第1部 総論

第1 概説

公正取引委員会は、平成21年度において、次のような施策に重点を置いて競争政策の運営に積極的に取り組んだ。

1 独占禁止法改正等

(1) 独占禁止法の一部を改正する法律(平成21年法律第51号。以下「平成21年独占禁止法改正法」という。)は、①排除型私的独占及び一定の不公正な取引方法に対する課徴金制度の導入、②不当な取引制限において主導的役割を果たした事業者に対して課徴金を割り増す制度の導入、③課徴金減免制度におけるグループ会社の共同申請制度の導入、④不当な取引制限等の罪に対する懲役刑の引上げ及び⑤企業結合に係る届出制度の見直しを主な内容として、平成21年6月3日に成立し、同月10日に公布され、平成22年1月1日に施行された。

(2) 平成21年独占禁止法改正法の施行等に伴い、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令」、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第9条から第16条までの規定による認可の申請、報告及び届出等に関する規則」等の改正等を行った。

(3) 平成22年3月12日、公正取引委員会が行う審判制度の廃止等を内容とする、独占禁止法の一部を改正する法律案(以下「平成22年独占禁止法改正法案」という。)が第174回通常国会に提出された。同法律案は、同年6月16日、衆議院において閉会中審査とされた。

(4) 平成20年9月29日、消費者庁関連三法案が第170回臨時国会に提出された。消費者庁関連三法案は、第171回通常国会において、衆議院で修正がなされた後、平成21年4月17日に衆議院において、同年5月29日に参議院においてそれぞれ可決されて成立し、同年6月5日に公布され、同年9月1日に施行された。

(5) 平成21年独占禁止法改正法の施行に伴い、「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」の改定(平成21年10月23日公表)、「排除型私的独占に係る独占禁止法上の指針」の策定(平成21年10月28日公表)、「不当廉売に関する独占禁止法の考え方」の改定(平成21年12月18日公表)など、法運用の透明性を一層確保し、事業者の予見可能性をより向上させるためにガイドラインの策定等を行った。

2 厳正・的確な法運用

(1) 独占禁止法違反行為の積極的排除

ア 迅速かつ実効性のある法運用を行うという基本方針の下、平成21年度においては、特に、価格カルテル及び入札談合並びに中小事業者に不当な不利益を与える優越的地位の濫用などの不公正な取引方法に対し、引き続き厳正かつ積極的に対応した。

なお、平成21年度における主な法的措置事件は、次のとおりである。

イ また、国・地方公共団体等の職員が入札談合に関与する、いわゆる「官製談合」については、入札談合等関与行為防止法に入札談合等関与行為を排除するための行政上の措置等が規定されているところ、平成21年度には、国土交通省が発注する車両管理業務の入札談合事件及び防衛省航空自衛隊が発注する什器類の入札談合事件で発注者の職員による入札談合等関与行為が認められたため、公正取引委員会は、同法を適用し、国土交通大臣及び防衛大臣に対して、それぞれ改善措置要求を行った。

(2) 公正な取引慣行の推進

ア 優越的地位の濫用に対する取組

(ア) 公正取引委員会は、以前から、独占禁止法上の不公正な取引方法に該当する優越的地位の濫用が行われないよう監視を行うとともに、独占禁止法に違反する行為については厳正に対処している。

(イ) 公正取引委員会は、昨今の厳しい経済情勢の下で、取引先事業者、特に取引先大企業との間で不当なしわ寄せを受けやすい中小事業者全般について、その取引の公正化を一層推進するため、「中小事業者取引公正化推進プログラム」を取りまとめ、平成21年11月18日にこれを公表した。当該プログラムの一環として、優越的地位の濫用に係る情報に接した場合に、その調査を効率的かつ効果的に行い、必要な是正措置を講じていくため、「優越的地位濫用事件タスクフォース」を設置した。

(ウ) 公正取引委員会は、平成21年度において、大規模小売業者350社、納入業者6,000社に対して、大規模小売業告示の遵守状況及び大規模小売業者と納入業者との取引の実態を把握するための書面調査を実施した。また、荷主8,426社、物流事業者11,621社に対して、物流特殊指定の遵守状況及び荷主と物流事業者との取引の実態を把握するための書面調査を実施した。

