第2部 各論

第4章 審判

第1 概説

 平成24年度における審判件数は、前年度から繰り越されたもの123件、平成24年度中に審判手続を開始したもの47件の合計170件(独占禁止法違反に係るものが75件、課徴金納付命令に係るものが95件)であった。これらのうち、平成24年度中に13件について審決を行った。13件の審決の内訳は、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法に基づく審決が5件(課徴金の納付を命ずる審決5件)、平成17年独占禁止法改正法による改正後の独占禁止法に基づく審決が8件(排除措置命令に係る審決4件、課徴金納付命令に係る審決4件)である。この結果、平成24年度末における審判件数(平成25年度に繰り越すもの)は157件となった。

係属中の審判事件一覧

【平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法に基づく審判事件】

(注1) 平成21年公正取引委員会告示第18号による改正前は一般指定(不公正な取引方法〔昭和57年公正取引委員会告示第15号〕をいう。)第13項

(注2) 平成21年公正取引委員会告示第18号による改正前は一般指定第14項

第2 平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法に基づく審決

平成24年度においては、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法に基づく審決は課徴金の納付を命ずる審決のみであった。

1 ㈱カネカに対する審決(塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの価格カルテル)

(1) 被審人及び納付を命じた課徴金の額

(2) 事件の経過

 本件は、平成22年6月2日、公正取引委員会が㈱カネカ(以下(2)及び(3)において「被審人」という。)に対し、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ、被審人は、これを不服として審判手続の開始を請求したので、同年8月27日、被審人に対し、同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人に対して審決案と同じ内容の審決を行った。

(3) 認定した事実及び判断の概要

ア 課徴金に係る違反行為の概要

被審人は、他の事業者と共同して、モディファイヤー(プラスチックが有する化学的、物理的性質を損なうことなく、衝撃強度、耐候性、加工性等を改良し、製品物性、外観、生産性等を向上させるために用いられる改質剤)のうち塩化ビニル樹脂に添加されるもの(以下「塩化ビニル樹脂向けモディファイヤー」ともいう。)の販売価格の引上げを決定することにより、公共の利益に反して、我が国における塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売分野における競争を実質的に制限していた。

イ 課徴金の計算の基礎となる事実及び課徴金額の算定

被審人の本件違反行為の実行期間は、独占禁止法第7条の2第1項の規定により、平成12年1月1日から平成14年12月31日までであり、被審人のこの期間における塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーに係る売上額は、100億7639万4127円である。課徴金の額は、この売上額に100分の6を乗じて得た額から1万円未満の端数を切り捨てて算出された6億458万円である。

ウ 主要な争点及びそれに対する判断

独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」の該当性

(ア) 被審人が子会社である昭和化成工業㈱(以下「昭和化成」という。)に対して販売した塩化ビニル樹脂向けモディファイヤー(以下「昭和化成向けモディファイヤー」という。)が、「当該商品」に該当するか否か。

独占禁止法第7条の2第1項に定める「当該商品」とは、一定の取引分野における競争を実質的に制限する違反行為が行われた場合において、その対象商品の範ちゅうに属する商品であって、当該違反行為による拘束を受けたものをいうと解される。そして、違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については、一般的に当該違反行為の影響が及ぶものといえるから、当該行為を行った事業者が明示的又は黙示的に当該行為の対象から除外したこと、あるいは、これと同視し得る理由によって当該商品が当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められない限り、当該違反行為による拘束を受けたものと推認され、独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品」に該当するものと解される。

昭和化成向けモディファイヤーも、塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーであり、本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属するものであることは明らかである。

被審人と昭和化成とは親子会社として密接な関係があり、両社間の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの取引は同一企業グループ内の取引という側面を有するが、昭和化成は、被審人と別個の法人格を有し、法律上も独立の取引主体として活動しているものであり、また、被審人から出向した技術開発担当者が、昭和化成が購入する塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの選定等の業務を行っているが、その選定等の主体は、飽くまでも昭和化成である。また、被審人は昭和化成に役員を派遣して予算や中期計画の決定に関与しているが、これも子会社に対する親会社の一般的な対応の域を出ない。そうすると、同一企業グループ内の取引であることを理由に、直ちに、昭和化成向けモディファイヤーが本件違反行為による拘束から除外されているということはできない。

昭和化成向けモディファイヤーの値上げ交渉の状況等についても、3社(被審人、三菱レイヨン㈱及び㈱クレハ)間の会合において報告されていたこと及び昭和化成向けモディファイヤーの価格は、被審人が他社に販売する塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの価格と同様に決定されていたものであることから、昭和化成向けモディファイヤーについて本件違反行為による拘束が及んでいたことは明らかである。

また、昭和化成が被審人の意向に反して被審人以外の事業者から塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを購入することが不可能であったとはいえないから、これを理由に、被審人と昭和化成間の取引が本件違反行為によって競争制限が生じたとされる市場の 埒 外において実施されたとする被審人の主張は理由がない。

以上によれば、被審人の昭和化成向けモディファイヤーについて特段の事情があるとは認められないから、昭和化成向けモディファイヤーは、独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」に該当する。

(イ) 被審人が販売した昭和化成向けモディファイヤーのうち、昭和化成から委託されて被審人が製造するカネビニールコンパウンドに使用される塩化ビニル樹脂向けモディファイヤー(以下「被審人受託製造KVC 向けモディファイヤー」という。)が、「当該商品」に該当するか否か。

被審人受託製造KVC 向けモディファイヤーも、塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーであり、本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属するものであることは明らかである。

被審人受託製造KVC 向けモディファイヤーについては、原料調達等の業務を昭和化成に一元化することにより事務の効率化とコストの削減を図るため、調達をする主体が被審人から昭和化成へと変更されたところ、その結果、被審人受託製造KVC 向けモディファイヤーの価格は、他の昭和化成向けモディファイヤーの価格と何ら区別されることなく決定されるようになったのであるから、被審人受託製造KVC 向けモディファイヤーについても、他の昭和化成向けモディファイヤーと同様に、本件違反行為の影響が及んでいたというほかなく、平成13年8月以前の調達形態であった被審人の自家消費と同視することはできない。

