第3 現行法に基づく審決等

1 課徴金納付命令に係る審決
(1)(有)賀数建設に対する審決(沖縄県発注の建築工事入札談合事件)



ア 被審人


イ 事件の経過
 本件は,平成18年3月29日,公正取引委員会が(有)賀数建設(以下「被審人」という。)に対し独占禁止法第49条第1項の規定に基づき排除措置命令を,同法第50条第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ,被審人は,課徴金納付命令に対して不服として審判請求を行ったので,被審人に対し,同法第52条第3項の規定に基づき審判手続を開始し,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 公正取引委員会は,担当審判官から提出された事件記録及び被審人から提出された異議の申立書に基づいて,同審判官から提出された審決案を調査の上,被審人に対して審決案と同じ内容(審判請求を棄却する旨)の審決を行った。
ウ 判断の概要等
(ア) 課徴金納付命令の概要
 被審人の実行期間は,平成14年6月8日から平成17年6月7日までであり,この期間における沖縄県が発注する特定建築工事に係る被審人の売上額は,1件の契約により定められた対価の額を合計した4億8419万4112円である。課徴金の額は,この売上額に100分の3を乗じて得た額から1万円未満の端数を除いた1452万円である。
(イ) 主要な争点及びそれに対する判断
a 本件に係る排除措置命令書の別紙に記載された「沖縄県発注の特定建築工事」の記載内容に誤りがあり,対象工事及び対象業者が特定されていないため,当該排除措置命令書を引用する本件課徴金納付命令が無効であるか否かについて
 沖縄県は,建築一式工事について,「建設工事入札参加資格審査及び業者選定等に関する規程」に基づき発注しているところ,本規程別表第2では,沖縄県発注の建設工事を業種別として3種類に工事を分類し,各工事の種類及び請負工事金額に応じて等級を定めており,この表の形式からみても,当該別表第2の等級欄に規定されている等級は,建設工事を業種ごとに分けた上での工事の等級格付として規定されたものと認められる。
 また,本件に係る排除措置命令書の別紙で定義されている本件違反行為の対象工事に係る「沖縄県の等級格付を受けている者のみを入札参加者とする」という要件は,沖縄県が発注する工事の中には,県外業者を入札に参加させている工事があるところ,このような工事は本件違反行為の対象とされていなかったことから,これを除外する趣旨で定義されたものであり,前記規程によれば,当該工事の入札参加者は特A級業者のみ又は特A級業者及びA級業者に限られることとなるため,本件違反行為の対象工事の特定としては必要,十分な記載であると解される。
 以上のとおり,本件課徴金納付命令で引用されている排除措置命令書の別紙において,本件違反行為の対象工事及び対象業者は特定されているから,本件課徴金納付命令が無効であるとする被審人の主張は,理由がない。
b 被審人が本件物件の受注調整行為に具体的に関与していなくても,本件物件を受注した特定JVの構成員である被審人に対し,課徴金の納付を命ずることができるか否かについて
 既に確定している本件に係る排除措置命令及び証拠によれば,被審人は,本件違反行為に係る基本合意に参加している者であるところ,他の2社とともに特定JVを結成し,特定JVの代表者が,前記基本合意に基づき,受注調整を行い,その結果,被審人らの特定JVが本件物件を受注したものである以上,前記基本合意に基づく競争制限効果が発生していることは明らかであるから,被審人は,本件物件について,当然課徴金を課せられるべきであって,特定JVの構成員たる被審人自身が受注調整を行うことが必要であるというものではない。
エ 法令の適用
 独占禁止法第66条第2項

2 審判手続打切決定

 公正取引委員会は,下表の被審人に対し,破産手続開始決定がなされたこと,破産法第217条の規定に基づく破産手続廃止の決定がなされたことを考慮して,審判手続打切決定を行った。

第4 訴訟

1 審決取消請求訴訟

 平成19年度当初において係属中の審決取消請求訴訟は7件であったが,このうち(株)大石組による審決取消請求事件については,平成18年度の東京高等裁判所による請求棄却の判決について,最高裁判所において上告棄却及び上告不受理の決定がなされ,また,(株)ビームスによる審決取消請求事件については,東京高等裁判所において請求棄却の判決がなされ,いずれも確定した。
 平成19年度中に新たに提起された事件は,東日本電信電話(株)による審決取消請求事件,(株)大石組による審決取消請求事件(課徴金納付命令に係るもの),(株)木下内組による審決取消請求事件,(株)トクヤマほか3名による審決取消請求事件,(株)栗本鐵工所による審決取消請求事件,(株)アスカムほか1名による審決取消請求事件及び(有)賀数建設による審決取消請求事件の7件である。
 平成19年度末現在,係属中の審決取消請求訴訟は12件である。

(1)(株)東芝ほか1名による審決取消請求事件

ア 事件の表示
東京高等裁判所 平成19年(行ケ)第12号
審決取消請求事件
原告 (株)東芝ほか1名
被告 公正取引委員会
審決年月日 平成15年6月27日
提訴年月日 平成15年7月25日(東京高等裁判所平成15年(行ケ)第335号)
判決年月日 平成16年4月23日(請求認容,東京高等裁判所)
上訴年月日 平成16年5月7日(上告受理申立て,原審被告)
決定年月日 平成19年1月22日(上告受理決定,最高裁判所平成16年(行ヒ)第208号)
判決年月日 平成19年4月19日(原判決破棄,東京高等裁判所へ差戻し,最高裁判所)
イ 審決の概要
 原告らは,旧郵政省が一般競争入札の方法により発注した郵便番号自動読取区分機類について,入札執行前に同省の調達事務担当官等から情報の提示を受けた者を受注予定者として決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,同省が一般競争入札の方法により発注する区分機類の取引分野における競争を実質的に制限していた。
 本審決は,原告らに対し,独占禁止法第54条第2項の規定を適用して,違反行為を取りやめていることの確認等の措置を命じたものである。
ウ 事案の概要
 本件は,原告らが,本審決は審決の基礎となった事実を証する実質的な証拠を欠いているとして,審決の取消しを求めるものである。
 第1審である東京高等裁判所は, 調達事務担当官等から情報の提示が行われなくなった以上,その入札において本件のような違反行為が行われる余地はなく,原告らが今後も受注調整を行うおそれはないから,審決書の記載内容全体から判断しても独占禁止法第54条第2項の適用の基礎となった事実を当然に知り得るものということはできないし,同法第57条が要求する審決書の記載要件を具備したものということはできないとして,本審決を取り消した。
エ 判決の概要
 最高裁判所は,(1)審決書の記載を全体としてみれば,上告人は,認定事実を基礎として「特に必要があると認めるとき」の要件に該当する旨判断したものであることを知り得るのであって,審決書には,独占禁止法第54条第2項所定の「特に必要があると認めるとき」の要件に該当する旨の判断の基礎となった上告人の認定事実が示されているということができる,(2)「特に必要があると認めるとき」の要件に該当するか否かの判断については,我が国における独占禁止法の運用機関として競争政策について専門的な知見を有する被告の専門的な裁量が認められるというべきであるが,当該判断について,合理性を欠くものであるということはできず,被告の裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものということはできないとして,原判決を破棄し,本件を東京高等裁判所に差し戻した。
オ 訴訟手続の経過
 本件は,平成19年度末現在,差戻審である東京高等裁判所に係属中である。

(2)(株)大石組による審決取消請求事件

ア 事件の表示
最高裁判所 平成19年(行ツ)第83号
      平成19年(行ヒ)第79号
審決取消請求事件
上告人兼申立人(原告) (株)大石組
被上告人兼相手方(被告) 公正取引委員会
審決年月日 平成18年4月12日
提訴年月日 平成18年5月12日(東京高等裁判所平成18年(行ケ)第7号)
判決年月日 平成18年12月15日(請求棄却,東京高等裁判所)
上訴年月日 平成18年12月26日(上告及び上告受理申立て,原審原告)
終了年月日 平成20年3月7日(上告棄却・上告不受理決定,最高裁判所)
イ 審決の概要
 上告人兼申立人を含む建設事業者29名は,共同して,旧清水市等が制限付一般競争入札又は指名競争入札の方法により発注する特定土木工事について,受注価格の低落防止等を図るため,入札参加者間で受注予定者を決定し,受注予定者以外の者は受注予定者が当該工事を受注できるように協力する旨の合意の下に,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,旧清水市等発注の特定土木工事の取引分野における競争を実質的に制限していた。
 本審決は,上告人兼申立人に対し,独占禁止法第54条第2項の規定を適用して,違反行為を取りやめていることの確認等の措置を命じたものである。
ウ 事案の概要
 本件は,上告人兼申立人が,(1)本審決において指摘された本件違反行為は存在せず,本審決の事実認定は実質的証拠を欠くものであり,(2)勧告がなされるまでの間に違反行為を取りやめているのであるから,本件排除措置の必要性はないとして,審決の取消しを求めるものである。
 第1審である東京高等裁判所は, (1)本審決の事実認定に経験則違背,その他の不合理な点は見当たらない,(2)入札談合行為が,長期間にわたって恒常的に行われてきたものであること等を考慮すると,上告人兼申立人が既に受注調整行為から離脱していても,離脱の状態を確保するための措置を命ずる必要が特に存在するということができるとして,上告人兼申立人の請求を棄却した。
エ 決定の概要
 最高裁判所は,(1)本件は民事訴訟法第312条第1項又は第2項に定める上告事由には該当せず,(2)同法第318条第1項により受理すべきものとは認められないとして,上告棄却及び上告不受理の決定を行った。
オ 訴訟手続の経過
 原審判決は,本件決定により確定した。

