第2部 各論

第3章 審 判

第1 概説

平成21年度における審判件数は、前年度から引き継いだもの54件、平成21年度中に審判手続を開始したもの34件の合計88件(独占禁止法違反に係るものが26件、課徴金納付命令に係るものが49件、景品表示法違反に係るものが13件)であった。これらのうち、平成21年度中に40件について審決を行った。40件の審決の内訳は、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法に基づく審決が29件(審判審決8件〔うち1件〔後記第2の1(7)記載の審判審決〕については、係属中の審判事件の一部の被審人に対するものであり、残る被審人については審判係属中であるため、係属件数に影響しない。〕及び課徴金の納付を命ずる審決21件)、平成17年独占禁止法改正法による改正後の独占禁止法に基づく審決が11件(いずれも景品表示法違反に係る審決)である。また、3件の課徴金納付命令に係る課徴金の一部を控除する審決を行った(審判手続を経ないで行う審決のため係属件数に影響しない。これらの審決については、附属資料2-1表参照。)。このほか、6件の審判手続打切決定を行い(うち5件はいずれも同一事件の一部の被審人に対するものであり、係属件数に影響しない。)、1件について被審人から審判請求取下げが行われた。この結果、平成21年度末における審判件数(平成22年度に引き継ぐもの)は47件となった。

係属中の審判事件一覧

【平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法に基づく審判事件】

【平成17年独占禁止法改正法による改正後の独占禁止法に基づく審判事件】

(注)平成21年公正取引委員会告示第18号による改正前の一般指定第13項

第2 平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法に基づく審決

1 審判審決

(1) (株)吉田建設に対する審決(新潟市発注下水道推進工事入札談合)

ア 被審人

イ 事件の経過

本件は、平成16年7月28日、公正取引委員会が前記アの被審人(以下「被審人」という。)を含む55社に対し、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告を行ったところ、55社がこれを応諾しなかったので、55社に対し、同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録並びに被審人から提出された異議の申立書及び同社から聴取した陳述に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人に対して審決案の内容を一部改めた審決を行った。

なお、公正取引委員会は、平成20年度までに、被審人を除く54社に対して同意審決を行っている。

ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 違反行為の概要

被審人を含む68社は、遅くとも平成11年4月1日(被審人にあっては平成13年3月1日ころ)以降、新潟市が制限付一般競争入札、公募型指名競争入札又は指名競争入札の方法により発注する下水道推進工事(注)(以下「特定下水道推進工事」という。)について、受注価格の低落防止、受注機会の確保及び共存共栄を図るため、共同して、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにすることにより、公共の利益に反して、同工事の取引分野における競争を実質的に制限していた(以下「本件違反行為」という。)。

(注)推進工法又はシールド工法を用いる下水管きょ工事及び汚水管布設工事をいう。

(イ) 主要な争点及びそれに対する判断
a 被審人の本件違反行為への参加の有無について

証拠によれば、被審人は、新潟市発注の特定下水道推進工事について、本件対象期間(平成11年4月1日から平成15年9月30日まで)に、5物件の入札に参加したが、いずれも落札しなかったことが認められる。しかしながら、これらの物件の入札に係る本件違反行為者の各供述調書において、いずれも受注予定者を除く入札参加者全社が受注予定者の落札に協力した旨の供述があり、とりわけ、姥ヶ山排水区枝線26-1~46-2下水道工事においては、落札者の営業部部長代理が、被審人の名を明確に挙げて、被審人に価格を連絡し、その協力も得て落札したことを述べている。

これらの証拠からすれば、被審人は、初めて入札に参加した平成13年3月1日以降、本件違反行為に参加していたことが認められる。

b 措置の必要性の有無について

(a) 新潟市が発注する下水道推進工事の発注方法については、制限付一般競争入札又は指名競争入札の方法は継続している。そして、本件違反行為終了後、入札参加業者は大幅に増加したものの、本件違反行為者の68社のうち被審人を含む61社(本件違反行為終了後、平成18年9月30日までの期間に建設事業に関する営業を本件違反行為者から承継した4社を含む。)は、その受注件数が89物件(約44.95パーセント)、落札金額の合計が約90億6778万円(約61.76パーセント)と、その多くを受注している。

(b) 本件違反行為のようないわゆる入札談合行為においては、一般的に、違反行為がいったん終了しても、競争を回避することによって利益を得ることを志向する個々の事業者の意識や、これを共同して行うことを容易にする事業者間の協調的な関係が直ちには解消されず、違反行為の実行を困難とする市場の状況の出現や違反行為の実行を確実に抑止するに足りる事情が存在しない限り、違反行為が再び行われるおそれがあるといえる。

さらに、本件違反行為は、遅くとも平成11年4月1日以降平成15年9月30日まで4年6か月、被審人の参加後に限っても平成13年3月1日以降2年7か月の期間にわたり継続され、その終了は公正取引委員会の立入検査を契機とするものであって、被審人を含む違反行為者らの自発的意思によるものではない。

(c) これらの諸事情を考慮すれば、将来、被審人を含む事業者らにより、本件違反行為と同様の違反行為が行われるおそれがあると認めることができ、本件は、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第54条第2項に規定する「特に必要があると認めるとき」に該当するというべきである。

エ 法令の適用

独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)

オ 命じた措置

(ア) 被審人は、前記ウ(ア)の行為を取りやめている旨を確認することを取締役会において決議し、そのことを同意審決を受けた54社及び本件違反行為者から建設業に関する営業を承継した4社に通知しなければならない。

(イ) 被審人は、前記(ア)に基づいて採った措置及び今後、共同して、新潟市が競争入札の方法により発注する特定下水道推進工事について、受注予定者を決定せず、自主的に受注活動を行う旨を、新潟市に通知するとともに自社の従業員に周知徹底させなければならない。

(ウ) 被審人は、今後、他の事業者と共同して、前記ウ(ア)と同様の行為を行ってはならない。

(2) (株)長北組ほか2社に対する審決(新潟市発注下水道開削工事入札談合)

ア 被審人

イ 事件の経過

本件は、平成16年7月28日、公正取引委員会が前記アの被審人3社(以下「被審人ら」という。)を含む48社に対し、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告を行ったところ、29社がこれを応諾しなかったので、29社に対し、同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録並びに被審人(株)長北組(以下「被審人長北組」という。)及び被審人(株)高春組(以下「被審人高春組」という。)から提出された異議の申立書並びに被審人長北組から聴取した陳述に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人らに対して審決案と同じ内容の審決を行った。

なお、公正取引委員会は、平成19年度までに、被審人らを除く26社に対して同意審決を行っている。

ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 違反行為の概要

被審人らを含む59社は、遅くとも平成11年4月1日以降、新潟市が公募型指名競争入札又は指名競争入札の方法により土木一式工事についてAの等級に格付している者のみを指名して発注する下水道開削工事(注)(以下「特定下水道開削工事」という。)について、受注価格の低落防止、受注機会の確保及び共存共栄を図るため、共同して、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにすることにより、公共の利益に反して、同工事の取引分野における競争を実質的に制限していた(以下「本件違反行為」という。)。

(注)開削工法を用いる下水管きょ工事及び汚水管布設工事(一部推進工法又はシールド工法を用いるものであって、同工法により工事を行うことができる者のみを入札参加者とするものを除く。)をいう。

(イ) 主要な争点及びそれに対する判断
a 本件違反行為の存否について

本件違反行為の存在を直接示す供述調書によれば本件違反行為の存在を認めることができ、また、証拠上、本件対象期間(平成11年4月1日から平成15年9月30日まで)中に入札が行われた物件のうち少なくとも21物件については、個別の受注調整の事実が認められることから、これらの個別の受注調整の事案によっても本件違反行為の存在が推認される。

b 被審人らの本件違反行為への参加の有無について

(a) 被審人長北組について

I 被審人長北組の代表取締役が受注調整を自認する供述をしており、その信用性につき疑いを生じさせる事情はうかがわれないほか、証拠によれば、被審人長北組は、新潟第4処理分区枝線1068~1102下水道工事について、本件基本合意(注)に沿って受注予定者となり、他の入札参加者の協力を得て落札・受注したことが認められ、また、受注した他の4物件についても、調整役から受注予定者になってよい旨の助言を受けて受注予定者となった後、他の入札参加者に対し協力依頼及び入札価格の連絡を行い、他の入札参加者の協力により落札・受注したことが認められる。

(注)受注を希望する者は、調整役又は入札参加者に対してその旨を表明し、①受注希望者が1社のときは、その者を受注予定者とし、②受注希望者が複数のときは、工事場所、過去の受注実績等の事情を勘案して調整役の助言又は受注希望者間の話合いに基づき受注予定者を決定し、受注すべき価格は受注予定者が定め、受注予定者以外の者は、受注予定者がその定めた価格で受注できるよう協力する旨の合意。

II また、証拠によれば、被審人長北組は、入札に参加したものの受注しなかった各物件について、受注予定者から協力依頼及び入札価格の連絡を受け、連絡を受けた価格で入札することにより、受注予定者が受注できるよう協力したことが認められる。

III 以上によれば、被審人長北組は本件違反行為に参加していたことが認められる。

(b) 被審人近代土木工業(株)(以下「被審人近代土木工業」という。)について

I 証拠によれば、被審人近代土木工業は、姥ヶ山排水区雨水枝線431~442下水道工事について、本件基本合意に沿って受注予定者となり、他の入札参加者の協力を得て落札・受注したことが認められ、また、受注した他の2物件について、調整役から受注予定者になってよい旨の助言を受けて受注予定者となった後、下水道建設課から設計金額の教示を受けた上、他の入札参加者に対し協力依頼及び入札価格の連絡を行い、他の入札参加者の協力により落札・受注したことが認められる。

II また、証拠によれば、被審人近代土木工業は、入札に参加したものの受注しなかった各物件について、受注予定者から協力依頼及び入札価格の連絡を受け、連絡を受けた価格で入札することにより受注予定者が受注できるよう協力したことが認められる。

III 以上によれば、被審人近代土木工業は本件違反行為に参加していたことが認められる。

(c) 被審人高春組について

I 証拠によれば、被審人高春組は、坂井輪排水区私道(その17)下水道工事について、本件基本合意に沿って受注予定者となり、他の入札参加者の協力を得て落札・受注したことが認められる。

II また、被審人高春組は、入札に参加したものの受注しなかった各物件について、受注予定者から協力依頼及び入札価格の連絡を受け、連絡を受けた価格で入札することにより、受注予定者が受注できるよう協力したことが認められる。

III 以上によれば、被審人高春組は本件違反行為に参加していたことが認められる。

c 措置の必要性の有無について

(a) 本件違反行為終了後、平成18年9月30日までの期間において、新潟市が入札を実施した概算設計金額8000万円以上の下水道開削工事の発注件数は27物件(以下この物件を「27物件」という。)であり、このうち25物件は制限付一般競争入札の方法により発注され、残りの2物件は指名競争入札の方法により発注された。

被審人らは、27物件のうちの一部の物件の入札に引き続き参加している一方、被審人ら以外に27物件の入札に参加した事業者は115社であるが、この115社には、本件違反行為者59社のうちの50社が含まれ、被審人ら及び50社は、27物件のうち、22物件を受注している。

(b) 本件違反行為のようないわゆる入札談合行為においては、一般的に、違反行為がいったん終了しても、競争を回避することによって利益を得ることを志向する個々の事業者の意識と、これを共同して行うことを容易にする事業者間の協調的な関係が直ちには解消されず、違反行為の実行を困難とする市場の状況の出現や違反行為の実行を確実に抑止するに足りる事情が存在しない限り、違反行為が再び行われるおそれがあるといえる。

さらに、本件違反行為は、遅くとも平成11年4月1日以降平成15年9月30日まで4年6か月の期間にわたり継続され、その終了は公正取引委員会の立入検査を契機とするものであって、被審人らを含む違反行為者らが自発的に終了させたものではない。

(c) これらの諸事情を考慮すれば、被審人長北組及び被審人高春組については、将来本件違反行為と同様の違反行為が行われるおそれがあると認めることができ、したがって、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第54条第2項に規定する「特に必要があると認めるとき」に該当するというべきである。

(d) 被審人近代土木工業は、平成19年6月30日、新潟県知事に建設業廃業の届出をし、同年7月3日、新潟市に建設業の許可を失った旨届け出たこと等により、今後、新潟市発注の下水道開削工事の入札に参加できないので、同被審人については、将来本件違反行為と同様の違反行為を行うおそれがあると認めることができず、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第54条第2項に規定する「特に必要があると認めるとき」に該当しないというべきである。

エ 法令の適用

独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)

オ 命じた措置等

(ア) 被審人長北組及び被審人高春組は、それぞれ、前記ウ(ア)の行為を取りやめている旨を確認することを取締役会において決議し、そのことを自社を除く被審人ら並びに排除勧告を応諾した19社及び同意審決を受けた26社に通知しなければならない。

