第2部 各論

第4章 訴訟

第1 審決取消請求訴訟

1 概説

 平成23年度当初において係属中の審決取消請求訴訟は19件であったところ、平成23年度中に新たに4件の審決取消請求訴訟が提起された。これら平成23年度の係属事件23件のうち、最高裁判所が上告棄却及び上告不受理決定をしたことにより終了したものが6件、最高裁判所が上告不受理決定をしたことにより終了したものが1件、最高裁判所が上告受理の決定後に原判決を破棄し、原審原告らの請求を棄却した判決が1件、東京高等裁判所が請求を認容し、上訴期間の経過をもって確定したものが1件あった。この結果、平成23年度末時点において係属中の審決取消請求訴訟は14件となった。

なお、平成23年度中に東京高等裁判所が原告の請求を棄却する判決を下した後、原審原告が上告及び上告受理申立てを行ったものが10件ある(このうち、1件については、原審原告が上告を取り下げ、最高裁判所が上告不受理決定をしたことにより終了した。)。

表 平成23年度に係属していた審決取消請求訴訟

2 東京高等裁判所における判決

(1) ハマナカ(株)による審決取消請求事件(平成22年(行ケ)第12号)(前記表一連番号13)

ア 主な争点及び判決の概要
(ア) 本件審決の認定した事実は実質的証拠に基づくものであり、平成21年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第2条第9項に基づき公正取引委員会が定めた平成21年10月28日改正前の「不公正な取引方法」(昭和57年公正取引委員会告示第15号。以下「一般指定」という。)の第12項第1号及び第2号に該当するか

原告は、本件審決の認定した事実について実質的証拠に基づくものとはいえない旨を主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、本件審決の認定した事実は、いずれも証拠により合理的に認定できるものであって、実質的証拠があるといえ、本件審決の認定した事実によれば、原告は、自己の供給する商品であるハマナカ毛糸を購入する小売業者に対して、ハマナカ毛糸の販売価格を値引き限度価格以上と定め、この販売価格を維持するという拘束の条件をつけてハマナカ毛糸を供給し、かつ、ハマナカ毛糸を購入する卸売業者に対して、小売業者の販売価格を値引き限度価格以上と定め、この販売価格を維持させるという拘束の条件をつけてハマナカ毛糸を供給しているものということができ、これらの原告の一連の行為(以下「本件行為」という。)は、包括して一般指定第12項第1号及び第2号に該当する旨判示している。

(イ) 本件行為に一般指定第12項の正当な理由があるか

原告は、本件行為の目的は、大多数の中小の小売業が生き残れるようにし、産業としての、文化としての手芸手編み業を維持し、手芸手編み業界全体を守ることにあるところ、中小小売業者の生き残りを図るという部分は国民経済の民主的で健全な発展を促進するという独占禁止法の目的に、産業としての、文化としての手芸手編み業を維持するという部分は、一般消費者の利益を確保するという同法の目的に、それぞれ合致するものであり、本件行為には、一般指定第12項の正当な理由がある旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、原告の主張する本件行為の目的は、国民経済の民主的で健全な発展の促進という独占禁止法の目的に沿うものとはいえず、一般消費者の利益を確保するという同法の目的と直接関係するとはいえない上、同法第23条の指定も受けていない商品について、前記の目的達成のために相手方の事業活動における自由な競争を阻害することが明らかな本件行為という手段を採ることが、必要かつ相当であるとはいえないことから、本件行為に一般指定第12項の正当な理由があるとはいえない旨判示している。

イ 訴訟手続の経過

本件は、原告が上告及び上告受理申立てを行ったところ、原告は、平成23年7月19日、上告を取り下げ、後記3のとおり、最高裁判所は上告不受理の決定を行った。

(2) 大森工業(株)による審決取消請求事件(平成22年(行ケ)第6号)(前記表一連番号9)

ア 主な争点及び判決の概要

原告は、本件審決は実質的証拠がないにもかかわらず、TST 親交会が違反行為の主体であると認定し、原告にTST 親交会が受注調整の団体であることの認識があったと推認し、原告を違反行為者と認定している旨を主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、以下のとおり判示した。原告代表者が、TST 親交会の会員になるに当たって、本件審決が認定した合意(以下「本件基本合意」という。)について説明を受けたことなど、TST 親交会において受注調整が行われていることを認識していたことを直接証する実質的証拠はなく、また、TST 親交会に入会したこと自体から前記認識を推認することについては、これを妨げる事情が認められ、前記推認を基礎付けるに足りる実質的証拠もないというべきである。したがって、本件審決が挙げる証拠によって、平成13年4月1日以前の時点で、トラスト・メンバーズないしTST 親交会の会員間において本件基本合意が成立し、これに基づく受注調整が行われており、平成16年10月26日の被告による立入調査までこの受注調整が継続して行われていたことが認められるとしても、前記の受注調整が行われていた期間中の平成15年10月16日にTST 親交会に入会し、同年11月19日を入札日とする物件112の入札に参加した原告に、本件基本合意による受注調整が行われていたことの認識があったことについての実質的証拠がないのであるから、原告のTST 親交会への入会及び物件112の入札への参加が、独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限として、同法第3条の規定に違反するということはできない。

イ 訴訟手続の経過

本件判決は、上訴期間の経過をもって確定した。

(3) 南建設(株)による審決取消請求事件(平成22年(行ケ)第10号)(前記表一連番号12)

ア 主な争点及び判決の概要
(ア) 原告が、トラスト・メンバーズ及びTST 親交会(以下「TST 親交会等」という。)が受注調整を行うことを目的とする組織であること、実際に受注調整が行われていること、自社もそれに参加することとなることを、認識していたものと認められると本件審決が判断したことについて、実質的な証拠があるか

原告が、トラスト・メンバーズ及びTST 親交会(以下「TST 親交会等」という。)が受注調整を行うことを目的とする組織であること、実際に受注調整が行われていること、自社もそれに参加することとなることを、認識していたものと認められると本件審決が判断したことについて、実質的な証拠があるか 原告は、トラスト・メンバーズに入会した際に、トラスト・メンバーズが受注調整をしていることを認識していなかったと主張し、個々の会社がTST 親交会等が受注調整をしているとの説明を受けたという事実を指摘しなければ、本件審決にいうような「認識をしていた」との判断ができない旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、本件審決が摘示した証拠により、原告に対する関係で本件審決が認定した事実と同一の事実を認めることができ、本件審決の基礎となった事実を立証する実質的な証拠がないということはできないと判断した上で、TST 親交会等は、受注調整を行うために設立され、原告が入会した時点でも、恒常的に受注調整を行っている組織であったことに変わりはなく、岩手県全域を対象とする条件付一般競争入札が導入された場合でもTST 親交会等は、受注調整を行うための協議をし、受注予定者がより確実に受注できるようにするための行為を行っていたこと、二戸地区においても受注調整が行われていたこと、原告は、二戸地区の役員である業者の推薦を受けてTST 親交会等に入会し、平成13年度の総会のほか、平成14年度、平成15年度の総会にも出席していることが認められ、他に特段の事情のない本件にあっては、原告はTST 親交会等が主として受注調整を行うことを目的とする組織であること、実際に受注調整が行われていること、自社もそれに参加することとなることを認識していたものと認めるのが相当である旨判示している

(イ) 独占禁止法第54条第2項にいう「特に必要があると認めるとき」に該当するか

原告は、独占禁止法第54条第2項に規定する「特に必要があると認められるとき」に該当せず、排除措置を命じる必要性はない旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、本件審決が、被審人らについては、違反行為と同様の行為を繰り返すおそれがあり、独占禁止法第54条第2項に規定する「特に必要があると認めるとき」に該当するとの判断において認定した事実は、証拠により認めることができ、当該認定事実からすると、原告に対する関係でも同法第54条第2項所定の「特に必要があると認めるとき」との要件に該当するとしてした排除確認措置を命ずる本件審決は、被告の裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用するということはできない旨判示している。

イ 訴訟手続の経過

本件は、原告による上告及び上告受理申立てにより、平成23年度末現在、最高裁判所に係属中である。

(4) 日本鋳鉄管(株)ほか2名による審決取消請求事件(平成21年(行ケ)第11号、第13号及び第14号)(前記表一連番号6)

ア 主な争点及び判決の概要
(ア) 本件カルテルが、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項の「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」に該当することについて実質的な証拠があるか