(3)JFEエンジニアリング(株)ほか4名による審決取消請求事件

ア 事件の表示
東京高等裁判所 平成18年(行ケ)第11号ないし第13号
審決取消請求事件
原告 JFEエンジニアリング(株)ほか4名
被告 公正取引委員会
審決年月日 平成18年6月27日
提訴年月日 平成18年7月27日
イ 審決の概要
 原告らは,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事の取引分野における競争を実質的に制限していた。
 本審決は,原告らに対し,独占禁止法第54条第2項の規定を適用して,違反行為を取りやめていることの確認等の措置を命じたものである。
ウ 事案の概要
 本件は,原告らが,(1)本審決の認定事実につき証拠判断に合理性がなく実質的証拠がない,(2)本審決及び審決に至る審判手続は,憲法その他の法令に違反しているなどとして,審決の取消しを求めるものである。
エ 訴訟手続の経過
 本件は,平成19年度末現在,東京高等裁判所に係属中である。

(4)(株)サカタのタネほか14名による審決取消請求事件

ア 事件の表示
最高裁判所 平成20年(行ツ)第223号及び第224号
      平成20年(行ヒ)第254号ないし第256号
審決取消請求事件
上告人兼申立人(原告) (株)サカタのタネほか14名
((株)サカタのタネについては,上告受理申立てのみを行っている。)
被上告人兼相手方(被告) 公正取引委員会
審決年月日 平成18年11月27日
提訴年月日 平成18年12月25日〜27日
判決年月日 平成20年4月4日(請求棄却,東京高等裁判所)
上訴年月日 平成20年4月16日〜18日(上告及び上告受理申立て,原審原告)
イ 審決の概要
 上告人兼申立人らを含む元詰業者32名は,共同して,はくさい,キャベツ,だいこん及びかぶの交配種の種子(以下「4種類の元詰種子」という。)について,各社が販売価格を定める際の基準となる価格(以下「基準価格」という。)を毎年決定し,各社は当該基準価格の前年度からの変動に沿って,品種ごとに販売価格を定め,取引先販売業者及び需要者に販売する旨合意することにより,公共の利益に反して,我が国における4種類の元詰種子の各販売分野における競争を実質的に制限していた。
 本審決は,上告人兼申立人らを含む元詰業者19名に対し,独占禁止法第54条第2項の規定を適用して,違反行為を取りやめていることの確認等の措置を命じたものである
ウ 事案の概要
 本件は,上告人兼申立人らが,(1)本審決における本件合意の認定や競争の実質的制限に関する事実認定について実質的証拠を欠き,法令に違反する,(2)既往の行為については排除措置の必要性がないなどとして,審決の取消しを求めるものである。
エ 判決の概要
 東京高等裁判所は,(1)「意思の連絡」の認定に当たっては,当該意思が形成されるに至った経過や動機について具体的に特定されることまでを要するものではない,(2)事業者団体に独占禁止法第8条第1項所定の行為があり,事業者らにも同法第3条所定の行為があるものと認定し得る場合に事業者団体にしか行政処分を課することができないと解すべき同法上の根拠は見当たらない,(3)商品価格について,基準価格に基づいて定めるとの合意をすること自体が競争を制限する行為にほかならず,市場における競争機能に十分な影響を与えるものと推認できる,(4)野菜の種類ごとに市場が異なることと,複数の野菜を含む包括的な合意が存在し,これによりそれぞれの取引分野における競争が制限されることとは何ら矛盾するものではない,(5)「特に必要があると認めるとき」の要件に該当する旨の被告の判断が合理性を欠くものであるということはできず,裁量権の範囲を超え又はその濫用があったことは認められないとして,上告人兼申立人らの請求をいずれも棄却した。
オ 訴訟手続の経過
 本件は,上告人兼申立人らの上告及び上告受理申立てにより,最高裁判所に係属中である。

(5)(株)ビームスによる審決取消請求事件

ア 事件の表示
東京高等裁判所 平成19年(行ケ)第4号
審決取消請求事件
原告 (株)ビームス
被告 公正取引委員会
審決年月日 平成19年1月30日
提訴年月日 平成19年2月20日
判決年月日 平成19年10月12日(請求棄却,東京高等裁判所)
イ 審決の概要
 原告は,新光(株)が運営する小売店舗を通じて販売したジー・ティー・アー モーダ社製のズボンについて,当該ズボンの原産国がルーマニアであるにもかかわらず,あたかも,原産国がイタリア共和国であるかのように表示したが,かかる表示は事実と異なるものであり,一般消費者に誤認される表示であった。
 本審決は,原告に対し,独占禁止法第54条第2項並びに景品表示法第7条第1項及び同条第2項の規定を適用して,当該ズボンの原産国について一般消費者に誤認される表示である旨を速やかに公示しなければならない等の措置を命じたものである。
ウ 事案の概要
 本件は,原告が,(1)本件表示は,景品表示法第4条第1項第3号に定める「商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であって,不当に顧客を誘引し,公正な競争を阻害する」に該当しない,(2)原告は表示内容を決定しておらず,同号に違反する表示をしていない,(3)原告は表示の作成について何らの過失もなく,排除措置の必要性もないなどとして,審決の取消しを求めるものである。
エ 判決の概要
 東京高等裁判所は,(1)被告は,本件原産国表示が原産国告示の表示に該当することを立証すればよく,当該表示が個別具体的に不当に顧客を誘引し公正な競争を阻害するおそれがあることまで認定する必要はない,(2)不当表示をした事業者とは,いかなる生産・流通段階にある事業者かを問わず,一般消費者に伝達された表示内容を主体的に決定した事業者はもとより,当該表示内容を認識・認容し,自己の表示として使用することによって利益を得る事業者も,表示内容を間接的に決定した者としてこれに含まれる,(3)景品表示法第4条第1項に規定する不当な表示であることについて,事業者の過失は必要ない,(4)排除措置の必要性は,我が国における独占禁止法の運用機関として競争政策について専門的な知見を有する被告の専門的な裁量が認められるところ,被告の判断について,合理性を欠くものであるということはできず,被告の裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものということはできないとして,原告の請求を棄却した。
オ 訴訟手続の経過
 本件判決は,上訴期間の経過をもって確定した。

(6)(株)ベイクルーズによる審決取消請求事件

ア 事件の表示
東京高等裁判所 平成19年(行ケ)第5号
審決取消請求事件
原告 (株)ベイクルーズ
被告 公正取引委員会
審決年月日 平成19年1月30日
提訴年月日 平成19年2月27日
イ 審決の概要
 原告は,同社の小売店舗において販売したジー・ティー・アー モーダ社製のズボンについて,当該ズボンの原産国がルーマニアであるにもかかわらず,あたかも,原産国がイタリア共和国であるかのように表示したが,かかる表示は事実と異なるものであり,一般 消費者に誤認される表示であった。
 本審決は,原告に対し,独占禁止法第54条第2項並びに景品表示法第7条第1項及び同条第2項の規定を適用して,当該ズボンの原産国について一般消費者に誤認される表示である旨を速やかに公示しなければならない等の措置を命じたものである。
ウ 事案の概要
 本件は,原告が,(1)景品表示法第4条第1項第3号に定める表示主体ではなく,本件表示も同号に定める「表示」に該当しない,(2)原告は必要な注意義務を尽くしており,同法第6条第1項に違反せず,このためそもそも排除命令の必要性もない,(3)他の事業者に対する処分との差が著しく均衡を失しており,憲法第14条の平等原則に違反する,(4)本審決に至る過程で裁量権濫用の違法があるなどとして,審決の取消しを求めるものである。
エ 訴訟手続の経過
 本件は,平成19年度末現在,東京高等裁判所に係属中である。

(7)昭和シェル石油(株)ほか2名による審決取消請求事件

ア 事件の表示
東京高等裁判所 平成19年(行ケ)第7号ないし第9号
審決取消請求事件
原告 昭和シェル石油(株)ほか2名
被告 公正取引委員会
審決年月日 平成19年2月14日
提訴年月日 平成19年3月15日
イ 審決の概要
 原告らは,防衛庁調達実施本部(現在の防衛省装備本部)が発注する石油製品(自動車ガソリン,灯油,軽油,A重油及び航空タービン燃料)について,他8名(航空タービン燃料については他6名)と共同して,油種ごとに受注予定者を決定し,受注予定者が受注することができるようにすることにより,公共の利益に反して,前記石油製品の油種ごとの取引分野における競争を実質的に制限していた。
 本審決は,原告らに対し,航空タービン燃料については,独占禁止法第54条第2項の規定を適用して,違反行為を取りやめていることの確認等の措置を命じ,それ以外の石油製品については,同条第3項の規定を適用して,原告らの前記行為が同法第3条の規定に違反するものであると認めた上で,格別の措置は命じない旨の審決を行ったものである。
ウ 事案の概要
 本件は,原告らが,(1)本審決の基礎となる事実を立証する実質的証拠がない,(2)本件石油製品に係る取引分野に関し競争の存在を認定したことは「一定の取引分野における競争」(独占禁止法第2条第6項)の解釈適用を誤ったものである,(3)航空タービン燃料につき排除措置を命じたことは「特に必要があると認められるとき」(同法第54条第2項)の解釈を誤ったものであるなどとして,審決の取消しを求めるものである。
エ 訴訟手続の経過
 本件は,平成19年度末現在,東京高等裁判所に係属中である。

