第2部 各論

第5章 訴訟

第1 審決取消請求訴訟

1 概説

平成24年度当初において係属中の審決取消請求訴訟は14件であったところ、平成24年度中に新たに5件の審決取消請求訴訟が提起された。これら平成24年度の係属事件19件のうち、最高裁判所が上告棄却及び上告不受理決定をしたことにより終了したものが1件、東京高等裁判所が請求を棄却し上訴期間の経過をもって確定したものが3件あった。この結果、平成24年度末時点において係属中の審決取消請求訴訟は15件となった。

なお、平成24年度中に東京高等裁判所が原告の請求を棄却する判決を言い渡した後、原審原告が上告及び上告受理申立てを行ったものが2件ある。

表 平成24年度に係属していた審決取消請求訴訟

2 東京高等裁判所における判決

(1) 昭和シェル石油㈱による審決取消請求事件(平成23年(行ケ)第7号)(前記表一連番号10) 

ア 主な争点及び判決の概要

(ア) 海上自衛隊硫黄島基地に係る物件及び航空自衛隊春日基地に係る物件(以下、両物件を併せて、「硫黄島物件等」という。)は、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品又は役務」であり、課徴金の算定の基礎となる売上額の対象に含めるべきか

原告は、硫黄島物件等は、基本合意による競争制限効果が及んでいないから、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品又は役務」ではなく、課徴金の対象とすることは許されない旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品又は役務」とは、本件のような入札談合行為については、入札談合行為が基本合意と個別調整行為の2段階になることから、基本合意の対象となっているだけでは足りず、法違反の事業者が基本合意に基づいて、個別調整行為によって、受注予定者として決定され、そのとおり受注するなど、受注調整手続に上程されることによって具体的に競争制限効果が発生するに至った商品又は役務と解すべきであるところ、本件審決が認定した合意(以下アにおいて「本件合意」という。)は、各社の安定した受注量及び利益を確保するため、発注ごとの各社の防衛庁調達実施本部(当時)が発注した石油製品(以下「本件石油製品」という。)における油種ごとの受注数量の割合が、前年度の各社の本件石油製品における油種ごとの受注実績の割合に見合うものとなるように物件ごとの受注予定者を決定し、受注予定者以外の指名業者は受注予定者が受注することができるよう協力するという合意であるから、同法第3条の規定する「不当な取引制限」に当たる基本合意ということができるし、同合意に基づいて、発注の都度、配分会議という個別調整行為が行われ、硫黄島物件等を含めて、受注予定者が決定され、実際に同決定に従って原告が受注していたのであるから、硫黄島物件等についても、競争制限効果が発生していたものと認めることができ、したがって、硫黄島物件等も、同法第7条の2第1項の「当該商品又は役務」であって、課徴金の算定の基礎となる売上額の対象に含めるべきである旨判示している。

(イ) 原告の売上額のうち、西部石油㈱から購入した製品に係るものは、「卸売業による売上げ」として課徴金算定率100分の1を適用すべきか

原告は、課徴金額の算定については、原告が西部石油㈱から購入した「ひとまとまり」の製品に係る売上げについて、「卸売業による売上げ」として課徴金算定率100分の1を適用すべきであるから、油種ごとの違反行為ごとに売上額を区分し、違反行為ごとに実行期間における違反行為に係る取引において過半を占めていたと認められる事業に基づいて業種を認定し、課徴金を算定した本件審決は違法である旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、平成17年独占禁止法改正法による改正前の第7条の2第1項の「当該商品又は役務」は基本合意の対象となった商品又は役務を指すところ、本件合意の内容は、本件石油製品における油種ごとの受注数量の割合が、前年度の各社における油種ごとの受注実績の割合に見合うよう、物件ごとの受注予定者を決めるものであり、それに従って油種ごとの受注予定者を決めて、本件石油製品の油種ごとの取引分野における競争を実質的に制限していたものであるから、「当該商品又は役務」に当たるものは、3年間の本件石油製品における油種ごとの製品となるとした上で、課徴金算定率について、同法第7条の2第1項及び平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法施行令(第5条第1項前段及び第6条第1項)は、実行期間における違反行為の対象商品又は役務の売上額に1つの課徴金算定率を乗じることを予定しており、違反行為に係る取引について、卸売業又は小売業に認定されるべき事業活動とそれ以外の事業活動の双方が行われている場合に1つの算定率が用いられるべきであることからすれば、当該事業活動全体で、どの業種の事業活動の性格が強いかにより、業種の認定をせざるを得ず、そうすると、実行期間における違反行為に係る取引において、過半を占めていたと認められる事業活動に基づいて業種を決定するのが相当であり、これを前提として本件の課徴金の額を算定すると、西部石油㈱から購入した製品に係る売上額が過半を占めていたのは軽油のみであるから、課徴金算定率は、軽油についてのみ100分の1が適用され、その他の油種についてはいずれも100分の6が適用される旨判示している。

イ 訴訟手続の経過

 本件判決は、上訴期間の経過をもって確定した。

(2) ケイラインロジスティックス㈱による審決取消請求事件(平成23年(行ケ)第24号)
(前記表一連番号13)

ア 主な争点及び判決の概要

(ア) 国際航空貨物利用運送事業を営む者(以下アにおいて「本件事業者」という。)である原告が他の本件事業者11社と本件審決が認定した燃油サーチャージについての合意(以下アにおいて「本件荷主向け燃油サーチャージ合意」という。)をしたことについて、これを立証する実質的な証拠があるか

原告は、本件審決が本件荷主向け燃油サーチャージ合意を認定したことについて、これを立証する実質的な証拠がない旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、本件審決が挙示する証拠及びこれらの証拠から認定することが合理的であるといえる本件審決の認定に係る事実経過から考えれば、平成14年9月18日に開催された国際部会役員会(以下「14.9役員会」という。)において、原告を含む本件事業者12社(以下アにおいて「12社」という。)の間で、本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立したとする本件審決の認定判断は合理的であって、本件審決の当該認定を立証する実質的な証拠があるといえる旨判示している。