(イ) 被審人長北組及び被審人高春組は、それぞれ、前記(ア)に基づいて採った措置及び今後、共同して、新潟市が競争入札の方法により発注する特定下水道開削工事について、受注予定者を決定せず、自主的に受注活動を行う旨を、新潟市に通知するとともに自社の従業員に周知徹底させなければならない。

(ウ) 被審人長北組及び被審人高春組は、今後、それぞれ、他の事業者と共同して、前記ウ(ア)と同様の行為を行ってはならない。

(エ) 被審人近代土木工業が行っていた前記ウ(ア)の行為は、独占禁止法第3条の規定に違反するものであり、かつ、当該行為は既になくなっていると認める。

(オ) 被審人近代土木工業の前記(エ)の行為については、格別の措置を命じない。

(3) (株)高健組ほか4社に対する審決(新潟市発注建築工事入札談合)

ア 被審人

イ 事件の経過

本件は、平成16年7月28日、公正取引委員会が前記アの被審人5社(以下「被審人ら」という。)を含む56名に対し、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告を行ったところ、45社がこれを応諾しなかったので、45社に対し、同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人らに対して審決案と同じ内容の審決を行った。

なお、公正取引委員会は、平成19年度までに、被審人らを除く40社に対して同意審決を行っている。

ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 違反行為の概要

被審人らを含む70社は、遅くとも平成11年4月1日(被審人(株)大石組〔以下「被審人大石組」という。〕にあっては平成15年5月30日ころ)以降、新潟市が制限付一般競争入札、公募型指名競争入札又は指名競争入札の方法により発注する建築一式工事についてAの等級に格付している者(Aの等級に格付している者を代表者とする共同企業体を含む。)のみを入札参加者として発注する建築一式工事(以下「特定建築工事」という。)について、受注価格の低落防止、受注機会の確保及び共存共栄を図るため、共同して、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにすることにより、公共の利益に反して、同工事の取引分野における競争を実質的に制限していた(以下「本件違反行為」という。)。

(イ) 主要な争点及びそれに対する判断

a 本件違反行為の存否について

本件違反行為の存在を直接示す供述調書によれば本件違反行為の存在を認めることができ、また、証拠上、本件対象期間(平成11年4月1日から平成15年9月30日まで)中に入札が行われた物件のうち少なくとも20物件については、個別の受注調整の事実が認められることから、これらの個別の受注調整の事実によっても、本件違反行為の存在が推認される。

b 被審人大石組を除く被審人4社の本件違反行為への参加の有無について

(a) 被審人(株)高健組(以下「被審人高健組」という。)について

I 被審人高健組は本件基本合意(注)の内容を認識しており、また、調整役に受注希望を表明し、自社が構成員となった共同企業体が受注予定者となった場合には入札に参加した他の共同企業体の協力を得て受注できたこと、他社又は他の共同企業体が受注予定者となった場合には受注予定者が受注できるよう協力していたことを自認している。そして、これらの自認供述の信用性について、特段疑いを生じさせる事情はうかがわれない。

(注)受注を希望する者は、調整役又は入札参加者に対してその旨を表明し、①受注希望者が1社のときは、その者を受注予定者とし、②受注希望者が複数のときは、過去の工事との関連性、工事場所等の事情を勘案して調整役の助言又は受注希望者間の話合いに基づき受注予定者を決定し、受注すべき価格は受注予定者(受注予定者が共同企業体である場合にあってはその代表者)が定め、受注予定者以外の者は、受注予定者がその定めた価格で受注できるよう協力する旨の合意。

II 証拠によれば、被審人高健組は、入札に参加したものの受注しなかった各物件について、受注予定者から入札価格の連絡を受け、受注予定者が受注できるよう協力したことが認められる。

III 以上によれば、被審人高健組は本件違反行為に参加していたことが認められる。

(b) 被審人(株)早勝工務店(以下「被審人早勝工務店」という。)について

I 被審人早勝工務店は、本件基本合意の内容を認識しており、また、同被審人が本件基本合意に沿って行動し、本件違反行為に参加していたことを自認している。そして、これらの自認供述の信用性について、特段疑いを生じさせる事情はうかがわれない。

II 証拠によれば、被審人早勝工務店を構成員とする本間・近藤・早勝共同企業体は、入舟小学校校舎改築工事について、本件基本合意に沿って受注予定者となり、他の入札参加者の協力を得て落札・受注したこと及び同被審人もその受注調整に関与したことが認められる。

III 以上によれば、被審人早勝工務店は本件違反行為に参加していたことが認められる。

(c) 被審人星山工業(株)(以下「被審人星山工業」という。)について

I 被審人星山工業は本件基本合意の内容を認識しており、また、自社が受注予定者となったときは他の入札参加者の協力を得て落札し、他社が受注予定者となったときは連絡を受けた入札価格どおりの価格で応札したことを自認しているところ、この自認供述の信用性について、特段疑いを生じさせる事情はうかがわれない。

II 証拠によれば、被審人星山工業を構成員とする平・星山共同企業体は、母子生活支援施設「藤見母子寮」改築及びデイサービスセンター藤見町(仮称)建設工事について、本件基本合意に沿って受注予定者となり、他の入札参加者の協力を得て落札・受注したこと及び同被審人もその受注調整に関与したことが認められる。

III 証拠によれば、被審人星山工業は、濁川小学校大規模改造工事について、本件基本合意に基づき受注予定者とされ、他の入札参加者に入札価格を連絡し、他の入札参加者の協力を得て受注したことが認められる。

IV 証拠によれば、被審人星山工業は、入札に参加したものの受注しなかった各物件について、受注予定者から入札価格の連絡を受け、受注予定者が受注できるよう協力したことが認められる。

V 以上によれば、被審人星山工業は本件違反行為に参加していたことが認められる。

(d) 被審人(株)野本建設(以下「被審人野本建設」という。)について

I 証拠によれば、被審人野本建設は、入札に参加したものの受注しなかった物件について、受注予定者から入札価格の連絡を受け、受注予定者が受注できるよう協力したことが認められる。

II 特に、山の下ポンプ場自家発電機棟建築工事について、受注予定者であった(株)大建建設(以下「大建建設」という。)は、営業次長や営業課長に指示して、入札参加業者すべてに対し、入札価格を連絡の上、受注への協力依頼を行わせた旨及び入札参加業者すべてが連絡を受けた価格で応札し協力したので大建建設が落札できた旨供述し、また、同社から留置した同物件の入札通知書の裏面には被審人野本建設を含む同物件の入札参加業者すべての名称と電話番号が手書きで書き込まれているので、同被審人も、受注予定者である大建建設から入札価格の連絡を受け、同社が受注できるよう協力したことが認められる。

III 以上によれば、被審人野本建設は本件違反行為に参加していたことが認められる。

c 措置の必要性の有無について

(a) 新潟市が発注する概算設計金額8000万円以上の建築一式工事の発注方法については、引き続き制限付一般競争入札又は指名競争入札の方法により発注されており、本件違反行為終了後、入札参加業者は大幅に増加したものの、本件違反行為者70社のうち、被審人5社及び54社(本件違反行為終了後、平成18年9月30日までの期間に建設事業に関する営業を本件違反行為者から承継した2社を含む。)は、同期間において、発注された58物件中49物件(約84.48パーセント)と、その多くを受注している。

(b) 本件違反行為のようないわゆる入札談合行為においては、一般的に、違反行為がいったん終了しても、競争を回避することによって利益を得ることを志向する個々の事業者の意識と、これを共同して行うことを容易にする事業者間の協調的な関係が直ちには解消されず、違反行為の実行を困難とする市場の状況の出現や違反行為の実行を確実に抑止するに足りる事情が存在しない限り、違反行為が再び行われるおそれがあるといえる。

さらに、本件違反行為は、遅くとも平成11年4月1日以降平成15年9月30日まで4年6か月の期間にわたり継続され、その終了は公正取引委員会の立入検査を契機とするものであって、被審人らを含む違反行為者らが自発的に終了させたものではない。

(c) これらの諸事情を考慮すれば、将来、被審人らを含む事業者らにより、本件違反行為と同様の違反行為が行われるおそれがあると認めることができ、本件は、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第54条第2項に規定する「特に必要があると認めるとき」に該当するというべきである。

エ 法令の適用

独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)

オ 命じた措置

(ア) 被審人らは、それぞれ、前記ウ(ア)の行為を取りやめている旨を確認することを取締役会において決議し、そのことを自社を除く被審人ら、排除勧告を応諾した11社及び同意審決を受けた40社並びに建設業に関する営業を他の事業者に承継させた2社に通知しなければならない。

(イ) 被審人らは、それぞれ、前記(ア)に基づいて採った措置及び今後、共同して、新潟市が競争入札の方法により発注する特定建築工事について、受注予定者を決定せず、自主的に受注活動を行う旨を、新潟市に通知するとともに自社の従業員に周知徹底させなければならない。

(ウ) 被審人らは、今後、それぞれ、他の事業者と共同して、前記ウ(ア)と同様の行為を行ってはならない。

(4) 平和コンクリート(株)ほか4社に対する審決(愛媛県発注ののり面保護工事の入札談合)

ア 被審人

イ 事件の経過

本件は、平成16年11月12日、公正取引委員会が前記アの被審人5社(以下「被審人ら」という。)を含む16社に対し、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告を行ったところ、16社がこれを応諾しなかったので、16社に対し、同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録並びに被審人(有)大成工業(以下「被審人大成工業」という。)から提出された異議の申立書及び同社から聴取した陳述に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人らに対して審決案と同じ内容の審決を行った。

なお、公正取引委員会は、平成20年度までに、被審人らを除く10社に対して同意審決を、1社に対して審判手続打切決定を行っている。

ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 違反行為の概要

被審人らは、遅くとも平成13年7月1日(被審人大成工業にあっては、遅くとも同年11月15日ころ)以降、愛媛県が指名競争入札の方法により、土木部、地方局建設部及び土木事務所において発注するのり面保護工事(工種がのり面工のみであるもの又は主たる工種がのり面工であるもの。以下「愛媛県発注の特定のり面保護工事」という。)について、受注価格の低落防止を図るため、他の事業者と共同して、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにすることにより、公共の利益に反して、同工事の取引分野における競争を実質的に制限していた(以下「本件違反行為」という。)。

(イ) 主要な争点及びそれに対する判断

a 本件違反行為の存否について

本件基本合意(注)の存在を認める各事業者の供述調書及び本件基本合意に沿う形で個別物件において受注調整が行われていたことを示す証拠等によれば、本件違反行為期間(平成13年7月1日以降平成16年3月23日まで)中、16社のうち少なくとも被審人大成工業を除いた15社(以下「15社」という。)間において本件基本合意が存在していたことが認められる。

(注)愛媛県から指名競争入札の参加の指名を受けた者が、世話役と称する者に対してその旨を連絡した上、過去に受注した工事との継続性、関連性、指名実績等の事情を勘案して、受注希望者間の話合い、世話役の助言又は世話役の決定に基づき受注予定者を決定し、受注すべき価格は、受注予定者が定め、受注予定者以外の者は、受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する旨の合意。

b 被審人大成工業の本件基本合意への参加の有無について

証拠によれば、被審人大成工業は、15社の所属する全国特定法面保護協会愛媛支部(以下「全特」という。)の会員ではなかったが、受注予定者となった場合は全特の会員と同様に自社の入札予定価格を指名業者に連絡するなどしていたこと、他の指名業者が受注予定者となった場合には受注予定者から入札価格の連絡を受けていたことなどから、被審人大成工業は、遅くとも、同被審人の価格連絡への関与が最初に認められる平成13年11月15日ころには、本件基本合意に参加していたものと認められる。

c 競争の実質的制限の有無について

本件では、前記aのとおり、本件基本合意の存在及びこれに基づいた個別物件における受注調整が行われたことが認められるところ、16社は、本件違反行為期間における愛媛県発注の特定のり面保護工事の発注物件537件のうち456件を受注しており、また、同受注物件456件のうち個別物件115件については具体的に本件基本合意の下での受注調整が認められ、これによれば、同受注物件456件中その余の341件についても、本件基本合意の下で現に受注調整が行われ、これにより16社が受注したものと推認される。

以上によれば、本件違反行為により、愛媛県発注の特定のり面保護工事の取引分野における競争が実質的に制限されていたことは明らかである。

d 措置の必要性の有無について

16社は、少なくとも2年以上の長期にわたって受注調整行為を行って、協調的関係を確立させていたのであり、さらに、本件違反行為の取りやめは、公正取引委員会が審査を開始したことによるものであって、被審人らの自発的意思に基づくものではないのであるから、被審人らにおいて、将来においても、本件と同様の違反行為を繰り返すおそれがあるものというべきである。

よって、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第54条第2項の規定により、被審人御荘造園開発(株)及び被審人大成工業の2社(以下「被審人2社」という。)に対して、審決によって排除措置を命ずる必要があると認められる。

他方、被審人平和コンクリート(株)、被審人大和工業(株)及び被審人橋本興業(株)は、既に解散しており、事業を再開する見込みはないと認められ、したがって、これら3社(以下「被審人3社」という。)に対しては、排除措置を命ずる必要があるとは認められない。

