第4章 規制改革・競争政策に関する調査・提言,違反行為の未然防止等

第1 概説

 我が国においては,社会的・経済的な理由により,参入,設備,数量,価格等に係る事業活動が政府により規制されていたり,独占禁止法の適用が除外されていたりする産業分野がみられる。かつてこのような政府規制は,戦後における我が国経済の発展過程において一定の役割を果たしてきたが,現在ではこのような規制の必要性は薄れている。
 民間需要主導の持続的な経済成長を実現するためには,規制改革を通じて,経済の構造改革を進めていくことが喫緊の課題であり,構造改革によって国際的に開かれ,自己責任原則と市場原理に基づいた,民間活力が最大限に発揮される経済社会システムが構築されることが期待されている。
 政府においても,規制改革を通じた経済の活性化は最重要の課題と位置付けられており,これまで「規制改革推進のための3か年計画」(平成19年6月閣議決定)等に基づき計画的に規制改革等を推進してきたところである。公正取引委員会は,こうした規制改革を推進するためのプログラムの策定に当たって積極的に関与するとともに,個別の政府規制についても必要に応じて改善のための提言を行うほか,ガイドラインの作成など法運用の明確化にも取り組んでいる。さらには,独占禁止法改正,公益通報者保護制度の創設,会社法の施行,証券取引法の改正等,企業コンプライアンスの向上を求める動きが強まっていることから,企業コンプライアンス向上のための施策に取り組んでいる。
 また,独占禁止法の適用除外分野においては,市場メカニズムを通じた良質,廉価な商品・サービスの供給に向けた経営努力が十分に行われず,消費者利益が損なわれるおそれがあるため,適用除外制度は,自由経済体制の下ではあくまでも例外的な制度として,必要最小限にとどめる必要がある。

第2 「農業協同組合の活動に関する独占禁止法上の指針」の策定

1 趣旨及び経緯

 農業協同組合については,これまでに独占禁止法の審決・警告に至った例がみられたことから平成18年3月に閣議決定された規制改革・民間開放推進3か年計画(再改定)において,「独占禁止法上の不公正な取引方法に該当するおそれのある農業協同組合の行為を示したガイドラインを作成する」こととされた。
 公正取引委員会としても,農業協同組合の内部で独占禁止法に関する認識が必ずしも十分ではないとの指摘がある中,独占禁止法違反行為の未然防止のためには,不公正な取引方法に該当するおそれがある農業協同組合の行為を具体的に示した指針を作成し,関係者にその周知を図ることが重要であると考え,平成18年夏以降,取引実態や具体的な問題点等を把握すべく,関係者からヒアリングを行った。ヒアリング結果等を踏まえ,本指針原案を策定・公表して,パブリックコメント手続(平成19年2月14日〜同年3月16日)により関係各方面から広く意見を募集し,提出された意見を慎重に検討し,原案を一部修正した上で,平成19年4月18日,本指針を策定・公表した。

2 指針の概要

 本指針は,農業協同組合のどのような行為が不公正な取引方法に該当し,独占禁止法上問題となるかについて,具体的な事例を挙げながら明らかにすることによって,農業協同組合連合会(以下「連合会」という。)及び単位農協による独占禁止法違反行為の未然防止を図るとともに,農業分野における公正かつ自由な競争の促進に役立てようとするものである。
 具体的な事例としては,過去に独占禁止法上問題となった行為のほか,関係者からのヒアリグ調査の結果等も踏まえ,実際に行われる可能性が高いと考えられる行為その他独占禁止法上の考え方を明確にする必要性があると考えられる行為を取り上げている。
 問題となる行為として記載されている主なものは以下のとおりである。

(1)単位農協による組合員に対する問題行為

ア 購買事業に関する問題行為
(ア) 購買事業の利用に当たって単位農協の競争事業者との取引を制限する行為
・ 単位農協が組合員に対して,組合員が購買事業を利用する際に,全量若しくは一定の割合・数量以上について,又は購買事業を利用せずに購入したいとその組合員が考えている品目についても,購買事業の利用を条件とする行為
(イ) 共同利用施設の利用に当たって購買事業の利用を強制する行為
・ 単位農協が組合員に対して,組合員が共同利用施設を利用する際に,その組合員が農畜産物の生産に必要とする生産資材の全量又は一定の割合・数量以上について購買事業を利用することを条件とする行為
(ウ) 信用事業の利用に当たって購買事業の利用を強制する行為
・ 単位農協が組合員に対して,組合員が信用事業を利用する際に,その組合員が農畜産物の生産に必要とする生産資材の全量又は一定の割合・数量以上について購買事業を利用することを条件とする行為
(エ) 販売事業の利用に当たって購買事業の利用を強制する行為
・ 単位農協が組合員に対して,組合員が販売事業を利用する際に,その組合員が農畜産物の生産に必要とする生産資材の全量又は一定の割合・数量以上について購買事業を利用することを条件とする行為
イ 販売事業に関する問題行為
(ア) 販売事業の利用に当たって単位農協の競争事業者との取引を制限する行為
・ 単位農協が組合員に対して,組合員が販売事業を利用する際に,全量若しくは一定の割合・数量以上について,又は販売事業を利用せずに販売したいとその組合員が考えている品目についても,販売事業の利用を条件とする行為
(イ) 共同利用施設の利用に当たって販売事業の利用を強制する行為
・ 単位農協が組合員に対して,組合員が共同利用施設を利用する際に,販売事業の利用を条件とする行為
(ウ) 信用事業の利用に当たって販売事業の利用を強制する行為
・ 単位農協が組合員に対して,組合員が信用事業を利用する際に,販売事業の利用を条件とする行為

