第3章 審判及び訴訟

第1 概説

 平成19年度における審判件数は,平成18年度から引き継いだもの93件,平成19年度中に審判手続を開始したもの19件の合計112件(うち,55件は手続を併合。下表(注)参照)であり,平成19年度中に35件について審決を行い,3件について審判手続打切決定を行った。35件の審決の内訳は,旧法に基づく審決としては,審判審決3件,同意審決21件及び課徴金の納付を命ずる審決10件であり,現行法に基づく審決としては,課徴金納付命令に係る審決1件である(本章第2及び第3参照)。
 平成19年度末現在において審判手続係属中の事件は,下表の96件である(なお,審判手続打切決定2件及び同意審決20件については,係属中の審判事件の一部の被審人に対するものであり,残る被審人については審判手続係属中であるため,係属件数に影響しない。)。

係属中の審判事件一覧
【旧法事件】 【旧法事件】
【旧法事件】
【旧法事件】
【旧法事件】
【現行法事件】 【現行法事件】
(注)一連番号1〜6事件,7〜40事件,44〜45事件,50〜51事件,53〜54事件,82〜87事件及び88〜90事件は手続を併合している。

第2 旧法に基づく審決等

1 審判審決
(1)出光興産(株)ほか3社に対する審決(ポリプロピレン販売価格カルテル)



ア 被審人


イ 事件の経過
 本件は,平成13年5月30日,公正取引委員会が7社に対し,独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告を行ったところ,出光興産(株)ほか3社(以下「被審人ら」という。)がこれを応諾しなかったので,被審人らに対し,同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 公正取引委員会は,担当審判官から提出された事件記録並びに被審人らから提出された異議の申立書及び被審人らから聴取した陳述に基づいて,同審判官から提出された審決案を調査の上,被審人らに対して審決案と同じ内容の審決を行った。
ウ 認定した事実の概要及び判断の概要
(ア) 事実の概要
 被審人らは,他の事業者と共同して,ポリプロピレン(原料であるナフサの価格に連動して販売価格を設定する旨の契約を締結しているもの(ナフサリンク方式)を除く。)の販売価格の引上げを決定することにより,公共の利益に反して,我が国におけるポリプロピレンの販売分野における競争を実質的に制限していた。
(イ) 主要な争点及びそれに対する判断
a 本件合意の成否について
 平成12年3月6日の部長会での本件合意の成立については,その直接証拠の信用性を特段否定すべき事情はなく,同部長会に至る経緯及び同部長会後の7社の行動も,本件合意の成立とよく整合している。これらのことからすれば,同部長会において,本件合意が成立したことが認められる。
 そして,審決案に掲げた各証拠に照らせば,本件違反行為は,平成12年5月30日以降遅くとも同年10月25日までの間に違反行為者全員についてなくなり,本件合意もそのころ消滅したものと認められる。
b 一定の取引分野について
 ポリプロピレン全体で1個の「一定の取引分野」を形成していることは明らかである。
c 被審人らに対して排除措置を命ずる必要性について
(a)被審人住友化学(株)(以下「被審人住友化学」という。)及び被審人サンアロマー(株)(以下「被審人サンアロマー」という。)について
 本件審判開始決定の時までに本件違反行為が存在し,かつ,当該行為は既になくなっていると認められる。そして,本件違反行為が平成12年中に終了した後,現在まで6年以上が経過し,ポリプロピレン製造販売業者の数は7社から4社に減少した。
