第12章 国際関係業務

第1 独占禁止協力協定

 近年,企業活動のグローバル化の進展に伴い,複数国の競争法に抵触する事案,一国による競争法の執行活動が他国の利益に影響を及ぼし得る事案等が増加するなど,執行活動の国際化及び競争当局間の協力・連携の強化の必要性が高まっている。公正取引委員会は,二国間独占禁止協力協定等を通じ,海外競争当局との協力関係の強化に努めている。

1 日米独占禁止協力協定

 平成11年10月7日に日本国政府と米国政府は「反競争的行為に係る協力に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」に署名した。同協定は,両政府の競争当局間における執行活動に係る通報,協力,調整,執行活動の要請,重要な利益の考慮等を規定している。公正取引委員会は同協定に基づき執行活動等に関する通報を行う等米国競争当局と緊密な協力を行っている。

2 日欧州共同体独占禁止協力協定

 日本国政府は,欧州共同体との間で,平成15年7月10日に「反競争的行為に係る協力に関する日本国政府と欧州共同体との間の協定」に署名し,同協定は同年8月9日に発効した。同協定は,前記日米独占禁止協力協定とほぼ同様の内容となっており,公正取引委員会は,同協定に基づき執行活動等に関する通報を行う等欧州競争当局と緊密な協力を行っている。

3 日加独占禁止協力協定

 日本国政府は,カナダ政府との間で,平成17年9月6日に「反競争的行為に係る協力に関する日本国政府とカナダ政府との間の協定」に署名し,同協定は同年10月6日に発効した。同協定は,前記日米独占禁止協力協定とほぼ同様の内容となっており,公正取引委員会は,同協定に基づきカナダ競争当局と緊密な協力を行っている。

第2 競争当局間協議

 公正取引委員会は,我が国と経済的交流が特に活発な国・地域の競争当局との間で競争政策に関する協議を定期的に行っている。平成19年度以降における協議の開催状況は,次のとおりである。

第3 二国間協議への対応

1 日米間の二国間協議

 日米両国政府は,平成13年6月に新たな経済関係の枠組みである「成長のための日米経済パートナーシップ」の立上げを発表し,競争政策に関しては,同パートナーシップの下の「規制改革及び競争政策イニシアティブ」において議論が行われている。
 平成19年6月6日に「日米間の『規制改革及び競争政策イニシアティブ』に関する日米両国首脳への第6回報告書」が公表され,競争政策に係る事項として,犯則調査権限の積極的な活用,課徴金減免制度の利用の促進,執行活動の公平性の確保,談合対策の強化等が明記された。
 また,前回に引き続き,日米両国政府は,平成19年10月18日にそれぞれ相手国政府に対し要望書を提出した。競争政策の分野において,日本国政府は,反トラスト法の適用除外制度の見直しを求めた。また,米国政府は,カルテル等に対する抑止力の強化,課徴金減免制度の積極的活用,審判手続の信頼性及び透明性の改善,談合対策の強化等を求めた。
 これらの要望に関し,分野横断の作業部会の場において,両国が取組等を説明した。

2 その他の二国間協議

 日EU規制改革対話等その他の二国間協議について,公正取引委員会は,競争政策の観点から,必要に応じ対応している

第4 経済連携協定への取組

 近年における経済のグローバル化の進展と並行して,地域貿易の強化のため自由貿易協定や経済連携協定の締結の動きが活発化し,現在,世界の多くの国がこのような協定に参加している状況にある。特に,東アジア地域においては,経済取引の拡大とともに,経済相互依存関係が急速に深化し,我が国においても,域内における協力の強化が重要な対外政策上の課題となっている。
 競争政策の観点からは,経済連携協定が市場における競争を一層促進するものとなるよう,競争政策の推進を経済連携協定の重要な要素の一つとして積極的に位置付けるとともに,貿易・投資の自由化による競争促進効果が損なわれないようにするために,各国が反競争的行為に適切に対応することが不可欠である。このため,我が国は,各国と以下の協定を締結し,又は締結のための交渉を行っているところである。

