第2部 各論

第3章 審判

第1 概説

平成22年度における審判件数は、前年度から引き継いだもの47件、平成22年度中に審判手続を開始したもの30件の合計77件(独占禁止法違反に係るものが26件、課徴金納付命令に係るものが50件、景品表示法違反に係るものが1件)であった。これらのうち、平成22年度中に25件について審決を行った。25件の審決の内訳は、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法に基づく審決が19件(審判審決3件、同意審決3件〔3件の審判審決事件それぞれの一部の被審人に対するものであり、係属件数に影響しない。〕及び課徴金の納付を命ずる審決13件)、平成17年独占禁止法改正法による改正後の独占禁止法に基づく審決が6件(排除措置命令に係る審決3件及び課徴金納付命令に係る審決3件)である。このほか、5件の審判手続打切決定を行い(うち4件はいずれも係属中の同一事件の一部の被審人に対するものであり、係属件数に影響しない。)、この結果、平成22年度末における審判件数(平成23年度に引き継ぐもの)は54件となった。

係属中の審判事件一覧

【平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法に基づく審判事件】

【平成17年独占禁止法改正法による改正後の独占禁止法に基づく審判事件】

(注) 平成21年公正取引委員会告示第18号による改正前は一般指定第13項

第2 平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法に基づく審決

1 審判審決

(1) (株)ピーエス三菱ほか10名に対する審決(国土交通省関東地方整備局が発注するプレストレスト・コンクリートによる橋りょうの新設工事の入札談合)

ア 被審人

イ 事件の経過

本件は、平成16年10月15日、公正取引委員会が前記アの被審人ら(以下「被審人ら」という。)を含む20社(注)に対し、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告を行ったところ、全社がこれを応諾しなかったので、同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録並びに被審人SMCコンクリート(株)を除く被審人らから提出された異議の申立書及び同被審人らから聴取した陳述に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人らに対して審決案と同じ内容の審決を行った。

なお、公正取引委員会は、平成22年度、被審人らを除く8社に対して同意審決(下記2(1)参照)を行っている。

(注) 被審人らを含む20社に対し審判開始決定がなされたが、このうち日本鋼弦コンクリート(株)は、平成18年7月1日、安部日鋼工業(株)(当時の商号は、(株)安部工業所)に吸収合併されたことにより消滅している。

ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 違反行為の概要

被審人SMCコンクリート(株)を除く被審人らを含む21社(以下「21社」という。)は、遅くとも平成13年4月1日以降、平成16年3月31日まで、国土交通省が関東地方整備局において一般競争入札、公募型指名競争入札、工事希望型指名競争入札又は指名競争入札の方法によりプレストレスト・コンクリート工事として発注する橋りょうの新設工事(以下「関東地整発注の特定PC橋りょう工事」という。)について、受注価格の低落防止を図るため、共同して、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた(以下「本件行為」という。)。

(イ) 主要な争点及びそれに対する判断

a 審判開始決定の違法性

独占禁止法第49条第1項について、勧告を行わず審判開始決定を行う場合のみを規定したものと解すべき根拠は全く見いだせず、本件審判手続を打ち切るべき違法事由がある旨の被審人らの主張は到底採用できない。

b 21社及び被審人SMCコンクリート(株)による本件行為の有無

本件の証拠関係に照らせば、各供述は十分な信用性を有するものと認められ、本件組織(「関東PCクラブ」又は「S会」と称する組織。以下同じ。)において本件基本合意(注)の下に関東地整発注の特定PC橋りょう工事に関する受注調整が行われていたことは優に認められる。

本件行為の参加者に関しては、特段の事情のない限り、被審人前田製管(株)の従業員の供述及びピーシー橋梁(株)から留置されたアンケート票において本件組織の参加者として挙げられている20社に常磐興産(株)及び住友建設(株)(又は被審人三井住友建設(株))を加えた22社と認めるのが相当である。ただし、被審人SMCコンクリート(株)に関しては、本件組織に参加していたこと及び本件組織において本件行為が行われていたことを認識していたことは明らかであるものの、本件期間中に入札に参加したことは一度もないこと、本件期間当時、関東地整発注の特定PC橋りょう工事を元請として受注して問題なく完成させ得る態勢を実質的に保持していたか否か疑問が残ること及び他の被審人から下請工事を受注することも少なくなく、そうすると本件組織に所属し会合等に参加する動機について、本件行為に参加すること以外になかったとまでは断じられないこと等の事情を踏まえると、同被審人が、本件期間中に本件行為に及んでいたことを推認することはできず、その他、同被審人が本件行為に及んでいたことを認めるに足る証拠はない。

(注) ①自社が受注を希望する工事又は自社が受注を希望する工事額を、本件組織の幹事に表明し、幹事は、各社の過去の受注実績、受注希望等を勘案して、受注予定者を決定し、②受注すべき価格は、受注予定者が定め、受注予定者以外の者は、受注予定者がその定めた価格で受注できるよう協力する旨の合意。

c 本件行為の終期

被審人前田製管(株)の従業員は、本件組織における受注調整を平成16年3月頃まで行っていた旨述べていること等の事情を踏まえれば、本件行為は平成15年12月3日の本件立入検査後も継続されており、少なくとも平成16年3月末日まで継続されていたものと認めるのが相当である。

d 競争の実質的制限の有無

21社自身、本件行為についてアウトサイダーの存在等を考慮してもなお、本件工事についての競争を制限し得るものであると認識し、実際に受注調整を多数回実行した後もその認識を変えなかったことが明らかであること、受注予定者決定等の仕組みが相応の持続性を有するものであったことは明らかであること、21社のシェアが非常に大きいこと、アウトサイダーとの競争を回避する仕組みがあること、本件受注物件65物件の全部又は大部分について、実際に本件行為に係る受注調整が行われたものと推認されること及びアウトサイダーの協力を得ること等により、アウトサイダーとの競争を実質的に回避できていたものと推認されることといった諸事情に照らせば、本件行為は、競争を実質的に制限するものであったと認めるのが相当である。

e 措置の必要性の有無

被審人らのうち被審人常磐興産ピーシー(株)、被審人(株)KCK及び被審人SMCコンクリート(株)を除く被審人8社(以下「被審人8社」という。)については、本件期間だけでも3年にわたって違反行為を継続していたこと、本件行為の発覚を免れるための措置を指示又は実行していたことが明らかであり、受注調整を何とか継続したいという強い意思をうかがわせること、一部の被審人は過去にも不当な取引制限を理由とする処分を受けており、独占禁止法第3条後段に関する規範意識が欠如していること及び本件行為の終了後においても、被審人らの地位等に大きな変化がないことなどの諸事情に照らせば、他に特段の事情がない限り、本件と同様の行為を繰り返すおそれがあり、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第54条第2項に規定する「特に必要があると認めるとき」に該当する。被審人常磐興産ピーシー(株)及び被審人(株)KCKに関しては、本件工事に係る事業活動を行っておらず、上記特段の事情があるというべきであり、「特に必要があると認めるとき」に該当するとは認められない。

エ 法令の適用

独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)

オ 命じた措置等の概要

(ア) 被審人8社は、前記ウ(ア)の行為を取りやめている旨を確認することを取締役会等の業務執行機関において決議しなければならない。

(イ) 被審人8社は、前記(ア)に基づいて採った措置及び今後、前記ウ(ア)の行為と同様の行為を行わず、各社がそれぞれ自主的に受注活動を行う旨を、被審人8社のうち自社を除く7社及び同意審決を受けた事業者並びに国土交通省関東地方整備局に通知し、かつ、自社の従業員に周知徹底しなければならない。

(ウ) 被審人8社は、本件組織への参加を取りやめる旨を、被審人8社のうち自社を除く7社及び同意審決を受けた事業者に通知しなければならない。

(エ) 被審人8社は、今後、前記ウ(ア)の行為と同様の行為を行ってはならない。

(オ) 被審人8社は、今後、前記ウ(ア)の行為と同様の行為を行わないよう、プレストレスト・コンクリート工事の営業担当者に対する独占禁止法に関する研修、法務担当者による定期的な監査等を行うために必要な措置を講じなければならない。

(カ) 被審人常磐興産ピーシー(株)及び被審人(株)KCKが行っていた前記ウ(ア)の行為は、独占禁止法第3条の規定に違反するものであり、かつ、当該行為は既に無くなっていると認める。

(キ) 被審人常磐興産ピーシー(株)及び被審人(株)KCKの前記(カ)の違反行為については、格別の措置を命じない。

(ク) 被審人SMCコンクリート(株)については、独占禁止法第3条に違反する行為があったと認めることはできない。

(2) 更生会社オリエンタル白石(株)管財人河野玄逸及び同富永宏ほか7名に対する審決(国土交通省近畿地方整備局が発注するプレストレスト・コンクリートによる橋りょうの新設工事の入札談合)

ア 被審人

イ 事件の経過

本件は、平成16年10月15日、公正取引委員会が前記アの被審人ら(以下「被審人ら」という。)を含む17社(注)に対し、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告を行ったところ、全社がこれを応諾しなかったので、同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録並びに被審人らから提出された異議の申立書及び同被審人らから聴取した陳述に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人らに対して審決案と同じ内容の審決を行った。