 被審人らは,本件違反行為に至る過程において,本来他企業には秘匿すべき各社のナフサ価格とポリプロピレンの価格との具体的関係について平然と情報交換をしてきたのであって,本件違反行為終了後,ポリプロピレン小委員会及び部長会は開催されなくなったものの,これは公正取引委員会の立入検査を契機とするものであること,ポリプロピレン製造販売業者の数は7社から4社に減少したことにより,ポリプロピレン製造販売業者がポリプロピレンの値上げ合意へ向けて上記の情報交換をすることは本件当時に比べ,更に容易になったこと,ナフサ価格とポリプロピレン価格との連動性が比較的単純であることに照らすと,ポリプロピレンの値上げについて共通の認識を形成しやすいといえること及びポリプロピレンをはじめとするポリオレフィン業界においては価格の引上げを行う不当な取引制限が繰り返し行われてきて,とりわけ被審人住友化学は過去にポリプロピレンの価格カルテルにつき1回,ポリエチレンの価格カルテルにつき3回行政処分を受けたことからすれば,今後,本件違反行為と同様の違反行為が再び行われるおそれがあると認めることができる。
 したがって,被審人住友化学及び被審人サンアロマーについては,独占禁止法第54条第2項に規定する「特に必要があると認めるとき」に該当するということができる。
(b)被審人(株)出光興産(以下「被審人出光興産」という。)及び被審人(株)トクヤマ(以下「被審人トクヤマ」という。)について
 被審人出光興産について,審査官は,同社が(株)プライムポリマー(以下「プライムポリマー」という。)のポリプロピレン製造販売業を実質的に営んでいると主張するが,同社とプライムポリマーは別法人であって,同社のプライムポリマーに対する出資割合が35パーセントにとどまることにもかんがみると,被審人出光興産がポリプロピレン製造販売業を実質的に営んでいるということはできない。また,被審人トクヤマは,現在,ポリプロピレンの製造販売業を営んでいない。したがって,被審人出光興産及び被審人トクヤマについては,独占禁止法第54条第2項に規定する「特に必要があると認めるとき」に該当するとはいえないものというべきである。
エ 法令の適用
 独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)
オ 命じた措置
(ア) 被審人住友化学及び被審人サンアロマーの2社は,平成12年3月6日にこれら2社及び他の事業者の間で行ったポリプロピレンの販売価格の引上げに関する合意が消滅していることを確認しなければならない。
(イ) 被審人住友化学及び被審人サンアロマーは,それぞれ,次の事項をポリプロピレンの取引先販売業者及び需要者に周知徹底させなければならない。
a 前記(ア)に基づいて採った措置
b 今後,それぞれ,相互に又は他の事業者と共同してポリプロピレンの販売価格を決定せず,各社が自主的に決める旨
(ウ) 被審人住友化学及び被審人サンアロマーは,今後,それぞれ,相互に又は他の事業者と共同してポリプロピレンの販売価格を決定せず,各社が自主的に決めなければならない。
(エ) 出光石油化学(株)及び被審人トクヤマが,他の事業者と共同して,平成12年3月6日に,同年4月以降,ポリプロピレンの需要者向け販売価格を1キログラム当たり10円をめどに引き上げることを決定した行為は,独占禁止法第3条の規定に違反するものであり,かつ,当該行為は,既になくなっていると認める。
(オ) 出光石油化学(株)及び被審人トクヤマの前記(エ)の違反行為については,被審人出光興産及び被審人トクヤマに対し,格別の措置を命じない。

