般競争入札,公募型指名競争入札又は
   指名競争入札の方法により推進工法又は シールド工法を用いる下水管きょ工事及び汚
   水管布設工事であって同工法 により同工事を行うことができる者のみを入札参加者と
   として発注する下水道推進工事(以下「新潟市発注の特定下水道推進工事」という。)
   について,受注価格の低落防止等を図るため,受注予定者を決定し,受注予定者が受注
   できるようにしていた。
  イ 平成16年(判)第19号
    前記(2)イの表の各被審人は,勧告審決を受けた19社(平成16年(勧)第24号審決),
   平成16年度に同意審決を受けた1社,平成17年度に同意審決を受けた3社,自社を除く
   前記(2)イ の表記載の事業者及び新潟市の区域において建設業を営む事業者 と共同し
   て,遅くとも平成11年4月1日以降,新潟市が公募型指名競争入札又は指名競争入札の
   方法によりA の等級に格付している者のみを指名して発注する開削工法を用いる下水
   管きょ工事及び汚水管布設工事( 一部推進工法又はシールド工法を用いるものであっ
     て,同工法により工事を行うことができる者のみを入札参加者とするものを除く。 以
     下「新潟市発注の特定下水道開削工事」という。)について,受注価格の低落防止等を
   図るため,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。
  ウ 平成16年(判)第20号
    前記(2)ウの表の各被審人は,勧告審決を受けた11社(平成16年(勧)第25号審決),
   平成16年度に同意審決を受けた3社,平成17年度に同意審決を受けた3社,自社を除
   く前記(2)ウの表記載の事業者及び新潟市の区域において建設業を営む事業者と共同し
   て,遅くとも平成11年4月1日ころ以降,新潟市が制限付一般競争入札,公募型指名競
   争入札又は指名競争入札の方法によりAの等級に格付している者(Aの等級に格付して
   いる者を代表者とする共同企業体を含む。)のみを入札参加者として発注する建築工事
   (以下「新潟市発注の特定建築工事」という。)について,受注価格の低落防止等を図
   るため,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。
 (4) 法令の適用
    独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)
 (5) 命じた措置
   ア 前記(2)の表の各被審人は,前記(3)の行為を取りやめている旨を確認することを取締
   役会において決議し,そのことを,自社を除く審判開始決定書別紙の表1及び表4(1)
  (第18号),表1及び表2(第19号),表1,表2及び表4(第20号)記載の事業者に
   通知しなければならない。
   イ 前記(2)の表の各被審人は,次の事項を新潟市に通知するとともに,自社の従業員に
   周知徹底しなければならない。
   (ア) 前項に基づいて採った措置
   (イ) 今後,共同して,新潟市発注の特定下水道推進工事,特定下水道開削工事及び特
     定建築工事について,受注予定者を決定せず,自主的に受注活動を行う旨
   ウ 前記(2)の表の各被審人は,今後,前記(3)の行為と同様の行為を行ってはならない。

2  平成17年(判)第23号及び第24号東綱橋梁(株)ほか2社に対する審決(国土交通
  省関東地方整備局,東北地方整備局及び北陸地方整備局発注の鋼橋上部工事並びに
   日本道路公団発注路公団発注の鋼橋上部工工事の入札談合事件)

  (1)   事件の経過
      本件は,公正取引委員会が新日本製鐵(株)ほか39社及び三菱重工業(株)ほか39社に
      対し,それぞれ,独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告を行ったところ,5社
     (延べ10社)がこれを応諾しなかったので,5社に対し,それぞれ,同法第49条第1項
      の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
      本年度において,それぞれ,後記(2)のとおり,被審人3社から,同法第53条の3及び
      当委員会の審査及び審判に関する規則第81条の規定に基づき同意審決を受ける旨の申
      出があり,具体的措置に関する計画書が提出されたので,これを精査した結果,適当
      と認められたことから,その後の審判手続を経ないで審決を行った。
  (2) 被審人
   

   