そして、本件違反行為が被審人受託製造KVC 向けモディファイヤーの価格決定に影響していたという事実は、被審人受託製造KVC 向けモディファイヤーが被審人から被審人大阪工場に直接納入されていたとか、被審人大阪工場におけるKVC(カネビニールコンパウンド)の製造実態が変わらなかったという事実により何ら左右されるものではない。

以上によれば、被審人受託製造KVC 向けモディファイヤーについて特段の事情があるとは認められないから、被審人受託製造KVC 向けモディファイヤーは、独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」に該当する。

(4) 法令の適用

独占禁止法第7条の2

2 三菱レイヨン㈱に対する審決(塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの価格カルテル)

(1) 被審人及び納付を命じた課徴金の額

(2) 事件の経過

本件は、平成22年6月2日、公正取引委員会が三菱レイヨン㈱(以下及びにおいて「被審人」という。)に対し、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ、被審人は、これを不服として審判手続の開始を請求したので、同年8月27日、被審人に対し、同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人に対して審決案と同じ内容の審決を行った。

(3)  認定した事実及び判断の概要

ア 課徴金に係る違反行為の概要

被審人は、他の事業者と共同して、モディファイヤー(プラスチックが有する化学的、物理的性質を損なうことなく、衝撃強度、耐候性、加工性等を改良し、製品物性、外観、生産性等を向上させるために用いられる改質剤)のうち塩化ビニル樹脂に添加されるもの(以下「塩化ビニル樹脂向けモディファイヤー」ともいう。)の販売価格の引上げを決定することにより、公共の利益に反して、我が国における塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売分野における競争を実質的に制限していた。

イ 課徴金の計算の基礎となる事実及び課徴金額の算定

被審人の本件違反行為の実行期間は、独占禁止法第7条の2第1項の規定により、平成12年1月1日から平成14年12月31日までであり、被審人のこの期間における塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーに係る売上額は、90億6028万2135円である。課徴金の額は、この売上額に100分の6を乗じて得た額から1万円未満の端数を切り捨てて算出された5億4361万円である。

ウ 主要な争点及びそれに対する判断

審査官が本件違反行為の対象であると主張する商品のうちの一部(以下「本件係争商品」という。)が、独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」に該当するか否か。

(ア) 独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」について

独占禁止法第7条の2第1項に定める「当該商品」とは、一定の取引分野における競争を実質的に制限する違反行為が行われた場合において、その対象商品の範ちゅうに属する商品であって、当該違反行為による拘束を受けたものをいうと解される。そして、違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については、一般的に当該違反行為の影響が及ぶものといえるから、当該行為を行った事業者が明示的又は黙示的に当該行為の対象から除外したこと、あるいは、これと同視し得る理由によって当該商品が当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められない限り、当該違反行為による拘束を受けたものと推認され、独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品」に該当するものと解される。

(イ) 本件合意の対象等について

a 被審人、㈱カネカ及び㈱クレハ(以下において「3社」という。)は、全てのモディファイヤーではなく、塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーのみを本件合意の対象としたことが認められる。3社が本件合意の対象をこのように限定した理由は、非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーは、近年になって製品開発が活発になったため、塩化ビニル樹脂向けのものよりも需要者との特許関係による制約を受けることが多いこと及び非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの製品開発について㈱クレハが他の2社に先行していることなどから、非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーについては3社間で需要者の競合関係が生じて価格競争等になることが少なかったためであると認められる。

b 被審人が製造販売するメタブレンC、W及びPの各タイプのモディファイヤーは、元来、塩化ビニル樹脂に添加するためのモディファイヤーであり、非塩化ビニル樹脂に添加することも可能であるため、ごく僅かの割合が非塩化ビニル樹脂に添加するものとして販売されることもあるというものである。したがって、これらの各タイプのモディファイヤーは、他社と需要者の競合関係が生じることが少ない非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーとは異なる。

c そして、メタブレンC、W及びPの各タイプのモディファイヤーは、3社による本件合意の対象とされた塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーに含まれるMBS 樹脂、アクリル系強化剤、アクリル系加工助剤の3種類にそれぞれ対応している。

d したがって、メタブレンC、W 及びP の各タイプのモディファイヤーは、いずれも本件合意の対象商品の範ちゅうに属するといえる。そして、本件係争商品も、メタブレンC、W及びPの各タイプのいずれかに属するものである以上、本件合意の対象商品の範ちゅうに属するといえる。

(ウ) 特段の事情について

本件違反行為を行った被審人が、本件係争商品について、明示的又は黙示的に当該行為の対象から除外したこと、あるいは、これと同視し得る理由によって当該商品が当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとは認められない。

(エ) 結論

以上によれば、被審人が販売した本件係争商品は、本件合意の対象商品の範ちゅうに属する商品であると認められ、独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」に該当する。

(4) 法令の適用

独占禁止法第7条の2

3  オリエンタル白石㈱に対する審決(国土交通省関東地方整備局及び同近畿地方整備局並びに福島県が発注するプレストレスト・コンクリートによる橋梁の新設工事の入札談合)

(1) 被審人及び納付を命じた課徴金の額

(2)事件の経過

本件は、平成23年6月15日、公正取引委員会がオリエンタル白石㈱(以下及びにおいて「被審人」という。)に対し、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ、被審人は、これを不服として審判手続の開始を請求したので、平成23年9月7日、被審人に対し、同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録及び被審人から提出された異議の申立書に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人に対して審決案と同じ内容の審決を行った。

(3) 認定した事実及び判断の概要

ア 課徴金に係る違反行為の概要

( ア) 平成23年(判)第76号事件(以下「第76号事件」という。)

