第1部 総論

第1 概説

公正取引委員会は、平成22年度において、次のような施策に重点を置いて競争政策の運営に積極的に取り組んだ。

1 独占禁止法改正

平成22年3月12日、公正取引委員会が行う審判制度の廃止等を主な内容とする、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案が第174回通常国会に提出された。同法律案は、同年6月16日、衆議院において閉会中審査とされた。続く第175回臨時国会及び第176回臨時国会においても閉会中審査とされ、第177回通常国会において、平成23年1月24日、衆議院経済産業委員会に付託された。

2 厳正・的確な法運用

(1) 独占禁止法違反行為の積極的排除

ア 迅速かつ実効性のある法運用を行うという基本方針の下、平成22年度においては、特に、入札談合及び価格カルテル並びに中小事業者に不当に不利益を与える優越的地位の濫用などの不公正な取引方法に対し、引き続き厳正かつ積極的に対応した。

なお、平成22年度における主な法的措置事件は、次のとおりである。

イ 国・地方公共団体等の職員が入札談合に関与する、いわゆる「官製談合」については、入札談合等関与行為防止法に入札談合等関与行為を排除するための行政上の措置等が規定されているところ、平成22年度には、青森市が発注する土木一式工事の入札参加業者らに対する件において、青森市の職員が入札談合等関与行為を行っていた事実が認められたため、公正取引委員会は、同法を適用し、青森市長に対して改善措置要求を行った。

(2) 公正な取引慣行の推進

ア 優越的地位の濫用に対する取組

(ア) 公正取引委員会は、以前から、独占禁止法上の不公正な取引方法に該当する優越的地位の濫用が行われないよう監視を行うとともに、独占禁止法に違反する行為については厳正に対処している。

(イ) 公正取引委員会は、独占禁止法上問題となる個別の違反行為に対し、厳正に対処しているほか、中小事業者の取引の公正化を図る必要が高い分野について、実態調査等を実施し、普及・啓発に努めている。平成22年度においては、「大規模小売業者と納入業者との取引に関する実態調査報告書」(平成22年5月26日公表)を公表したほか、荷主と物流事業者との取引に関する書面調査、フランチャイズ本部と加盟店との取引の実態調査及び卸売業者と食料品製造業者との取引に関する実態調査を実施した。

(ウ) 公正取引委員会は、平成21年独占禁止法改正法により、優越的地位の濫用が新たに課徴金納付命令の対象となったことを踏まえ、優越的地位の濫用規制の考え方を明確化すること等により、法運用の透明性を一層確保し、事業者の予見可能性をより向上させるため、「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」を策定し、平成22年11月30日に公表した。また、「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」の説明会の開催などの周知活動を実施した。

(エ) 公正取引委員会は、過去に優越的地位の濫用の違反がみられた業種、各種の実態調査で問題がみられた業種等に関し、一層の法令遵守を促すことを目的とした業種別講習会を合計31回実施し、業種ごとの実態に即した分かりやすい具体例を用いること等により説明を行った。

イ 不当廉売に対する取組

公正取引委員会は、小売業における不当廉売について、迅速に処理を行うとともに、大規模な事業者による不当廉売事案又は繰り返し行われている不当廉売事案であって、周辺の販売業者に対する影響が大きいと考えられるものについては、周辺の販売業者の事業活動への影響等について個別に調査を行い、問題がみられた事案については、法的措置を採るなど厳正に対処している。

ウ 下請法違反行為の積極的排除等

(ア) 公正取引委員会は、下請事業者からの自発的な情報提供が期待しにくいという下請取引の実態に鑑み、中小企業庁の協力を得て、親事業者及びこれらと取引している下請事業者を対象として定期的に書面調査を実施しているほか、特定の業種・事業者について特別調査を実施することにより、違反行為の発見に努めている。

(イ) 公正取引委員会は、昨今の厳しい経済情勢の下で、中小事業者の自主的な事業活動が阻害されることのないよう、下請法の厳正かつ迅速な運用により、下請取引の公正化及び下請事業者の利益の保護に努めている。