(イ) 本件審決が、本件荷主向け燃油サーチャージ合意の成立を裏付けるものとして挙げる事情は、この合意の成立を推認させるものか

原告は、①本件事業者のうち本件荷主向け燃油サーチャージ合意に参加しなかったとされる他の29社(以下アにおいて「29社」という。)も、当該合意に参加した、原告を含む本件事業者14社(以下アにおいて「14社」という。)のうちDHL グローバルフォワーディングジャパン㈱を除く13社とほぼ同時期に同内容の荷主に対する請求を始めていることから、14社の請求内容等が同様であったことが特段の意味をもつとは解されない、②平成14年10月16日以降の荷主向け燃油サーチャージの荷主への請求は、14社が、本件荷主向け燃油サーチャージ合意がされたとされる14.9役員会の前に14社以外の本件事業者とともに国土交通省に届け出ていた請求内容と同じであって、航空会社が一旦停止していた燃油サーチャージの請求を再開したため、14社及びその他の本件事業者は同日以降同内容の請求を再開したのであるから、同役員会後の14社の行動が一致しているからといって、これによって本件荷主向け燃油サーチャージ合意が推認されるわけではない、③平成14年11月から平成19年11月までの間において、14社は、荷主の強硬な姿勢による取引の打切りを恐れて荷主向け燃油サーチャージの一部しか収受できなかったのであって、これは競争のための値引きにほかならないとして、本件審決が、本件荷主向け燃油サーチャージ合意の成立を裏付けるものとして挙げる事情は、この合意の成立を推認させるものではない旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、以下のとおり判示した。

①29社においても14社と同じく航空会社からの燃油サーチャージの請求に伴い、これを荷主に転嫁しようとして荷主への請求を開始したこと自体は何ら不自然なことではなく、29社は、14社のように請求内容等に係る合意をし、この合意に基づいて請求したというわけではないというにすぎないのであって、29社に荷主向け燃油サーチャージの請求の事実があるとしても、そのことにより本件荷主向け燃油サーチャージ合意に係る本件審決の事実認定が合理的でないとまでいうことはできず、②14社は、従前の個別の請求では荷主からの収受が困難であることにかんがみて、本件荷主向け燃油サーチャージ合意をしたというのであり、従前から国土交通省に請求内容を届け出たからといって、14社の間で意思疎通がないにもかかわらず、14社の行動が一致するとは考え難い、③14社が本件荷主向け燃油サーチャージ合意に基づき荷主に対して荷主向け燃油サーチャージを請求しても、荷主によってはこれに強硬に抵抗したために、結果としてその一部しか収受できなかった場合があるというにすぎない。

(ウ) 本件審決が認定したセキュリティーチャージ及び爆発物検査料についての合意(以下アにおいて「本件セキュリティーチャージ等合意」という。)のうち、原告による爆発物検査料の設定に関し、原告が平成18年2月20日に開催された国際部会役員会(以下「18.2役員会」という。)において合意をしたことについて、これを立証する実質的な証拠はあるか、また、原告が他の事業者の行動と無関係に独自の判断によってこれを行ったことを示す特段の事情があるか

原告は、18.2役員会において爆発物検査料の設定の合意をしたことについて、これを立証する実質的な証拠はなく、他の事業者の行動と無関係に独自の判断によって爆発物検査料を設定したことを示す特段の事情が認められるから、原告は他の事業者と「共同」して爆発物検査料を設定していない旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、本件審決が挙示する証拠及びこれらの証拠から認定することが合理的であるといえる本件審決の認定に係る事実経過から考えれば、原告を含む本件事業者13社の間で、爆発物検査料を含む本件セキュリティーチャージ等合意がされたとの本件審決の認定判断は合理的であって、本件審決の当該認定を立証する実質的な証拠があるといえ、また、原告が本件セキュリティーチャージ等合意に基づき爆発物検査料を設定したことを推認させる事実及び事実経過からすれば、同人が他の事業者の行動と無関係に独自の判断で爆発物検査料を設定したと認めることはできない旨判示している。

(エ) 本件荷主向け燃油サーチャージ合意について、他の事業者の行動と無関係に独自の判断によって荷主に対する請求が行われたことを示す特段の事情があるか

原告は、本件荷主向け燃油サーチャージ合意について、14社は各社独自の判断で荷主向け燃油サーチャージの請求及び収受をしていたのであり、他の事業者の行動と無関係に独自の判断によって行われたことを示す特段の事情が認められるから、原告は他の事業者と「共同」して合意をしていない旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、14社は、本件荷主向け燃油サーチャージ合意をし、これに基づいて荷主に対する荷主向け燃油サーチャージの請求をし、その後も引き続き荷主向け燃油サーチャージの収受に向けて協調行動を取っていたというのであって、14社が独自の判断によって荷主に対する請求をしたことを示す特段の事情は認められない旨判示している。

(オ) 本件荷主向け燃油サーチャージ合意は、「対価」(独占禁止法第2条第6項)の決定に当たるか

原告は、本件荷主向け燃油サーチャージ合意が独占禁止法第2条第6項に規定する「対価」の決定に当たるとする本件審決の判断は誤りである旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、本件事業者は、荷主から国際航空貨物利用運送事業(以下「本件業務」という。)を委託され、その対価として運賃及び料金を請求し収受するのであって、荷主向け燃油サーチャージは、この対価に含まれるものと解されるから、本件荷主向け燃油サーチャージ合意が同項に規定する「対価」の決定に当たることは明らかである旨判示している。

(カ) 本件荷主向け燃油サーチャージ合意は、「相互にその事業活動を拘束」(独占禁止法第2条第6項)するものか

原告は、本件荷主向け燃油サーチャージ合意が「相互にその事業活動を拘束」するものとする本件審決の判断は誤りである旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、12社(後日、日本通運㈱及びDHL グローバルフォワーディングジャパン㈱も参加)は、14.9役員会において、航空会社から請求される額に相当する額の荷主向け燃油サーチャージを荷主に対して請求すること、荷主向け燃油サーチャージを値引き等するなどしてこれを競争の手段として用いないことを合意し(本件荷主向け燃油サーチャージ合意)、その後も引き続き荷主向け燃油サーチャージの収受に向けて協調行動を取っていたというのであるから、本件荷主向け燃油サーチャージ合意が同項に規定する「相互にその事業活動を拘束」するものであることは明らかである旨判示している。

(キ) 本件荷主向け燃油サーチャージ合意、本件審決が認定したAMS チャージについての合意及び本件セキュリティーチャージ等合意(以下アにおいて、これらの合意を総称する場合には「本件合意」という。)が、本件業務の取引分野における競争を実質的に制限することについて、これを立証する実質的証拠はあるか、また、本件合意は、本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するか 

原告は、本件合意が本件業務の取引分野における競争を実質的に制限することについて、本件審決の認定はこれを立証する実質的証拠がなく、本件審決の判断は誤りである旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、本件審決における認定及び推認は合理的であるとした上で、本件合意に参加した14社(平成16年以降はエアボーンエクスプレス㈱を除く13社)の本件事業における市場占有率が7割を超えていることや、本件合意の対象となった荷主向け燃油サーチャージ、AMS チャージ、セキュリティーチャージ及び爆発物検査料の本件業務の運賃及び料金に占める割合が12%程度に達していることを考え併せると、本件合意は、本件業務の取引分野における競争を実質的に制限する不当な取引制限に当たると認めるのが相当である旨判示している。