なお、公正取引委員会は、平成22年度、被審人らを除く8社に対して同意審決(下記2(2)参照)を行っている。

(注) 被審人らを含む17社に対し審判開始決定がなされたが、このうち日本鋼弦コンクリート(株)は、平成18年7月1日、安部日鋼工業(株)(当時の商号は、(株)安部工業所)に吸収合併されたことにより消滅している。

ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 違反行為の概要

被審人らを含む18社(以下「18社」という。)は、遅くとも平成12年4月1日以降、平成15年12月3日まで、国土交通省(ただし、平成13年1月5日までは建設省。)が近畿地方整備局(ただし、平成13年1月5日までは近畿地方建設局。)において一般競争入札、公募型指名競争入札、工事希望型指名競争入札又は指名競争入札の方法によりプレストレスト・コンクリート工事として発注する橋りょうの新設工事(以下「近畿地整発注の特定PC橋りょう工事」という。)について、受注価格の低落防止を図るため、共同して、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた(以下「本件行為」という。)。

(イ) 主要な争点及びそれに対する判断

a 審判開始決定の違法性

独占禁止法第49条第1項について、勧告を行わず審判開始決定を行う場合のみを規定したものと解すべき根拠は全く見いだせず、本件審判手続を打ち切るべき違法事由がある旨の被審人らの主張は到底採用できない。

b 18社による本件行為の有無

本件の証拠関係に照らせば、各供述は十分な信用性を有するものと認められ、本件組織(「クラブ」と称する組織。以下同じ。)において本件基本合意(注)の下に近畿地整発注の特定PC橋りょう工事に関する受注調整が行われていたことは優に認められる。

本件行為の参加者に関しては、被審人(株)KCKの従業員等の供述において本件組織の参加者として挙げられている17社に住友建設(株)(又は被審人三井住友建設

(株))を加えた18社と認めるのが相当である。

(注) ①指名を受けた者又は一般競争入札に参加する者(共同企業体である場合にあってはその代表者)は、本件組織の幹事にその旨を連絡するとともに、受注を希望する場合にはその旨を表明し、配分役が、幹事に表明された受注希望、各社の過去の受注実績等を勘案して、受注予定者を決定し、②受注すべき価格は、受注予定者(共同企業体である場合にあってはその代表者)が定め、受注予定者以外の者は、受注予定者がその定めた価格で受注できるよう協力する旨の合意。

c 競争の実質的制限の有無

18社自身、本件行為についてアウトサイダーの存在等を考慮してもなお、本件工事についての競争を制限し得るものであると認識し、実際に受注調整を多数回実行した後もその認識を変えなかったことが明らかであること、受注予定者決定等の仕組みが相応の持続性を有するものであったことは明らかであること、18社のシェアが非常に大きいこと、アウトサイダーとの競争を回避する仕組みがあること、本件受注物件116物件の全部又は大部分について、実際に本件行為に係る受注調整が行われたものと推認されること及びアウトサイダーとの競争を実質的に回避できていたものと推認されることといった諸事情に照らせば、本件行為は、競争を実質的に制限するものであったと認めるのが相当である。

d 措置の必要性の有無

被審人らのうち被審人(株)KCKを除く被審人7社(以下「被審人7社」という。)については、本件期間だけでも3年8か月以上にわたって違反行為を継続していたこと、本件行為に係る受注調整を阻害する行動をとったアウトサイダーに対し組織的に制裁的な措置を講ずるなどしており、被審人らの間の受注調整に係る協調関係は強固なものであったこと、本件行為の発覚を免れるための措置を指示又は実行していたことが明らかであり、受注調整を少しでも長く継続したいという強い意思をうかがわせること、本件行為を中止したのは本件立入検査という外部的要因によるものであること、一部の被審人は過去にも不当な取引制限を理由とする処分を受けており、独占禁止法第3条後段に関する規範意識が欠如していること及び本件行為の終了後においても、被審人らの地位等に大きな変化がないことなどの諸事情に照らせば、他に特段の事情がない限り、本件と同様の行為を繰り返すおそれがあり、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第54条第2項に規定する「特に必要があると認めるとき」に該当する。被審人(株)KCKに関しては、本件工事に係る事業活動を行っておらず、上記特段の事情があるというべきであり、「特に必要があると認めるとき」に該当するとは認められない。

エ 法令の適用

独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)

オ 命じた措置等の概要

(ア) 被審人7社は、前記ウ(ア)の行為を取りやめている旨を確認することを取締役会等の業務執行機関において決議しなければならない。

(イ) 被審人7社は、前記(ア)に基づいて採った措置及び今後、前記ウ(ア)の行為と同様の行為を行わず、各社がそれぞれ自主的に受注活動を行う旨を、被審人7社のうち自社を除く6社及び同意審決を受けた事業者並びに国土交通省近畿地方整備局に通知し、かつ、自社の従業員に周知徹底しなければならない。

(ウ) 被審人7社は、今後、前記ウ(ア)の行為と同様の行為を行ってはならない。

(エ) 被審人7社は、今後、前記ウ(ア)の行為と同様の行為を行わないよう、プレストレスト・コンクリート工事の営業担当者に対する独占禁止法に関する研修、法務担当者による定期的な監査等を行うために必要な措置を講じなければならない。

(オ) 被審人(株)KCKが行っていた前記ウ(ア)の行為は、独占禁止法第3条の規定に違反するものであり、かつ、当該行為は既に無くなっていると認める。

(カ) 被審人(株)KCKの前記(オ)の違反行為については、格別の措置を命じない。

(3) 常磐興産ピーシー(株)ほか7名に対する審決(福島県が発注するプレストレスト・コンクリートによる橋りょうの新設工事の入札談合)

ア 被審人

イ 事件の経過

本件は、平成16年10月15日、公正取引委員会が前記アの被審人ら(以下「被審人ら」という。)を含む18社(注)に対し、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告を行ったところ、全社がこれを応諾しなかったので、同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録並びに被審人らから提出された異議の申立書及び同被審人らから聴取した陳述に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人らに対して審決案と同じ内容の審決を行った。

なお、公正取引委員会は、平成22年度、被審人らを除く8社に対して同意審決(下記2(3)参照)を行い、平成19年度に1社に対して審判手続打切決定を行っている。

(注) 被審人らを含む18社に対し審判開始決定がなされたが、このうち日本鋼弦コンクリート(株)は、平成18年7月1日、安部日鋼工業(株)(当時の商号は、(株)安部工業所)に吸収合併されたことにより消滅している。

ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 違反行為の概要

被審人らを含む20社(以下「20社」という。)は、遅くとも平成13年4月1日以降、平成15年12月3日まで、福島県が条件付き一般競争入札、技術評価型意向確認方式指名競争入札、希望工種反映型指名競争入札又は指名競争入札の方法によりプレストレスト・コンクリート工事として発注する橋りょうの新設工事(以下「福島県発注の特定PC橋りょう工事」という。)について、受注価格の低落防止を図るため、共同して、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた(以下「本件行為」という。)。

(イ) 主要な争点及びそれに対する判断

a 審判開始決定の違法性

独占禁止法第49条第1項について、勧告を行わず審判開始決定を行う場合のみを規定したものと解すべき根拠は全く見いだせず、本件審判手続を打ち切るべき違法事由がある旨の被審人らの主張は到底採用できない。

b 20社による本件行為の有無

本件の証拠関係に照らせば、各供述は十分な信用性を有するものと認められ、本件基本合意(注)の下で福島県発注の特定PC橋りょう工事に関する受注調整が行われていたことは優に認められる。

本件行為の参加者に関しては、特段の事情がない限り、ピーシー橋梁(株)から留置されたアンケート票において「会員社」として挙げられている18社、あるいは、川田建設(株)から留置された「営業報告書」においてグループ分けされている18社に、常磐興産(株)(又は被審人常磐興産ピーシー(株))及び被審人三井住友建設(株)を加えた20社と認めるのが相当である。