エ 法令の適用

独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)

オ 命じた措置等

(ア) 被審人2社は、前記ウ(ア)の行為を取りやめている旨を確認することを、業務執行機関において決議しなければならない。

(イ) 被審人2社は、それぞれ、前記(ア)に基づいて採った措置及び今後、他の事業者と共同して、愛媛県が競争入札の方法により発注するのり面保護工事について、受注予定者を決定せず、自主的に受注活動を行う旨を、相互に及び同意審決を受けた10社に通知するとともに、愛媛県に通知し、かつ、のり面保護工事の営業を担当する自社の従業員に周知徹底しなければならない。

(ウ) 被審人2社は、今後、他の事業者と共同して、前記ウ(ア)と同様の行為を行ってはならない。

(エ) 被審人2社は、今後、他の事業者と共同して、愛媛県が競争入札の方法により発注するのり面保護工事について、受注予定者を決定しないよう、のり面保護工事の営業を担当する従業員に対する独占禁止法に関する研修等を行うために必要な措置を講じなければならない。

(オ) 被審人3社が行っていた前記ウ(ア)の行為は、独占禁止法第3条の規定に違反するものであり、かつ、当該行為は既に無くなっていると認める。

(カ) 被審人3社の前記(オ)の行為については、格別の措置を命じない。

(5) 三菱重工業(株)及び新日本製鐵(株)に対する審決について(国土交通省の関東地方整備局、東北地方整備局及び北陸地方整備局発注の鋼橋上部工事並びに日本道路公団発注の鋼橋上部工工事の入札談合)

ア 被審人

(注)平成17年(判)第23号事件及び平成17年(判)第24号事件の被審人は共通である。

イ 事件の経過

本件は、平成17年9月29日、公正取引委員会が前記アの被審人ら(以下「被審人ら」という。)を含む45社に対し、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告を行ったところ、被審人らを含む5社がこれを応諾しなかったので、同5社に対し、同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録並びに被審人らから提出された異議の申立書並びに被審人らから聴取した陳述に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人らに対して審決案の内容を一部改めた審決を行った。

なお、公正取引委員会は、平成18年度までに、被審人らを除く3社に対して同意審決を行っている。

ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 違反行為の概要

a 平成17年(判)第23号事件

被審人ら及び48社は、遅くとも平成14年4月1日(一部の事業者にあっては平成15年4月1日)以降、国土交通省の関東地方整備局、東北地方整備局及び北陸地方整備局(以下「国土交通省の3地方整備局」という。)が一般競争入札、公募型指名競争入札、工事希望型指名競争入札又は指名競争入札の方法により発注する鋼橋上部工事(以下「3地方整備局発注の鋼橋上部工事」という。)について、受注価格の低落防止等を図るため、共同して、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにすることにより、同工事の取引分野における競争を実質的に制限していた。

b 平成17年(判)第24号事件

被審人ら及び48社は、遅くとも平成14年4月1日(一部の事業者にあっては平成15年4月1日)以降、日本道路公団が一般競争入札、公募型指名競争入札又は指名競争入札の方法により発注する鋼橋上部工工事について、受注価格の低落防止等を図るため、共同して、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにすることにより、同工事の取引分野における競争を実質的に制限していた。

(イ) 主要な争点及びそれに対する判断(平成17年(判)第23号事件及び同第24号事件)

a 本件違反行為の終了時期について

独占禁止法第2条第6項に規定する「不当な取引制限」は、一定の取引分野における複数の事業者が、当該取引分野において、競争を実質的に制限する受注調整の実施に係る合意(基本合意)を形成した後、当該基本合意に参加した事業者が個別物件において具体的に受注調整に関与していたか否かにかかわらず、原則として当該基本合意が消滅するまで存続する。

しかしながら、基本合意からの離脱の意思を有する者が、基本合意に基づく受注調整行為を取りやめ、かつ、基本合意の他の参加者に対して、当該離脱の意思が明確に認識されるような意思の表明又は行動等を行った場合には、当該離脱の意思を有する者が以後基本合意に拘束されない行為をすることを基本合意の他の参加者は予測して行動することが可能となるから、このような場合には、基本合意自体の消滅が認められないとしても、当該離脱の意思を有する者に基本合意からの離脱を認め、当該者の違反行為は終了したものとするのが相当である。

そして、基本合意からの離脱が認められるためには、他の参加者らによって実施される受注調整行為に対して歩調をそろえるという行為からも離脱するとの意思が他の参加者に明確に認識されるような意思の表明又は行動等の存在が必要であると解すべきであり、かつ、かかる意思の表明や行動等は、当該事業者の経営トップのそれのみでは足りず、基本合意に基づいて受注調整行為を実際に担当する者(本件においては被審人らの各K会〔注〕担当者)のそれにおいて認められることが必要というべきである。

(注)発注者側から示される意向に沿うように受注すべき者を決定し、当該受注すべき者が受注できるようにしていた談合組織。

(a) 平成17年(判)第23号事件について

被審人三菱重工業(株)(以下、「被審人三菱重工業」という。)及び被審人新日本製鐵(株)(以下、「被審人新日本製鐵」という。)のいずれについても、経営陣や代表取締役らは基本合意からの離脱の意思を有し、それぞれのK会担当者に対して受注調整の取りやめを厳命し、それを受けたK会担当者がK会の常任幹事社に対して、経営陣らの当該意思を伝えたことは認められるものの、K会担当者の立入検査後の一連の言動等にかんがみれば、K会担当者としては、結局のところ、経営陣らの指示に従うことができず、表立った行動は極力避けるようにしながらも、本件違反行為を継続している他の違反行為者の行動に追随して、経営陣らに内密に、本件違反行為を継続していたものと認めざるを得ず、また、K会担当者において、他の違反行為者に対して、離脱の意思が明確に認識されるような意思の表明を行ったものとは認められない。したがって、両社の基本合意からの離脱は認められない。

(b) 平成17年(判)第24号事件について

被審人三菱重工業においては、同社の代表取締役らは基本合意からの離脱の意思を有し、K会担当者に対して受注調整の取りやめを厳命し、それを受けたK会担当者がK会の常任幹事社に対して、同被審人の代表取締役らの当該意思を伝えたことは認められるものの、同社のK会担当者の立入検査後の一連の言動等にかんがみれば、K会担当者としては、結局のところ、上司の指示に従うことができず、表立った行動は極力避けるようにしながらも、違反行為を継続している他の違反行為者の行為に追随して、経営陣らに内密に、違反行為を継続していたものと認めざるを得ず、また、同被審人のK会担当者において、他の違反行為者に対して、離脱の意思が明確に認識されるような意思の表明を行ったものとは認められない。したがって、被審人三菱重工業の基本合意からの離脱は認められない。

被審人新日本製鐵においては、同社の経営陣らは基本合意からの離脱の意思を有し、K会担当者に対して受注調整の取りやめを厳命し、それを受けたK会担当者がK会の常任幹事社に対して、同被審人の経営陣らの当該意思を伝えたことは認められるものの、2件の工事について、K会担当者が受注予定者が受注できるように協力したことが認められ、これは、違反行為を継続するものにほかならないほか、K会担当者のK会の常任幹事社に対する発言等を総合的に勘案すると、結局のところ、被審人新日本製鐵のK会担当者においては、経営陣らの指示に従うことができず、他の違反行為者に対して、離脱の意思が明確に認識されるような意思の表明又は行動等を行うことができなかったものと認めざるを得ない。したがって、被審人新日本製鐵の基本合意からの離脱は認められない。

b 措置の必要性の有無について

本件違反行為のような入札談合行為は、受注価格の低落を防止する当事者相互の利益に合致するものであり、かつ、多数の発注物件について、複数の事業者が他の事業者と共同して、受注予定者を決定し、受注予定者以外の者は受注予定者が受注できるように協力する行為を長期間にわたり継続的・恒常的に行うという性質を持つから、事業者間の協調的な関係が強固に形成されるものである。そのため、一般的に違反行為が合意の消滅によりいったん終了しても、事業者間において醸成された競争回避的意識や協調的関係は直ちには解消されず、再び同様の行為が行われる誘引性が高いものというべきである。したがって、違反行為の実行を困難とする市場の状況の出現等違反行為の再発が確実に抑止されるものと認めるに足りる事情が存在しない限り、違反行為が再び行われるおそれがあり、排除措置を命ずる必要性があるというべきである。

本件においては、一般競争入札の方法による発注方法が拡大したことが認められるが、被審人らは一般競争入札の方法による発注についても本件違反行為を実施していたこと等に照らすと、一般競争入札の方法による発注が拡大したからといって違反行為の実行を困難とする市場の状況が出現したものとは認められないし、他にかかる状況が出現したものと認めるべき事情は認められない。

また、被審人らは、違反行為の再発防止措置として十分な措置を講じていること等から、排除措置の必要性がない旨主張するが、いずれも違反行為の再発を防止する確実な事情とまでは認められず、被審人らについて排除措置を命ずる必要性が認められる。

エ 法令の適用

独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)

オ 命じた措置
(ア) 平成17年(判)第23号事件について

a 被審人らは、前記ウ(ア)aの行為を取りやめている旨を取締役会において確認しなければならない。

b 被審人らは、それぞれ、前記aに基づいて採った措置を日鉄ブリッジ(株)、三菱重工鉄構エンジニアリング(株)(以下「被審人らの承継事業者」という。)、自社を除く違反行為者42社及び古河産機システムズ(株)に通知するとともに、国土交通省の3地方整備局に通知し、かつ、被審人らの承継事業者をして同社の従業員に、今後、他の事業者と共同して、3地方整備局発注の鋼橋上部工事について、受注予定者を決定せず、各社がそれぞれ自主的に受注活動を行う旨を周知徹底させるよう指導しなければならない。

c 被審人らは、今後、被審人らの承継事業者をして、他の事業者と共同して、3地方整備局発注の鋼橋上部工事について、受注予定者の決定をさせてはならない。

d 被審人らは、それぞれ、被審人らの承継事業者が、今後、3地方整備局発注の鋼橋上部工事について受注予定者を決定することがないようにするため、それぞれ、被審人らの承継事業者に対し、次の(a)ないし(d)の事項を行うために必要な措置を講じるよう指導しなければならない。

(a) 独占禁止法の遵守に関する行動指針の作成又は改定

(b) 3地方整備局発注の鋼橋上部工事の営業担当者に対する定期的な研修及び監査

(c) 独占禁止法違反行為に関与した役員及び従業員に対する処分に関する規定の整備

(d) 独占禁止法違反行為に係る通報者に対する適切な取扱いを定めるなど実効性のある社内通報制度の設置

e 被審人らは、それぞれ、被審人らの承継事業者に対し、違反行為期間中にK会と称する会に登録していた自社の営業責任者級の者を、少なくとも今後3年間、3地方整備局発注の鋼橋上部工事に係る営業業務に従事させないよう指導しなければならない。

(イ) 平成17年(判)第24号事件について

a 被審人らは、前記ウ(ア)bの行為を取りやめている旨を取締役会において確認しなければならない。

b 被審人らは、それぞれ、前記aに基づいて採った措置を被審人らの承継事業者、自社を除く違反行為者42社及び古河産機システムズ(株)に通知するとともに、日本道路公団から高速道路の新設、改築、維持、修繕等に関する業務を承継した東日本高速道路(株)、中日本高速道路(株)及び西日本高速道路(株)の3社(以下「民営化後3社」という。)に通知し、かつ、被審人らの承継事業者をして、同社の従業員に、今後、他の事業者と共同して、民営化後3社において競争入札の方法により鋼橋上部工工事として発注する工事(以下「民営化後3社発注の鋼橋上部工工事」という。)について、受注予定者を決定せず、各社がそれぞれ自主的に受注活動を行う旨を周知徹底させるよう指導しなければならない。

c 被審人らは、今後、被審人らの承継事業者をして、他の事業者と共同して、民営化後3社発注の鋼橋上部工工事について、受注予定者の決定をさせてはならない。

d 被審人らは、それぞれ、被審人らの承継事業者が、今後、民営化後3社発注の鋼橋上部工工事について受注予定者を決定することがないようにするため、それぞれ、被審人らの承継事業者に対し、次の(a)ないし(d)の事項を行うために必要な措置を講じるよう指導しなければならない。

(a) 独占禁止法の遵守に関する行動指針の作成又は改定

(b) 民営化後3社発注の鋼橋上部工工事の営業担当者に対する定期的な研修及び監査

(c) 独占禁止法違反行為に関与した役員及び従業員に対する処分に関する規定の整備

(d) 独占禁止法違反行為に係る通報者に対する適切な取扱いを定めるなど実効性のある社内通報制度の設置

e 被審人らは、それぞれ、被審人らの承継事業者に対し、違反行為期間中に前記ウ(ア)bの違反行為に関与していた自社の営業担当者を、少なくとも今後3年間、民営化後3社発注の鋼橋上部工工事に係る営業業務に従事させないよう指導しなければならない。

(6) (株)カネカ及び三菱レイヨン(株)に対する審決(塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの価格カルテル)