(ク) 本件排除措置命令の必要性について、これを立証する実質的な証拠があるか、また、本件排除措置命令について、裁量権の逸脱又は濫用があるか

原告は、本件排除措置命令の必要性についてこれを立証する実質的証拠はなく、また、原告において本件合意を繰り返すおそれはなく、同合意は拘束力の極めて弱いものであることなどから本件合意の結果が残存しているとはいえないにもかかわらず、更なる排除措置命令を命じた本件排除措置命令は、裁量権の逸脱又は濫用によるもので違法である旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、本件排除措置命令の必要性に関する本件審決の認定判断は合理的であり、また、独占禁止法第7条第2項所定の「特に必要があると認めるとき」の要件に該当するか否かの判断については、我が国における独占禁止法の運用機関として競争政策について専門的な知見を有する被告の専門的な裁量が認められるものというべきであるところ、本件が当該要件に該当するとした本件審決の判断が合理性を欠くものであるということはできず、裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものということはできない旨判示している。

(ケ) 本件合意(あるいは本件荷主向け燃油サーチャージ合意)は、本件業務の「対価」(独占禁止法第7条の2第1項)に係るものに当たるか

原告は、燃油サーチャージは立替金の性質を有するなどとして、本件合意のうち、本件荷主向け燃油サーチャージ合意は、本件業務の「対価」に係るものに当たらない旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、本件事業者は、荷主から本件業務を委託され、その対価として運賃及び料金を請求し収受するのであって、荷主向け燃油サーチャージは、この対価に含まれるものと解され、荷主に対して請求するAMSチャージ、セキュリティーチャージ及び爆発物検査料も、同じく本件業務の対価として運賃及び料金に含まれるのであるから、本件合意が同項に規定する「対価」の決定に当たることは明らかである旨判示している。

(コ) 本件業務は、「小売業」(独占禁止法第7条の2第1項)に当たるか

原告は、本件業務の利益率が運輸業のそれと大きく異なっていることやその実態から、本件業務は「小売業」に当たるものであり、本件業務は「小売業」に当たらないとした本件審決の判断は誤りである旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、独占禁止法第7条の2第1項は、小売業及び卸売業については課徴金の額の算定において軽減された算定率を用いることとされているところ、本件業務は、有償で航空会社の行う運送を利用して行う輸出に係る貨物の運送等の役務を荷主に提供するものであって、他から購入した商品を販売するという小売業に当たらないから、本件業務は同項に規定する「小売業」に当たらない旨判示している。

イ 訴訟手続の経過

本件判決は、上訴期間の経過をもって確定した。

(3) 郵船ロジスティクス㈱による審決取消請求事件(平成23年(行ケ)第16号)(前記表一連番号12)

ア 主な争点及び判決の概要

(ア) 本件審決が認定した燃油サーチャージについての合意(以下アにおいて「本件燃油サーチャージ合意」という。)、AMS チャージについての合意(以下アにおいて「本件AMS チャージ合意」という。)及びセキュリティーチャージ及び爆発物検査料についての合意(以下アにおいて「本件セキュリティーチャージ等合意」という。)(以下アにおいて、これらの合意を総称する場合には「本件合意」という。)は、請求合意に止まらず、価格合意をも含むか、また、本件合意の内容について実質的証拠があるか

原告は、本件審決は、本件合意が価格合意と請求合意とにより構成されるとするが、原告を含む国際航空貨物利用運送事業を営む者(以下アにおいて「本件事業者」という。)14社(以下アにおいて「14社」という。)のうち日本通運㈱及びDHL グローバルフォワーディングジャパン㈱を除く12社(以下アにおいて「12社」という。)間に価格合意が成立したことについて実質的証拠に基づいて認定していない、また、本件事業者であるユナイテッド航空貨物㈱が本件燃油サーチャージ合意に参加したとの認定について実質的証拠に基づいていないと主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、以下のとおり判示した。

まず、本件燃油サーチャージ合意について、前提となる事実及び本件審決に挙げられた証拠によれば、平成14年9月18日に開催された国際部会役員会において、12社間に本件燃油サーチャージ合意が成立し、日本通運㈱及びDHL グローバルフォワーディングジャパン㈱も遅くとも同年11月8日に開催された社団法人航空貨物運送協会の理事会の会合までにはこの合意に参加したものとする本件審決の認定判断は合理的なものであり、ユナイテッド航空貨物㈱が本件燃油サーチャージ合意に加わったとする本件審決の認定判断も合理的であるから、原告を含む本件事業者14社の間で、本件燃油サーチャージ合意が成立したとする本件審決の認定判断には実質的証拠がある。

なお、原告の主張が本件燃油サーチャージ合意は請求合意だけを内容としているとの前提に立っている点について、当該合意の内容は単に荷主に燃油サーチャージの負担を求めるというに止まらず、荷主に負担を求める燃油サーチャージの額を航空会社から燃油サーチャージとして請求される金額と同額とする合意を含んでいるとする本件審決の認定判断は合理的である。

次に、本件AMS チャージ合意について、前提となる事実及び本件審決に挙げられた証拠によれば、平成16年11月22日に開催された国際部会役員会において、14社のうちエアボーンエクスプレス㈱を除く13社(以下アにおいて「13社」という。)間に本件AMS チャージ合意が成立したとする本件審決の認定は合理的なものであり、実質的証拠もあると解するのが相当である。

最後に、本件セキュリティーチャージ等合意について、前提となる事実及び本件審決に挙げられた証拠によれば、平成18年2月20日に開催された国際部会役員会において、13社間に本件セキュリティーチャージ等合意が成立したとする本件審決の認定は合理的なものであり、実質的証拠もあると解するのが相当である。