(2)連合会による単位農協に対する問題行為

・ 連合会が単位農協に対して,単位農協が一部の生産資材を連合会から購入する際に,単位農協が連合会の購買事業を利用せずに購入したいと考えている生産資材についても購買事業を利用させる行為

(3)連合会又は単位農協による仕入先に対する問題行為

・ 単位農協が仕入先に対して,単位農協以外へ販売することを禁止し,又は単位農協以外へ販売する際に自己の承諾を要求する行為
・ 連合会が仕入先に対して,連合会以外へ販売することを禁止し,又は連合会以外へ販売する際に自己の承諾を要求する行為
・ 連合会又は単位農協が仕入先に対して,仕入先が系統以外に販売する際に,連合会又は単位農協が販売する価格を下回らない価格で販売するようにさせる行為

(4)連合会又は単位農協による販売先に対する問題行為

・ 単位農協が販売先に対して,自己の販売事業と競合する事業者と取引しないことを条件とする行為
・ 連合会が加工業者に対して,当該加工業者が製造し,販売する連合会のブランド製品の販売価格を指示し,これを遵守させる行為

3 今後の対応

 公正取引委員会は,本指針を農業協同組合等に十分に周知し,農業協同組合による独占禁止法違反行為の未然防止を図るとともに,同法の規定に違反する事実が認められた場合には,適切かつ迅速に対処することとしている。

第3 知的財産権分野における公正な取引ルールの確立

 知的財産権分野においては,政府としての取組の強化が求められているところであるが,公正取引委員会としても,国民の生活に重大な影響を与える分野の一つとして重点的に取組を行っているところである。

1 情報成果物の作成に係る下請取引の適正化に関する取組

 平成16年4月に施行された下請法改正法において,情報成果物の作成に係る下請取引等が下請法の規制対象とされた。この改正以降,情報成果物の作成に係る下請法違反行為に対し厳正に対処するとともに,違反行為の未然防止を図るための普及・啓発に取り組んでいる。
 平成19年度においては,情報成果物の作成委託を主に行っていると思われる親事業者4,812社及びその下請事業者13,251名に対して書面調査を実施した(第1表参照)。
 また,同年度中に新規に着手した下請法違反被疑事件のうち情報成果物の作成によるものは443件であり,このうち,書面調査により職権探知したものは409件,下請事業者からの申告によるものは34件である。処理を行った件数は439件で,その内訳は,勧告が1件(注),警告が386件,不問が52件である(第2表参照)。
(注)製造委託及び情報成果物作成委託の各委託取引において違反が認められたものであるが,違反に係る取引額をみると製造委託の金額が大きいため,本項以外においては製造委託に区分・計上している。
第1表 情報成果物の作成委託に係る下請法の書面調査の実施状況
第1表 情報成果物の作成委託に係る下請法の書面調査の実施状況

第2表 情報成果物の作成委託に係る下請法違反被疑事件の処理状況
第2表 情報成果物の作成委託に係る下請法違反被疑事件の処理状況
 違反行為類型別件数にみると,下請代金の支払遅延が164件で最も多く,以下,下請代金の減額が12件,不当な給付内容の変更・やり直しが10件などとなっている(第3表参照)

第3表 情報成果物の作成委託に係る下請法違反行為類型別件数
第3表 情報成果物の作成委託に係る下請法違反行為類型別件数
(注) 1件の勧告又は警告において複数の行為を問題としている場合があるので,違反行為類型別件数の合計欄の数字と第3表の「措置」件数とは一致しない。
 なお,( )内の数値は,実体規定違反全体に占める比率であり,小数点以下第2位を四捨五入したため,合計は必ずしも100.0とならない。

2 知的財産の利用に関する独占禁止法上の考え方の明確化

 公正取引委員会は,平成11年7月に「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」(以下「特許・ノウハウガイドライン」という。)を策定・公表したところであるが,近年,知的財産の保護及び活用に関する取組が活発に行われている状況にかんがみ,知的財産の利用に係る独占禁止法上の考え方を一層明確化するため,同指針を全面的に改定し,平成19年9月に「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(以下「知財ガイドライン」という。)を策定・公表した。知財ガイドラインの主要なポイントは,(1)特許・ノウハウガイドラインでは,特許,実用新案及びノウハウとして保護される技術を対象としているのに対し,知財ガイドラインでは,著作権で保護されるソフトウェアなども含め,知的財産のうち技術に関するもの全般を対象としていること,(2)知財ガイドラインでは,一定の基準を満たせば制限行為の具体的な態様を問うことなく競争への影響は軽微であると判断する,いわゆる「セーフハーバー」についての考え方を明らかにしていること,(3)知財ガイドラインでは,ライセンス契約に伴う制限についての独占禁止法上の考え方だけでなく,技術に権利を有する者が技術を利用させないようにする行為についての記述を加えていること等である。