1 日・シンガポール経済連携協定

 我が国初の自由貿易協定の要素を含む経済連携協定である「新たな時代における経済上の連携に関する日本国とシンガポール共和国との間の協定」が平成14年1月に署名され,同年11月に発効した。同協定には「競争」の章が設けられ,各国が反競争的行為に対して適当と認める措置を採ること,また,両国が反競争的行為に対する規制の分野において協力することが規定されている。

2 日・メキシコ経済連携協定

 平成16年9月,両国の首脳は「経済上の連携の強化に関する日本国とメキシコ合衆国との間の協定」に署名し,同協定は平成17年4月に発効した。同協定には「競争」の章が設けられ,各国が反競争的行為に対して適当と認める措置を採ること,また,これに関する両国の協力として,執行活動に係る通報,協力,調整,相手側競争当局に対する要請,相手側締約国の重要な利益の考慮等が規定されている。

3 日・マレーシア経済連携協定

 平成17年12月,両国の首脳は「経済上の連携に関する日本国政府とマレーシア政府との間の協定」に署名し,同協定は平成18年7月に発効した。同協定には「反競争的行為の規制」の章が設けられ,各国が反競争的行為に対して適当と認める措置を採ること,また,両国が反競争的行為に対する規制の分野において協力することが規定されている。

4 日・チリ経済連携協定

 平成19年3月,両国の外相は,「戦略的な経済上の連携に関する日本国とチリ共和国との間の協定」に署名し,同協定は同年9月に発効した。同協定には「競争」の章が設けられ,各国が反競争的行為に対して適当と認める措置を採ること,また,両国が反競争的行為に対する規制の分野において協力することが規定されている。

5 日・タイ経済連携協定

 平成19年4月,両国の首脳は,「経済上の連携に関する日本国とタイ王国との間の協定」に署名し,同協定は同年11月に発効した。同協定には「競争」の章が設けられ,各国が反競争的行為を禁止することにより公正かつ自由な競争を促進すること,また,これに関する両国の協力として,執行活動に係る通報,協力,調整等が規定されている。

6 日・フィリピン経済連携協定

 平成18年9月,両国の首脳は,「経済上の連携に関する日本国とフィリピン共和国との間の協定」に署名した。同協定には「競争」の章が設けられ,各国が反競争的行為に対する取組により競争を促進するために適当と認める措置を採ること,また,これに関して両国が協力することが規定されている。

7 日・インドネシア経済連携協定

 平成19年8月,両国の首脳は,「経済上の連携に関する日本国とインドネシア共和国との間の協定」に署名した。同協定には「競争」の章が設けられ,各国が反競争的行為に対する取組により競争を促進すること,また,これに関する両国の協力として,執行活動に係る通報,協力,調整等が規定されている。

8 日・ASEAN包括的経済連携協定

 平成20年4月,「包括的な経済上の連携に関する日本国及び東南アジア諸国連合構成国の間の協定」について,日本及びASEAN構成国の間で署名が完了した。同協定の「経済的協力」の章において,全締約国が競争政策分野における経済的協力に関する活動を検討し,及び実施することが規定されている。

9 日・ベトナム経済連携協定交渉

 日本・ベトナム間では,平成18年2月から同年4月にかけて政府間の共同検討会合を2回開催した後,平成19年1月から日ベトナム経済連携協定の締結交渉が開始され,平成20年3月末までに6回の会合が開催されている。

10 日・インド経済連携協定交渉

 日本・インド間では,平成17年7月から平成18年6月にかけて産官学の共同研究会を4回開催した後,平成19年1月から日インド経済連携協定の締結交渉が開始され,平成20年3月末までに5回の会合が開催されている。

11 日・オーストラリア経済連携協定交渉

 日本・オーストラリア間では,平成17年11月から平成18年9月にかけて政府間の共同研究会を5回開催し,同年12月に「最終報告書」がとりまとめられた後,平成19年4月から日オーストラリア経済連携協定の締結交渉が開始され,平成20年3月末までに4回の会合が開催されている。

12 日・スイス経済連携協定交渉

 日本・スイス間では,平成17年10月から平成18月11月にかけて政府間の共同研究会を5回開催した後,平成19年5月から日スイス経済連携協定の締結交渉が開始され,平成20年3月末までに5回の会合が開催されている。