(イ) 審査官による主張の変更手続がないまま本件合意に価格合意が含まれると認定したことは適法か

原告は、本件排除措置命令の主文には、本件燃油サーチャージ合意として請求合意だけが挙げられており、価格合意は記載されていないから、審判の対象とされていなかったにもかかわらず、本件燃油サーチャージ合意に価格合意も含まれると認定判断した本件審決は違法であり、本件燃油サーチャージ合意以外のその余の本件合意についても同様の理由で違法である旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、以下のとおり判示した。本件排除措置命令の主文の記載自体及び同命令の理由から、その内容は、「国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金について、……利用する航空会社から燃油サーチャージの請求を受けることとなるときは、当該航空会社から請求を受ける燃油サーチャージの額に相当する額を、荷主に対する燃油サーチャージとして荷主に対し新たに請求する」というものであることが明らかである。そして、14社が荷主に燃油サーチャージを請求するに当たっては、請求する金額を決定していることが当然の前提となるものというべきであり、14社が荷主に請求する燃油サーチャージの額は、航空会社から請求される燃油サーチャージの額に相当する額であるというのであるから、ここにいう「当該航空会社から請求を受ける燃油サーチャージの額に相当する額を、荷主に対する燃油サーチャージとして荷主に対し新たに請求する」とは、航空会社から燃油サーチャージとして請求を受けることになる金額に相当する額を荷主向け燃油サーチャージの額として決定した上で、荷主に同額の負担を求めることと解することになるのは明らかというべきである。また、本件燃油サーチャージ合意以外のその余の本件合意についても以上と同様に解するのが相当である。したがって、本件審決が認定した違反行為に係る本件合意は、本件合意の対象となった荷主向け燃油サーチャージ、AMS チャージ、セキュリティーチャージ及び爆発物検査料(以下「本件4料金」という。)のそれぞれについて金額を決定した「価格の決定カルテル」であり、独占禁止法第2条第6項所定の「対価を決定する」ものに該当すると判断するのが相当である。

(ウ)  本件合意による競争の実質的制限の存否について実質的証拠はあるか

原告は、一定の取引分野における競争を実質的に制限すると認めるためには違反行為者の市場占有率が少なくとも50%を超えることを要するところ、本件審決は、本件合意による競争の実質的制限の存否についての実質的証拠を欠いている旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、14社(平成16年以降は13社)の国際航空貨物利用運送事業(以下アにおいて「本件業務」という。)における貨物量の合計は、平成13年から平成20年までの我が国における本件業務における総貨物量の72.5%ないし75.0%を占めていたことからすると、このような市場占有率を有する14社によって、本件業務に関する不当な取引制限に当たる合意が成立すれば、本件業務の取引分野における競争を実質的に制限する結果となることは明らかというべきである旨判示した。

(エ)  本件合意は「不当な取引制限」に当たるか、また、燃油サーチャージは本件業務に対する対価(運賃等)の一部として本体運賃等と渾然一体となっているか

原告は、本件合意は、価格カルテルの実施行為である請求行為についての合意にとどまり、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、又は引き上げる行為には当たらないから、本件合意に課徴金を課すことは許されず、また、燃油サーチャージは、航空運賃(以下アにおいて「本体運賃」という。)とは別個の費目で勘定処理されているものの、本体運賃と燃油サーチャージとの各々に対応する固有の役務というものは存在しないのであり、これらに係る費用が渾然一体となって航空運送役務の対価を構成しているのであるから、燃油サーチャージに対応する部分の額だけを対価とする役務はない旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、本件4料金は、本件業務という役務の対価である運賃等の一部であるところ、これについての本件合意は、本件事業者である14社(又は13社)が共同して対価を決定したものであり、独占禁止法第2条第6項の「不当な取引制限」に当たることは明らかというべきであり、燃油サーチャージは、本件事業者が荷主から委託を受けた本件業務の対価として本体運賃とともに徴収されるものであるから、本件燃油サーチャージ合意が、同法第7条の2第1項第1号の「役務の対価に係る」ものであることは明らかであるとした上で、本件燃油サーチャージ合意は14社が本件業務の対価である運賃等のうちの燃油サーチャージだけを対象として合意を成立させたものであるから、当該運賃等のうち燃油サーチャージだけを区別することは可能である旨判示した。

(オ) 本件業務は小売業に当たるか

原告は、原告を含む本件事業者は自ら国際航空運送役務を創造するものではなく、航空会社が創造する運送役務を購入して需要者に提供し、マージンを得ているにすぎないから、その実質は小売業に当たり、本件業務を「小売業」に当たらないとした本件審決の判断は誤りである旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、原告を含む本件事業者が行う本件業務は運輸業に分類されるものと解するのが相当であり、原告の行う本件業務は、航空会社の運送を利用して輸出に必要な検査等の手続を行うことも含めて荷主の貨物を運送するという役務を提供することを内容としており、航空会社から一定の容量ないし重量の貨物を運送する役務を買い入れ、同一性を維持したままで荷主にこれを販売するというものではないことは明らかであり、小売業、卸売業に当たらないと解するのが相当である旨判示した。

イ 訴訟手続の経過

本件判決は、上訴期間の経過をもって確定した。

(4) 古河電気工業㈱による審決取消請求事件(平成24年(行ケ)第1号)(前記表一連番号14)

ア 主な争点及び判決の概要

独占禁止法違反行為に係る取引について複数の業種に属する事業活動が混在する場合に、課徴金の額の算定に当たり、いかなる算定率を適用すべきか

原告は、違反行為の中に複数の業種に属する事業活動が混在する場合には、業種ごとに算出した売上額に基づき、それぞれの業種に適用される算定率により課徴金の額を算定するべきであり、三菱電線工業㈱から仕入れた製品に係る取引(以下アにおいて「本件取引」という。)を除くその余の取引については小売業又は卸売業のいずれにも当たらないとして10%の算定率を適用し、本件取引については小売業の実態を有しているとして3%の算定率を適用すべきである旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、以下のとおり判示した。独占禁止法第7条の2第1項、同法施行令第5条第1項及び第6条第1項の規定に照らすと、課徴金額の算定は、まず違反行為の実行として行われた事業活動の「実行期間」を認定した上で、その期間中に引き渡された商品又は提供された役務の対価の額を合計する方法により算出した「売上額」に算定率を乗ずる方法によると解するのが相当であり、行為者の違反行為に係る個々の取引について、個別に業種を認定した上で、業種ごとに区分した売上額を算出して、その業種に対応する算定率を各別に乗ずることが予定されていると解することは困難である。また、課徴金納付命令は、不当な取引制限等の違反行為ごとに個々の違反行為者に対して発令されるものであり、同法第7条の2第1項所定の「実行期間」とは違反行為の実行としての事業活動が行われた期間をいい、「商品又は役務」とは違反行為の対象として提供した商品又は役務をいい、「売上額」についても「商品又は役務」の売上額とされている以上、違反行為に係るものと解すべきであるから、「実行期間」、「商品又は役務」及び「売上額」はいずれも違反行為ごとに定まるものというべきである。そうすると、課徴金の算定率についても、違反行為に係る事業活動として単一の業種が認定され、それに対応する算定率が適用されると解することが、これらとも整合する解釈ということができる。したがって、同法第7条の2第1項、同法施行令第5条第1項及び第6条第1項の規定によれば、課徴金額の算定に当たっては、単一の業種を認定した上で、単一の算定率を適用することが予定されていると解するのが相当である。原告の事業活動の業種を検討すると、特定の光ファイバケーブル製品(以下アにおいて「本件特定製品」という。)の販売分野における競争を実質的に制限していた行為(以下アにおいて「本件違反行為」という。)の対象である本件特定製品の取引には原告が三菱電線工業㈱から仕入れた商品に係る取引も含まれるところ、この取引全体が小売業の実態を有していたと認められる証拠はない上、仮に当該取引が小売業の実態を有していたとしても、原告の本件特定製品の取引全体に占める割合は売上額の5%余りにすぎないのに対し、その余の約95%の取引が小売業又は卸売業のいずれにも当たらないことは当事者間に争いがない事実であるから、本件違反行為に係る原告の事業活動は、小売業又は卸売業以外の業種に当たると判断するのが相当である。