被審人は、他の事業者と共同して、遅くとも平成13年4月1日以降、平成16年3月31日まで、国土交通省が関東地方整備局において一般競争入札、公募型指名競争入札、工事希望型指名競争入札又は指名競争入札の方法によりプレストレスト・コンクリート工事(以下「PC 工事」という。)として発注する橋梁の新設工事(以下「関東地整発注の特定PC 橋梁工事」という。)について、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにすることにより、公共の利益に反して、関東地整発注の特定PC 橋梁工事の取引分野における競争を実質的に制限していた。

(イ) 平成23年(判)第77号事件(以下「第77号事件」という。)

被審人は、他の事業者と共同して、遅くとも平成12年4月1日以降、平成15年12月3日まで、国土交通省(ただし、平成13年1月5日までは建設省)が近畿地方整備局(ただし、平成13年1月5日までは近畿地方建設局)において一般競争入札、公募型指名競争入札、工事希望型指名競争入札又は指名競争入札の方法によりPC工事として発注する橋梁の新設工事(以下「近畿地整発注の特定PC 橋梁工事」という。)について、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにすることにより、公共の利益に反して、近畿地整発注の特定PC 橋梁工事の取引分野における競争を実質的に制限していた。

(ウ) 平成23年(判)第78号事件(以下「第78号事件」という。)

被審人は、他の事業者と共同して、遅くとも平成13年4月1日以降、平成15年12月3日まで、福島県が条件付き一般競争入札、技術評価型意向確認方式指名競争入札、希望工種反映型指名競争入札又は指名競争入札の方法によりPC 工事として発注する橋梁の新設工事(以下「福島県発注の特定PC 橋梁工事」という。)について、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにすることにより、公共の利益に反して、福島県発注の特定PC 橋梁工事の取引分野における競争を実質的に制限していた。

イ 課徴金の計算の基礎となる事実及び課徴金額の算定

(ア) 第76号事件

被審人の本件違反行為の実行期間は、独占禁止法第7条の2第1項の規定により、平成13年10月25日から平成16年3月31日までであり、同実行期間における関東地整発注の特定PC 橋梁工事に係る売上額は、4件の契約により定められた対価の額を合計した17億6242万5000円である。課徴金の額は、この売上額に100分の6を乗じて得た額から1万円未満の端数を切り捨てて算出された1億574万円である。

(イ)  第77号事件

被審人の本件違反行為の実行期間は、独占禁止法第7条の2第1項の規定により、平成12年12月4日から平成15年12月3日までの3年間であり、同実行期間における近畿地整発注の特定PC 橋梁工事に係る売上額は、7件の契約により定められた対価の額を合計した62億6356万5000円である。課徴金の額は、この売上額に100分の6を乗じて得た額から1万円未満の端数を切り捨てて算出された3億7581万円である。

(ウ) 第78号事件

被審人の本件違反行為の実行期間は、独占禁止法第7条の2第1項の規定により、平成13年4月10日から平成15年12月3日までであり、同実行期間における福島県発注の特定PC 橋梁工事に係る売上額は、3件の契約により定められた対価の額を合計した9億2932万7962円である。課徴金の額は、この売上額に100分の6を乗じて得た額から1万円未満の端数を切り捨てて算出された5575万円である。

ウ 主要な争点及びそれに対する判断

(ア) 本件課徴金債権は、更生計画認可の決定により免責されるか

独占禁止法上の課徴金債権は、会社更生法(平成14年法律第154号)上は「国税徴収法又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権」として、租税等の請求権(会社更生法第2条第15項)に該当する。しかし、これは、独占禁止法上の課徴金の徴収方法について、租税等と同様にする旨を定めたものにすぎない。独占禁止法上の課徴金は、罰金等と同様に制裁としての性質を有するのであって、この点で、租税等と性質を異にする。

そして、会社更生法第204条第1項第3号及び第4号は、罰金等の請求権及び制裁としての性質を有する租税等の請求権について更生計画認可の決定によっても当然に免責されないとの取扱いをしているところ、これは、当該請求権の制裁としての性質に基づくものであるから、制裁としての性質を有し、罰金等の請求権と同様の扱いをすることが適当な租税等の請求権については、明文の規定がないものであっても、免責されないと解することが同法第204条第1項第3号及び第4号の趣旨に合致する。独占禁止法上の課徴金は、制裁としての性質を有し、また、違反行為を抑止するという機能を有する点で罰金と共通していることからすると、独占禁止法上の課徴金債権については、会社更生法第204条の定める免責との関係では、罰金等の請求権と同様に扱うのが相当である。

以上からすると、独占禁止法上の課徴金債権については、届出がなかった場合であっても、会社更生法第204条第1項第3号又は第4号を類推適用して、更生計画認可の決定によっても免責されないと解すべきである。

(イ) その余の争点について

前記のとおり、本件課徴金債権は、会社更生法上の租税等の請求権に該当するが、会社更生法第204条第1項第3号又は第4号が類推適用され、被審人はその責任を免れないから、その余の争点について判断するまでもなく、被審人は、本件課徴金を納付する義務を負う。

(4) 法令の適用

独占禁止法第7条の2

第3 平成17年独占禁止法改正法による改正後の独占禁止法に基づく審決

1  一般社団法人日本音楽著作権協会に対する排除措置命令に係る審決について(音楽著作物の著作権に係る著作権等管理事業者による私的独占)

(1) 被審人



(2) 事件の経過

本件は、平成21年2月27日、公正取引委員会が、一般社団法人日本音楽著作権協会(以下(2)及び(3)において「被審人」という。)に対し、独占禁止法第7条第1項の規定に基づき排除措置命令を行ったところ、被審人は、同命令に対して不服として審判請求を行ったので、被審人に対し、同法第52条第3項の規定に基づき審判手続を開始し、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人に対して審決案と同じ内容(前記排除措置命令を取り消す旨)の審決を行った。