なお、平成22年度における主な勧告事件は、次のとおりである。

(ウ) 公正取引委員会は、買いたたき、下請代金の減額、下請代金の支払遅延、割引困難な手形(長期手形)の交付等の行為が行われることのないよう、平成22年11月15日に、親事業者及び関係事業者団体に対し、下請法の遵守の徹底等について、公正取引委員会委員長及び経済産業大臣連名の文書をもって要請を行った。平成22年度においては、その取組を一層強化すべく要請先を前年の約3万名から約3万5千名に拡充した。

(3) 企業結合審査の充実

ア 企業結合規制の的確な運用

独占禁止法は、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる会社の株式取得・所有、合併等を禁止している。公正取引委員会は、我が国における競争的な市場構造が確保されるよう、企業結合規制の的確な運用に努めており、平成22年度においては、次のような企業結合事案について、的確に処理するとともに、その内容を公表した。

イ 企業結合規制(審査手続及び審査基準)の見直し

公正取引委員会は、平成22年6月18日に閣議決定された「新成長戦略」に基づき企業結合規制に関して検証を行い、その検証結果等を踏まえ、企業結合審査の迅速性、透明性及び予見可能性を一層高めるとともに、国際的整合性の向上を図る観点から、審査手続及び審査基準の見直しを行い、平成23年3月4日に原案を公表して、意見公募を行った(パブリックコメント手続)。提出された意見を十分に検討した結果、原案の一部を修正した上で、同年6月14日に公正取引委員会規則の一部改正等を行う旨公表し、同年7月1日から施行した

3 競争環境の整備に向けた調査等

(1) 競争評価に関する取組

「行政機関が行う政策の評価に関する法律施行令」の改正により、平成19年10月以後、各府省が規制の新設及び改廃を行おうとする際、原則として、規制の事前評価の実施が義務付けられ、「規制の事前評価の実施に関するガイドライン」(平成19年8月24日政策評価各府省連絡会議了承)において、「その他の社会的費用」の一つとして、当該規制が競争に与える影響を考慮することとされた。また、総務省が取りまとめた「行政評価等プログラム」(平成22年4月公表)において、公正取引委員会の協力を得て規制による競争状況への影響分析(以下「競争評価」という。)の試行を開始することとされ、平成22年4月から実施された。公正取引委員会は、各府省に対する競争評価の普及・定着を図ることを目的として、競争評価チェックリストの作成、競争評価の実施に関する周知等を行った。

(2) 企業における独占禁止法に関するコンプライアンスの取組状況についての調査

公正取引委員会は、平成21年3月に公表した報告書「企業におけるコンプライアンス体制の整備状況に関する調査-独占禁止法改正法施行(平成18年1月)以降の状況-」を踏まえ、企業や企業法務を専門とする弁護士等の有識者から、独占禁止法コンプライアンスの実効性を高めるための取組状況の実態等についてヒアリング調査を行い、そこで得られた事例や意見を参考として、東証一部上場企業に対し、企業における独占禁止法に関するコンプライアンスの取組状況の実態等に関するアンケート調査を実施し、平成22年6月30日、独占禁止法コンプライアンスの実効性を高めるための方策を「企業における独占禁止法に関するコンプライアンスの取組状況について-コンプライアンスの実効性を高めるための方策-」として取りまとめ、公表した。

(3) 広告業界の取引実態に関するフォローアップ調査

公正取引委員会が平成17年11月に公表した「広告業界の取引実態に関する調査報告書」において「競争政策上の評価」として示した事項を中心に、テレビ広告業界における取引慣行のフォローアップ調査を行うとともに、急激な拡大を続けるインターネット広告にテレビ広告と同様な競争阻害的な取引慣行が出現していないかどうかを調査することによって、広告業界の取引慣行について競争政策上の観点から改善すべき点を明らかにすることを目的として調査を実施し、平成22年9月1日、「広告業界の取引実態に関するフォローアップ調査報告書」を公表した。

4 競争政策の運営基盤の強化

(1) 経済のグローバル化への対応

近年、複数国の競争法に抵触する事案、一国による競争法の執行活動が他国の利益に影響を及ぼし得る事案等が増加するなど、執行活動の国際化及び競争当局間の協力・連携の強化の必要性が高まっている。このような状況を踏まえ、公正取引委員会は、二国間独占禁止協力協定等を通じ、海外競争当局との協力関係の強化に努めているほか、関係省庁等との連携を図りつつ、経済連携協定の重要な要素の一つである競争政策に関する交渉に参加している。

