第2部 各論

第8章 不公正な取引方法への取組

第1 概説

独占禁止法は、第19条において事業者が不公正な取引方法を用いることを禁止しているほか、事業者及び事業者団体が不公正な取引方法に該当する事項を内容とする国際的契約を締結すること、事業者団体が事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること、会社及び会社以外の者が不公正な取引方法により株式を取得し又は所有すること、会社が不公正な取引方法により役員の兼任を強制すること、会社が不公正な取引方法により合併すること等の行為を禁止している(第6条、第8条第5号、第10条第1項、第13条第2項、第14条、第15条第1項、第15条の2第1項第2号及び第16条第1項)。不公正な取引方法として規制される行為の具体的な内容は、公正取引委員会が告示により指定することとされてきたが、平成21年独占禁止法改正法により、これまで「不公正な取引方法」(昭和57年公正取引委員会告示第15号)により指定されていたもののうち、共同の取引拒絶、差別対価、不当廉売、再販売価格の拘束及び優越的地位の濫用の全部又は一部が法定化され(第2条第9項第1号から第5号)、新たに課徴金納付命令の対象となった(第20条の2から第20条の6)。

不公正な取引方法に対する取組に関しては、前記規定に違反する事件の処理のほか、不公正な取引方法の指定に関する調査、不公正な取引方法に関する説明会の開催等の普及・啓発活動、不公正な取引方法を防止するための指導業務等がある。また、不公正な取引方法に関する事業者からの相談に積極的に応じることにより違反行為の未然防止に努めている。

第2 不当廉売に対する取組

企業の効率性によって達成した低価格で商品を供給するのではなく、採算を度外視した低価格によって顧客を獲得しようとすることは、独占禁止法の目的からみて問題がある場合があり、公正な競争秩序に悪影響を与えるときは、不公正な取引方法の一つである不当廉売として規制される。

公正取引委員会は、以前から、不当廉売に対し、厳正かつ積極的に対処することとしている。

1 不当廉売事案への対処

(1) 処理方針

小売業における不当廉売事案については、①申告のあった事案に関しては、処理結果を通知するまでの目標処理期間を原則2か月以内として迅速処理することとし、繰り返し注意を受ける事業者に対しては、事案に応じて、責任者を招致した上で直接注意を行うほか、②大規模な事業者による事案又は繰り返し行われている事案で、周辺の販売業者に対する影響が大きいと考えられるものについては、周辺の販売業者の事業活動への影響等について個別に調査を行い、問題の見られる事案については厳正に対処することとしている。

(2) 処理の状況

ア 警告

平成23年度においては、酒類小売業者が、26店舗において、ビール等(注1)のうち主要な商品(いずれも350ミリリットル缶24本入りケースのもの)をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し、前記26店舗のうち少なくとも3店舗の周辺地域に所在する酒類小売業者の事業活動を困難にさせるおそれを生じさせた疑いのある事実が認められたことから、当該業者に対し、今後、このような行為を行わないよう警告した。

イ 注意

平成23年度においては、酒類、石油製品、家庭用電気製品等の小売業において、不当廉売につながるおそれがあるとして合計1、772件の注意(迅速処理(注2)によるもの)を行った(第1表参照)。

例えば、石油製品に関する事例としては、事案の内容に応じて、繰り返し注意を受ける事業者については責任者に対して直接注意した事例のほか、供給に要する費用を著しく下回る対価で販売したものの、小規模な事業者である事案又は新規開店セール終了後は廉売行為を止めるなど短期間にとどまっている事案についても、責任者に対して直接注意した事例があった。

(注1) 「ビール等」とは、ビール並びにいわゆる「第三のビール」等と称されるその他の醸造酒及びリキュールをいう。

(注2) 申告のあった不当廉売事案に対し可能な限り迅速に処理する(原則2か月以内)という方針に基づいて行う処理をいう。

第1表 平成23年度における不当廉売の注意件数(迅速処理によるもの)

2 規制基準の明確化

公正取引委員会は、昭和59年に「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」を公表し、その後、個別の業種(酒類、ガソリン及び家電)についてその取引実態を踏まえたガイドラインを順次公表することにより、不当廉売規制の考え方を明らかにしてきた。