(3) 判断の概要等

ア 原処分の原因となる事実

(ア) 被審人は、放送事業者(注1)から包括徴収(放送事業収入に一定率を乗ずる等の方法で放送等使用料の額を算定し徴収する方法をいう。以下(3)において同じ。)の方法により徴収する放送等使用料の算定において、放送等利用割合(注2)が当該放送等使用料に反映されないような方法を採用している。これにより、当該放送事業者が他の管理事業者(注3)にも放送等使用料を支払う場合には、当該放送事業者が負担する放送等使用料の総額がその分だけ増加することとなる。

(イ) これにより、被審人以外の管理事業者は、自らの放送等利用に係る管理楽曲が放送事業者の放送番組においてほとんど利用されず、また、放送等利用に係る管理楽曲として放送等利用が見込まれる音楽著作物をほとんど確保することができないことから、放送等利用に係る管理事業を営むことが困難となっている。

(ウ) 前記(ア)の行為によって、被審人は、他の管理事業者の事業活動を排除することにより、公共の利益に反して、我が国における放送事業者に対する放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における競争を実質的に制限している。

(注1) 放送法等の一部を改正する法律(平成22年法律第65号。以下「放送法等改正法」という。)による改正前の放送法(昭和25年法律第132号)第2条第3号の2に規定する放送事業者及び放送法等改正法による廃止前の電気通信役務利用放送法(平成13年法律第85号)第2条第3項に規定する電気通信役務利用放送事業者のうち衛星役務利用放送(放送法施行規則の一部を改正する省令〔平成23年総務省令第62号〕による廃止前の電気通信役務利用放送法施行規則〔平成14年総務省令第5号〕第2条第1号に規定する衛星役務利用放送をいう。)を行う者であって、音楽著作権に係る著作権等管理事業者から音楽著作物の利用許諾を受け放送等利用を行う者をいう。

(注2) 当該放送事業者が放送番組(当該放送事業者が自らの放送のために制作したコマーシャルを含む。)において利用した音楽著作物の総数に占める被審人の放送等利用に係る管理楽曲の割合をいう。

(注3) 音楽著作権に係る著作権等管理事業を営む者をいう。

イ 主要な争点及びそれに対する判断

(ア) 被審人が、ほとんど全ての放送事業者との間で包括徴収を内容とする利用許諾契約を締結し、放送等使用料を徴収する行為(以下「本件行為」という。)は、放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野において他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有するか

本件行為は、放送事業者が被審人以外の管理事業者の管理楽曲を利用する際に別途の使用料の負担を考慮する必要を生じさせるという意味で、放送事業者が被審人以外の管理事業者の管理楽曲を利用することを抑制する効果を有しており、被審人が我が国における放送事業者に対する放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野において一貫して強固な地位を有することを併せ考慮すると、競業者の放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野への新規参入について消極的要因となるといえる。そして、被審人が著作権等管理事業法(平成12年法律第131号)の施行後も、新規参入について消極的要因となる本件行為を継続し、平成18年9月まで放送等使用料を徴収して管理事業を行う業者が現れなかったことは、本件行為が他の事業者の前記分野への新規参入を困難にする効果を持つことを疑わせる一つの事情ということができる。

他方、証拠によれば、放送事業者が音楽著作物を放送番組において利用する際には、放送等使用料の負担の有無及び多寡は考慮すべき要素の一つであり、番組の目的、内容、視聴者の嗜好等を勘案して適切な楽曲を選択するものと認められる。また、楽曲の個性や放送等使用料の負担をどの程度考慮するかについては、放送等使用料の負担を考慮して楽曲を選択することは考えられない旨述べる者もあれば、カウントダウン番組(CD の売上げ、視聴者のリクエスト等を基に楽曲の順位を発表する番組)のように必然的に特定の楽曲を利用する場合を除き、幅広い選択肢の中から楽曲を選んで利用すると述べる者もあって、放送事業者や番組の内容により大きく異なると認められる。

そして、本件行為が独占禁止法第2条第5項にいう「他の事業者の事業活動を排除」する行為に該当するか否かは、「本件行為……が、……自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり、競業者の……参入を著しく困難にするなどの効果を持つものといえるか否かによって決すべきものである」から(最高裁平成22年12月17日第二小法廷判決)、前記のとおり被審人の本件行為が放送事業者による他の管理事業者の楽曲の利用を抑制する効果を有し、競業者の新規参入につき消極的要因になることから、放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における他の管理事業者の事業活動を排除する効果があると断定することができるかどうかは、本件行為に関する諸般の事情を総合的に考慮して検討する必要がある。

