第2部 各論

第1章 独占禁止法制等の動き

第1 独占禁止法の改正

1 法律案の提出

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成21年法律第51号。以下「平成21年独占禁止法改正法」という。)附則第20条第1項において、「審判手続に係る規定について、全面にわたって見直すものとし、平成二十一年度中に検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」こととされた。

また、平成21年独占禁止法改正法案に係る衆議院及び参議院の経済産業委員会の附帯決議において、「審判手続に係る規定については、本法附則において、全面にわたって見直すものとし、平成二十一年度中に行う検討の結果所要の措置を講ずることとされているが、検討の結果として、現行の審判制度を現状のまま存続することや、平成十七年改正以前の事前審判制度へ戻すことのないよう、審判制度の抜本的な制度変更を行うこと」とされた。

これらの附則等を踏まえ、平成22年3月12日、公正取引委員会が行う審判制度を廃止するとともに、公正取引委員会が排除措置命令等の行政処分を行おうとする際の意見聴取のための手続の整備等の所要の改正を行うことを内容とする、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案が第174回通常国会に提出された。同法律案は、同年6月16日、衆議院において閉会中審査とされた。続く第175回臨時国会から第179回臨時国会までの各国会においても閉会中審査とされ、第180回通常国会において、平成24年1月24日、衆議院経済産業委員会に付託された。

2 法律案の内容

(1) 審判制度等の廃止

ア 審判官を廃止することとした。

イ 審判制度に係る規定を廃止することとした。

ウ 審決の取消しの訴えは、審決がその効力を生じた日から30日以内に提起しなければならないとする規定を廃止することとした。

エ 審決の取消しの訴えに係る訴訟については、公正取引委員会の認定した事実は、これを立証する実質的な証拠があるときには、裁判所を拘束するとする規定を廃止することとした。

オ 審決取消訴訟の当事者は、裁判所に対し、公正取引委員会が認定した事実に関する証拠の申出をする場合には、公正取引委員会が正当な理由がなく当該証拠を採用しなかった場合等に該当することを理由とするものであることを要するとする規定を廃止することとした。

(2) 排除措置命令等に係る意見聴取のための手続等の整備

ア 排除措置命令に係る意見聴取のための手続の整備

(ア) 排除措置命令をしようとするときは、当該排除措置命令の名宛人となるべき者について、意見聴取を行わなければならないこととした。

(イ) 意見聴取を行うに当たっては、意見聴取を行うべき期日までに相当な期間をおいて、排除措置命令の名宛人となるべき者に対し、予定される排除措置命令の内容等を書面により通知しなければならないこととした。

(ウ) (イ)の通知を受けた者(以下「当事者」という。)は、代理人を選定することができることとした。

(エ) 当事者は、公正取引委員会に対し、当該意見聴取に係る事件について公正取引委員会の認定した事実を立証する証拠の閲覧又は謄写(謄写については、当該証拠のうち、当該当事者若しくはその従業員が提出したもの又は当該当事者若しくはその従業員の供述を録取したものとして公正取引委員会規則で定めるものの謄写に限る。)を求めることができることとした。

(オ) 意見聴取は、公正取引委員会が事件ごとに指定するその職員(以下「指定職員」という。)が主宰することとした。

(カ) 指定職員は、当該意見聴取に係る事件について第47条第2項の規定により指定された審査官その他の当該事件の調査に関する事務に従事した職員((キ)において「審査官等」という。)に、予定される排除措置命令の内容等を意見聴取の期日に出頭した当事者に対し、説明させなければならないこととした。

(キ) 当事者は、意見聴取の期日に出頭して、意見を述べ、及び証拠を提出し、並びに指定職員の許可を得て審査官等に対し質問を発することができることとした。

(ク) 当事者は、意見聴取の期日への出頭に代えて、指定職員に対し、意見聴取の期日までに陳述書及び証拠を提出することができることとした。

(ケ) 指定職員は、意見聴取の期日における当事者による意見陳述等の経過を記載した調書を作成し、当該調書において、当事者の陳述の要旨を明らかにしておかなければならないこととした。

(コ) 指定職員は、意見聴取の終結後速やかに、当該意見聴取に係る事件の論点を整理し、当該整理された論点を記載した報告書を作成し、(ケ)の調書とともに公正取引委員会に提出しなければならないこととした。