第5 多国間関係

1 経済協力開発機構(OECD)
(1)競争委員会(COMP:Competition Committee)

ア 競争委員会は,OECDに設けられている各種委員会の一つで,昭和36年12月に設立された制限的商慣行専門家委員会が昭和62年に競争法・政策委員会に改組され,平成13年12月から現在の名称に変更されたものである。我が国は,昭和39年のOECD加盟以来,その活動に参加してきている。競争委員会は,本会合のほか,その下に各種の作業部会を設けて,随時会合を行っている。本会合では,加盟各国の競争政策に関する年次報告が行われているほか,各作業部会の報告書の検討,各加盟国に対する規制改革国別審査等,その時々の重要課題について討議が行われている。平成19年度における会議の開催状況は,次のとおりである。



イ 平成19年6月の第100回本会合においては,米国,ギリシャ,アイルランド,メキシコ及びポーランドが年次報告に基づいて説明を行ったほか,合併審査における動的効率性,競争当局の取組及びリソースの評価に関するラウンドテーブル討議が開催された。
ウ 平成19年10月の第101回本会合においては,競争評価ツールキットについて議論されたほか,単独の取引拒絶,寡占市場におけるカルテル促進行為に関するラウンドテーブル討議が開催された。
 なお,OECD非加盟国であるブラジル,南アフリカ,ロシア,イスラエル,ルーマニア,スロベニア,台湾,リトアニア,インドネシア及びチリが,次回以降の競争委員会にオブザーバーとして参加することとなった。
エ 平成20年2月の第102回本会合においては,平成21年から同22年までの作業計画について議論が行われたほか,競争委員会第100回記念ラウンドテーブル討議が開催された。
オ 競争委員会に属する各作業部会及びグローバルフォーラムの平成19年度における主要な活動は,次のとおりである。
(ア) 第2作業部会では,平成19年6月会合においては,法律専門業における競争制限に関するラウンドテーブル討議が開催されたほか,競争評価ツールキットについて議論された。平成19年10月会合においては,タクシーサービスと競争制限に関するラウンドテーブル討議が開催された。平成20年2月会合においては,土地利用規制の競争効果に関するラウンドテーブル討議が開催されたほか,競争評価ツールキットについて議論された。
(イ) 第3作業部会では,平成19年6月会合においては,事業者に対する支配的地位の濫用に関する効果的なガイダンスの提供方法,公共調達(競争促進における競争当局の役割)に関するラウンドテーブル討議が開催された。平成19年10月会合においては,事業者団体の潜在的な競争促進及び競争制限的側面,複雑な合併審査に関するラウンドテーブル討議が開催された。平成20年2月会合においては,少数株式保有及び役員兼任に関する反トラスト上の問題,裁判官に対して複雑な経済理論をプレゼンテーションするための手法に関するラウンドテーブル討議が開催された。
(ウ) 競争に関するグローバルフォーラムでは,平成20年2月会合において,ウクライナに対するピアレビューが行われたほか,競争促進的改革の推進における消費者の役割,競争政策と消費者政策のインターフェイス,競争政策と消費者政策における経済学,スイッチングコスト(競争障壁と消費者損害)について議論された。

(2)消費者政策委員会(CCP:Committee on Consumer Policy)

ア 消費者政策委員会は,加盟国の消費者行政についての情報交換及び調査・検討のための国際協力の場として,昭和44年に期限付き(昭和47年末まで)で設置することとされた。この期限は,その後,9回の延長決定を経て平成21年末までとなっている。消費者政策委員会は,通例年2回本会合を開催するほか,各種の作業部会等を設けて随時電話会議を開催するなどの活動を行っている。
 平成20年3月末現在,通信における消費者保護及び権利強化に係る作業部会,オンライン個人情報窃盗に係る作業部会,モバイルコマースに係る作業部会,消費者製品安全に係る作業部会,消費者政策のための経済学に係る作業部会及び産業主導の規制に係る作業部会が設置されている。
イ 平成19年4月16日から同月17日にかけて第73回本会合が,平成19年10月22日から同月23日にかけて第74回本会合が,平成20年2月19日から同月20日にかけて第75回本会合が開催され,紛争解決及び救済,消費者政策のための経済学,消費者教育,消費者政策のためのベストプラクティス等について検討が行われた。
ウ 消費者の紛争解決及び救済に関するOECD理事会勧告が,平成19年7月にOECD理事会で採択された。