原告らは、本件カルテルが平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項の「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することにより対価に影響があるもの」に該当するとする本件審決にはこれを証明する実質的証拠が存在しない旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、以下のとおり判示した。本件審決がいうように、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項の「供給量を制限する」とは、需要量と供給量の関係で価格が決定される機能を阻害する人為的な介入により供給量に対して何らかの限界・範囲を設定して供給量を抑えることをいい、「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」とは、市場全体に対する供給量の総量を制限するものであることを要するが、供給量を制限することを合意の内容とし、又はそれを直接企図したカルテルに限られず、カルテルの効果として市場全体の供給量を制限し、対価に影響を与えるカルテルはこれに含まれると解するのが相当であり、シェア配分カルテルの一般的性質如何にかかわらず、本件カルテルが、前記解釈の下で、「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することにより対価に影響があるもの」といえる場合には、本件カルテルは課徴金の対象となるというべきである。そして、証拠に基づいて認定される本件カルテルを巡る事実関係に一般的ないし経済上の経験則を総合すれば、本件カルテルは「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することにより対価に影響があるもの」と認めることができ、同認定を妨げる事情は認められず、本件審決も、それを一般的なシェア配分カルテルの性質というかどうかはともかく、本件カルテルを巡る事実関係から本件カルテルの仕組みを認定し、当該仕組みの下では、原告らは、自社に配分された受注予定数量(販売予定数量)に応じて供給量を調整し、販売予定数量の範囲内に自社の販売数量を制限しようとすることになり、本件市場全体への供給量が制限され、これにより対価に影響すると推認し、本件カルテルが実質的に商品等の「供給量を制限することにより対価に影響があるもの」であると結論付けたものであり、そこに不合理な点や経験則違背等があったとは認められないから、実質的証拠がない旨の原告らの主張は採用できない。

(イ) 本件審決に法令の違反があるか

原告日本鋳鉄管(株)及び原告(株)栗本鐵工所は、本件審決の取消事由として、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項の解釈の誤り等の法令違反を主張し、原告(株)栗本鐵工所は、本件審決が、本件カルテルが供給量を制限するものであるとし、また、対価に影響があるとしたことや、間需分野と直需分野では販売形態や競争形態が異なるにもかかわらず、これらを一括して取り扱ったことが違法である旨主張し、原告日本鋳鉄管(株)は、本件カルテルが平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項の「実質的に商品等の供給量を制限するもの」に当たるとの実質的な証拠がないにもかかわらず、同条項を適用したことは法令違反である旨主張した。また、原告(株)栗本鐵工所及び日本鋳鉄管(株)は、審判手続において、審査官の主張変更を許したことは審判指揮が違法である旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項の解釈については、本件審決にその解釈の違反があるということはできず、また、間需分野と直需分野を一括して取り扱ったことについては、前記で述べたとおりであり、原告(株)栗本鐵工所の主張は援用することはできず、「実質的に商品等の供給量を制限するもの」に当たるとの実質的な証拠がないとはいえないことは、前記で述べたとおりである旨判示し、審判指揮については、審判手続において、従前の主張への変更が認められないわけではない上、未だ争点整理段階での主張変更であり、原告らはその後も攻撃防御を尽くすことができたのであり、その防御権を不当に侵害するものではなく、その他本件審決に取消事由となるべき法令の違反があると認めることはできない旨判示している。

イ 訴訟手続の経過

本件は、原告らによる上告及び上告受理申立てにより、平成23年度末現在、最高裁判所に係属中である。

(5) JFE エンジニアリング(株)による審決取消請求事件(平成22年(行ケ)第31号)(前記表一連番号15)

ア 主な争点及び判決の概要
(ア) 原告に対する課徴金算定対象物件の各工事(以下「本件各工事」という。)が、独占禁止法第7条の2第1項の「当該役務」に当たり、課徴金算定の対象となるか

原告は、本件審決は独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品又は役務」の解釈を誤っており、原告が入札に参加し受注した物件全てにおいて受注予定者が決定されたとの推認は実質的証拠を欠き、アウトサイダーが存在した物件について具体的な競争制限効果が発生したと認めることはできない旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、以下のとおり判示した。「当該商品又は役務」とは、当該違反行為の対象とされた商品又は役務であって、本件審決が認定した合意(以下「本件合意」という。)のような入札談合の場合には、基本合意の対象となった商品又は役務全体のうち、個別の入札において、当該事業者が基本合意に基づいて受注予定者として決定されて受注するなど、基本合意による競争制限効果が及んでいるものをいうと解すべきであり、本件合意の内容、本件合意の下に、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた行為(以下「本件違反行為」という。)の実施方法、原告及び他の同業者4社(以下「5社」という。)の実績など前提事実に照らせば、個別の入札について、当該事業者が受注予定者として決定されるに至った具体的経緯まで認定することができないとしても、当該入札の対象となった役務又は商品が本件合意の対象の範囲内であり、これにつき受注調整が行われたこと及び事業者である原告が受注したことが認められれば、特段の反証がない限り、原告が直接又は間接に関与した受注調整手続の結果、競争制限効果が発生したものと推認するのが相当である。また、入札手続にアウトサイダーが参加しているとしても、直ちに基本合意による競争制限効果が失われると認めることはできず、具体的な入札行動等に照らし、基本合意による競争制限効果が失われ、実質的な競争が行われたと認められるか否かを判断すべきであり、本件の認定事実を総合すると、本件合意が、地方公共団体の発注する全てのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするものであること及び本件各工事について、本件合意に基づいて5社間で受注予定者が決定されたものであり、本件合意による競争制限効果が及んでいたとする本件審決の認定が合理的なものであり実質的証拠に基づくものと認められる旨判示している。

(イ)  「横浜市(金沢工場)」工事に係る契約金額は、平成17年独占禁止法改正法附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令の一部を改正する政令(平成17年政令第318号)による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(以下「独占禁止法施行令」という。)第6条第1項の「実行期間において締結した契約により定められた対価の額」に当たり、独占禁止法第7条の2第1項の「売上額」に当たるか

 原告は、本件審決が、正式契約の締結日が実行期間に含まれず、議会議決を停止条件とする契約に係る物件について課徴金の算定対象としていることは、独占禁止法施行令第6条第1項に反する判断をしている旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、議会の議決を要する契約は、議決前には横浜市としての意思決定はされておらず、地方自治法第234条第5項の規定や横浜市契約規則第33条の規定等からすると、独占禁止法施行令第6条第1項にいう契約の締結の日は、横浜市議会において契約の締結が議決されて横浜市において契約締結の意思が決定され、請負契約書に横浜市長の公印が押印された日と認めるのが相当であって、当該工事は、本件実行期間内に契約が締結されたものというべきである旨判示している。

(ウ) 課徴金算定の対象となる売上額に消費税相当額が含まれるか

 原告は、本件審決が課徴金の算定基礎となる売上額に消費税相当額を含めて計算していることは、独占禁止法第7条の2第1項、同法施行令第5条、第6条等に違反する旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、以下のとおり判示した。課徴金の算定については、独占禁止法第7条の2第1項、第2項、同法施行令第5条、第6条が、違反行為により事業者が取得した現実の経済的利得額そのものとは別に、一律かつ画一的に算定する売上額に一定の比率を乗じて算出すべきものと定めることからすれば、役務の提供、資産の譲渡等の対価の中から消費税相当分を控除するのがこれらの規定の趣旨であると解することはできないものというべきである。したがって、本件審決が消費税額相当額を含む契約により定められた対価の額を合計する方法により算定した売上額に基づき課徴金の額を算出したことが、同法第7条の2第1項、同法施行令第5条、第6条第1項に違反するものと解することはできない。

(エ)本件課徴金納付命令は、独占禁止法第7条の2第6項に定める除斥期間経過後にされたものか

原告は、本件審決は独占禁止法第7条の2第6項の「審判手続が終了した日」の解釈を誤り、本件課徴金納付命令は除斥期間経過後になされた違法なものである旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、独占禁止法第48条の2第1項所定の「審判手続が終了した」とは、違反行為について審決がされたことをいうと解すべきであり、同法第7条の2第6項所定の「当該審判手続が終了した日」も、違反行為に関する審決が行われた日をいうと解するのが相当であり、本件課徴金納付命令は、違反行為に関する審決が行われてから1年が経過する前に発せられたのであるから、本件審決に原告主張の違法があるとは認められない旨判示している。

イ 訴訟手続の経過

本件は、原告による上告及び上告受理申立てにより、平成23年度末現在、最高裁判所に係属中である。

(6)  (株)タカヤによる審決取消請求事件(平成22年(行ケ)第8号)(前記表一連番号11)

ア 主な争点及び判決の概要
(ア)原告が本件審決が認定した合意(以下「本件基本合意」という。)の下に、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた行為(以下「本件違反行為」という。)を行ったとの本件審決の認定が実質的証拠に基づくか否か

