第9章 下請法に関する業務

第1 概説

 下請法は,経済的に優越した地位にある親事業者の下請代金支払遅延等の行為を迅速かつ効果的に規制することにより,下請取引の公正化を図るとともに下請事業者の利益を保護する目的で,独占禁止法の不公正な取引方法の規制の補完法として昭和31年に制定された。
 下請法においては,親事業者が下請事業者に対し物品の製造・修理,プログラム等の情報成果物の作成及び役務の提供を委託する場合,親事業者に下請事業者への発注書面の交付(第3条)並びに下請取引に関する書類の作成及びその2年間の保存(第5条)を義務付けているほか,親事業者の禁止事項として,(1)受領拒否(第4条第1項第1号),(2)下請代金の支払遅延(同項第2号),(3)下請代金の減額(同項第3号),(4)返品(同項第4号),(5)買いたたき(同項第5号),(6)物の購入強制・役務の利用強制(同項第6号),(7)報復措置(同項第7号),(8)有償支給原材料等の対価の早期決済(同条第2項第1号),(9)割引困難な手形の交付(同項第2号),(10)不当な経済上の利益の提供要請(同項第3号),(11)不当な給付内容の変更・不当なやり直し(同項第4号)を定めており,これらの行為が行われた場合には,公正取引委員会は,その親事業者に対し,当該行為を取りやめ,下請事業者が被った不利益の原状回復措置等を講じるよう勧告する旨を定めている(第7条)。

第2 違反事件の処理

 下請取引の性格上,下請事業者からの下請法違反被疑事実についての申告が期待できないため,公正取引委員会は,中小企業庁の協力を得て,親事業者及びこれらと取引している下請事業者を対象として定期的に書面調査を実施するほか,特定の業種・事業者について特別調査を実施することにより,違反行為の発見に努めている(第1表参照)。
 これらの調査の結果,違反行為が認められた親事業者に対しては,その行為を取りやめさせるほか,下請事業者が被った不利益の原状回復措置等を講じさせている(第2表,附属資料6−1表及び6−2表参照)。

1 書面調査

 平成19年度における書面調査は,資本金1千万円超の親事業者30,268社及びその下請事業者168,108名を対象に書面調査を実施した。このうち,情報成果物作成委託及び役務提供委託(以下「役務委託等」という。)に係る調査対象は,親事業者11,780社及びその下請事業者43,031名であった(第1表参照)。

第1表 書面調査の実施状況
第1表 書面調査の実施状況
(注)「製造委託等」とは製造委託及び修理委託をいう。以下同じ。

2 違反被疑事件の新規着手件数及び処理件数
(1)新規着手件数

 平成19年度において,新規に着手した下請法違反被疑事件は3,110件である。このうち,書面調査により職権探知したものは2,964件であり,下請事業者からの申告によるものは145件である(第2表参照)。

2 違反被疑事件の新規着手件数及び処理件数
(2)処理件数

 平成19年度において,公正取引委員会は,3,060件の下請法違反被疑事件を処理し,このうち,2,753件について違反行為又は違反のおそれのある行為(以下総称して「違反行為等」という。)があると認め,13件について同法第7条の規定に基づき勧告を行い,いずれも公表し,2,740件について警告の措置を採るとともに,これら親事業者に対しては,違反行為等の改善及び再発防止のために,社内研修,監査等により社内体制を整備するよう指導した(第2表参照)。