ア 被審人

イ 事件の経過

本件は、平成15年12月11日、公正取引委員会が前記アの被審人ら(以下「被審人ら」という。)に対し、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条2項の規定に基づき勧告を行ったところ、被審人らがこれを応諾しなかったので、被審人らに対し、同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録並びに被審人らから提出された異議の申立書及び同社らから聴取した陳述に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人らに対して審決案と同じ内容の審決を行った。

ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 違反行為の概要

被審人(株)カネカ(以下「被審人カネカ」という。)及び被審人三菱レイヨン(株)(以下「被審人三菱レイヨン」という。)は、呉羽化学工業(株)(現(株)クレハ)(以下「クレハ」という。)とともに、プラスチックに少量添加することにより、プラスチックが有する化学的、物理的性質を損なうことなく、衝撃強度、耐候性、加工性等を改良し、製品物性、外観、生産性等を向上させるために用いられる改質剤であるモディファイヤーのうち塩化ビニル樹脂に添加されるもの(以下「塩化ビニル樹脂向けモディファイヤー」という。)について、平成11年10月中旬ころ及び平成12年11月21日までにそれぞれの販売価格を決定することにより、公共の利益に反して、我が国における塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売分野における競争を実質的に制限していた(以下「本件違反行為」という。)。

(イ) 主要な争点及びそれに対する判断

a 平成11年の合意の成否について

被審人ら及びクレハ(以下「3社」という。)の営業部長級の者は、3社の営業課長級の者からの、3社で足並みをそろえた販売価格引上げが必要であるとの3社の営業課長級の者の認識の報告を踏まえて、又は、他社の営業部長級の者とのやり取りを通じて、他社の販売価格引上げの意思を認識し、これに合わせて自社も販売価格を引き上げることを決定し、これに基づいて3社の営業課長級の者により販売価格引上げの打ち出し額及び実施時期の具体的内容が決定されたものと推認される。そして、3社が平成11年11月19日ころに、販売価格引上げ交渉の早期妥結を得るため、販売価格引上げの打ち出し額よりも低い額を引き上げることでもやむを得ないものとし、妥結可能な需要者から順次交渉を決着させることとしたこと及びその後も販売価格引上げの交渉の進捗状況について報告し合い、各社がきちんと需要者と交渉を行っているかどうかを相互に確認していたことに加え、同年10月ころまでの経緯(市場動向等に関する情報交換を行ってきたなど)及び3社の販売価格引上げの打ち出し時期並びに当該打ち出しにおける引上げ額及び引上げの実施時期が近接又は一致していること等の一連の事情にかんがみると、平成11年の合意が成立したことが優に認められる。

b 平成12年の合意の成否について

不当な取引制限の要件である「共同して対価を引き上げる」の「共同して」に該当するというためには、「意思の連絡」、すなわち、複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し、これと歩調をそろえる意思があることが必要であるところ、クレハは、販売価格引上げを先行して打ち出せば被審人らが追随して販売価格引上げを打ち出すと予測して販売価格引上げを打ち出したのであるから、同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し、これと歩調をそろえる意思があったことは明らかである。また、被審人らも、クレハからの追随要請やクレハの販売価格引上げの打ち出しを受けて、これと歩調をそろえる意思で販売価格引上げを打ち出したのであるから、被審人カネカが販売価格引上げの打ち出しを行った平成12年11月21日までに、3社間で「意思の連絡」、すなわち、平成12年の合意が成立したと認められるというべきである。

c 競争の実質的制限の有無について

市場におけるシェアの大半を占める3社が、販売価格引上げの合意を行い、需要者に対して販売価格引上げを打ち出した上、それぞれの需要者との価格引上げ交渉の状況を確認するための会合を開催するなどしていたのであるから、3社の共同行為により、競争の実質的制限がもたらされていたことは明らかというべきである。

d 本件違反行為の終了時期について

いわゆる価格カルテルについては、事業者間の合意が破棄されるか、破棄されないまでも当該合意による相互拘束が事実上消滅していると認められる特段の事情が生じるまで当該合意による相互拘束は継続するというべきところ、本件違反行為を構成する平成11年の合意及び平成12年の合意は、平成14年12月31日以前には破棄されておらず、また、これらの合意による相互拘束が事実上消滅していると認められる特段の事情も生じていない。したがって、少なくとも同年12月31日までは違反行為が継続していたと認められる。

e 措置の必要性の有無について

3社の協調関係は強固なものであったと認められ、また、被審人らには、共同して価格引上げを行おうとする誘因が存在しているものと認められる。

したがって、今後、被審人ら2社間又は他社との協調関係が再び形成される可能性があり、本件違反行為と同様の行為が再び行われるおそれが認められるから、排除措置を命じる必要がある。

エ 法令の適用

独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)

オ 命じた措置

(ア) 被審人らは、前記ウ(ア)の各合意が、平成15年1月1日以降、事実上消滅していることを、取締役会において決議しなければならない。

(イ) 被審人らは、前記(ア)に基づいて採った措置及び今後、相互の間において又は他の事業者と共同して、塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売価格を決定せず、各社がそれぞれ自主的に決める旨を、塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの取引先販売業者及び需要者に周知しなければならない。

(ウ) 被審人らは、今後、相互の間において又は他の事業者と共同して、塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売価格を決定してはならない。

(エ) 被審人らは、今後、相互に又は他の事業者と塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売価格の引上げについて情報交換を行ってはならない。

(オ) 被審人らは、今後、相互の間において又は他の事業者と共同して、塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売価格を決定することのないよう、また、相互に又は他の事業者と塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売価格の引上げについて情報交換を行うことのないよう、営業担当者に対する独占禁止法に関する研修、法務担当者による定期的な監査等を行うために必要な措置を講じなければならない。

(7) (株)平野組ほか79社に対する審決

ア 被審人

イ 事件の経過

本件は、平成17年6月21日、公正取引委員会が前記アの被審人ら(以下「被審人ら」という。)を含む91社に対し、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告を行ったところ、被審人らがこれを応諾しなかったので、被審人らに対し、同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録並びに(株)堀切を除く被審人らから提出された異議の申立書及び北水建設工業(株)、南建設(株)、(株)土橋工務店及び(株)堀切を除く被審人らから聴取した陳述に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人らに対して審決案の内容を一部改めた審決を行った。

なお、公正取引委員会は、平成21年度中に、(株)阿部工務店、共栄建設(株)、(株)石川工務所、阿部建設(株)及び中村建設(株)に対してそれぞれ審判手続打切決定を行っている。

ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 違反行為の概要

被審人らを含む106社(以下「106社」という。)は、遅くとも平成13年4月1日(一部の事業者にあっては、それぞれ、遅くとも平成13年11月8日、平成15年9月24日又は同年10月16日ころ)以降行っていた、岩手県が条件付一般競争入札、受注希望型指名競争入札又は指名競争入札の方法により、Aの等級に格付している者のうち、同県内に本店を置く者(これらの者のみを構成員とする特定共同企業体を含む。)のみを入札参加者として発注する建築一式工事について、受注価格の低落防止等を図るため、共同して、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにすることにより、公共の利益に反して、同工事の取引分野における競争を実質的に制限していた(以下「本件違反行為」という。)。

(イ) 主要な争点及びそれに対する判断

a 106社が本件違反行為を行ったか否かについて

106社が会員となっていたTST親交会等の多数の会員の関係者が本件基本合意と同内容のルールに従って受注調整が行われていたことを認める供述をしていること、同会の関係者から受注調整が行われていたと考えなければ説明が困難と考えられる文書が多数留置されていること、同会の会員間において、本件発注物件133物件のうち63物件について、本件基本合意の方法で受注調整が行われていたといえ、地域的・時期的な偏りがないこと、同会の役員会で受注調整を継続していくための方策が検討され、同会の総会で引き続き受注調整を継続することを確認していたことなどの諸事情に照らせば、同会の会員間における本件基本合意の成立及びそれに基づく受注調整が行われてきたものと認めるのが相当である。

そして、TST親交会等の設立目的、入会手続、入会時の連絡文書の内容、受注調整に関する会員への連絡等の存在などに照らせば、同会の会員となった事業者は、特段の事情のない限り、同会で受注調整が行われていること等を認識していたものと認めるのが相当であり、106社のいずれについてもこの特段の事情は認められない。

以上によれば、106社は本件基本合意に加わり、本件違反行為に及んでいたものと認められる。

b 本件違反行為が「競争を実質的に制限」(独占禁止法第2条第6項)するものであったか否かについて

本件違反行為が実質的に継続されており、本件違反行為が競争を実質的に制限するものであると認識されていたことが強く推認されること、106社の受注実績が大きいこと、106社が受注した本件受注物件118物件のうち60物件の全部又は大部分において本件基本合意に基づく受注調整が行われたものと推認されること、本件違反行為の参加者らが、アウトサイダーが参加する可能性があることを当初から認識していたことは明らかであり、実際に、少なくとも12物件でアウトサイダーへの協力要請が行われ、うち11件については、アウトサイダーが協力していたことなどに照らせば、本件違反行為は競争を実質的に制限するものであったと認めるのが相当である。

c 本件違反行為についての除斥期間(独占禁止法第7条第2項ただし書)が経過したか否かについて

本件違反行為及びそれによる競争の実質的制限は本件期間の全体を通じて維持されており、除斥期間の起算日である「当該行為がなくなった日」は立入検査の前日と認めるのが相当であるから、除斥期間は経過していない。

d 被審人らに対して排除措置を命ずることにつき「特に必要があると認めるとき」(独占禁止法第54条第2項)に当たるか否かについて

被審人らが長期間にわたって本件違反行為を継続していたこと、岩手県による入札制度改革や談合疑惑に基づく事情聴取が行われても、被審人らはそれらへの対応策を講じつつ本件違反行為を継続したこと、違反行為の取りやめは立入検査によるものであり被審人らの自発的意思に基づくものではないこと、岩手県発注の建築一式工事について被審人らが依然として大きなシェアを占めていること、岩手県による入札制度の状況などの諸事情に照らせば、被審人79社に対して、排除措置を命ずることにつき「特に必要があると認めるとき」に該当すると認められる。

エ 法令の適用

独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)

オ 命じた措置

(ア) 被審人らのうち被審人(株)ビックランドを除く被審人79社(以下「被審人79社」という。)は、前記ウ(ア)の行為を取りやめている旨を確認することを取締役会等の業務執行の決定機関において決議しなければならない。

(イ) 被審人79社は、それぞれ、前記(ア)に基づいて採った措置及び今後、共同して、岩手県が条件付一般競争入札、受注希望型指名競争入札又は指名競争入札の方法により発注する建築一式工事について、受注予定者を決定せず、各社がそれぞれ自主的に受注活動を行う旨を、被審人79社のうち自社を除く78社及び岩手県に通知し、かつ、自社の従業員に周知徹底しなければならない。

(ウ) 被審人79社は、今後、それぞれ、相互の間において又は他の事業者と共同して、岩手県が競争入札の方法により発注する建築一式工事について、受注予定者を決定してはならない。

(エ) 被審人(株)ビックランドが行っていた、前記ウ(ア)の行為は、独占禁止法第3条の規定に違反するものであり、かつ、当該行為は既に無くなっていると認める。

(オ) 被審人(株)ビックランドの前記(エ)の違反行為については、同被審人に対し、格別の措置を命じない。

2 課徴金の納付を命ずる審決

(1) 住友化学(株)ほか3社に対する審決(ポリプロピレン製造販売業者による価格カルテル)

ア 被審人及び納付を命じた課徴金の額

イ 事件の経過

本件は、平成20年6月20日、公正取引委員会が前記アの被審人ら(以下「被審人ら」という。)に対し平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ、被審人らは、これを不服として審判手続の開始を請求したので、同年8月28日、被審人らに対し、同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録及び被審人らから提出された異議の申立書に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人らに対して審決案と同じ内容の審決をそれぞれ行った。

ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 課徴金に係る違反行為の概要

被審人らは、他の事業者と共同して、ポリプロピレン(原料であるナフサの価格に連動して販売価格を設定する旨の契約を締結しているものを除く。以下同じ。)の販売価格の引上げを決定することにより、公共の利益に反して、我が国におけるポリプロピレンの販売分野における競争を実質的に制限していた。

(イ) 課徴金の計算の基礎となる事実及び課徴金額の算定

被審人住友化学(株)(以下「被審人住友化学」という。)が本件違反行為の実行としての事業活動を行った期間は、平成12年4月20日から同年5月29日までであり、この期間におけるポリプロピレンの販売に係る被審人住友化学の売上額は、19億5281万542円である。課徴金の額は、この売上額に100分の6を乗じて得た額から1万円未満の端数を切り捨てて算出された1億1716万円である。

被審人(株)トクヤマ(以下「被審人トクヤマ」という。)が本件違反行為の実行としての事業活動を行った期間は、平成12年4月21日から同年5月29日までであり、この期間におけるポリプロピレンの販売に係る被審人トクヤマの売上額は、7億9660万6952円である。課徴金の額は、この売上額に100分の6を乗じて得た額から1万円未満の端数を切り捨てて算出された4779万円である。