(エ) 公正取引委員会は、「中小事業者取引公正化推進プログラム」の一環として、平成21年11月から平成22年3月までの間に、これまで独占禁止法違反行為がみられた業種、各種の実態調査で問題がみられた業種等に関し、一層の法令遵守を促すことを目的とした業種別講習会を合計9回開催した。

イ 不当廉売に対する取組

公正取引委員会は、小売業における不当廉売について、迅速に処理を行うとともに、大規模な事業者による不当廉売事案又は繰り返し行われている不当廉売事案であって、周辺の販売業者に対する影響が大きいと考えられるものについては、周辺の販売業者の事業活動への影響等について個別に調査を行い、問題のみられる事案については、法的措置を採るなど厳正に対処している。

ウ 下請法違反行為の積極的排除等

(ア) 公正取引委員会は、中小企業庁の協力を得て、親事業者及びこれらと取引している下請事業者を対象として定期的に書面調査を実施しているところ、中小事業者取引公正化推進プログラムの一環として、平成21年度においては、下請事業者向け書面調査について、資本金額が大きい親事業者と取引している下請事業者向け発送先を平成20年度の160,230名から201,005名に増やした。

(イ) 公正取引委員会は、昨今の厳しい経済情勢の下で、中小事業者の自主的な事業活動が阻害されることのないよう、下請法の厳正かつ迅速な運用により、下請取引の公正化及び下請事業者の利益の保護に努めている。

なお、平成21年度における主な勧告事件は、次のとおりである。

(ウ) 公正取引委員会は、中小事業者取引公正化推進プログラムの一環として、平成21年11月20日及び平成22年3月11日に、親事業者及び関係事業者団体に対し、下請法の遵守の徹底等について、公正取引委員会委員長及び経済産業大臣連名の文書をもって要請を行った。

(3) 企業結合規制の的確な運用

独占禁止法は、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる会社の合併、株式保有等を禁止している。事業活動のグローバル化等の経済環境の急速な変化に伴い、大企業の合併等大型の企業結合事案が増加傾向にある状況において、公正取引委員会は、我が国における競争的な市場構造が確保されるよう、企業結合規制の的確な運用を行っている。平成21年度においては、次のような企業結合事案について、的確に処理するとともに、その内容を公表するなどにより、企業結合審査の透明性・予見可能性の一層の向上を図った。

なお、平成21年度における主な企業結合事案は、次のとおりである。

3 競争環境の整備に向けた調査等

(1) 公益事業分野等における規制改革に関する調査等

公正取引委員会は、公益事業分野等における公正かつ自由な競争を確保するため、独占禁止法上問題となる参入阻害行為等を明らかにしたガイドラインを策定するとともに、規制改革に関連する調査・提言を行っている。

なお、平成21年度においては、次のような報告書の策定、調査等を行った。

(2) ガソリンにおけるバイオマス由来燃料の利用に関する調査・提言

改定京都議定書目標達成計画(平成20年3月28日閣議決定)は、「輸送用燃料を含むバイオ燃料の普及を促進する」としているところ、ガソリンにおけるバイオマス由来燃料の利用については、バイオエタノールを直接ガソリンと混合する方式(以下「直接混合方式」という。)及びバイオエタノールからETBEを製造し、これをガソリンと混合する方式(以下「ETBE方式」という。)の2つの混合方式が存在する。

公正取引委員会は、これら2つの混合方式が市場における競争を通じて評価・選択される環境を整備する観点から、独占禁止法上の考え方を整理するとともに、2つの混合方式のイコールフッティングを確保するために必要とされる措置について検討してきたところ、平成21年7月、これらについて考え方を取りまとめ、公表した。

4 経済のグローバル化への対応

近年、複数国の競争法に抵触する事案、一国による競争法の執行活動が他国の利益に影響を及ぼし得る事案等が増加するなど、執行活動の国際化及び競争当局間の協力・連携の強化の必要性が高まっている。このような状況を踏まえ、公正取引委員会は、二国間独占禁止協力協定等を通じ、海外競争当局との協力関係の強化に努めているほか、経済連携協定の重要な要素の一つとして競争政策を積極的に位置付けるとの方針の下に、関係省庁等との連携を図りつつ、協定締結交渉に参加している。