イ 訴訟手続の経過

 本件は、原告による上告及び上告受理申立てにより、平成24年度末現在、訴訟係属中である。

(5) 樋下建設㈱ほか2名による審決取消請求事件(平成22年(行ケ)第7号)(前記表一連番号2)

ア 主な争点及び判決の概要

(ア) 本件審決の基礎となった事実を立証する実質的な証拠はあるか

原告らは、本件審決が認定に供した供述調書は信用性が低いなどとして、同審決が認定した合意(以下アにおいて「本件基本合意」という。)を立証する実質的証拠はないと主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、以下のとおり判示した。①本件審決が、原告らが本件基本合意に基づき受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた行為(以下アにおいて「本件違反行為」という。)の認定に供した供述証拠について、供述内容自体には格別不自然な点はなく、原告らは、その主張に反する供述内容を曖昧、疑問などとして信用性を争っているにすぎず、その主張を考慮したとしても、証拠価値を否定すべき事情があるとはいえない、②本件審決が本件違反行為の認定に供した、供述調書以外の文書について、TST 親交会等の関係者から留置した文書の内容はいずれもTST 親交会等が受注調整を行っていたとの本件審決が基礎とする事実を裏付けるものといえる、③本件審決が、平成13年4月1日から平成16年10月25日までの期間(以下アにおいて「本件期間」という。)における岩手県発注の特定建築工事(以下アにおいて「本件発注物件」という。)133物件のうち63物件について受注調整が、8物件について研究会が行われていたと認定していることについて、これらの事実は合理的に認定することができ、本件発注物件133物件のうちのこれら63物件及び8物件についてこのような受注調整等が行われていたという事実は、本件違反行為の存在を推認させる重要な間接事実であるといえる。以上のことから、本件審決が原告らに対する関係で認定した事実は、本件審決が掲げる証拠により合理的に認定することができ、本件審決については、その基礎となった事実を立証する実質的な証拠がないということはできず、その他原告らの主張についてなお検討しても、原告らとの関係において、本件審決の基礎となった事実を立証する実質的な証拠がないということはできない。

(イ) 本件違反行為は岩手県発注の特定建築工事における「競争を実質的に制限する」ものであったか

原告らは、本件では、市場の支配がなく、競争の実質的制限があったとはいえないから、本件違反行為が「競争を実質的に制限する」ものとした本件審決の判断は誤りである旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、以下のとおり判示した。本件基本合意は、岩手県発注の特定建築工事の条件付一般競争入札、受注希望型指名競争入札及び指名競争入札の市場について、受注調整の基本的方法等を取り決める行為であり、県内業者は、平成13・14年度において145社、平成15・16年度において137社であるところ、本件期間中に本件基本合意に加わっていたTST 親交会等の会員社は106社(ただし、うち9社は中途から加わった。)である。また、本件発注物件133物件の全ての入札に106社のうちの一部の社が参加し、うち118物件を106社のうちのいずれかが落札し(118物件のうち103件の入札にはアウトサイダーも参加していた。)、さらに、本件基本合意の下に、本件発注物件133物件(本件期間中の岩手県発注の特定建築工事)のうち63物件について受注調整が行われていたことが認められ(うち58物件は106社のうちいずれかの社が落札した。)、8物件について研究会が行われていたことが認められる。このような状態は、106社がその意思で入札市場における落札者及び落札価格をある程度自由に左右することができる状態であったというべきであり、この状態が本件基本合意によってもたらされたものであることも明らかである。

(ウ) 原告らに対して排除措置を命ずることにつき、違反行為が既になくなっていると認められる場合における「特に必要があると認めるとき」に当たるか

原告らは、受注調整を行った事実はなく、本件違反行為の取りやめは外部的要因によるものではないから、排除措置を命じることについて「特に必要があると認めるとき」に該当するとした本件審決の判断は誤りである旨主張した。

これに対し、東京高等裁判所は、独占禁止法第54条第2項にいう「特に必要があると認めるとき」の要件に該当するか否かの判断については、我が国における独占禁止法の運用機関として競争政策について専門的な知見を有する被告の専門的な裁量が認められるものというべきであるところ、本件審決が「特に必要があると認めるとき」に該当する根拠とした事情は、各証拠により合理的に認定することができ、実質的証拠に欠けるところはないから、原告らについて、同項の「特に必要があると認めるとき」との要件に該当するとの判断が、被告の専門的な裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない旨判示している。

イ 訴訟手続の経過

本件は、原告らによる上告及び上告受理申立てにより、平成24年度末現在、訴訟係属中である。

 3  最高裁判所における決定

・ ㈱クボタほか2名による審決取消請求上告事件及び審決取消請求上告受理事件(平成24年(行ツ)第95号ないし第97号、平成24年(行ヒ)第107号ないし第109号)(前記表一連番号1)の決定の概要

最高裁判所は、本件上告理由は、民事訴訟法第312条第1項又は第2項に規定する事由に該当せず、また、本件は同法第318条第1項により受理すべきものとは認められないとして、上告棄却及び上告不受理の決定を行った。

第2 独占禁止法関係行政事件

1 概要

平成24年度当初において係属していた審決取消請求訴訟以外のもので独占禁止法関係行政事件は、独占禁止法第70条の15に基づく閲覧謄写許可処分取消請求事件の1件であった。同事件については、東京地方裁判所において一審原告の請求を棄却する判決が言い渡され、その後、一審原告は控訴した。このため、平成24年度末現在係属中の審決取消請求訴訟以外のもので独占禁止法関係行政事件は1件である。

2 平成24年度中に係属中であった独占禁止法関係行政事件

・ 平成21年(判)第17号審判事件記録に係る閲覧謄写許可処分取消請求事件

ア 事件の表示

東京高等裁判所 平成25年(行コ)第80号

事件記録閲覧謄写許可処分取消請求控訴事件

控訴人(一審原告) 一般社団法人日本音楽著作権協会

被控訴人(一審被告) 国(処分行政庁 公正取引委員会)

(一審の事件番号 東京地方裁判所 平成23年(行ウ)第322号)