原告は、本件審決が106社による基本合意が存在し、原告が違反行為を行ったと認定している点について実質的証拠を欠き、原告は少なくとも民事再生手続申立後は本件基本合意に参加していない旨主張した。また、原告は、各物件についての受注調整の具体的な経緯についての証拠がないのであるから、原告が受注調整を行った
実質的証拠がない旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、以下のとおり判示した。本件審決は、106社中途中参加した事業者9社を除く97社間で、遅くとも平成13年4月1日に本件基本合意が成立し、原告も当初から本件基本合意に参加して、これに基づく受注調整を行い、平成13年4月1日から平成16年10月25日までの期間(以下「本件期間」という。)

中離脱したとは認められず、本件違反行為を行ったことを認定したものであるところ、前提事実及び本件間接事実については、これを立証する実質的な証拠があるというべきであって、前提事実、本件間接事実及び証拠によれば、原告が本件違反行為を行ったとする認定には合理性があると認められ、本件審決の前記認定は実質的証拠に基づくものであるといえる。

なお、原告は、本件期間の当初から本件基本合意に参加しており、本件期間中に民事再生手続の間一時的に受注調整に参加しない時期があったとしても、本件期間中において本件基本合意から離脱していなかったと認定することには合理性が認められる。また、被審人の従業員らの供述等の証拠により、受注調整が行われていたと認定することに合理性が認められるのであるから、これらの受注調整についてより詳細な経緯まで立証する証拠がないとしても、原告が落札した物件について受注予定者を原告とする受注調整が行われた等の認定には合理性が認められ、原告が本件期間中、本件基本合意に参加して受注調整を行ったとの本件審決の認定が実質的証拠に基づくものであるとの判断を左右するに足りるものではない。

(イ) 本件違反行為が岩手県発注の特定建築工事における「競争を実質的に制限する」(独占禁止法第2条第6項)ものであったか否か

原告は、競争の実質的制限がなされたというためには、市場支配がなされ得る状態がもたらされなければならないところ、本件市場は、アウトサイダーとの間で競争状態にあり、本件審決は、市場支配という観点を全く無視して、競争の実質的制限の存在を認めており、競争の実質的制限の解釈を誤った違法がある旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、以下のとおり判示した。原告ら本件基本合意に参加して本件違反行為をした事業者は、本件期間中、岩手県発注の特定建築工事の取引分野において、本件違反行為により、完全な市場支配をしたとまでは認められないとしても、競争自体を減少させて、その意思である程度自由に、受注を希望する物件の受注価格を左右することによって、市場を支配することができる状態をもたらしていたものと認めるのが相当であって、本件期間中、本件違反行為により、競争の実質的制限があったということができる。また、アウトサイダーが入札に参加していたとしても、アウトサイダーが常に受注予定者が希望する受注額を下回る価格で入札して受注予定者と競争するとは限らないこと及び本件違反行為により競争の実質的制限があったとの前記判示の点を総合考慮すると、本件期間中の岩手県発注の特定建築工事においては、アウトサイダーの存在は、前記認定判断を左右するに足りるものではない。

(ウ)  原告に対して排除措置を命ずることにつき「特に必要があると認めるとき」(独占禁止法第7条第2項、同法第54条第2項)に当たるか否か

原告は、平成14年4月22日に民事再生手続の申立てをした時点でトラスト・メンバーズを脱会し、TST 親交会に入会しておらず、そもそも違反行為の排除措置を命ぜられる立場にないのであり、違反行為が将来繰り返されるおそれはなく、違反行為の排除を命ずる必要はない旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、前記のとおり、原告は、本件期間の当初から本件基本合意に参加しており、本件期間中に民事再生手続の間一時的に受注調整に参加しない時期があったとしても、本件期間中において本件基本合意から離脱していなかったとする本件審決の認定が実質的証拠に基づくものと認められ、独占禁止法第7条第2項、同法第54条第2項にいう「特に必要があると認めるとき」の要件に該当するか否かの判断については、我が国における独占禁止法の運用機関として競争政策について専門的な知見を有する被告の専門的な裁量が認められるものというべきであるが、本件違反行為に係る事実関係に照らせば、原告について、本件違反行為と同様の行為を繰り返すおそれがあるとして「特に必要があると認めるとき」に該当するとした被告の判断が合理性を欠くものであるということはできず、被告の裁量権の範囲を超え又は濫用があったものということはできない旨判示している。

イ 訴訟手続の経過

本件は、原告による上告及び上告受理申立てにより、平成23年度末現在、最高裁判所に係属中である。

(7) (株)タクマによる審決取消請求事件(平成22年(行ケ)第33号)(前記表一連番号17)

ア 主な争点及び判決の概要
(ア) 原告に対する課徴金算定対象物件の各工事(以下「本件各工事」という。)が、独占禁止法第7条の2第1項の「当該役務」に当たり、課徴金算定の対象となるか

原告は、本件審決は独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品又は役務」の解釈を誤っており、本件各工事において受注予定者が決定されたとの推認は誤りであり、また、受注予定者とアウトサイダーとの間で価格競争が存在していれば、5社の市場支配力など認めることはできず、したがって、競争の実質的制限が生じているということもできない旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、以下のとおり判示した。独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品又は役務」とは、原則として、不当な取引制限の対象とされた商品又は役務全体を指すものと解すべきであるが、本件審決が認定した合意(以下「本件合意」という。)のような入札談合の場合には、自由な競争を行わないという、不当な取引制限に該当する意思の連絡による相互拘束たる基本合意の対象となった商品又は役務全体のうち、個別の入札において、当該事業者が基本合意に基づいて受注予定者として決定されて受注するなど、基本合意の成立により発生した競争制限効果が及んでいると認められるものをいうと解すべきであり、そして、原告及び他の同業者4社(以下「5社」という。)の概要とその実績、本件合意の内容、本件合意の下に、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた行為(以下「本件違反行為」という。)の実施方法など前提事実に照らせば、本件合意は、地方公共団体が発注する全てのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするものであったと推認されるというべきであるから、地方公共団体が発注するストーカ炉の建設工事であり、かつ、5社のうちいずれかが入札に参加した工事については、特段の事情がない限り、本件合意に基づいて5社間で受注予定者が決定され、本件合意によって発生した競争制限効果が個別の工事の入札に及んでいたものと推認するのが相当であり、仮に、個別の入札について、当該事業者が受注予定者として決定されるに至った具体的経緯まで証拠によって認定することができないとしても、当該入札の対象となった役務又は商品が本件合意の対象の範囲内のものであって、これにつき受注調整が行われたこと及び事業者である原告が受注したことが認められれば、特段の反証がない限り、原告が直接又は間接に関与した受注調整手続の結果、競争制限効果が発生したものと推認するのが相当である。また、5社の概要とその実績、本件合意の内容、本件違反行為の実施方法などの前提事実に照らせば、入札手続にアウトサイダーが参加している場合であっても、そのことのみによって直ちに基本合意による競争制限効果が失われるということはできず、具体的な入札行動等に照らし、基本合意による競争制限効果が失われ、実質的な競争が行われたと認められるか否かを判断すべきであって、本件各工事は、本件合意に基づいて5社間で受注予定者が決定されたものであり、本件合意による競争制限効果が及んでいたとする本件審決の事実認定は、合理的なものであり、実質的証拠に基づくものと認められる。

(イ) 本件審決に係る審判手続に取り消されるべき重大な違法があるか

 原告は、審判手続において、他の被審人の会社関係者の調書(以下「本件調書」という。)を採用したこと及び被審人の文書提出命令申立てを採用しないとの決定をしたことは被審人である原告に防御の機会を与えるという適正手続の保障を怠り、反証を手続上も不可能にした違法がある旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、審判手続においては、当事者が申出をした証拠は、当該事件に関連し、かつ、明白な違法ないし不当性が認められない限り、原則として採用されてしかるべきものと解され、本件調書の立証趣旨は、本件審決に係る事件に関連するものであることは明らかであることなどからすれば、審判官が本件調書を採用したことに明白な違法性ないし不当性は認められないというべきであり、他方、原告の文書提出命令申立てに係る文書については、これを更に取り調べる必要性があるとはいえないのであるから、審判官が、不採用決定をしたことが違法であるとは認められないというべきである旨判示している。

イ 訴訟手続の経過

本件は、原告による上告及び上告受理申立てにより、平成23年度末現在、最高裁判所に係属中である。

(8) (株)東芝ほか1名による審決取消請求事件(平成22年(行ケ)第29号)(前記表一連番号14)