また、公正取引委員会は、ICN(国際競争ネットワーク)、OECD(経済協力開発機構)、APEC(アジア太平洋経済協力)、UNCTAD(国連貿易開発会議)等といった多国間における議論にも積極的に参加するほか、東アジア競争法・政策カンファレンス及び東アジア競争政策トップ会合においては主導的な役割を果たしている。

さらに、開発途上国や移行経済国において、既存の競争法制を強化する動きや、新たに競争法制を導入する動きが活発になっていることを受け、公正取引委員会は、これら諸国の競争当局等に対し、職員の派遣や研修の実施等による技術支援を行っている。

このほか、公正取引委員会の国際的なプレゼンスを向上させ、我が国の競争政策の状況を広く海外に周知するため、英文パンフレットの配布、英文ウェブサイトの充実及び海外の法曹団体が主催するセミナー等への講師派遣を実施している。

なお、平成21年度における主な国際的な取組は、次のとおりである。

5 競争政策の普及啓発に関する広報・広聴活動

競争政策に対するより一層の理解を求め、広く国民から意見を聞くこと等を目的として、全国9都市において独占禁止政策協力委員会議を開催したほか、全国9都市において各地の有識者と公正取引委員会委員との意見交換等を行った。このほか、全国各地区において、地方事務所長等の事務総局職員と有識者との懇談会を開催した。また、中学校、高校及び大学からの要請を受けて講師を派遣し、経済活動における競争の役割等について授業を行う独占禁止法教室の開催など、学校教育等を通じた競争政策の普及に努めた。その他、各種パンフレットの作成及び配布、広報用DVDの貸出し及び動画配信、ウェブサイトの充実、メールマガジンの発行等を行った。

なお、平成21年度における主な取組は、次のとおりである。

第2 業務の大要

平成21年度の業務の大要は、次のとおりである。

1 独占禁止法違反被疑事件の審査及び処理

(1) 独占禁止法違反被疑事件として平成21年度に審査を行った事件は152件である。そのうち同年度内に審査を完了したものは130件であった。

(2) 平成21年度においては、26件の法的措置を採った。これを行為類型別にみると、価格カルテルが5件、入札談合が17件、不公正な取引方法が4件となっている(第1図参照)。また、総額360億7471万円の課徴金の納付を命じた(第2図参照)。

なお、平成21年度において、課徴金減免制度に基づき事業者が自らの違反行為に係る事実の報告等を行った件数は85件であった。

(3) このほか、違反するおそれのある行為に対する警告9件、違反につながるおそれのある行為に対する注意69件(不当廉売事案について迅速処理による注意を行った3,225件を除く。)を行うなど、適切かつ迅速な法運用に努めた。

第1図 法的措置件数等の推移

第2図 課徴金額等の推移

(注)平成17年独占禁止法改正法(独占禁止法の一部を改正する法律[平成17年法律第35号]をいう。以下同じ。)による改正前の独占禁止法に基づく課徴金の納付を命ずる審決を含み、同法に基づく審判手続の開始により失効した課徴金納付命令を除く。

(4) 平成21年度における審判件数は、前年度から引き継いだもの54件、平成21年度中に審判手続を開始したもの34件の合計88件(独占禁止法違反に係るものが26件、課徴金納付命令に係るものが49件、景品表示法違反に係るものが13件)であった(第3図参照)。これらのうち、平成21年度中に40件について審決を行った。40件の審決の内訳は、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法に基づく審決が29件(審判審決8件〔なお、後記第3章第2の1(7)記載の審判審決については、係属中の審判事件の一部の被審人に対するものであり、残る被審人については審判係属中であるため、係属件数に影響しない。〕及び課徴金の納付を命ずる審決21件)、平成17年独占禁止法改正法による改正後の独占禁止法に基づく審決が11件(いずれも景品表示法違反に係る審決)である。また、3件の課徴金納付命令に係る課徴金の一部を控除する審決を行った(審判手続を経ないで行う審決のため係属件数に影響しない。)。このほか、6件の審判手続打切決定を行い(うち5件はいずれも同一事件の一部の被審人に対するものであり、係属件数に影響しない。)、1件について被審人から審判請求取下げが行われた。この結果、平成21年度末における審判件数は47件となった。