第2表 下請法違反被疑事件の処理状況
第2表 下請法違反被疑事件の処理状況

3 違反行為類型別件数

 平成19年度において勧告又は警告の措置が採られた違反行為等を行為類型別にみると,手続規定違反(第3条又は第5条違反)が3,006件(違反行為類型別件数の延べ合計の71.9%)である。このうち,発注時に下請代金の額,支払方法等を記載した書面を交付していない,又は交付していても記載すべき事項が不備のもの(第3条違反)が2,453件,下請取引に関する書類を一定期間保存していないもの(第5条違反)が553件である。また,実体規定違反(第4条違反)は,1,175件(違反行為等類型別件数の延べ合計の28.1%)となっており,このうち,下請代金の支払遅延(第4条第1項第2号違反)が701件(実体規定違反件数の合計の59.7%),手形期間が120日(繊維業の場合は90日)を超える長期手形等の割引困難なおそれのある手形の交付(同条第2項第2号違反)が147件(実体規定違反件数の合計の12.5%),下請代金の減額(同条第1項第3号違反)が112件(実体規定違反件数の合計の9.5%)となっている(第3表,附属資料6−3表参照)。
 なお,役務委託等における違反行為等の特徴として,支払遅延の割合が多くなっている。支払遅延の内容をみると,支払期日が下請法に定める期間(受領日から60日)を超えて設定されているような違反行為等が多くみられた。

第3表 下請法違反行為類型別件数
第3表 下請法違反行為類型別件数

 平成19年度中に,下請代金の支払遅延事件においては親事業者から総額7244万円の遅延利息が下請事業者に支払われており(第4表参照),下請代金の減額事件においては親事業者から総額10億8804万円が下請事業者に返還されている(第5表参照)。

第4表 下請代金の支払遅延事件の遅延利息の支払状況
第4表 下請代金の支払遅延事件の遅延利息の支払状況
(注)1万円未満切捨て

第5表 下請代金の減額事件の減額分の返還状況
第5表 下請代金の減額事件の減額分の返還状況
(注)1万円未満切捨て

4 勧告又は警告を行った違反事例

 平成19年度に行った勧告及び主な警告の事例は次のとおりである。

(1)勧告を行った事例





5 下請取引の状況

 平成19年度に定期調査を行った親事業者のうち,下請法の対象となる取引(以下「下請取引」という。)を行っている事業者の割合は62.7%(役務委託等サービス業者等に限った場合の比率は56.8%)となっている(第6表参照)。また,業種別の下請取引の比率をみるとガス業,自動車小売業及び輸送用機械器具製造業が高かった(第7表参照)。

第6表 下請取引の状況
第6表 下請取引の状況

第7表 業種別の下請取引の状況(下請取引を行っている親事業者の比率)
第7表 業種別の下請取引の状況(下請取引を行っている親事業者の比率)
 (注)網掛け(オレンジ色)の業種は,役務委託等の業種である。

第3 「成長力底上げ戦略」を踏まえた取組

 平成19年2月,政府の成長戦略の一環として策定された「成長力底上げ戦略」(基本方針)を踏まえ,下請法違反行為に対する厳正な対処に加え,次の取組を実施した。

(1)下請法特別調査

 平成16年4月に施行された下請法改正法に基づき新たに適用対象とされた分野のうち,道路貨物運送に係る役務の提供,放送番組・映像制作に係る情報成果物の作成及び金型の製造に係る各委託取引を重点分野とした調査を実施し,4件の勧告と250件の警告を行った。

(2)下請法違反事件に係るフォローアップ調査

 平成16年度に勧告した4件について,勧告後の親事業者による下請法遵守状況についてフォローアップ調査を実施した結果,いずれも,下請法遵守に向けた取組を行っていることを確認した。

第4 下請法の普及・啓発等

1 下請法違反行為の未然防止及び再発防止の指導

 下請法の運用に当たっては,違反行為を迅速かつ効果的に排除することはもとより,違反行為を未然に防止することも重要である。このような観点から,公正取引委員会は,次のとおり各種の施策を実施し,違反行為の未然防止を図っている。

(1)調査票の見直し

 公正取引委員会では,定期的に親事業者及び下請事業者に対する書面調査を実施することにより,違反被疑行為に係る情報の収集に努めてきているところ,平成19年度書面調査の実施に際し,調査票の見直しを行った。
ア 下請法の普及・啓発及び親事業者による自主的なチェックが行われるよう,親事業者の義務や親事業者のどのような行為が違反となるのかを親事業者向け調査票に具体的に記載する見直しを行った。その結果,親事業者が自社の下請取引に係る行為について,自主的に改める事例がみられた。
イ 親事業者のどのような行為が下請法違反行為となるかを下請事業者向け調査票に具体的に記載する見直しを行い,日常の取引において下請事業者が親事業者の行動をチェックできるようにした。