(2)(株)トゥモローランドに対する審決及び(株)ワールドに対する審決(輸入ズボンの原産国不当表示に係る景品表示法違反事件)



ア 被審人


イ 事件の経過
 本件は,平成16年11月24日,公正取引委員会が6社に対し,景品表示法第6条第1項の規定に基づき排除命令を行ったところ,八木通商(株)(以下「八木通商」という。)を除く5社から審判手続の開始の請求があったので,5社に対し独占禁止法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 公正取引委員会は,担当審判官から提出された事件記録並びに被審人(株)トゥモローランド(以下「被審人トゥモローランド」という。)及び(株)ワールド(以下「被審人ワールド」という。)(両社を併せて以下「被審人ら」という。)から提出された異議の申立書及び被審人らから聴取した陳述に基づいて,同審判官から提出された審決案を調査の上,被審人トゥモローランドについては審決案を一部改めた審決を,被審人ワールドについては審決案と同じ内容の審決をそれぞれ行った。
 なお,当委員会は,平成18年度に,5社のうち被審人ら以外の3社に対して審決を行っている。
ウ 認定した事実の概要及び判断の概要
(ア) 事実の概要
 被審人らは,平成12年2月ころから平成16年7月ころまでの間,被審人らの小売店舗において一般消費者向けに,被審人らの社名とともに原産国がイタリアである旨(「イタリア製」等)が記載された品質表示タッグ(以下「本件品質表示タッグ」という。)及び被審人らの商標とともに原産国がイタリアである旨が記載された下げ札(以下「本件下げ札」という。)を付したジー・ティー・アー モーダ社製のズボン(八木通商が輸入したもの)を販売したが,当該ズボンの原産国はルーマニアであった。
(イ) 主要な争点及びそれに対する判断
a 商品の原産国はどこかについて
 証拠によれば,本件商品はルーマニアで縫製されたと認定することができる。
b 被審人らは景品表示法上の表示を行った者(表示の主体)に該当するかについて
 被審人らは,本件商品の購入を始めるに当たり,八木通商の説明に基づき本件商品がイタリア製であると認識し,その認識の下に,本件品質表示タッグ及び本件下げ札の作成及び取付けを八木通商に委託したこと,八木通商はこれに応じ,イタリア製である旨記載した本件品質表示タッグ及び本件下げ札を作成し,本件商品に取り付けて納品し,被審人らにおいて前記の表示を付した本件商品を継続して販売していたことが認められるのであって,被審人らが本件表示の内容の決定に関与した者に該当することは明らかというべきである。
c 被審人らに対して排除措置を命ずる必要性について
(a)被審人トゥモローランドについて
 被審人トゥモローランドが講じた各手段(自社ウェブサイトに掲載した自主回収のお知らせ,店舗におけるお詫びとお知らせ,購入者に対する回収の電話連絡及び本件商品の回収)は,排除措置の方法として十分なものとはいえず,これらを併せても,どの程度の範囲の者の誤認が排除されたかは不明であり,本件表示によって誘引された顧客の大部分に本件表示の事実が告知されたということはできないことから,誤認排除のための措置を命ずる必要性があると認められる。
 また,被審人トゥモローランドは,本件商品がイタリア製である旨の八木通商の担当者の説明を漫然と信用したにすぎず,同被審人が本件商品の原産国に係る不当表示を防止するため必要な注意義務を尽くしていたものと認めることはできない。しかし,本件が問題となった後,再発防止に向けての社員に対する周知等の措置及び仕入先である輸入代理店等に対する要請など再発防止措置を講じていることは認めることができるため,今後の不作為を命ずる必要はあるが,再発防止のための社内的措置を改めて命ずる必要はないというべきである。
(b)被審人ワールドについて
 被審人ワールドは,一般日刊紙及び自社のウェブサイトにおいて,回収・返金のお知らせを掲載し,店舗においては原産国表示に誤りがあることを告知し,また,社員に対し,原産国表示のみをテーマにしたセミナーを実施した上,役員会において再発防止対策等を説明し,さらに取引先に対する要請等の措置を採っていることから,本件不当表示に係る一般消費者の誤認は排除されたものと認めるのが相当である。
 しかし,被審人ワールドは,本件商品の取引を開始する前に,八木通商の担当者から本件商品がイタリア製であることを聞いたにすぎず,その後においても原産国がどこであるかについて八木通商に確認しておらず,同被審人が本件商品の原産国に係る不当表示を防止するため必要な注意をしていたものと評価することはできないため,今後の不作為を命ずる必要がある
エ 法令の適用
 景品表示法第4条第1項第3号(「商品の原産国に関する不当な表示」第2項第1号に該当)
オ 命じた措置
(ア) 被審人トゥモローランドは,本件商品に係る表示が,その原産国について一般消費者に誤認される表示である旨を告示しなければならない。
(イ) 被審人らは,今後,輸入されたズボンを販売するに当たり,当該商品の原産国について一般消費者に誤認される表示をしてはならない。

2 同意審決
(1)(株)白石ほか24社に対する審決,(株)加賀田組ほか3社に対する審決及び(株)加賀田組ほか9社に対する審決(新潟市発注の下水道開削工事等の入札談合事件)



ア 事件の経過
 本件は,平成16年7月28日,公正取引委員会が(株)本間組ほか54社,(株)佐藤企業ほか47社,(株)本間組ほか55社に対し,独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告を行ったところ,それぞれ,55社,29社,45社がこれを応諾しなかったので,同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたところ,本年度においてそれぞれ,後記イのとおり,被審人29社(延べ39社)から,同法第53条の3及び公正取引委員会の審査及び審判に関する規則第81条の規定に基づき同意審決を受ける旨の申出があり,具体的措置に関する計画書が提出されたので,これを精査した結果,適当と認められたことから,その後の審判手続を経ないで審決を行ったものである。

イ 被審人
(ア) 平成16年(判)第18号


(注)被審人大旺管財(株)は,大旺建設(株)が,平成19年7月1日付けで,吸収分割により新生大旺管財建設(株)に対し建設事業に関する営業を承継させ,同日付けで大旺管財(株)に商号変更したものである。
(イ) 平成16年(判)第19号