(注) ①福島県発注の特定PC橋りょう工事に係る設計を請け負ったコンサルタント業者に対し、設計図面の作成等の設計協力を行ったかどうか等を勘案して、入札参加者間の話合い(黙示の意思表明によるものを含む。)により受注すべき者(共同企業体を含む。)を決定し、②受注すべき価格は、受注予定者(共同企業体である場合にはその代表者)が定め、受注予定者以外の者は、受注予定者がその定めた価格で受注できるよう協力する旨の合意。

c 競争の実質的制限の有無

20社自身、本件行為についてアウトサイダーの存在等を考慮してもなお、本件工事についての競争を制限し得るものであると認識し、実際に受注調整を多数回実行した後もその認識を変えなかったことが明らかであること、受注予定者決定等の仕組みが相応の持続性を有するものであったことは明らかであること、本件期間中の109物件全てを20社が受注していること、109物件の全部又は大部分について、実際に本件行為に係る受注調整が行われていたものと推認されること及び109物件中アウトサイダーが参加しているのは6物件、参加したアウトサイダーは計4社のみであって、これら4社は別地区の事件で被審人となっている者等であり、また、6物件中5物件はその設計協力業者等が受注し、残る1物件についても地元業者2社の意見において受注予定者と予測されていた者が受注していることといった諸事情に照らせば、本件行為は、競争を実質的に制限するものであったと認めるのが相当である。

d 措置の必要性の有無

被審人らのうち被審人常磐興産ピーシー(株)及び被審人(株)KCKを除く被審人6社(以下「被審人6社」という。)については、本件期間だけでも2年8か月以上にわたって本件行為を継続していたこと、本件行為の発覚を免れるための措置を指示又は実行していたことが明らかであり、受注調整を少しでも長く継続したいという強い意思をうかがわせること、本件行為を中止したのは、本件立入検査という外部的要因によるものであること、一部の被審人は過去にも不当な取引制限を理由とする処分を受けており、独占禁止法第3条後段に関する規範意識が欠如していること及び本件行為の終了後においても、被審人らの地位等に大きな変化がないこと等の諸事情に照らせば、他に特段の事情がない限り、本件と同様の行為を繰り返すおそれがあり、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第54条第2項に規定する「特に必要があると認めるとき」に該当する。被審人常磐興産ピーシー(株)及び被審人(株)KCKに関しては、本件工事に係る事業活動を行っておらず、上記特段の事情があるというべきであり、「特に必要があると認めるとき」に該当するとは認められない。

エ 法令の適用

独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)

オ 命じた措置等の概要

(ア) 被審人6社は、前記ウ(ア)の行為を取りやめている旨を確認することを取締役会等の業務執行機関において決議しなければならない。

(イ) 被審人6社は、前記(ア)に基づいて採った措置及び今後、前記ウ(ア)の行為と同様の行為を行わず、各社がそれぞれ自主的に受注活動を行う旨を、被審人6社のうち自社を除く5社及び同意審決を受けた事業者並びに福島県に通知し、かつ、自社の従業員に周知徹底しなければならない。

(ウ) 被審人6社は、今後、前記ウ(ア)の行為と同様の行為を行ってはならない。

(エ) 被審人6社は、今後、前記ウ(ア)の行為と同様の行為を行わないよう、プレストレスト・コンクリート工事の営業担当者に対する独占禁止法に関する研修、法務担当者による定期的な監査等を行うために必要な措置を講じなければならない。

(オ) 被審人常磐興産ピーシー(株)及び被審人(株)KCKが行っていた前記ウ(ア)の行為は、独占禁止法第3条の規定に違反するものであり、かつ、当該行為は既に無くなっていると認める。

(カ) 被審人常磐興産ピーシー(株)及び被審人(株)KCKの前記(オ)の違反行為については、格別の措置を命じない。

2 同意審決

(1) 川田建設(株)ほか7名に対する審決(国土交通省関東地方整備局が発注するプレストレスト・コンクリートによる橋りょうの新設工事の入札談合)

ア 被審人

イ 事件の経過

本件は、平成16年10月15日、公正取引委員会が20社に対し、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告を行ったところ、全社がこれを応諾しなかったので、同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたところ、平成22年度においてそれぞれ、前記アのとおり、被審人8社から、同法第53条の3及び公正取引委員会の審査及び審判に関する規則第81条の規定に基づき同意審決を受ける旨の申出があり、具体的措置に関する計画書が提出されたので、これを精査した結果、適当と認められたことから、その後の審判手続を経ないで審決を行ったものである。

ウ 認定した事実の概要

前記アの各被審人は、国土交通省関東地方整備局の管内においてプレストレスト・コンクリート工事業を営む事業者と共同して、遅くとも平成13年4月1日(ただし、被審人日本サミコン(株)にあっては平成14年3月12日頃)以降、平成16年3月31日まで、国土交通省が関東地方整備局において一般競争入札、公募型指名競争入札、工事希望型指名競争入札又は指名競争入札の方法によりプレストレスト・コンクリート工事として発注する橋りょうの新設工事について、受注価格の低落防止を図るため、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた。

エ 法令の適用

独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)

オ 命じた措置の概要

(ア) 前記アの各被審人は、前記ウの行為を取りやめている旨を確認することを取締役会において決議しなければならない。

(イ) 前記アの各被審人は、前記(ア)に基づいて採った措置及び今後、前記ウの行為と同様の行為を行わず、各社がそれぞれ自主的に受注活動を行う旨を、自社を除く審判開始決定を受けた事業者及び国土交通省関東地方整備局に通知するとともに、自社の従業員に周知徹底しなければならない。

(ウ) 前記アの各被審人は、「関東PCクラブ」又は「S会」と称する組織への参加を取りやめる旨を、自社を除く審判開始決定を受けた事業者に通知しなければならない。

(エ) 前記アの各被審人は、今後、前記ウの行為と同様の行為を行ってはならない。

(オ) 前記アの各被審人は、今後、前記ウの行為と同様の行為を行わないよう、プレストレスト・コンクリート工事の営業担当者に対する独占禁止法に関する研修、法務担当者による定期的な監査等を行うために必要な措置を講じなければならない。

(2) ピーシー橋梁(株)ほか7名に対する審決(国土交通省近畿地方整備局が発注するプレストレスト・コンクリートによる橋りょうの新設工事の入札談合)

ア 被審人

イ 事件の経過

本件は、平成16年10月15日、公正取引委員会が17社に対し、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告を行ったところ、全社がこれを応諾しなかったので、同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたところ、平成22年度においてそれぞれ、前記アのとおり、被審人8社から、同法第53条の3及び公正取引委員会の審査及び審判に関する規則第81条の規定に基づき同意審決を受ける旨の申出があり、具体的措置に関する計画書が提出されたので、これを精査した結果、適当と認められたことから、その後の審判手続を経ないで審決を行ったものである。

ウ 認定した事実の概要

前記アの各被審人は、国土交通省(ただし、平成13年1月5日までは建設省。以下同じ。)近畿地方整備局(ただし、平成13年1月5日までは近畿地方建設局。以下同じ。)の管内においてプレストレスト・コンクリート工事業を営む事業者と共同して、遅くとも平成12年4月1日以降、平成15年12月3日まで、国土交通省が近畿地方整備局において一般競争入札、公募型指名競争入札、工事希望型指名競争入札又は指名競争入札の方法によりプレストレスト・コンクリート工事として発注する橋りょうの新設工事について、受注価格の低落防止を図るため、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた。

エ 法令の適用

独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)

オ 命じた措置の概要

(ア) 前記アの各被審人は、前記ウの行為を取りやめている旨を確認することを取締役会等の業務執行機関において決議しなければならない。

(イ) 前記アの各被審人は、前記(ア)に基づいて採った措置及び今後、前記ウの行為と同様の行為を行わず、各社がそれぞれ自主的に受注活動を行う旨を、自社を除く審判開始決定を受けた事業者及び国土交通省近畿地方整備局に通知するとともに、自社の従業員に周知徹底しなければならない。

(ウ) 前記アの各被審人は、今後、前記ウの行為と同様の行為を行ってはならない。

(エ) 前記アの各被審人は、今後、前記ウの行為と同様の行為を行わないよう、プレストレスト・コンクリート工事の営業担当者に対する独占禁止法に関する研修、法務担当者による定期的な監査等を行うために必要な措置を講じなければならない。

(3) 川田建設(株)ほか7名に対する審決(福島県が発注するプレストレスト・コンクリートによる橋りょうの新設工事の入札談合)

ア 被審人

イ 事件の経過

本件は、平成16年10月15日、公正取引委員会が18社に対し、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告を行ったところ、全社がこれを応諾しなかったので、同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたところ、平成22年度においてそれぞれ、前記アのとおり、被審人8社から、同法第53条の3及び公正取引委員会の審査及び審判に関する規則第81条の規定に基づき同意審決を受ける旨の申出があり、具体的措置に関する計画書が提出されたので、これを精査した結果、適当と認められたことから、その後の審判手続を経ないで審決を行ったものである。

ウ 認定した事実の概要

前記アの各被審人は、福島県の区域においてプレストレスト・コンクリート工事業を営む事業者と共同して、遅くとも平成13年4月1日以降、平成15年12月3日まで、福島県が条件付き一般競争入札、技術評価型意向確認方式指名競争入札、希望工種反映型指名競争入札又は指名競争入札の方法によりプレストレスト・コンクリート工事として発注する橋りょうの新設工事について、受注価格の低落防止を図るため、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた。

エ 法令の適用

独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)

オ 命じた措置の概要

(ア) 前記アの各被審人は、前記ウの行為を取りやめている旨を確認することを取締役会において決議しなければならない。

(イ) 前記アの各被審人は、前記(ア)に基づいて採った措置及び今後、前記ウの行為と同様の行為を行わず、各社がそれぞれ自主的に受注活動を行う旨を、自社を除く審判開始決定を受けた事業者及び福島県に通知するとともに、自社の従業員に周知徹底しなければならない。

(ウ) 前記アの各被審人は、今後、前記ウの行為と同様の行為を行ってはならない。

(エ) 前記アの各被審人は、今後、前記ウの行為と同様の行為を行わないよう、プレストレスト・コンクリート工事の営業担当者に対する独占禁止法に関する研修、法務担当者による定期的な監査等を行うために必要な措置を講じなければならない。