ア 主な争点及び判決の概要
(ア) 本件課徴金納付命令は、除斥期間を経過した後にされたものか

原告らは、独占禁止法にいう「審判手続」には「審決」は含まれないとして、同法第7条の2第6項の「審判手続が終了」とは、審判官が本案審決の審判手続を終結する旨宣言したことをいうと主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、独占禁止法第48条の2第1項ただし書の趣旨からすると、同項ただし書の「審判手続が終了した」とは、被告が排除措置命令に係る本案審決をしたことをいい、課徴金納付はその後でないと命ずることができないものと解されるし、同法第7条の2第6項の「当該審判手続が終了した日」についても、同法第48条の2第1項ただし書の「審判手続が終了した」日と同じく、本案審決がされた日をいうものと解すべきであるから、本件の事実経過に照らすと、本件課徴金納付命令が除斥期間が経過した後に出されたものでないことは明らかである旨判示している。

(イ) 本件審決が認定した合意(以下「本件合意」という。)の下に、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた行為(以下「本件違反行為」という。)を認定した審決(以下「本件本案審決」という。)が確定した場合でも、本件審決の取消訴訟において、再度本件違反行為の存否を争えるか

原告らは、平成17年独占禁止法改正後の現行第59条第2項のような特段の規定がない限り、本件本案審決が確定したとしても、同審決の主文は別として、理由中で認定された本件違反行為の存在については、本件審決取消訴訟の審理判断に何らの影響を及ぼすものではなく、原告らは、再度、本件審決取消訴訟において本件違反行為の存在を争える旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、違反行為の存否について、排除措置に係る審判手続及び排除措置に係る審決に対する取消訴訟で争うことを要求したとしても、十分な防御の機会を与えているといえるのであり、その保護に欠けることはなく、本件本案審決と同じ違反行為を前提とする本件審決の取消訴訟において、原告らが改めて本件違反行為の不存在を主張することは許されないものと解すべきであるから、本件訴訟においては本件違反行為の存在を前提として課徴金納付命令固有の要件について判断すべきであって、本件審決の取消訴訟において本件違反行為の存在を争えるとする原告の主張は理由がなく、それを前提とするその他本件違反行為の認定に係る主張については判断を要しない旨判示している。

(ウ) 本件合意は、独占禁止法第7条の2第1項の「対価に係るもの」に該当するか

原告らは、本件合意のように、郵政省内示があった原告だけが入札し、他の原告は入札を辞退するという場合には、「入札価格そのものの取決め」があれば「対価に係るもの」に該当するが、本件審決は、「入札価格そのものの取決め」を認定していないのであるから、同法第7条の2第1項の「対価に係るもの」の要件を満たさない旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、本件合意のように、受注予定者以外の者は入札に参加しないという場合にも、特定の価格が合意されていないとはいえ、入札価格は受注予定者に一任し、それ以下の価格で入札しない(入札に参加しない)という合意をしていることに変わりはなく、この合意は対価に係るものということができ、その合意の結果として、受注予定者の入札価格で契約が成立することになるのであるから、本件合意を同項の「対価に係る」ものであると認定した本件審決に誤りはない旨判示している。

( エ) 平成7年度ないし平成9年度の各入札の対象物件(以下「本件各物件」という。)は、独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品又は役務」に該当するか

 原告は、本件各物件について課徴金の対象に該当するとした本件審決は、独占禁止法第7条の2第1項等の解釈適用を誤っており、本件各物件は、独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品又は役務」に該当しない旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品又は役務」とは、当該違反行為の対象とされた商品又は役務を指すが、入札談合による受注調整の場合にあっては、基本合意の対象となる商品又は役務であることのほかに、基本合意に基づいて受注予定者として決定され、受注するなど、受注調整手続に上程されることによって具体的に競争制限効果が発生するに至ったものを指すと解すべきであり、本件各物件の受注は、本件合意に基づいて決定されたということができ、原則として、本件合意に基づく具体的な競争制限効果が及んでいるものということができ、本件各物件は「当該商品及び役務」に該当する旨判示している。

イ 訴訟手続の経過

 本件は、原告らによる上告及び上告受理申立てにより、平成23年度末現在、訴訟係属中である。

 

(9) (株)クボタによる審決取消請求事件(平成23年(行ケ)第9号)(前記表一連番号20)

ア 主な争点及び判決の概要
(ア) 原告が新日本製鐵(株)(以下「新日鐵」という。)に納入し、新日鐵が第1次商社を介して建設業者に販売した特定鋼管杭(以下「本件製品」という。)について課徴金納付命令の対象とされた原告と新日鐵との取引は、違反行為の実行として行われた事業活動であり、また、原告と新日鐵との取引の対象とされた本件製品は、独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」に該当するか

原告は、本件製品に係る原告と新日鐡との間の取引は、本件カルテルの実行としての事業活動ではなく、独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」に該当しない旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」とは、違反行為の対象とされた商品であって、当該違反行為による拘束を受けたものをいうものと解され、本件製品が本件審決が認定した合意に基づき販売価格を引き上げる行為(以下「本件違反行為」という。)の対象とされていたことは、当事者間に争いがなく、本件での認定事実によれば、本件製品について受注の活動をしたのは、原告の担当者らであり、原告の担当者らと建設業者が合意した本件製品の価格については、新日鐵の決裁を得ることが必要であったが、この決裁の基準に本件カルテル合意も含まれていたことから、原告の担当者らは、本件カルテル合意の価格を前提に取引の交渉を行ったことが認められ、本件製品の価格は、本件違反行為の拘束を受けていたと解され、本件製品は、同項の「当該商品」に当たる旨判示している。

(イ) 本件課徴金納付命令の名宛人となるべき者は、原告か

原告は、課徴金納付命令の名宛人に係る本件審決の判断は、不当な法解釈を行ったものである旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、以下のとおり判示した。独占禁止法第7条の2第1項によれば、課徴金を課する要件として、違反行為を実行したことを要するから、本件のように、一つの商流に複数の違反行為者が関与している事案においては、だれが違反行為を実行したかを判断することが必要となり、違反行為を実行したか否かは、事実上の営業活動を行ったか否かにより判断されるというべきである。本件での認定事実や、争いのない事実等によれば、原告は、本件違反行為を行った4社の一員であり、本件製品の販売について、事実上の営業活動を行ったのは原告であり、原告が本件違反行為を行ったものと認められ、本件審決に、課徴金納付命令の名宛人を誤ったという原告の主張する瑕疵があるものとは、認められない。

(ウ) 被告が、原告申立てに係る文書提出命令を却下したのは、独占禁止法第81条第1
項第1号に該当するか

原告は、審判手続において、原告申立てに係る文書提出命令を却下したことは、独占禁止法第81条第1項第1号の「公正取引委員会が、正当な理由がなくて、当該証拠を採用しなかった場合」に該当する旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、以下のとおり判示した。審判において、文書等提出命令を命じるか否かに当たる必要性等の判断は、被審人の防御権を不当に制約しない限り、審判官の合理的な裁量に委ねられているものであり、本件文書等提出命令に係る文書(新日鐵報告書)の中には新日鐵の事業上の秘密が記載されていることが想定されるのであるから、審判官は、業務上の秘密を踏まえて、必要性を検討したことを違法ということはできない。また、本件課徴金納付命令の当否は、利得額等新日鐵の取引が具体的に明らかになることにより判断が左右されるものではないし、新日鐵の利得額を推測する根拠となる金額も原告において明らかになっているというべきであることなどからすると、新日鐵報告書の文書等提出命令は必要性を欠き、これを却下したことは違法とはいえず、本件において、独占禁止法第81条第1項第1号の「公正取引委員会が、正当な理由がなくて、当該証拠を採用しなかった場合」に該当する事由があるものとは認められない。また、本件訴訟で申し立てられた文書提出命令について、本件は、審決取消訴訟であり、いわゆる実質的証拠法則が適用されるので、文書提出命令といっても、被告が認定した事実に関する証拠の申出は、同法第81条第1項ただし書に規定されている証拠の提出制限の適用を受けるものと解される。同法第81条第1項ただし書の要件の有無については、前記のとおり、原告は、審判手続において、文書提出命令の申立てをしているので、審判において当該証拠を提出できなかったときには当たらず、被告が、正当な理由がなくて、当該証拠を採用しなかったときという場合にも当たらない。したがって、本件訴訟における文書提出命令の申立ては、例外的に新証拠の申出をすることを認める同法第81条第1項の要件を充たさないものであるから、却下すべきこととなる。また、文書提出命令に基づき新日鐵報告書が取り調べられたとしても、当初の被告の認定が変更される可能性があることは認められず、同法第81条第3項の「当該証拠を取り調べる必要があると認められるとき」にあたるものとは認められないことから、本件訴訟における文書提出命令の申立ては、必要性を欠き、却下すべきである。