2 国際競争ネットワーク(ICN:International Competition Network)
(1)ICNの概要について

 ICNは,競争法執行の手続面及び実体面の収れんを促進することを目的として平成13年10月に発足した各国競争当局を中心としたネットワークであり,平成20年3月31日現在,91か国・地域から102の競争当局が参加している。このほか,国際機関,研究者,弁護士等の非政府組織アドバイザー(Non-Governmental Advisors)もICNに参加している。
 ICNは,主要な17の競争当局の代表者で構成された運営委員会(Steering Group)により,その全体活動が管理されており,公正取引委員会委員長は設立以来,運営委員会のメンバーとなっている。また,平成20年3月31日現在,委員長がICNの副議長を務めている(議長は,シェリダン・スコットカナダ競争局長官)。ICNは,この運営委員会の下に,テーマごとに(1)カルテル作業部会,(2)企業結合作業部会,(3)競争政策の実施に関する作業部会及び(4)単独行為作業部会の4つの作業部会並びにICNの組織及び運営等に関する作業部会を設置しており,これら作業部会においては,年度ごとに,必要に応じて電話会議を開催し,質問票の活用及び各国競争当局からの書面提出等を通じて,課題等に対する検討が行われるほか,それぞれのテーマごとにワークショップを開催しており,公正取引委員会もこれらの活動に積極的に取り組んでいる。
 また,これら作業部会の成果を報告し,次年度のワークプランを策定する等のため,年次総会を開催してきている。
 平成19年度における主な会議の開催状況は,次のとおりである。

(2)ICN京都総会の主催

 ICN第7回年次総会が平成20年4月14日〜同月16日にかけて,公正取引委員会の主催により,京都市において開催された。同総会には,世界各国・地域の競争当局のトップレベル及びスタッフレベルの職員のほか,民間の弁護士等,総勢約500名が参加した。公正取引委員会からは,委員長,4名の委員のほか,多数の幹部職員が出席し,このうち,委員長がオープニングリマークス,クロージングリマークス及びICNの成果物の普及・実施に係る副議長業務のプレゼンテーションを行い,また,公正取引委員会顧問が単独行為作業部会全体会合「市場支配力の評価に関するパネル」に,犯則審査部長がカルテル作業部会全体会合「カルテル審査における国際協力に関するパネル」に,それぞれパネリストとして参加した。
 第7回年次総会では,第6回年次総会以降に各作業部会において議論され取りまとめられた成果の報告が行われ,成果物が承認されたほか,主催当局が企画運営し,主催当局の関心事項について議論する特別プログラムとして,「優越的地位の濫用」に関するパネルを当委員会の主催で開催し,日本からは白石忠志東京大学教授がパネリストとして参加した。同パネルでは,各国の優越的地位の濫用に対する多様な法制度が紹介され,参加者間で活発な議論が行われた。