3 課徴金の納付を命ずる審決

(1) 新明和工業(株)に対する審決(東京都が発注する下水道ポンプ設備工事の入札談合)

ア 被審人及び納付を命じた課徴金の額

イ 事件の経過

 本件は、平成20年8月29日、公正取引委員会が新明和工業(株)(以下「被審人」という。)に対し平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ、被審人は、これを不服として審判手続の開始を請求したので、同年11月11日、被審人に対し、同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人に対して審決案と同じ内容の審決を行った。

ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 課徴金に係る違反行為の概要

被審人は、東京都が下水道局において一般競争入札、公募制指名競争入札又は希望制指名競争入札の方法により発注する下水道ポンプ設備工事(以下「東京都発注の特定ポンプ設備工事」という。)について、受注価格の低落防止を図るため、他のポンプ据付け工事の建設業を営む事業者と共同して、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた。

(イ) 課徴金の計算の基礎となる事実及び課徴金額の算定

被審人の本件違反行為の実行期間は、独占禁止法第7条の2第1項の規定により、平成12年7月29日から平成15年7月28日までの3年間であり、平成17年政令第318号による改正前の独占禁止法施行令第6条の規定に基づき算定すると、被審人のこの期間における東京都発注の特定ポンプ設備工事に係る売上額は8400万円である。課徴金の額は、この売上額に100分の6を乗じて得られる504万円である。

(ウ) 主要な争点及びそれに対する判断

a 被審人は、本件違反行為の不存在を主張し得るか

本件審判は、本件違反行為に関し、審判手続を経た上で、公正取引委員会が本件違反行為の存在を認定し、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第54条第2項の規定により平成16年(判)第4号審決(以下「本案審決」という。)を行った後、本件違反行為について同一の被審人に対して課徴金納付命令が発せられたことに由来する課徴金に係る審判であるところ、被審人には、本案審決に係る審判手続において本件違反行為の存否を争う機会が与えられており、公正取引委員会は、被審人の主張立証を踏まえて本件違反行為の存在を認定して本案審決を行ったものである。

このような場合には、課徴金に係る審判において、被審人が重ねて本件違反行為の不存在を主張することは許されないと解するのが相当である。

b 鮫洲ポンプ所合流改善施設排水ポンプ設備工事(以下「本件工事」という。)が、独占禁止法第7条の2第1項所定の「当該役務」に該当するものとして課徴金算定の対象となるか

独占禁止法第7条の2第1項所定の「当該商品又は役務」とは、本件のような受注調整による違反行為の場合には、①当該期間において販売又は提供された違反行為の対象となった商品又は役務のうち、②違反行為に係る基本合意に基づいて受注予定者が決定されること又は受注予定者が決定されるまでには至らなくても調整手続に上程されることによって具体的に競争制限効果が発生するに至ったものを指すと解すべきであり、上記①に該当する商品又は役務については、それでも上記②の事情が生じなかったと認めるべき特段の事情のない限り、上記②の事情が生じたものと推定し、上記「当該商品又は役務」に該当するものとして課徴金の算定対象に含めるのが相当である。

本件違反行為の対象となった役務は、東京都発注の特定ポンプ設備工事であり、本件工事がその範ちゅうに属することは明らかである。そこで、本件工事について、本件違反行為の対象となった役務であるにもかかわらず、上記推定を覆すに足りる特段の事情があるか否かについて検討するに、被審人は、その営業部門が技術部門作成の本件見積価格よりも大幅に低い価格で本件工事を入札したことを指摘し、被審人が他の事業者と本件受注調整を行っていたのであればこのような大幅な下方修正をする必要はなかった旨主張するが、被審人が本件見積価格より大幅に低い価格で入札したということをもって、上記の推定を覆すに足りる特段の事情があるということはできない。

なお、被審人は本件工事の入札の当時においてもそもそも本件受注調整に参加していなかったという本件違反行為の存在を前提としない趣旨の主張をし、その立証活動も同主張を裏付けようとするものであるが、結局、本件工事について、上記の推定を覆すに足りる特段の事情があることを主張立証するものとはいえない。

その他、本件全証拠によっても本件工事について前記の特段の事情があるとは認められない。

よって、本件工事については、独占禁止法第7条の2第1項所定の「当該役務」に該当するものとして課徴金算定対象に含めるのが相当である。

c 課徴金算定の基礎となる本件工事の売上額には消費税相当額も含まれるか

独占禁止法第7条の2第1項は、課徴金の算定基礎となる「売上額」を「政令で定める方法により算定」する旨規定し、これを受けて、独占禁止法施行令第6条第1項は、同「方法」について、「商品の販売又は役務の提供に係る契約により定められた対価の額」を合計する方法とする旨規定しているが、消費税は、事業者が「課税資産の譲渡等」を行った場合に、当該譲渡等を行ったこと自体により、自ら、当該譲渡等の「対価の額」に一定税率を乗じて得られる額の納付義務を負うものであり、譲受人の納付すべき税金を事業者が預かって代わりに納付するものではないから、事業者が商品販売等を行った際に、その「本体価格」に「消費税相当額」を付加した金額の代金を受領したとしても、当該「消費税相当額」は、「商品の販売又は役務の提供に係る契約により定められた対価の額」の一部とみるほかなく、上記「売上額」の算定において消費税相当額を控除すべきものと解することはできない。

d 課徴金算定において売上額に乗じるべき割合はいくらにすべきか

被審人は、課徴金の額の算定において売上額に乗ずるべき割合について、事業者が得た実質的利益の額に即して判断するべきであると主張するが、独占禁止法第7条の2第1項等は、「売上額」に乗ずるべき一定比率を「乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない」と規定しており、その他の関連法令の規定内容からしても、同法が公正取引委員会に対し、事業者や売上額に関する個別事情に応じて課徴金の額を増減させる権限を付与しているものとは解されないし、課徴金の額はカルテルによって実際に得られた不当な利得の額と一致しなければならないものではないから、上記被審人の主張を採用することはできない。

エ 法令の適用

独占禁止法第7条の2

(2) 常磐興産(株)に対する審決(国土交通省関東地方整備局が発注するプレストレスト・コンクリートによる橋りょうの新設工事の入札談合)

ア 被審人及び納付を命じた課徴金の額

イ 事件の経過

本件は、平成17年4月25日、公正取引委員会が常磐興産(株)(以下「被審人」という。)に対し平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ、被審人は、これを不服として審判手続の開始を請求したので、平成17年6月15日、被審人に対し、同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録並びに被審人から提出された異議の申立書及び同被審人から聴取した陳述に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人に対して審決案と同じ内容の審決を行った。

ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 課徴金に係る違反行為の概要

被審人を含む21社(以下「21社」という。)は、遅くとも平成13年4月1日以降、平成16年3月31日まで、国土交通省が関東地方整備局において一般競争入札、公募型指名競争入札、工事希望型指名競争入札又は指名競争入札の方法によりプレストレスト・コンクリート工事として発注する橋りょうの新設工事(以下「関東地整発注の特定PC橋りょう工事」という。)について、受注価格の低落防止を図るため、共同して、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた(以下「本件行為」という。)。

(イ) 課徴金の計算の基礎となる事実及び課徴金額の算定

被審人の本件違反行為の実行期間は、平成13年8月31日から平成14年7月31日までであり、平成17年政令第318号による改正前の独占禁止法施行令第6条の規定に基づき算定すると、被審人のこの期間における関東地整発注の特定PC橋りょう工事に係る売上額は3億7380万円である。課徴金の額は、この売上額に100分の6を乗じて得た額から1万円未満の端数を切り捨てて算出された2242万円である。

(ウ) 主要な争点及びそれに対する判断

a 21社及びSMCコンクリート(株)による本件行為の有無

本件の証拠関係に照らせば、各供述は十分な信用性を有するものと認められ、本件組織(「関東PCクラブ」又は「S会」と称する組織。以下同じ。)において本件基本合意(注)の下に関東地整発注の特定PC橋りょう工事に関する受注調整が行われていたことは優に認められる。

本件行為の参加者に関しては、特段の事情のない限り、前田製管(株)の従業員の供述及びピーシー橋梁(株)から留置されたアンケート票において本件組織の参加者として挙げられている20社に被審人及び住友建設(株)(又は三井住友建設(株))を加えた22社と認めるのが相当である。22社のうち、SMCコンクリート(株)に関しては、本件各証拠によれば、上記特段の事情が認められるものの、その余の21社に関しては、上記特段の事情は認められない。