平成21年独占禁止法改正法により、不当廉売が新たに課徴金納付命令の対象となったこと等に伴い、公正取引委員会は、不当廉売の要件に関する解釈を更に明確化すること等により、法運用の透明性を一層確保し、事業者の予見可能性をより向上させるため、これらのガイドラインを改定し、平成21年12月18日に公表した。

第3 優越的地位の濫用に対する取組

自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、取引の相手方に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える行為(優越的地位の濫用)は、自己と競争者間及び相手方とその競争者間の公正な競争を阻害するおそれがあるものであり、不公正な取引方法の一つとして禁止されている。

公正取引委員会は、以前から、優越的地位の濫用に対し、厳正かつ積極的に対処することとしている。

1 優越的地位の濫用への対処

(1) 法的措置

平成23年度においては、スーパーマーケット、子供・ベビー用品全般を専門的に取り扱う大手小売業者及び家電製品等の大手小売業者による納入業者に対する優越的地位の濫用事件について3件の法的措置を採った(課徴金総額46億3920万円)。

なお、優越的地位の濫用は、平成21年独占禁止法改正法により新たに課徴金の対象とされたところ、前記3件のうち、スーパーマーケットによる納入業者に対する優越的地位の濫用事件は、優越的地位の濫用について課徴金納付命令を行った初めての事件であり、それ以外の2件でも課徴金納付命令を行った。

(2) 注意

公正取引委員会では、優越的地位の濫用行為に係る審査を効率的かつ効果的に行い、必要な是正措置を講じていくことを目的とした「優越的地位濫用事件タスクフォース」を設置し(平成21年11月)、審査を行っているところ、平成23年度においては、52件の注意を行った。

2 中小事業者の取引の公正化を図る必要が高い分野に係る実態調査等

公正取引委員会は、独占禁止法上問題となる個別の違反行為に対し、厳正に対処しているほか、中小事業者の取引の公正化を図る必要が高い分野について、実態調査等を実施し、普及・啓発等に活用している。

(1) フランチャイズ・チェーン本部との取引に関する調査の実施

公正取引委員会は、昭和58年に、「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」(平成14年に改定。以下「フランチャイズ・ガイドライン」という。)を策定し、本部のどのような行為が独占禁止法上問題となるかを明らかにするとともに、違反行為の未然防止の観点から、その普及・啓発を行うなどの取組を行っている。

フランチャイズ・ガイドラインに記載されている事項を中心に、本部と加盟者との取引実態を把握するため、本部と取引している加盟者が経営しているであろう店舗10,000店に対する実態調査を実施し、平成23年7月7日、その結果を公表した(詳細は、後記第3の5を参照。)

調査結果を踏まえ、関係団体に対して、今回の調査結果に示された問題点を指摘するとともに、本部が問題点の解消に向けた自主的な取組を行えるよう、改めてフランチャイズ・ガイドラインの内容を傘下会員に周知徹底するなど、業界における取引適正化に向けた自主的な取組を要請した。その後、本部と加盟者の取引の公正化を推進し、違反行為の未然防止を図る観点からフランチャイズ本部・経営指導員向けの業種別講習会を8都市9会場で実施するなどの取組を行った。

(2) 食料品製造業者と卸売業者との取引に関する実態調査の実施

公正取引委員会は、大規模小売業者による優越的地位の濫用行為に関して積極的かつ厳正な法適用を行うとともに、実態調査を実施するなどしてその未然防止に努めているところである。しかし、優越的地位の濫用として問題となり得る行為については、卸売業者が取引先納入業者である製造業者に対して行っている事例もみられるところであり、また、これらの背景として卸売業者が取引先の大規模小売業者から種々の要請を受け、これに応えるためにこうした行為を行うなど、大規模小売業者の行為に起因している可能性もある。

このため、卸売業者と大規模小売業者の取引にも着目しつつ、製造業者と卸売業者の 取引実態を把握するため、食料品製造業者10,752名及び食料品卸売業者495名を対象に実態調査を実施し、平成23年10月19日、その結果を公表した(詳細は、後記第3の6を参照。)。