第3図 審判件数の推移

2 法運用の明確化と独占禁止法違反行為の未然防止

公正取引委員会は、独占禁止法違反行為の未然防止を図るため、事業者及び事業者団体が自ら実施しようと考えている具体的な事業活動について独占禁止法上問題がないかどうか個別に相談してきた場合には、これに応じて回答をしている。平成21年度においては、事業者の活動に関して2,648件の相談を、事業者団体の活動に関して352件の相談を受け付けた。

3 競争政策に関する理論的・実証的な基盤の整備

競争政策研究センターは、平成15年6月の発足以降、独占禁止法等の執行や競争政策の企画・立案・評価を行う上での理論的な基礎を強化するための活動を展開している。平成21年度においては、8つの研究テーマに取り組んだほか、国際シンポジウムを開催(一橋大学グローバルCOE Hi-stat、(株)日本経済新聞社及び㈶公正取引協会との共催)するとともに、ワークショップを20回、公開セミナーを3回開催するなど、精力的に活動を行った。

4 企業結合規制に関する業務

独占禁止法第9条から第16条までの規定に基づく企業結合に関する業務については、銀行又は保険会社の議決権保有について6件の認可を行い、持株会社等について93件の報告、持株会社等の設立について5件の届出、会社の合併・分割・共同株式移転・事業譲受け等について145件の届出、会社等の株式所有について840件の報告及び届出をそれぞれ受理し、必要な審査を行った(第4図及び第5図参照)。

第4図 合併、分割、共同株式移転及び事業譲受け等の届出受理件数の推移

第5図 株式所有報告書の提出件数の推移

(注)株式所有報告書には、平成21年独占禁止法改正法による改正後の独占禁止法の規定に基づく株式取得に関する計画届出書を含む。

5 不公正な取引方法への取組

(1) 優越的地位の濫用に対する取組

平成21年度においては、2件の事件において排除措置命令を行ったほか、2件の警告及び22件の注意を行った。このうち、優越的地位濫用事件タスクフォースにおいては、平成21年11月から平成22年3月までの間に、違反につながるおそれがある行為がみられたとして16件の注意を行った。

(2) 不当廉売に対する取組

平成21年度においては、石油製品小売業者及び石油元売会社に対し、不当廉売のおそれがあるとして7件の警告を行った。また、酒類、石油製品、家庭用電気製品等の小売業者及び卸売業者に対し、不当廉売につながるおそれがあるとして3,225件(酒類700件、石油製品956件、家電1,425件、その他144件)の注意を行った。

6 下請法に関する業務

下請取引の公正化及び下請事業者の利益保護を図るため、親事業者36,342社及びこれらと取引している下請事業者201,005名を対象に書面調査を行った。書面調査等の結果、下請法に基づき勧告を行ったものは15件(製造委託等10件、役務委託等5件)(注)(第6図参照)、指導の措置を行ったものは3,590件であった。

このうち、下請代金の支払遅延事件においては、親事業者61社により総額1億790万円の遅延利息が下請事業者2,737名に支払われた。また、下請代金の減額事件においては、親事業者61社により総額4億8116万円が下請事業者2,160名に返還された。

(注)「製造委託等」とは、製造委託及び修理委託をいい、「役務委託等」とは、情報成果物作成委託及び役務提供委託をいう。以下同じ。

第6図 下請法の事件処理件数の推移

(注)勧告を行った事件の中には、複数の委託取引において違反行為が認められたものがあるが、本図においては、当該事件の違反行為を主として行った委託取引に区分して、件数を計上している。

7 その他の業務

公正取引委員会は、行政機関が行う政策の評価に関する法律に基づき政策評価を実施している。平成21年度には、「企業結合の審査(平成20年度)」、「独占禁止法違反行為に対する措置(平成20年度)」等8件の事後評価を実施・公表した。