被審人サンアロマー(株)(以下「被審人サンアロマー」という。)が本件違反行為の実行としての事業活動を行った期間は、平成12年5月1日から同月29日までであり、この期間におけるポリプロピレンの販売に係る被審人サンアロマーの売上額は16億9908万5486円である。課徴金の額は、この売上額に100分の3を乗じて得た額から1万円未満の端数を切り捨てて算出された5097万円である。

被審人出光興産(株)(以下「被審人出光興産」という。)が本件違反行為の実行としての事業活動を行った期間は、平成12年4月21日から同年5月29日までであり、この期間におけるポリプロピレンの販売に係る出光興産の売上額は23億6921万6502円である。課徴金の額は、この売上額に100分の6を乗じて得た額から1万円未満の端数を切り捨てて算出された1億4215万円である。

(ウ) 主要な争点及びそれに対する判断

a 被審人は、本件違反行為の不存在を主張し得るか。(全事件共通)

本件審判は、本件違反行為に関し、審判手続を経た上で、公正取引委員会が本件違反行為の存在を認定し、独占禁止法第54条第2項の規定により平成13年(判)第15号審決(以下「本案審決」という。)を行った後、本件違反行為について同一の被審人らに対して課徴金納付命令が発せられたことに由来する課徴金に係る審判であるところ、被審人らには、本案審決に係る審判手続において本件違反行為の存否を争う機会が与えられており、公正取引委員会は、被審人らの主張立証を踏まえて本件違反行為の存在を認定して本案審決を行ったものである。

このような場合には、課徴金に係る審判において、被審人らが重ねて本件違反行為の不存在を主張することは許されないと解するのが相当であるから、本件違反行為は存在しない旨の被審人の主張はそれ自体失当であり、本件審判においては、本案審決の認定に係る本件違反行為の存在を前提とした上で、判断すべきこととなる。

b 被審人サンアロマーが本件実行期間内に昭和電工プラスチックプロダクツ(株)に対して販売したポリプロピレン(売上額2329万4602円。以下「本件商品」という。)が独占禁止法第7条の2第1項所定の「当該商品」に該当するものとして課徴金算定の対象となるか。(平成20年(判)第20号事件)

本案審決において認定された本件違反行為は、「ポリプロピレン(原料であるナフサの価格に連動して販売価格を設定する旨の契約を締結しているものを除く。)」を対象商品とするものであり、その取引先による限定は加えられていない。そうである以上、本件商品は、本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であり、特段の事情のない限り、「当該商品」に該当し、課徴金算定対象に含まれるものと推定すべきである。

被審人サンアロマーは、特段の事情を基礎付けるものとして、本件各事情、すなわち昭和電工プラスチックプロダクツ(株)とのグループ企業関係、取引形態、価格改定の手順等を主張するが、本件各事情は特段の事情を基礎付けるものではなく、本件商品が本件違反行為による拘束を受けていたことと矛盾する事実とはいえない。したがって、本件商品は、独占禁止法第7条の2第1項所定の「当該商品」に該当するものと認められ、課徴金算定対象に含まれることとなる。

c 被審人出光興産が本件実行期間内に出光ユニテック(株)(以下「出光ユニテック」という。)に対して販売したポリプロピレン(売上額2億3794万1291円。以下「本件ユニテック向け商品」という。)及びカルプ工業(株)(以下「カルプ工業」という。)に対して販売したポリプロピレン(売上額1億7935万4166円。以下「本件カルプ向け商品」という。)が、独占禁止法第7条の2第1項所定の「当該商品」に該当するものとして課徴金算定の対象となるか。(平成20年(判)第18号事件)

独占禁止法第7条の2第1項所定の「当該商品」とは、違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であって、当該行為による拘束を受けたものをいうものと解される。そして、違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については、当該行為を行った事業者又は事業者団体が明示的又は黙示的に当該行為の対象からあえて除外していたか、又はこれと同視し得る合理的な理由によって定型的に当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情がない限り、当該行為による拘束を受けたものと推定し、前記「当該商品」に該当するものとして課徴金の算定対象に含めるのが相当である。

本案審決において認定された本件違反行為の対象商品は、「ポリプロピレン(原料であるナフサの価格に連動して販売価格を設定する旨の契約を締結しているものを除く。)」であり、その取引先による限定は加えられていないことから、本件ユニテック向け商品及び本件カルプ向け商品は、いずれも、本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品といえる。また、本件ユニテック向け商品及び本件カルプ向け商品が、本件違反行為の参加者らにおいて、明示的又は黙示的に本件違反行為の対象からあえて除外したものに該当すると認めるべき証拠はない。

被審人出光興産は、本件ユニテック向け商品及び本件カルプ向け商品は、いずれも課徴金の算定対象から除外されるべきであると主張する。しかし、出光ユニテックについては、出光石油化学(株)(以下「出光石化」という。)とは別個の法人格を有するものとして、同社から購入したポリプロピレンを原料として製造した製品を自ら需要者に販売していた者であり、出光石化からの購入価格が本件違反行為によるポリプロピレンの値上げ等と連動していたという事情を考慮すると、本件ユニテック向け商品がその性質上客観的にみて本件違反行為の対象外のものであるとみることはできないし、その売上げが同一企業内における加工部門への物資の移動と同視し得るものということもできない。また、カルプ工業については、出光石化と密接な関係にあったとはいえ同社の完全な支配下にあったのではない上、同社から購入したポリプロピレンを原料として製造した製品を自ら需要者に販売していた者であり、かつ、出光石化からの購入価格は本件違反行為によるポリプロピレンの値上げ等と連動していた。

以上より、本件ユニテック向け商品及び本件カルプ向け商品について、いずれも本件違反行為の参加者らが明示的又は黙示的に当該行為の対象からあえて除外していたことと同視し得る合理的な理由によって定型的に当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情があると認めることはできず、本件違反行為による拘束を受けたものと推定し、独占禁止法第7条の2第1項所定の「当該商品」に該当するものとして課徴金の算定対象に含めるのが相当である。

エ 法令の適用

独占禁止法第7条の2

(2) (株)サカタのタネほか8社に対する審決(元詰種子の価格カルテル)

ア 被審人及び納付を命じた課徴金の額

イ 事件の経過

本件は、平成19年10月30日、公正取引委員会が前記アの被審人ら(以下「被審人ら」という。)を含む13社に対し平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ、被審人らは、これを不服として審判手続の開始を請求したので、平成20年1月15日、被審人らに対し、同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人に対して審決案と同じ内容の審決を行った。

ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 課徴金に係る違反行為の概要

被審人らは、他の事業者と共同して、遅くとも平成10年3月19日以降、はくさい、キャベツ、だいこん及びかぶの交配種の種子(以下「4種類の元詰種子」という。)のいずれか又はすべてについて、各社が販売価格を定める際の基準となる価格を毎年決定し、各社は当該価格の前年度からの変動に沿って、品種ごとに販売価格を定め、取引先販売業者及び需要者に販売する旨合意することにより、公共の利益に反して、我が国における各被審人らごとの各元詰種子の販売分野における競争を実質的に制限していた。

(イ) 課徴金の計算の基礎となる事実及び課徴金額の算定

被審人らが本件違反行為の実行としての事業活動を行った期間は、平成10年10月4日から平成13年10月3日までの3年間であり、課徴金額は、被審人らのこの期間における各被審人ごとの4種類の元詰種子の各売上額に、100分の1を乗じて得た額から1万円未満の端数を切り捨てて算出された金額となり、各社の課徴金額は前記アの課徴金額欄のとおりである。

(ウ) 主要な争点及びそれに対する判断

a 被審人らは、本件違反行為の不存在を主張し得るか。(被審人(株)サカタのタネを除く被審人ら)

被審人らは、本件違反行為が存在しない旨主張するが、本件違反行為に関しては、公正取引委員会が、平成14年(判)第61号審決(以下「本案審決」という。)に係る審判手続において被審人らに主張立証の機会を与えた上で、本案審決においてその存在を認定している。したがって、本案審決を前提として行われる本件課徴金審判手続において、被審人らが重ねて本件違反行為の不存在を主張することは許されないと解するのが相当である。

b 被審人らが本件実行期間内に販売した本件各種子のうち、次の(b)ないし(d)がそれぞれ独占禁止法第7条の2第1項所定の「当該商品」に該当するものとして課徴金算定の対象となるか。(被審人(株)サカタのタネを除く被審人ら)

(a) 独占禁止法第7条の2第1項所定の「当該商品」とは、違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であって、当該行為による拘束を受けたものをいうものと解される。そして、違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については、当該行為を行った事業者又は事業者団体が明示的又は黙示的に当該行為の対象からあえて除外したこと、あるいはこれと同視し得る合理的な理由によって定型的に当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情がない限り、当該行為による拘束を受けたものと推定し、前記「当該商品」に該当するものとして課徴金の算定対象に含めるのが相当である。

(b) 平成20年(判)第1号事件の審決案別紙1記載のはくさい、キャベツ及びだいこんの各品種に係るもの(いずれも、価格表価格が基準価格から大幅に乖離していると主張されているもの。以下「本件乖離種子」という。)(平成20年(判)第1号事件のみ)

本件違反行為においては、販売価格の設定は基準価格の「前年度からの変動に沿って」行われるものとされており、基準価格と価格表価格との間には乖離があることが予定されていたのであるから、単に本件乖離種子の価格表価格が基準価格から大幅に乖離していたというだけでは、それが本件違反行為の対象とされていなかったと推認することはできない。実際にも、本件乖離種子の価格表価格(「小売標準価格」のうち基準価格で定められた容量に対応するもの)と基準価格(小売価格に係るもの)の推移を対比してみると、前記価格表価格の設定のほとんどが、基準価格の前年度からの変動に沿うものであったと認められる。

以上によれば、本件乖離種子に関して、前記(a)の特段の事情があるということはできず、その他、かかる特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

(c) ペレット種子(生種子に珪藻土等を付着させて一定の大きさに成形した種子)に該当するもの

I 被審人らは、ペレット種子に関して、その付加価値、競争環境、価格等における生種子との差異を主張する。

しかしながら、ペレット種子と生種子とは、同一の生産物を栽培するための種子であって、需要者においてそれぞれの価格と利用上の利便等を対比して選択することができるものとして競合的に販売に供されているものであり、したがって、その一方の価格の変動は、それぞれの需給関係に影響を及ぼし得る関係にあるというべきであるから、本件違反行為の参加者らが当該行為の対象からあえてペレット種子を除外するということは通常は考えにくいというべきであり、また、本件違反行為の参加者らにそのような除外の意図があったことをうかがわせる証拠も存在しない。

よって、ペレット種子に関しては、単に生種子との間に被審人らの主張のような差異があるというだけでは、前記(a)の特段の事情があるということはできない。

II 被審人タキイ種苗(株)(以下「被審人タキイ種苗」という。)は、平成10年度及び平成11年度におけるだいこんのペレット種子の価格表価格の変動を例にとって、本件ペレット種子の販売価格が基準価格の変動に沿って設定されていない旨主張する。

しかしながら、証拠及び本案審決によれば、はくさい、キャベツ、だいこん及びかぶに係る本件ペレット種子の価格表価格(「小売標準価格」に係るもの)と基準価格(小売価格に係るもの)の推移を対比してみると、だいこんに係る本件ペレット種子の価格表価格に関しては、平成10年度における3品種及び平成11年度における3品種はそれぞれ基準価格(小売価格に係るもの)の引上げにもかかわらず据え置かれているものの、その余の各4品種は、ほぼ基準価格の前年度からの変動に沿って設定されており、はくさい、キャベツ及びかぶに係る本件ペレット種子の価格表価格に関しては、そのほとんどの品種につき基準価格の前年度からの変動に沿って設定されているのであって、おおむね基準価格に沿った価格表価格の設定がされているものということができる。

また、証拠及び本案審決によれば、被審人タキイ種苗を除く被審人らについては、各ペレット種子の価格表価格のほとんどが、対応する生種子の価格表価格、ひいては対応する基準価格とほぼ連動しているものと認められる。

以上によれば、本件ペレット種子に関して、前記(a)の特段の事情があるということはできない。

(d) 通信販売の方法で販売されたもの(以下「本件通販種子」という。)(平成20年(判)第1号事件のみ)

被審人タキイ種苗は、本件通販種子に関して、元詰部会(注)の検討対象から明確に除外されており、実際にも平成10年春の通販部会(以下「本件会合」という。)において元詰部会とは異なる判断がされた旨主張し、証拠及び本案審決によれば、本件会合において、通販種子の販売価格について「前年据え置きを基本案とする」との結論に至ったことが認められる。