調査結果を踏まえ、卸売業者及び大規模小売業者の双方の関係団体に対して、今回の調査結果に示された問題点を指摘するとともに、改めて優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方の内容を傘下会員に周知徹底するなど、業界における取引適正化に向けた自主的な取組を要請した。その後、食料品製造業者と卸売業者の取引及び卸売業者と大規模小売業者の取引の公正化を推進し、違反行為の未然防止を図る観点から、卸売業者及び大規模小売業者向けの業種別講習会を8都市11会場で実施するなどの取組を行った。

(3) 荷主と物流事業者との取引に関する書面調査の実施

公正取引委員会は、荷主による物流事業者に対する優越的地位の濫用を効果的に規制する観点から、平成16年3月8日、「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」(以下「物流特殊指定」という。)を指定し、荷主と物流事業者との取引の公正化を図っている。

平成23年度においては、物流特殊指定の遵守状況及び荷主と物流事業者との取引の実態を把握するため、物流事業者30,253名に対する書面調査を実施した。また、荷主と物流事業者の取引の公正化を推進し、違反行為の未然防止を図る観点から、物流事業者と取引のある荷主に対する業種別講習会を9都市14会場で実施した。

3 優越的地位の濫用規制に係る講習会等

(1) 業種別講習会

公正取引委員会は、過去に優越的地位の濫用規制の違反がみられた業種、各種の実態調査で問題がみられた業種等に一層の法令遵守を促すことを目的として、業種ごとの実態に即した分かりやすい例を用いて説明を行う業種別講習会を実施している。

平成23年度においては、合計37回(物流事業者と取引のある荷主向け14回、フランチャイザーの本部・経営指導員向け9回、加工食料品卸売業者向け11回、大規模小売業者向け3回)の講習会を開催した。

(2) 「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」の説明会

平成22年11月30日に策定・公表した「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」を広く周知することにより、優越的地位濫用行為の未然防止を図る観点から、事業者団体等が開催する研修会等に講師を39回派遣するなどの周知活動を実施した。

4 優越的地位の濫用規制に係る相談・指導

(1) 優越的地位の濫用規制に係る相談

公正取引委員会事務総局及び地方事務所等において、年間を通して、優越的地位の濫用規制に係る相談を受け付けており、平成23年度においては687件に対応した。

(2) 「公取委による中小事業者のための移動相談会」の実施

下請事業者を始めとした中小事業者からの求めに応じ、公正取引委員会事務総局及び地方事務所等の所在する都市に限らず、全国の当該中小事業者が所在する地域に公正取引委員会の職員が出向いて、優越的地位の濫用規制や下請法について基本的な内容を分かりやすく説明するとともに相談受付等を行う「公取委による中小事業者のための移動相談会」を実施している。

平成23年度においては、下請取引適正化推進講習会を行うような大都市以外の都市を含め、全国33か所において当該相談会を実施するなど、きめ細やかな対応を行っている。

(3) コンプライアンス確立のための積極的な支援

優越的地位の濫用規制の一層の普及・啓発を図るため、事業者団体が開催する研修会等に講師を40回(優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方39回、物流特殊指定1回)派遣するとともに資料の提供等を行った。

また、優越的地位の濫用規制の説明会・相談会等に参加することのできない事業者のために、新たに優越的地位の濫用規制の概要を紹介する動画を作成し、公正取引委員会のウェブサイト上で配信した。

5 フランチャイズ・チェーン本部との取引に関する調査・提言

(1) 調査の趣旨

公正取引委員会は、フランチャイザー(以下「本部」という。)がフランチャイジー(以下「加盟者」という。)に対し、特定の商標、商号等を使用する権利を与えるとともに、加盟者の物品販売、サービス提供その他の事業・経営について、統一的な方法で統制、指導、援助を行い、これらの対価として加盟者が本部に金銭(以下「ロイヤルティ」という。)を支払う事業形態(以下「フランチャイズ・システム」という。)に関し、昭和58年に、「フランチャイズ・ガイドライン」を策定し、本部のどのような行為が独占禁止法上問題となるかを明らかにするとともに、違反行為の未然防止の観点から、その普及啓発を行うなどの取組を行っている。

