第1部 総論

第1 概説

公正取引委員会は,平成20年度において,次のような施策に重点を置いて競争政策の運営に積極的に取り組んだ。

1 独占禁止法改正

独占禁止法の一部を改正する法律(平成21年法律第51号。以下「平成21年独占禁止法改正法」という。)は,平成21年6月3日に成立し,同月10日に公布された。改正の主な内容は,次のとおりである。平成21年独占禁止法改正法の施行日は,一部の項目については同年7月10日(公布の日から起算して1月を経過した日),その他の項目については公布の日から起算して1年を超えない範囲内で政令で定める日である。

<平成21年独占禁止法改正法の主な内容>
○ 排除型私的独占及び一定の不公正な取引方法に対する課徴金制度の導入
○ 不当な取引制限において主導的役割を果たした事業者に対して課徴金を割り増す制度の導入
○ 課徴金減免制度におけるグループ会社の共同申請制度の導入
○ 不当な取引制限等の罪に対する懲役刑の引上げ
○ 企業結合に係る届出制度の見直し

2 迅速かつ実効性のある法運用

(1) 独占禁止法違反行為の積極的排除

ア 平成20年度においては,迅速かつ実効性のある法運用を行うという基本方針の下,特に,価格カルテル及び入札談合並びに中小事業者に不当な不利益を与える優越的地位の濫用などの不公正な取引方法に対し厳正かつ積極的に対応した。この結果,17事件において,排除措置命令等の法的措置を採ったほか,総額270億3642万円の課徴金の納付を命じた。

なお,主な法的措置事件は次のとおりである。

イ 公正取引委員会は,国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な事案等については,積極的に刑事処分を求めて告発を行うこととしている。平成20年度においては,溶融亜鉛めっき鋼板の価格カルテル事件において,製造販売業者3社及び個人6名を検事総長に告発した。

ウ なお,平成20年度においては,引き続き適正手続に配意しつつ,110件の審判事件について慎重かつ効率的な審理を行った。この結果,58件について審決を行った。

(2) 企業結合規制の的確な運用

独占禁止法は,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる会社の合併,株式保有等を禁止している。事業活動のグローバル化等の経済環境の急速な変化に伴い,大企業の合併等大型の企業結合事案が増加傾向にある状況において,公正取引委員会は,我が国における競争的な市場構造が確保されるよう,企業結合規制の的確な運用を行っている。平成20年度においては,次のような企業結合事案について,的確に処理するとともに,その内容を公表するなどにより,企業結合審査の透明性・予見可能性の一層の向上を図った。

<平成20年度における主な企業結合事案>
○ キリングループと協和発酵グループの資本提携
○ ビーエイチピー・ビリトン・リミテッドらによるリオ・ティント・リミテッドらの株式取得

3 経済のグローバル化への対応

近年,企業活動のグローバル化の進展に伴い,複数国の競争法に抵触する事案,一国による競争法の執行活動が他国の利益に影響を及ぼし得る事案等が増加するなど,執行活動の国際化及び競争当局間の協力・連携の強化の必要性が高まっている。このような状況を踏まえ,公正取引委員会は,平成20年4月に,京都市においてICN(国際競争ネットワーク)第7回年次総会を主催するなどICNの活動に積極的に参加したほか,OECD(経済協力開発機構),APEC(アジア太平洋経済協力),UNCTAD(国連貿易開発会議)等といった多国間における検討にも積極的に参加し,東アジア競争法・政策カンファレンス及び東アジア競争政策トップ会合の開催において主導的な役割を果たしている。

また,公正取引委員会は,二国間独占禁止協力協定等を通じ,海外競争当局との協力関係の強化に努めているほか,経済連携協定の重要な要素の一つとして競争政策を積極的に位置付けるとの方針の下に,関係省庁等との連携を図りつつ,協定締結交渉に参加している。さらに,開発途上国や移行経済国においては,市場経済における競争法・競争政策の重要性が認識されるに従って,既存の競争法制を強化する動きや,新たに競争法制を導入する動きが活発になっている。このため,公正取引委員会は,これら諸国の競争当局等に対し,研修の実施等による技術支援を行っている。