また、公正取引委員会は、ICN(国際競争ネットワーク)、OECD(経済協力開発機構)、APEC(アジア太平洋経済協力)、UNCTAD(国連貿易開発会議)等といった多国間における議論にも積極的に参加するほか、東アジア競争法・政策カンファレンス及び東アジア競争政策トップ会合においては主導的な役割を果たしている。

さらに、発展途上国において、既存の競争法制を強化する動きや、新たに競争法制を導入する動きが活発になっていることを受け、公正取引委員会は、これら諸国の競争当局等に対し、職員の派遣や研修の実施等による技術支援を行っている。このほか、公正取引委員会の国際的なプレゼンスを向上させ、我が国の競争政策の状況を広く海外に周知するため、英文パンフレットの配布、英文ウェブサイトの充実及び海外の法曹団体が主催するセミナー等への講師派遣を実施している。

(2) 競争政策の普及啓発に関する広報・広聴活動

競争政策に関して、広く意見を聞くとともに、一層の理解を求めること等を目的として、全国9都市において独占禁止政策協力委員会議を開催したほか、各協力委員から個別の意見聴取を行った。

また、経済社会の変化に即応して競争政策を有効かつ適切に推進するため、公正取引委員会が広く有識者と意見を交換し、併せて競争政策の一層の理解を求めることを目的として、独占禁止懇話会を開催しており、平成22年度においては、2回開催した。

さらに、全国9都市においては公正取引委員会委員等と各地の有識者との意見交換を、また、全国各地区において、地方事務所長等の事務総局職員と有識者との懇談会をそれぞれ開催した。

上記以外の活動として、平成22年度から、本局及び地方事務所等の所在地以外の都市における独占禁止法及び下請法の普及啓発活動や相談対応の一層の充実を図るため、「一日公正取引委員会」を開催するとともに、一般消費者に独占禁止法の内容や公正取引委員会の活動を紹介する「消費者セミナー」を開催した。

加えて、中学校、高等学校及び大学からの要請を受けて講師を派遣して経済活動における競争の役割等について授業を行う独占禁止法教室の開催など、学校教育等を通じた競争政策の普及に努めた

なお、平成22年度における主な取組は、次のとおりである。

第2 業務の大要

平成22年度の業務の大要は、次のとおりである。

1 独占禁止法違反被疑事件の審査及び処理

(1) 独占禁止法違反被疑事件として平成22年度に審査を行った事件は165件である。そのうち同年度内に審査を完了したものは142件であった。

(2) 平成22年度においては、12件の法的措置を採った。これを行為類型別にみると、価格カルテルが6件、入札談合が4件、不公正な取引方法が2件となっている(第1図参照)。また、過去最高額となる総額720億8706万円の課徴金の納付を命じた(第2図参照)。

なお、平成22年度において、課徴金減免制度に基づき事業者が自らの違反行為に係る事実の報告等を行った件数は131件であった。

(3) このほか、違反するおそれのある行為に対する警告3件、違反につながるおそれのある行為に対する注意95件(不当廉売事案について迅速処理による注意を行った2,700件を除く。)を行うなど、適切かつ迅速な法運用に努めた。

第1図 法的措置件数等の推移

第2図 課徴金額等の推移

(注) 平成17年独占禁止法改正法(独占禁止法の一部を改正する法律[平成17年法律第35号]をいう。以下同じ。)による改正前の独占禁止法に基づく課徴金の納付を命ずる審決を含み、同法に基づく審判手続の開始により失効した課徴金納付命令を除く。

(4) 平成22年度における審判件数は、前年度から引き継いだもの47件、平成22年度中に審判手続を開始したもの30件の合計77件(独占禁止法違反に係るものが26件、課徴金納付命令に係るものが50件、景品表示法違反に係るものが1件)であった(第3図参照)。これらのうち、平成22年度中に25件について審決を行った。25件の審決の内訳は、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法に基づく審決が19件(審判審決3件、同意審決3件〔3件の審判審決事件それぞれの一部の被審人に対するものであり、係属件数に影響しない。〕及び課徴金の納付を命ずる審決13件)、平成17年独占禁止法改正法による改正後の独占禁止法に基づく審決が6件(排除措置命令に係る審決3件及び課徴金納付命令に係る審決3件)である。このほか、5件の審判手続打切決定を行い(うち4件はいずれも係属中の同一事件の一部の被審人に対するものであり、係属件数に影響しない。)、この結果、平成22年度末における審判件数(平成23年度に引き継ぐもの)は54件となった。