前記の諸般の事情としては、放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における市場の構造、音楽著作物の特性(代替性の有無、その程度等)、競業者の動向、本件行為及びその効果についての被審人の認識、著作権者から音楽著作権の管理の委託を受けることを競う管理受託分野との関連性等、多様な事情が考えられるが、審査官は、㈱イーライセンス(以下において「イーライセンス」という。)が平成18年10月に放送等利用に係る管理事業を開始するに際し、被審人の本件行為が実際にイーライセンスの管理事業を困難にし、イーライセンスの参入を具体的に排除した等として、それを根拠に本件行為に排除効果があったと主張する。しかし、具体的に、イーライセンスが放送等利用に係る管理事業を開始した際の事実関係を検討すると、①実際にイーライセンス管理楽曲の利用を回避したと明確に認められるのは、1社の放送事業者にすぎず、放送事業者が一般的にイーライセンス管理楽曲の利用を回避したと認めることはできない上、②放送事業者がイーライセンス管理楽曲の利用について慎重な態度をとったことは認められるものの、その主たる原因は、被審人による本件行為ではなく、イーライセンスが不十分な管理体制のままで放送等利用に係る管理事業に参入したため、放送事業者が困惑、混乱したことにあると認められる。また、③エイベックス・グループ(エイベックス・グループ・ホールディングス㈱及びその子会社をいう。以下同じ。)がイーライセンスに対する管理委託契約を解約したのは、放送事業者がイーライセンス管理楽曲の利用を一般的に回避し、しかもその原因が被審人による本件行為にあるとの認識に基づくものであるが、現実には、放送事業者が一般的にイーライセンス管理楽曲の利用を回避したとはいえず、イーライセンス管理楽曲の利用について慎重な態度をとったことが認められるにとどまり、その主たる原因もイーライセンスによる準備不足の状態での参入とそれに伴う放送事業者の困惑、混乱等であったのであるから、被審人による本件行為にエイベックス・グループのイーライセンスへの管理委託契約を解約させる効果があったとまではいえない。さらに、④イーライセンスが放送等利用に係る管理事業を営むことが困難な状態になっているとまでいえるかにつき疑問が残る上、イーライセンスが管理事業を営むことが困難な状態になっているとしても、それは、放送事業者がイーライセンス管理楽曲の利用を一般的に回避し、その原因が本件行為にあるという認識に基づいて、著作権者がイーライセンスに音楽著作権の管理を委託しなかったためであるから、被審人による本件行為に、著作権者のイーライセンスへの管理委託を回避させるような効果があったとまではいえない。

前記①ないし④によれば、イーライセンスが放送等利用に係る管理事業を開始するに当たり、被審人の本件行為がイーライセンスの放送等利用に係る管理事業を困難にしたという審査官の主張について、これを認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。

また、イーライセンス以外の管理事業者が放送等利用に係る管理事業に新規に参入しない理由が本件行為にあると認めるに足りる証拠もない。

そして、ほかに、本件行為が競業者の放送等利用に係る管理事業への新規参入を著しく困難にすることを認めるに足りる主張立証はない。

以上によれば、本件行為は、放送事業者が被審人以外の管理事業者の管理楽曲を利用することを抑制する効果を有し、競業者の新規参入について消極的な要因となることは認められ、被審人が著作権等管理事業法の施行後も本件行為を継続したことにより、新規参入業者が現れなかったことが疑われるものの、本件行為が放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有するとまで断ずることは、なお困難である。

(イ) その余の争点について

前記のとおり、本件行為が他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有することを認めるに足りる証拠はないから、その余の点について判断するまでもなく、本件行為が独占禁止法第2条第5項所定のいわゆる排除型私的独占に該当し、同法第3条の規定に違反するということはできない。

(4) 法令の適用

独占禁止法第66条第3項

2  日新製鋼㈱に対する排除措置命令及び課徴金納付命令に係る審決(溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯の製造販売業者による価格カルテル)

(1) 被審人

(2) 事件の経過

本件は、平成21年8月27日、公正取引委員会が、日新製鋼㈱(以下(2)及び(3)において「被審人」という。)に対し、独占禁止法第7条第2項の規定に基づき排除措置命令を、同法第7条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ、被審人は、両命令に対して不服として審判請求を行ったので、被審人に対し、同法第52条第3項の規定に基づき審判手続を開始し、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録並びに被審人から提出された異議の申立書及び被審人から聴取した陳述に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人に対して審決案と同じ内容(審判請求を棄却する旨)の審決を行った。

(3) 判断の概要等

ア 原処分の原因となる事実

被審人は、他の事業者と共同して、特定カラー鋼板(注1)のうち建材製品向けに販売されるもののひも付き取引(注2)(以下「本件ひも付き取引」といい、これにより販売される特定カラー鋼板を「本件ひも付きカラー鋼板」という。)での販売価格を引き上げる旨を合意(注3)することにより、公共の利益に反して、我が国における本件ひも付きカラー鋼板の販売分野における競争を実質的に制限していた。

被審人の本件違反行為の実行期間は、独占禁止法第7条の2第1項の規定により、平成16年4月1日から平成18年9月6日までであり、独占禁止法第7条の2の規定により算出された課徴金の額は14億6062万円である。

(注1) 特定カラー鋼板とは、溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯のうち、質量分率で97パーセント以上の亜鉛から成るめっき浴において両面等厚の溶融亜鉛めっき(合金化めっきを除く。)を行った鋼板及び鋼帯に合成樹脂(ポリ塩化ビニルを除く。)を塗覆装したもの、質量分率で約5パーセントのアルミニウム及び残部亜鉛から成るめっき浴において溶融めっきを行った鋼板及び鋼帯に合成樹脂(ポリ塩化ビニルを除く。)を塗覆装したもの並びに質量分率で約55パーセントのアルミニウム、1.6パーセントのシリコン及び残部亜鉛から成るめっき浴において溶融めっきを行った鋼板及び鋼帯に合成樹脂(ポリ塩化ビニルを除く。)を塗覆装したものをいう。

(注2) 特定カラー鋼板を、需要者である建材製品製造業者が定めた仕様に基づき、直接又は販売業者を通じて、建材製品製造業者に対して販売する方法をいう。

(注3) 審決案第3の6(1)ないし(4)に記載の第1次合意ないし第4次合意をいう。以下イにおいて「本件合意」という。

イ 主要な争点及びそれに対する判断

(ア)  違反行為(独占禁止法第2条第6項の不当な取引制限)の存否

以下の各事情に照らせば、被審人は、主として日鉄鋼板㈱(平成18年12月1日付けで日鉄住金鋼板㈱に商号変更。以下「日鉄鋼板」という。)の担当者を通じて、本件合意の伝達を受け、本件合意に参加していたものと認められる。