(3)各作業部会の活動状況

 平成19年度における各作業部会の活動状況は,次のとおりである。
ア カルテル作業部会
 カルテル作業部会には,ハードコア・カルテルの定義等基本的な概念について検討を行う一般的枠組みサブグループ(SG1)及び個別の審査手法に関する情報交換を通じてカルテルに対する法執行の効率性を高めることを目的とした審査手法サブグループ(SG2)が設置されている。平成19年度は,SG1において,「カルテル審査に係る国際協力」に関する報告書が,また,SG2において,「反カルテル執行マニュアル」(より良い審査手法を検討する際の参考として利用できるように各加盟当局の審査手法を取りまとめたもの)のうち「カルテル審査の端緒」及び「事案の選別」に関する章が取りまとめられ,第6回年次総会において承認された。
 第6回年次総会以降,SG1においては,「カルテル事案における和解」及び「カルテルに対する制裁金」に関する報告書の作成作業が行われ,これらの報告書は第7回年次総会において承認された。また,SG2においては,新たに「審査戦略」及び「事情聴取」に関する章について検討が進められ,第7回年次総会においては「事情聴取」に関する章が承認された。
 さらに,SG2においては,主として各加盟当局のカルテル審査の実務者が一堂に会し,カルテル審査に関する実務上の問題を議論するため,年1回,カルテルワークショップを開催している。平成19年度は,10月30日から11月1日にかけてサンサルバドル(エルサルバドル)において開催され,主として審査戦略について議論された。
イ 企業結合作業部会
 企業結合作業部会は,各当局における企業結合審査の効率性を高め,企業結合審査に係る手続面及び実体面の収れんを促進し,国際的企業結合の審査に費やされる時間や費用を減らすことを目的として設置された作業部会である。同作業部会では,平成19年度において,届出を要すべき取引の範囲に関する報告書が作成され,第6回年次総会において承認された。また,第6回年次総会以降,企業結合届出基準についての報告書及び企業結合審査に関して推奨される方法の作成作業が行われ,第7回年次総会において,これらが承認された。
 さらに,企業結合作業部会は,平成20年3月18日及び同月19日,企業結合ワークショップをブルノ(チェコ)において開催し,企業結合に関する届出及び審査手続に関して推奨される方法の実施について議論を行った。
ウ 競争政策の実施に関する作業部会
 競争政策の実施に関する作業部会は,開発途上国及び移行経済国におけるキャパシティビルディング並びに競争政策の実施に関する重要な要素を明らかにすることを目的としており,その下に競争当局の効率性を向上させるための施策等について議論を行うサブグループ(SG1)及び技術支援の効率性を向上させるための手法等について議論を行うサブグループ(SG2)が設置されている。平成19年度は,SG1において,各当局の優先事項,人員・予算配分等に関するインタビュー等を実施し,それに基づく報告書を取りまとめた。当該報告書は第7回年次総会に提出され,承認された。また,SG2においては,発展途上の競争当局がより容易に先進国の経験や専門的知識を習得できるようにする観点から,具体的な技術支援の方法論について検討を行うとともに,これらの検討を踏まえて審査担当者への効果的な支援を行うことを目的として,発展途上の競争当局の参加も得た上で,数回にわたり電話会議を実施し,第7回年次総会においてその結果を報告した。
エ 単独行為作業部会
 単独行為作業部会は,事業者による反競争的単独行為に対する規制の在り方等について議論するため,第5回年次総会においてその設立が承認された。同作業部会には,単独行為規制の目的等について検討する規制目的サブグループ及び市場支配力の定義,評価方法等について検討する市場支配力評価サブグループが設置され,平成19年度においては,規制目的に関する報告書及び市場支配力評価に関する報告書が作成された。また,これらのサブグループとともに設置された政府独占企業又は近時民営化された事業者による単独行為について検討する特別のプロジェクトにおいては,政府独占企業による単独行為に関する報告書が作成された。これらの報告書は第6回年次総会に提出され,承認された。
 第6回年次総会以降においては,具体的な行為類型として,略奪的価格設定及び排他条件付取引が取り上げられ,それぞれについて議論が行われた。当該議論に基づいて取りまとめられた略奪的価格設定に関する報告書及び排他条件付取引に関する報告書は,第7回年次総会に提出され,承認された。また,市場支配力の評価及び政府独占に関して推奨される方法が策定され,第7回年次総会において承認された。

3 東アジア競争法・政策カンファレンス及び東アジア競争政策トップ会合

 公正取引委員会は,東アジア地域において競争法の効果的な執行・導入に向けた共通の認識を醸成すること等を目的として,東アジア競争法・政策カンファレンス及び東アジア競争政策トップ会合の開催に主導的な役割を果たしている。