(8)東日本電信電話(株)による審決取消請求事件

ア 事件の表示
東京高等裁判所 平成19年(行ケ)第13号
審決取消請求事件
原告 東日本電信電話(株)
被告 公正取引委員会
審決年月日 平成19年3月26日
提訴年月日 平成19年4月26日
イ 審決の概要
 原告は,戸建て住宅向けのFTTHサービスとして新たに「ニューファミリータイプ」と称するサービスを提供するに当たり,原告の電話局から加入者宅までの加入者光ファイバについて,1芯の光ファイバを複数人で使用する分岐方式(以下「分岐方式」という。)を用いるとして,ニューファミリータイプのFTTHサービスの提供に用いる設備との接続に係る接続料金の認可を受けるとともに,当該サービスのユーザー料金の届出を行ったが,実際には分岐方式を用いず,電話局から加入者宅までの加入者光ファイバについて1芯を1人で使用する方式(以下「芯線直結方式」という。)を用いて当該サービスを提供した。原告は,当該サービスのユーザー料金を,当初月額5,800円,平成15年4月1日以降は月額4,500円と設定したが,いずれも,他の電気通信事業者が原告の光ファイバ設備に芯線直結方式で接続してFTTHサービスを提供する際に必要となる接続料金を下回るものであった。
 本審決は,原告に対し,原告の前記行為が独占禁止法第3条の規定に違反するものであると認めた上で,同法第54条第3項の規定を適用して,格別の措置は命じない旨の審決を行ったものである。
ウ 事案の概要
 本件は,原告が,(1)ニューファミリータイプの導入及びその値下げは,他事業者の事業活動を排除する行為といえない,(2)戸建て住宅向けFTTHサービス市場に一定の取引分野は成立しない,(3)原告の排除行為により競争の実質的制限が生じたとはいえない,(4)原告の排除行為は,公共の利益に反するものではない,(5)原告の排除行為は,違法性を阻却する事由が存する,(6)電気通信事業法の規制に係る行為を独占禁止法違反に問うことはできないなどとして,審決の取消しを求めるものである。
エ 訴訟手続の経過
 本件は,平成19年度末現在,東京高等裁判所に係属中である。

(9)(株)大石組による審決取消請求事件(課徴金納付命令に係るもの)

ア 事件の表示
東京高等裁判所 平成19年(行ケ)第18号
審決取消請求事件
原告 (株)大石組
被告 公正取引委員会
審決年月日 平成19年6月19日
提訴年月日 平成19年7月11日
イ 審決の概要
 原告は,他の事業者と共同して,旧清水市等が制限付一般競争入札又は指名競争入札の方法により発注する特定土木工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,旧清水市等発注の特定土木工事の取引分野における競争を実質的に制限していた。
 本審決は,原告に対し,独占禁止法第54条の2第1項の規定に基づいて,課徴金の納付を命じたものである。
ウ 事案の概要
 本件は,原告が,本審決は前記(2)のイの審判審決を前提とするものであるが,当該審決において違反行為は立証されていないとして,本審決についてもその取消しを求めるものである。
エ 訴訟手続の経過
 本件は,平成19年度末現在,東京高等裁判所に係属中である。

(10)(株)木下内組による審決取消請求事件

ア 事件の表示
東京高等裁判所 平成19年(行ケ)第19号
審決取消請求事件
原告 (株)木下内組
被告 公正取引委員会
審決年月日 平成19年6月19日
提訴年月日 平成19年7月13日
判決年月日 平成20年3月28日(請求棄却,東京高等裁判所)
イ 審決の概要
 原告は,他の事業者と共同して,新潟市が公募型指名競争入札又は指名競争入札の方法により発注する特定下水道開削工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,同工事の取引分野における競争を実質的に制限していた。
 本審決は,原告に対し,独占禁止法第54条の2第1項の規定に基づいて,課徴金の納付を命じたものである。
ウ 事案の概要
 本件は,原告が,(1)一部の物件について課徴金の対象とはならないこと,(2)原告が本件基本合意から離脱する意思表示をしたにもかかわらず,本件基本合意から離脱したことを認めなかったことは不当であるとして,審決の取消しを求めるものである。
エ 判決の概要
 東京高等裁判所は,本件基本合意から離脱したことが認められるためには,離脱者が離脱の意思を参加者に対し明示的に伝達することまでは要しないが,離脱者が自らの内心において離脱を決意したにとどまるだけでは足りず,少なくとも離脱者の行為等から他の参加者が離脱者の離脱の事実をうかがい知るに十分な事情の存在が必要であるとの解釈の下で,原告の主張を採用しなかった本審決の判断は相当であるとして,原告の請求をいずれも棄却した。
オ 訴訟手続の経過
 本件判決は,上訴期間の経過をもって確定した。

(11)(株)トクヤマほか3名による審決取消請求事件

ア 事件の表示
東京高等裁判所 平成19年(行ケ)第35号ないし第38号
審決取消請求事件
原告 (株)トクヤマほか3名
被告 公正取引委員会
審決年月日 平成19年8月8日
提訴年月日 平成19年9月4日〜7日
イ 審決の概要
 原告らは,他の事業者と共同して,ポリプロピレン(原料であるナフサの価格に連動して販売価格を設定する旨の契約を締結しているもの(ナフサリンク方式)を除く。)の販売価格の引上げを決定することにより,公共の利益に反して,我が国におけるポリプロピレンの販売分野における競争を実質的に制限していた。
 本審決は,原告住友化学(株)及び同サンアロマー(株)に対しては,独占禁止法第54条第2項の規定を適用して,本件基本合意が消滅していることの確認等の措置を命じ,原告出光興産(株)及び同(株)トクヤマに対しては,同条第3項の規定を適用して,原告らの前記行為が同条第3項に違反するものであると認めた上で,格別の措置を命じない旨の審決を行ったものである。
ウ 事案の概要
 本件は,原告らが,(1)平成12年3月6日の会合において原告らを含む7名との間でポリプロピレンの販売価格の引上げに関する合意を行ったことはない,(2)被告の事実認定は引用する証拠自体が実験則や経験則に反しており,審決の基礎となった認定事実について実質的証拠がないなどとして,審決の取消しを求めるものである。
エ 訴訟手続の経過
 本件は,平成19年度末現在,東京高等裁判所に係属中である。

(12)(株)栗本鐵工所による審決取消請求事件

ア 事件の表示
東京高等裁判所 平成19年(行ケ)第39号
審決取消請求事件
原告 (株)栗本鐵工所
被告 公正取引委員会
審決年月日 平成19年9月7日
提訴年月日 平成19年10月5日
イ 審決の概要
 原告は,他の事業者と共同して,日本道路公団が支社,建設局及び管理局において一般競争入札,公募型指名競争入札又は指名競争入札の方法により鋼橋上部工工事として発注する工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,同工事の取引分野における競争を実質的に制限していた。
 本審決は,原告に対し,独占禁止法第54条の2第1項の規定に基づいて,課徴金の納付を命じたものである。
ウ 事案の概要
 本件は,原告が,本審決は独占禁止法施行令第6条に規定する「実行期間において締結した契約」の解釈適用を誤ったものであり,一部の物件について課徴金の対象とはならないなどとして,審決の取消しを求めるものである。
エ 訴訟手続の経過
 本件は,平成19年度末現在,東京高等裁判所に係属中である。

(13)(株)アスカムほか1名による審決取消請求事件

ア 事件の表示
(ア)東京高等裁判所
平成19年(行ケ)第44号 審決取消請求事件
原告 (株)アスカム
被告 公正取引委員会
(イ)東京高等裁判所
平成19年(行ケ)第45号 審決取消請求事件
原告 (株)バイタルネット
被告 公正取引委員会
審決年月日 平成19年12月4日
提訴年月日 平成19年12月27日
イ 審決の概要
 原告らは,他の事業者と共同して,宮城県に所在する保険医療機関及び保険薬局(以下「医療機関等」という。)において平成12年4月1日以降使用される医療用医薬品について,他社が医療機関等に既に納入している個々の医療用医薬品の取引を相互に奪わないこと及び医療機関等に提示する薬価からの値引き率を決定することにより,公共の利益に反して,宮城県の区域における医療用医薬品の販売分野における競争を実質的に制限していた。
 本審決は,原告らに対し,独占禁止法第54条の2第1項の規定に基づいて,課徴金の納付を命じたものである。
ウ 事案の概要
 本件は,原告らが,(1)本件違反行為を認定した勧告審決には重大な事実誤認があり,これを引用して違反行為を認定した本審決は違法な行政処分であること,(2)勧告審決の違反事実の審査においては,重大な手続上の瑕疵があり,憲法第31条に違反していること,(3)本審決の主文に係る違反行為の存否を審理の対象外としたことは,原告らの防御権の重大な侵害であり,憲法第31条及び第32条に違反するなどとして,審決の取消しを求めるものである
エ 訴訟手続の経過
 本件は,平成19年度末現在,東京高等裁判所に係属中である。