(ウ) 平成16年(判)第20号


ウ 認定した事実の概要
(ア) 平成16年(判)第18号
 前記イ(ア)の表の各被審人は,同意審決を受けた25社,自社を除く前記イ(ア)の表記載の事業者及びその他の新潟市の区域において建設業を営む事業者と共同して,新潟市が制限付一般競争入札,公募型指名競争入札又は指名競争入札の方法により推進工法又はシールド工法を用いる下水管きょ工事及び汚水管布設工事であって同工法により同工事を行うことができる者のみを入札参加者として発注する下水道推進工事(以下「新潟市発注の下水道推進工事」という。)について,受注価格の低落防止等を図るため,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。
(イ) 平成16年(判)第19号
 前記イ(イ)の表の各被審人は,勧告審決又は同意審決を受けた41社,自社を除く前記イ(イ)の表記載の事業者及びその他の新潟市の区域において建設業を営む事業者と共同して,新潟市が公募型指名競争入札又は指名競争入札の方法によりAの等級に格付している者のみを指名して発注する開削工法を用いる下水管きょ工事及び汚水管布設工事(一部推進工法又はシールド工法を用いるものであって,同工法により工事を行うことができる者のみを入札参加者とするものを除く。以下「新潟市発注の下水道開削工事」という。)について,受注価格の低落防止等を図るため,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。
(ウ) 平成16年(判)第20号
 前記イ(ウ)の表の各被審人は,勧告審決又は同意審決を受けた41社,自社を除く前記イ(ウ)の表記載の事業者及びその他の新潟市の区域において建設業を営む事業者と共同して,新潟市が制限付一般競争入札,公募型指名競争入札又は指名競争入札の方法によりAの等級に格付している者(Aの等級に格付している者を代表者とする共同企業体を含む。)のみを入札参加者として発注する建築工事(以下「新潟市発注の建築工事」という。)について,受注価格の低落防止等を図るため,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。
エ 法令の適用
 独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)
オ 命じた措置
(ア) 前記イの表の各被審人は,前記ウの行為を取りやめている旨を確認することを取締役会等において決議し,そのことを,自社を除く審判開始決定書別紙の表1及び表4(1)(第18号),表1及び表2(第19号),表1,表2及び表4(第20号)記載の事業者に通知しなければならない。
(イ) 前記イの表の各被審人は,次の事項を新潟市に通知するとともに,自社の従業員に周知徹底しなければならない。
a 前記(ア)に基づいて採った措置
b 今後,共同して,新潟市発注の下水道推進工事,下水道開削工事及び建築工事について,受注予定者を決定せず,自主的に受注活動を行う旨
(ウ) 前記イの表の各被審人は,今後,前記ウの行為と同様の行為を行ってはならない。
(注)平成16年(判)第18号事件被審人大旺管財(株)については,前記(ア)及び(イ)aのみ措置を命じた。

(2)日本植生(株)ほか4社に対する審決(愛媛県発注ののり面保護工事入札談合)



ア 事件の経過
 本件は,平成16年11月12日,公正取引委員会が16社に対し,独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告を行ったところ,16社がこれを応諾しなかったので,16社に対し,同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたところ,本年度において,後記イのとおり,被審人5社から,同法第53条の3及び公正取引委員会の審査及び審判に関する規則第81条の規定に基づき同意審決を受ける旨の申出があり,具体的措置に関する計画書が提出されたので,これを精査した結果,適当と認められたことから,その後の審判手続を経ないで審決を行ったものである。
 なお,被審人伸和建設(株)については,平成19年12月4日に審判手続打切決定を行った。

イ 被審人

ウ 認定した事実の概要
 愛媛県が指名競争入札の方法により,土木部,地方局建設部及び土木事務所において発注するのり面保護工事(工種がのり面工のみであるもの又は主たる工種がのり面工であるものをいう。以下同じ。)について,遅くとも平成13年7月1日以降,受注価格の低落防止を図るため,他ののり面保護工事の建設業を営む事業者と共同して,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。
エ 法令の適用
 独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)
オ 命じた措置
(ア) 前記イの表の各被審人は,前記ウの行為を取りやめている旨を確認することを取締役会において決議しなければならない。
(イ) 前記イの表の各被審人は,それぞれ,次の事項を,自社を除く本件審判開始決定書の別紙の表1記載の事業者に通知するとともに,愛媛県に通知し,かつ,のり面保護工事の営業を担当する自社の従業員に周知徹底しなければならない。
a 前記(ア)に基づいて採った措置
b 今後,共同して,愛媛県が発注するのり面保護工事について,受注予定者を決定せず,各社がそれぞれ自主的に受注活動を行う旨
(ウ) 前記イの表の各被審人は,今後,それぞれ,他の事業者と共同して,前記ウと同様の行為を行ってはならない。
(エ) 前記イの表の各被審人は,今後,それぞれ,他の事業者と共同して,愛媛県が競争入札の方法により発注するのり面保護工事について,受注予定者を決定しないよう,のり面保護工事の営業を担当する従業員に対する独占禁止法に関する研修,法務担当者による定期的な監査等を行うために必要な措置を講じなければならない。

(3)(株)ドン・キホーテに対する審決(取引先納入業者に対する優越的地位の濫用)



ア 事件の経過
 本件は,平成17年3月9日,公正取引委員会が(株)ドン・キホーテ(以下「被審人」という。)に対し,独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告を行ったところ,被審人がこれを応諾しなかったので,被審人に対し,同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたところ,本年度において,被審人から,同法第53条の3及び公正取引委員会の審査及び審判に関する規則第81条の規定に基づき同意審決を受ける旨の申出があり,具体的措置に関する計画書が提出されたので,これを精査した結果,適当と認められたことから,その後の審判手続を経ないで審決を行ったものである。