a 被審人は、従前から、本件ひも付き取引を含む3分野で他社とカルテルを続けていたところ、平成15年のステンレス鋼板立入検査(公正取引委員会は、平成15年3月、被審人を含む高炉メーカーに対し、冷間圧延ステンレス鋼板等の価格カルテルの疑いで立入検査を行った。)を契機に、いずれの分野においても他社との会合に参加しなくなった。しかし、被審人は、本件ひも付き取引以外の2分野においては、会合には参加していないものの、他社から合意内容の伝達を受けるなどしてカルテルを継続していた。よって、被審人は、ステンレス鋼板の立入検査後も、カルテルを拒否する方針を徹底していなかったことがうかがわれ、本件ひも付きカラー鋼板についてもカルテルを継続していたことを推認させる事実があるといえる。

b 被審人は、他社との会合に出席しなくなったが、懇親会に参加したり、他社と個別に連絡して価格の情報交換をするなど、複数回にわたり他社と接触していた。

c 被審人の担当者が、他社に対して、会合に参加しなくても、合意内容の連絡を受ける意思がある旨発言していたこと、日鉄鋼板の担当者が、他社に対し、被審人に合意内容等を伝達する旨発言していたこと、日鉄鋼板の担当者が合意内容の一部を被審人に伝達したことを認める陳述書が存在することなどから、被審人は、主として日鉄鋼板の担当者を通じ、本件合意の伝達を受け、本件合意に参加していたものと認めることができる。

d 被審人における本件ひも付きカラー鋼板の値上げ状況は、被審人が本件合意に加わっていたことと矛盾するものとはいえず、被審人が主張するように、被審人が他の事業者の行動とは無関係に、独自の判断によって、本件ひも付きカラー鋼板の値上げ等を決定していたものと認めることはできない。

(イ) 独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」の該当性の有無

 被審人は、被審人と三和シヤッター工業㈱(以下「三和シヤッター」という。)との間の取引関係が密接で特殊であること、被審人において本件ひも付き取引の担当部門とは全く別の部門が三和シヤッターとの取引を担当しており、両部門間で頻繁に情報が交換されることはなかったこと、他社との競合性がないこと等を主張するが、これらの事情によって、被審人の三和シヤッター向け本件ひも付きカラー鋼板について、当該行為(本件合意)を行った事業者が明示的又は黙示的に当該行為の対象からあえて除外したこと、あるいは、これと同視し得る理由によって当該商品が当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとは認められず、独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品」に該当する。

(4) 法令の適用

独占禁止法第66条第2項

3  ㈱吉孝土建及び真成開発㈱に対する排除措置命令及び課徴金納付命令に係る審決(川崎市が発注する下水管きょ工事の入札談合事件)

(1) 被審人

(2) 事件の経過

本件は、平成22年4月9日、公正取引委員会が、前記の被審人ら(以下(2)及び(3)において「被審人ら」という。)に対して、独占禁止法第7条第2項の規定に基づき排除措置命令を、同法第7条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ、被審人らは、両命令に対して不服として審判請求を行ったので、被審人らに対し、同法第52条第3項の規定に基づき審判手続を開始し、審判官をして審判手続を行わせたものである。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録並びに被審人らから提出された異議の申立書及び被審人らから聴取した陳述に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人らに対して審決案と同じ内容(審判請求を棄却する旨)の審決を行った。

(3)  判断の概要等

ア 原処分の原因となる事実

被審人らを含む川崎市内の建設業者24社(以下「24社」という。)は、遅くとも平成20年3月12日以降、川崎市が一般競争入札の方法により発注する特定下水管きょ工事(注)(以下「川崎市発注の特定下水管きょ工事」という。)について、共同して受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにすることにより(以下、においてこの合意を「本件基本合意」という。)、公共の利益に反して、当該工事の取引分野における競争を実質的に制限していた。

被審人らの本件違反行為の実行期間は、独占禁止法第7条の2第1項の規定により、被審人㈱吉孝土建(以下「被審人吉孝土建」という。)については平成20年7月8日から平成21年3月31日まで、被審人真成開発㈱(以下「被審人真成開発」という。)については平成20年3月19日から平成21年3月31日までであり、独占禁止法第7条の2の規定により算出された課徴金の額は、被審人吉孝土建が471万円、被審人真成開発が346万円である。

(注) 川崎市内に本店を置き、かつ、川崎市から下水管きょ工事についてAの等級に格付されている者又はこれらの者を代表者とする特定建設工事共同企業体のみを入札参加者とする下水管きょ工事をいう。

イ 主要な争点及びそれに対する判断

(ア) 本件基本合意の存否及び被審人らの本件基本合意への参加の有無

 ①24社のうち、被審人らを除く建設業者の従業員の多数が、24社の間に基本合意が存在し、基本合意の下で受注調整を行っていたことを自認する旨の供述をし、本件排除措置命令を受けた23社のうち、被審人らを除く21社は、審判請求をしていないこと、②Aランクの市内業者は、平成17年6月から平成20年2月まで、川崎市発注の特定下水管きょ工事について、受注調整を機能させるための会合を開催し、被審人らもそれらの会合に出席していたこと、③24社は、本件違反行為期間中、本件基本合意の内容に沿った方法で受注調整を行い、川崎市発注の特定下水管きょ工事42件のうち28件を受注したことを総合すれば、24社は、遅くとも平成20年3月12日以降、川崎市発注の特定下水管きょ工事について、本件基本合意をし、本件基本合意の下で、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていたことが認められる。

(イ) 本件基本合意による競争の実質的制限の有無

独占禁止法第2条第6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは、当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい、本件のような一定の入札市場における受注調整の基本的な方法や手順等を取り決める行為によって競争制限が行われる場合には、当該取決めによって、その当事者である事業者らがその意思で当該入札市場における落札者及び落札価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうものと解される。