 (3) 認定した事実の概要
  ア 平成17年(判)第23号
    被審人ほか44社は,遅くとも平成14年4月1日以降,国土交通省の関東・東北・北
   陸地方整備局(以下「国土交通省の3地方整備局」という。)が競争入札の方法によ
   り発注する鋼橋上部工事について,受注価格の低落防止等を図るため,共同して,受
   注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようすることにより,前記工事の取引分
   野における競争を実質的に制限していた。
  イ 平成17年(判)第24号
    被審人ほか44社は,遅くとも平成14年4月1日以降,日本道路公団が競争入札の方
   法により発注する鋼橋上部工工事について,受注価格の低落防止等を図るため,共同
   して,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,前記工
   事の取引分野における競争を実質的に制限していた。
 (4) 法令の適用
   独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)
 (5) 命じた措置
  ア 平成17年(判)第23号審判事件
   (ア) 前記(2)の表の各被審人は,前記(3)アの行為を取りやめている旨を確認すること
        を取締役会において決議しなければならない。
   (イ) 前記(2)の表の各被審人は,前記(ア)に基づいて採った措置及び今後,前記(3)アの
        行為と同様の行為を行わないことを,自社を除く44社に通知するとともに,国土交
    通省の3地方整備局に通知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。
   (ウ) 前記(2)の表の各被審人は,今後,前記(3)アと同様の行為を行ってはならない。
   (エ) 前記(2)の表の各被審人は,今後,国土交通省の3地方整備局が競争入札の方法に
    より発注する鋼橋上部工事について,受注予定者を決定することがないようにする
    ため,次のaないしdの事項を行うために必要な措置を講じなければならない。
    a 独占禁止法の遵守に関する行動指針の作成
    b 鋼橋上部工事の営業担当者に対する定期的な研修及び監査
    c 独占禁止法違反行為に関与した役員及び従業員に対する処分に関する規定の整
     備
    d 独占禁止法違反行為に係る通報者に対する免責等実効性のある社内通報制度の
     設置
   (オ) 前記(2)の表の各被審人は,違反行為期間中に前記(3)アの違反行為に関与してい
    た自社の営業責任者級の者等を,国土交通省の3地方整備局が競争入札の方法によ
    り発注する鋼橋上部工事に係る営業業務から速やかに配置転換する等し,少なくと
    も今後5年間同業務に従事させないこととし,このことを取締役会で決議しなけれ
    ばならない。
   イ 平成17年(判)第24号審判事件
   (ア) 前記(2)の表の各被審人は,前記(3)イの行為を取りやめている旨を確認すること
     を取締役会において決議しなければならない。
   (イ) 前記(2)の表の各被審人は,前記(ア)に基づいて採った措置及び今後,前記(3)イの
    行為と同様の行為を行わないことを,自社を除く44社に通知するとともに,日本道
    路公団から前記工事の発注業務を承継した 東日本高速道路(株), 中日本高速道路
        (株)及び西日本高速道路(株)の3社に通知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しな
        ければならない。
   (ウ) 前記(2)の表の各被審人は,今後,前記(3)イと同様の行為を行ってはならない。
   (エ) 前記(2)の表の各被審人は,今後,前記3社が競争入札の方法により発注する鋼橋
     上部工工事について,受注予定者を決定することがないようにするため,次のaな
     いしdの事項を行うために必要な措置を講じなければならない。
     a 独占禁止法の遵守に関する行動指針の作成
     b 鋼橋上部工工事の営業担当者に対する定期的な研修及び監査
     c 独占禁止法違反行為に関与した役員及び従業員に対する処分に関する規定の整
      備
     d 独占禁止法違反行為に係る通報者に対する免責等実効性のある社内通報制度の
    設置
   (オ) 前記(2)の表の各被審人は,違反行為期間中に前記(3)イの違反行為に関与してい
        た自社の営業担当者を前記3社が競争入札の方法により発注する鋼橋上部工工事に
        係る営業業務から速やかに配置転換する等し,少なくとも今後5年間同業務に従事
        させないこととし,このことを取締役会で決議しなければならない。
   (カ) 前記(2)の表の各被審人は,日本道路公団の退職者である従業員を,前記3社が発
     注する鋼橋上部工工事に係る営業業務に従事させないこととし,このことを取締役
     会で決議しなければならない。

3  平成16年(判)第4号(株)クボタほか2社に対する審決(東京都発注の下水道ポ
  ンプ設備工事の入札談合事件)