イ 被審人

ウ 認定した事実の概要
(ア) 被審人は,自社の店舗の新規オープンに際し,自社の販売業務のための商品の陳列等の作業を行わせるために,その取引上の地位が自社に対して劣っている自社と継続的な取引関係にある身の回り品,日用雑貨品,家庭用電気製品,食料品等の納入業者に対し,その従業員等を派遣させている。
(イ) 被審人は,自社の棚卸し,棚替え等のための作業を行わせるために,納入取引関係を利用して,自社と継続的な取引関係にある前記納入業者に対し,その従業員等を派遣させている。
(ウ) 被審人は,負担額及びその算出根拠,使途等について,あらかじめ明確にすることなく,新規オープンした店舗に対する協賛金として,納入取引関係を利用して,自社と継続的な取引関係にある前記納入業者に対し,当該店舗における納入業者の初回納入金額に一定率を乗じて算出した額,納入業者の一定期間における納入金額の1パーセントに相当する額等の金銭をさかのぼって提供させていた。
エ 法令の適用
 独占禁止法第19条(不公正な取引方法の禁止)
オ 命じた措置
(ア) 被審人は,前記ウ(ア)及び(イ)の行為を取りやめなければならない。
(イ) 被審人は,前記ウ(ウ)の行為を取りやめている旨を確認することを取締役会において決議しなければならない。
(ウ) 被審人は,前記(ア)及び(イ)に基づいて採った措置及び今後,前記ウの行為と同様の行為を行わない旨を自社と継続的な取引関係にある前記納入業者に通知するとともに,自社の従業員に周知徹底しなければならない
(エ) 被審人は,今後,前記ウの行為と同様の行為を行ってはならない。
(オ) 被審人は,今後,前記ウの行為と同様の行為を行うことがないよう,独占禁止法の遵守に関しての行動指針を作成し,当該行動指針に基づく仕入担当者に対する独占禁止法に関する研修及び法務担当者による定期的な監査を行うために必要な措置を講じなければならない。

(4)(株)酉島製作所に対する審決(東京都発注の下水道ポンプ設備工事の入札談合)



ア 事件の経過
 本件は,平成16年3月30日,公正取引委員会が14社に対し,独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告を行ったところ,14社がこれを応諾しなかったので,14社に対し,同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたところ,本年度において,(株)酉島製作所(以下「被審人」という。)から,同法第53条の3及び公正取引委員会の審査及び審判に関する規則第81条の規定に基づき同意審決を受ける旨の申出があり,具体的措置に関する計画書が提出されたので,これを精査した結果,適当と認められたことから,その後の審判手続を経ないで審決を行ったものである。
 なお,公正取引委員会は,平成18年度に,被審人以外の3社に対して審決を行っている

イ 被審人

ウ 認定した事実の概要
 東京都が下水道局において一般競争入札,公募制指名競争入札又は希望制指名競争入札の方法により発注する下水道ポンプ設備工事について,遅くとも平成11年4月1日以降,受注価格の低落防止を図るため,他のポンプ据付け工事の建設業を営む事業者と共同して,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,同工事の取引分野における競争を実質的に制限していた。
エ 法令の適用
 独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)
オ 命じた措置
(ア) 被審人は,前記ウの行為を取りやめていることを取締役会において決議しなければならない。
(イ) 被審人は,次の事項を東京都に通知しなければならない。
a 前記(ア)に基づいて採った措置
b 今後,他の事業者と共同して,東京都が下水道局において競争入札の方法により発注する下水道ポンプ設備工事について,受注予定者を決定せず,自主的に受注活動を行う旨
(ウ) 被審人は,今後,他の事業者と共同して,前記ウと同様の行為を行ってはならない。
(エ) 被審人は,今後,他の事業者と共同して,前記ウと同様の行為を行うことがないよう,営業担当者に対する独占禁止法に関する研修,法務担当者による定期的な監査等を行うために必要な措置を講じなければならない。

3 課徴金の納付を命ずる審決
(1)(株)春日測量設計に対する審決(山形県発注の測量,土木コンサルタント等業務の入札談合)

ア 被審人及び納付を命じた課徴金の額


イ 事件の経過
 本件は,平成17年10月11日,公正取引委員会が13社に対し独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ,(株)春日測量設計(以下「被審人」という。)は,これを不服として審判手続の開始を請求したので,同年12月16日,被審人に対し,同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 公正取引委員会は,担当審判官から提出された事件記録に基づいて,同審判官から提出された審決案を調査の上,被審人に対して審決案と同じ内容の審決を行った。
ウ 課徴金の計算の基礎となる事実及び課徴金額の算定
 被審人の実行期間は,平成12年9月19日から平成15年9月18日までの3年間であり,この期間における山形県発注の特定測量,土木コンサルタント等業務に係る被審人の売上額は,85件の契約により定められた対価の額を合計した2億9026万3234円であり,課徴金の額は,この売上額に100分の3を乗じて得た額から1万円未満の端数を除いた870万円となる。
エ 法令の適用
 独占禁止法第7条の2

