第2部 各論

第8章 不公正な取引方法への取組

第1 概説

独占禁止法は、第19条において事業者が不公正な取引方法を用いることを禁止しているほか、事業者及び事業者団体が不公正な取引方法に該当する事項を内容とする国際的契約を締結すること、事業者団体が事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること、会社及び会社以外の者が不公正な取引方法により株式を取得し又は所有すること、会社が不公正な取引方法により役員の兼任を強制すること、会社が不公正な取引方法により合併すること等の行為を禁止している(第6条、第8条第5号、第10条第1項、第13条第2項、第14条、第15条第1項、第15条の2第1項第2号及び第16条第1項)。不公正な取引方法として規制される行為の具体的な内容は、公正取引委員会が告示により指定することとされてきたが、平成21年独占禁止法改正法により、これまで「不公正な取引方法」(昭和57年公正取引委員会告示第15号)により指定されていたもののうち、共同の取引拒絶、差別対価、不当廉売、再販売価格の拘束及び優越的地位の濫用の全部又は一部が法定化され(第2条第9項第1号から第5号)、新たに課徴金納付命令の対象となった(第20条の2から第20条の6)。

不公正な取引方法に対する取組に関しては、前記規定に違反する事件の処理のほか、不公正な取引方法の指定に関する調査、不公正な取引方法に関する説明会の開催等の普及・啓発活動、不公正な取引方法を防止するための指導業務等がある。また、不公正な取引方法に関する事業者からの相談に積極的に応じることにより違反行為の未然防止に努めている。

第2 不当廉売に対する取組

企業の効率性によって達成した低価格で商品を供給するのではなく、採算を度外視した低価格によって顧客を獲得しようとすることは、独占禁止法の目的からみて問題がある場合があり、公正な競争秩序に悪影響を与えるときは、不公正な取引方法の一つである不当廉売として規制される。

公正取引委員会は、以前から、不当廉売に対し、厳正かつ積極的に対処することとしている。

1 不当廉売事案への対処

(1) 処理方針

小売業における不当廉売事案については、①申告のあった事案に関しては、処理結果を通知するまでの目標処理期間を原則2か月以内として迅速処理することとし、繰り返し注意を受ける事業者に対しては、事案に応じて、責任者を招致した上で直接注意を行うほか、②大規模な事業者による事案又は繰り返し行われている事案で、周辺の販売業者に対する影響が大きいと考えられるものについては、周辺の販売業者の事業活動への影響等について個別に調査を行い、問題の見られる事案については厳正に対処することとしている。

(2) 処理の状況

ア 警告

平成21年度においては、石油製品小売業者6社及び石油元売会社1社が、それぞれ運営する給油所において、一定期間、レギュラーガソリンについて、その供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し、各給油所の周辺地域に所在する他の石油製品小売業者の事業活動を困難にさせるおそれを生じさせた疑いのある事実が認められたことから、当該7社に対し、今後、このような行為を行わないよう警告した。

イ 注意

平成21年度においては、酒類、石油製品、家庭用電気製品等について、不当廉売につながるおそれがあるとして合計3,225件の注意(迅速処理(注)によるもの)を行った(表参照)。

(注)申告のあった不当廉売事案に対し可能な限り迅速に処理する(原則2か月以内)という方針に基づいて行う処理をいう。

表 平成21年度における不当廉売の注意件数(迅速処理によるもの)

2 規制基準の明確化

公正取引委員会は、昭和59年に「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」を公表し、その後、個別の業種(酒類、ガソリン及び家電)についてその取引実態を踏まえたガイドラインを順次公表することにより、不当廉売規制の考え方を明らかにしてきた。

平成21年独占禁止法改正法により、不当廉売が新たに課徴金納付命令の対象となったこと等に伴い、公正取引委員会は、不当廉売の要件に関する解釈を更に明確化すること等により、法運用の透明性を一層確保し、事業者の予見可能性をより向上させるため、これらガイドラインを改定し、平成21年12月18日に公表した(改定の詳細は第1章第2参照)。

第3 優越的地位の濫用に対する取組

自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、取引の相手方に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える行為(優越的地位の濫用)は、自己と競争者間及び相手方とその競争者間の公正な競争を阻害するおそれがあるものであり、不公正な取引方法の一つとして禁止されている。

公正取引委員会は、以前から、優越的地位の濫用に対し、厳正かつ積極的に対処することとしている。

1 優越的地位の濫用への対処

(1) 排除措置命令

平成21年度においては、ホームセンター及びフランチャイズ・チェーン本部による優越的地位の濫用事件について、2件の排除措置命令を行った。

ア ホームセンターが、納入業者に対し、①店舗の閉店又は改装に際し、当該店舗の商品のうち、当該店舗及び他の店舗において販売しないこととした商品を返品している、②家具商品部で取り扱う商品のうち、定番商品から外れたこと又は店舗を閉店するに当たり当該店舗において売れ残ることが見込まれることを理由として割引販売を行うこととした商品について、当該割引販売に伴う自社の利益の減少に対処するために必要な額を当該商品の納入価格から値引きをさせている、③店舗の開店、改装又は閉店に際し、その従業員等を、納入業者の商品以外の商品を含む商品の搬入等の作業及び当該店舗における商品の陳列等の作業を行わせるために派遣させている事実が認められたことから、排除措置命令を行った。