(サ) 公正取引委員会は、排除措置命令に係る議決をするときは、(ケ)の調書及びの報告書の内容を十分に参酌しなければならないこととした。

イ 納付命令に係る意見聴取のための手続等の整備

(ア) 課徴金の納期限は、課徴金納付命令書の謄本を発する日から7月を経過した日とすることとした。

(イ) 納付命令をしようとするときは、当該納付命令の名宛人となるべき者について、意見聴取を行わなければならないこととし、排除措置命令に係る意見聴取に関する規定を準用することとした。

ウ 競争回復措置命令に係る意見聴取のための手続等の整備

(ア)  独占的状態があると認める場合に審判開始決定を行うことができる規定を廃止し、競争回復措置命令を行うこととした。

(イ) 競争回復措置命令をしようとするときは、当該競争回復措置命令の名宛人となるべき者について、意見聴取を行わなければならないこととし、排除措置命令に係る意見聴取に関する規定を準用することとした。

(ウ) 公正取引委員会は、競争回復措置命令の名宛人となるべき者に対し意見聴取に係る通知をしようとするときは、当該事業者の営む事業に係る主務大臣に協議し、かつ、公聴会を開いて一般の意見を求めなければならないこととした。

(3) 排除措置命令等に係る訴訟手続の整備

ア 審決に係る抗告訴訟の第一審裁判権は東京高等裁判所に属するとする規定を廃止
し、排除措置命令等に係る抗告訴訟等は、東京地方裁判所の専属管轄とすることとし
た。

イ 東京地方裁判所は、排除措置命令等に係る抗告訴訟等については、3人の裁判官の合議体で審理及び裁判をすることとした。

ウ イにかかわらず、東京地方裁判所は、排除措置命令等に係る抗告訴訟等について、5人の裁判官の合議体で審理及び裁判をする旨の決定をその合議体ですることができることとした。

エ 東京地方裁判所がした排除措置命令等に係る抗告訴訟等についての終局判決に対する控訴等が提起された東京高等裁判所においては、当該控訴等に係る事件について、5人の裁判官の合議体で審理及び裁判をする旨の決定をその合議体ですることができることとした。

オ 排除措置命令等に係る抗告訴訟については、国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律第6条の規定を適用しないこととした。

(4) 罰則規定の見直し

審判制度に係る罰則規定について所要の整備を行うこととした。

第2 独占禁止法と他の経済法令等の調整

1 法令協議

公正取引委員会は、関係行政機関が特定の政策的必要性から経済法令の制定又は改正を行おうとする際に、これら法令に独占禁止法の適用除外や競争制限的効果をもたらすおそれのある行政庁の処分に係る規定を設けるなどの場合には、その企画・立案の段階で、当該行政機関からの協議を受け、独占禁止法及び競争政策との調整を図っている。

平成23年度において調整を行った主なものは、次のとおりである。

○災害時における石油の供給不足への対処等のための石油の備蓄の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案

経済産業省は、東日本大震災を経験し、石油を始めとしたエネルギーの安定供給を図るため、災害時の石油供給の体制を強化するとともに、資源獲得に向けた体制を整備するための措置を講ずる必要があることから、災害時における石油の供給不足への対処等のための石油の備蓄の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案を立案した。

本法律案のうち石油の備蓄の確保等に関する法律(昭和50年法律第96号)の改正部分は、災害時に直ちに被災者等への石油の供給が行われるよう、石油元売会社に対し、共同で、地域ごとに、災害時の石油の供給に際しての共同作業体制の構築等を定めた計画をあらかじめ作成することを義務付けること等を定めるものである。当該計画に基づく石油元売会社の共同行為は、原則独占禁止法上問題となるものとは考えられないが、その内容によっては独占禁止法に抵触する可能性があるため、経済産業省と所要の協議を行い、同改正案においては、公正取引委員会は、経済産業大臣に届出された当該計画の写しの送付を受け、当該計画の内容が独占禁止法上問題となるおそれがあるなど必要があると認める場合には、経済産業大臣に対し、意見を述べるものとされた。

なお、本法律案は、第180回通常国会に提出され、平成24年8月29日に成立した。

2 行政調整

公正取引委員会は、関係行政機関が特定の政策的必要性から行う行政措置等について、独占禁止法及び競争政策上の問題が生じないよう、当該行政機関と調整を行っている。