  (1) 事件の経過
    本件は,公正取引委員会が(株)荏原製作所ほか13社に対し,独占禁止法第48条第2項の
   規定に基づき勧告を行ったところ,14社がこれを応諾しなかったので,同法第49条第1
   項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたところ,本年
   度において,被審人3社から,同法第53条の3及び当委員会の審査及び審判に関する規
   則第81条の規定に基づき同意審決を受ける旨の申出があり,具体的措置に関する計画書
   が提出されたので,これを精査した結果,適当と認められたことから,その後の審判手
   続を経ないで審決を行ったものである。
  (2) 被審人
   

 (3) 認定した事実の概要
    東京都が一般競争入札,公募制指名競争入札又は希望制指名競争入札の方法により下
   水道局において発注する下水道ポンプ設備工事について,遅くとも平成11年4月1日以
   降,受注価格の低落防止を図るため,他のポンプ据付け工事の建設業を営む事業者と共
   同して,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の
   利益に反して,同工事の取引分野における競争を実質的に制限していた。
  (4) 法令の適用
     独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)
  (5) 命じた措置
   ア 前記(2)の表の各被審人は,前記(3)の行為を取りやめていることを確認しなければな
     らない。
   イ 前記(2)の表の各被審人は,前記アに基づいて採った措置及び今後前記アの行為と同
   様の行為を行わないことを東京都に通知しなければならない。
   ウ 前記(2)の表の各被審人は,今後,他の事業者と共同して ,前記(3)と同様の行為を
   行ってはならない。
   エ 前記(2)の表の各被審人は,今後,他の事業者と共同して,東京都が競争入札の方法に
   より下水道局において発注する前記工事について,受注予定者を決定しないよう,営業
   担当者に対する独占禁止法に関する研修,法務担当者による定期的な監査等を行うため
   に必要な措置を講じ,当該措置の内容を自社の役員及び従業員に周知徹底させなければ
   ならない。

第4 課徴金の納付を命ずる審決


1 生成建設(株)ほか5社に対する審決(千葉市等発注の土木工事及びほ装工事の入札
談合事件)

 (1) 事件の経過
   本件は,平成15年10月8日,公正取引委員会が延べ130社に対し独占禁止法第48条の2
   第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ,20社(以下「被審人20社」とい
   う。)は,これを不服として審判手続の開始を請求したので,被審人20社に対し,平成
   15年12月11日,同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定(35件)を行い,審判官
   をして審判手続を行わせ,それぞれ,後記(2)のとおり,被審人6社(12件)について課
   徴金の納付を命ずる審決を行ったものである。

 (2) 被審人及び納付を命じた課徴金の額

   

 (3) 認定した事実及び判断の概要
   ア 平成14年(勧)第17号(土木工事関係)
     122社(前記被審人6社を含む。)は,共同して,千葉市及び(財)千葉市都市整備公
      社が千葉市内に本店又は主たる営業拠点を置く事業者のみを指名して指名競争入札又
      は希望型指名競争入札の方法により土木一式工事として発注する設計金額が5000万円
      以上3億円未満の工事(以下「千葉市等発注の特定土木工事」という。)について,
      受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。
   イ 平成14年(勧)第18号(ほ装工事関係)
     100社(前記被審人6社を含む。)は,共同して,千葉市及び(財)千葉市都市整備公
   社が千葉市内に本店を置く事業者のみを指名して指名競争入札又は希望型指名競争入
   札の方法によりほ装工事として発注する設計金額が 2500万円以上3億円未満 の工事
     (以下「千葉市等発注の特定ほ装工事」という。)について,受注予定者を決定し,受注
   予定者が受注できるようにしていた。
  ウ 主要な争点及びそれに対する判断
   (ア) 課徴金の対象となる物件の範囲について
     課徴金算定対象とされている各物件は,いずれも,違反行為の対象役務であり,
    本件基本合意に基づいて受注予定者が決定され,具体的に競争制限効果が発生する
    に至った物件ということができるのであり,課徴金の算定対象となる。
   (イ) 消費税相当額を課徴金の算定の基礎となる売上額に含めることの適否について
     独占禁止法施行令第6条にいう「役務の対価」とは,被審人と千葉市との間の契
    約により定められた請負金額がこれに該当するところ,これには消費税相当額が含
    まれているので,本件課徴金の額の算定の基礎である売上額には消費税が含まれる
    ものと認められる。
   (ウ) 被審人が本件違反行為に参加していた事実の有無について
     本件は独占禁止法第3条違反行為に係る勧告審決が有効に確定した後に課徴金納
    付命令が発せられたことに由来する課徴金納付命令審判であるところ,このような
    審判においては,勧告審決をした公正取引委員会が,被審人に勧告審決の主文に係
    る違反行為の存在についてこれを争う機会を与えなければならないとする理由は存
    しないものと解される。したがって,被審人は,本件審判手続において,本案審決
    の主文に係る違反行為に参加していた事実を争うことはできない。
   (エ) 本件が平等原則違反か否かについて
     公正取引委員会が,違反行為の対象を違反行為による社会的影響の大きい部分に
    限定した上で,調査を行って違反行為の存否を確定し,法的措置の対象とすること
    には合理性があり,平等原則に違反しない。
 (4) 関係法条
    独占禁止法第7条の2