このほか,公正取引委員会の国際的なプレゼンスを向上させ,我が国の競争政策の状況を広く海外に周知するため,英文パンフレットの配布,英文ウェブサイトの充実及び海外の弁護士会が主催するセミナー等への積極的な講師派遣を実施している。

平成20年度における主な国際的な取組は,次のとおりである。

<平成20年度における主な国際的な取組>
○ ICN第7回年次総会を主催 (平成20年4月)
○ 東アジア競争政策トップ会合(平成20年4月)
○ 競争当局間協議(EU,韓国,カナダ,米国,ドイツ)
○ 経済連携協定締結交渉への参加(ベトナム,スイス,オーストラリア等)
○ 競争政策に関する研修の実施(中国,ベトナム等)

4 競争環境の積極的創造に向けた調査・提言

(1) 公益事業分野における規制改革に関する調査等

公正取引委員会は,公益事業分野等における公正かつ自由な競争を確保するため,独占禁止法上問題となる参入阻害行為等を明らかにしたガイドラインを策定するとともに,規制改革に関連する調査・提言を行っている。平成20年度においては,次のようなガイドラインの策定,調査等を行った。

<公益事業分野における規制改革に関する調査等>
○ 「都市ガス事業分野の取引実態調査について」(平成20年6月公表)
○ 「適正な電力取引についての指針」の改定(平成21年3月公表)

(2) 企業コンプライアンス向上のための施策の推進

経済取引における公正かつ自由な競争を一層促進させるためには,独占禁止法の厳正な執行とともに,企業におけるコンプライアンスの向上が重要であり,これに関連した企業の取組を支援していく必要があると考えられる。こうした考えに基づき,公正取引委員会は,平成20年5月に「外資系企業等におけるコンプライアンスの整備状況及び弁護士の立場からみた企業コンプライアンスに関する調査-独占禁止法を中心として-」の報告書を,平成21年3月に「企業におけるコンプライアンス体制の整備状況に関する調査-独占禁止法改正法施行(平成18年1月)以降の状況-」の報告書を公表した。

5 ルールある競争社会の推進に向けた取組

(1) 下請法違反行為の積極的排除

平成20年度においては,現下の厳しい経済情勢に対応するため,「安心実現のための緊急総合対策」(平成20年8月),「生活対策」(平成20年10月)等が取りまとめられたところ,これらの対策には,中小・小規模企業等に不当な不利益を与える違反行為に対する厳正な対処等が繰り返し盛り込まれた。このような情勢を踏まえ,公正取引委員会は,中小・小規模企業等の自主的な事業活動が阻害されることのないよう,下請法の厳正かつ迅速な運用により,下請取引の公正化及び下請事業者の利益の保護に努めている。

平成20年度においては,15件の事件において勧告を行ったほか,2,949件の警告の措置を採り,このうち,下請代金の減額事件においては総額29億5133万円の減額分の返還を指導するなど,下請取引の公正化及び下請事業者の利益の保護に積極的に取り組んだ。主な勧告事件は,次のとおりである。

<平成20年度における主な勧告事件>
○ 道路貨物運送業者(親事業者)による下請事業者に対する購入強制事件
○ 輸送用機械器具製造業者(親事業者)による下請事業者に対する下請代金減額事件
○ 家具・装備品製造業者(親事業者)による下請事業者に対する下請代金減額事件

(2) 市場参加者としての消費者に対する適切な情報提供の推進

ア 景品表示法違反行為の積極的排除

公正取引委員会は,消費者向けの商品・サービスの種類や販売方法が多様化する中で,消費者の適正な商品選択が妨げられることのないよう,景品表示法を厳正・迅速に運用することにより,不当表示の排除に努めた。