提訴年月日 平成23年5月20日

判決年月日 平成25年1月31日(請求棄却、東京地方裁判所)

控訴年月日 平成25年2月13日(一審原告)

イ 事案の概要

本件は、平成21年(判)第17号一般社団法人日本音楽著作権協会に対する審判事件(以下イ及びウにおいて「本件審判事件」という。)に係る利害関係人(以下「本件申請者」という。)が独占禁止法第70条の15に基づいて行った本件審判事件の事件記録の閲覧謄写申請に対し、処分行政庁が当該事件記録のうち一部を除いて閲覧謄写を許可する旨の処分をしたところ、一審原告が、その処分の一部分(以下「本件開示決定」という。)の取消しを求めるものである。

なお、一審原告は、本件訴訟の提起とともに、本件開示決定について、本案事件の判決確定までの執行停止を求める申立てをしたところ、東京地方裁判所は、本案事件の第一審判決言渡しまでの間、本件開示決定の執行を停止する決定を行った。

ウ 判決の概要

東京地方裁判所は、以下のとおり判示した。

まず、独占禁止法第70条の15第1項の「利害関係人」該当性について、同項の利害関係人とは、当該事件の被審人のほか、同法第70条の3及び第70条の4の規定により審判手続に参加し得る者並びに当該事件の対象を成す違反行為の被害者をいい、被審人に対し本件審判事件の対象を成す違反行為の被害者としてその差止め又は損害賠償を請求する者は、たとえ当該事件についての審決が確定する前であっても、同法第70条の15第1項にいう利害関係人として事件記録の閲覧又は謄写を請求することができるものというべきであるところ、本件申請者は、本件排除措置命令にいう「他の管理事業者」すなわち本件審判事件の対象を成す違反行為である私的独占の被害者であるということができるのであって、本件申請者は同項にいう利害関係人に該当するものというべきであるし、また、同項の「利害関係人」が処分行政庁の審判手続上の概念であることによれば、事件記録の閲覧又は謄写の申請をした者が当該審判事件の対象を成す違反行為が存在するとすればその被害者であるといえる限りは、当該申請者は同項にいう「利害関係人」に該当するものというべきである。

次に、独占禁止法第70条の15第1項の「正当な理由」があると認めることができない旨の処分行政庁の判断におけるその裁量権の範囲の逸脱又は濫用の有無について、同項に基づく事件記録の閲覧又は謄写の申請があった場合において、その閲覧又は謄写を拒むことについて「第三者の利益を害するおそれがあると認めるときその他正当な理由」があるか否かの判断は、処分行政庁の合理的な裁量に委ねられているものであると解するのが相当であり、その判断は処分行政庁に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものである場合に限り、違法となるところ、本件開示決定をしたことについて、それが重要な事実の基礎を欠き又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認めることはできないのであって、処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したということはできないものというべきである。

なお、処分行政庁が利害関係人による閲覧又は謄写に応ずることを拒否することができる正当な理由となるべき、具体的な権利ないし利益としての「弁護士・依頼者秘匿特権」や「職務活動の成果」の法理なるものが存在することを肯認することはできないし、これが慣習法上の権利ないし利益として社会一般に承認されているということができるか否かという見地からみても、そのような具体的な権利ないし利益が存在するという観念が社会の法的確信によって支持される程度にまで達しているということはできない。

最後に、本件開示決定の適法性について、原告は、前記で検討した点のほかには、本件開示決定の違法を主張しておらず、本件開示決定からは、その余の違法をうかがうこともできないから、本件開示決定は適法な処分であるということができる。

エ 訴訟手続の経過

本件は、一審原告の控訴により、平成24年度末現在、東京高等裁判所に係属中である。

なお、一審原告は、本件訴訟の控訴とともに、本件開示決定について、本案事件の判決確定までの執行停止を求める申立てをしたところ、東京高等裁判所は、本案事件の控訴審判決言渡しまでの間、本件開示決定の執行を停止する決定を行った。

第3 独占禁止法第24条に基づく差止請求訴訟

平成24年度当初において係属中の独占禁止法第24条に基づく差止請求訴訟は14件であったところ、同年度中に1件の訴えが提起された。これら平成24年度の係属事件15件のうち、最高裁判所が上告棄却及び上告不受理の決定をしたことにより終了したものが3件、上告不受理の決定をしたことにより終了したものが1件、和解により終了したものが2件、宇都宮地方裁判所大田原支部がした請求認容の判決に対して東京高等裁判所がした原判決取消の判決に対して上訴を行わなかったことにより終了したものが1件、東京地方裁判所立川支部がした請求棄却の判決に対して上訴を行わなかったことにより終了したものが1件あった。また、東京高等裁判所が控訴人の控訴を棄却する判決を下したものが1件、名古屋地方裁判所が原告の請求を棄却する判決を下したものが1件あった(これら2件についてはいずれも上訴されたため係属中である。)。この結果、平成24年度末時点において係属中の訴訟は7件となった。

第4 独占禁止法第25条に基づく損害賠償請求訴訟

平成24年度当初において係属中の独占禁止法第25条に基づく損害賠償請求訴訟は、公正取引委員会が把握している限りでは、32件であったところ、同年度中に4件の訴えが提起された。これら平成24年度の係属事件36件のうち、和解により終了したものが4件あった。また、東京高等裁判所が原告の請求を一部認容する判決を下したものが7件及び原告の請求を棄却する判決を下したものが4件あった(これら11件のうち4件については判決が確定して終了し、7件については上訴されたため係属中である。)。この結果、平成24年度末時点において係属中の訴訟は28件となった。

1 ニプロ㈱によるアンプル生地管に係る私的独占事件

(1) 事件の表示

東京高等裁判所平成19年(ワ)第10号

損害賠償請求事件

原告 ㈱ナイガイ及び内外硝子工業㈱

被告 ニプロ㈱

提訴年月日 平成19年11月26日

(2) 事案の概要

公正取引委員会は、ニプロ㈱によるアンプル生地管に係る私的独占事件について、平成18年6月5日、ニプロ㈱に対し審判審決を行った。当該審決確定後、㈱ナイガイ及び内外硝子工業㈱は、ニプロ㈱に対して、独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟を東京高等裁判所に提起した。

(3) 訴訟手続の経過

本件については、東京高等裁判所から、平成19年11月27日、独占禁止法第84条第1項の規定に基づき、同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ、公正取引委員会は、平成20年8月14日、意見書を提出した。

平成24年12月21日、東京高等裁判所が請求を一部認容する判決を下したため、㈱ナイガイ及び内外硝子工業㈱は平成25年1月7日、上告及び上告受理申立てを行った(上告については同年3月21日に取り下げている。)。平成24年度末現在、最高裁判所に係属中である。

