第11章 景品表示法に関する業務

第1 概説

1 景品表示法の概要

景品表示法は,独占禁止法の不公正な取引方法の一類型である不当な顧客誘引行為のうち過大な景品類の提供と不当な表示をより効果的に規制することにより,公正な競争を確保し,一般消費者の利益を保護することを目的として,昭和37年に制定された。

景品表示法は,不当な顧客の誘引を防止するため,景品類の提供について,必要と認められる場合に,公正取引委員会告示(注1)により,景品類の最高額,総額,種類,提供の方法等について制限又は禁止し(第3条),また,商品又は役務の品質,規格その他の内容又は価格その他の取引条件について一般消費者に誤認される不当な表示を禁止している(第4条第1項)。これらの規定に違反する行為に対し,公正取引委員会は排除命令を(注2),都道府県知事は指示を行い,これを是正させることができる(第6条及び第7条)。

さらに,公正競争規約の制度が設けられており,事業者又は事業者団体は,過大な景品類の提供や不当な表示を防止し,一般消費者の適切な商品又は役務の選択に資するため,一定の自主的なルールである公正競争規約を公正取引委員会の認定を受けて設定することができる(第12条)(注3)。

また,消費者団体訴訟制度が設けられており,景品表示法に規定する一定の不当表示について,消費者契約法に基づく適格消費者団体に差止請求権が付与されている(第11条の2(注4))。

(注1)消費者庁及び消費者委員会設置法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律による改正後の景品表示法(以下「改正景品表示法」という。)においては,内閣府告示により定められる(経過措置により,従来の公正取引委員会告示も効力を有する。)。

(注2)改正景品表示法においては,消費者庁長官が措置命令を行うこととされている。

(注3)改正景品表示法においては,公正競争規約は,「不当な顧客の誘引を防止し,一般消費者による自主的かつ合理的な選択及び事業者間の公正な競争を確保するための協定又は規約」となった。また,当該協定又は規約は消費者庁長官及び公正取引委員会の認定を受けて締結又は設定することとされている(第11条)。

(注4)改正景品表示法においては第10条。

2 告示の指定

(1) 景品関係

景品類の提供の制限は,景品付販売の実態が複雑多岐であり,法律で画一的にこれを定めることは不適当であることから,公正取引委員会が,取引の実態に合わせ,必要に応じて告示により制限又は禁止することができるとされている。

現在,公正取引委員会が景品表示法第3条の規定に基づいて景品類の提供の制限又は禁止をしている告示のうち,一般的なものとしては,「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年公正取引委員会告示第3号)及び「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年公正取引委員会告示第5号)がある。また,特定業種についての景品類の提供に関する事項の制限(以下「業種別告示」という。)が定められており,「新聞業」,「雑誌業」,「不動産業」及び「医療用医薬品業,医療機器業及び衛生検査所業」について業種別告示が定められている(附属資料7-2表参照)。

(2) 表示関係

景品表示法第4条第1項第1号及び第2号の規定は,商品・役務の内容又は取引条件に関して,実際のもの又は競争関係にある他の事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認される表示を禁止している。このほか,一般消費者の適正な商品選択を阻害するおそれのある表示については,公正取引委員会が同第3号の規定に基づいて告示により不当な表示として指定し,これを禁止することができるとしている。

現在,公正取引委員会が同項第3号の規定に基づいて指定している不当な表示は,「無果汁の清涼飲料水等についての表示」(昭和48年公正取引委員会告示第4号),「商品の原産国に関する不当な表示」(昭和48年公正取引委員会告示第34号),「有料老人ホームに関する不当な表示」(平成16年公正取引委員会告示第3号)等の6件である(附属資料7-2表参照)。

第2 違反事件の処理

平成20年度において公正取引委員会が違反事件として処理した事件のうち,排除命令を行ったものは表示関係52件(平成19年度は56件)であり,警告を行ったものは表示関係9件である(第1表)。

平成20年度の表示事件の特徴として,食品分野に係る不当表示,電気通信分野に係る不当表示,環境分野に係る不当表示,百貨店事業者の不当表示等,国民生活に広く影響のある分野・事業者に係る不当表示に対し,厳正な処理を行った。