イ 訴訟手続の経過

本件は、原告による上告及び上告受理申立てにより、平成23年度末現在、訴訟係属中である。

(10) 日立造船(株)による審決取消請求事件(平成22年(行ケ)第32号)(前記表一連番号16)

ア 主な争点及び判決の概要
(ア) 原告に対する課徴金算定対象物件の各工事(以下「本件各工事」という。)が、独占禁止法第7条の2第1項の「当該役務」に当たるか

原告は、本件審決は独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品又は役務」の解釈を誤っており、本件各工事は、「当該商品又は役務」に該当しない旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品又は役務」とは、原則として、不当な取引制限の対象とされた商品又は役務全体を指すものと解すべきであるが、本件審決が認定した合意(以下「本件合意」という。)のような入札談合の場合には、自由な競争を行わないという不当な取引制限に該当する意思の連絡による相互拘束たる基本合意の対象となった商品又は役務全体のうち、個別の入札において、当該事業者が基本合意に基づいて受注予定者として決定されて受注するなど、基本合意の成立により発生した競争制限効果が及んでいると認められるものをいうと解すべきであり、本件の違反行為に係る原告及び他の同業者4社(以下「5社」という。)の概要とその実績、本件合意の内容、本件違反行為の実施方法などの前提事実に照らせば、本件合意は、地方公共団体が発注する全てのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするものであったと推認されるというべきであるから、地方公共団体が発注するストーカ炉の建設工事であり、かつ、5社のうちいずれかが入札に参加し受注した工事については、特段の事情がない限り、本件合意に基づいて5社間で受注予定者が決定され、本件合意によって発生した自由な競争を行わないという競争制限効果が個別の工事の入札に及んでいたものと推認するのが相当であり、本件各工事のうち一部の工事については、前記推認を強める事情があるほか、個別の工事の入札実施前に本件合意の対象から除外されたこと(特段の事情)の存在は認められないから、本件各工事は「当該役務」に該当する旨判示している。

(イ) 本件課徴金納付命令は、独占禁止法第7条の2第6項に定める除斥期間経過後にされたものか

原告は、本件審決が独占禁止法第7条の2第6項の「審判手続が終了した日」の解釈を誤り、課徴金納付命令の除斥期間の経過の有無について誤った判断をしている旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、独占禁止法第7条の2第6項の除斥期間の規定が設けられた趣旨は、適正迅速な行政事務の遂行を確保するとともに、排除措置命令に不服のある被審人の利益にも配慮し、当該排除措置命令についての審判が開始された場合には、同命令に係る違反事実の存否についての被告の判断が示されるまでは課徴金の納付を命ずることができないこととし、その一方で、一旦前記の被告の判断が示されたときには、速やかに課徴金の納付を命ずることとして、これを被告に義務付け、これにより法律関係の早期安定を図ろうとしたことにあり、そうすると、前記の被告の判断は審決の形式をもって示されるのであるから、同法第48条の2第1項ただし書及び同法第7条の2第6項にいう「審判手続が終了した」ときとは、被告の終局判断である審決が行われた時点を指すと解するのが相当であり、本件において、課徴金納付命令は当該審判手続が終了した日から1年を経過する前に発せられたものであり、除斥期間を経過していない旨判示している。

イ 訴訟手続の経過

本件は、原告による上告及び上告受理申立てにより、平成23年度末現在、訴訟係属中である。

(11) 日本道路興運(株)による審決取消請求事件(平成23年(行ケ)第2号)(前記表一連番号18)

ア 主な争点及び判決の概要
(ア) 関東地方整備局の事務所等の各年度の車両管理業務(以下「本件関東業務」という。)につき、受注調整行為の立証の要否、要するとした場合の実質的な証拠の有無、本件関東業務に係る本件審決(以下「本件関東審決」という。)において認定した違反行為(以下「本件関東違反行為」という。)からの原告の離脱の有無、本件関東業務の売上額を課徴金の算定の基礎とすることの可否について

原告は、本件関東審決は個別の発注物件それぞれが受注調整の対象であったか否かについて実質的証拠に基づく事実認定がされておらず、原告が談合行為から離脱して入札に参加し、落札した物件について、談合行為が行われたとの判断は、基礎となる事実を立証する実質的証拠を欠いており、これらの物件の売上額を課徴金の計算の基礎とすることは許されない旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、以下のとおり判示した。本件関東基本合意の対象に係る取引分野は、国土交通省が関東地方整備局の事務所等において指名競争入札又は一般競争入札の方法により発注する車両管理業務であり、このような取引分野につき更に限定する合意や本件関東業務を除外する合意がされたという事情も見当たらないから、本件関東業務も本件関東基本合意の対象に含まれると判断するのが相当である。また、本件関東業務からの原告の離脱の有無については、原告が主張するような内部的な意思決定をしたとしても、それによって不当な取引制限のある状態が解消されるといい得るかについても疑問があるといわざるを得ないところ、その点は措くとしても原告が何らかの内部的な意思決定をしたと認めるに足りる証拠自体がないというべきであり、受注調整行為の立証の要否については、本件関東審決は、本件関東業務の入札に関する具体的な受注調整行為を認定しているのではなく、本件関東違反行為自体を不当な取引制限として認定したのであり、また、本件関東審決の事実認定や法的な評価判断について不当な点も見当たらないというべきであるから、本件関東業務に係る具体的な受注調整行為の立証がないことをもって関東排除措置命令の当否について結論が左右されることにはならない。本件関東業務の売上額を課徴金の算定の基礎とすることの可否については、いわゆる入札談合の事案における課徴金の算定に当たっては、基本合意の対象となった商品又は役務のうち個別の入札において基本合意の成立により発生した具体的な競争制限効果が及んでいると認められるものは、独占禁止法第7条の2第1項所定の「当該商品又は役務」に含まれると解するのが相当であるから、個別の入札に関する具体的な意思の連絡行為等の立証ないし認定がされること自体は必ずしも必要ではないというべきであり、本件関東業務についてみると、前記のとおり、本件関東基本合意の対象に係る取引分野には本件関東業務も含まれるものであるところ、一般競争入札の方法に変更された後における原告及び車両管理業務を営む会社である6社の入札参加の状況、落札率の推移、本件各供述調書の内容についての信用性が極めて高いこと、本件関東業務の発注が一般競争入札の方法に変更された際に原告が何らかの内部的な意思決定をしたと認めるに足りる証拠はないこと等の諸事情を考慮すると、本件関東業務に係る入札にも本件関東基本合意により発生した具体的な競争制限効果が及んでいたことは明らかというべきである。したがって、本件関東審決の審判請求を棄却した部分は、その基礎となった事実を立証する実質的な証拠があるというべきであり、その判断には何らの違法はないというべきである。

(イ) 四国地方整備局総務部契約課の平成20年度の車両管理業務(以下「本件四国業務」という。)につき、本件関東審決の争点と同様、受注調整行為の立証の要否、要するとした場合の実質的な証拠の有無、本件四国業務に係る本件審決(以下「本件四国審決」という。)において認定した違反行為からの原告の離脱の有無、本件四国業務の売上額を課徴金の算定の基礎とすることの可否について

原告は、本件四国審決についても、本件関東審決同様、審決の基礎となった事実を立証する実質的な証拠がない旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、本件四国審決についても、本件関東審決について述べたところと同様の理由により、その基礎となった事実を立証する実質的な証拠があるというべきである旨判示している。

イ 訴訟手続の経過

本件は、原告による上告及び上告受理申立てにより、平成23年度末現在、訴訟係属中である。

3 最高裁判所における決定等

(1) ミュー(株)による審決取消請求上告事件及び審決取消請求上告受理事件(平成23年(行ツ)第82号、平成23年(行ヒ)第90号)(前記表一連番号7)の決定概要

最高裁判所は、①本件上告理由は、民事訴訟法第312条第1項又は第2項に規定する事由に該当せず、②本件は、同法第318条第1項により受理すべきものとは認められないとして、上告棄却及び上告不受理の決定を行った。

(2) 三菱レイヨン(株)ほか1名による審決取消請求上告事件及び審決取消請求上告受理事件(平成23年(行ツ)第106号及び第107号、平成23年(行ヒ)第116号及び第117号)(前記表一連番号8)の決定概要

最高裁判所は、①本件上告理由は、民事訴訟法第312条第1項又は第2項に規定する事由に該当せず、②本件は、同法第318条第1項により受理すべきものとは認められないとして、上告棄却及び上告不受理の決定を行った。

(3) ハマナカ(株)による審決取消請求上告受理事件(平成23年(行ヒ)第313号)(前記表一連番号13)の決定概要

最高裁判所は、本件は、民事訴訟法第318条第1項により受理すべきものとは認められないとして、上告不受理の決定を行った。

(4) (株)新井組ほか3名に対する審決取消請求上告受理事件(平成22年(行ヒ)第278号)(前記表一連番号5)