第4 独占禁止法適用除外

1 独占禁止法適用除外の概要

 独占禁止法は,市場における公正かつ自由な競争を促進することにより,一般消費者の利益を確保するとともに国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とし,これを達成するために,私的独占,不当な取引制限,不公正な取引方法等を禁止している。他方,他の政策目的を達成する観点から,特定の分野における一定の行為に独占禁止法の禁止規定等の適用を除外するという適用除外が設けられている。
 適用除外の根拠規定は,独占禁止法自体に定められているもの及び独占禁止法以外の個別の法律に定められているものに分けることができる。

(1) 独占禁止法に基づく適用除外

 独占禁止法は,無体財産権の行使行為(第21条),一定の組合の行為(第22条)及び再販売価格維持契約(第23条)を,それぞれ同法の規定の適用除外としている。

(2)個別法に基づく適用除外

 独占禁止法以外の個別の法律において,特定の事業者又は事業者団体の行為について独占禁止法の適用除外を定めているものとしては,平成19年度末現在,保険業法等14の法律がある。

2 適用除外の見直し
(1)これまでの見直しについて

 適用除外の多くは,昭和20年代から昭和30年代にかけて,産業の育成・強化,国際競争力強化のための企業経営の安定,合理化等を達成するため,各産業分野において創設されてきたが,個々の事業者において効率化への努力が十分に行われず,事業活動における創意工夫の発揮が阻害されるおそれがあるなどの問題があることから,近年,その見直しが行われてきた。
 平成9年7月20日,「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外制度の整理等に関する法律」が施行され,個別法に基づく適用除外のうち20法律35制度について廃止等の措置が採られた。次いで,平成11年7月23日,「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外制度の整理等に関する法律」が施行され,不況カルテル制度及び合理化カルテル制度の廃止,独占禁止法の適用除外等に関する法律の廃止等の措置が採られた。さらに,平成12年6月19日,独占禁止法改正法が施行され,自然独占に固有の行為に関する適用除外の規定の削除が行われた。
 これらの措置により,平成7年度末において30法律89制度存在した適用除外は,平成19年度末現在,15法律21制度まで縮減された。

(2)国際航空市場の実態と競争政策上の課題に関する調査・検討

 航空法に基づく国際航空における航空会社間の運輸協定(以下「国際航空協定」という。)に関する適用除外制度は,平成11年に見直しを行った際,諸外国においても競争法からの適用除外が認められているとの理由により維持することとされた。
 しかしながら,近年,EU,米国及び豪州において国際航空協定に関する競争法適用除外制度を見直す動きがあるなど,国際航空協定を巡る状況に大きな変化がみられた。
 このため,公正取引委員会は,平成18年半ばから,国際航空市場の実態と独占禁止法の適用除外制度の在り方を中心とした競争政策上の課題についての調査を開始し,航空会社,旅行会社,利用航空運送事業者(以下「フォワーダー」という。),荷主,関係団体,有識者等からの意見聴取,旅行会社及びフォワーダーを対象としたアンケート調査等を行った。
 また,公正取引委員会は,平成19年2月から,政府規制等と競争政策に関する研究会(以下「規制研」という。)において,前記調査結果等を踏まえて,国際航空市場の実態と競争政策上の課題について,国際航空協定に関する独占禁止法の適用除外制度の在り方を中心として,検討を開始した。規制研は,IATA(国際航空運送協会)や航空会社などからのヒアリングなども行った上で慎重に議論を重ね,同年9月の会合において報告書(案)を取りまとめ,同年10月には,報告書(案)についてパブリックコメント手続により,関係各方面から広く意見を募集した。規制研は,パブリックコメント手続に寄せられた意見を踏まえ,それまでの検討内容について,慎重に検討した結果,同年11月の会合において,「国際航空市場の実態と競争政策上の課題について−国際航空協定に関する独占禁止法の適用除外制度の在り方を中心として−」と題する報告書を取りまとめた。
 公正取引委員会は,前記規制研報告書の提出を受け,その内容を踏まえて,国際航空協定に関する独占禁止法の適用除外制度の在り方について,慎重に検討した。その結果,当委員会は
(1) 平成11年の見直しの際に国際航空協定に関する独占禁止法の適用除外制度を維持した理由,すなわち「諸外国においても競争法からの適用除外が認められている」ことは,現時点において,適用除外制度を維持する理由として成立していない
(2) 各国際航空協定について,現状を踏まえて改めて具体的に検討した結果,現行の適用除外制度を維持する合理的な理由を説明することは困難であり,速やかに適用除外制度の抜本的な見直しを行うことが必要である。国際約束があるものについては,締結国の具体的な要請に基づいて実施されるものに限り,暫定的な措置を採れば足りる
との結論に至り,平成19年12月,国土交通省に対して,規制研報告書の内容を踏まえ,速やかに,同制度の抜本的な見直しを行うことを求めた。