平成20年度においては,52件の事件において排除命令を行ったほか,9件の警告を行うなど,積極的に事件処理に取り組んだ。主な排除命令事件は,次のとおりである。

<平成20年度における主な排除命令事件>
○ コピー用紙の古紙配合率に係る不当表示
○ ミネラルウォーターの内容に係る不当表示
○ IP電話の料金に係る不当表示
○ 口臭,体臭及び便臭を消す効果を標ぼうする商品に係る不当表示
○ ワイシャツの形態安定加工に係る不当表示

イ 消費者取引の適正化

(ア) 規制改革の進展に伴い,消費者への適切な情報提供を推進し,消費者の適正な商品選択を確保していくことが重要な課題となっている。このため,公正取引委員会は,景品表示法を厳正に運用し,不当表示等の排除に努めるとともに,消費者の関心の高い商品・サービス分野における表示について実態調査を行い,その結果を踏まえて当該分野においてみられる表示について景品表示法上の考え方を明らかにする等により,消費者取引の適正化に努めた。

(イ) 近年,商品・役務の内容の多様化を背景として消費者被害が急増しているところ,消費者被害の発生又は拡大を防止するため,消費者契約法等の一部を改正する法律案が提出され,平成20年4月25日に成立した。

この改正内容のうち,公正取引委員会関連部分は,景品表示法への消費者団体訴訟制度の導入等に係るものである。具体的には,景品表示法を一部改正し,適格消費者団体は,事業者が,不特定かつ多数の一般消費者に対して,役務の内容について著しく優良であると誤認される表示や,商品又は役務の取引条件について著しく有利であると誤認される表示をする行為を現に行い又は行うおそれがあるときは,当該行為の差止請求をすることができることとすること等が定められた。

前記公正取引委員会関連部分は,平成21年4月1日から施行された。

(ウ) なお,政府全体として,「安全安心な市場」,「良質な市場」の実現という目標の実現に向けて積極的に取り組むため,平成20年6月27日,消費者行政推進基本計画において消費者行政を一元化する新組織を創設すること,これに伴い,景品表示法については所要の見直しを行った上で消費者庁に移管することが閣議決定された。これに基づき,消費者庁設置法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案(景品表示法改正規定を含む。),消費者庁設置法案及び消費者安全法案(以下これらを「消費者庁関連三法案」という。)が平成20年9月29日に第170回臨時国会に提出された。その後,消費者庁関連三法案は,第171回通常国会において,衆議院で修正がなされた後,平成21年4月17日に衆議院において,同年5月29日に参議院において,それぞれ可決されて成立した。

こうして成立した消費者庁及び消費者委員会設置法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律(平成21年法律第49号。景品表示法改正規定を含む。),消費者庁及び消費者委員会設置法(平成21年法律第48号)及び消費者安全法(平成21年法律第50号。)(以下これらを「消費者庁関連三法」という。)が平成21年9月1日に施行されたことに伴い,景品表示法は,消費者庁に移管された。

(3) 不当廉売,優越的地位の濫用等不公正取引に対する取組

ア 不当廉売に対する取組

公正取引委員会は,小売業における不当廉売について,迅速に処理を行うとともに,大規模な事業者による不当廉売事案又は繰り返し行われている不当廉売事案であって,周辺の販売業者に対する影響が大きいと考えられるものについては,周辺の販売業者の事業活動への影響等について個別に調査を行い,問題のみられる事案については,法的措置を採るなど厳正に対処している。

平成20年度においては,酒類,石油製品,家庭用電気製品等の小売業者及び卸売業者に対し,不当廉売につながるおそれがあるとして3,654件(酒類795件,石油製品430件,家電2,364件,その他65件)の注意を行った。

イ 優越的地位の濫用に対する取組

(ア) 公正取引委員会は,従来から,独占禁止法上の不公正な取引方法に該当する優越的地位の濫用が行われないよう監視を行うとともに,独占禁止法に違反する行為については厳正に対処することとしている。平成20年度においては,4件の事件において排除措置命令を行ったほか,1件の警告を行った。