第3図 審判件数の推移

2 法運用の明確化と独占禁止法違反行為の未然防止

公正取引委員会は、独占禁止法違反行為の未然防止を図るため、事業者及び事業者団体が自ら実施しようと考えている具体的な事業活動について独占禁止法上問題がないかどうか個別に相談してきた場合には、これに応じて回答をしている。平成22年度においては、事業者の活動に関して2,033件の相談を、事業者団体の活動に関して298件の相談を受け付けた。

3 競争政策に関する理論的・実証的な基盤の整備

競争政策研究センターは、平成15年6月の発足以降、独占禁止法等の執行や競争政策の企画・立案・評価を行う上での理論的な基礎を強化するための活動を展開している。平成22年度においては、4つの研究テーマに取り組んだほか、国際シンポジウムを開催(京都大学法学研究科学術創成研究及び(株)日本経済新聞社との共催)するとともに、ワークショップを11回、公開セミナーを3回開催した。

4 企業結合規制に関する業務

独占禁止法第9条から第16条までの規定に基づく企業結合に関する業務については、銀行又は保険会社の議決権保有について10件の認可を行い、持株会社等について92件の報告、持株会社等の設立について2件の届出、会社の株式取得・合併・分割・共同株式移転・事業譲受け等について265件の届出をそれぞれ受理し、必要な審査を行った。

5 不公正な取引方法への取組

(1) 優越的地位の濫用に対する取組

平成22年度においては、ホームセンターによる優越的地位の濫用事件について、1件の排除措置命令を行った。また、公正取引委員会では、優越的地位の濫用行為に係る審査を効率的かつ効果的に行い、必要な是正措置を講じていくことを目的とした「優越的地位濫用事件タスクフォース」を設置し、審査を行っているところ、平成22年度においては、55件の注意を行った。

(2) 不当廉売に対する取組

平成22年度においては、酒類、石油製品、家庭用電気製品等の小売業者及び卸売業者に対し、不当廉売につながるおそれがあるとして2,700件(酒類1,028件、石油製品714件、家電856件、その他102件)の注意を行った。

6 下請法に関する業務

下請取引の公正化及び下請事業者の利益保護を図るため、親事業者38,046名及びこれらと取引している下請事業者210,166名を対象に書面調査を行った。書面調査等の結果、下請法に基づき勧告を行ったものは15件(製造委託等13件、役務委託等2件)(注)(第4図参照)、指導の措置を行ったものは4,226件であった。

このうち、下請代金の支払遅延事件においては、親事業者89名により総額2億8238万円の遅延利息が下請事業者3,420名に支払われ、下請代金の減額事件においては、親事業者98名により総額10億3145万円が下請事業者4,356名に返還された。また、返品事件においては親事業者が下請事業者3名から総額1億3985万円相当の商品を引き取り、不当な経済上の利益の提供要請事件においては総額4175万円の利益提供分が下請事業者59名に支払われた。

(注) 「製造委託等」とは、製造委託及び修理委託をいい、「役務委託等」とは、情報成果物作成委託及び役務提供委託をいう。以下同じ。

第4図 下請法の事件処理件数の推移

(注) 勧告を行った事件の中には、複数の委託取引において違反行為が認められたものがあるが、本図においては、当該事件の違反行為を主として行った委託取引に区分して、件数を計上している。

7 その他の業務

(1) 政策評価

公正取引委員会は、行政機関が行う政策の評価に関する法律に基づき政策評価を実施している。平成22年度には、「企業結合の審査(平成21年度)」、「独占禁止法違反行為に対する措置(平成21年度)」等11件の事後評価を実施・公表した。

(2) 東日本大震災への対応

平成23年3月11日の東日本大震災発生後、公正取引委員会は、震災に関連した事業者等からの様々な相談に対応するとともに、独占禁止法及び下請法上の考え方を明確に示し、事業者等による震災対応に支障が生じないようにするため、「被災地への救援物資配送に関する業界での調整について」、「東日本大震災に関連するQ&A」、「業界団体等における夏期節電対策に係る独占禁止法上の考え方」を公表した。