(2)日本ポリプロ(株)に対する審決及びチッソ(株)に対する審決(ポリプロピレン販売価格カルテル)

ア 被審人及び納付を命じた課徴金の額


イ 事件の経過
 本件は,平成15年3月31日,公正取引委員会が日本ポリプロ(株)(以下「被審人日本ポリプロ」という。)及びチッソ(株)(以下「被審人チッソ」という。)(両社を併せて以下「被審人ら」という。)に対し独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ,被審人らは,これを不服として審判手続の開始を請求したので,同年6月12日,被審人らに対し,同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 公正取引委員会は,担当審判官から提出された事件記録に基づいて,同審判官から提出された審決案を調査の上,被審人らに対して審決案と同じ内容の審決を行った。
ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 課徴金の計算の基礎となる事実及び課徴金額の算定
 被審人らの実行期間は,平成12年4月21日から平成12年5月29日までであり,この期間におけるポリプロピレンの販売に係る被審人らの売上額は,被審人日本ポリプロについては36億8117万2040円,被審人チッソについては19億4370万6925円である。課徴金の額は,これらの売上額に100分の6を乗じて得た額から1万円未満の端数を除いた額であり,被審人日本ポリプロについては2億2087万円,被審人チッソについては1億1662万円である。
(イ) 主要な争点及びそれに対する判断
a 実行期間の始期がいつであるかについて(被審人チッソのみ)
 被審人チッソは,本件合意に基づき,平成12年4月21日納品分からポリプロピレンを現行価格から単価10円値上げする旨を記載した同年3月21日付け文書を作成し,需要者等に通知することにより,値上げ交渉を開始したところ,同社が値上げした価格でポリプロピレンを需要者に最初に引き渡したのは同年5月1日であると認められる。そうすると,被審人チッソについての実行期間の始期は,同年4月21日となる。
b 実行期間の終期がいつであるかについて(被審人ら)
 本件においては,本件合意成立後3か月弱で立入検査が行われ,その間,被審人らを含む本件違反行為の参加者が値上げに成功した取引先はごくわずかであって,合意に基づく値上げの浸透はいまだその実現途上にあったところ,本件立入検査がなされ,その旨が新聞等で報道された結果,同日以降,被審人らを含む本件違反行為参加者による値上げの実現状況を確認する等のための会合は開かれなくなり,また,本件合意に基づく値上げ交渉を行ったとの事実も具体的に認めることができない。このような事情を総合すると,本件においては,立入検査時以降は,違反行為者全員が,もはや,本件合意を前提とすることなく,これと離れて事業活動を行う状態が形成されて固定化され,本件合意の実効性は確定的に失われたと認められる。したがって,平成12年5月30日の立入検査をもって本件違反行為がなくなったと認められ,課徴金算定の基礎となる実行期間の終期は,その前日である同年5月29日となる。
エ 法令の適用
 独占禁止法第7条の2

(3)(株)エー・シー・リアルエステートに対する審決,(株)木下内組に対する審決及び青山管財(株)に対する審決(新潟市発注の下水道推進工事等の入札談合事件)

ア 被審人及び納付を命じた課徴金の額


イ 事件の経過
 本件は,平成17年8月1日,公正取引委員会が(株)エー・シー・リアルエステート(以下「被審人エー・シー・リアルエステート」という。),(株)木下内組(以下「被審人木下内組」という。)及び青山管財(株)(以下「被審人青山管財」という。)(3社を併せて以下「被審人ら」という。)に対し独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ,被審人らは,これを不服として審判手続の開始を請求したので,同年10月5日,被審人らに対し,同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 公正取引委員会は,担当審判官から提出された事件記録及び被審人木下内組から提出された異議の申立書に基づいて,同審判官から提出された審決案を調査の上,被審人らに対して審決案と同じ内容の審決をそれぞれ行った。
ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 課徴金の計算の基礎となる事実及び課徴金額の算定
 被審人エー・シー・リアルエステートの実行期間は,平成11年10月1日から平成14年9月30日までの3年間であり,この期間における新潟市発注の下水道推進工事に係る被審人の売上額は,1件の契約により定められた対価の額の1億6347万3450円である(いずれも争いがない。)。
 被審人木下内組の実行期間は,平成12年10月1日から平成15年9月30日までであり,この期間における新潟市発注の下水道開削工事に係る被審人の売上額は,5件の契約により定められた対価の額を合計した3億8522万6100円である。
被審人青山管財の実行期間は,平成12年10月1日から平成15年9月30日までであり,この期間における新潟市発注の下水道推進工事に係る被審人の売上額は,1件の契約により定められた額である6億9049万4175円である(いずれも争いがない。)。
(イ) 主要な争点及びそれに対する判断(被審人木下内組のみ)
a 被審人代表者の交代に伴い,被審人が本件基本合意から離脱する意思を表示し本件基本合意から離脱したかどうかについて
 本件基本合意から離脱したことが認められるためには,離脱者が自らの内心において離脱を決意したにとどまるだけでは足りないところ,被審人の木下内初男は,平成14年3月に代表取締役に就任した後,他の違反行為者に対し,本件基本合意から離脱する旨宣言したことはなく,したがって,平成14年3月ころ,本件基本合意から離脱したとする被審人の主張は採用することができない。
b 特定の2物件が課徴金の対象となるかどうかについて
 特定の2物件は,新潟市発注の下水道開削工事に該当する。
証拠によれば,当該2物件は,いずれも,本件基本合意に基づき,被審人が受注予定者に決定され,指名された他の違反行為者に入札価格の連絡を行い,他の違反行為者の協力を得て受注したものと認められる。したがって,当該2物件は,独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該役務」に該当し,課徴金算定の対象となる。
エ 法令の適用
 独占禁止法第7条の2