(1)東アジア競争法・政策カンファレンス

 東アジア競争法・政策カンファレンスは,東アジア地域における競争政策に係る意見交換の重要性にかんがみ,競争当局及び競争関連当局に加え,学会,産業界からの出席者を交えて,競争政策に係るプレゼンテーション・質疑応答等を行い,東アジア地域における競争政策の普及・広報に寄与することを主要な目的とするものである。平成19年度においては,第4回会合が,平成19年5月にハノイ(ベトナム)において同国の競争当局である商業省競争管理局等の協力を得て開催された。

(2)東アジア競争政策トップ会合

 東アジア競争政策トップ会合は,東アジア地域における競争当局及び競争関連当局のトップが一堂に会し,その時々の課題や政策動向等について率直な意見・情報交換を行うことにより,東アジア地域における競争当局及び競争関連当局間の協力関係を強化することを目的とするものである。同会合では,競争法・政策の執行への課題,効果的・効率的な技術支援のための協力・調整等のテーマについて,東アジア地域における競争当局及び競争関連当局のトップの間で議論が行われている。平成19年度においては平成19年5月にハノイ(ベトナム)において第3回会合が,また,平成20年4月には京都市において第4回会合が開催された。

4 アジア太平洋経済協力(APEC)
(1)競争分野における取組

 APECでは,APEC域内における競争環境を促進し,貿易・投資の自由化及び円滑化に貢献することを目的として,貿易投資委員会(CTI)の下部組織として競争政策及び規制緩和グループ(CPDG)が平成8年に設置され(平成19年に貿易投資委員会(CTI)から経済委員会(EC)の下部組織に移行),これまで年1回の頻度で会合が開催されている。
 平成16年には,APEC域内における構造改革を推進していくために採択された「構造改革実施のための首脳の課題」(LAISR)において,競争政策が取り組むべき一つの分野として取り上げられており,これを背景として,CPDGに対しては,APEC域内における構造改革を推進するために競争政策及び規制緩和の側面からの貢献が求められるなど,CPDGの役割の重要性は増している。こうした中,平成18年から公正取引委員会がCPDGの議長業務を行うなど,APECにおける競争政策に関する取組に対して積極的な貢献を行っている。

(2)競争政策及び規制緩和グループ(CPDG)会合ほか関連会合

 公正取引委員会は,平成19年6月にキャンベラ(オーストラリア)及び平成20年2月にリマ(ペルー)にて開催された経済委員会会合,経済法制度整備グループ会合等に参加し,日本の競争法・政策の執行について報告を行ったほか,CPDG議長としてAPEC域内の競争政策の取組について報告を行うなど,競争政策の観点から,構造改革及び規制改革の促進等に関する議論に積極的に参加した。

(3)個別行動計画(IAP)及び共同行動計画(CAP)の改定

 APECでは,平成6年に合意されたボゴール目標(先進国・地域エコノミーは2010年までに,途上エコノミーは2020年までに,自由で開かれた貿易と投資を実現する)を実現するための具体的道筋を示す大阪行動指針(平成7年採択)に基づき,APEC参加エコノミーそれぞれの自主的かつ個別的な行動を取りまとめた「個別行動計画」(IAP)及びAPEC参加エコノミーが共同して取り組むべき分野別の行動を取りまとめた「共同行動計画」(CAP)が策定されている。競争政策及び規制緩和分野における「共同行動計画」としては,情報交換及び対話の促進,競争法・政策に対する理解の増進,技術支援及びキャパシティ・ビルディングの実施等が掲げられており,他方,我が国の「個別行動計画」の競争章においては,競争政策の厳正な執行や技術支援の実施等が掲げられている。平成19年度においては,公正取引委員会は,我が国の「個別行動計画」における競争章の改定に大きく関与し,APEC参加エコノミーに対して我が国の競争法・政策に関する最新の情報を提供したほか,CPDGの活動を通して競争政策及び規制緩和分野における共同行動計画の改定に積極的な貢献を行った。

(4)競争政策に関する研修セミナー

 公正取引委員会は,APECの技術協力に関する枠組みを活用して,平成19年8月にシンガポールにおいて,同国政府,国際機関,学会等の協力の下,APEC参加エコノミー等から約50名の参加を得て,競争政策及び規制改革の促進やAPEC参加エコノミー内の構造改革への貢献等を目的とする「競争政策に関するトレーニングコース」と題する研修を実施した。