2 平成17年(判)第9号武田時計(株)に対する課徴金の納付を命ずる審決(東京都発
 注の水道メーター入札談合事件)

 (1) 被審人及び納付を命じた課徴金の額
   

 (2) 事件の経過
    本件は,平成17年2月7日,公正取引委員会が13社に対し独占禁止法第48条の2第1
   項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ,武田時計(株)(以下「被審人」とい
    う。)は,これを不服として審判手続の開始を請求したので,平成17年4月4日,被審人に
    対し,同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を
    行わせたものである。
    当委員会は,被審人らが担当審判官の作成した審決案に対し,異議の申立てを行った
   ので,審決案を調査の上,審決案と同じ内容の審決を行った。
 (3) 認定した事実及び判断の概要
   ア  事実の概要
     被審人は,他の事業者と共同して,東京都が一般競争入札の方法により発注する乾
    式直読型の口径13ミリメートル,同20ミリメートル及び同25ミリメートルの水道メー
    ター(2以上の異なる口径の水道メーターが同時に発注されているものを除く。以下
    「3口径メーター」という。)について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注で
    きるようにしていた。
   イ  主要な争点
      本件4物件が課徴金の対象となるか否か。
   ウ  争点に対する判断
     本件4物件については,本件基本合意に基づいて受注予定者が決定され,うち1物
    件について,被審人は受注予定者となった旨連絡を受けた。当該物件については,被
    審人を除く入札参加者が,被審人が受注できるよう本件基本合意に基づき協力するな
    どした結果,被審人が当該物件を落札したことが認められる。また,被審人は,被審
    人が受注予定者とならなかった3物件について,いずれも本件基本合意に基づいて受
    注予定者が決定され,受注予定者及び被審人を除く入札参加者が,受注予定者が受注
    できるよう協力している事態を認識しており,競争が制限された状況を利用して落札
    したものと認められる。
     したがって,本件4物件は,具体的に競争制限効果が発生するに至った物件という
    ことができるのであり,課徴金の算定対象となる。
  (4) 関係法条
     独占禁止法第7条の2

3 (株)高木工業所ほか20社に対する審決(大阪府高槻市水道部発注の上水道本管工 事の入札談合事件)
 (1) 事件の経過
    本件は,平成14年7月25日,公正取引委員会が25社に対し独占禁止法第48条の2第1項
   項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ,(株)高木工業所ほか22社(以下「被
    審人ら」という。)は,これを不服として審判手続の開始を請求したので,平成14年10
    月15日,被審人らに対し,同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判
    官をして審判手続を行わせたものである。
    当委員会は,被審人らが担当審判官の作成した審決案に対し,異議の申立てを行った
   ので,審決案を調査の上,審決案と同じ内容の審決を行った。
    なお,被審人(株)長谷川工業所及び同日信工業(株)に対しては,後記第5のとおり,審
   判手続打切決定がなされた。
  (2) 被審人及び納付を命じた課徴金の額
   