(4)(株)大石組に対する審決(旧清水市等発注の土木工事の入札談合)

ア 被審人及び納付を命じた課徴金の額


イ 事件の経過
 本件は,平成18年7月7日,公正取引委員会が(株)大石組(以下「被審人」という。)に対し独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ,被審人は,これを不服として審判手続の開始を請求したので,同年9月13日,被審人に対し,同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 公正取引委員会は,担当審判官から提出された事件記録及び被審人から提出された異議の申立書に基づいて,同審判官から提出された審決案を調査の上,被審人に対して審決案と同じ内容の審決を行った。
ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 課徴金の計算の基礎となる事実及び課徴金額の算定
 被審人の実行期間は,平成12年2月26日から平成15年2月25日までであり,この期間における旧清水市等発注の土木工事に係る被審人の売上額は,4件の契約により定められた対価の額を合計した3億7346万9850円である。課徴金の額は,この売上額に100分の3を乗じて得た額から1万円未満の端数を除いた1120万円である。
(イ) 主要な争点及びそれに対する判断
・特定の4物件が課徴金の対象となるかどうかについて
 本件4物件は,旧清水市等発注の土木工事に該当する。
 証拠によれば,被審人は,本件4物件について,本件基本合意に基づいて受注予定者に決定され,相指名業者の協力を得て落札・受注したものである。
 したがって,本件4物件は,独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該役務」に該当し,課徴金算定の対象となる。
エ 法令の適用
 独占禁止法第7条の2

(5)(株)栗本鐵工所に対する審決(日本道路公団発注の鋼橋上部工工事の入札談合)

ア 被審人及び納付を命じた課徴金の額


イ 事件の経過
 本件は,平成18年3月24日,公正取引委員会が(株)栗本鐵工所(以下「被審人」という。)に対し独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ,被審人は,これを不服として審判手続の開始を請求したので,同年5月29日,被審人に対し,同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 公正取引委員会は,担当審判官から提出された事件記録及び被審人から提出された異議の申立書に基づいて,同審判官から提出された審決案を調査の上,被審人に対して審決案と同じ内容の審決を行った。
ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 課徴金の計算の基礎となる事実及び課徴金額の算定
 被審人の実行期間は,平成14年5月30日から平成17年3月31日までであり,この期間における日本道路公団発注の鋼橋上部工工事に係る被審人の売上額は,5件の契約により定められた対価の額を合計した54億4329万5144円である。課徴金の額は,この売上額に100分の6を乗じて得た額から1万円未満の端数を除いた3億2659万円である。
(イ) 主要な争点及びそれに対する判断
・中途で共同企業体の他の構成員会社が破産したことにより被審人が当該他の構成員会社の担当工事も担当することとなった場合,被審人の課徴金の計算の基礎となる売上額は,当初の被審人の担当工事に係る分か,他の構成員会社の担当工事に係る分を加えた分かについて
 本件においては,本件違反行為に基づき,発注者と被審人との間で,本件工事全体を完成させるため役務の履行が合意され,その対価が合意されたのであり,その後,共同企業体の他の構成員が破産し同社による本件工事の履行が不能になったことにより,被審人の売上額も前記の額となったのであるから,この額のうち同社の担当工事に係る分も,本件違反行為と関係がないということは到底できない。したがって,課徴金の算定の基礎となるべき売上額を原契約において定められた対価とすることについて,何ら不当性が認められるものではなく,また,「カルテル行為の実行期間中の事業活動の結果を反映させる」ことを趣旨とする施行令第6条の趣旨に反すると解することもできない。
 よって,被審人に課される課徴金の対象となるべき本件工事に係る売上額は,破産した他の構成員の担当工事に係る分を加えた対価となる。
エ 法令の適用
 独占禁止法第7条の2