3 著作物再販適用除外の取扱いについて

 商品の供給者がその商品の取引先である事業者に対して再販売する価格を指示し,これを遵守させることは,原則として,不公正な取引方法第12項(再販売価格の拘束)に該当し,独占禁止法第19条に違反するものであるが,同法第23条の規定に基づき,著作物を対象とするものについては,例外的に同法の適用が除外されている。
 公正取引委員会は,著作物についてのこのような適用除外の取扱いについて,国民各層から意見を求めるなどして検討を進め,平成13年3月,結論を得るに至った(第4表)。さらに,同年12月,関係業界における運用の弾力化の取組等,著作物の流通についての意見交換を行うため,公正取引委員会,関係事業者,消費者,学識経験者等を構成員とする著作物再販協議会を設け,平成18年度までに6回の会合を開催し,平成19年度においては,第7回会合(平成19年6月)を開催した。

著作物再販協議会第7回会合の概要

・,謝恩価格本フェアの実施及び謝恩価格本等を常時取り扱うインターネット通販サイトの開設(出版業界),新聞読者の会員制のサービス提供(新聞業界),CDとDVDをセットにした商品,時限再販商品の発売状況(音楽業界)等,関係業界における運用の弾力化等の取組状況が報告され,著作物の流通についての意見交換が行われた。

第4表 著作物再販制度の取扱いについて(概要)(平成13年3月23日)
第4表 著作物再販制度の取扱いについて(概要)(平成13年3月23日)

4 適用除外カルテルの動向
(1)概況

ア 適用除外カルテルの概要
 価格,数量,販路等のカルテルは,公正かつ自由な競争を妨げるものとして,独占禁止法上禁止されているが,その一方で,他の政策目的を達成する等の観点から,個々の適用除外ごとに設けられた一定の要件・手続の下で,特定のカルテルが例外的に許容される場合がある。
 このような適用除外カルテルが認められるのは,当該事業の特殊性のため(保険業法に基づく保険カルテル),地域住民の生活に必要な旅客輸送(いわゆる生活路線)を確保するため(道路運送法等に基づく運輸カルテル)等,様々な理由による。
 個別法に基づく適用除外カルテルについては,一般に,公正取引委員会の同意を得,又は当委員会へ協議若しくは通知を行って主務大臣が認可を行うこととなっている。
 また,適用除外カルテルの認可に当たっては,一般に,当該適用除外カルテルの目的を達成するために必要であること等の積極的要件のほか,当該カルテルが弊害をもたらしたりすることのないよう,カルテルの目的を達成するために必要な限度を超えないこと,不当に差別的でないこと等の消極的要件を充足することがそれぞれの法律により必要とされている。
 さらに,このような適用除外カルテルについては,不公正な取引方法に該当する行為が用いられた場合等には独占禁止法の適用除外とはならないとする,いわゆるただし書規定が設けられている。
イ 適用除外カルテルの動向
 公正取引委員会が認可し,又は当委員会の同意を得,若しくは当委員会に協議若しくは通知を行って主務大臣が認可等を行ったカルテルの件数は,昭和40年度末の1,079件(中小企業団体の組織に関する法律に基づくカルテルのように,同一業種について都道府県等の地区別に結成されている組合ごとにカルテルが締結されている場合等に,同一業種についてのカルテルを1件として算定すると,件数は415件)をピークに減少傾向にあり,また,適用除外制度そのものが大幅に縮減されたこともあり,平成19年度末現在,23件となっている。

(2) 個別法に基づく適用除外カルテル

ア 概要
 平成19年度において,個別法に基づき主務大臣から公正取引委員会に対し同意を求められ,又は協議若しくは通知のあった適用除外カルテルの処理状況は第5表のとおりであり,このうち現在実施されている個別法に基づく適用除外カルテルの動向は,次のとおりである。

第5表 平成19年度における適用除外カルテルの処理状況
第5表 平成19年度における適用除外カルテルの処理状況
第5表 平成19年度における適用除外カルテルの処理状況