(14)(有)賀数建設による審決取消請求事件

ア 事件の表示
東京高等裁判所 平成20年(行ケ)第3号
審決取消請求事件 
原告 (有)賀数建設
被告 公正取引委員会
課徴金納付命令年月日 平成18年3月29日
審決年月日 平成20年1月23日
提訴年月日 平成20年2月22日
イ 審決の概要
 原告は,他の事業者と共同して,沖縄県が発注する特定建築工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,同工事の取引分野における競争を実質的に制限していた。
 本審決は,原告に対し,独占禁止法第7条の2第1項の規定に基づいて課徴金の納付を命じたところ,原告から当該課徴金納付命令の全部取消しを求める審判請求があり,同法第66条第2項の規定により,原告の審判請求を棄却する内容の審決を行ったものである。
ウ 事案の概要
 本件は,原告が,(1)沖縄県の発注する工事に等級格付は存在せず,本件に係る排除措置命令書及び課徴金納付命令書の別紙の定義は違反対象業者を特定していないこと,(2)原告が本件物件の受注調整行為に具体的に関与したという実質的な証拠がないなどとして,審決の取消しを求めるものである。
エ 訴訟手続の経過
 本件は,平成19年度末現在,東京高等裁判所に係属中である。

2 審決取消請求訴訟以外の訴訟

 平成19年度当初において係属中の審決取消請求事件以外の事件は,独占禁止法第69条に基づく閲覧謄写申請不許可処分取消請求事件,同法に基づく閲覧謄写許可処分取消請求事件及び国家賠償法第1条に基づく損害賠償等請求事件の計3件であった。このうち,独占禁止法第69条に基づく閲覧謄写申請許可処分取消請求事件は,訴えの取下げにより終了した。
 平成19年度中に,新たに提訴された事件はない。
 したがって,審決取消請求訴訟以外の訴訟で係属中のものは平成19年度末現在2件である。

(1)平成10年(判)第2号審判事件記録に係る閲覧謄写申請不許可処分取消請求事件

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最高裁判所平成19年(行ヒ)第3号
閲覧謄写申請不許可処分取消請求事件
申立人(1審被告,原審控訴人) 公正取引委員会
相手方(1審原告,原審被控訴人)(株)函館新聞社
提訴年月日 平成15年3月10日,平成16年11月5日
1審判決年月日 平成18年2月23日
        (訴え一部却下,その余の請求認容,東京地方裁判所)
控訴年月日 平成18年3月3日(1審原告,原審被控訴人)
平成18年3月8日(1審被告,原審控訴人)
平成18年7月24日(1審原告,原審被控訴人の控訴取下げ)
原判決年月日 平成18年9月27日(控訴棄却,東京高等裁判所)
上訴年月日 平成18年10月10日(上告受理申立て,1審被告,原審控訴人)
イ 事案の概要
 本件は,相手方が独占禁止法第69条に基づいて行った平成10年(判)第2号(株)北海道新聞社に対する審判事件に係る事件記録全部の閲覧謄写申請に対し,申立人が行った本審判事件の事件記録のうち一部を除いて閲覧謄写を不許可とする旨の処分(第1処分)及び第1処分の内容を見直しこれを変更する処分(第2処分)について,相手方が取消しを求めるものである。
 第1審である東京地方裁判所は,同法第69条の規定上,事件記録の閲覧謄写請求については,「利害関係人」である旨の制限がかけられているにすぎず,事件記録上に記載されている情報の性質を根拠として,閲覧謄写を不許可とすることはできないとし,本件において相手方が同条の「利害関係人」に当たる以上,事件記録のすべてを閲覧謄写させなければならないとして相手方の請求を認容(一部却下)したため,申立人が控訴するとともに,一部却下部分について相手方も控訴した。
 第2審である東京高等裁判所は,独占禁止法には,事業者の秘密をはじめとする開示が制限される情報について配慮した規定は,審判の公開に関する同法第53条の限度でしかなく,同法自体においては,当該情報に関して,前記以上の保護を予定していると読み取るのは困難であるとし,相手方が同法第69条の利害関係人に該当し,本件審判事件で審判が公開されていた本件においては,申立人は,相手方による事件記録の閲覧謄写請求を拒むことはできず,申立人が,同法第69条に基づく事件記録の閲覧謄写請求について,「利害関係人」による請求か否かという点以外に,事件記録上に記載されている情報の性質を根拠として,閲覧謄写を不許可とすることはできないとして,本件控訴を棄却した。
ウ 訴訟手続の経過
 本件は,申立人の上告受理申立てにより,平成19年度末現在,最高裁判所に係属中である。

(2)平成15年(判)第39号審判事件記録に係る閲覧謄写申請許可処分取消請求事件

ア 事件の表示
東京地方裁判所平成17年(行ウ)第241号
閲覧謄写許可処分取消請求事件
原告 (株)第一興商
被告 国(処分行政庁 公正取引委員会)
提訴年月日 平成17年6月1日
取下年月日 平成19年5月28日
イ 事案の概要
 本件は,利害関係人が独占禁止法第69条に基づいて行った平成15年(判)第39号(株)第一興商に対する審判事件に係る事件記録の閲覧謄写申請に対し,被告が本審判事件の事件記録のうち一部を除いて閲覧謄写を許可する旨の処分をしたところ,原告が当該処分の取消しを求めるものである。
 なお,原告は,行政事件訴訟法第25条第2項本文に基づく処分の効力の停止を2度にわたり申し立て,東京地方裁判所は,本件文書の一部につき,本件第一審判決の言渡しの日から3週間を経過する日まで本件処分の効力を停止する決定を行った。
ウ 訴訟手続の経過
 本件は,平成19年5月16日付けで原告から訴えの取下げの申立てがなされ,同月28日付けで被告が訴えの取下げに同意したことから,終了した。

(3)損害賠償等請求事件

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東京高等裁判所 平成19年(ネ)第5765号
各損害賠償請求事件
控訴人(原告) 日本テレシス(株)ほか62名(集団訴訟)
被控訴人(被告) 国ほか3名
提訴年月日 平成18年5月30日〜同年11月17日
判決年月日 平成19年10月22日(請求棄却,東京地方裁判所)
控訴年月日 平成19年11月5日(原告)
イ 事案の概要
 本件は,控訴人らが,被控訴人日本電信電話(株)(以下「被控訴人NTT」という。)は長期にわたり電話事業を独占しており,控訴人ら電話加入者には被控訴人NTT以外に取引先選択の余地がなく,電話加入時に施設設置負担金の支払を強制されていたところ,施設設置負担金の支払が不合理・不適当となっていたにもかかわらず,被控訴人NTTがその独占力を背景として徴収を続けており,これは独占禁止法で禁止する優越的地位の濫用に当たり,不法行為に該当するとして,被控訴人NTT並びに被控訴人東日本電信電話(株)及び同西日本電信電話(株)に対して民法第709条に基づく損害賠償を請求するとともに,公正取引委員会はこの独占禁止法違反行為に対して排除勧告すべきであったのに,それをしなかったことは監督官庁の規制権限の不行使に当たり,結果的に電話加入者に損害を与えたとして,国に対し国家賠償法第1条に基づく損害賠償を請求するものである。
 第1審である東京地方裁判所は,(1)被控訴人NTTが長期にわたり電話事業の独占力を背景に不合理・不適当となっていた施設設置負担金の徴収を続けてきたことを認めるに足りる証拠はなく,被控訴人NTTが優越的地位を濫用したとも認められない,(2)被控訴人NTTが優越的地位を濫用してきたことを認めるに足りる証拠はないから,公正取引委員会において適切な勧告を行うべき義務があったとも認められないなどとして,控訴人らの請求を棄却した。
ウ 訴訟手続の経過
 本件は,平成19年度末現在,東京高等裁判所に係属中である。

3 独占禁止法第24条に基づく差止請求事件

 平成19年度当初において係属中の独占禁止法第24条に基づく差止請求事件は4件であったが,同年度中に2件の訴えが提起された。これらの6件のうち,取下げのあったものが2件,判決が出たものが4件(うち上告棄却及び上告不受理決定が1件,請求棄却が3件(請求が棄却されたもののうち,1件については上告及び上告受理申立てがあり,1件については控訴があったため係属中であり,1件については同一事件について原告の一部について判決等がなされたものである。)であった。平成19年度末において係属中の事件は4件である。


