第12章 消費者取引に関する業務

第1 概説

近年,規制緩和の進展に加え消費者ニーズの多様化,経済のサービス化・国際化等,消費者を取り巻く経済社会情勢が大きく変化してきており,消費者への適切な情報提供を推進し,消費者の適正な商品・サービスの選択を確保していくことが重要な課題となっている。

公正取引委員会は,公正な競争を確保する観点から,消費者の適正な選択を妨げる不当表示及び過大な景品類の提供行為に対して,景品表示法に基づいて厳正・迅速に対処するとともに,景品表示法の普及・啓発に関する活動を行うなど,消費者取引の適正化に努めてきた。

第2 消費者取引の適正化への取組

1 消費者向け電子商取引の適正化ヘの対応

公正取引委員会は,一般家庭におけるインターネットの急速な普及とともに広く行われるようになった消費者向け電子商取引について,健全な発展と消費者取引の適正化を図る観点から,次のような取組を行った。

・ 電子商取引監視調査システムによる常時監視の実施

インターネット上の広告表示については,消費者向け電子商取引の健全な発展と適正化を図る観点から,消費者モニターの中から80名を「電子商取引調査員」に選定して,これらにインターネット上の広告表示の調査を委託している。公正取引委員会は,電子商取引調査員から問題となるおそれがあると思われる表示について報告を受け(電子商取引監視調査システム),景品表示法違反事件の端緒,景品表示法の遵守について啓発するメールの送信等に利用している。

平成20年度においては,電子商取引監視調査システムを通じ,896件のインターネット上の広告表示について,電子商取引調査員から問題となるおそれがあるとの報告を受けた。また,「消費者向け電子商取引における表示についての景品表示法上の問題点と留意事項」(平成14年6月公表)に照らして問題があると認められた62サイトの管理者に対し,景品表示法の遵守について啓発するメールを送信することにより,これら管理者に自主的な表示の改善を促した。その結果,ほとんどの表示について改善がみられるなど一定の成果を上げている。

2 インターネット上の広告表示の適正化に関する国際的取組への参加

インターネットにおいて生じる問題は国内にとどまるものではないことから,OECD加盟国を中心とした国々の消費者保護機関等からなるICPEN(International Consumer Protection and Enforcement Network:消費者保護及び執行のための国際ネットワーク)の枠組みの下,公正取引委員会は,各国の関係当局がインターネット上の一定の広告表示について法令違反の疑いがないかを一斉に点検するInternational Internet Sweep Days(国際インターネット点検キャンペーン)に参加するなど,諸外国の関係当局との連携を深めてきた。

平成20年度においては,9月に,「The Message:True or False?(その表示,本当?嘘?)」をテーマとして実施されたInternational Internet Sweep Daysに参加し,公正取引委員会は「体験談・アンケート調査結果等に関する表示」を点検の対象とした。電子商取引調査員から報告を受けた210件(110事業者190サイト)について点検した結果,景品表示法上問題となるおそれがあると思われる表示を行っていた31サイト26事業者の管理者に対し,景品表示法の遵守について啓発するメールを送信した。

第3 消費者モニター制度

1 概要

消費者モニター制度は,独占禁止法及び景品表示法の施行その他公正取引委員会の消費者政策の諸施策の的確な運用に資するため,当委員会が一般消費者1,100名以内を消費者モニターに選出して,アンケート調査への回答,消費者としての体験,見聞等の報告その他当委員会の業務に協力を求めるものであり,昭和39年度から運用してきた。

また,平成17年度からは,消費者モニター制度の中に,全国で200人以内の規模で構成される消費者取引適正化推進員制度を新設し,特定事項に関する調査,景品表示法等に違反する疑いのある行為に関する情報収集,公正取引委員会が行う消費者取引適正化のための諸施策に関する意見の提出,景品表示法の普及・啓発等について協力を求めた。

平成20年度の消費者モニター(消費者取引適正化推進員及び電子商取引調査員を除く。)の各地区の配置数は,関東甲信越地区185名,北海道地区60名,東北地区85名,中部地区110名,近畿地区145名,中国地区70名,四国地区50名,九州地区107名,沖縄地区11名であった。

また,平成20年度における消費者取引適正化推進員の各地区の配置数は,関東甲信越地区70名,北海道地区10名,東北地区15名,中部地区25名,近畿地区35名,中国地区10名,四国地区10名,九州地区18名,沖縄地区4名であった。

なお,前記第2の1に記載の電子商取引調査員は,平成20年度においては関東甲信越地区のみ80名を配置した。

2 活動状況

平成20年度においては,消費者モニター及び消費者取引適正化推進員に対し3件のアンケート調査及び広告物の収集依頼を行ったほか,随時,独占禁止法及び景品表示法の違反被疑事実の報告,意見等を求めた。

