第7章 不公正取引への取組

第1 概説

 独占禁止法は,不公正な取引方法の規制として第19条において事業者が不公正な取引方法を用いることを禁止しているほか,事業者及び事業者団体が不公正な取引方法に該当する事項を内容とする国際的契約を締結すること,事業者団体が事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること,会社及び会社以外の者が不公正な取引方法により株式を取得し又は所有すること,会社が不公正な取引方法により役員の兼任を強制すること,会社が不公正な取引方法により合併すること等の行為を禁止している(第6条,第8条第1項,第10条第1項,第13条第2項,第14条,第15条第1項,第15条の2第1項第2号及び第16条第1項)。不公正な取引方法として規制される行為の具体的な内容は,公正取引委員会が法律の枠内で告示により指定することとされている(第2条第9項,第72条)。不公正な取引方法に関しては,前記規定に違反する事件の処理のほか,不公正な取引方法の指定に関する調査,不公正な取引方法の防止のための指導業務等がある。また,不公正な取引方法に関する事業者からの相談に積極的に応じることにより違反行為の未然防止に努めている。

第2 中小企業を取り巻く取引の公正化への取組について

 公正取引委員会は,従来から,中小事業者等に不当な不利益を与える不当廉売,優越的地位の濫用等の不公正な取引方法等に対し,厳正かつ積極的に対処することとしている。このうち,不当廉売及び優越的地位の濫用に関する最近の取組は次のとおりである。

1 不当廉売に対する取組
(1)不当廉売規制

 企業の効率性によって達成した低価格で商品を提供するのではなく,採算を度外視した低価格によって顧客を獲得することは,正常な競争手段とはいえず,これにより他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある不当廉売は,不公正な取引方法の一つとして禁止されている。

(2)小売業における不当廉売事案の規制

ア 処理方針
 不当廉売事案については,(1)申告のあった事案に対しては,可能な限り迅速に処理することとし(原則2か月以内),(2)大規模な事業者による不当廉売事案又は繰り返し行われている不当廉売事案で,周辺の販売業者に対する影響が大きいと考えられるものについては,周辺の販売業者の事業活動への影響等について個別に調査を行い,問題のみられる事案については厳正に対処することとしている。
イ 規制基準の明確化
 小売業における不当廉売規制の考え方については,昭和59年に「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」を公表しているところであるが,規制改革が進展している中で,独占禁止法違反行為の未然防止を図る観点から,酒類の取引実態を踏まえた不当廉売等の規制についての考え方を平成12年11月及び平成13年4月に,ガソリンの取引実態を踏まえた不当廉売等の規制についての考え方を平成13年12月に,それぞれ公表している。
 また,家庭用電気製品の流通においては,近年,小売市場における家電量販店の成長が目覚しく,メーカーの家電量販店への販売依存度が高まる傾向にある中で,大手の家電量販店間の激しい低価格競争により,地域家電小売店の事業活動に与える影響が深刻化している。こうした状況等を踏まえ,平成18年6月に,家庭用電気製品の流通における不当廉売等への対応についての考え方を公表した。
ウ 処理の状況
(ア) 排除措置命令
 平成19年度においては,石油製品小売業者2社が,普通揮発油を,仕入価格を下回る価格で継続して販売し,これら2社がそれぞれ運営する給油所の周辺地域に所在する他の石油製品小売業者の事業活動を困難にさせるおそれのある行為を行っていた事実が認められたことから,これら2社に対し,排除措置命令を行った。
(イ) 警告
 平成19年度においては,石油製品小売業者1社が,普通揮発油を,仕入価格を下回る価格で継続して販売し,当該石油製品小売業者が運営する給油所の周辺地域に所在する他の石油製品小売業者の事業活動を困難にさせるおそれを生じさせた疑いのある事実が認められたことから,同社に対し,警告を行った。
(ウ) 注意
 平成19年度においては,迅速処理により,酒類,石油製品,家庭用電気製品等の小売業者に対し,不当廉売につながるおそれがあるとして合計1,679件の注意を行った(第1表)。
第1表 平成19年度における小売業における不当廉売の注意件数
第1表 平成19年度における小売業における不当廉売の注意件数

2 優越的地位の濫用に対する取組
(1)優越的地位の濫用規制

 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,取引の相手方に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える行為(優越的地位の濫用)は,自己と競争者間及び相手方とその競争者間の公正な競争を阻害するおそれがあるものであり,不公正な取引方法の一つとして禁止されている。
 平成19年度においては,優越的地位の濫用に対して12件の注意を行った。

(2)大規模小売業者と納入業者との取引の公正化に向けた取組

 公正取引委員会は,大規模小売業者の納入業者に対する優越的地位の濫用を効果的に規制する観点から,平成17年5月13日,「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」(以下「大規模小売業告示」という。)の指定を行い,同年11月1日から施行した。
 平成19年度においても引き続き,事業者団体が開催する説明会に講師を派遣する等して,大規模小売業告示の普及・啓発に努めた。

(3)荷主と物流事業者との取引の公正化に向けた取組

 公正取引委員会は,荷主の物流事業者に対する優越的地位の濫用を効果的に規制する観点から,平成16年3月8日,「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」(以下「物流特殊指定」という。)の指定を行い,同年4月1日から施行した。
 平成19年度においては,引き続き物流特殊指定の遵守状況を監視するとともに,問題が認められる場合には,関係事業者に対し所要の改善措置を採るよう求めることを目的として,物流事業者14,126社に対して,同指定の規定に違反する行為を荷主から受けたことがあるか書面調査等を通じて情報提供を求め,物流事業者から同指定上問題となるおそれのある行為を行っているとの指摘があった荷主1事業者に対して,同指定の違反につながるおそれのある行為について指摘するとともに,その是正を要請した。
 さらに「年度末に向けた中小企業対策について」(平成20年2月20日年度末に向けた中小企業対策に関する関係閣僚による会合申合せ)に基づき,運賃等の料金改定交渉をめぐる不当行為を含め,荷主による物流特殊指定違反行為及び物流分野における下請法違反行為に対する監視を強化するため,同日,物流事業分野における荷主と元請間の取引及び下請取引における不当行為に対する調査を専門に行う「物流調査タスクフォース」を設置するとともに,物流特殊指定違反の疑いのある情報の提供を求めて特別の調査を行うこととし,同年3月28日,物流事業者28,530社に対して調査票を発送した。

第3 建設業の下請取引における不公正な取引方法の規制

 建設業の下請取引において,元請負人等が下請負人に対し,請負代金の支払遅延,不当に低い請負代金等の不公正な取引方法を用いていると認められるときは,建設業法第42条又は第42条の2の規定に基づき,国土交通大臣,都道府県知事又は中小企業庁長官が公正取引委員会に対し,独占禁止法の規定に従い適当な措置を採ることを求めることができることとなっている。