(2)下請取引適正化推進月間

 毎年11月を「下請取引適正化推進月間」と定め,中小企業庁と共同して,新聞,雑誌等で広報活動を行うほか,全国各地において下請法に関する講習会を開催するなど下請法の普及・啓発に努めている。
 平成19年度は,親事業者の下請取引担当者を対象に47都道府県55会場(うち公正取引委員会主催分27都道府県30会場)において講習会を開催した。

(3)コンテンツ業界向け講習会

 コンテンツ制作に係る下請取引(情報成果物作成委託)は,平成16年の下請法改正法により新たに規制対象に追加された。公正取引委員会は,同分野における更なる下請法の普及・啓発を推進する観点から,「コンテンツ取引に係る下請法講習会」と題し,東京,名古屋及び大阪の3会場において下請法の情報成果物作成委託の説明を中心とした講習会を開催した。

(4)下請法遵守の要請

 原油価格や原材料価格が依然として高水準で推移しているなど,下請事業者をめぐる厳しい情勢の下で,下請取引の適正化を強力に推進することが緊要となっており,特に,金融繁忙期である年末においては,下請事業者の資金繰り等が厳しさを増すことが懸念されることから,下請代金の支払遅延,下請代金の減額,買いたたき,割引困難な手形(長期手形)の交付等の行為が行われることのないよう,平成19年11月27日,親事業者20,140社(製造関係〔資本金1億円以上〕8,462社,役務関係〔資本金5000万円以上〕11,678社)及び関係事業者団体616団体に対し,下請法の遵守の徹底等について,公正取引委員会委員長及び経済産業大臣連名の文書をもって要請した。

(5)下請法違反の疑いのある行為に関する情報提供の要請

 「原油価格の高騰に伴う中小企業,各業種,国民生活等への対策の強化について(基本方針)」(平成19年12月11日原油高騰・下請中小企業に関する緊急対策関係閣僚会議)を踏まえ,下請法違反の疑いのある行為に関する積極的な情報提供を促すべく,平成19年12月11日に日本商工会議所,全国商工会連合会及び全国中小企業団体中央会に対して,公正取引委員会事務総長及び中小企業庁長官連名の文書により要請した。
 また,平成20年3月に下請法の周知と下請法違反の疑いのある情報の提供を促すことを目的とした下請事業者向けパンフレットを約9万部作成し,関係団体等に送付した。

(6)買いたたき等の未然防止

 平成19年2月,政府の成長戦略の一環として策定された「成長力底上げ戦略」(基本方針)を踏まえ,下請取引の適正化を推進するため,平成19年7月に下請法に規定する「買いたたき」に関する事例等を分かりやすく解説した下請法ガイドブックを作成し,中小企業庁と共同して,親事業者8万社及び関係団体48団体に送付した。

(7)広報,相談・指導業務

 事業者等からの下請法に関する相談に応じるとともに,下請法の一層の普及・啓発を図るため,事業者団体等が開催する研修会に講師を派遣するとともに資料の提供等を行った。

2 都道府県との相互協力体制

 下請法をきめ細かく,かつ,的確に運用して全国各地の下請事業者の利益保護を図るためには,地域経済に密着した行政を行っている都道府県との協力体制を採ることが必要であることから,昭和60年4月から下請取引の適正化に関し,都道府県担当者との連絡会議を開催するとともに,必要に応じた情報交換に努めている。
 平成19年度においては,ブロック別都道府県下請取引担当官会議を開催し,情報交換等に努めた。

3 下請取引改善協力委員

 公正取引委員会では,下請法の的確な運用に資するため,昭和40年度以降,当委員会の業務に協力する中小企業の経営者等,各地域の下請取引の実情に明るい民間有識者等に下請取引改善協力委員を委嘱している。平成19年度における下請取引改善協力委員(定員)は153名である。
 平成19年度においては,全国各ブロックにおいて下請取引改善協力委員会議をそれぞれ2回開催し,最近の下請取引の状況等について意見を交換した。