今般、公正取引委員会は、①前回コンビニエンスストアを対象に行った実態調査(平成13年10月調査報告書公表)から一定の期間が経過し、本部と加盟者との間における取引環境に変化が生じている可能性もあること、②この間、本部による加盟者に対する独占禁止法違反行為(優越的地位の濫用)が発生している事情も踏まえ、フランチャイズ・ガイドラインに記載されている事項を中心に、本部と加盟者との取引実態を把握するための調査を行った。

(2) 調査対象及び調査方法

ア 書面調査
(ア) 調査対象業態

飲食料品等を小売販売していると考え得るフランチャイズ・チェーン

(イ) 調査方法

平成22年12月1日時点において、本件調査対象業態の本部と取引している加盟者が経営しているであろう店舗10、000店(注1)に対し書面調査を実施した。回収した回答数は1、903店(回答率19.0%)であったところ、この中には本部の直営店も相当数含まれており、加盟店からの回答数は、1、389店であった。

なお、書面調査の回答数に占める加盟店の割合を調査対象業態別にみると、コンビニエンスストア以外の業態では10%前後と加盟店の割合が低かったのに対し、コンビニエンスストアでは83.9%と突出している(第2表参照)。

第2表 書面調査の回答数に占める加盟店の業態別割合

(注1) ①コンビニエンスストア、②100円等均一価格ショップ、③ドラッグストア、④スーパーマーケット及び⑤酒小売店の業態に区分の上、それぞれの区分において電話帳データ掲載店舗数が上位にある本部の加盟店であると考え得る店舗の中から、電話帳データにおけるこれら本部ごとの店舗の構成割合を勘案し、無作為に抽出した。

(注2) 業態については、回答者自身の認識に基づく。

(注3) 平成23年1月31日までに回答のあったものを集計の対象としている。コンビニエンスストア以外は、回答数が少ないこと、回答の多くが直営店であることから、コンビニエンスストアとの単純比較はできない点につき留意する必要がある。

イ ヒアリング調査

 書面調査に回答した加盟店に対してヒアリング(46名)を実施した。

(3) 調査結果の概要

ア 本部の加盟店募集

本部は、加盟希望者を募集するために、各種資料を作成し、説明を行っているところ、当該資料及び説明において、特に「予想売上げや収支モデルの額」について、加盟前に本部が開示した提示額よりも実際の額の方が低かったと回答した加盟店の割合がコンビニエンスストアでは53.0%、コンビニエンスストア以外では44.4%といずれも高く、「経営指導の内容」、「再契約(契約更新)の条件」、「経営支援の内容」、「ロイヤルティ」等についても、加盟前に本部が開示した内容と実際の内容が異なっていたと回答した加盟店の割合が高かった。以上の結果から、本部が開示した各種資料に記載した内容や本部が説明した内容が正確性を欠いている又は十分でない場合もあると考えられ、これに起因して、実際のフランチャイズ・システムの内容よりも著しく優良又は有利であると誤認させ、競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引する場合には、ぎまん的顧客誘引として独占禁止法上問題となるおそれがある。

次に、本部から契約書が提示された時期については、「契約当日」に提示されたと回答した加盟店の割合が、コンビニエンスストアでは51.2%、コンビニエンスストア以外でも29.0%と高かった。このことから、フランチャイズ・ガイドラインにもあるように、本部は、加盟希望者との契約の締結に当たって、契約書等により契約内容に関する情報の開示及び説明を行い、加盟希望者が加盟を希望する本部について十分検討を行うために必要な期間をおいて行うことを徹底することで、独占禁止法違反行為の未然防止を図ることが重要であると思われる。

なお、日本フランチャイズチェーン協会が定めている「JFA 開示自主基準」では、契約の締結に当たって、加盟希望者への契約書の交付・説明後7日間以上の期間をおいて行うことが推奨されている。

イ 契約締結後の本部と加盟店との取引
(ア) 商品の仕入先

加盟店における商品の仕入先については、「本部又は本部が推奨する仕入先」からのみ仕入れていると回答した加盟店の割合が、コンビニエンスストアでは74.4%、コンビニエンスストア以外でも64.5%と、いずれも高かった。また、「本部又は本部が推奨する仕入先」以外から商品を仕入れたときの本部の対応については、「特段の対応はなかった」と回答した加盟店の割合が、コンビニエンスストアでは85.9%、コンビニエンスストア以外では90.0%と、大部分となっていた。