イ 保険業法に基づくカルテル
 保険業法に基づき損害保険会社は
(1) 航空保険事業,原子力保険事業,自動車損害賠償保障法に基づく自動車損害賠償責任保険事業若しくは地震保険契約に関する法律に基づく地震保険事業についての共同行為
又は
(2) (1)以外の保険で共同再保険を必要とするものについての一定の共同行為
を行う場合には,金融庁長官の認可を受けなければならない。金融庁長官は,認可をする際には,公正取引委員会の同意を得ることとされている。
 平成19年度において,金融庁長官から同意を求められたものは3件であった(変更認可に係るもの)。また,平成19年度末における同法に基づく共同行為は8件である。
ウ 損害保険料率算出団体に関する法律に基づくカルテル
 損害保険料率算出団体は,自動車損害賠償責任保険及び地震保険について基準料率を算出した場合には,金融庁長官に届け出なければならない。金融庁長官は,届出を受理したときは,公正取引委員会に通知することとされている。
 平成19年度において,金融庁長官から通知を受けたものは1件であった(変更届出に係るもの)。また,平成19年度末における同法に基づくカルテルは2件である。
エ 道路運送法に基づくカルテル
 輸送需要の減少により事業の継続が困難と見込まれる路線において地域住民の生活に必要な旅客輸送を確保するため,又は旅客の利便を増進する適切な運行時刻を設定するため,一般乗合旅客自動車運送事業者は,同一路線において事業を経営する他の一般乗合旅客自動車運送事業者と,共同経営に関する協定を締結することができる。この協定の締結,変更に当たっては,国土交通大臣の認可を受けなければならない。国土交通大臣は,認可をする際には,公正取引委員会に協議することとされている。
 平成19年度において,国土交通大臣から協議を受けたものはなかった。また,平成19年度末における同法に基づくカルテルは3件である。
オ 航空法に基づくカルテル
(ア) 国内航空カルテル
 航空輸送需要の減少により事業の継続が困難と見込まれる本邦内の各地間の路線において地域住民の生活に必要な旅客運送を確保するため,当該路線において2以上の航空輸送事業者が事業を経営している場合に,本邦航空事業者は,他の航空運送事業者と,共同経営に関する協定を締結することができる。この協定の締結・変更に当たっては,国土交通大臣の認可を受けなければならない。国土交通大臣は,認可をする際には,公正取引委員会に協議することとされている。
 平成19年度において,国土交通大臣から協議を受けたものはなかった。また,平成19年度末における同法に基づくカルテルはない。
(イ) 国際航空カルテル
 本邦内の地点と本邦外の地点との間の路線又は本邦外の各地間の路線において公衆の利便を増進するため,本邦航空運送事業者は,他の航空運送事業者と,連絡運輸に関する契約,運賃協定その他の運輸に関する協定を締結することができる。この協定の締結・変更に当たっては,国土交通大臣の認可を受けなければならない。国土交通大臣は,認可をしたときは,公正取引委員会に通知することとされている。
 平成19年度において,国土交通大臣から通知を受けたものは293件であった。
カ 海上運送法に基づくカルテル
(ア) 内航海運カルテル
 本邦の各港間の航路に関しては,地域住民の生活に必要な旅客輸送を確保するため,旅客の利便を増進する適切な運航日程・運航時刻を設定するため,又は貨物の運送の利用者の利便を増進する適切な運航日程を設定するため,定期航路事業者は,共同経営に関する協定を締結することができる。この協定の締結・変更に当たっては,国土交通大臣の認可を受けなければならない。国土交通大臣は,認可をする際には,公正取引委員会に協議することとされている。
 平成19年度において,国土交通大臣から協議を受けたものは2件であった。また,平成19年度末における同法に基づくカルテルは7件である。
(イ) 外航海運カルテル
 本邦の港と本邦以外の地域の港との間の航路に関しては,船舶運航事業者は,他の船舶運航事業者と,運賃及び料金その他の運送条件,航路,配船並びに積取りに関する事項を内容とする協定を締結することができる。この協定の締結・変更に当たっては,あらかじめ国土交通大臣に届け出なければならない。国土交通大臣は,届出を受理したときは,公正取引委員会に通知することとされている。
 平成19年度において,国土交通大臣から通知を受けたものは451件であった。
キ 内航海運組合法に基づくカルテル
 内航海運組合法に基づき内航海運組合が調整事業を行う場合には,調整規程又は団体協約を設定し,国土交通大臣の認可を受けなければならない。国土交通大臣は,認可をする際には,公正取引委員会に協議することとされている。
 平成19年度において,国土交通大臣から協議を受けたものはなかった。また,平成19年度末における同法に基づくカルテルは1件である。

第5 違反行為の未然防止

 公正取引委員会は,事業者及び事業者団体による独占禁止法違反行為の未然防止とその適切な活動に役立てるため,事業者及び事業者団体の活動の中でどのような行為が実際に独占禁止法違反となるのかを具体的に示した「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(平成3年7月),「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」(平成5年4月),「公共的な入札に係る事業者及び事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(平成6年7月),「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(平成7年10月),「農業協同組合の活動に関する独占禁止法上の指針」(平成19年4月),知財ガイドライン(平成19年9月)等を策定・公表している。
 また,個々の具体的な活動について事業者等からの相談に応じるとともに,独占禁止法違反行為の未然防止に役立てるため,事業者等から寄せられた相談のうち,他の事業者等の参考になると思われるものを相談事例集として取りまとめ,公表している(平成18年度に寄せられた相談について,平成19年11月に公表した。)。

第6 独占的状態調査

 独占禁止法第8条の4は,独占的状態に対する措置について定めている。公正取引委員会は,同法第2条第7項に規定する独占的状態の定義規定のうち,事業分野に関する考え方についてガイドラインを公表しており,その別表(第6表)には,独占的状態の国内総供給価額要件及び事業分野占拠率要件(国内総供給価額が1000億円超で,かつ,上位1社の事業分野占拠率が50%超又は上位2社の事業分野占拠率の合計が75%超)に該当すると認められる事業分野並びに今後の経済事情の変化によってはこれらの要件に該当することとなると認められる事業分野が掲げられている。
 別表に掲載された事業分野については,生産・出荷集中度の調査結果等に応じ逐次改定してきているところ(直近の改定による最新のものは,平成18年9月8日に公表し,同日から適用)であり,特に集中度の高い業種については,生産,販売,価格,製造原価,技術革新等の動向,分野別利益率等について,独占禁止法第2条第7項第2号(新規参入の困難性)及び第3号(価格の下方硬直性,過大な利益率又は販売管理費の支出)の各要件に即し,企業の動向の監視に努めている。

第6表 別表掲載事業分野(29事業分野)
第6表 別表掲載事業分野(29事業分野)
第6表 別表掲載事業分野(29事業分野)
(注) 