さらに,平成15年11月に施行された不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律(平成15年法律第45号。以下「平成15年改正法」という。)により導入された景品表示法第4条第2項(不実証広告規制)を積極的に適用し,平成20年度においては,デトックスによる痩身効果を標ぼうする商品の効果に係る表示,口臭,体臭及び便臭を消す効果を標ぼうする商品の効果に係る表示,携帯電話の電波の受信状態等が向上することを標ぼうする商品の効果に係る表示及びいびき軽減等を標ぼうする商品の効果に係る表示に対し同項を適用し,15件の排除命令を行った。

第1表 事件の処理状況の推移

1 排除命令

平成20年度においては,不当表示事件として,デトックスによる痩身効果を標ぼうする商品に係る不当表示,コピー用紙の古紙配合率に係る不当表示,キャビアの品質及び原産国に係る不当表示,手帳の原産国に係る不当表示,トイレ用芳香消臭剤の効果に係る不当表示,ミネラルウォーターの内容に係る不当表示,不動産に関するおとり広告等,IP電話の料金に係る不当表示,衣料品のカシミヤ混用率に係る不当表示,航空機の座席に係る不当表示,枕の原材料に係る不当表示,オール電化住宅の電気料金に係る不当表示,レモン果汁100%使用商品の原材料に係る不当表示,コーヒーの原材料に係る不当表示,飲食店で提供する料理の原材料に係る不当表示,革製品の内容及び原産国に係る不当表示,食器類の材質及び塗料に係る不当表示,口臭,体臭及び便臭を消す効果を標ぼうする商品に係る不当表示,住宅ローンの取次ぎに関する手数料に係る不当表示,ワイシャツの形態安定加工に係る不当表示,携帯電話の電波の受信状態等が向上することを標ぼうする商品に係る不当表示並びにいびき軽減等を標ぼうする商品に係る不当表示について,それぞれ排除命令を行った。

第2表 排除命令

2 警告

平成20年度において,警告を行ったものは9件であり,すべて表示に関するものであった。

第3表 警告

第3 公正競争規約制度

1 概要

公正競争規約(以下「規約」という。)は,事業者又は事業者団体が,景品表示法第12条の規定に基づき,景品類又は表示に関する事項について,公正取引委員会の認定を受けて,不当な顧客の誘引を防止し,公正な競争を確保するために設定する自主ルールである。規約の認定に当たっては,一般消費者及び関連事業者の利益を害するものであってはならないことから,当該業界の意見だけでなく,一般消費者,関連事業者,学識経験者等の意見がこれに十分反映されるよう努めている。

平成21年3月末における規約の数は,景品規約38件,表示規約69件,計107件である(附属資料第7-3表及び第7-4表参照)。

また,業界における取引実態の変化,消費者の意識の変化,関係法規の改正等を踏まえ,現行の規約の内容について適宜見直しを行うよう,規約の運用機関である公正取引協議会等に対し指導を行ってきている。

2 新たに認定した規約

(1) 食用塩の表示に関する公正競争規約

(平成20年4月18日認定 平成20年公正取引委員会告示第3号)

容器に入れられ又は包装された食用塩の取引について,商品名,原材料,製造方法等に関する様々な表示が行われている状況を踏まえ,一般消費者による適正な商品選択に資するとの観点から,(1)名称,原材料名,内容量,原産国名,事業者名等の必要表示事項及び製造方法の特性の表示の義務付け,(2)「○○の塩」(○○は地域名)など特定の地域名又は地域的特徴,「にがり」,「海洋深層水」を使用している旨などの特定事項の表示基準,(3)「天日塩」,「天然」,「自然」,「特級」等の特定用語の使用基準,(4)ミネラルの含有量が豊富であることを意味する表示,健康,美容等に効能・効果があるかのような表示等の不当表示事項,(5)規約に従い表示をしている商品に「公正マーク」を表示できることなどについて定めた「食用塩の表示に関する公正競争規約」の設定を認定した。

(2) 鶏卵の表示に関する公正競争規約

(平成21年3月26日認定 平成21年公正取引委員会告示第6号)