ア 決定の概要

最高裁判所は、本件申立ての理由によれば、本件は、民事訴訟法第318条第1項の事件に当たるとして、本件を上告審として受理する旨の決定を行い、後記イのとおり原判決を破棄し、被上告人らの請求を棄却する判決を行った。

イ 判決の概要

最高裁判所は、本件審決に係る審判で取り調べられた証拠によれば、上告人が本件審決において認定した事実は合理的であり、これらの認定事実には、それを立証する実質的な証拠があるものと認められ、本件審決が認定した合意(以下「本件基本合意」という。)は、各社が、話合い等によって入札における落札予定者及び落札予定価格をあらかじめ決定し、落札予定者の落札に協力するという内容の取決めであり、入札参加業者又は入札参加JV のメインとなった各社は、本来的には自由に入札価格を決めることができるはずのところを、このような取決めがされたときは、これに制約されて意思決定を行うことになるという意味において、各社の事業活動が事実上拘束される結果となることは明らかであるから、本件基本合意は、独占禁止法第2条第6項にいう「その事業活動を拘束し」の要件を充足するものということができる。そして、本件基本合意の成立により、各社の間に、前記の取決めに基づいた行動をとることを互いに認識し認容して歩調を合わせるという意思の連絡が形成されたものといえるから、本件基本合意は、同項にいう「共同して…相互に」の要件も充足するものということができる。そして、本件基本合意の当事者及びその対象となった工事の規模、内容や、公社では、予定価格が500万円以上の工事の発注について工事希望型指名競争入札と称する方式を採用し、規模の大きい工事や高度な施工技術が求められる工事については、入札参加希望者の中から原則として格付順位の上位の者が優先して指名業者に選定されていたためその上位に格付けされていたゼネコンが指名業者に選定されることが多かったことから、Aランク以上の土木工事については、入札参加を希望する事業者ランクがAの事業者の中でも、本件33社及びその他47社が指名業者に選定される可能性が高かったものと認められることに加え、本件基本合意に基づく個別の受注調整においては、その他47社からの協力が一般的に期待でき、地元業者の協力又は競争回避行動も相応に期待できる状況の下にあったものと認められることなども併せ考慮すれば、本件基本合意は、当該取引に係る市場が有する競争機能を損なう状態をもたらし得るものであったということができ、平成9年10月1日から平成12年9月27日までの間(以下「本件対象期間中」という。)に発注された公社発注の特定土木工事のうち相当数の工事において本件基本合意に基づく個別の受注調整が現に行われ、そのほとんど全ての工事において受注予定者とされた者又はJV が落札し、その大部分における落札率も97%を超える極めて高いものであったことからすると、本件基本合意は、本件対象期間中、公社発注の特定土木工事を含むAランク以上の土木工事に係る入札市場の相当部分において、事実上の拘束力をもって有効に機能しており、そうすると、本件基本合意は、独占禁止法第2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件を充足するものというべきであるし、以上のような本件基本合意が、同項にいう「公共の利益に反して」の要件を充足するものであることも明らかであり、以上によれば、本件基本合意は、同項及び同法第7条の2第1項所定の「不当な取引制限」に当たるというべきである旨判示した。

また、本件基本合意は、独占禁止法第7条の2第1項所定の「役務の対価に係るもの」に当たるものであるところ、課徴金制度の趣旨に鑑みると、同項所定の課徴金の対象となる「当該…役務」とは、本件においては、本件基本合意の対象とされた工事であって、本件基本合意に基づく受注調整等の結果、具体的な競争制限効果が発生するに至ったものをいうと解され、本件個別工事は、いずれも本件基本合意に基づく個別の受注調整の結果、受注予定者とされた者が落札し受注したものであり、しかもその落札率は89.79%ないし99.97%といずれも高いものであったから、本件個別工事についてその結果として具体的な競争制限効果が発生したことは明らかであって、本件個別工事は、同項にいう「当該…役務」として同項所定の課徴金の対象となるものというべきである旨判示している。

(5) (株)クボタ建設ほか2名による審決取消請求上告事件及び審決取消請求上告受理事件(平成21年(行ツ)第265号及び第323号、平成21年(行ヒ)第337号及び第420号)(前記表一連番号1)の決定概要

最高裁判所は、①本件上告理由は、民事訴訟法第312条第1項又は第2項に規定する事由に該当せず、②本件は、同法第318条第1項により受理すべきものとは認められないとして、上告棄却及び上告不受理の決定を行った。

(6) 三井住友建設(株)ほか1名による審決取消請求上告事件及び審決取消請求上告受理事件(平成22年(行ツ)第91号及び第92号、平成22年(行ヒ)第104号及び第105号)(前記表一連番号2)の決定概要

最高裁判所は、①本件上告理由は、民事訴訟法第312条第1項又は第2項に規定する事由に該当せず、②本件は、同法第318条第1項により受理すべきものとは認められないとして、上告棄却及び上告不受理の決定を行った。

(7) (株)大林組ほか2名による審決取消請求上告事件及び審決取消請求上告受理事件(平成22年(行ツ)第147号ないし第149号、平成22年(行ヒ)第160号ないし第162号)(前記表一連番号3)の決定概要

最高裁判所は、①本件上告理由は、民事訴訟法第312条第1項又は第2項に規定する事由に該当せず、②本件は、同法第318条第1項により受理すべきものとは認められないとして、上告棄却及び上告不受理の決定を行った。

(8) (株)植木組による審決取消請求上告事件及び審決取消請求上告受理事件(平成22年(行ツ)第177号、平成22年(行ヒ)第188号)(前記表一連番号4)の決定概要

最高裁判所は、①本件上告理由は、民事訴訟法第312条第1項又は第2項に規定する事由に該当せず、②本件は、同法第318条第1項により受理すべきものとは認められないとして、上告棄却及び上告不受理の決定を行った。

第2 独占禁止法関係行政事件

1 概要

平成23年度当初において審決取消請求訴訟以外のもので独占禁止法関係行政事件はなかったが、同年度中に新たに行政事件訴訟法第3条第5項に基づく不作為違法確認請求事件及び独占禁止法第70条の15に基づく閲覧謄写許可処分取消請求事件の計2件が提起された。これら平成23年度の係属事件のうち、行政事件訴訟法に基づく不作為違法確認請求事件については、東京地方裁判所において原告の訴えを却下する判決が下り、上訴期間の経過をもって確定し、終了した。このため、平成23年度末現在係属中の審決取消請求訴訟以外のもので独占禁止法関係行政事件は1件である。

2 平成23年度中に係属中であった独占禁止法関係行政事件

(1) 行政事件訴訟法に基づく不作為違法確認請求事件

ア 事件の表示

東京地方裁判所 平成23年(行ウ)第233号

不作為違法確認請求事件

原告 ㈲境港蔦屋書店

被告 国

提訴年月日 平成23年4月14日

判決年月日 平成24年1月31日(訴え却下)

イ 事案の概要

本件は、原告が、公正取引委員会に独占禁止法第45条第1項の規定に基づく報告、措置請求を行い、これについて当委員会が平成23年3月10日原告に対して行った、調査の結果、独占禁止法に違反する行為は認められず、措置は採らなかった旨の通知(以下「本件通知」という。)が不作為であることの確認、及び、原告が、前記通知について、原告の措置請求に対する不作為であるとして排除措置命令等適当な措置の実施を求めて行った異議申立てに対し、当委員会がした平成23年3月31日付けの却下決定(以下「本件決定」という。)が不作為であることの確認を行政事件訴訟法第3条第5項に基づいて求めるものである。また、原告は、その他の行政庁についても不作為の違法があるとして、不作為の違法確認を求めているものである。

ウ 判決の概要

東京地方裁判所は、公正取引委員会の不作為を対象とする訴えについて、原告の報告及び措置要求について当委員会は本件通知をしており、原告の異議申立てに対して当委員会は本件決定をしているのであるから、不作為の状態は既に存在しておらず、訴えの利益を欠いており不適法なものと言わざるを得ず、仮に、原告のした報告及び措置請求が法令に基づく申請であることを前提として、これに対する不作為の違法確認を求めるものと解したとしても、報告及び措置要求は法令上の申請権の行使とはいえない以上、その前提を欠くことになり、法令上の申請権を有しない者により提起されたものであるという点においても、不適法なものであると判示し、その他の行政庁に係る訴えについても不適法なものとして、原告の訴えをいずれも却下した。