1 本表は,公正取引委員会が行った調査に基づき,独占的状態の国内総供給価額要件及び事業分野占拠率要件に該当すると認められる事業分野並びに今後の経済事情の変化によってはこれらの要件に該当することとなると認められる事業分野(平成16年の国内総供給価額が950億円を超え,かつ,上位1社の事業分野占拠率が45%を超え又は上位2社の事業分野占拠率の合計が70%を超えると認められるもの)を掲げたものである。

2 本表の商品順は工業統計表に,役務順は日本標準産業分類による。

第7 企業コンプライアンス向上のための施策の推進

1 企業コンプライアンス向上の必要性

 近年,企業コンプライアンスを取り巻く環境は大きく変化している状況にある。法制度についてみると,独占禁止法改正を始め,公益通報者保護制度の創設,会社法・金融商品取引法における,いわゆる内部統制の法定化など,企業コンプライアンスの向上を求める動きが強まっている。
 独占禁止法に関しては,独占禁止法改正法により,課徴金算定率を引き上げ,過去に課徴金納付命令を受けたことがある場合は5割増しの算定率,早期離脱の場合は2割減の算定率が適用されることとなった。また,課徴金減免制度を導入し,違反行為を自ら報告するなど一定の要件を満たした事業者に対しては,課徴金を免除又は減額することとしており,企業が自らのコンプライアンスの向上を図るインセンティブを与えるものとなっている。

2 「建設業におけるコンプライアンスの整備状況−独占禁止法を中心として−」について
(1)調査の趣旨・対象等

 公正取引委員会は,(1)従来から官製談合事件を含めた入札談合事件が頻発していること,(2)独占禁止法改正法の施行を契機とした業界団体からのコンプライアンス徹底の通知の発出など独占禁止法のコンプライアンスについての関心が高まっていること,(3)公共工事に関して,公共工事の品質確保の促進に関する法律の施行など入札制度改革が急速に進展していることなどを踏まえ,平成18年9月,中小企業を含めた建設業者1,700社(注)を対象としたアンケート調査を実施し,平成19年5月に報告書「建設業におけるコンプライアンスの整備状況−独占禁止法を中心として−」を取りまとめ,公表を行った。
(注)全国的に事業を展開しているゼネコン,地域を基盤として事業を行っているゼネコン等のうち2つ以上の都道府県に営業所を設置している許可業者(大臣許可業者)

(2)調査結果の概要及び考え方

ア コンプライアンスの整備及び組織体制状況等
 コンプライアンス・マニュアルの策定,コンプライアンス担当部署等の設置等法令遵守に係る体制の整備は,資本金額別(50億円以上,5億円以上50億円未満,5億円未満)にみた場合,規模が小さくなるにつれて整備されている割合が低下していた。
 資本金5億円未満の規模が小さい企業については,コンプライアンス体制の整備に負担感があると考えられるが,マニュアルの策定,コンプライアンス担当者の設置等対応が可能と考えられる事項は,資本金規模あるいは従業員数等に応じて,対応していく必要がある。規模が大きい企業については,少なくともマニュアルの策定等法令遵守に係る体制の整備は100%実施されることが強く望まれる。
イ 独占禁止法関係のコンプライアンスの取組
 建設業界では入札談合事件が頻発しているにもかかわらず,全般的に危機意識が低い。独占禁止法に関する法令遵守の研修や社内監査の実施についても,全体として不十分である。
 たとえ,自社内で研修を実施することが困難であっても,様々な団体が実施している研修を活用し,従業員に研修を受講させることが望まれる。また,独占禁止法の法令遵守を達成するためには,社内監査でチェックすることが極めて重要である。
ウ 独占禁止法関係のコンプライアンスの実効性確保
 日ごろから経営トップがコンプライアンスの重視を呼びかけている割合は規模が大きくなるにつれて上昇する傾向にあるが,規模の大きい企業においても,その割合は8割にとどまっている。また,法令違反が発見された場合の処理をトップ自らが判断している割合は,逆に規模が小さくなるにつれて上昇する傾向にある。
 最近の建設業における入札談合事件の頻発状況を踏まえると,経営トップの問題意識は不十分と考えられるが,経営トップ自ら日ごろからコンプライアンスの重視を呼びかけ,従業員に徹底する必要がある。また,規模の大きい企業においては,法令違反が発見された場合の処理をトップ自らが判断するよう更なる取組が期待される。
エ 独占禁止法改正に伴うコンプライアンスの取組の見直し
 課徴金減免制度を利用することを考えている企業の割合は,資本金5億円未満では10%未満,資本金5億円以上で22%を超える。資本金50億円以上では22%であり,平成17年度に東証一部上場企業に対して実施した同様の調査の18%と比べ,割合は幾分高くなったものの,課徴金減免制度を適用したことが公表されているにもかかわらず,それほど高くなっていない。
 課徴金減免制度の導入が企業コンプライアンスの向上に「役に立つ」と考える企業の割合は,規模が小さくなるにつれて低下し,資本金50億円以上で53%,資本金5000万円未満で23%にとどまる。
オ 入札談合防止のための取組
 入札談合防止のために有効と考えられる取組として,業界全体の取組や入札制度改革を挙げる企業が多く,入札談合に対して課す措置の強化を挙げる企業は少ない。これに対して,地方公共団体に対する調査(「公共調達における入札・契約制度の実態等に関する調査報告書」(平成18年10月))によると,発注者側は,事業者における企業コンプライアンスの向上,入札談合に対して課す措置の強化を重要と考える発注者が多く,事業者側と発注者側で認識に大きな差が生じている。
 建設業界が業界全体として入札談合の防止のための取組を行っていく場合においては,行政側が積極的にこれを評価し,入札制度改革の動向や独占禁止法の運用状況等の最新の情報を提供するなど,業界全体の取組を支援することが望まれる。
カ 最近の入札制度改革等に対する評価
 入札制度の改善のために必要な改革として,総合評価方式の拡充やダンピング受注に対する規制強化を挙げる企業が多く,一般競争入札の拡大や入札談合に対して課す措置の強化を挙げる企業は少ない。これに対して,地方公共団体等に対する調査によると,発注者側は,一般競争入札の拡大や入札談合に対して課す措置の強化を挙げるところが多く,事業者側と発注者側で認識に大きな差が生じている。
 今後,行政側としては,自らの政策の目的,有効性について事業者側の理解を深めるために更なる努力が必要と考えられる。
キ 総括
 大企業については,独占禁止法違反に対する危機意識が乏しく,社内監査の実施状況等についても不十分な状況が伺え,実質的なコンプライアンスの向上についての取組が今後の大きな課題となっている。
 中小企業については,法令遵守に係る体制の整備及び実質的な取組ともに極めて不十分な状況にある。コンプライアンス・マニュアルの策定,コンプライアンス担当者の設置等比較的負担感の少ない事項については積極的な対応も可能であると考えられるほか,外部研修を活用する等の工夫が求められる。
 また,建設業界においては,入札談合について,個々の企業を超えた問題であるとの意識が強い状況にあるが,業界の取組と個々の企業の取組が一体となってコンプライアンスの向上につながることが期待される。
 さらに,業界全体として入札談合の防止に取り組んでいくこと自体は望ましいことであるが,仮に,責任を業界全体に押し付け,個々の企業のコンプライアンス向上を重視しない考え方が個々の企業にあるとすれば,現状に対する危機意識が不十分ではないかと考えられる。コンプライアンスの主体は,個々の企業であり,何よりも個々の企業が自らのコンプライアンスの実質的な向上を図ることが強く求められている。