24社は、本件違反行為期間中Aランクの市内業者であった31社の77.4パーセントを占めていたこと、本件基本合意に基づいて川崎市発注の特定下水管きょ工事42件のうち28件(66.7パーセント)について受注調整を行い、受注予定者とされた者がこれらを受注したこと、当該28件の入札参加者のほとんどは24社の一部であり、それ以外の事業者はごく僅かであったこと、また、当該28件の平均落札率は98.0パーセントと極めて高く、当該28件の落札価格の総額は38億8735万円であり、これは、前記42件のうち不調となった工事を除く41件の落札価格の総額の65.0パーセントであったことからすれば、本件基本合意は、24社が川崎市発注の特定下水管きょ工事の取引分野において、受注予定者及び受注価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらしていたということができる。そうすると、本件基本合意は、競争の実質的制限の要件を充足するものといえる。

(ウ) 本件違反行為の始期及び終期

a 本件違反行為の始期について、遅くとも平成20年3月12日までには本件基本合意が成立したことが認められる。

b 本件違反行為の終期について、24社は、低価格で入札を行う者であると認識されていた市内業者が、平成21年度から新たに入札に参加することとなったこと等を理由に、平成21年4月1日以降、本件違反行為を取りやめていると認められる。

c 前記a及びbによれば、本件違反行為の期間は、平成20年3月12日から平成21年3月31日までであり、被審人らが受注した工事(各々1件ずつ)はいずれも本件違反行為期間中に発注されたものと認められる。

(エ) 被審人らが受注した物件の「当該役務」該当性

a 本件基本合意は、独占禁止法第7条の2第1項所定の「役務の対価に係るもの」に当たるものであるところ、同項所定の課徴金の対象となる「当該……役務」とは、本件においては、本件基本合意の対象とされた工事であって、本件基本合意に基づく受注調整等の結果、具体的な競争制限効果が発生するに至ったものである。

b 被審人らの課徴金対象物件は、本件基本合意に基づく個別の受注調整の結果、受注予定者とされた被審人吉孝土建又は被審人真成開発をそれぞれ構成員とする特定建設工事共同企業体(以下において「JV」という。)が受注したものであり、当該物件について個別の受注調整の結果として具体的な競争制限効果が生じたことは明らかである。したがって、当該物件は、課徴金の対象となり、被審人らは、直接受注調整を行わなかったとしても、課徴金の納付義務を負う。

(オ) JV の構成員として受注した被審人吉孝土建の売上額

a 共同企業体方式によって請負契約が締結された場合に課徴金を算定するに当たっては、請負代金全体をJV 比率で 按 分した額ないしは共同企業体内部で取りあん決めた各構成員の請負代金取得額をもって、独占禁止法施行令第6条第1項所定の「契約により定められた対価」とすべきである。

b 被審人吉孝土建の課徴金対象物件は、被審人吉孝土建を構成員とするJV が受注したものであるが、当該JV を組むに当たり、被審人吉孝土建の出資割合を30パーセントと定めており、出資割合に応じて請負代金を取得する旨合意したものと認めることができ、当該物件に係る「契約により定められた対価」は、当該物件の請負代金4億9140万円をJV 比率30パーセントで按分した額ないし被審人吉孝土建の請負代金取得額であるから、1億4742万円となる。

c 被審人吉孝土建は、当該JV の他の構成員との間で、当該物件について、他の構成員が全ての工事を行い、請負代金を全額取得し、経費も全額負担するという内容の共同企業体内部の取決めをしたと主張するが、これを裏付ける証拠はない。

(4) 法令の適用

独占禁止法第66条第2項

4  愛知電線㈱に対する課徴金納付命令に係る審決(VVF ケーブルの製造業者及び販売業者による価格カルテル)

(1) 被審人

(2) 事件の経過

本件は、平成23年7月22日、公正取引委員会が、愛知電線㈱(以下(2)及び(3)において「被審人」という。)に対し、独占禁止法第7条第2項の規定に基づき排除措置命令を、同法第7条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ、被審人は、両命令に対して不服として審判請求を行ったので、被審人に対し、同法第52条第3項の規定に基づき審判手続を開始し、審判官をして審判手続を行わせたものである(注1)。

公正取引委員会は、担当審判官から提出された事件記録並びに被審人から提出された異議の申立書及び被審人から聴取した陳述に基づいて、同審判官から提出された審決案を調査の上、被審人に対して審決案と同じ内容(審判請求を棄却する旨)の審決を行った。

(注1) 被審人から、本件排除措置命令に対する審判請求について、平成24年2月28日、審判請求の取下げがあり、この取下げにより、被審人に対する同命令は確定している。

(3)  判断の概要等

ア 原処分の原因となる事実

被審人は、他の事業者と共同して、販売業者に対して販売されるVVF ケーブル(注2)(以下「特定VVF ケーブル」という。)の販売価格を決定していく旨を合意することにより(以下(3)において、この合意を「本件合意」という。)、公共の利益に反して、我が国における特定VVF ケーブルの販売分野における競争を実質的に制限していた。

被審人の本件違反行為の実行期間は、独占禁止法第7条の2第1項の規定により、平成18年12月17日から平成21年12月16日までの3年間であり、独占禁止法第7条の2の規定により算出された課徴金の額は3億2696万円である。

(注2) 「VVF ケーブル」とは、600ボルトビニル絶縁ビニルシースケーブル平形のうち、次に掲げる品目をいう。VVF ケーブルは、主にビル、家屋等の建物に設置されるブレーカーから建物内部のコンセント等までの屋内配線として使用されるものである。

    1 線心数が2本で導体径が1.6ミリメートルのもの 5 線心数が3本で導体径が2.0ミリメートルのもの

    2 線心数が2本で導体径が2.0ミリメートルのもの 6 線心数が3本で導体径が2.6ミリメートルのもの

    3 線心数が2本で導体径が2.6ミリメートルのもの 7 線心数が4本で導体径が1.6ミリメートルのもの

    4 線心数が3本で導体径が1.6ミリメートルのもの 8 線心数が4本で導体径が2.0ミリメートルのもの

イ 本件において前提となる事実

(ア) 公正取引委員会は、平成21年12月17日、矢崎総業㈱(以下「矢崎総業」という。)ら4社の営業所等に立入検査を行った(以下「一次立入検査」という。)。

一次立入検査の際に審査官が各事業者に交付した「被疑事実等の告知書」には、「法の規定に違反する被疑事実の要旨」として「建設・電販向け電線・ケーブルの製造販売業者らは、共同して、電線・ケーブルの販売価格の引上げ又は維持を行っている疑いがある。」等と記載されていた。