しかしながら、ヒアリングによれば、一般的に、加盟店が「本部又は本部が推奨する仕入先」以外から実際に仕入れている商品は、本部の推奨商品として取扱いがない商品など限定的なものであった。

したがって、本調査結果からは、商品の仕入先に関して加盟店は強く問題視しているとは見受けられないものの、本部の推奨商品に係る本部の加盟店に対する仕入先への関与についてまで問題ないかどうか判断することはできない。

(イ) 商品の仕入数量

加盟店における商品の仕入数量については、本部から加盟店に対して商品の仕入数量の提示がされていると回答した加盟店の割合が、コンビニエンスストアでは48.8%、コンビニエンスストア以外では22.6%であった。また、商品の仕入数量に係る具体的な事例として、フランチャイズ・チェーンにおける加盟店の評価が再契約の考慮要素となるとされることもあるところ、特定の商品について、一定割合以上が売れ残った場合に有利な評価をされるため、加盟店が必要と考える数量よりも多量の商品の仕入れを強いられている旨の回答や、加盟店のオーナー不在時に勝手に経営指導員に商品を発注され仕入れさせられる旨の回答が見受けられた。このような事例において、本部が加盟店に対して取引上優越した地位にある場合に、加盟店に対して、フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施するために必要な限度を超えて、例えば、各加盟店の立地条件等を全く考慮することなく全国平均の数量を基準として一律に適用し商品の陳列を求めるなど根拠のない条件を基に、本部が加盟店に対して実際に必要とする数量を超えて仕入れを行わせることにより、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えているときは、優越的地位の濫用として独占禁止法上問題となるおそれがある。

(ウ) 商品の廃棄

加盟店において商品を廃棄した場合の廃棄商品に係る原価相当額の負担について、「廃棄商品の原価相当額の一部を本部が負担している」と回答した加盟店の割合は、コンビニエンスストアでは35.6%、コンビニエンスストア以外では12.9%となっており、コンビニエンスストアでは加盟店に一方的に原価相当額を全額負担させるという状況が変わりつつあるように見受けられたが、依然として、「加盟店の全額負担となっている」と回答した加盟店の割合も高く、コンビニエンスストアでは60.0%、コンビニエンスストア以外では71.0%であった。

このように廃棄商品に係る原価相当額の一部又は全部が加盟店の負担となる状況や、前記記載のとおり、本部から仕入数量の提示がなされている状況があるにもかかわらず、具体的な事例として、本部が設定した販売期限を過ぎた商品を販売した実績があると、加盟店の評価において、不利な評価をされるため、加盟店は本部と継続的に契約をするためには、本部の設定する販売期限に合理性を感じないが、消費期限前の商品であっても廃棄せざるを得ない旨の回答も見受けられた。このような事例においては、本来、鮮度管理や品質管理の観点から、本部が設定した販売期限に合理的根拠がない場合であっても、加盟店は消費(賞味)期限前の商品を廃棄せざるを得ず、本部が加盟店の廃棄に係る負担を軽減する機会を失わせるおそれがあるため、本部が加盟店に対して取引上優越した地位にある場合において、フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施するために必要な限度を超えて、正常な商慣習に照らして不当に加盟店に不利益を与えるときは、優越的地位の濫用として独占禁止法上問題となるおそれがある。

(エ) 商品の販売価格

加盟店における商品の販売価格については、「本部から推奨された販売価格とは異なる価格で販売することもある」と回答した加盟店の割合が、コンビニエンスストアでは54.1%、コンビニエンスストア以外では48.4%であり、さらに、これら加盟店のうち「見切り販売をしたことがある」と回答した割合は、コンビニエンスストアでは、89.8%、コンビニエンスストア以外では93.3%と、非常に高かった。しかしながら、ヒアリングによれば、一般的に、見切り販売をしているとして挙げられた事例は、季節商品や新商品導入時における旧商品の在庫処分など限定的なものであった。