第8 教科書の流通実態に関する調査・提言

1 調査の趣旨等
(1)調査の趣旨

 教科書の流通については,教科書発行者から学校までの供給分野において,供給網が固定化していて,競争が行われていないのではないかとみられている。また,教科書発行者等が供給業務の委託先に支払う手数料の水準が,ほとんど固定化されてしまっているほか,様々な取引慣行等も長年にわたって基本的に変わらないことから,時代の変化に即したより効率的な方法にすべきではないかといった指摘がなされている。
 そこで,教科書の供給に係る流通実態について,競争政策上の観点から提言を行うことを目的として調査を実施し,平成19年8月,調査結果を公表した。

(2)調査の対象・方法

 都道府県教育委員会,教科書発行者,流通業者,学校等に対して,アンケート及びヒアリング調査を実施した。

2 教科書の供給に関する制度の概要
(1)教科書需要数の報告と発行の指示

 採択された教科書の数量(需要数)は,教科書の発行に関する臨時措置法(昭和23年法律第132号)(以下「発行法」という。)に基づき,市町村教育委員会,私立学校長等から都道府県教育委員会に報告され,さらに,毎年9月16日までに都道府県教育委員会から文部科学大臣に報告される。
 文部科学大臣は,報告された需要数を基礎として,教科書発行者に発行すべき教科書の種類及び部数を指示する(発行の指示)。発行の指示を受けた教科書発行者は,教科書を各学校に供給するまで,発行の義務を負うこととされている。この発行の義務の中には,新学期の開始に間に合うよう,また,転学の際に転学先への児童・生徒の登校までに間に合うよう各学校に教科書を供給すること(以下「完全供給」という。)が含まれることから,教科書発行者は,教科書を発送した後で発生する各学校の需要数の変動に対応するための業務(以下「過不足調整等」という。)が必要となるところ,文部科学大臣からの発行の指示にはこのような変動に対応するための予備冊数が含まれる。

(2)学校からの納入指示

 各学校は,文部省初等中等教育局長通知(昭和39年)に基づき,教科書発行者に対して,学年・科目ごとの冊数,納入期日を指示する納入指示書を出す。

(3)教科書の無償給与

 文部科学大臣は,義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律(昭和37年法律第60号)及び義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律(昭和38年法律第182号)(以下「無償措置法」という。)に基づき,採択された義務教育用教科書(国・公・私立の義務教育諸学校の使用する全教科の教科書)について,教科書発行者から購入し,児童・生徒に無償給与する。

(4)教科書の供給手数料

 文部科学省の義務教育用教科書購入予算のうち,特約供給所及び取次供給所(後記3参照)が各学校へ教科書を供給するための費用(供給手数料)として,平成19年度は当該予算の14.4%に当たる約57億円が予算積算上の数字として計上されており,このうち,4%が特約供給所,残りが取次供給所分である。供給手数料については,昭和38年度から昭和52年度まで,12%ないし15%とされていたところ,昭和53年度以降,へき地・離島への供給により特約供給所の経営が圧迫されていることを理由に「特別供給費」として,特約供給所分の供給手数料が引き上げられたが,交通機関の発達等を理由に,平成18年度に「特別供給費」は廃止された(第7表参照)。