(イ) 公正取引委員会は,荷主による「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」(以下「物流特殊指定」という。)の規定に該当する独占禁止法違反行為等に対する監視を強化するため,平成20年2月に荷主と物流事業者の取引における不当行為に対する調査を専門に行う「物流調査タスクフォース」を設置するとともに,物流事業者28,530社に対する書面調査及び当該書面調査により得られた情報等に基づく調査を実施した。

この結果,平成20年度において,独占禁止法(物流特殊指定)違反につながるおそれがある行為を行っていた荷主25社に注意を行った。また,平成21年4月15日,独占禁止法(物流特殊指定)に違反するおそれがある行為を行っていた荷主2社に警告を行った。

第2 業務の大要

業務別にみた平成20年度の業務の大要は,次のとおりである。

1 独占禁止法制等の動き

(1) 独占禁止法等の改正

ア 独占禁止法の一部を改正する法律案が平成21年2月27日,第171回通常国会に提出された。同法律案は,同年4月27日に衆議院において,同年6月3日に参議院においてそれぞれ可決されて成立し,同月10日に公布された。

イ 消費者契約法等の一部を改正する法律案が平成20年3月4日,第169回通常国会に提出された。同法律案は,同年4月15日に衆議院において,同年4月25日に参議院においてそれぞれ可決されて成立し,景品表示法に係る部分が平成21年4月1日から施行された。

ウ 消費者庁関連三法案が平成20年9月29日に第170回臨時国会に提出された。その後,消費者庁関連三法案は,第171回通常国会において,衆議院で修正がなされた後,平成21年4月17日に衆議院において,同年5月29日に参議院において,それぞれ可決されて成立した。消費者庁関連三法は,平成21年6月5日に公布され,同年9月1日から施行された。

(2) 独占禁止法と他の経済法令等の調整

平成20年度においては,特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法案等の経済法令等について,関係行政機関が立案するに当たり,所要の調整を行った。

2 独占禁止法違反被疑事件の審査及び処理

(1) 独占禁止法違反被疑事件として平成20年度に審査を行った事件は142件である。そのうち同年度内に審査を完了したものは123件であった。

(2) 平成20年度においては,17件の法的措置を採った。これを行為類型別にみると,私的独占が1件,価格カルテルが8件,その他のカルテルが1件,入札談合が2件,不公正な取引方法が5件となっている(第1図参照)。また,総額270億3642万円の課徴金の納付を命じた(第2図参照)。

なお,平成20年度において,課徴金減免制度に基づき事業者が自らの違反行為に係る事実の報告等を行った件数は85件であった。

(3) このほか,違反するおそれのある行為に対する警告4件,違反につながるおそれのある行為に対する注意87件(不当廉売事案について迅速処理による注意を行った3,654件を除く。)を行うなど,適切かつ迅速な法運用に努めた。

第1図 法的措置件数等の推移

第2図 課徴金額等の推移

(4) 平成20年度における審判件数は,前年度から引き継いだもの96件,平成20年度中に審判手続を開始したもの14件の合計110件(独占禁止法違反に係るものが22件,課徴金納付命令に係るものが81件,景品表示法違反に係るものが7件)であった(第3図参照)。これらのうち,平成20年度中に58件について審決を行った。58件の審決の内訳は,平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法に基づく審決が47件(審判審決5件,同意審決5件及び課徴金の納付を命ずる審決等37件),平成17年独占禁止法改正法による改正後の独占禁止法に基づく審決が11件(排除措置命令に係る審決3件及び課徴金納付命令に係る審決8件)である。このほか,4件について被審人から審判請求の取下げがなされた。この結果,平成20年度末における審判件数(平成21年度に引き継ぐもの)は54件となった(なお,後記第3章第2の(1)記載の審判審決については,審判手続の中で一部の被審人の手続を分離して審理を行い,審決を行ったため,係属件数は1件であるが,審判審決の件数は2件と計算する。また,同意審決5件については,係属中の審判事件の一部の被審人に対するものであり,残る被審人については審判手続係属中であるため,係属件数に影響しない。)。