商品の販売価格に係る具体的な事例として、見切り販売を行っている加盟店に対しては、契約の解除や不利益な取扱いが行われ、見切り販売を実質的に制限される旨の回答や、見切り販売を行う際のシステム上の価格変更処理が煩雑なものに変更され、見切り販売の実施を諦めざるを得ない旨の回答、ファストフードについては本部の指定する価格で販売することが契約書で義務付けられている旨の回答があったことに鑑みると、本部には、加盟店が推奨された販売価格とは異なる価格で商品を販売することについて否定的な部分があるように見受けられた。

これらの事例において、本部が加盟店に対して取引上優越した地位にあり、フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施するために必要な限度を超えて、正常な商慣習に照らして不当に加盟店に不利益を与えるときは、優越的地位の濫用として独占禁止法上問題となるおそれがある。また、本部が加盟店に商品を供給している場合であって、加盟店の販売価格(再販売価格)を拘束するとき又は本部が加盟店に商品を直接供給していない場合であって、加盟店が供給する商品(役務)の価格を不当に拘束するときには、再販売価格の拘束又は拘束条件付取引として独占禁止法上問題となるおそれがある。

(オ) 新規事業の導入

本部による新規事業の導入において、契約後に新たに導入した事業の有無については、「新たに導入した事業がある」と回答した加盟店の割合は、コンビニエンスストアでは68.1%、コンビニエンスストア以外では14.3%であった。さらに、当該新規事業の導入経緯については、「本部との契約に定められた新規事業を導入する際の条件に基づき、自動的に事業を導入した」と回答した加盟店の割合が、コンビニエンスストアでは67.3%、コンビニエンスストア以外では25.0%であり、新規事業の導入に当たっては、比較的高い割合の加盟店において、事前に定められた条件に基づき導入されており、加盟店が強く問題視しているとは見受けられなかった。他方、「本部との契約に新規事業を導入する際の条件が定められていないのに、一方的に又は十分な協議なく新たな事業が導入された」と回答した加盟店の割合も、コンビニエンスストアで19.4%、コンビニエンスストア以外で50.0%と一定程度であった。これらの場合において、本部が加盟店に対して取引上優越した地位にあり、本部が加盟店に対して当該事業を導入しなければ不利益な取扱いをすること等を示唆し、新規事業の導入を余儀なくさせ、正常な商慣習に照らして不当に加盟店に不利益を与える場合には、優越的地位の濫用として独占禁止法上問題となるおそれがある。

(4) 公正取引委員会の対応

今回の調査結果を踏まえ、公正取引委員会は、本部及び関係事業者団体(日本フランチャイズチェーン協会)等に対して、次の対応を行うこととする。

ア 本部及び本部の経営指導員に対する業種別講習会を実施するなどにより、本部と加盟者の取引の公正化を推進し、違反行為の未然防止に努める(前記第3の3参照)。

イ 本部による独占禁止法上の違反行為が行われることのないようにするため、関係事業者団体(日本フランチャイズチェーン協会)に対して、本調査結果を報告するとともに、本部が問題点の解消に向けた自主的取組を行えるよう、改めてフランチャイズ・ガイドラインの内容を傘下会員に周知徹底するなど、業界における取引適正化に向けた自主的な取組を要請する。

ウ 本部と加盟者の取引については、取引実態及び本部の加盟者に対する問題行為の更なる把握に努めるとともに、仮に、独占禁止法に違反する行為が認められた場合には厳正に対処する。

6 食料品製造業者と卸売業者との取引に関する実態調査・提言

(1) 調査の趣旨

不公正な取引方法として独占禁止法で禁止する優越的地位の濫用行為については、依然として違反事例が繰り返し生じている。こうした違反事例の中にあっては、大規模小売業者(注1)による納入業者に対する濫用行為が多く認められる。このため、公正取引委員会は、大規模小売業者による優越的地位の濫用行為に関して積極的かつ厳正な法執行を行うとともに、実態調査を実施するなどしてその未然防止に努めているところである。

しかし、優越的地位の濫用として問題となり得る行為については、卸売業者が取引先納入業者である製造業者に対して行っている事例もみられるところであり、また、こうした行為の背景として卸売業者が取引先の大規模小売業者から種々の要請を受け、それに応えるためにこうした行為を行うなど、大規模小売業者の行為に起因している可能性もある。