(5)構造改革における競争政策の役割に関するセミナー

 公正取引委員会は,APECにおける構造改革の取組の一つとして,APEC参加エコノミーの競争政策に関する知見や経験等を共有することにより競争政策の重要性やその効果的な執行について理解を深めるため,平成19年6月27日にケアンズ(オーストラリア)において,APEC参加エコノミーの経済政策担当者等約60名の参加を得て,我が国,オーストラリア及びインドネシアの共催により開催された「構造改革における競争政策の役割に関するセミナー」について,その企画及び立案を行うとともに,職員を講師として派遣した。

5 国連貿易開発会議(UNCTAD)

(1) 昭和55年,UNCTAD主催による制限的商慣行国連会議において,「制限的商慣行規制のための多国間の合意による一連の衡平な原則と規則」(以下「原則と規則」という。)が採択された。この原則と規則は,同年の第35回国連総会における国連加盟国に対する勧告として採択された。
 原則と規則は,国際貿易,特に開発途上国の国際貿易と経済発展に悪影響を及ぼす制限的商慣行を特定して規制することにより,国際貿易と経済発展に資することを目的としている。
(2) 原則と規則の規定に関する制限的商慣行についての調査研究,情報収集等を行うために,昭和56年,「制限的商慣行政府間専門家会合」が設置され,平成8年のUNCTAD第9回総会において「競争法・政策専門家会合」と名称変更された後,平成9年12月の国連総会の決議により,「競争法・政策に関する政府間専門家会合」と名称が再変更された。
 平成19年度においては,平成19年7月17日から同月19日にかけてジュネーブ(スイス)において前記専門家会合が開催され,競争政策と知的財産権行使のインターフェイス,能力開発と技術協力,エネルギー分野における国内・国際競争,競争当局の自己評価基準等について議論された。

6 消費者保護及び執行のための国際ネットワーク(ICPEN:International Consumer Protection and Enforcement Network)

 ICPENは,国境を越える違法な対消費者取引行為を効果的に規制するため,平成4年にOECD加盟国を中心とした消費者保護機関等により結成された非公式・自主的な会合である。結成当初は,IMSN(International Marketing Supervision Network)と称していたが,平成15年3月にICPENへと改称した。
 ICPEN会合では,国境を越えて行われる消費者取引における詐欺的行為・欺まん的行為について,参加当局間の協力の結果,措置を採ることのできた成功例の報告や対処方法についての議論等が行われている。
 また,ICPENでは,インターネット上の広告について参加当局共通のテーマを選定し,法令違反の有無について一斉に点検する“International Internet Sweep Days”(国際インターネット浄化キャンペーン)を実施している。
 公正取引委員会は,ICPENの前身であるIMSNに平成13年4月会合から参加している。
 平成19年度においては,4月会合がクラクフ(ポーランド)において,11月会合がサンティアゴ(チリ)において開催され,公正取引委員会もこれに出席した。

第6 海外の競争当局等に対する技術支援

 近年,東アジア等の開発途上国や移行経済国において,競争法・政策の重要性が認識されてきていることに伴って,既存の競争法制を強化する動きや,新たに競争法制を導入しようとする動き等が活発化しており,これらの国に対する技術支援の必要性が高まってきている。公正取引委員会では,主として独立行政法人国際協力機構(JICA)を通じて,競争法・政策分野における技術支援活動を実施してきている。平成14年9月に当委員会が公表した独占禁止法・国際問題研究会報告書でも提言されたように,特に東アジアとの経済連携の強化を推進していく必要性が高まりつつある中で,反競争的行為により貿易・投資の自由化及び円滑化から得られる利益が損なわれることのないように,我が国としては,アジアの競争法・政策の先進国として,東アジア地域の競争当局等が反競争的行為に適切に対処することができるように,今後とも競争政策の執行に係る能力向上を目的とした技術支援を行っていくこととしている。
 公正取引委員会による開発途上国等に対する具体的な技術支援の概要は次のとおりである。