第3図 審判件数の推移

3 規制改革・競争政策に関する調査・提言

(1) 規制改革への対応

ア 公正取引委員会は,都市ガス事業を対象として,規制改革の進展に伴う実態の変化等を把握するため,ガス事業者等に対するアンケート調査等を実施し,平成20年6月,報告書「都市ガス事業分野の取引実態調査について」を作成・公表した。

イ 経済産業省に設置された総合資源エネルギー調査会電気事業分科会は,第4次電気事業制度改革の検討結果を取りまとめ,電力市場の競争環境整備を図る観点から提言を行った。これを受けて,公正取引委員会は経済産業省と共同して,「適正な電力取引についての指針」を改定し,平成21年3月31日,これを公表した。

(2) 企業コンプライアンス向上のための施策の推進

経済取引における公正かつ自由な競争を一層促進させるためには,独占禁止法の厳正な執行とともに,企業におけるコンプライアンスの向上が重要であり,これに関連した企業の取組を支援していく必要がある。公正取引委員会は,このような考えに基づき,平成20年5月に「外資系企業等におけるコンプライアンスの整備状況及び弁護士の立場からみた企業コンプライアンスに関する調査-独占禁止法を中心として-」の報告書を,平成21年3月に「企業におけるコンプライアンス体制の整備状況に関する調査-独占禁止法改正法施行(平成18年1月)以降の状況-」の報告書をそれぞれ取りまとめ,公表した。

(3) 公共調達制度改革への取組

公正取引委員会は,従来から入札談合防止の観点から地方公共団体等の発注機関における入札制度改革やコンプライアンス向上の取組についてアンケート調査等を実施し,公共調達に関して競争政策上望ましい方向について考え方を提示してきたところである。平成20年度においては,国や地方公共団体等の担当職員及び有識者の参加を得て,(1)各発注機関におけるコンプライアンス向上の取組について意見交換を行うとともに,(2)各発注機関における入札制度改革とそれに伴う問題点への対応について検討を行うことにより,実効的な取組を更に推進することを目的として,「公共調達における改革の取組・推進に関する検討会」を開催し,その検討結果を報告書として取りまとめ,平成20年5月に「公共調達における改革の取組・推進に関する検討会報告書」を公表した。

4 法運用の明確化と独占禁止法違反行為の未然防止

公正取引委員会は,独占禁止法違反行為の未然防止を図るため,事業者及び事業者団体が自ら実施しようと考えている具体的な事業活動について独占禁止法上問題がないかどうか個別に相談してきた場合には,これに応じて回答をしてきている。平成20年度においては,事業者の活動に関して2,272件の相談を,事業者団体の活動に関して419件の相談を受け付けた。

5 競争政策に関する理論的・実証的な基盤の整備

競争政策研究センターは,平成15年6月の発足以降,独占禁止法等の執行や競争政策の企画・立案・評価を行う上での理論的な基礎を強化するための活動を展開している。平成20年度においては,9つの研究テーマに取り組んだほか,国際シンポジウムを開催(一橋大学経済制度研究センター,(株)日本経済新聞社及び(財)公正取引協会との共催)するとともに,ワークショップを14回,公開セミナーを6回開催するなど,精力的に活動を行った。

6 企業結合規制に関する業務

独占禁止法第9条から第16条までの規定に基づく企業結合に関する業務については,銀行又は保険会社の議決権保有について9件の認可を行い,持株会社等について92件の報告,持株会社等の設立について4件の届出,会社の合併・分割・事業譲受け等について179件の届出,事業会社の株式所有について829件の報告をそれぞれ受理し,必要な審査を行った(第4図及び第5図参照)。

第4図 合併届出,分割届出及び事業譲受け等届出受理件数の推移

第5図 株式所有報告書の提出件数の推移

7 事業活動に関する調査

公正取引委員会は,独占禁止法の規定に違反する事件の処理のほか,必要に応じ事業活動の実態に関する調査を行うことにより違反行為の未然防止に努めている。平成20年度においては,アニメーション産業に関する実態調査を行い,平成21年1月に調査結果を公表し,競争政策上の観点からの提言を行った。