4 独占禁止法第25条(無過失損害賠償責任)に基づく損害賠償請求事件

 平成19年度当初において独占禁止法第25条に基づく損害賠償請求事件は5件であったが,同年度中に1件の訴えが提起され,そのうち,判決が出たものが4件(一部認容が1件,請求棄却が2件(うち1件について,上告及び上告受理申立てがあり,上告棄却及び上告不受理決定があった。)),和解が2件であった(うち1件については,同一事件において被告の一部について判決等がなされたものである。)。平成19年度末において係属中の事件は2件である。

(1)町田市発注の土木一式工事等入札談合事件

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東京高等裁判所平成16年(ワ)第2号
損害賠償請求事件
原告 町田市
被告 亜東コンスト(株)ほか51名
提訴年月日 平成16年 7月20日
判決年月日 平成17年10月 7日(37名につき和解)
平成17年11月29日(1名につき訴え取下げ)
平成18年1月18日(1名につき和解)
平成18年1月27日(12名につき一部認容)
平成19年3月23日(1名につき一部認容)
イ 事案の概要
 公正取引委員会は,町田市発注の土木一式工事等入札談合について,平成13年2月9日,(株)朝見工務店ほか68名に対し当該行為の排除等を命ずる勧告審決を行った。当該審決確定後,発注者である町田市は,亜東コンスト(株)ほか51名に対して,独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟を東京高等裁判所に提起した。
ウ 判決の概要
 契約金額の5%の金員を支払え。
 違反行為がなければ存在したであろう落札価格(想定落札価格)を推定し,これを現実の落札価格から差し引くことにより損害額を算定する考え方自体は不合理なものではない。
 しかしながら,本件においては,原告の主張する落札率の差が本件違反行為が行われなくなったことのみによるものかどうかについて,これを判断すべき的確な資料がないから,当該差をもって直ちに損害額算定の基礎とすることはできない。
 損害の性質上その額を立証することが極めて困難であると認められることから,民事訴訟法第248条を適用し,裁判所が相当な損害額を認定するのが相当である。
エ 訴訟手続の経過
 本件については,東京高等裁判所から,平成16年8月12日,独占禁止法第84条第1項の規定に基づき,同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ,公正取引委員会は,平成16年11月1日,意見書を提出した。
 本件については,平成17年10月7日に被告37名につき和解が成立,平成17年11月29日に被告1名につき訴えの取下げ,平成18年1月18日に被告1名につき和解が成立,平成18年1月27日に被告12名につき判決,平成19年3月23日に被告1名について判決が出た後,上訴期間の経過をもって確定した。

(2)奈良県所在の茶筌製造販売業者による原産国不当表示事件

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東京高等裁判所平成17年(ワ)第2号及び同第3号
損害賠償請求事件
原告 奈良県高山茶筌生産協同組合
被告 (株)中田喜造商店及び高山堂こと藤井編利
提訴年月日 平成17年4月20日
終了年月日 平成18年12月21日(第3号につき訴え取下げ)
判決年月日 平成19年3月30日(第2号につき一部認容)
イ 事案の概要
 公正取引委員会は,奈良県所在の茶筌製造販売業者による原産国不当表示事件について,平成14年4月25日,(株)中田喜造商店(以下「中田喜造商店」という。)ほか2名に対し排除命令を行った。当該審決確定後,奈良県高山茶筌生産協同組合は,中田喜造商店及び高山堂こと藤井編利に対して,独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟を東京高等裁判所に提起した。
ウ 判決の概要
 被告の販売する茶筌の原産国は韓国であると認められるところ,被告は,これを我が国の高山地区で製造されたものであるかのように表示したのであり,景品表示法第4条第3号の不当な表示をしたものと認められる。
 被告のかかる行為により,一般消費者の誤認を招いたというべきであるが,同時に,高山地区における高山茶筌の製造業者も公正な競争を阻害されたというべきである。そして,高山茶筌の製造販売業者が高山茶筌の伝統を守り育てようとして設立し,そのための事業を行ってきた原告組合も,本件不当表示の被害者と認めるべきことは明らかである。
 認定事実を統合すると,被告が相当長期にわたって本件不当表示を行ってきたことにより,原告が多大な損害を被ったものと認められるが,他方,被告は公正取引委員会の排除命令に従って命じられた措置を採ったことなどの事情を総合考慮すると,原告の受けた無形損害に対する賠償は80万円をもって相当とする。
エ 訴訟手続の経過
 本件については,東京高等裁判所から,平成17年5月2日,独占禁止法第84条第1項の規定に基づき,同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ,公正取引委員会は,平成18年12月18日,意見書を提出した。
 本件については,平成18年12月21日に被告高山堂こと藤井編利につき訴えの取下げがあり,平成19年3月30日に被告中田喜造商店につき判決が出た後,上訴期間の経過をもって確定した。

(3)インテルによるCPU私的独占事件

ア 事件の表示
東京高等裁判所平成17年(ワ)第4号
損害賠償請求事件
原告 日本エイ・エム・ディ(株)
被告 インテル(株)
提訴年月日 平成17年6月30日
イ 事案の概要
 公正取引委員会は,インテル(株)(以下「インテル」という。)によるCPU(パーソナルコンピュータに搭載するx86系セントラル・プロセッシング・ユニットをいう。)の私的独占事件について,平成17年4月13日,インテルに対し当該行為の排除等を命ずる勧告審決を行った。当該審決確定後,日本エイ・エム・ディ(株)は,インテルに対して,独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟を東京高等裁判所に提起した。
ウ 訴訟手続の経過
 本件については,東京高等裁判所から,平成17年7月6日,独占禁止法第84条第1項の規定に基づき,同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ,公正取引委員会は,平成18年5月15日,意見書を提出した。
 本件については,平成19年度末現在,東京高等裁判所に係属中である。

(4)警視庁発注の道路標識設置工事等入札談合事件

ア 事件の表示
東京高等裁判所平成17年(ワ)第6号
損害賠償請求事件
原告 東京都
被告 アトムテクノス(株)ほか27名
提訴年月日 平成17年10月28日
判決年月日 平成18年3月7日(2名につき認諾)
終了年月日 平成20年3月31日(24名につき和解)
(2名につき破産等により終了)
イ 事案の概要
 公正取引委員会は,警視庁発注の道路標識設置工事等の入札談合について,平成14年7月30日,信号器材(株)ほか55名等に対し当該行為の排除等を命ずる勧告審決を行った。当該審決確定後,発注者である東京都は,アトムテクノス(株)ほか27名に対して,独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟を東京高等裁判所に提起した。
ウ 訴訟手続の経過
 本件については,東京高等裁判所から,平成17年11月4日,独占禁止法第84条第1項の規定に基づき,同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ,公正取引委員会は,平成18年7月31日,意見書を提出した。
 本件については,平成18年3月7日,被告2名につき判決があり,平成20年3月31日,被告24名につき和解により終了した。

(5)警視庁発注のプログラム多段式交通信号機新設等工事等入札談合事件

ア 事件の表示
東京高等裁判所平成18年(ワ)第1号
損害賠償請求事件
原告 東京都
被告 (株)工業社ほか3名
提訴年月日 平成18年2月3日
終了年月日 平成20年3月31日(3名につき和解)
(1名につき破産により終了)
イ 事案の概要
 公正取引委員会は,警視庁発注のプログラム多段式交通信号機新設等工事等の入札談合について,平成15年3月28日,(株)京三製作所ほか13名に対し当該行為の排除等を命ずる勧告審決を行った。当該審決確定後,発注者である東京都は,(株)工業社ほか3名に対して,独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟を東京高等裁判所に提起した。
ウ 訴訟手続の経過
 本件については,東京高等裁判所から,平成18年2月7日,独占禁止法第84条第1項の規定に基づき,同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ,公正取引委員会は,平成18年7月31日,意見書を提出した。
 本件については,平成20年3月31日,被告3名につき和解により終了した。

(6)大阪市発注の配水管工事跡舗装復旧工事入札談合事件

ア 事件の表示
東京高等裁判所平成18年(ワ)第2号
損害賠償請求事件
原告 大阪市
被告 奥村組土木興業(株)ほか3名
提訴年月日 平成18年4月6日
和解年月日 平成18年12月11日(1名)
判決年月日 平成19年6月8日(2名につき一部認容)
判決年月日 平成20年1月25日(1名につき請求棄却)
イ 事案の概要
 公正取引委員会は,大阪市発注の配水管工事跡舗装復旧工事等の入札談合について,平成16年5月18日,奥村組土木興業(株)ほか1名に対し当該行為の排除等を命ずる勧告審決を行った。
 当該審決確定後,発注者である大阪市は,奥村組土木興業(株)ほか3名に対して,独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟を東京高等裁判所に提起した。
ウ 判決の概要
(ア) 平成19年6月8日判決
 原告が被った損害は,違反行為によって形成された工事契約の代金額(現実価格)と違反行為がなければ形成された工事契約の代金額(想定価格)の差額である。
 想定価格は,現実には存在しない値であり,これは一般的には,価格形成の前提となる経済条件,市場構造その他の経済要因等に変動がない限り,当該違反行為のされる直前の価格によって想定価格を推認するのは相当ではなく,この場合には,違反行為が終了した後の価格をもって想定価格とするのが相当である。
(イ) 平成20年1月25日判決
 原告の損害賠償請求権は,損害金残元金と遅延損害金の合計となるところ,原告の有する既に確定した破産債権(大阪地方裁判所平成19年(フ)第239号破産事件)はこれを上回るから,原告の本件請求は理由がないことになり,本件請求を棄却する。
(注)被告のうち1名につき,訴訟係属中に破産手続開始決定を受け,破産管財人が訴訟手続を受継したもの。
エ 訴訟手続の経過
 本件については,東京高等裁判所から,平成18年4月13日,独占禁止法第84条第1項の規定に基づき,同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ,公正取引委員会は,平成18年10月18日,意見書を提出した。
 本件については,平成18年12月11日に被告1名につき和解が成立,平成19年6月8日に被告2名につき判決があり,平成20年1月25日に被告1名につき判決があった後,上訴期間の経過をもって確定した。