このため、今般、卸売業者と大規模小売業者の取引にも着目しつつ、製造業者と卸売業者の取引実態を把握するため、調査を行うこととした。

また、調査の対象分野としては、過去の調査事例などを踏まえると、特に、食料品の取引において優越的地位の濫用として問題になり得る事例が見受けられることから、食料品製造業者(以下「メーカー」という。)と食料品卸売業者(注2)の間及び食料品卸売業者と大規模小売業者の間の取引実態について調査することとした。

(注1) 大規模小売業者とは、「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」 (平成17年5月13日公正取引委員会告示第11号)で定義する「大規模小売業者」であり、一般消費者に日常使用される商品の小売業を行う者で、次の①又は②のいずれかに該当するものをいう。

 ① 前事業年度の売上高が100億円以上の者

 ② 次のいずれかの店舗を有する者

   ・東京都特別区及び政令指定都市:店舗面積3,000㎡ 以上

   ・その他の市町村:店舗面積1,500㎡ 以上

(注2) 食料品を製造又は加工する事業者と取引する者。

(2) 調査方法・内容等

ア 調査方法

メーカー(資本金1000万円以上)10、752社及び食料品卸売業者(資本金1億円超)495社に対し、平成20年1月から平成22年12月までを調査対象期間とする書面調査を行うとともに、書面調査に回答したメーカーのうち20社に対してヒアリングを実施した(第3表参照)。

第3表 書面調査の状況

イ 主な調査内容

 「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(以下「優越ガイドライン」という。)において、優越的地位の濫用となる行為類型として例示されている各行為(「購入・利用強制」、「協賛金等の負担の要請」、「従業員等の派遣の要請」、「受領拒否」、「返品」、「支払遅延」、「減額」及び「取引の対価の一方的決定」)に焦点を当てて調査を行った。

(3) 調査結果の概要

ア メーカーに対する調査

(ア) 回答のあったメーカー3,270社のうち、食料品卸売業者(以下「卸売業者」という。)と取引しており、本件調査の対象となるメーカー(以下「調査対象メーカー」という。)1,824社に対する調査結果をみると、優越ガイドラインで例示する8つの行為類型いずれについても、卸売業者から優越的地位の濫用につながり得る行為(注3)を受けていたメーカーが一定程度存在する(第1図参照)。

第1図 優越的地位の濫用行為につながり得る行為を受けていた者の行為類型ごとの割合(複数回答)

(注3) 卸売業者がメーカーに対し、取引上優越する地位にあること等を前提とする。後記イ及びウにおける「優越的地位の濫用になり得る行為」等の考え方について同じ。

(イ) 調査対象メーカーのうち、卸売業者から不当な要請等を受けたことがあると回答した者に対し、その理由について卸売業者からどのような説明を受けているのかについて質問したところ、卸売業者の取引先小売業者に原因がある旨説明を受けたとの回答が7つの項目(注4)においてみられ(第2図参照)、また、具体的な回答事例においても、小売業者の関与を示唆するものがみられた。

第2図 取引先小売業者から要請等を受けたことが、不当な要請等を行った理由であると卸売業者から聞いていると回答した調査対象メーカーの割合(複数回答)

(注4) 「取引の対価の一方的決定」については、卸売業者とメーカーの間で取引の対価が決まり、次に、卸売業者と小売業者との間の取引の対価が決まると思われ、通常、卸売業者とメーカーの間の取引の対価の決定に小売業者が関与することは考えられないため、小売業者の関与についての質問を行っていない。

イ 卸売業者に対する調査

(ア) 回答のあった卸売業者217社のうち、メーカーと取引しており、本件調査の対象となる卸売業者(以下「調査対象卸売業者」という。)164社に対する調査結果をみても、優越ガイドラインで例示する8つの行為類型いずれについても、優越的地位の濫用になり得る行為を行っている卸売業者の存在がうかがわれる。