8 事業者団体に関する業務

独占禁止法第8条第2項から第4項までの規定に基づく事業者団体の届出件数は,成立届63件,変更届1,119件,解散届47件であった。

9 下請法に関する業務

下請取引の公正化及び下請事業者の利益保護を図るため,親事業者34,181社及びこれらと取引している下請事業者160,230名を対象に書面調査を行った。書面調査等の結果,下請法に基づき勧告を行ったものは15件(製造委託等13件,役務委託等2件)(注)(第6図参照),警告を行ったものは2,949件であった。

このうち,下請代金の支払遅延事件においては,親事業者39社により総額2億3481万円の遅延利息が下請事業者1,456名に支払われた。また,下請代金の減額事件においては,親事業者50社により総額29億5133万円が下請事業者2,022名に返還された。

(注)「製造委託等」とは,製造委託及び修理委託をいい,「役務委託等」とは,情報成果物作成委託及び役務提供委託をいう。以下同じ。

第6図 下請法の事件処理件数の推移

10 景品表示法に関する業務

公正取引委員会が,景品表示法に基づき,排除命令を行ったものは表示関係52件(第7図参照),警告を行ったものは表示関係9件,注意を行ったものは景品関係24件,表示関係527件であった。

第7図 景品表示法の事件処理件数の推移

都道府県が,景品表示法に基づく指示を行ったものは21件(すべて表示関係),注意を行ったものは666件(景品関係33件,表示関係633件)であった。

また,事業者又は事業者団体は,公正取引委員会の認定を受けて,景品類又は表示に関する事項に係る業界のルールとして公正競争規約を自主的に設定することができる。公正取引委員会は,平成20年度において,2件の公正競争規約を新たに認定し,5件の公正競争規約の変更の認定を行った。

11 国際関係業務

公正取引委員会は,平成20年4月に,京都市においてICN(国際競争ネットワーク)第7回年次総会を主催した。同総会には,世界各国・地域の競争当局のトップレベル及びスタッフレベルの職員のほか,民間の弁護士等,総勢約500名が参加し,平成19年5月に開催された前回総会以降の各作業部会における成果の報告が行われ,「カルテル事案における和解」,「企業結合審査に関して推奨される方法(Recommended Practices)」等について承認された。また,公正取引委員会は,主催当局が企画運営し,主催当局の関心事項について議論する特別プログラムとして,「優越的地位の濫用」に関するパネルを開催した。このほか,ICNの各ワーキンググループの活動に貢献するなど,ICNの活動に積極的に参加した。さらに,OECD(経済協力開発機構),APEC(アジア太平洋経済協力),UNCTAD(国連貿易開発会議),東アジア競争政策トップ会合等の国際会議に積極的に参加した。

また,各国共通の競争政策上の課題について,EU,韓国,カナダ,米国及びドイツの競争当局との間で,それぞれ二国間の意見交換を行った。

12 広報等に関する業務等

各種パンフレットの作成及び配布,広報用ビデオ及びDVDの貸出し及び動画配信,ウェブサイトの充実,メールマガジンの発行等を行った。また,競争政策に対するより一層の理解を求めること等を目的として,全国9都市において独占禁止政策協力委員会議を開催したほか,全国8都市において各地の有識者と公正取引委員会委員との意見交換等を行った。さらに,大学が実施する公開講座等に講師を派遣するほか,中学校からの要請を受けて講師を派遣して経済活動における競争の役割等について授業を行うなど,学校教育等を通じた競争政策の普及に努めた。

13 その他の業務

公正取引委員会は,行政機関が行う政策の評価に関する法律に基づき政策評価を実施している。平成20年度には,「会社の株式取得についての事前届出制度の導入,株式取得会社の届出基準算定範囲の変更等,共同の株式移転についての実体規定及び届出規定の導入等」の事前評価及び「企業結合の審査(平成19年度)」等8件の事後評価を実施・公表した。