(4) 判決の要旨

本件独占禁止法違反行為によって、生地管の輸入が進まず、価格が高止まり、適正価格で生地管を購入できなかったことによる損害に関しては、本件独占禁止法違反行為が行われていなかった場合に、日本電気硝子㈱製生地管の価格が下落したであろうと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はないことから、損害の発生を認めることはできない。

本件独占禁止法違反行為によって、製薬会社と取引をすることができなくなったことによる損害に関しては、原告が本件独占禁止法違反行為により、本件国内事業に係る取引あるいは取引先を失った可能性は十分にあるが、日本電気硝子㈱製生地管を用いたアンプルの取引が減少する要因には、製薬会社からの発注の減少や原告らの営業活動なども考えられ、それが直ちに本件独占禁止法違反行為による取引の喪失であると推認することはできず、本件独占禁止法違反行為との相当因果関係が認められる個別取引についてのみ、損害の発生を認めることができる。

2 日本道路公団が発注する鋼橋上部工工事の入札談合事件

(1) 事件の表示

東京高等裁判所平成20年(ワ)第6号、第7号、第10号、第13号、第21号、第22号、第26号、第27号、第35号ないし第37号、第39号

損害賠償請求事件

提訴年月日 平成20年12月19日

(2) 事案の概要 

公正取引委員会は、日本道路公団が発注する鋼橋上部工工事の入札談合について、平成17年11月18日、同工事の入札参加業者ら40名に対し当該行為の排除等を命ずる勧告審決を行った。当該審決確定後、前記表に記載の各原告らは、当該審決が認定した入札談合により日本道路公団が被った損害に係る賠償請求権を日本道路公団から承継したとして、三井造船㈱ほか29名に対し、独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟35件を東京高等裁判所に提起した。

(3) 訴訟手続の経過

本件の各事件については、次のとおり、東京高等裁判所から、平成21年1月15日から29日までの間に、独占禁止法第84条第1項の規定に基づき、同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ、公正取引委員会は、平成21年6月26日、いずれについても意見書を提出した。

本件においては、平成23年度までに22件の訴えの取下げ、1件の和解及び東京高等裁判所が請求を認容する判決を下したものが4件、請求を棄却する判決を下したものが4件(これら8件についてはいずれも上告及び上告受理申立てが行われた。)があった。平成24年度においては、東京高等裁判所が請求の一部を認容する判決を下したものが3件、請求を棄却する判決を下したものが1件あり、これら4件についてはいずれも上告及び上告受理申立てが行われた。平成24年度末現在、12件が係属中である。

(4) 判決の要旨

ア 平成20年(ワ)第35号事件(平成24年5月25日請求棄却、東京高等裁判所)

原告は、被告らから、本件談合を理由として損害金の一部の支払を受けているところ、当該支払は、本件談合により公団が被った損害額を優に超えており、損害はてん補されているから、その余の点を判断するまでもなく、原告の被告らに対する本件損害賠償請求はいずれも理由がない。

イ 平成20年(ワ)第21号事件(平成24年7月27日請求一部認容、東京高等裁判所)

原告の損害額は、工事内容変更後の最終契約金額を基礎として認定すべきであるところ、本件工事の落札率が98.54%であったこと、原告が損害額算定において平均落札率算出の根拠として主張する同種工事31事例から付随的工事の事例及び一般的な落札傾向を示しているとはいい難い事例9事例を除いた22事例の平均落札率が90.99%であること、平成20年度及び同21年度における東日本高速道路㈱、中日本高速道路㈱及び西日本高速道路㈱が発注した同種工事の入札事例の平均落札率が92.67%であること、本件談合により落札者が受けた利益のうち不正に過大に得た分は3%から7%であったものと推認することができることを総合して検討すると、本件における損害額は、最終契約金額の6.5%に相当すると認めるのが相当である。

ウ 平成20年(ワ)第27号事件(平成24年7月27日請求一部認容、東京高等裁判所)

原告の損害額は、工事内容変更後の最終契約金額を基礎として認定すべきであるところ、本件工事の落札率が97.14%であったこと、原告が損害額算定において平均落札率算出の根拠として主張する同種工事31事例から付随的工事の事例及び一般的な落札傾向を示しているとはいい難い事例9事例を除いた22事例の平均落札率が90.99%であること、被告らが損害額算定において平均落札率算出の根拠として主張する同種工事59事例及び61事例の平均落札率がそれぞれ93.88%、93.58%であること、平成20年度及び同21年度における東日本高速道路㈱、中日本高速道路㈱及び西日本高速道路㈱が発注した同種工事の入札事例の平均落札率が92.67%であること、本件談合により落札者が受けた利益のうち不正に過大に得た分は3%から7%であったものと推認することができることを総合して検討すると、本件における損害額は、最終契約金額の6%に相当すると認めるのが相当である。

エ 平成20年(ワ)第39号事件(平成24年7月27日請求一部認容、東京高等裁判所)

原告の損害額は、工事内容変更後の最終契約金額を基礎として認定すべきであるところ、本件工事の落札率が97.89%であったこと、原告が損害額算定において平均落札率算出の根拠として主張する同種工事31事例から付随的工事の事例及び一般的な落札傾向を示しているとはいい難い事例9事例を除いた22事例の平均落札率が90.99%であること、被告らが損害額算定において平均落札率算出の根拠として主張する同種工事49事例の平均落札率が93.2%であること、平成20年度及び同21年度における東日本高速道路㈱、中日本高速道路㈱及び西日本高速道路㈱が発注した同種工事の入札事例の平均落札率が92.67%であること、本件談合により落札者が受けた利益のうち不正に過大に得た分は3%から7%であったものと推認することができることを総合して検討すると、本件における損害額は、最終契約金額の6.5%に相当すると認めるのが相当である。

3 ㈱セブン-イレブン・ジャパンによる優越的地位の濫用事件

(1) 事件の表示

東京高等裁判所平成21年(ワ)第5号、第6号、平成22年(ワ)第9号、第10号、平成23年(ワ)第8号、平成24年(ワ)第9号

損害賠償請求事件

被告 ㈱セブン-イレブン・ジャパン

(2) 事案の概要 

公正取引委員会は、㈱セブン-イレブン・ジャパンが、独占禁止法第19条(不公正な取引方法第14項〔優越的地位の濫用〕第4号(注)に該当)の規定に違反する行為を行っているとして、平成21年6月22日、㈱セブン-イレブン・ジャパンに対し当該行為の排除等を命ずる排除措置命令を行った。当該命令確定後、前記表に記載の各原告らは、㈱セブン-イレブン・ジャパンに対して、独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟をそれぞれ東京高等裁判所に提起した。