1 中国に対する技術支援

 中国政府に対しては,中国における独占禁止法起草作業を背景として,平成17年度から,JICAによる経済法等の立法支援に係る3か年計画である「中国経済法企業法整備支援プロジェクト」が実施されてきた。同プロジェクトは,競争法制度整備に関する更なる支援を目的として1年間の延長がなされ,平成20年度までの予定で実施されることとなっている。JICAによる協力の下,公正取引委員会が平成10年度より毎年度実施している「独占禁止法と競争政策に関する技術研修」も同プロジェクトの一環として実施されており,平成19年度においては,平成19年10月10日から同年11月2日までの期間において全国人民代表大会の各種委員会,商務部,国家工商行政管理総局等の職員計10名を対象として実施された。また,当該支援プロジェクトとして,公正取引委員会から専門家を派遣し,北京において,平成19年12月,JICA及びJETROによる協力の下,独占禁止法セミナーを開催したほか,同年6月及び平成20年3月,競争政策に係る具体的テーマを基にした独占禁止法研究会を開催した。

2 インドネシアに対する技術支援

 インドネシアに対しては,平成15年度から平成19年度までの期間において,競争法・政策の執行能力の強化を目的として,JICAによる協力の下,競争法執行機関である事業競争監視委員会の職員を我が国に招へいし,約3週間にわたる競争法・政策研修を計5回実施している。平成19年度については,当該研修を平成20年3月3日から同月21日までの期間で実施した。

3 フィリピンに対する技術支援

 フィリピンに対しては,フィリピンにおける競争政策の積極的運用や将来的な包括的競争法導入に対する支援を目的として,JICAによる協力の下,マニラ(フィリピン)において,平成19年11月にフィリピン競争関連当局の一般職員を対象とした約2週間にわたる競争法・政策研修を実施したほか,平成20年1月にフィリピン競争関連当局の中上級職員を対象とした約1週間にわたる競争政策セミナーを実施した。

4 その他開発途上国に対する技術支援

 公正取引委員会は,JICAによる協力の下,競争法を導入しようとする国や既存の競争法の運用強化を図ろうとする国の競争当局等の職員を招へいし,競争法・政策研修を平成6年度から平成19年度までに計13回実施した。平成19年度については,開発途上国10か国から15名の参加を得て,平成19年8月23日から同年9月20日までの期間で実施した。

5 専門家派遣

 公正取引委員会は,JICAを通じて,インドネシアの競争法運用機関である事業競争監視委員会に当委員会の職員をJICA長期派遣専門家として平成13年4月から平成19年7月まで派遣し,現地における技術指導を実施した。

6 その他の技術支援

 公正取引委員会は,開発途上国に対する技術支援として,外国政府又は国際機関等が主に東アジアで実施する競争政策に関するセミナーに対して,当委員会の職員や学識経験者を積極的に派遣している。

第7 海外調査

 我が国の競争政策の企画・運営に資するため,諸外国の競争政策の動向,競争法制及びその運用状況についての情報収集や調査研究を行っている。
 平成19年度においては,米国,EU,その他主要なOECD加盟諸国を中心として,競争当局の政策動向,競争法関係の立法活動等について調査を行い,その内容の分析とウェブサイト等による紹介に努めた。

第8 海外への情報発信

 公正取引委員会の国際的なプレゼンスを向上させ,我が国競争政策の状況を広く海外に周知するため,英文パンフレットの配布及び英文ウェブサイトの充実や海外の弁護士会が主催するセミナー等への積極的な講師派遣を実施している。
 平成19年度においては,各種プレスリリース等を英文ホームページに随時掲載した。また,平成19年4月に米国・ワシントンD.C.で開催されたABA(全米弁護士会)反トラスト部会春季会合の開催に際して行われた単独行為規制に関する円卓討議において,公正取引委員会委員長がパネリストを務めたほか,同年10月にシンガポールで開催されたIBA(国際法曹協会)年次総会において公正取引委員会委員が,また,同年12月に中国・北京で行われた中国国家工商行政管理総局主催の独占禁止法の執行に関する国際シンポジウムにおいて公正取引委員会委員長が,それぞれ講演を行うなど,我が国競争政策の積極的な周知活動に努めた。