(注) ①自社が受注を希望する工事又は自社が受注を希望する工事額を、本件組織の幹事に表明し、幹事は、各社の過去の受注実績、受注希望等を勘案して、受注予定者を決定し、②受注すべき価格は、受注予定者が定め、受注予定者以外の者は、受注予定者がその定めた価格で受注できるよう協力する旨の合意。

b 本件行為の終期

前田製管(株)の従業員は、本件組織における受注調整を平成16年3月頃まで行っていた旨述べていること等の事情を踏まえれば、本件行為は平成15年12月3日の本件立入検査後も継続されており、少なくとも平成16年3月末日まで継続されていたものと認めるのが相当である。

c 競争の実質的制限の有無

21社自身、本件行為についてアウトサイダーの存在等を考慮してもなお、本件工事についての競争を制限し得るものであると認識し、実際に受注調整を多数回実行した後もその認識を変えなかったことが明らかであること、受注予定者決定等の仕組みが相応の持続性を有するものであったことは明らかであること、21社のシェアが非常に大きいこと、アウトサイダーとの競争を回避する仕組みがあること、本件受注物件65物件の全部又は大部分について、実際に本件行為に係る受注調整が行われたものと推認されること及びアウトサイダーの協力を得ること等により、アウトサイダーとの競争を実質的に回避できていたものと推認されることといった諸事情に照らせば、本件行為は、競争を実質的に制限するものであったと認めるのが相当である。

エ 法令の適用

独占禁止法第7条の2

(3) 常磐興産(株)に対する審決(福島県が発注するプレストレスト・コンクリートによる橋りょうの新設工事の入札談合)

ア 被審人及び納付を命じた課徴金の額

イ 事件の経過

本件は、平成17年4月25日、公正取引委員会が常磐興産(株)(以下「被審人」という。)に対し平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ、被審人は、これを不服として審判手続の開始を請求したので、平成17年6月15日、被審人に対し、同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録並びに被審人から提出された異議の申立書及び同被審人から聴取した陳述に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人に対して審決案と同じ内容の審決を行った。

ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 課徴金に係る違反行為の概要

被審人を含む20社(以下「20社」という。)は、遅くとも平成13年4月1日以降、平成15年12月3日まで、福島県が条件付き一般競争入札、技術評価型意向確認方式指名競争入札、希望工種反映型指名競争入札又は指名競争入札の方法によりプレストレスト・コンクリート工事として発注する橋りょうの新設工事(以下「福島県発注の特定PC橋りょう工事」という。)について、受注価格の低落防止を図るため、共同して、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた(以下「本件行為」という。)。

(イ) 課徴金の計算の基礎となる事実及び課徴金額の算定

被審人の本件違反行為の実行期間は、平成13年4月10日から平成14年7月31日までであり、平成17年政令第318号による改正前の独占禁止法施行令第6条の規定に基づき算定すると、被審人のこの期間における福島県発注の特定PC橋りょう工事に係る売上額は12億9431万4000円である。課徴金の額は、この売上額に100分の6を乗じて得た額から1万円未満の端数を切り捨てて算出された7765万円である。

(ウ) 主要な争点(20社による本件行為の有無)及びそれに対する判断

本件の証拠関係に照らせば、各供述は十分な信用性を有するものと認められ、本件基本合意(注)の下で福島県発注の特定PC橋りょう工事に関する受注調整が行われていたことは優に認められる。

本件行為の参加者に関しては、特段の事情がない限り、ピーシー橋梁(株)から留置されたアンケート票において「会員社」として挙げられている18社、あるいは、川田建設(株)から留置された「営業報告書」においてグループ分けされている18社に、被審人(又は常磐興産ピーシー(株))及び三井住友建設(株)を加えた20社と認めるのが相当である。

(注) ①福島県発注の特定PC橋りょう工事に係る設計を請け負ったコンサルタント業者に対し、設計図面の作成等の設計協力を行ったかどうか等を勘案して、入札参加者間の話合い(黙示の意思表明によるものを含む。)により受注すべき者(共同企業体を含む。)を決定し、②受注すべき価格は、受注予定者(共同企業体である場合にはその代表者)が定め、受注予定者以外の者は、受注予定者がその定めた価格で受注できるよう協力する旨の合意。

エ 法令の適用

独占禁止法第7条の2

(4) (株)東芝ほか1名に対する審決(旧郵政省発注の郵便番号自動読取区分機類の入札談合)

ア 被審人及び納付を命じた課徴金の額

イ 事件の経過

本件は、平成16年6月14日、公正取引委員会が前記アの被審人2社(以下「被審人ら」という。)に対し平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ、被審人らは、これを不服として審判手続の開始を請求したので、平成16年7月13日、被審人らに対し、同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録並びに被審人らから提出された異議の申立書及び同被審人らから聴取した陳述に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人らに対して審決案と同じ内容の審決をそれぞれ行った。

ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 課徴金に係る違反行為の概要

被審人らは、郵政省が平成7年度から平成9年度にかけて一般競争入札の方法により発注した郵便番号自動読取区分機類(以下「区分機類」という。)について、遅くとも平成7年7月3日から平成9年12月10日までの間、入札執行前に同省の調達事務担当官等から情報の提示を受けた者を当該区分機類の物件を受注すべき者(以下「受注予定者」という。)として決定し、当該受注予定者が受注できるようにすることにより、公共の利益に反して、同省が一般競争入札の方法により発注する区分機類の取引分野における競争を実質的に制限していた。

(イ) 課徴金の計算の基礎となる事実及び課徴金額の算定

被審人らが本件違反行為の実行としての事業活動を行った期間は、独占禁止法第7条の2第1項の規定により、平成7年7月3日から平成9年12月10日までであり、被審人らのこの期間における郵政省が一般競争入札の方法により発注した区分機類に係る売上額は、被審人(株)東芝については361億7564万3880円、被審人日本電気(株)については340億1769万3407円である。課徴金の額は、これらの売上額に100分の6を乗じて得た額から1万円未満の端数を切り捨てて算出された額であり、被審人(株)東芝については21億7053万円、被審人日本電気(株)については20億4106万円である。

(ウ) 主要な争点及びそれに対する判断

a 本件審判手続は違法であるか否か

独占禁止法第48条の2第1項ただし書及び第7条の2第6項にいう「審判手続が終了した」ときとは、公正取引委員会の終局判断である審決が行われた時点を指すと解するのが相当である。本件では、平成15年6月27日に本案審決がなされ、平成16年6月14日に本件課徴金納付命令がなされているから、除斥期間は経過しておらず、被審人らの主張は理由がない。

独占禁止法は、本件のように同一の被審人について同一の違反行為の存否が争点となる審判手続についても、同一の構成の委員会によって審決が行われることを予定しているものと解され、このことが適正手続に反すると解する余地はない。

b 本件合意があったか否か

被審人らは、指名競争入札において郵政省内示を前提にして完全に一致した行動を採ってきていた従前の経緯もあって、同省から一般競争入札下においても同省内示を継続する旨伝えられたことにより、互いに、相手方について、指名競争入札の当時と同じ行動を採るであろうと確信することができ、遅くとも一般競争入札が導入された平成7年7月3日までには、同省が一般競争入札の方法により発注する区分機類について、両社ともに、同省内示を受けた物件については入札に参加し、同省内示を受けない物件については入札を辞退するという一致した行動を採ることについて、相互に認識ないし予測し、相互に協調する状況になっていたものと認められる。

よって、被審人らの間には本件合意(同省内示があった者のみが当該物件の入札に参加し、同省内示がなかった者は当該物件の入札に参加しないことにより、同省内示のあった者が受注するようにする旨の黙示の合意)が成立していた。

c 本件合意は「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ものであるか否か

区分機類を製造・販売する事業者としては現に被審人らが存在し、郵政省は、被審人らに対し、同省内示に当たり、前年度の読取率の善し悪しを考慮して情報を提示する台数に差を設けるとして、被審人らの技術開発を促し、被審人らも、より多くの台数の同省内示を得るために技術開発を競っていたこと、他社製の選別押印機等と自社製の宛名区分機等との接続及び連結部等の製造は、インターフェース情報等接続に関する技術情報が開示されれば技術的に可能であったことに加えて、同省は会計法及び特例政令の規定に基づいて全ての区分機類を一般競争入札の方法で発注していることからすれば、同省が発注する区分機類の販売に係る取引分野における競争の存在は明らかである。そして、平成7年度から同9年度にかけての区分機類の販売市場における被審人らのシェアは、ほぼ100%であったから、本件合意は同省発注の区分機類の取引分野における一般競争入札による競争を実質的に制限するものである。

d 本件合意は「公共の利益に反して」に該当するか否か

不当な取引制限に該当する価格カルテルや入札談合は、原則として、それ自体で公共の利益に反するというべきである。

e 本件合意は「対価に係るもの」に該当するか否か

入札制度が入札価格を基準として受注予定者を決定するものであることに照らすと、入札における競争を対象とする不当な取引制限(いわゆる入札談合)の場合には、受注予定者を決定するとともに、受注予定者以外のものは、価格競争を回避して受注予定者が入札する価格以下の価格で入札しないという合意を当然に包含するものといえるから、定型的に「対価に係るもの」に該当すると解するべきである。

本件合意は、受注予定者を決定し、当該受注予定者が受注できるようにすることを内容とするものであり、本件合意に基づいて受注予定者とされた者が、郵政省の予定価格の範囲内ではあるものの、他の被審人との価格競争を全く考慮することなく、自社の利益を最大限とする価格で入札することを可能とし、かつ落札することをも実現させるから、商品の対価に直接影響するものであることは明らかである。したがって、本件合意は独占禁止法第7条の2第1項に規定する「商