優越ガイドラインで例示する行為類型ごとに、メーカーに対し優越的地位の濫用になり得る行為を行っていると考えられる者の調査対象卸売業者164社に占める割合をみると、割合の高い行為類型の順に、①返品(15.2%)、②協賛金等の負担の要請(11.0%)、取引の対価の一方的決定(11.0%)、④従業員等の派遣の要請(8.5%)、⑤購入・利用強制(7.3%)、⑥減額(6.1%)、⑦受領拒否(3.7%)、支払遅延(3.7%)であった。

(イ) また、優越的地位の濫用になり得る行為を行っていると考えられる卸売業者の中には、取引先大規模小売業者から、各行為類型に係る要請等を受けて、問題となり得る行為をメーカーに対して行っていると考えられる例がみられる。調査対象卸売業者が優越的地位の濫用になり得る行為を行っていると考えられる事例のうち、取引先大規模小売業者からの要請等を理由としているものの割合(注5)を行為類型ごとにみると、割合の高い順に、①従業員等の派遣の要請(78.6%)、②減額(50.0%)、③返品(44.0%)、④協賛金等の負担の要請(38.9%)、⑤購入・利用強制(33.3%)、受領拒否(33.3%)となっている。

さらに、卸売業者が取引先大規模小売業者から受けている行為についても、優越ガイドラインに照らして、優越的地位の濫用として問題となり得る場合があると考えられる。

(注5) この割合については、メーカーに対して問題となり得る行為を行ったことがあると回答した卸売業者の数(分母)の絶対数が小さいため、メーカーに対する調査結果と比較する場合は留意する必要がある。

ウ 総括

(ア) 調査結果をみると、卸売業者とメーカーの取引においても優越的地位の濫用になり得る行為が行われている可能性がある。特に「返品」、「協賛金等の負担の要請」といった行為類型では、メーカー及び卸売業者のいずれの側の調査においても、こうした事例の割合が高くなっている。

(イ) また、これら卸売業者による行為の原因には、卸売業者が自己の利益確保等のために行っているもののほか、卸売業者が取引先小売業者から要請等を受けてメーカーに不当な要請等を行っている場合があることが明らかになった。特に、「従業員等の派遣の要請」、「返品」及び「減額」について、取引先小売業者からの要請等に起因するとの回答の割合が、メーカー及び卸売業者のいずれの側の調査においても高いものとなっており、さらに、取引先小売業者からの要請等であることを伏せてメーカーに要請している卸売業者がいる可能性もあるということを考慮すると、取引先小売業者からの要請等に起因するものの割合は更に高くなることも考えられる。これらの事例においては、卸売業者が、取引先大規模小売業者から求められる負担をメーカーに転嫁しているのではないか、あるいは、取引先大規模小売業者が卸売業者を介してメーカーに負担を要請しているのではないかと考えられる。このように、卸売業者とその取引の相手方(小売業者又はメーカー)との間で、不当な要請等による不利益や負担の転嫁が複層的に行われ、大規模小売業者が問題行為のいわば発生源となっている構造が存在するものと思われる。

(ウ) 今後は、こうした複層的な構造に留意しつつ、メーカーと卸売業者の間で行われる問題行為に対しても監視を強めていく必要がある。また、卸売業者によるメーカーに対する濫用行為の要因ともなっている大規模小売業者による不当な要請等については、問題行為の根本的な解消を図る観点から引き続き注意深く監視していく必要があると考えられる。

(4) 公正取引委員会の対応

今回の調査結果を踏まえ、公正取引委員会は、卸売業者及び大規模小売業者双方の関係事業者及び関係事業者団体に対し、次の対応を行うこととする。

ア 卸売業者及び大規模小売業者を対象とする業種別講習会等を実施し、メーカーと卸売業者の取引及び卸売業者と大規模小売業者の取引の公正化を推進し、違反行為の未然防止に努める(前記第3の3参照)。

イ メーカーから小売業者までの一連の取引において、違反行為が行われることのないようにするため、関係事業者団体に対して、本調査結果を報告するとともに、改めて優越ガイドラインの内容を傘下会員に周知徹底するなど、業界における取引の公正化に向けた自主的な取組を要請する。

ウ 違反行為の未然防止を目的とする前記ア及びイの普及啓発活動を推進するとともに、引き続き業界の取引実態を注視し、独占禁止法に違反する疑いのある行為が認められる場合には、厳正に対処する。