しかしながら、証拠及び本案審決によれば、①本件実行期間における被審人タキイ種苗の通販種子の取扱品目は、価格表に掲載されているもの(通常の小売販売の対象たる元詰種子)と同様であること、②本件通販種子のカタログの販売価格と当該各品種の価格表価格(「小売標準価格」に係るもの)の推移によれば、本件通販種子の価格設定は、前記価格表価格の設定とほぼ一致していること、③本件会合の検討対象とされた平成10年度の本件通販種子の価格設定をみても、実際に据え置かれたものは1品種しかなく、ほとんどの品種について、ほぼ価格表価格(ひいては基準価格)の変動に沿って価格改定されていること、④本件会合における検討対象には、本件違反行為の対象に含まれない「固定種」(「交配種」とは異なり、遺伝的に固定している品種のこと)や「小袋」も含まれていたこと、⑤平成9年度の通販部会の会合においては、同年3月27日の元詰部会の会合において最終的に2.9%の値上げが行われた旨の報告があり、それを踏まえて、最終的に「3%基調50円単位の値上」げをするとの結論に至ったことが認められ、また、平成10年度を除き、平成11年度から平成13年度までの通販部会の会合において平成10年度のような特段の状況があったことについての主張立証はない。

これらの事情を踏まえれば、本件通販種子に関して、元詰部会の検討対象から除外されていたとか、平成10年度については元詰部会における決定の拘束が本件会合の結論により排除されていたとは認められず、前記(a)の特段の事情があるということはできない。

(注)社団法人日本種苗協会が設けている専門部会。

エ 法令の適用

独占禁止法第7条の2

(3) (株)クボタほか2社に対する審決(ダクタイル鋳鉄管のシェア配分カルテル)

ア 被審人及び納付を命じた課徴金の額

イ 事件の経過

本件は、平成11年12月22日、公正取引委員会が前記アの被審人3社(以下「被審人ら」という。)に対し平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ、被審人らは、これを不服として審判手続の開始を請求したので、平成12年2月10日、被審人らに対し、同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録並びに被審人らから提出された異議の申立書及び被審人らから聴取した陳述に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人らに対して審決案と同じ内容の審決をそれぞれ行った。

ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 課徴金に係る違反行為の概要

被審人らは、平成8年度及び平成9年度において、共同して、当該各年度のダクタイル鋳鉄管直管の総需要見込数量を算出し、当該総需要見込数量に各社の基本配分シェア(注)をそれぞれ乗じて得られた数量に、前年度までの受注数量等を勘案した数量を加減して、当該年度の各社の受注見込数量を算出し、当該受注見込数量の前記総需要見込数量に対する割合、すなわち年度配分シェアを決定し、被審人ら各社において、当該年度末までにそれぞれの受注数量の総需要数量に対する割合を年度配分シェアに合致するよう受注数量の調整を行うことを合意することにより、公共の利益に反して、ダクタイル鋳鉄管直管の取引分野における競争を実質的に制限していた(以下、ダクタイル鋳鉄管直管の取引分野を「本件市場」という。また、平成8年度の違反行為を「平成8年度違反行為」、平成9年度の違反行為を「平成9年度違反行為」といい、両違反行為を併せて「本件各違反行為」又は「本件カルテル」という。)。

(注)我が国におけるダクタイル鋳鉄管直管の総需要数量に対する被審人ら各社の受注すべき数量の基本的な割合をいい、使用鉄材の重量ベースで、被審人(株)クボタについては63パーセント、被審人(株)栗本鐵工所については27パーセント、被審人日本鋳鉄管(株)については10パーセントとされていた。

(イ) 課徴金の計算の基礎となる事実及び課徴金額の算定

被審人らが本件各違反行為の実行としての事業活動を行った期間は、平成8年度違反行為については平成8年8月20日から平成9年3月31日までであり、平成9年度違反行為については平成9年7月9日から平成10年3月31日までである。課徴金の額は、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項の規定により、これらの期間におけるダクタイル鋳鉄管直管に係る被審人らの売上額にそれぞれ100分の6を乗じて得た額から1万円未満の端数を切り捨てて算出された額となり、3社合計で110億6051万円となる。

(ウ) 主要な争点及びそれに対する判断

a シェア配分カルテルは、供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに該当し得るか否かについて

本件カルテルは、独占禁止法第3条の規定に違反するシェア配分カルテルに当たるところ、シェア配分カルテルはその性質上一般的に、カルテル参加者がカルテルの対象となる商品等について、その総需要見込数量を設定し、これを合意されたシェアに応じて販売予定数量として各カルテル参加者に割り当て、各カルテル参加者は、当該販売予定数量に適合するように自社の供給能力を行使することとなり、その数量を超えて供給しようとはしないことになるから、その供給量、すなわち販売等のため市場に供する商品等の数量は、自由競争の下におけるそれよりも結果として低位の水準に抑えられることになり、その結果参加者全員の市場への供給量を抑えることになる。

以上のとおり、シェア配分カルテルの各参加者の供給量の和、すなわち供給総量は、自由競争市場におけるそれよりも抑制されるから、シェア配分カルテルは、需要量が外的要因により完全に固定的であること、カルテル参加者の供給能力が完全に固定されていることなどの特段の事情がない限り、全体の供給量を制限、抑制する効果を持つものである。そして、商品等の市場全体への供給量が制限されれば、それが対価に影響を与えることは経済上の経験則であるから、当該市場がかかる需給関係が機能しない市場である等の特段の事情がない限り、価格に影響を及ぼすことになる。

b 本件カルテルは供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに当たるか否かについて

認定した各事実によれば、被審人らは、ダクタイル鋳鉄管直管の年間総需要見込数量を設定するに当たって、地区ごと、また、東京地区では発注事業体区分ごとに精緻な需要量の見積りを行い、各社の担当者から報告された総需要見込数量の妥当性についても細かく協議し、実需要量にできる限り近い数量となるべき総需要見込数量の算出を行っていること、そして、このような精緻な方法で算出され、被審人ら3社間の協議で慎重に設定された総需要見込数量に基本配分シェアを乗じた数量を各社に割り当て、これに前年度分の年度配分シェアを超過した数量分を減じ又は前年度分の年度配分シェアに足りなかった数量分を上乗せした結果の数量を、各社の販売予定数量とし、これを総需要見込数量との関係で比率に換えて、各社の年度配分シェアとしたこと、更に当初の総需要見込数量と実際の発注実績及び年度配分シェアと各社の実際の受注実績の差異は、最終的には東京地区の一般直需分野(注)等で調整されていたこと等が認められるのであるから、本件カルテルにおける販売予定数量は、各社において、これを超えて販売してはならない販売予定数量として実効的に機能していたと認められる。

そして、本件カルテルは、各社の販売数量が合意されたシェアに対応する範囲内に収まることで、被審人ら3社間で設定した総需要見込数量に近似する販売総量が実現され、よって被審人ら3社間で合意されたシェアが維持できるという仕組みを有するという実効性の高いシェア配分カルテルであり、このような場合には、カルテル参加者は、自社に配分された販売予定数量に応じて生産計画を立て供給量を調整し、当該販売予定数量の範囲内に自社の販売数量を制限しようとすることとなるから、本件カルテルにより各社の供給能力の行使が制限され、その和である被審人らの市場全体の供給能力の行使もまた制限されることとなる。

加えて、本件では前記aのような特段の事情は認められないのであるから、本件カルテルは、本件市場全体の供給量を制限、抑制する効果及び供給量を制限することによる対価への影響が認められるものである。

(注)水道事業又は水道用水供給事業を経営する地方公共団体等に対して被審人らから直接供給される経路を「直需分野」という。

c 間需分野(注)における取引に係る売上額は、課徴金額の算定の基礎に含まれるか否かについて

本件カルテルにおける年度配分シェアの決定は、直需分野及び間需分野を区別することなく、ダクタイル鋳鉄管直管の取引の総体に関して行われたものであり、また、年度末までに調整を行うことを合意した受注数量も、各社のダクタイル鋳鉄管直管全体の受注数量である。さらに、被審人らが、毎月の受注数量を相互に連絡して確認した各社の年度当初からの受注数量と年度配分シェアに基づく数量との差異は、直需分野と間需分野を合わせた各社の受注数量と、年度配分シェアに基づいて算出された各社の受注すべき数量との差異であったこと及び被審人らが間需分野において年度配分シェア以上の実績を上げることは、結局は直需分野における自社の取り分の減殺につながることに照らすと、本件カルテルによる供給量制限効果及び対価影響性は、直需分野及び間需分野を通じて機能していたものというべきであるから、本件カルテルによる間需分野における取引に係る売上額は、課徴金額の算定の基礎に含まれる。

(注)ダクタイル鋳鉄管直管の布設工事を受注した建設業者に対して被審人らから販売業者を経由して、あるいは、都市ガス供給業者等の需要者に対して被審人らから直接又は販売業者を経由して供給される経路をいう。
なお、被審人らは、間需分野においては年度配分シェアによる受注調整は行っていなかったので、同分野におけるダクタイル鋳鉄管直管の取引に係る売上額は課徴金の算定の基礎に含まれない旨の主張をしていた。

エ 法令の適用

独占禁止法第7条の2

(4) (株)クレハに対する審決(塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの価格カルテル)

ア 被審人及び納付を命じた課徴金の額

イ 事件の経過

本件は、平成17年7月27日、公正取引委員会が前記アの被審人に対し平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ、被審人は、これを不服として審判手続の開始を請求したので、同年10月5日、被審人に対し、同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人に対して審決案と同じ内容の審決を行った。

ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 課徴金に係る違反行為の概要

被審人は、鐘淵化学工業(株)(現(株)カネカ)(以下「カネカ」という。)及び三菱レイヨン(株)(以下「三菱レイヨン」という。)と共同して、プラスチックに少量添加することにより、プラスチックが有する化学的、物理的性質を損なうことなく、衝撃強度、耐候性、加工性等を改良し、製品物性、外観、生産性等を向上させるために用いられる改質剤であるモディファイヤーのうち塩化ビニル樹脂に添加されるもの(以下「塩化ビニル樹脂向けモディファイヤー」という。)の販売価格引上げを決定することにより、公共の利益に反して、我が国における塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売分野における競争を実質的に制限していた(以下「本件違反行為」という。)。

(イ) 課徴金の計算の基礎となる事実及び課徴金額の算定

被審人の本件違反行為の実行期間は、平成12年1月1日から平成14年12月31日までの3年間であり、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令の一部を改正する政令(平成17年政令第318号)による改正前の独占禁止法施行令第5条の規定に基づき算定すると、被審人のこの期間における塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの売上額は44億7489万9135円である。課徴金の額は、この売上額に100分の6を乗じて得た額から1万円未満の端数を切り捨てて算出された2億6849万円である。

(ウ) 主要な争点及びそれに対する判断

a 平成11年の合意の成否について

被審人、カネカ及び三菱レイヨンの3社(以下「3社」という。)の営業部長級の者は、3社の営業課長級の者からの、3社で足並みをそろえた販売価格引上げが必要であるとの3社の営業課長級の者の認識の報告を踏まえて、又は、他社の営業部長級の者とのやり取りを通じて、他社の販売価格引上げの意思を認識し、これに合わせて自社も販売価格を引き上げることを決定し、これに基づいて3社の営業課長級の者により販売価格引上げの打ち出し額及び実施時期の具体的内容が決定されたものと推認される。そして、3社が平成11年11月19日ころに、販売価格引上げ交渉の早期妥結を得るため、販売価格引上げの打ち出し額よりも低い額を引き上げることでもやむを得ないものとし、妥結可能な需要者から順次交渉を決着させることとしたこと及びその後も販売価格引上げの交渉の進捗状況について報告し合い、各社がきちんと需要者と交渉を行っているかどうかを相互に確認をしていたことに加え、同年10月ころまでの経緯(市場動向等に関する情報交換を行ってきたなど)及び3社の販売価格引上げの打ち出し時期並びに当該打ち出しにおける引上げ額及び引上げの実施時期が近接又は一致していること等の一連の事情にかんがみると、平成11年の合意が成立したことが優に認められる。

b 平成12年の合意の成否について

不当な取引制限の要件である「共同して対価を引き上げる」の「共同して」に該当するというためには、「意思の連絡」、すなわち、複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し、これと歩調をそろえる意思があることが必要であるところ、被審人は、販売価格引上げを先行して打ち出せばカネカ及び三菱レイヨンが追随して販売価格引上げを打ち出すと予測して販売価格引上げを打ち出したのであるから、同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し、これと歩調をそろえる意思があったことは明らかである。また、カネカ及び三菱レイヨンも、被審人からの追随要請や被審人の販売価格引上げの打ち出しを受けて、これと歩調をそろえる意思で販売価格引上げを打ち出したのであるから、カネカが販売価格引上げの打ち出しを行った平成12年11月21日までに、3社間で「意思の連絡」、すなわち、平成12年の合意が成立したと認められるというべきである。

c 本件違反行為の終了時期について

いわゆる価格カルテルについては、事業者間の合意が破棄されるか、破棄されないまでも当該合意による相互拘束が事実上消滅していると認められる特段の事情が生じるまで当該合意による相互拘束は継続するというべきところ、本件違反行為を構成する平成11年の合意及び平成12年の合意は、平成14年12月31日以前には破棄されておらず、また、これらの合意による相互拘束が事実上消滅していると認められる特段の事情も生じていない。したがって、少なくとも平成14年12月31日までは違反行為が継続していたと認められる。

d KCZ201、KM336P並びにHIA28及びHIA28S(以下「3グレード」という。)が本件違反行為の対象商品に該当するか否かについて

本件合意の対象は、「モディファイヤーのうち非塩化ビニル樹脂に添加されるもの」、すなわち、すべてのMBS樹脂、アクリル系強化剤及びアクリル系加工助剤のうち、専ら非塩化ビニル樹脂に添加する用途のモディファイヤーを除くものである。