品の対価に係るもの」に該当する。

f 課徴金の対象から除外すべき物件があるか否か

入札談合における「当該商品又は役務」とは、基本合意の対象となった商品又は役務全体のうち、個別の入札において基本合意の成立により発生した競争制限効果が及んでいると認められるものをいうと解するべきである。そして、個別の入札において基本合意に基づき受注予定者が決定されたことが認められれば、当該入札の対象物件には、自由な競争を行わないという基本合意の成立によって発生した競争制限効果が及んでいると認められるから、基本合意の対象から除外された等の特段の事情がない限り、「当該商品」に該当すると認められる。本件各物件については、いずれも、本件合意に従って受注予定者が決定されたものと認められるから、本件各物件には本件合意による競争制限効果が及んでいると認められる。したがって、本件各物件は、独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」に該当するものである。

エ 法令の適用

独占禁止法第7条の2

(5) 三菱重工業(株)ほか4名に対する審決(地方公共団体が発注するストーカ炉の建設工事の入札談合)

ア 被審人及び納付を命じた課徴金の額

イ 事件の経過

本件は、平成19年3月23日、公正取引委員会が前記アの被審人5社(以下「被審人ら」という。)に対し平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ、被審人らは、これを不服として審判手続の開始を請求したので、平成19年5月21日、被審人らに対し、同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録及び被審人らから提出された異議の申立書に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人らに対して審決案と同じ内容の審決をそれぞれ行った。

ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 課徴金に係る違反行為の概要

被審人らは、遅くとも平成6年4月以降、地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事について、共同して、受注予定者を決定し、

受注予定者が受注することができるようにしていた(以下「本件違反行為」という。)。

(イ) 課徴金の計算の基礎となる事実及び課徴金額の算定

被審人らが本件違反行為の実行としての事業活動を行った期間は、独占禁止法第7条の2第1項の規定により、三菱重工業(株)については平成7年12月19日から平成10年12月18日まで、JFEエンジニアリング(株)、川崎重工業(株)、日立造船(株)及び(株)タクマについては平成7年9月17日から平成10年9月16日までの3年間であり、課徴金額は、被審人らのこの期間における地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注したストーカ炉の建設工事に係る売上額に、100分の6を乗じて得た額から1万円未満の端数を切り捨てて算出された金額となり、各社の課徴金額は前記アの課徴金欄のとおりである。

(ウ) 主要な争点及びそれに対する判断

a 本件各工事はそれぞれ独占禁止法第7条の2第1項の「当該役務」に該当するか否か(全事件共通)

本件各工事の入札において違反行為に係る合意(以下「本件合意」という。)に基づき受注予定者が決定されたことが認められれば、当該入札の対象工事には、自由な競争を行わないという本件合意の成立によって発生した競争制限効果が及んでいるものと認められるから、当該入札の対象工事は、「当該商品又は役務」に該当するものと認められる。

そして、本件合意は、地方公共団体が発注するストーカ炉の建設工事全てを受注調整の対象とする合意であったと推認される。この推認を覆すためには、この当時本件合意が存在していたにも関わらず、何らかの事情があって個別の工事において受注予定者が決定されなかったこと、受注予定者が決定されたがこれが覆されたこと等の特段の事情をうかがわせるに足りるだけの反証をする必要がある。被審人らがそれぞれ主張する事情は、いずれも上記特段の事情をうかがわせるに足りるものではなく、他に、全証拠を総合しても、上記特段の事情をうかがわせるに足りるだけの事情を認めることはできない。

b 本件違反行為の終了日前に落札し、違反行為終了日以後に契約が締結された「名古屋市(五条川工場)」工事及び「高知市」工事の売上げは、独占禁止法第7条の2第1項の実行期間内の売上額(以下「売上額」という。)に含まれるか(平成19年(判)第3号事件のみ)

独占禁止法第7条の2第1項が「実行としての事業活動がなくなる日」と定めて違反行為の終了日と明確に区別して規定していること、違反行為終了時をもって実行期間終了日と解すると違反行為による売上げが違反行為終了後に発生した場合に一律課徴金の対象から除外されてしまうことになり適切ではないこと等から、同項にいう「実行としての事業活動がなくなる日」とは、違反行為の終了日とすべきではなく、違反行為者につき、それぞれ違反行為に係る事業活動が終了したと認められる日と解するべきである。

平成17年政令第318号による改正前の独占禁止法施行令第6条により契約基準が適用される場合において、違反行為終了前に受注調整に係る入札が行われて受注予定者が落札し、違反行為終了後に契約が締結されたときには、当該契約締結時をもって事業活動の終了日と解し、当該契約における対価を課徴金算定の基礎とするのが相当である。

c 「湖北広域行政事務センター」工事に対する追加工事による工事代金増額分は「売上額」に含まれるか(平成19年(判)第3号事件のみ)

違反行為の対象となった工事について、追加工事が発注された場合でも、当該追加工事が違反行為の対象となった工事に係る業務内容の変更と認められる場合には、当該追加工事は当初工事と同一性を有するものとして、その変更後の契約金額をもって独占禁止法施行令第6条の「契約により定められた対価の額」に該当すると解するのが相当である。

d 「横浜市(金沢工場)」工事に係る売上げは「売上額」に該当するか(平成19年(判)第4号事件のみ)

独占禁止法施行令第6条の趣旨等によれば、同条の「実行期間において締結した契約」における契約の「締結」とは、契約の内容が特定され、契約締結権限を有する者による意思表示により契約締結に必要な手続が履行され、契約が有効に成立し、違反行為の実行としての事業活動により売上げに係る債権が発生し得る時点を意味すると解するのが相当である。

議会の可決を必要とする地方公共団体との契約については、議会の議決により契約締結権限を与えられた執行機関の長が、契約書面に記名押印をすることによって、独占禁止法施行令第6条に該当する契約が締結されたものと解されるところ、「横浜市(金沢工場)」工事に係る契約については、議会の承認を得た後、横浜市長の公印が押印された時点で本件請負契約書が完成し、契約が締結されたものと認められ、実行期間内において締結された契約に該当することから、同工事に係る契約金額は「売上額」と認められる。

e 消費税相当額は「売上額」に含まれるか(平成19年(判)第3号及び同第4号事件のみ)

消費税相当額は、法的性質上、役務に対する対価の一部であり、独占禁止法施行令第6条にいう役務の「対価」に含まれると解するべきである。

f 本件課徴金納付命令は除斥期間経過後で違法となるか(平成19年(判)第6号事件のみ)

独占禁止法第48条の2第1項ただし書及び第7条の2第6項にいう「審判手続が終了した」ときとは、公正取引委員会の終局判断である審決が行われた時点を指すと解するのが相当である。本件課徴金納付命令は本案審決が行われてから1年を経過する前に発せられたものであり、本件手続に手続違背はない。

エ 法令の適用

独占禁止法第7条の2

(6) JX日鉱日石エネルギー(株)ほか2名に対する審決(旧防衛庁調達実施本部が発注する石油製品の入札談合)

ア 被審人及び納付を命じた課徴金の額

イ 事件の経過

本件は、平成20年1月16日、公正取引委員会が前記アの被審人3社(以下「被審人ら」という。)に対し平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ、被審人らは、これを不服として審判手続の開始を請求したので、平成20年3月24日、被審人らに対し、同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録及び被審人らから提出された異議の申立書に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人らに対して審決案と同じ内容の審決をそれぞれ行った。

ウ 認定した事実及び判断の概要
(ア) 課徴金に係る違反行為の概要

被審人らは、遅くとも平成7年4月以降、共同して、防衛庁調達実施本部(以下「調達実施本部」という。)が指名競争入札の方法により発注する自動車ガソリン、灯油、軽油(一般用及び艦船用)、A重油及び航空タービン燃料(以下、併せて「本件石油製品」という。)について、物件ごとの受注予定者を決定し、受注予定者以外の指名業者は受注予定者が受注することができるよう協力する旨の合意の下に、受注予定者を決定し、受注予定者が受注することができるようにすることにより、公共の利益に反して、調達実施本部発注の本件石油製品の油種ごとの取引分野における競争を実質的に制限していた。

(イ) 課徴金の計算の基礎となる事実及び課徴金額の算定

被審人らが本件違反行為の実行としての事業活動を行った期間は、独占禁止法第7条の2第1項の規定により、平成7年11月21日から平成10年11月20日までの3年間であり、課徴金額は、被審人ら(被審人JX日鉱日石エネルギー(株)については当時の日本石油(株)及び三菱石油(株))のこの期間における本件石油製品の油種ごとの売上額に、各算定率を乗じて得た額から1万円未満の端数を切り捨てて算出された金額の合計となり、被審人らの課徴金額は前記アの課徴金欄のとおりである。

(ウ) 主要な争点及びそれに対する判断

a 本件違反行為は、「対価に係るもの」に該当するか否か

入札制度が入札価格を基準として受注者を決定するものであることに照らすと、入札を対象とする不当な取引制限(いわゆる入札談合)の場合には、受注予定者を決定するとともに、受注予定者以外の者は、価格競争を回避して受注予定者が入札する価格以下の価格で入札しないという合意を当然に包含するものといえるから、定型的に「対価に係るもの」に該当すると解すべきである。