エ 訴訟手続の経過

本件判決は、上訴期間の経過をもって確定した。

(2) 平成21年(判)第17号審判事件記録に係る閲覧謄写許可処分取消請求事件

ア 事件の表示

東京地方裁判所 平成23年(行ウ)第322号

事件記録閲覧謄写許可処分取消請求事件

原告 一般社団法人日本音楽著作権協会

被告 国(処分行政庁 公正取引委員会)

提訴年月日 平成23年5月20日

イ 事案の概要

本件は、平成21年(判)第17号一般社団法人日本音楽著作権協会に対する審判事件に係る利害関係人が独占禁止法第70条の15に基づいて行った当該事件記録の閲覧謄写申請に対し、被告が当該事件記録のうち一部を除いて閲覧謄写を許可する旨の処分をしたところ、原告が、そのうち一部の処分(以下「本件処分」という。)の取消しを求めるものである。

なお、原告は、本件訴訟の提起とともに、本件処分について、本案事件の判決確定までの執行停止を求める申立てをしたところ、東京地方裁判所は、本案事件の第一審判決言渡しまでの間、本件処分の執行を停止する決定を行った。

ウ 決定の概要

本件は、平成23年度末現在、東京地方裁判所に係属中である。

第3 独占禁止法第24条に基づく差止請求訴訟

平成23年度当初において係属中の独占禁止法第24条に基づく差止請求訴訟は10件であったところ、同年度中に10件の訴えが提起された。これら平成23年度の係属事件20件のうち、和解により終了したものが2件、東京地方裁判所が原告の請求を棄却する判決を下し、一審原告が控訴を行ったものの、控訴を取り下げたことにより終了したものが1件、原告が訴えを取り下げたことにより終了したものが2件、大阪地方裁判所が原告の請求を棄却する判決を下し、判決が確定したことにより終了したものが1件あった。また、東京高等裁判所が原判決を変更し、原告の請求を棄却する判決を下したものが1件、東京地方裁判所が原告の請求を棄却する判決を下したものが1件、さいたま地方裁判所が原告の請求を棄却する判決を下したものが1件及び原告の訴えを却下し、請求を棄却する判決を下したものが1件、宇都宮地方裁判所大田原支部が原告の請求を認容する判決を下したものが1件あった(これら5件についてはいずれも上訴されたため係属中である。)。この結果、平成23年度末時点において係属中の訴訟は14件となった。

第4 独占禁止法第25条に基づく損害賠償請求訴訟

平成23年度当初において係属中の独占禁止法第25条に基づく損害賠償請求訴訟は、当委員会が把握している限りでは、30件であったところ、同年度中に7件の訴えが提起された。これら平成23年度の係属事件37件のうち、和解により終了したものが4件、最高裁判所が上告棄却及び上告不受理の決定をしたことにより終了したものが1件あった。また、東京高等裁判所が原告の請求を一部認容する判決を下したものが4件及び原告の請求を棄却する判決を下したものが4件あった(これら8件についてはいずれも上訴されたため係属中である。)。この結果、平成23年度末時点において係属中の訴訟は32件となった。

1 ニプロ(株)によるアンプル生地管に係る私的独占事件

(1) 事件の表示

東京高等裁判所平成19年(ワ)第10号

損害賠償請求事件

原告 (株)ナイガイ及び内外硝子工業(株)

被告 ニプロ(株)

提訴年月日 平成19年11月26日

(2) 事案の概要

公正取引委員会は、ニプロ(株)によるアンプル生地管に係る私的独占事件について、平成18年6月5日、ニプロ(株)に対し審判審決を行った。当該審決確定後、(株)ナイガイ及び内外硝子工業(株)は、ニプロ(株)に対して、独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟を東京高等裁判所に提起した。

(3) 訴訟手続の経過

本件については、東京高等裁判所から、平成19年11月27日、独占禁止法第84条第1項の規定に基づき、同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ、公正取引委員会は、平成20年8月14日、意見書を提出した。

平成23年度末現在、東京高等裁判所に係属中である。

2 日本道路公団が発注する情報表示設備工事の入札談合事件

(1) 事件の表示

最高裁判所平成23年(オ)第133号、平成23年(受)第170号

損害賠償請求事件

上告人兼申立人(原審被告) 星和電機(株)

被上告人兼相手方(原審原告) 独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構

提訴年月日 平成20年9月19日

判決年月日 平成22年10月1日(請求認容、東京高等裁判所)

上告及び上告受理申立て 平成22年10月7日

決定年月日 平成23年10月11日(上告棄却・上告不受理決定、最高裁判所)

(2) 事案の概要

公正取引委員会は、日本道路公団が発注する情報表示設備工事の入札談合について、平成17年4月27日、星和電機(株)ほか5名に対し当該行為の排除等を命ずる勧告審決を行った。当該審決確定後、独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構は、当該審決が認定した入札談合により日本道路公団が被った損害に係る賠償請求権を同機構が日本道路公団から承継したとして、星和電機(株)ほか2名に対し、独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟を東京高等裁判所に提起した。

(3) 訴訟手続の経過

本件については、東京高等裁判所から、平成20年10月15日、独占禁止法第84条第1項の規定に基づき、同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ、公正取引委員会は、平成21年5月8日、意見書を提出した。

本件については、平成22年10月1日、東京高等裁判所が請求を認容する判決を下したため、同年10月7日、原審被告らのうち星和電機(株)は上告及び上告受理申立てを行ったが、平成23年10月11日、最高裁判所は上告棄却及び上告不受理決定を行い、原審判決が確定した。

(4) 判決の要旨

違反行為が終了した後である平成16年9月1日から平成19年12月31日までの期間のうち、被告らが旧公団から指名停止を受けていた平成17年4月1日から同年12月21日までの期間を除外した期間における本件各工事と同種の入札事例の現実の落札率を平均すると本件想定落札率となることが認められる。

なお、落札後の工事代金に増額がある契約について、その増額が当初工事と関連性が薄い談合の影響を受けない工事であると認めるに足りる証拠はなく、むしろ、その工事費用を算出する際に落札率を考慮して設定されていることが窺われるから、最終契約金額を基礎とするのが相当である。そして、本件各工事につき、本件想定落札率を用いて想定最終契約金額を算定し、これから現実の最終契約金額を差し引くと、損害額元本の金額となる。

3 日本道路公団が発注する鋼橋上部工工事の入札談合事件

(1) 事件の表示

東京高等裁判所平成20年(ワ)第6号、第7号、第10号、第13号、第21号、第22号、第26号、第27号、第35号ないし第37号、第39号

損害賠償請求事件

提訴年月日 平成20年12月19日

(2) 事案の概要

公正取引委員会は、日本道路公団が発注する鋼橋上部工工事の入札談合について、平成17年11月18日、同工事の入札参加業者ら40名に対し当該行為の排除等を命ずる勧告審決を行った。当該審決確定後、前記表に記載の各原告らは、当該審決が認定した入札談合により日本道路公団が被った損害に係る賠償請求権を日本道路公団から承継したとして、三井造船(株)ほか29名に対し、独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟35件を東京高等裁判所に提起した。

(3) 訴訟手続の経過

本件の各事件については、次のとおり、東京高等裁判所から、平成21年1月15日から29日までの間に、独占禁止法第84条第1項の規定に基づき、同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ、公正取引委員会は、平成21年6月26日、いずれについても意見書を提出した。

本件においては、平成22年度までに22件の訴えの取下げ及び1件の和解があった。平成23年度においては、東京高等裁判所が請求を認容する判決を下したものが4件、請求を棄却する判決を下したものが4件あり、これら8件についてはいずれも上告及び上告受理申立てが行われた。平成23年度末現在、12件が係属中である。

(4) 判決の要旨

ア 平成20年(ワ)第6号事件(平成23年8月30日請求一部認容、東京高等裁判所)

原告の損害額は、違反行為があったと認定された期間の終期の翌日からの3年間における本件同種入札事例のうち、一般的な落札傾向を示しているとはいい難い2入札事例を除く本件同種入札事例の落札率の平均値(想定落札率)が89.25%であると認められるところ、この想定落札率をもって算定される想定最終契約金額と本件の変更後の最終契約金額との差額である。

イ 平成20年(ワ)第36号事件(平成23年8月30日請求一部認容、東京高等裁判所)

原告の損害額は、違反行為があったと認定された期間の終期の翌日からの3年間における本件同種入札事例のうち、一般的な落札傾向を示しているとはいい難い2入札事例を除く本件同種入札事例の落札率の平均値(想定落札率)が89.25%であると認められるところ、この想定落札率をもって算定される想定最終契約金額と本件の変更後の最終契約金額との差額である。

ウ 平成20年(ワ)第10号事件(平成23年9月9日請求棄却、東京高等裁判所)