容器に入れられ又は包装された殻付鶏卵の取引について,M,Lなどの規格表示以外に,栄養成分,飼育環境等に関する様々な表示が行われている状況を踏まえ,一般消費者による適正な商品選択に資する観点から,(1)名称,原産地名,内容量,賞味期限,保存方法,採卵者又は選別包装者名等の必要表示事項,(2)「栄養強化卵」である旨を表示する場合,鶏・鶏舎等の安全・衛生対策について表示する場合等の特定事項の表示基準,(3)「平飼い」,「放飼い」,「地卵」,「有精卵」,「特撰」,「厳選」,「天然」,「自然」等の特定用語の使用基準,(4)栄養成分,飼料,安全・衛生対策及び飼育環境について事実と相違する表示又は実際のものよりも著しく優良であるかのように誤認させる表示等の不当表示事項,(5)規約に従い適正な表示をしている鶏卵の容器,包装等に「公正マーク」を表示できることなどについて定めた「鶏卵の表示に関する公正競争規約」の設定を認定した。

3 規約の変更

平成20年度において規約の変更について認定を行った件数は5件である。

(1) 家庭電気製品小売業における表示に関する公正競争規約

(平成21年1月16日認定 平成21年公正取引委員会告示第1号)

保証,修理,配送等について訴求するチラシ等における必要表示事項の規定の新設等

(2) はっ酵乳,乳酸菌飲料の表示に関する公正競争規約

(平成20年12月26日認定 平成21年公正取引委員会告示第2号)

公正取引協議会による規約違反に対する措置に関する規定の新設

(3) 凍豆腐製造業における景品類の提供の制限及び凍豆腐の表示に関する公正競争規約

(平成21年1月8日認定 平成21年公正取引委員会告示第3号)

凍豆腐品質表示基準の改正に伴う関係規定の修正,アレルギー物質を含む場合の表示規定の追加等

(4) ドレッシング類の表示に関する公正競争規約

(平成21年1月9日認定 平成21年公正取引委員会告示第4号)

ドレッシング類及びドレッシングタイプ調味料品質表示基準の改正に伴う定義規定及び事業者の定義の変更

(5) 果実飲料等の表示に関する公正競争規約

(平成21年1月26日認定 平成21年公正取引委員会告示第5号)

果実飲料品質表示基準の改正に伴う関係規定の修正,原材料の重量割合に係る表示方法の修正,「品質保持期限」の削除及び賞味期限に用語の統一,関係法令の修正等

4 規約の廃止

人造真珠の表示に関する公正競争規約

(平成20年9月30日廃止 平成20年公正取引委員会告示第4号)

5 公正取引協議会等に対する指導

公正取引委員会は,公正取引協議会等(規約の運用を目的として,規約に参加する事業者又は事業者団体により構成されているもの。以下「協議会」という。)に対し,規約の適正な運用を図るため,協議会の行う事業の遂行,事業の処理等について指導を行ってきており,平成20年度においても,協議会が行った規約の遵守状況調査,商品の試買検査会,審査会等に対し必要な指導を行った。

協議会は,規約の運用上必要な事項について,規約の定めるところにより,施行規則,運用基準等を設定し,規約の円滑な運用を期している。これら施行規則等を協議会が設定・変更するに当たっても,公正取引委員会は積極的に指導を行ってきている。

また,各協議会の業務の推進を図るほか,公正取引委員会との連携・協力を密接にし,規約の適正かつ円滑な施行を図るため,公正取引委員会において,(1)規約の遵守状況調査,(2)協議会の会員に対する研修,(3)規約制度等の普及・啓発及び(4)規約の新規設定等の支援を行った。

さらに,平成21年1月には,協議会との連絡会議を開催し,公正取引委員会の最近の活動状況について報告するとともに意見交換を行った。

6 試買検査会等

公正取引委員会は,表示に関する規約等の設定又は見直しを行うため,また,商品表示の実態及び表示に対する消費者意識を把握するため,協議会と共同して試買検査会等を開催してきた。

平成20年度においては,アイスクリーム類,食品缶詰,トマト加工品,ビスケット類,チョコレート類,チョコレート利用食品,チューインガム,食酢,みそ,ドレッシング類,しょうゆ,もろみ酢,ペットフード及び記録メディア製品を対象品目として,全国各地で試買検査会等を開催した。

なお,各協議会においても独自に試買検査会等を開催している。