本件合意は、入札において受注予定者との価格競争を回避して受注予定者が入札する価格以下の価格で入札しない旨をも共通意思及び相互拘束の内容とするものである。加えて、被審人らは、商議においてあらかじめ被審人コスモ石油(株)の担当者から示された基準価格の水準に従って、油種ごとに一律の基準価格について価格交渉を行う等していたのであるから、本件違反行為は本件石油製品の対価に直接的な効果を及ぼすものであることは明らかである。よって、本件違反行為は独占禁止法第7条の2第1項の「対価に係るもの」に該当する。

b 課徴金算定の対象から除外するべき物件があるか否か

独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品又は役務」とは、本件合意のような入札談合の場合にあっては、基本合意の対象となった商品又は役務全体のうち、個別の入札において基本合意の成立により発生した競争制限効果が及んでいると認められるものをいうと解するべきである。そして、個別の入札において基本合意に基づき受注予定者が決定されたことが認められれば、当該入札の対象物件には、自由な競争を行わないという基本合意の成立によって発生した競争制限効果が及んでいるものと認められる。

被審人らは、配分会議で、山間へき地、離島等所在の基地に納入する小口物件等輸送コストがかさむ物件を含む本件石油製品の全てについて、受注予定者を決定し、当該受注予定者が受注していたと認められる。

よって、被審人らのいずれかが受注した本件石油製品は全て独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」に該当し、その売上額は、課徴金算定の基礎となる。

c 本件石油製品の売上額に係る課徴金の算定率について

違反行為の拘束を受けた取引について、違反行為者が形式的には第三者から商品を購入して、これを販売している場合であっても、その利益構造や業務内容等から、違反行為者が実質的にみて卸売業者又は小売業者の機能に属しない他業種の事業活動を行っていると認められる場合には、卸売業又は小売業以外の事業を行っているものとして業種の認定を行い、課徴金の算定率も卸売業・小売業以外のものを用いることが相当である。

(a) 被審人JX日鉱日石エネルギー(株)について

本件石油製品に関する日本石油(株)の事業活動には、本件石油製品を第三者から購入してこれを販売するという卸売業としての実態はなく、日本石油(株)は、実質的にみて卸売業者又は小売業者の機能に属しない他業種の事業活動を行っていたものと認められるから、日本石油(株)の本件石油製品の売上額に係る課徴金算定率については、卸売業又は小売業以外の業種に係る算定率6パーセントを適用すべきこととなる。

(b) 被審人昭和シェル石油(株)について

独占禁止法第7条の2第1項は、違反行為の対象となった油種における個々の取引について個別に業種の認定を行うことは予定していないと解すべきであり、油種ごとに違反行為の実行としての事業活動である取引全体を基準として業種の認定を行うのが妥当である。そして、違反行為に係る取引について、卸売業又は小売業に認定されるべき事業活動とそれ以外の事業活動の双方が行われている場合には、定型的に実行期間における違反行為に係る取引において、過半を占めていたと認められる事業活動に基づいて業種を決定することが相当である。

被審人昭和シェル石油(株)が本件実行期間中において調達実施本部に納入した本件石油製品のうち西部石油(株)から購入した製品の売上額が油種全売上額(契約価格の合計)の過半を占めるのは、62.5パーセントの軽油のみであるから、被審人昭和シェル石油(株)について、軽油については卸売業に適用される算定率1パーセントを、その他の自動車ガソリン、灯油、A重油及び航空タービン燃料については、いずれも卸売業又は小売業以外の業種に適用される算定率6パーセントを適用するべきこととなる。

d 課徴金算定の基礎となる売上額について(契約基準適用の可否、消費税及び石油諸税相当額を売上額に算入することの可否)

(a) 契約基準の適用

平成17年政令第318号による改正前の独占禁止法施行令第6条の契約基準によるべき場合を、「著しい差異」があるときではなく、「著しい差異を生ずる事情」があると認められるときとしていることに照らせば、引渡基準によった場合の対価の合計額と契約により定められた対価の合計額との間に著しい差異を生ずる蓋然性が類型的ないし定性的に認められるかどうかを判断して契約基準の適用の可否を決すれば足りるものと解するのが相当である。

本件では、引渡基準によった場合の対価の合計額と契約により定められた対価の合計額との間に著しい差異を生ずる蓋然性が類型的ないし定性的に存在すると認められ、よって、課徴金算定の基礎となる売上額の算定について、独占禁止法施行令第6条の契約基準によることが相当である。

(b) 消費税及び石油諸税相当額の取扱い

商品の購入者が支払う消費税相当額は、法的性質上、商品の「販売価格」の一部であり、独占禁止法施行令第6条にいう商品の「対価」に含まれると解すべきである。

また、石油諸税相当額については、法的性質からしても社会通念の観点からしても、商品の対価の一部として課徴金算定の基礎となる売上額に含まれるものと解することが相当である。

エ 法令の適用

独占禁止法第7条の2

第3 平成17年独占禁止法改正法による改正後の独占禁止法に基づく審決

1 ハマナカ(株)に対する排除措置命令に係る審決(ハマナカ毛糸の再販売価格の拘束条件付取引)

(注) 平成21年公正取引委員会告示第18号による改正前の一般指定。以下「一般指定」という。

(1) 被審人

(2) 事件の経過

本件は、平成20年6月23日、公正取引委員会が、ハマナカ(株)(以下「被審人」という。)に対して、独占禁止法第20条第1項の規定に基づき排除措置命令を行ったところ、被審人は、同命令に対して不服として審判請求を行ったので、被審人に対し、同法第52条第3項の規定に基づき審判手続を開始し、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録並びに被審人から提出された異議の申立書及び被審人から聴取した陳述に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人に対して審決案と同じ内容(審判請求を棄却する旨)の審決を行った。

(3) 判断の概要等

ア 原処分の原因となる事実

被審人は、正当な理由がないのに、小売業者に対し値引き限度価格(注1)を維持させるとの条件を付けてハマナカ毛糸(注2)を供給し、また、卸売業者に対し当該卸売業者をして小売業者に値引き限度価格を維持させるとの条件を付けてハマナカ毛糸を供給していた。これらの行為は、一般指定の第12項第1号及び第2号に該当し、独占禁止法第19条の規定に違反するものである。

(注1) 小売業者が標準価格から値引きして販売する場合、玉単位で販売する場合には標準価格の10パーセント引きの価格、袋単位で販売する場合には標準価格の20パーセント引きの価格を下限とする価格。以下同じ。

(注2) 手編み毛糸又は手芸糸を玉状等にまとめ、「ハマナカ」又は「RichMore」の商標を付したもの。以下同じ。

イ 主要な争点及びそれに対する判断
(ア) 被審人は、小売業者に対し、その販売するハマナカ毛糸の販売価格を定めてこれを維持させるという拘束の条件を付けてハマナカ毛糸を供給し、また、卸売業者に対し小売業者のハマナカ毛糸の販売価格を定めて当該卸売業者をして小売業者にこれを維持させるという拘束の条件を付けてハマナカ毛糸を供給しているか否か

一般指定第12項各号所定の「販売価格を定め」るとは、一定の販売価格を定める場合のみならず、販売価格の下限を定める場合も含むものと解される。また、一般指定第12項所定の「拘束の条件をつけて」いるというためには、必ずしもその取引条件に従うことが契約上の義務として定められていることを要せず、それに従わない場合には経済上何らかの不利益を伴うことにより現実にその実効性が確保されていれば足りるものと解される(最高裁判所昭和50年7月10日判決・民集29巻6号888頁参照〔以下「和光堂判決」という。〕)。

被審人は、平成17年9月頃以降、ハマナカ毛糸の小売業者が標準価格を大幅に下回る販売価格で販売することにより小売業者間の価格競争が激化することを防止するため、ハマナカ毛糸の値引き限度価格を定めて小売業者をしてその価格以上の価格で販売させることとし、その価格を下回る価格で販売している小売業者が判明した場合には、自ら又は卸売業者を通じて、当該小売業者に対し、その価格以上の価格で販売するよう申し入れ、小売業者をしてこれに応じさせ、小売業者がその申入れに応じない場合には、当該小売業者に対する出荷を停止し、あるいは当該小売業者にハマナカ毛糸を販売している卸売業者に対する出荷を停止することにより当該小売業者への出荷を停止させ、又はかかる出荷停止を示唆するなどし、これにより、小売業者に対し、値引き限度価格を、実効性をもって維持させているものと認められる。

そうである以上、被審人は、ハマナカ毛糸の「販売価格を定め」た上で、小売業者に対し、当該販売価格を維持させるという「拘束の条件をつけて」ハマナカ毛糸を供給し、かつ、卸売業者に対し、当該卸売業者をして小売業者に当該販売価格を維持させるという「拘束の条件をつけて」ハマナカ毛糸を供給しているものというべきである。

(イ) 被審人の前記(ア)の行為には正当な理由があるか否か

ハマナカ毛糸の小売価格を維持させる本件行為が、小売業者間のハマナカ毛糸に係る価格競争を阻害するものであって、公正競争阻害性を有するものであることは、その性質上明らかというべきである。