(7)(株)三井住友銀行による金利スワップ契約に係る優越的地位の濫用事件

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最高裁判所平成20年(オ)第333号,平成20年(受)第388号
損害賠償請求事件
上告人兼申立人(原告) クリエイティヴアダック(株)
被上告人兼相手方(被告) (株)三井住友銀行
提訴年月日 平成18年9月8日(東京高等裁判所平成18年(ワ)第5号)
判決年月日 平成19年11月16日(請求棄却,東京高等裁判所)
上告及び上告受理申立て 平成20年3月1日(原告)
終了年月日 平成20年3月21日(上告棄却・上告不受理決定,最高裁判所)
イ 事案の概要
 公正取引委員会は,(株)三井住友銀行(以下「三井住友銀行」という。)による金利スワップ契約に係る優越的地位の濫用事件について,平成17年12月26日,三井住友銀行に対し当該行為の排除等を命ずる勧告審決を行った。当該審決確定後,本件金利スワップ契約の相手方であるクリエイティヴアダック(株)は,三井住友銀行に対して,独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟を東京高等裁判所に提起した。
 なお,本件訴訟の前に原告が被告に対してスワップ契約解除に伴う損害賠償金等の債務を支払う義務があることを認める内容の裁判上の和解(以下「本件和解」という。)が成立している。
ウ 判決の概要
 独占禁止法第25条に基づく損害賠償請求権は,本件前訴において訴訟物となった民法第709条に基づく損害賠償請求権とは別のものであるものの,原告が,本件前訴において明示的に同法第25条違反を主張しながら,本件和解においては「本件に関し」という以外には何の留保もなく清算条項を定めていることに照らすと,むしろ,原告としては,同条項を定めることにより,同法第25条に基づく損害賠償請求権も含めて本件スワップ契約を巡る紛争に関係する権利義務関係全般の清算をし,同紛争の再発を防ぐ趣旨であったものと認められ,原告が本件請求権を除外して清算条項を定めるつもりであったと認め得る証拠はない。
 そうすると,仮に本件で同法第25条に基づく損害賠償請求権が成立するとしても,同請求権は,本件和解によって既に放棄されているというべきであるから,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がない。
エ 訴訟手続の経過
 本件については,東京高等裁判所から,平成18年9月19日,独占禁止法第84条第1項の規定に基づき,同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ,公正取引委員会は,平成19年9月21日,意見書を提出した。
 本件については,平成19年11月16日,東京高等裁判所は請求を棄却したため,原告は最高裁判所に上告及び上告受理申立てを行ったが,平成20年3月21日,同裁判所は上告棄却及び上告不受理決定を行い,原審判決が確定した。

(8)ニプロ(株)によるアンプル生地管の私的独占事件

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東京高等裁判所平成19年(ワ)第10号
損害賠償請求事件
原告 (株)ナイガイ及び内外硝子工業(株)
被告 ニプロ(株)
提訴年月日 平成19年11月26日
イ 事案の概要
 公正取引委員会は,ニプロ(株)によるアンプル生地管の私的独占事件について,平成18年6月5日,ニプロ(株)に対し審判審決を行った。当該審決確定後,(株)ナイガイ及び内外硝子工業(株)は,ニプロ(株)に対して,独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟を東京高等裁判所に提起した。
ウ 訴訟手続の経過
 本件については,東京高等裁判所から,平成19年11月27日,独占禁止法第84条第1項の規定に基づき,同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされている。
 本件については,平成19年度末現在,東京高等裁判所に係属中である。

5 その他の独占禁止法関係の損害賠償請求事件(地方公共団体発注のごみ処理施設建設工事の入札談合に係る住民訴訟)

 地方公共団体発注のごみ処理施設建設工事に係る入札談合について,公正取引委員会は,平成11年8月13日,日立造船(株)ほか4名(以下「日立造船ほか4名」という。)に対し,勧告を行ったところ,日立造船ほか4名はこれを応諾しなかったため,同年9月8日,審判開始決定を行い,平成18年6月27日,審判審決を行った。
 後記原告らは,日立造船ほか4名らに対して,地方自治法第242条の2の規定に基づき,各地方自治体に代位して,又は,被害者の立場で損害賠償を求める訴訟を各裁判所に提起した。
 公正取引委員会が把握している限りでは,後記19件の訴訟のうち12件については,平成19年度中に判決(うち10件については上訴があった。)があり,3件が終了した。このため,平成19年度末に係属している事件は16件である。

(1)いわき市発注のごみ処理施設建設工事に係る住民訴訟

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仙台高等裁判所平成20年(行コ)第6号
支出命令差止等請求事件
控訴人(被告) 三菱重工業(株)
被控訴人(原告)いわき市住民6名
提訴年月日 平成11年4月21日(福島地方裁判所平成11年(行ウ)第3号)
判決年月日 平成20年1月28日(一部認容,福島地方裁判所)
控訴年月日 平成20年2月9日
イ 判決の概要
 福島県いわき市の住民である原告らが,いわき市と被告(三菱重工業(株))との間で締結されたいわき市南部清掃センター建設工事請負契約は,被告を含む入札参加業者らが談合した結果,被告が応札して締結されたものであり,これによりいわき市が損害を被ったとして,旧地方自治法第242条の2第1項第4号(住民代位訴訟)の規定に基づき,被告に対して損害賠償金(69億9369万3000円)等をいわき市に支払うよう求めて,平成11年4月21日に提訴したもの。
 判決(福島地方裁判所)では,訴えの一部を認容し,被告に対して,本件ごみ処理施設建設工事請負金額(225億5400万円)の5%に相当する11億2770万円及び年5分の割合による遅延損害金の支払を命じられた。

(2)大阪市発注のごみ処理施設建設工事に係る住民訴訟

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大阪高等裁判所平成19年(行コ)第112号
損害賠償請求事件
控訴人(被告) 日立造船(株)
被控訴人(原告)大阪市住民3名
提訴年月日 平成12年7月13日(大阪地方裁判所平成12年(行ウ)第67号)
判決年月日 平成19年9月14日(一部認容,大阪地方裁判所)
控訴年月日 平成19年9月25日
イ 判決の概要
 大阪市の住民である原告らが,南河内清掃施設組合と被告(日立造船(株))との間で締結されたごみ焼却施設等建設工事の請負契約は,被告を含む入札参加業者らが談合した結果,被告が応札して締結されたものであり,これにより南河内清掃施設組合が損害を被ったとして,旧地方自治法第242条の2第1項第4号(住民代位訴訟)の規定に基づき,被告に対して損害賠償金(12億1800万円)等を同組合に支払うよう求めて,平成12年7月13日に提訴したもの。
 判決(大阪地方裁判所)では,訴えの一部を認容し,被告に対して,本件ごみ処理施設建設工事請負金額の予定価格(消費税相当額を含む。)の5.77%に相当する7億860万2160円及び年5分の割合による遅延損害金の支払を命じられた。

(3)神戸市発注のごみ処理施設建設工事に係る住民訴訟

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最高裁判所平成20年(行ツ)第60号,同年(行ヒ)第61号
神戸市焼却炉談合損害賠償代位請求事件
上告人兼申立人(1審被告,原審控訴人)  川崎重工業(株)
被上告人兼相手方(1審原告,原審被控訴人)神戸市住民7名
提訴年月日 平成12年7月19日(神戸地方裁判所平成12年(行ウ)第30号)
判決年月日 平成18年11月16日(一部認容,神戸地方裁判所)
控訴年月日 平成18年11月29日(大阪高等裁判所平成18年(行コ)第135号)
判決年月日 平成19年10月30日(控訴棄却,大阪高等裁判所)
上告及び上告受理申立て年月日 平成19年11月10日
イ 判決の概要
 神戸市の住民である原告らが,神戸市と被告(川崎重工業(株))との間で締結されたごみ処理施設建設工事請負契約は,被告を含む入札参加業者らが談合した結果,被告が応札して締結されたものであり,これにより神戸市が損害を被ったとして,旧地方自治法第242条の2第1項第4号(住民代位訴訟)の規定に基づき,被告に対して,損害賠償金(27億2950万円)等の支払を求めて平成12年7月19日に提訴した事件(神戸地方裁判所平成12年(行ウ)第30号)の控訴審である。
 原審(神戸地方裁判所)では,訴えの一部が認容され,被告に対し,本件ごみ処理施設建設工事請負金額(272億9500万円)の5%に相当する13億6475万円及び年5分の割合による遅延損害金の支払が命じられた。これに対し,被告は,大阪高等裁判所に控訴したところ,同裁判所はこれを棄却したが,原審判決のうち附帯控訴部分を変更し,本件落札価格に基づく契約金額の6%に相当する16億3770万円及び年5分の割合による遅延損害金の支払を命じた。