 (3) 認定した事実及び判断の概要
  ア  事実の概要
     被審人らは,他の事業者と共同して,高槻市水道部が指名競争入札又は指名見積り
    合わせの方法により発注する上水道本管工事(以下「高槻市水道部発注の上水道本管
    工事」という。)について,共同して,受注予定者を決定し,受注予定者が受注でき
    るようにしていた。
   イ 主要な争点及びそれに対する判断
   (ア) 違反行為の存否について(第42号,第47号,第49号及び第50号事件以外)
      被審人アイテック(株)以外の被審人らは,本件勧告審決の効力により本件違反行
        為の存在を争うことができないが,証拠上も,同アイテック(株)を含む被審人らに
        よる違反事実を認めることができる。また,審査官提出の供述調書は信用性を認め
        ることができる。
  (イ) 本件違反行為における発注者の責任について
     本件審判手続は,違反行為に対する発注者側の関与の経緯あるいはその責任の有無
    を解明することを目的とする手続ではなく,発注者である高槻市が本件違反行為に関
    与していた事実が仮に認められたとしても,被審人らに対する課徴金額に係る判断を
    左右するものではない。
   (ウ) 課徴金の計算の基礎となる売上額に変更工事又は追加工事分の契約金額を含める
     ことの可否について
      本件対象工事は,いずれも本件違反行為により受注したものであり,本件におい
     て変更後の契約金額は,変更後の工事内容を前提として再度発注者側で算定した設
    計工事価格に当該物件の入札時における落札率を乗じた価格に消費税相当額を加算
    した価格によるものとされていることからすれば,被審人らが受注した変更工事又
    は追加工事に係る契約金額にも本件違反行為の効果が及んでいることが明らかであ
    る。
     したがって,これらの各物件における変更工事又は追加工事に係る契約金額はす
    べてが課徴金の対象となる。
   (エ) 課徴金の計算の基礎となる売上額に消費税相当額を含めることの可否について本
    件においては,被審人らと高槻市との間の契約において定められた請負代金額が「役
    務の対価」に該当すると解され,これは消費税相当額を含むものである。
 (4) 関係法条
    独占禁止法第7条の2

4 (株)田原スポーツ工業ほか2社に対する審決(東京都発注の運動場施設工事の入
 札談合事件)

 (1) 事件の経過

    本件は,平成16年9月3日,公正取引委員会が15社に対し独占禁止法第48条の2第1
   項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ,(株)田原スポーツ工業ほか2社(以
     下「被審人ら」という。)は,これを不服として審判手続の開始を請求したので,平成
    16年11月4日,被審人らに対し,同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い,
    審判官をして審判手続を行わせたものである。
     当委員会は,被審人らが担当審判官の作成した審決案に対し,異議の申立てを行った
    ので,審決案を調査の上,審決案と同じ内容の審決を行った。
  (2) 被審人及び納付を命じた課徴金の額
   

 (3) 認定した事実及び判断の概要
  ア 事実の概要
    被審人らは,他の事業者と共同して,東京都が希望制指名競争入札の方法により財務
   局において運動場施設工事として発注する建設工事(以下「東京都発注の特定運動場施
   設工事」という。)について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにし
   ていた。
   イ 主要な争点及びそれに対する判断
   (ア) 本件物件が課徴金の対象となるか否かについて
      被審人(株)田原スポーツ工業は,建設共同企業体(以下「JV」という。)の代表
    者として,本件物件について,自社のJVを除く他のJVは受注予定者が受注できるよ
    う協力するということを認識した上で,受注予定者の入札価格を下回ると見込まれ
    る価格で入札し落札したものであると認められる。したがって,本件物件は,本件
    基本合意に基づいて受注予定者が決定されることによって,競争が制限された状況
    を同(株)田原スポーツ工業が利用して落札したものであって,具体的に競争制限効
    果が発生するに至った物件であるということができるのであり,課徴金の算定対象
    となる。
   (イ) 本件物件を受注したJVの構成員である被審人太陽スポーツ施設(株)及び同(株)ミ
       カドスポーツに対して課徴金が課されるか否かについて
      被審人太陽スポーツ施設(株)及び同(株)ミカドスポーツは,本件基本合意の一員
        であり,東京都発注の特定運動場施設工事の受注について受注調整が行われること
        を認識した上で,被審人らを構成員とするJVを結成して本件物件の入札に参加する
        ことに同意し,前記(ア)のとおり本件物件が落札されたのであるから,同太陽スポー
        ツ施設(株)及び同(株)ミカドスポーツは,JVにおける出資比率に応じて課徴金を課
        すべき事業者に当たる。
 (4) 関係法条
    独占禁止法第7条の2