(イ) 公正取引委員会は、平成22年4月13日、被審人ら7社の営業所等に立入検査を行った(以下「二次立入検査」という。)。

二次立入検査の際に審査官が各事業者に交付した「被疑事実等の告知書」の記載は、一次立入検査の際に交付された「被疑事実等の告知書」と同一の内容であった(以下、両立入検査において交付された「被疑事実等の告知書」を「本件告知書」といい、そこに記載された「法の規定に違反する被疑事実の要旨」を「本件被疑事実」という。)。

(ウ) 被審人の代表者は、二次立入検査の当日に、課徴金減免申請を行うために、公正取引委員会の課徴金減免管理官に対して電話で事前相談を行った。それに対して、公正取引委員会の担当職員は、20日間の期限を既に経過しているとして、申請は受け付けられない旨の回答を行った。

被審人の代表者は、立入検査の当日に事前相談を行ったにもかかわらず20日間の期限を過ぎているとの回答に疑問を抱いたものの、課徴金減免申請を行わなかった。

(エ) 公正取引委員会は、平成22年11月18日、電気工事業者又は販売業者に対して販売される3品種の電線の製造業者及び販売業者に対し、排除措置命令及び課徴金納付命令を行った。

これらの命令において違反行為者として特定された事業者の中には、一次立入検査を受けた矢崎総業ら4社はいずれも含まれていたが、二次立入検査を受けた被審人ら7社はいずれも含まれていなかった。

(オ) 公正取引委員会は、平成23年7月22日、本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令を行った。

本件排除措置命令等において違反行為者として特定された事業者は、一次立入検査を受けた矢崎総業ら4社と二次立入検査を受けた被審人ら7社を合わせた11社であった。

ウ 主要な争点及びそれに対する判断

(ア) 被審人の課徴金減免申請に係る事前相談に対し、期限を経過しているとしてこれを不可とした公正取引委員会の対応は、違法・不当なものであり、適正手続の保障を定めた憲法第31条に違反するか。

a 被審人は、本件告知書の本件被疑事実等の記載が抽象的であり、特定VVF ケーブルの取引を対象としたものかどうかが明確ではないから、本件告知書に基づいて行われた一次立入検査及び二次立入検査は、いずれも課徴金減免申請の認められる期間の起算日としての立入検査にはなり得ないと主張する。

しかし、特定VVF ケーブルが「電線・ケーブル」に含まれることは文言上明らかであるし、証拠によれば、被審人が「建設・電販向け電線・ケーブルの製造販売業者ら」に該当することも容易に認められるから、「電線・ケーブル」と記載されている本件被疑事実が特定VVF ケーブルについてのカルテルである本件違反行為を含むこともまた明らかである。

そして、証拠によれば、一次立入検査の際に矢崎総業ら4社から留置された留置物及び二次立入検査の際に被審人から留置された留置物の双方の中に本件合意に関する文書が含まれていたことが認められ、一次立入検査を受けた矢崎総業ら4社と二次立入検査を受けた被審人ら7社は、いずれも本件排除措置命令において本件合意の当事者とされているから、一次立入検査と二次立入検査は、いずれも、本件違反行為について実施されたものであることが認められる。

前記のとおり、一次立入検査は本件違反行為についての調査であるといえるから、一次立入検査の日が「当該違反行為に係る事件についての調査開始日」(独占禁止法第7条の2第12項)に該当する。そして、「電線・ケーブル」と記載されている本件被疑事実が特定VVF ケーブルについてのカルテルである本件違反行為を含むことは明らかであるから、被審人の主張は理由がない。

b 被審人は、一次立入検査は、建設用電線のうち3品種の取引について行われたものであって、特定VVF ケーブルの取引を対象としたものではなく、したがって、一次立入検査をもって本件違反行為についての調査ということはできないと主張する。

しかし、前記aのとおり、本件被疑事実は、特定VVF ケーブルについてのカルテルである本件違反行為を含むものであり、一次立入検査は本件違反行為及び3品種についてのカルテルの双方について実施されたということができる。

c 以上によれば、本件における「調査開始日」は、一次立入検査が行われた平成21年12月17日と認められる。そうすると、二次立入検査が行われた平成22年4月13日の被審人代表者による課徴金減免申請に係る事前相談に対して、調査開始日から既に20日間を経過していることを理由に本件に係る課徴金減免申請を受け付けられないとした公正取引委員会の担当職員の対応に何ら違法・不当な点はないから、それが適正手続の保障を定めた憲法第31条に違反するとの被審人の主張は失当である。

(イ) 被審人の課徴金減免申請に係る事前相談に対し、期限を経過しているとしてこれを不可とした公正取引委員会の対応は、違法・不当なものであり、それにより課徴金減免申請の機会を逸した被審人には、実質的にみて、独占禁止法第7条の2第12項に基づく課徴金減免申請の効果が認められるべきか。

被審人は、公正取引委員会の担当職員の違法・不当な対応により課徴金減免申請の機会を逸した被審人には、実質的にみて、課徴金減免申請の効果が認められるべきであると主張するが、前記cのとおり、当委員会の担当職員の対応に何ら違法・不当な点はないから、この点を理由に課徴金減免申請の効果が認められるべきであるとする被審人の主張は理由がない。

なお、被審人は、課徴金減免申請に係る事前相談に対する公正取引委員会の担当職員の対応を受けて、課徴金減免申請を行わなかったのであるから、独占禁止法第7条の2第12項を適用する余地はない。

(4) 法令の適用

独占禁止法第66条第2項