被審人は、本件行為について「正当な理由」があると主張するところ、一般指定第12項所定の「正当な理由」とは、専ら公正な競争秩序維持の見地からみた観念であって、当該拘束条件が相手方の事業活動における自由な競争を阻害するおそれがないことをいうものであり、単に通常の意味において正当のごとくみえる場合すなわち競争秩序の維持とは直接関係のない事業経営上又は取引上の観点等からみて合理性ないし必要性があるにすぎない場合などは含まないものと解される(前掲和光堂判決等参照)。

これを被審人の本件行為についてみるに、被審人の主張する「大多数の中小の小売業者が生き残る途」であり、また「産業としての、文化としての手芸手編み業を維持し、手芸手編み業界全体を守る」ために必要であるということは、小売業者の事業活動における「自由な競争を阻害するおそれがないこと」をいうものとは解されず、むしろ、競争秩序の維持とは直接関係のない観点からの合理性ないし必要性をいうものであって、上記「正当な理由」を基礎付けるものということはできない。「手芸手編み業を維持し、手芸手編み業界全体を守る」こと自体は何ら否定されるべき事柄ではないが、そのような目的を達するために本件行為のような販売価格を維持させる行為を行うことが許されるなどと解することは、独占禁止法の趣旨等に照らし困難である。

(4) 法令の適用

独占禁止法第66条第2項

2 日本道路興運(株)に対する排除措置命令及び課徴金納付命令に係る審決(国土交通省発注する車両管理業務の入札談合)

(1) 被審人

(2) 事件の経過

本件は、平成21年6月23日、公正取引委員会が、日本道路興運(株)(以下「被審人」という。)に対して、独占禁止法第7条第2項の規定に基づき排除措置命令を、同法第7条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ、被審人は、両命令に対して不服として審判請求を行ったので、被審人に対し、同法第52条第3項の規定に基づき審判手続を開始し、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録及び被審人から提出された異議の申立書に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人に対して審決案と同じ内容(審判請求を棄却する旨)の審決を行った。

(3) 判断の概要等

ア 原処分の原因となる事実
(ア) 平成21年(判)第27号及び第29号

被審人を含む7社は、遅くとも平成17年1月1日以降、共同して、国土交通省が関東地方整備局の事務所等において一般競争入札又は指名競争入札の方法により発注する車両管理業務について、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにすることにより、公共の利益に反して、当該業務の取引分野における競争を実質的に制限していた。

被審人の当該違反行為の実行期間は、独占禁止法第7条の2第1項の規定により、平成17年7月15日から平成20年7月14日までの3年間であり、本件実行期間において同法第7条の2の規定により算出された課徴金の額は2億7392万円である。

(イ) 平成21年(判)第28号及び第30号

被審人を含む2社は、遅くとも平成17年1月1日以降、共同して、国土交通省が四国地方整備局の事務所等において一般競争入札又は指名競争入札の方法により発注する車両管理業務について、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにすることにより、公共の利益に反して、当該業務の取引分野における競争を実質的に制限していた。

被審人の当該違反行為の実行期間は、独占禁止法第7条の2第1項の規定により、平成17年7月15日から平成20年7月14日までの3年間であり、本件実行期間において同法第7条の2の規定により算出された課徴金の額は1億2795万円である。

イ 主要な争点及びそれに対する判断(両事件共通)
(ア) 被審人は本件各車両管理業務について本件違反行為から離脱したと認められるか否か

排除措置に係る原処分は、違反行為を排除するために必要な措置を命ずるものであるところ、本件各排除措置命令は、本件基本合意の下に、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていたことを本件違反行為として認定するものであって、当該違反行為に係る個別の入札物件ごとに違反行為を認定しているものでない。したがって、特定の個別物件について本件違反行為から離脱したという被審人の主張については、排除措置に係る原処分において認定している本件違反行為を正しく理解しないものであり、それ自体失当である。

(イ) 公正取引委員会は、排除措置に係る原処分を行うに当たって、本件各車両管理業務について、本件基本合意に基づく受注調整が行われたことを具体的に主張・立証する必要があるか否か

本件のような入札談合事件においては、基本合意の下に受注予定者を決定し受注予定者が受注できるようにしていたことが違反行為であり、そのような場合においては、公正取引委員会は、基本合意の下に受注予定者を決定し受注予定者が受注できるようにしていたことを主張・立証すれば足り、そのために個別の物件の受注調整についても主張・立証することがあるものの、全ての個別物件について逐一具体的に受注調整を主張・立証する必要はない。

(ウ) 本件各車両管理業務は、独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品又は役務」に該当せず、その売上額を課徴金の計算の基礎となる売上額から除外すべきか否か

不当な取引制限の対象とされた商品又は役務の範ちゅうに属するものであれば、個別の入札において基本合意の成立によって発生した競争制限効果が及ばなかったと認めるべき特段の事情がない限り、当該入札の対象物件には、自由な競争を行わないという基本合意の成立によって発生した競争制限効果が及んでいるものと推認することができるから、当該個別の入札に係る物件は、「当該商品又は役務」に該当するものと認められる。

本件各車両管理業務は、本件違反行為の対象役務の範ちゅうに属するものであり、また、特段の事情は認められず、「当該商品又は役務」に該当すると認められる。したがって、本件各車両管理業務の売上額は、課徴金の計算の基礎となる売上額に含まれる。

(4) 法令の適用

独占禁止法第66条第2項

3 (株)クボタに対する課徴金納付命令に係る審決(鋼管杭の製造販売業者による価格カルテル)

(1) 被審人

(2) 事件の経過

本件は、平成20年6月4日、公正取引委員会が、(株)クボタ(以下「被審人」という。)に対して、独占禁止法第7条の2第1項の規定に基づき課徴金納命令を行ったところ、被審人は、同命令に対して不服として審判請求を行ったので、被審人に対し、同法第52条第3項の規定に基づき審判手続を開始し、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録及び被審人から提出された異議の申立書に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人に対して審決案と同じ内容(審判請求を棄却する旨)の審決を行った。

(3) 判断の概要等

ア 原処分の原因となる事実

被審人を含む4社は、共同して、特定鋼管杭(注)の建設業者向け販売価格を引き上げる旨を合意することにより、公共の利益に反して、我が国における特定鋼管杭の販売分野における競争を実質的に制限していた。

被審人の当該違反行為の実行期間は、独占禁止法第7条の2第1項の規定により、平成16年4月1日から平成17年6月20日までであり、独占禁止法第7条の2の規定により算出された課徴金の額は2億1291万円である。

(注) 鋼鉄のみにより製造された杭(継手及び付属品を取り付けたものを含む。)であって、国、地方公共団体、国又は地方公共団体が過半を出資する法人、北海道旅客鉄道(株)、東日本旅客鉄道(株)、東海旅客鉄道(株)、西日本旅客鉄道(株)、四国旅客鉄道(株)、九州旅客鉄道(株)及び日本貨物鉄道(株)が発注する建設工事を請け負う建設業者が同工事に使用するもの(回転杭を除く。)。

イ 主要な争点及びそれに対する判断
(ア) 被審人から新日本製鐵(株)を介して建設業者向けに販売された特定鋼管杭(被審人のブランド名が付された製品であり、いわゆる「S契約・Kマーク製品」と称される製品である。以下「本件製品」という。)に係る売上額(以下「本件売上額」という。)は、独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品…の売上額」に該当し、被審人に対する課徴金算定の基礎となるか否か

独占禁止法第7条の2第1項は、課徴金を賦課するためには各違反行為者が違反行為の実行としての事業活動を行うことを前提とした規定となっていること、同項の「売上額」の算定方法を定めた独占禁止法施行令第6条は、違反行為に関して締結された契約の対価の額を売上額の計算において基準とする旨定めていること及び課徴金の制度趣旨は、カルテルの摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし、カルテルの予防効果を強化することを目的とするものであることに照らすと、同項に規定する「当該商品…の売上額」とは、違反行為の対象となった商品(本件においては本件製品)について違反行為の実行としての取引を行った者の売上額を意味すると解するべきである。

本件合意の内容及び特定鋼管杭の取引の実態に鑑みると、本件違反行為の実行としての取引とは、特定鋼管杭について、各違反行為者が需要者である建設業者を相手方として自ら又は販売業者を通じて行った販売行為(以下「本件販売行為」という。)となるところ、審決案で認定した各事実によれば、被審人は、自ら主体となって本件販売行為を実行していたものであり、本件販売行為の実行者と認められる。

したがって、本件製品に係る被審人の売上額は、独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品…の売上額」に該当する。

(イ) 原処分が本件売上額を被審人に対する課徴金算定の基礎としたことに何らかの違法があり、そのために原処分に取消事由があるか否か

被審人は、原処分に処分の取消事由となる違法性が存在する旨主張するが、いずれも理由がない。

(4) 法令の適用

独占禁止法第66条第2項

第4 審判手続打切決定

平成22年度においては、下表の被審人5社に対し、破産手続終結の決定がなされ同決定が確定したことを考慮し、各被審人に対する審判手続打切決定を行った。