(4)横浜市発注のごみ処理施設建設工事に係る住民訴訟

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東京高等裁判所平成18年(行コ)第191号
損害賠償請求事件
上告人兼申立人(1審被告,原審控訴人) JFEエンジニアリング(株)ほか1名
被上告人兼被申立人(1審原告,原審被控訴人) 横浜市住民9名
提訴年月日 平成12年7月21日(横浜地方裁判所平成12年(行ウ)第34号)
判決年月日 平成18年6月21日(一部認容,横浜地方裁判所)
控訴年月日 平成18年6月30日及び同年7月6日
判決年月日 平成20年3月18日(原判決変更,東京高等裁判所)
上告及び上告受理申立て年月日 平成20年3月31日及び同年4月1日
イ 判決の概要
 横浜市の住民である原告らが,横浜市と被告ら(三菱重工業(株)及びJFEエンジニアリング(株))との間で締結されたごみ処理施設建設工事請負契約は,被告らを含む入札参加業者らが談合した結果,前記被告らが応札して締結されたものであり,これにより横浜市が損害を被ったとして,旧地方自治法第242条の2第1項第4号(住民代位訴訟)の規定に基づき,前記被告らに対して損害賠償金(60億3580万円)等を横浜市に支払うよう求めるとともに,被告(横浜市長)が損害賠償請求を怠る事実が違法であることの確認を求めて平成12年7月21日に提訴した事件(横浜地方裁判所平成12年(行ウ)第34号)の控訴審である。
 原審(横浜地方裁判所)では,訴えの一部が認容され,被告らに対し,本件ごみ処理施設建設工事請負金額(603億5800万円)の5%に相当する30億1790万円及び年5分の割合による遅延損害金の支払が命じられるとともに,被告(横浜市長)が損害賠償請求を怠る事実が違法であることが確認されたが,控訴審(東京高等裁判所)では,原審判決のうち遅延損害金の起算日に関し,損害が発生するのは各契約締結日ではなく代金支払日であると解すべきとして,遅延損害金の起算日を変更した。

(5)尼崎市発注のごみ処理施設建設工事に係る住民訴訟

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最高裁判所平成20年(行ヒ)第97号
損害賠償代位等請求事件
上告人兼申立人(1審原告,原審被控訴人) 尼崎市住民2名
被上告人相手方(1審被告,原審控訴人)  JFEエンジニアリング(株)ほか5名
提訴年月日 平成12年7月28日(神戸地方裁判所平成12年(行ウ)第32号,第33号)
提訴年月日 平成12年12月27日(神戸地方裁判所平成12年(行ウ)第52号)
訴え取下げ 平成17年6月3日(平成12年(行ウ)第32号,第33号)
判決年月日 平成18年11月16日(一部認容,神戸地方裁判所)
控訴年月日 平成18年11月28日から同年12月2日
  (大阪高等裁判所平成18年(行コ)第134号)
判決年月日 平成19年11月30日(原判決変更,大阪高等裁判所)
上告受理申立て年月日 平成19年12月7日
イ 判決の概要
 尼崎市の住民である参加人らが,尼崎市と被告(日立造船(株))との間で締結されごみ処理施設建設工事請負契約は,被告ら(三菱重工業(株),JFEエンジニアリング(株),日立造船(株),(株)タクマ,川崎重工業(株)及び(株)クボタ)が談合し又はこれに協力した結果,被告が応札して締結されたものであり,これにより尼崎市が損害を被ったとして,旧地方自治法第242条の2第1項第4号(住民代位訴訟)の規定に基づき,前記被告らに対して損害賠償金(10億6090万円)等を尼崎市に支払うよう求めて平成12年12月27日に提訴した事件(神戸地方裁判所平成12年(行ウ)第52号)の控訴審である。
 原審(神戸地方裁判所)では,訴えの一部が認容され,被告らに対し,本件ごみ処理施設建設工事請負金額(106億900万円)の5%に相当する5億3045万円及び年5分の割合による遅延損害金の支払が命じられるとともに,尼崎市長が損害賠償請求を怠る事実が違法であることが確認されたが,控訴審(大阪高等裁判所)では,尼崎市長が不法行為に基づく損害賠償請求権を行使しないことが,違法に怠る事実に当たるとはいえないとして,原告らの請求を認容した原審判決を変更した。

(6)福岡市発注のごみ処理施設建設工事に係る住民訴訟

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最高裁判所平成20年(行ツ)第87号ないし第89号,同年(行ヒ)第94号ないし第96号
損害賠償代位等住民訴訟事件
上告人兼申立人(1審被告,原審控訴人) 日立造船(株)ほか4名
被上告人兼相手方(1審原告,原審被控訴人)福岡市住民12名
提訴年月日 平成12年8月3日(福岡地方裁判所平成12年(行ウ)第27号)
判決年月日 平成18年4月25日(一部認容,福岡地方裁判所)
控訴年月日 平成18年4月29日から同年5月10日
  (福岡高等裁判所平成18年(行コ)第20号)
判決年月日 平成19年11月30日(控訴棄却,福岡高等裁判所)
上告及び上告受理申立て年月日 平成19年12月13日から同月15日
イ 判決の概要
 福岡市の住民である原告らが,福岡市と被告(日立造船(株))との間で締結されたごみ処理施設建設工事請負契約は,被告ら(日立造船(株),(株)タクマ,川崎重工業(株),JFEエンジニアリング(株)及び三菱重工業(株))が談合した結果,被告が応札して締結されたものであり,これにより福岡市が損害を被ったとして,旧地方自治法第242条の2第1項第4号(住民代位訴訟)の規定に基づき,前記被告らに対して損害賠償金(29億8288万円)等を福岡市に支払うよう求めるとともに,被告(福岡市長)が損害賠償請求を怠った事実が違法であることの確認を求めて平成12年8月3日に提訴した事件(福岡地方裁判所平成12年(行ウ)第27号)の控訴審である。
 原審(福岡地方裁判所)では,訴えの一部が認容され,前記被告らに対し,本件ごみ処理施設建設工事請負金額(298億2880万円)の7%に相当する20億8801万6000円及び年5分の割合による遅延損害金の支払が命じられるとともに,被告(福岡市長)が損害賠償請求を怠る事実が違法であることが確認された。これに対し,被告らは福岡高等裁判所に控訴したところ,同裁判所はこれを棄却した。

(7)米子市発注のごみ処理施設建設工事に係る住民訴訟

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最高裁判所平成20年(行ツ)第11号,同年(行ヒ)第10号
損害賠償代位等住民訴訟事件
上告人兼申立人(1審被告,原審被控訴人) JFEエンジニアリング(株)ほか1名
被上告人兼相手方(1審原告,原審控訴人) 米子市住民3名
提訴年月日 平成12年8月9日(鳥取地方裁判所平成12年(行ウ)第2号)
判決年月日 平成18年9月26日(請求棄却,鳥取地方裁判所)
控訴年月日 平成18年10月3日(広島高等裁判所松江支部平成18年(行コ)第5号))
判決年月日 平成19年10月17日(原判決変更,広島高等裁判所松江支部)
上告及び上告受理申立て年月日 平成19年10月28日
イ 判決の概要
 米子市の住民である原告が,米子市と被告(JFEエンジニアリング(株))との間で締結されたごみ処理施設建設工事請負契約は,被告を含む入札参加業者らが談合した結果,被告が応札して締結されたものであり,これにより米子市が損害を被ったとして,旧地方自治法第242条の2第1項第4号(住民代位訴訟)の規定に基づき,被告に対して損害賠償金(15億2571万3000円)等を米子市に支払うよう求めるとともに,被告(米子市長)が損害賠償請求を怠った事実が違法であることの確認を求めて平成12年8月9日に提訴した事件(鳥取地方裁判所平成12年(行ウ)第10号)の控訴審である。
 原審(鳥取地方裁判所)では,被告を含む大手5名が,全国各地の地方公共団体の発注するごみ処理施設建設工事につき談合を行っていたことが認められ,本件工事についても受注予定者を被告に決定したと認められるものの,アウトサイダーに対する協力要請等を推認させる具体的証拠はなく,指名業者間で競争関係が排除されていたとは認め難いとして,原告らの請求を棄却したが,控訴審(広島高等裁判所松江支部)では,原審判決を変更し,本件工事の談合を認め,本件談合行為によって被った損害額については,公正取引委員会が行った過去の違反事例における不当利得の推定結果から,本件ごみ処理施設建設工事請負金額(142億5900万円)の8%に相当する11億4072万円及び年5分の割合による遅延損害金の支払を命じた。