イ フランチャイズ・チェーン本部が、同社のフランチャイズ・チェーンの加盟者が経営するコンビニエンスストアで廃棄された商品の原価相当額の全額が加盟者の負担となる仕組みの下で、推奨商品のうちデイリー商品に係る見切り販売を行おうとし、又は行っている加盟者に対し、見切り販売の取りやめを余儀なくさせ、もって、加盟者が自らの合理的な経営判断に基づいて廃棄に係るデイリー商品の原価相当額の負担を軽減する機会を失わせている事実が認められたことから、排除措置命令を行った。

(2) 警告

平成21年度においては、荷主による物流事業者に対する優越的地位の濫用事件について、2件の警告を行った。

ア 荷主が、継続的に建設機械器具の運送を委託する事業者との取引において、運送事業者の責めに帰すべき理由がないのに、あらかじめ定めた運送委託に係る代金の額を減じていた疑いのある事実が認められたことから、警告を行った。

イ 荷主が、継続的に壁紙、カーテン等の運送を委託する事業者との取引において、運送事業者の責めに帰すべき理由がないのに、あらかじめ定めた運送委託に係る代金の額を減じていた疑いのある事実が認められたことから、警告を行った。

(3) 注意

平成21年度においては、大規模小売業者等による優越的地位の濫用に対して22件の注意を行った。

2 優越的地位濫用事件タスクフォースの設置

公正取引委員会は、以前から、中小事業者に不当に不利益を与える優越的地位の濫用行為を迅速かつ効果的に排除するとともに、各講習会等を開催するなど優越的地位の濫用行為の未然防止を図ってきており、平成21年度においては、昨今の経済環境において、下請事業者のみならず、大規模小売業者と取引している納入業者、荷主と取引している物流事業者等の中小事業者が依然として厳しい対応を迫られている状況を踏まえ、取引先事業者、特に取引先大企業との間で不当なしわ寄せを受けやすい中小事業者全般の取引の公正化を一層推進するため、「中小事業者取引公正化推進プログラム」を取りまとめ、平成21年11月18日にこれを公表した。

当該プログラムの一環として、優越的地位の濫用に係る情報に接した場合に、その調査を効率的かつ効果的に行い、必要な是正措置を講じていくことを目的として、平成21年11月、「優越的地位濫用事件タスクフォース」を設置し、平成21年11月から平成22年3月までの間に、違反につながるおそれがある行為がみられたとして16件の注意を行った。

3 中小事業者の取引の公正化を図る必要が高い分野に係る特別調査

(1) 大規模小売業者と納入業者との取引に関する書面調査の実施

公正取引委員会は、百貨店、スーパー、ホームセンター等の大規模小売業者による納入業者に対する優越的地位の濫用を効果的に規制する観点から、平成17年5月13日、「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」(以下「大規模小売業告示」という。)を指定し、大規模小売業者と納入業者との取引の公正化を図っている。

平成21年度においては、大規模小売業告示の遵守状況及び大規模小売業者と納入業者との取引の実態を把握するため、大規模小売業者350社、納入業者6,000社に対する書面調査を実施した。

(2) 荷主と物流事業者との取引に関する書面調査の実施

公正取引委員会は、荷主による物流事業者に対する優越的地位の濫用を効果的に規制する観点から、平成16年3月8日、「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」(以下「物流特殊指定」という。)を指定し、荷主と物流事業者との取引の公正化を図っている。

平成21年度においては、物流特殊指定の遵守状況及び荷主と物流事業者との取引の実態を把握するため、荷主8,426社、物流事業者11,621社に対する書面調査を実施した。

4 優越的地位の濫用行為の未然防止及び再発防止の指導

(1) 業種別講習会(物流事業者と取引のある荷主向け・金融機関向け)

「中小事業者取引公正化推進プログラム」の一環として、優越的地位の濫用規制について業種ごとの実態に即した分かりやすい具体例を用いること等により説明を行い、一層の法令遵守を促すことを目的とした業種別講習会を実施し、物流事業者と取引のある荷主を対象とした業種別講習会を8都道府県8会場において、金融機関を対象とした業種別講習会を1都1会場において開催した。

(2) 広報、相談・指導業務

事業者等からの優越的地位の濫用規制や下請法に関する相談に応じるとともに、優越的地位の濫用規制や下請法の一層の普及・啓発を図るため、事業者団体等が開催する研修会に講師を派遣するとともに資料の提供等を行った。

ア 「公取委による中小事業者のための移動相談会」の開催

「中小事業者取引公正化推進プログラム」の一環として、下請事業者をはじめとした中小事業者からの要望に応じ、当該中小事業者が所在する地域に公正取引委員会の職員が出張し、独占禁止法上の優越的地位の濫用規制や下請法について基本的な内容を分かりやすく説明するとともに相談受付等を行う「公取委による中小事業者のための移動相談会」を、平成21年11月から平成22年3月までの間に、全国36か所で開催した。

イ 中小事業者専用相談窓口の設置

「中小事業者取引公正化推進プログラム」の一環として、取引先大企業等から不当なしわ寄せを受けやすい中小事業者からの相談を受け付ける中小事業者専用窓口を本局及び各地方事務所・支所等に設置し、平成21年11月から平成22年3月までの間に、優越的地位の濫用規制や下請法について、4,764件の相談に対応した。

第4 建設業の下請取引における不公正な取引方法の規制

建設業の下請取引において、元請負人等が下請負人に対し、請負代金の支払遅延、不当に低い請負代金等の不公正な取引方法を用いていると認められるときは、建設業法第42条又は第42条の2の規定に基づき、国土交通大臣、都道府県知事又は中小企業庁長官が公正取引委員会に対し、独占禁止法の規定に従い適当な措置を採ることを求めることができることとなっている。