第7表 無償給与教科書購入予算上の供給手数料率の推移
第7表 無償給与教科書購入予算上の供給手数料率の推移
(注)1 特別供給費0.1%を含む。
(注)2 特別供給費0.2%を含む。

3 教科書供給に関する流通構造
(1)市場規模

 平成19年度における無償給与分の教科書の市場規模は,約395億円である。また,平成19年度における需要数は,小学校用7,214万冊,中学校用3,584万冊である。

(2)教科書供給ルートの概要

 教科書発行者は,自らが直接各学校へ教科書を供給することは事実上不可能であるため,実際は,供給業務を都道府県単位で存在する特約供給所に委託している。また,自ら荷造発送を行う設備を有していない教科書発行者は,自社の教科書印刷所や倉庫等からの発送も含めた供給業務を大取次に委託している。この場合,大取次は,自らが直接各学校へ教科書を供給することはせず,供給業務を特約供給所に再委託している。特約供給所は,学校までの供給を,学校に近接する形で多数存在している取次供給所に委託している(第1図参照)。

第1図 教科書発行者から学校までの供給ルート
第1図 教科書発行者から学校までの供給ルート

第8表 教科書供給ルートを担う各主体
第8表 教科書供給ルートを担う各主体

4 教科書供給に関する取引慣行
(1)教科書発行者等の供給業務の委託取引の実態

 教科書発行者又は大取次は,学校までの供給を含む教科書供給業務を特約供給所のみに委託しており,それ以外の物流事業者には委託していない。供給業務の委託先が特約供給所でなければならない理由について,教科書発行者は,アンケート及びヒアリング調査において,過不足調整等に対応して,完全供給の責任を負える者は,特約供給所以外にはないことを挙げている。
 特約供給所は学校までの供給業務を更に取次供給所に委託しているところ,教科書発行者等は,取次供給所に直接供給業務を委託することも行っていない。

(2)教科書発行者による供給に必要な情報の把握

 教科書発行者は,需要数について,文部科学大臣からの発行の指示によって初めて把握するのではなく,あらかじめ特約供給所からの情報提供により把握している実態にある(第2図参照)。

第2図 教科書需要数の報告・連絡
第2図 教科書需要数の報告・連絡

(3) 過不足調整等の実態について

 文部科学大臣は,実際には都道府県教育委員会からの報告だけではなく,教科書発行者から受ける需要数及び予備冊数の報告を踏まえて,発行の指示を行っている。
 各学校においては,転学生による需要数の変動があるところ,転学に伴う学校からの注文から学校への納入まで2週間以上かかる例があったり,教科書の製造部数が限定されているために,注文しても入荷しないことがあるなど,過不足調整等が必ずしも万全に行われているとはいえない。

5 まとめ
(1)教科書供給業務における問題点

 教科書発行者から特約供給所と取次供給所を経て学校に至る教科書供給システムは,教科書発行者が発行法第10条に定める完全供給義務を果たしていく上で一定の役割を果たしてきたと考えられる。
 しかしながら,この教科書供給システムについては,無償給与制度が実施された昭和38年以降,長年にわたって基本的に変わらない方法が採られており,学校も含めた教科書供給業務に携わる各主体から,様々な問題点や不満が指摘されている。
 例えば,転学等に伴う教科書の納入において,(1)学校からの注文から学校への納入まで2週間以上かかることがある,(2)教科書の製造部数が限定され学校からの注文を受けた特約供給所等が教科書発行者に注文しても入荷できない,などの指摘がなされており,これらは,過不足調整等が必ずしも万全に行われているとはいえない実態を示しているものと考えられる。
 また,教科書発行者又は大取次からの教科書供給業務委託ルートが,特約供給所−取次供給所に限定されており,供給業務について教科書発行者又は大取次が特約供給所に対して,また,特約供給所が取次供給所に対して,それぞれ支払う供給手数料の水準(取扱い教科書の総価に対する比率)が,ほとんどすべての取引において,国の無償教科書購入予算上の積算数字(第7表参照)と同率であり,かつ,長期にわたって,固定化されてしまっている。

(2)競争政策上の観点からの提言

 競争政策上の観点からは,学校を含めた教科書供給にかかわる関係方面において,供給ルートの複線化という選択肢も含め,情報化,物流の合理化等,時代の変化に即したより効率的な教科書供給システムの構築に向けて更に検討を深めるべきである。
 例えば,4月の年度始めにおいて,学校が児童・生徒に教科書を大量かつ一斉に給与する場合と転学生に教科書を給与する場合とでは,供給に要する費用や最適な供給方法は異なるものと考えられることから,転学生に教科書を給与する場合には学校がインターネット等を活用して教科書発行者に教科書を直接発注することを検討することや,学校が納入元の取次供給所を自主的に選択できるようにすることなどの検討を進めるべきである。
 また,このような検討を通じて,例えば,特約供給所−取次供給所とそれ以外の物流事業者との競争が行われることになれば,おのずと供給手数料の水準がコストに見合った水準に変更されていくことが期待できると考えられる。