(8)豊栄市発注のごみ処理施設建設工事に係る住民訴訟

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最高裁判所平成19年(行ツ)第321号,同年(行ヒ)第353号
損害賠償代位請求事件
上告人兼申立人(1審被告,原審控訴人) 日立造船(株)
被上告人兼相手方(1審原告,原審被控訴人) 豊栄市住民1名
提訴年月日 平成12年10月6日(新潟地方裁判所平成12年(行ウ)第13号)
判決年月日 平成18年9月28日(一部認容,新潟地方裁判所)
控訴年月日 平成18年10月11日(東京高等裁判所平成18年(行コ)第289号)
判決年月日 平成19年8月29日(控訴棄却,東京高等裁判所)
上告及び上告受理申立て年月日 平成19年9月11日
終了年月日 平成19年12月25日(上告棄却・上告不受理決定,最高裁判所)
イ 判決の概要
 豊栄市の住民である原告が,地方公共団体の一部事務組合である豊栄郷清掃施設処理組合と被告(日立造船(株))との間で締結されたごみ処理施設建設工事請負契約は,被告を含む入札参加業者らが談合した結果,被告が応札して締結されたものであり,これにより豊栄郷清掃施設処理組合が損害を被ったとして,旧地方自治法第242条の2第1項第4号(住民代位訴訟)の規定に基づき,被告に対して損害賠償金(2億5441万円)等を豊栄郷清掃施設処理組合に支払うよう求めるとともに,被告(新潟市長)が損害賠償請求を怠った事実が違法であることの確認を求めて提訴した事件(新潟地方裁判所平成12年(行ウ)第13号)の控訴審である。
 原審(新潟地方裁判所)では,訴えの一部が認容され,被告に対し,本件工事における被告の最低入札金額(26億2650万円)の5%に相当する1億3132万5000円から,契約に当たり最低入札金額から値引きした金額8240万円を控除した4892万5000円及び年5%の割合による遅延損害金の支払が命じられるとともに,被告(豊栄郷清掃施設処理組合管理者)が損害賠償請求を怠る事実が違法であることが確認された。これに対し,被告は東京高等裁判所に控訴したところ,同裁判所はこれを棄却したため,被告は更に最高裁判所に上告及び上告受理申立てを行ったが,平成19年12月25日,同裁判所は上告棄却及び上告不受理決定を行い,原審判決が確定した。

(9)熱海市発注のごみ処理施設建設工事に係る住民訴訟

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最高裁判所平成20年(行ツ)第91号,同年(行ヒ)第98号
損害賠償代位請求事件
上告人兼申立人(1審原告,原審控訴人)  熱海市住民1名
被上告人兼相手方(1審被告,原審被控訴人)JFEエンジニアリング(株)ほか6名
提訴年月日 平成12年10月20日(静岡地方裁判所平成12年(行ウ)第22号)
判決年月日 平成13年6月28日(訴え却下,静岡地方裁判所)
控訴年月日 平成13年7月11日(東京高等裁判所平成13年(行コ)第164号)
判決年月日 平成14年2月20日(控訴棄却,東京高等裁判所)
上告年月日 平成14年3月6日(最高裁判所平成14年(行ツ)第101号)
判決年月日 平成14年11月12日(第1審へ差戻し,最高裁判所)
判決年月日 平成17年7月29日(請求棄却,静岡地方裁判所平成14年(行ウ)第18号)
控訴年月日 平成17年8月3日(東京高等裁判所,平成17年(行コ)第223号)
判決年月日 平成19年11月28日(控訴棄却,東京高等裁判所)
上告及び上告受理申立て年月日 平成19年12月7日
イ 判決の概要
 熱海市の住民である原告が,熱海市が発注した清掃工場建設工事の指名競争入札において,各種機械の設計施工等の事業を営む会社である被告(JFEエンジニアリング(株)ほか6名)らが談合を行った結果,熱海市が損害を被ったとして,旧地方自治法第242条の2第1項第4号(住民代位訴訟)に基づき,被告に対して,損害賠償金等を熱海市に支払うよう求めて提訴した事件(静岡地方裁判所平成14年(行ウ)第18号)の控訴審である(第1審(静岡地方裁判所)は,本件訴えを却下する判決を言い渡し,原告は,東京高等裁判所に控訴したが,同裁判所は控訴棄却の判決を言い渡した。そのため,原告は,上告したところ,最高裁判所は,原審(東京高等裁判所)判決を破棄し,第1審(静岡地方裁判所)判決を取り消し,同事件を静岡地方裁判所へ差し戻した。差戻審では原告の請求を棄却し,原告は,東京高等裁判所に控訴していた。)。
 差戻審(静岡地方裁判所)では,熱海市長が損害賠償請求権の管理を違法に怠っている事実は認められないと判断して,原告の請求を棄却し,控訴審(東京高等裁判所)では,談合の基本合意については認定できるが,本件工事の個別談合を直接的に証明するような証拠は存在せず,入札に参加したアウトサイダーの協力が行われたと認めるに足りる証拠も存在しないとして,原告の請求を棄却(控訴棄却)した。

(10)ごみ処理施設建設工事に係るその他の住民訴訟

ア 最高裁判所平成19年(行ツ)第200号,同年(行ヒ)第212号
損害賠償代位請求事件
上告人兼申立人(1審原告,原審被控訴人) 上尾市住民1名
被上告人兼相手方(1審被告,原審控訴人) JFEエンジニアリング(株)
提訴年月日 平成12年1月26日(さいたま地方裁判所平成12年(行ウ)第4号)
判決年月日 平成17年11月30日(一部認容,さいたま地方裁判所)
控訴年月日 平成17年12月13日(東京高等裁判所平成18年(行コ)第12号)
判決年月日 平成19年4月11日(原判決変更,東京高等裁判所)
上告及び上告受理申立て年月日 平成19年4月20日及び同月22日
イ 最高裁判所平成18年(行ツ)第322号,同年(行ヒ)第375号
公金不正支出差止等請求事件
上告人兼申立人(1審被告,原審控訴人)  川崎重工業(株)
被上告人兼相手方(1審原告,原審被控訴人)京都市住民774名
提訴年月日 平成12年2月10日(京都地方裁判所平成12年(行ウ)第3号)
提訴年月日 平成12年3月17日(京都地方裁判所平成12年(行ウ)第7号)
判決年月日 平成17年8月31日(一部認容,京都地方裁判所)
控訴年月日 平成17年9月13日(大阪高等裁判所平成17年(行コ)第91号)
判決年月日 平成18年9月14日(控訴棄却,大阪高等裁判所)
上告及び上告受理申立て年月日 平成18年9月27日
終了年月日 平成19年4月24日(上告棄却・上告不受理決定,最高裁判所)
ウ 東京高等裁判所平成19年(行コ)第119号
損害賠償等(住民訴訟)請求事件
控訴人(被告) (株)タクマほか2名
被控訴人(原告) 東京都住民3名
提訴年月日 平成12年7月14日(東京地方裁判所平成12年(行ウ)第185号)
判決年月日 平成19年3月20日(一部認容,東京地方裁判所)
控訴年月日 平成19年4月4日及び同月10日
エ 最高裁判所平成19年(行ツ)第8号,同年(行ヒ)第8号
損害賠償請求事件
上告人兼申立人(1審被告,原審控訴人)   日立造船(株)
被上告人兼相手方(1審原告,原審被控訴人) 東京都住民1名
提訴年月日 平成12年8月4日(東京地方裁判所平成12年(行ウ)第203号)
判決年月日 平成18年4月28日(一部認容,東京地方裁判所)
控訴年月日 平成18年5月11日(東京高等裁判所平成18年(行コ)第149号)
判決年月日 平成18年10月19日(控訴棄却,東京高等裁判所)
上告及び上告受理申立て年月日 平成18年11月1日
終了年月日 平成19年4月24日(上告棄却・上告不受理決定,最高裁判所)
オ 大津地方裁判所平成18年(ワ)第742号
損害賠償請求事件
原告 湖北広域行政事務センター
被告 日立造船(株)ほか4名
提訴年月日 平成18年11月16日
カ 名古屋地方裁判所平成19年(ワ)第360号
損害賠償請求事件
原告 名古屋市
被告 三菱重工業(株)ほか1名
提訴年月日 平成19年1月29日
キ 名古屋地方裁判所平成19年(ワ)第1472号
損害賠償請求事件
原告 一宮市
被告 日立造船(株)ほか4名
提訴年月日 平成19年3月30日
ク 盛岡地方裁判所平成19年(ワ)第409号
損害賠償請求事件
原告 盛岡市
被告 JFEエンジニアリング(株)
提訴年月日 平成19年7月11日
ケ 名古屋地方裁判所平成19(ワ)第4520号
損害賠償請求事件
原告 海部地区環境事業組合
被告 三菱重工業(株)
提訴年月日 平成19年9月20日
コ 名古屋地方裁判所平成19年(ワ)第5431号
損害賠償請求事件
原告 新城市
被告 三菱重工業(株)
提訴年月日 平成19年11月8日