被審人は、3グレードはいずれも非塩化ビニル樹脂向けに開発されたモディファイヤー等であると主張するが、証拠上、3グレードは、塩化ビニル樹脂に添加する用途のモディファイヤーに該当し、専ら非塩化ビニル樹脂に添加する用途のモディファイヤーとは認められないことから、独占禁止法第7条の2に規定する「当該商品」に該当する。

e 消費税相当額が売上額に含まれるか否かについて

消費税相当額は、商品本体等の代金相当額の金員と同一の法的性質を有する金員として一体的に事業者に支払われ、事業者が、消費者から受領した金員の中から自らの義務として消費税を納付することが予定されているものであること及び商品の販売に際して授受される金額にその内訳として明示されることも一般的にはなく、当該商品の価額の一部を構成するものとして社会的に認識されていること等にかんがみると、消費税相当額は、法的性質上も社会的認識上も商品の「売上額」の一部といえるから、課徴金算定の基礎となる売上額は消費税相当額を含んだ額となる(平成15年(判)第4号(株)バイタルネットに対する審決と同旨)。

エ 法令の適用

独占禁止法第7条の2

(5) (株)千葉匠建設に対する審決(岩手県発注の建築一式工事入札談合)

ア 被審人及び納付を命じた課徴金の額

イ 事件の経過

本件は、平成18年5月8日、公正取引委員会が前記アの被審人に対し平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ、被審人は、これを不服として審判手続の開始を請求したので、同年6月21日、被審人に対し、同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録並びに被審人から提出された異議の申立書及び同社から聴取した陳述に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人に対して審決案と同じ内容の審決を行った。

ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 課徴金に係る違反行為の概要

(株)タクミ(以下「タクミ」という。)及び被審人を含む106社(以下「106社」という。)は、遅くとも平成13年4月1日以降、岩手県が条件付一般競争入札、受注希望型指名競争入札又は指名競争入札の方法により、Aの等級に格付けしている者のうち、同県内に本店を置く者(これらの者のみを構成員とする特定共同企業体を含む。)のみを入札参加者として発注する建築一式工事について、受注価格の低落防止等を図るため、共同して、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにすることにより、公共の利益に反して、同工事の取引分野における競争を実質的に制限していた(以下「本件違反行為」という。)。

タクミは、建設業を営んでいた者であるが、平成15年8月14日付けで、被審人(当時の商号は「(株)千葉重機」)に吸収合併されたことにより消滅している。したがって、タクミがした本件違反行為は、独占禁止法第7条の2第5項の規定により、被審人がした違反行為とみなされる。

(イ) 課徴金の計算の基礎となる事実及び課徴金額の算定

被審人の本件違反行為の実行期間は、平成13年9月19日から平成15年8月13日までであり、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令の一部を改正する政令(平成17年政令第318号)による改正前の独占禁止法施行令第6条の規定に基づき算定すると、被審人のこの期間における岩手県発注の建築一式工事に係るタクミの売上額は2億5600万3650円である。課徴金の額は、この売上額に100分の3を乗じて得た額から1万円未満の端数を切り捨てて算出された768万円である。

(ウ) 主要な争点及びそれに対する判断

a 106社が本件違反行為を行ったか否かについて

TST親交会等の多数の会員の関係者が本件基本合意と同内容のルールに従って受注調整が行われていたことを認める供述をしていること、同会の関係者から受注調整が行われていたと考えなければ説明が困難と考えられる文書が多数留置されていること、同会の会員間において、本件発注物件133物件のうち63物件について、本件基本合意の方法で受注調整が行われていたといえ、地域的・時期的な偏りがないこと、同会の役員会で受注調整を継続していくための方策が検討され、同会の総会で引き続き受注調整を継続することを確認していたことなどの諸事情に照らせば、同会の会員間における本件基本合意の成立及びそれに基づく受注調整が行われてきたものと認めるのが相当である。

そして、TST親交会等の設立目的、入会手続、入会時の連絡文書の内容、受注調整に関する会員への連絡等の存在などに照らせば、同会の会員となった事業者は、特段の事情のない限り、同会で受注調整が行われていること等を認識していたものと認めるのが相当であり、106社のいずれについてもこの特段の事情は認められない。

以上によれば、106社は本件基本合意に加わり、本件違反行為に及んでいたものと認められる。

b 本件違反行為が「競争を実質的に制限」(独占禁止法第2条第6項)するものであったか否かについて

本件違反行為が実質的に継続されており、本件違反行為が競争を実質的に制限するものであると認識されていたことが強く推認されること、106社の受注実績が大きいこと、106社が受注した本件受注物件118物件のうち60物件の全部又は大部分において本件基本合意に基づく受注調整が行われたものと推認されること、本件違反行為の参加者らが、アウトサイダーが参加する可能性があることを当初から認識していたことは明らかであり、実際に、少なくとも12物件でアウトサイダーへの協力要請が行われ、うち11件については、アウトサイダーが協力していたことなどに照らせば、本件違反行為は競争を実質的に制限するものであったと認めるのが相当である。

c 本件違反行為についての除斥期間(独占禁止法第7条の2第6項)が経過したか否かについて

本件違反行為及びそれによる競争の実質的制限は本件期間の全体を通じて維持されており、除斥期間の起算日である「実行期間の終了した日」はタクミが吸収合併で消滅した日の前日である平成15年8月13日と認めるのが相当であるから、除斥期間は経過していない。

エ 法令の適用

独占禁止法第7条の2

第3 平成17年独占禁止法改正法による改正後の独占禁止法に基づく審決

1 ミュー(株)及び(株)オーシロに対する審決

(1) 被審人

(2) 事件の経過

本件は、平成18年10月19日、公正取引委員会が、前記(1)の被審人ら(以下「被審人ら」という。)を含む3名に対して、景品表示法(注)第6条第1項の規定に基づき排除命令を行ったところ、被審人らが排除命令に対して不服として、その全部の取消しを求め審判請求を行ったので、被審人らに対し、独占禁止法第52条第3項の規定に基づき審判手続を開始し、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録及び被審人らから提出された異議の申立書に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人らに対して審決案と同じ内容(審判請求を棄却する旨)の審決を行った。

(注)消費者庁及び消費者委員会設置法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律(平成21年法律第49号)附則第6条第3項ただし書の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の不当景品類及び不当表示防止法をいう。以下同じ。

(3) 判断の概要等

ア 事案の概要

公正取引委員会は、ミュー(株)が「ビタクール」と称する商品において、また、(株)オーシロが「タバクール」と称する商品においてそれぞれ行っていた、たばこの先端に付着させて喫煙すれば、たばこの煙に含まれるニコチンがビタミンに変化することによりニコチンを減少させる旨等の表示(以下「本件表示」という。)について、景品表示法第4条第2項の規定に基づき、被審人らに対し、期間を定めて、本件表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めたが、提出された資料(以下「本件資料」という。)が本件表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものであるとは認められなかったことから、本件表示は一般消費者に対し実際のものよりも著しく優良であると示すことにより、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示とみなされ、同条第1項第1号の規定に違反するとして排除命令を行った。

イ 主要な争点及びそれに対する判断
(ア) 本件について、景品表示法第4条第2項を適用することができるか、適用の効果はどのようなものかについて

a 景品表示法第4条第2項の規定は、表示に沿った効果・性能がないかもしれないことによる不利益は一般消費者に負担させるべきではなく、事業者が効果・性能の優良性を示す表示を行う場合には、当該表示をする事業者において当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料をあらかじめ有した上で行うべきであって、かかる資料を有しないまま当該表示をした商品・役務を販売・提供してはならないとの考え方に基づくものというべきである。

この点、被審人らは、景品表示法第4条第2項が、合理的な根拠のない場合に、不当な表示として排除命令をすることとしたのは、当該表示を行う者が提出した資料から表示内容が真実でないことが明らかな場合について簡易・迅速な対応をするためであり、表示の根拠となる資料が提出された場合については、迅速に排除命令をする必要がある場合を除き、同項を適用すべきではなく、同条第1項第1号にいう「実際のものよりも著しく優良であると示す表示」に該当するかどうかの判断をした上で、排除命令をするべきであると主張する。

しかし、景品表示法第4条第2項は、条文上、その適用範囲について被審人らの主張のような限定をしていないし、前記に述べた考え方にかんがみると、同項を適用できる事案は、被審人らの指摘するような場合に限定されるものではなく、その効果・性能の優良性を示して商品・役務を販売・提供する場合一般について同項を適用することができるものというべきである。

b 景品表示法第4条第2項に基づく資料提出要求に対して提出された資料が表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料といえるためには、①客観的に実証された内容のものであること、②表示された効果・性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応しているという要件を満たすことが必要であり、提出された資料が①客観的に実証された内容のものであるというには、i試験・調査によって得られた結果、ii専門家、専門家団体若しくは専門機関の見解又は学術文献であることが必要である(「不当景品類及び不当表示防止法第4条第2項の運用指針」〔以下「運用指針」という。〕第3の2及び3参照。)。前記iにいう試験・調査については、表示された商品・役務の効果・性能に関連する学術界、あるいは産業界において一般的に認められた方法、あるいは関連分野の専門家の多数が認める方法によって実施されたものであるか、そのような方法がない場合には、社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法によることが必要であり、また、前記iiにいう見解又は学術文献は、専門家等が専門的知見に基づいて当該商品・役務について評価したものであり、当該専門分野において一般的に認められているものであることが必要である。

c 景品表示法第4条第2項は、公正取引委員会は、事業者が商品の販売等をするに当たり、当該商品等の効果・性能の優良性を表示する場合には、当該表示を行った事業者に対し期間を定めて事業者があらかじめ有しているべき当該資料の提出を求めることができ、事業者が当該資料を提出しないときは、当該表示は同条第1項第1号の不当な表示とみなして、同法第6条第1項の規定による排除命令をすることができることとしている。そして、当委員会の求めにより事業者が提出した資料が前記合理的な根拠を示す資料に該当しない場合も、「当該資料を提出しないとき」に含まれる。

本件に即していえば、被審人らが公正取引委員会の求めにより提出した本件資料が前記合理的な根拠を示す資料に当たらない場合には、それにより本件表示が景品表示法第4条第1項第1号の不当な表示に当たるとする効果が確定するのであり、その後の審判手続において新たな資料を提出することによりこの効果を覆すことはできないものと解すべきである。

したがって、被審人らは、審判手続において、新たに「合理的な根拠を示す資料」を提出することはできない。

(イ) 本件資料は、本件表示に係る景品表示法第4条第2項にいう表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものと認められず、本件表示は同条第1項第1号にいう不当な表示とみなされるかについて

被審人らは、本件表示について、本件資料を提出したものであるが、本件資料はいずれも景品表示法第4条第2項にいう表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料とは認められず、また、これらを総合勘案しても結論は変わるものではなく、本件表示は、同項により同条第1項第1号にいう不当な表示とみなされる。

(ウ) 原処分について公正取引委員会の裁量権の逸脱・濫用がないかについて

a 被審人らは、指導の段階でこれに従うと回答している業者に対し、表示変更の機会も与えずに原処分を行うことは手続保障に反すると主張するが、景品表示法上、排除命令の前に行政指導を行うことが必要なわけではない。また、被審人らは、事前の相談において公正取引委員会事務総局の担当者から「データがあれば問題ない」との回答を得たことをもって、禁反言の原則から原処分は無効であると主張するが、当該担当者の回答は、合理的な根拠を示す資料があれば景品表示法上問題ないという法律の趣旨を述べたものと認められ、本件表示が景品表示法上問題がないという趣旨の回答をしたものとは認められない。

したがって、原処分が手続保障に欠ける違法なものとは認められない。

b 被審人らは、原処分を行わなくとも不当な表示を是正することができたのであるから、原処分は比例原則違反であると主張するが、本件については、一般消費者の誤認の排除や違反行為の再発防止等が必要であるから、被審人らの主張は採用できない。

したがって、原処分が比例原則に反する違法なものとは認められない。

c 被審人らは、本件より悪質な事案に対して、排除命令を行わず、注意・警告が行われていると主張する。しかし、排除命令が平等原則に違背する違法なものとなるのは、公正取引委員会が、処分の相手方である事業者以外の違反行為をした事業者に対して行政処分をする意思がなく、処分の相手方である事業者に対してのみ、差別的意図をもって当該行政処分をしたような場合に限られるものと解される(東京高等裁判所平成8年3月29日判決〔公正取引委員会審決集42巻457頁〕参照)ところ、被審人らは同裁判例の指摘するような事情があることについての立証をしていない。