(6)(株)バイタルネット及び(株)アスカムに対する審決(宮城県に所在する医薬品卸売業者による価格カルテル)

ア 被審人及び納付を命じた課徴金の額


イ 事件の経過
  本件は,平成15年2月10日,公正取引委員会が(株)バイタルネット(以下「被審人バイタルネット」という。)及び(株)アスカム(以下「被審人アスカム」という。)(両社を併せて以下「被審人ら」という。)に対し独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ,被審人らは,これを不服として審判手続の開始を請求したので,同年4月14日,被審人らに対し,同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 公正取引委員会は,担当審判官から提出された事件記録及び被審人から提出された異議の申立書に基づいて,同審判官から提出された審決案を調査の上,被審人に対して審決案と同じ内容の審決を行った。
ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 課徴金の計算の基礎となる事実及び課徴金額の算定
 被審人らの実行期間は,平成12年4月1日から同年12月4日までであり,この期間における医療用医薬品の販売に係る被審人らの売上額は,被審人バイタルネットについては196億2044万5266円,被審人アスカムについては87億4607万6054円である。課徴金の額は,これらの売上額に100分の1を乗じて得た額から1万円未満の端数を除いた額であり,被審人バイタルネットについては1億9620万円,被審人アスカムについては8746万円である。
(イ) 主要な争点及びそれに対する判断
a 違反行為が「商品の対価に係るもの」に該当するか否かについて
 本件決定は,他社が医療機関等に既に納入している個々の医療用医薬品の取引を相互に奪わないという取引先の合意とともに,これを踏まえて自らが納入することを予定した医療用医薬品につき医療機関等に提示する見積額について,一定の値引き率をめどとして設定するとの対価に係る制限の合意があいまって,取引の対象となる一定範囲の医療用医薬品の集合体の価格のみならず,個々の医療用医薬品の価格についても低落を防止する効果を有するものであり,独占禁止法第7条の2第1項に規定する「商品の対価に係るもの」に該当する。
b 「実行としての事業活動」の有無について
 独占禁止法第7条の2第1項に規定する「当該行為の実行としての事業活動」という要件は,課徴金算定の基礎となる売上高を算定するに当たっての実行期間の始期と終期を特定するためのものであることは文理上明らかであり,その具体的内容は,カルテルの内容実現へ向けての何らかの外部的な行動をいい,例えば,価格カルテルが特定の日以降に納入する商品を対象として行われ,それへ向けての価格交渉等の行動が行われた場合には,当該特定の日が「当該行為の実行としての事業活動を行った日」と解される。本件決定は,医療機関等に対し平成12年4月1日以降使用されるものとして販売する医療用医薬品を対象とするものであり,被審人らは,それぞれ平成12年4月1日以降の分として一括発注される医療用医薬品の入札に参加するなどの行為を行っていた事実に照らせば,本件違反行為の実行としての事業活動が行われた日は同年4月1日とするのが相当である。
c 以下の各取引に係る医療用医薬品が「当該商品」に該当するか否かについて
 (1)入札等による取引,(2)国公立病院との取引,(3)仙台逓信病院との取引,(4)自衛隊仙台病院等との取引,(5)妥結率のかい離した医療機関等との取引,(6)未妥結医療機関等との取引,(7)N価(一種の定価)を適用している医療機関等との取引(ただし,(7)は被審人アスカムのみ)
 一律かつ画一的に算定する売上高に一定の比率を乗じて算出された金額をはく奪すべき事業者の経済的利得と擬制するという課徴金制度の趣旨に照らせば,課徴金の算定はある程度定型的な基準で行うことが予定されているのであり,本件決定の対象商品の範ちゅうに属する商品については,当該違反行為による拘束を受け,定性的に違反行為の影響が及ぶものであるから,原則として当該対象商品の範ちゅうに属する商品は,違反行為を行った事業者が明示的又は黙示的に当該行為の対象からあえて除外したこと,あるいは,これと同視し得る合理的な理由によって定型的に違反行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められない限り,独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品」に該当し,課徴金の算定対象に含まれると解される。
 (1)ないし(7)の各取引については,いずれも本件特段の事情は認められず,当該取引に係る商品はいずれも「当該商品」に該当し,課徴金の対象となる。
エ 法令の適用
 独占禁止法第7条の2

4 審判手続打切決定

 公正取引委員会は,下表の被審人2社に対し,破産手続開始決定がなされたこと,破産法第220条の規定に基づく破産手続終結決定がなされたことなどを考慮して,審判手続打切決定を行った。