(注) 平成21年公正取引委員会告示第18号による改正前の一般指定第14項第4号

(3) 訴訟手続の経過

本件の各事件については、次のとおり、東京高等裁判所から、独占禁止法第84条第1項の規定に基づき、同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ、公正取引委員会は、いずれについても意見書を提出した。

本件については、平成24年度末現在、6件全てが東京高等裁判所に係属中である。

4 地方公共団体が発注するごみ処理施設建設工事の入札談合事件

(1) 事件の表示

東京高等裁判所平成22年(ワ)第7号、第8号、第11号、第13号ないし第15号、平成23年(ワ)第2号、第3号、第6号、第9号、平成24年(ワ)第5号、第8号、第11号

損害賠償請求事件

(2) 事案の概要 

公正取引委員会は、地方公共団体が発注するごみ処理施設建設工事の入札談合について、平成18年6月27日、日立造船㈱ほか4名に対し当該行為の排除等を命ずる審判審決を行った。当該審決確定後、前記表に記載の各原告は、それぞれ、各被告に対し、独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟を東京高等裁判所に提起した。

(3) 訴訟手続の経過

本件の各事件については、次のとおり、東京高等裁判所から、独占禁止法第84条第1項の規定に基づき、同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ、公正取引委員会は、いずれについても意見書を提出した。

本件については、平成23年度までに4件の和解があった。平成24年度においては、4件が和解により終了し、東京高等裁判所が請求の一部を認容する判決を下したものが3件、請求を棄却する判決を下したものが3件あり、これら6件のうち4件は判決が確定して終了し、2件は上告及び上告受理申立てが行われた。平成24年度末現在、5件が係属中である。

(4) 判決の要旨

ア 平成22年(ワ)第7号事件(平成24年9月10日請求一部認容、東京高等裁判所)

原告の被った損害は、本件対象期間における工事の平均落札率が、アウトサイダーが受注した工事は92.64%、本件5社のうちのいずれかが受注した工事は96.6%であること、本件対象期間以降に地方公共団体が発注した工事の平均落札率が、アウトサイダーが受注した工事は95.2%、本件5社が受注した工事が90.1%であること、平成17年の独占禁止法改正の際に、公正取引委員会が過去の違反事例における不当利得を推計したところ、平均して売上額の16.5%程度、約9割で8%以上の不当利得が存在するとの結果であったこと、本件違反行為により被告が支払った課徴金は契約金額の6%であること、また、本件工事が被告の重点物件で、落札希望が極めて強く、入札金額を低めに設定した可能性も全く否定できないことなどを考慮し、契約金額の5%をもって相当と判断する。

イ 平成22年(ワ)第11号事件(平成25年3月15日請求一部認容、東京高等裁判所)

民法第709条と独占禁止法第25条の両損害賠償請求制度の趣旨は異なるものであり、両者の訴訟物が同一であると解することはできないことから、原告が、独占禁止法第25条第1項の損害賠償請求権を裁判上主張することが可能になった審決の確定後に提起された本件訴えは、原告の住民が提起した本件住民訴訟を不当に蒸し返すものであるとか、訴訟上の信義則に反するものであるということはできず、適法である。

原告は、被告らの本件違反行為により、本件想定価格と本件落札価格の差額に相当する損害を被ったというべきであるが、落札価格が各工事の種類、内容によって、大きく変わり得るものであることは明らかであり、本件の損害は、その性質上その額を立証することが極めて困難であるから、本件に顕れた事情を総合考慮し、本件落札価格の約5%に当たる3億円をもって原告が被った相当な損害額であると認める。

ウ 平成22年(ワ)第14号事件(平成24年11月16日請求棄却、東京高等裁判所)

 本件工事に関して被告の責任を問うためには、本件基本合意に基づいて個別談合が行われ、かつ、その個別談合で形成された合意が実行に移されたことが認められなければならないところ、本件で認定できる事実によれば、本件工事について、個別談合が行われ、その結果として被告が落札した疑いはなお残っているということができるが、本件に顕れた当事者双方の主張及び全証拠を前提に検討すると、本件工事について個別談合が行われたことを推認するに足る十分な証拠はないことに帰することになる。

エ 平成23年(ワ)第2号事件(平成24年9月21日請求一部認容、東京高等裁判所)

原告が被った損害額は、実際の落札価格と想定落札価格との差額ということができる。そして、本件合意に基づいて談合が行われたと認定された期間において、本件5社以外の会社が落札・受注したストーカ炉建設工事のうち、経済的に正常かつ通常の取引と認められる範囲の工事の平均落札率を算出し、予定価格にこれを乗じた金額をもって想定落札価格と認めるのが相当であるところ、当該ストーカ炉建設工事のうち採算を度外視した受注をした疑いを払拭できない落札率75%を下回る案件及び随意契約による落札率100%の案件を除いた当該平均落札率は91.6%であるから、これにより損害額を算定する。

オ 平成23年(ワ)第3号事件(平成25年2月5日請求棄却、東京高等裁判所)

 本件入札においては、原告が当初の設計額の予測や予定価格を大幅に減額した上で実施されたものであり、本件5社がその価格を認識していたとはいえないこと、入札が2回実施されたが、いずれも予定価格を下回らなかったこと、しかもその1回目は被告ではなく川崎重工業㈱が最も低額な入札価格であったこと、随意契約における見積りも2回実施され、その2回目に予定価格を下回ったことに照らすと、本件入札が被告を含む本件5社の談合に基づくものであると認定ないし推認することは困難であるというべきである。

カ 平成23年(ワ)第9号事件(平成24年11月27日請求棄却、東京高等裁判所)

本件入札が被告を含む本件5社及び㈱荏原製作所の談合に基づくものであると認定ないし推認することは困難であるといわざるを得ない。

5 大気常時監視自動計測器の製造販売業者による入札談合事件

(1) 事件の表示

東京高等裁判所平成23年(ワ)第7号、第10号、第13号、平成24年(ワ)第7号

損害賠償請求事件

(2) 事案の概要

公正取引委員会は、国の機関及び地方公共団体が発注する大気常時監視自動計測器の入札談合について、平成20年11月12日、東亜ディーケーケー㈱ほか2名に対し当該行為の排除等を命ずる排除措置命令を行った。当該命令確定後、前記表に記載の各原告は、それぞれ、各被告に対し、独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟を東京高等裁判所に提起した。

(3) 訴訟手続の経過

本件の各事件については、次のとおり、東京高等裁判所から、独占禁止法第84条第1項の規定に基づき、同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ、公正取引委員会は、いずれについても意見書を提出した。

本件については、平成24年度末現在、4件全てが東京高等裁判所に係属中である。