被告住友金属は、原告に対し、本件違約金及び遅延損害金の全部を支払っているところ、本件違約金は、損害賠償額の予定であり、本件違約金条項に定められた予定賠償額を超える賠償請求をすることができないから、原告の被告住友金属に対する独禁法第25条に基づく損害賠償請求は理由がなく、また、本件談合行為により公団が被った損害額は、被告住友金属が賠償した違約金の額を超えないことは明らかであるから、原告が採用した損害額の算定方法に関するその余の争点について判断するまでもなく、原告の被告函館どつくに対する損賠償請求請求は理由がない。

エ 平成20年(ワ)第7号事件(平成23年11月18日請求棄却、東京高等裁判所)

 原告は、本件談合を理由として本件違約金の支払を受けているところ、本件請負契約については、当初請負代金額が本件変更契約により変更後請負代金額に変更されており、本件違約金をその損害に充当しても、なお、損害があると主張するが、変更後請負代金額は、本件談合がなかった場合に比べて高い金額となっていると認めることはできず、原告がこれを支払ったことによって原告に損害が発生したと認めることはできず、本件違約金の支払を受けた原告に、被告らに賠償を請求すべき損害が残存していないことは明らかである。

オ 平成20年(ワ)第13号事件(平成24年1月20日請求棄却、東京高等裁判所)

 本件においては、弁済金が支払われたことは当事者間に争いがないので、本件弁済金の支払を受けてもなお填補されない損害が原告に残存していると認められる場合に、他の争点について検討する必要が生ずるものというべきであるところ、原告想定落札率のみが、談合のない正常な入札環境下での通常の旧公団橋梁工事の落札率として合理的な推定であると認めることは困難であり、原告が、本件談合により本件弁済金の金額を超える損害を被ったと認めることはできず、原告が被告らに対する損害賠償請求権を取得したとしても、それは、本件弁済金の支払を受けたことにより消滅したことになるから、原告の本訴請求は理由がない。

カ 平成20年(ワ)第37号事件(平成24年1月20日請求棄却、東京高等裁判所)

 本件においては、原告に支払われた本件違約金が原告の損害に充当されることは当事者間に争いがないので、本件違約金の支払を受けてもなお填補されない損害が原告に残存していると認められる場合に、初めて、被告らに本件違約金以上の支払義務があるか否かなど、他の争点について検討する必要が生ずるものというべきであるところ、原告想定落札率のみが、談合のない正常な入札環境下での通常の旧公団橋梁工事の落札率として合理的な推定であると認めることは困難であり、原告が、本件談合により本件違約金の金額を超える損害を被ったと認めることはできず、原告が被告らに対する損害賠償請求権を取得したとしても、それは、本件違約金の支払を受けたことにより消滅したことになるから、原告の本訴請求は理由がない。

いわゆる前後理論の主張について付言すると、入札談合による損害の推定については、一般的には、談合の下での落札率と談合が終了した後の落札率との差を談合による損害と推定する方法(いわゆる前後理論)に合理性が認められ、公正取引委員会の意見においても、そのような方法が提唱されている。しかし、旧公団橋梁工事が個別性の強いものであることは前記認定のとおりである。本件工事も、そのような工事の一つであり、審決認定事実によれば、本件入札では、本件基本合意により、落札者は被告瀧上工業(株)と決まるものの、受注価格は、本件工事の個別性を踏まえて同被告が決定することになる。そして、仮に、同被告が決定した本件落札価格に本件工事特有の価格形成要因があるのであれば、通常の旧公団橋梁工事の落札率と本件落札率との差を、直ちに談合による差と認定することは合理的ではない。

キ 平成20年(ワ)第22号事件(平成24年1月27日請求一部認容、東京高等裁判所)

 原告の損害額は、本件請負契約の最終契約金額を基準として、現実の落札率99.57%で割り戻して得た額に想定落札率93.88%を乗じて、本件談合行為がなければ形成されたであろう想定最終契約金額を算定し、現実の最終契約金額から想定最終契約金額を控除した額となる。

ク 平成20年(ワ)第26号(平成24年2月2日請求一部認容、東京高等裁判所)

現実の最終契約金額を現実の落札率98.0%で除することにより、最終契約金額に対応する契約制限価格(予定価格)を推計することができ、これに平均落札率89.72%を乗ずることにより、想定最終契約金額を推計し、現実の最終契約金額と想定最終契約金額との差額を旧公団に生じた損害と認めるのが相当である。

4 (株)セブン-イレブン・ジャパンによる優越的地位の濫用事件

(1) 事件の表示

東京高等裁判所平成21年(ワ)第5号、第6号、平成22年(ワ)第9号、第10号、平成23年(ワ)第8号

損害賠償請求事件

被告 (株)セブン-イレブン・ジャパン

(2) 事案の概要

公正取引委員会は、(株)セブン-イレブン・ジャパンが、独占禁止法第19条(不公正な取引方法第14項〔優越的地位の濫用〕第4号(注)に該当)の規定に違反する行為を行っているとして、平成21年6月22日、(株)セブン-イレブン・ジャパンに対し当該行為の排除等を命ずる排除措置命令を行った。当該命令確定後、前記表に記載の各原告らは、(株)セブン-イレブン・ジャパンに対して、独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟をそれぞれ東京高等裁判所に提起した。

(注) 平成21年公正取引委員会告示第18号による改正前の一般指定第14項第4号

(3) 訴訟手続の経過

本件の各事件については、次のとおり、東京高等裁判所から、独占禁止法第84条第1項の規定に基づき、同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ、公正取引委員会は、いずれについても意見書を提出した。

本件については、平成23年度末現在、5件全てが東京高等裁判所に係属中である。

5 地方公共団体が発注するごみ処理施設建設工事の入札談合事件

(1) 事件の表示

東京高等裁判所平成22年(ワ)第2号、第5号、第7号、第8号、第11号、第13号ないし第15号、平成23年(ワ)第1号ないし第3号、第6号、第9号、平成24年(ワ)第5号

損害賠償請求事件

(2) 事案の概要

公正取引委員会は、地方公共団体が発注するごみ処理施設建設工事の入札談合について、平成18年6月27日、日立造船(株)ほか4名に対し当該行為の排除等を命ずる審判審決を行った。当該審決確定後、前記表に記載の各原告は、それぞれ、各被告に対し、独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟15件を東京高等裁判所に提起した。

(3) 訴訟手続の経過

本件の各事件については、次のとおり、東京高等裁判所から、独占禁止法第84条第1項の規定に基づき、同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ、公正取引委員会は、いずれについても意見書を提出した。

本件については、平成22年度までに1件の和解があり、平成23年度に3件の和解があった。平成23年度末現在、残りの11件全てが東京高等裁判所に係属中である。

6 独立行政法人水資源機構が発注する水門設備工事の入札談合事件

(1) 事件の表示

東京高等裁判所平成22年(ワ)第4号

損害賠償請求事件

原告 独立行政法人水資源機構

被告 (株)IHI ほか5名

提訴年月日 平成22年3月31日

和解年月日 平成24年1月19日

(2) 事案の概要

公正取引委員会は、独立行政法人水資源機構が発注する水門設備工事の入札談合について、平成19年3月8日、(株)IHI ほか8名に対し当該行為の排除等を命ずる排除措置命令を行った。当該命令確定後、独立行政法人水資源機構は、(株)IHI ほか5名に対し、独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟を東京高等裁判所に提起した。

(3) 訴訟手続の経過

本件については、東京高等裁判所から、平成22年4月6日、独占禁止法第84条第1項の規定に基づき、同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ、公正取引委員会は、同年7月9日、意見書を提出した。

本件については、平成24年1月19日、和解が成立し、終了した。

7 大気常時監視自動計測器の製造販売業者による入札談合事件

(1) 事件の表示

東京高等裁判所平成23年(ワ)第7号、第10号、第13号

損害賠償請求事件

被告 東亜ディーケーケー(株)ほか2名

(2) 事案の概要

公正取引委員会は、国の機関及び地方公共団体が発注する大気常時監視自動計測器の入札談合について、平成20年11月12日、東亜ディーケーケー(株)ほか2名に対し当該行為の排除等を命ずる排除措置命令を行った。当該命令確定後、前記表に記載の各原告は、それぞれ、東亜ディーケーケー(株)ほか2名に対し、独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟を東京高等裁判所に提起した。

(3) 訴訟手続の経過

本件の各事件については、次のとおり、東京高等裁判所から、独占禁止法第84条第1項の規定に基づき、同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ、公正取引委員会は、いずれについても意見書を提出した。

本件については、平成23年度末現在、3件全てが東京高等裁判所に係属中である。