したがって、原処分が平等原則に反する違法なものとは認められない。

(4) 法令の適用

独占禁止法第66条第2項

2 (株)カクダイ及び(株)ナスカに対する審決

(1) 被審人

(2) 事件の経過

本件は、平成21年3月9日、公正取引委員会が、前記(1)の被審人ら(以下「被審人ら」という。)を含む4社に対して、景品表示法第6条第1項の規定に基づき排除命令を行ったところ、被審人らが排除命令に対して不服として、その全部の取消しを求め審判請求を行ったので、被審人らに対し、独占禁止法第52条第3項の規定に基づき審判手続を開始し、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、平成21年(判)第4号事件にあっては担当審判官から提出された事件記録及び被審人(株)カクダイから提出された異議の申立書、平成21年(判)第5号事件にあっては担当審判官から提出された事件記録に基づいて、同審判官から提出された各審決案を調査の上、被審人らに対して各審決案と同じ内容(審判請求を棄却する旨)の審決を行った。

(3) 判断の概要等

ア 事案の概要

公正取引委員会は、被審人らが販売する「バリ5」(被審人(株)カクダイが販売)及び「復活くん」(被審人(株)ナスカが販売)と称する商品(以下、併せて「本件商品」という。)を販売する際に、本件商品が携帯電話等のアンテナとして機能することによって、携帯電話等の電波の受信状態が大幅に向上するかのように、携帯電話等を使用できる時間が大幅に長くなるかのように、また、劣化した充電池の機能を再生し充電池の交換までの期間が大幅に長くなるかのように示す表示(以下「本件表示」という。)について、景品表示法第4条第2項の規定に基づき、被審人らに対し、期間を定めて、本件表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めた。しかしながら、被審人らから提出された資料(以下「本件資料」という。)は、いずれも本件表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものであるとは認められなかったことから、当委員会は、本件表示は一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示すことにより、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示とみなされ、同条第1項第1号の規定に違反するとして排除命令を行った。

イ 主要な争点及びそれに対する判断
(ア) 本件資料が合理的根拠資料に該当するか否かについて

a 景品表示法第4条第2項の立法趣旨にかんがみれば、同項所定の合理的な根拠を示す資料(以下「合理的根拠資料」という。)とは、商品又は役務が表示に沿った効果・性能を有することを客観的に実証する資料をいうものと解するべきであり、具体的には、結果の妥当性を担保できる適切な方法で実施された試験・調査によって得られた結果又は当該商品又は役務が表示された効果・性能を有することを示した専門家等の見解等であって、当該専門分野で一般的に認められているもの等がこれに該当するといえる。

b 本件表示は、本件商品を携帯電話等に内蔵されている充電池の裏に設置して携帯電話等を使用することにより、①本件商品が携帯電話等のアンテナとして機能することによって、携帯電話等の電波の受信状態が大幅に向上するという効果・性能、②携帯電話等を使用できる時間が大幅に長くなるという効果・性能及び③劣化した充電池の機能を再生し充電池の交換までの期間が大幅に長くなるという効果・性能があることを一般消費者に認識させる表示であるが、本件資料は、いずれも、本件表示により一般消費者が認識する前記の効果を客観的に実証するものといえず、合理的根拠資料に該当するとは認められない。

(イ) 原処分が不当か否かについて

前記(ア)bのとおり、本件表示は、その合理的根拠資料の提出を欠くから、景品表示法第4条第2項の規定により、同法第6条第1項の規定の適用を受ける範囲で、同法第4条第1項第1号に該当するものとみなされる。よって、公正取引委員会は、同法第6条第1項に基づき、被審人らに対し、その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項等を命ずることができる。

そして景品表示法第6条によると、公正取引委員会は排除命令を行うか否かの判断につき裁量を有するところ、本件表示及び本件資料の内容等を踏まえても、原処分を行ったことがその裁量を逸脱する不当なものであるとは認められない。

(4) 法令の適用

独占禁止法第66条第2項

3 (株)リコムに対する審決

(1) 審判請求人

(2) 事件の経過

本件は、平成21年2月3日、公正取引委員会が、後記(3)ア表の7社に対して景品表示法第6条第1項の規定に基づき排除命令(以下「本件各処分」という。)を行ったところ、(株)リコム(以下「審判請求人」という。)が本件各処分の全部の取消しを求めて審判請求を行ったため、審判請求人に対し、審判手続の範囲を審判請求人による審判請求が独占禁止法第66条第1項に規定する「その他不適法であるとき」に当たるか否かに限定して審判手続を開始し、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録及び審判請求人から提出された異議の申立書に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、審判請求人に対して審決案と同じ内容(審判請求を却下する旨)の審決を行った。

(3) 判断の概要等

ア 事案の概要

公正取引委員会は、下表の7社が行っていた「シャンピニオンエキス」と称する成分(以下「シャンピニオンエキス」という。)を使用した各商品(いずれも、シャンピニオンエキスを含有する錠剤状又はカプセル状の食品であり、商品名は下表「商品名」欄記載のとおりである。以下「本件各商品」という。)に係る各表示について、景品表示法第4条第2項の規定に基づき、7社に対し、期間を定めて、当該各表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めたところ、提出された資料はいずれも当該各表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものであるとは認められず、当該各表示は、いずれも一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示すことにより、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示とみなされるとの判断の下に、当該各表示は同条第1項第1号の規定に違反するとして、7社に対し本件各処分を行った。これに対して、7社はいずれも、本件各処分に対して審判請求を行うことなく、その主文に記載された排除措置を履行したが、シャンピニオンエキスを製造、販売する事業者である審判請求人が本件各処分の全部の取消しを求めて審判を請求したのが本件である。

イ 本件についての判断の概要
(ア) 排除命令の受命者ではない者の審判請求適格

審判請求人のように排除命令の受命者ではない者の審判請求適格が否定されるときは、その者による審判請求は、独占禁止法第66条第1項の「その他不適法であるとき」に該当し、却下されるべきである。

審判手続を経た審決は、行政訴訟等の司法救済に連なるものであるから、排除命令の受命者以外の者が同法第49条第6項の規定により審判請求することができるかについては、他の行政処分の取消訴訟における原告適格と同じく解することができ、審判請求をなし得るものは、行政事件訴訟法第9条第1項にいう「法律上の利益を有する者」とその範囲を同じくするとみるべきである。

さらに、行政事件訴訟法第9条第2項の規定によれば、審判請求人が、本件各処分について「法律上の利益」を有するかを判断するにおいては、本件各処分の根拠となる法律である景品表示法の趣旨及び目的、本件各処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮することになる。

(イ) 景品表示法の不当表示に対する規制の趣旨及び効果

景品表示法は、独占禁止法と同様に、公正な競争を確保し、もって一般消費者の利益を保護することを目的としており、その目的を達成するため、第4条(不当な表示の禁止)及び第6条(排除命令)において同法に違反する行為の禁止及び排除の規定を定めている。同法第4条の規制の対象とするのは、あくまでも商品の提供に当たり事業者が行う表示そのものであって、当該商品やその販売そのものを規制するものではない。

公正取引委員会は、当該表示が不当な表示であると認定した場合には、当該事業者に対して、排除命令を発し、当該不当表示の取りやめや一般消費者の誤認を排除するための公示などを命じることとなるが、排除命令は、当該事業者に対してのみ発せられ、その拘束力もその受命者である事業者にしか及ばないのであって、当該事業者以外の者は何ら排除命令の拘束を受けるものではない。

排除命令によって当該事業者に対して、当該商品についての表示の取りやめ等の措置が命じられれば、その結果として、当該事業者のみならず、当該事業者と取引関係にある者等に対しても、事実上の影響が及ぶことがあることは否定できない。しかし、「法律上の利益」の判断において考慮されるべきとされる景品表示法の趣旨及び目的、あるいは、参酌すべきとされる趣旨及び目的を共通にすると解される独占禁止法の趣旨及び目的にかんがみれば、景品表示法は、排除命令を発するに当たり、そのような利害関係者の権利利益を考慮すべきものとするものとはいえない。

(ウ) 審判請求人の主張に対する判断

a 審判請求人は、本件各処分の対象商品(本件各商品)の成分であるシャンピニオンエキスの唯一の製造業者であるところ、本件各処分は、審判請求人が7社及びその他の者との間で、口臭、体臭及び便臭を消す効果があることを前提としたシャンピニオンエキスの販売、その他の取引をすることを不可能にし、あるいは著しく困難にするものであり、また、審判請求人と7社との紛争を生じさせるおそれがあるものであると主張する。しかし、本件各処分は、7社に対して措置を命ずるものであって、審判請求人に対し何ら措置を命じるものではない。また、本件各処分は、本件各商品の販売に当たり、7社が行った本件各表示がいずれも景品表示法第4条第2項の規定により同条第1項第1号に該当する表示とみなされることから、本件各表示が実際のものよりも著しく優良であると示すものである旨を一般消費者に対し公示すること、今後本件各商品又はこれと同種の商品の取引に関し表示の裏付けとなる合理的な根拠をあらかじめ有することなく本件各表示と同様の表示をしてはならないこと等を命じるものである。つまり、本件各処分は、本件各商品に係る取引自体を禁ずるものではないし、まして本件各商品の原材料であるシャンピニオンエキスそのものの取引について何ら措置を命じるものでもない。

b 審判請求人は、本件各処分に際し景品表示法第4条第2項が適用されたところ、同項にいう「本件表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料」について、「本件表示の裏付け」はシャンピニオンエキスの消臭効果であるから、本件各処分は、実質的にはシャンピニオンエキスの消臭効果を否定するものであると主張する。しかし、本件表示が不当表示に該当するとの判断に至る理由中における商品の効果・性能に関する判断は、あくまでも理由中の判断にすぎないから、かかる理由中の判断は何ら確定力を有するものではない。加えて、本件各処分は、「7社が提出した資料は、7社が販売する商品(本件各商品)について行った表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料とは認められない」との判断をしたにすぎないものであり、シャンピニオンエキスの効果そのものについて判断したものではない。また、本件各処分によって確定されるのは、本件各商品に関する本件各表示であったことに尽き、かつ、その拘束を受けるのは7社のみであって、シャンピニオンエキス自体の性能・効果は何ら確定されるものではない。景品表示法第4条第2項の適用に当たり、7社が提出した資料が審判請求人の作成したものであったとしても、この理は同じである。

c 以上のとおりであるから、審判請求人がシャンピニオンエキスを製造、販売することが、本件各処分の存在によって何ら妨げられるものではないし、シャンピニオンエキスの効果・性能等に関して本件各処分により審判請求人が拘束を受けることもない。したがって、また、審判請求人と7社との法律関係において、審判請求人に対してシャンピニオンエキスの効果・性能について自ら信じるところを主張することも、本件各処分により妨げられるものでもない。

(エ) 本件各処分の存在によって、審判請求人と7社又はその他の者との間におけるシャンピニオンエキスの販売その他の取引状況等に変化が生じ、これにより審判請求人に何らかの損害が発生し、また、審判請求人と7社との間に何らかの紛争が生じるおそれがあるとしても、このような観点から審判請求人の利益は、景品表示法上保護され、あるいは考慮されるべき利益に当たるものということはできず、単なる反射的利益にすぎない。

したがって、審判請求人は、本件各処分のいずれについても、「法律上の利益を有する者」には当たらない。

(4) 法令の適用

独占禁止法第66条第1項

4 日鉄住金鋼板(株)ほか2社に対する審決(課徴金納付命令に係る課徴金の一部を控除する審決)

(1) 関係人

(2) 事件の経過

公正取引委員会は、前記(1)の3社(以下「3社」という。)が、他の事業者と共同して、溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯(以下「GL鋼板」という。)の店売り取引での販売価格を引き上げる旨を合意することにより、公共の利益に反して、我が国におけるGL鋼板の店売り取引の販売分野における競争を実質的に制限していたとして、平成20年11月11日に3社を、同年12月8日にその従業員を、それぞれ検事総長に告発した。また、当該合意が、独占禁止法第7条の2第1項第1号に規定する商品の対価に係る不当な取引制限に該当するとして、3社に対し、平成21年8月27日、排除措置命令及び課徴金納付命令を行った。

その後、本件刑事事件について、平成21年9月15日、東京地方裁判所において、罰金の刑に処する裁判(平成20年特(わ)第2430号)があり、同裁判が同月30日に確定したことを受け、同年11月9日、公正取引委員会は、独占禁止法第51条第1項の規定に基づき、課徴金納付命令を受けた3社に対し、当該納付命令に係る課徴金の額を、その額から裁判において命じられた罰金額の2分の1に相当する額を控除した額に変更する審決を行った。

(3) 法令の適用

独占禁止法第51条第1項

第4 審判請求取下げ

本年度においては、下表の被審人から審判請求の取下げがあった。

第5 審判手続打切決定

本年度においては、下表の被審人6社に対し、破産手続終結又は破産手続廃止の決定がなされ同決定が確定したこと等を考慮し、各被審人に対する審判手続打切決定を行った。