(1) アンケート調査等

平成20年度におけるアンケート調査等の概要は,次のとおりである。

ア テレビ通販番組に関するアンケート調査等

テレビ通販に関する消費者の意識を把握するため,アンケート調査を行うとともに,テレビ通販番組を視聴した上での当該番組における表示に関する意見等を求めた。

イ 家庭におけるエネルギーの使用状況及び切替えに関するアンケート調査

家庭における電力,ガス等のエネルギーの使用状況及び他のエネルギーへの切替えに関する消費者の意識を把握するため,アンケート調査を行った。

ウ 寡占状態にある産業における独占的な状態に関するアンケート調査

寡占状態にある産業における独占的な状態に関し,消費者の意識を把握するため,アンケート調査を行った。

(2) 自由通信

消費者モニター及び消費者取引適正化推進員は,前記アンケート調査等のほか,自由通信という形で,随時,公正取引委員会に対し,自由に意見及び情報を提供している。これは,(1)独占禁止法及び景品表示法の違反被疑事実の報告,(2)景品表示法に基づいて設定された公正競争規約の遵守状況等についての情報提供,(3)その他一般的な意見の提供等を行うものであり,平成20年度においては合計5,576件の自由通信が寄せられた(第1表参照)。

第1表 自由通信の送付状況

(3) 各種会合等への参加

平成20年度においては,公正取引協議会が主催する試買検査会等(第2表参照)に消費者取引適正化推進員を中心とする消費者モニターが出席し,一般消費者の立場からの意見を述べた。

第2表 消費者モニターの出席した試買検査会

第4 消費者取引に関する実態調査

(1) No.1表示に関する実態調査(平成20年6月公表)

我が国では,多くの商品・サービスが,各種の調査によって,その売上実績,効果・性能,顧客満足度等の各種指標に基づきランク付けされており,一般消費者向けに商品・サービスを提供する事業者は,これらのランク付け情報を利用し,自己が供給する商品等の内容の優良性又は販売価格等の取引条件の有利性を一般消費者に訴求するため,広告等の表示物において,「No.1」,「第1位」,「トップ」,「日本一」等と強調する表示を行っている。

一方で,これらの「No.1」等の表示については,表示の具体的根拠が記載されていない,あるいは分かりにくいといった指摘がなされており,近年,営業地域が限定された事業者の中で第1位であるにもかかわらず,全国を営業地域とする事業者の中で第1位であるかのように表示し,景品表示法違反に問われたケースもある。

このため,公正取引委員会は,一般消費者の適正な商品・サービスの選択に資するとの観点から,「No.1」等の表示に関する実態調査を行い,景品表示法上の考え方を整理し,これを公表した。

(2) 見にくい表示に関する実態調査(平成20年6月公表)

近年,公共交通のバリアフリー化など,利用者の年齢等にかかわらず,暮らしやすい,使いやすい環境を整えるための取組が行われている中で,新聞各社が文字の大きさを大きくしたり,字体を変更するなど,より読みやすい文字や表示方法についての関心が高まっている。

また,我が国の消費人口の大部分を占める中高年は,加齢による視力の低下により,商品・サービスの内容についての表示を読み取りにくかったり,商品・サービスの例外や制約等に関する表示を見落としてしまったりするため,商品等の内容について,誤認が生じ,適正な商品・サービスの選択が妨げられるおそれがある。中高年にとって見やすい表示としていくことは,すべての消費者にとって見やすい表示となるものと考えられる。

このため,公正取引委員会は,中高年の消費者にとって見にくい表示にはどのようなものがあるかについて実態調査を行い,一般消費者による適正な商品・サービスの選択に資するとの観点から,見やすい表示にするために配慮すべき事項や打消し表示に関する景品表示法上の考え方を整理して取りまとめ,これを公表した。

(3) ペット(犬・猫)の取引における表示に関する実態調査報告書(平成20年6月公表)

ペットは品種,販売価格,容姿,年齢等が個体により様々であるが,消費者がペットを購入する経験は少ない。そのため,ペットの取引においては,消費者と小売業者との間で持っている知識に大きな隔たりがある,あるいは,消費者は購入の際に何を確認するべきかよく分からないまま購入しているといった指摘がなされている。そこで本調査においては,小売業者による表示の実態等を明らかにした上で,一般消費者の適正な商品選択に資するとの観点から留意点を整理した。

報告書で示した主な留意点としては,以下のようなものがある。

ア 「ブリーダーショップ」等のブリーダーである旨の表示や「ブリーダー直送」等のブリーダーと取引関係にある旨の表示を行う小売業者においては,消費者の誤解を招かないように,生体ごとに,自家繁殖によるものか,ブリーダーから直接仕入れたものか,又は他の手段により仕入れたものかを明りょうに表示することが望ましい。

イ 生体の販売価格とは別にワクチン接種費用を請求する小売業者においては,ワクチン接種費用が別途発生する旨を明りょうに表示すべきである。

ウ 「血統書付」等の血統書があることを表示する小売業者において,血統書を生体の販売と同時に引き渡せない場合は,そのことについて消費者の理解が得られるよう説明に努めるべきである。また,血統書があることを表示する際には,血統書を同時に引き渡せない旨又は血統書の引渡しの時期の目安を表示することが望ましい。