第2部 各論
独占禁止法第4章は、事業支配力が過度に集中することとなる会社の設立等の禁止及び銀行業又は保険業を営む会社の議決権取得・保有の制限並びに会社及び子会社の総資産合計額が一定規模を超える場合の報告又は届出の義務(第9条)及び銀行業又は保険業を営む会社が他の国内の会社の議決権の一定の割合を超えて取得・保有する場合の認可(第11条)について規定している。このほか、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合及び不公正な取引方法による場合の会社等の株式取得・所有、役員兼任、合併、分割、共同株式移転及び事業譲受け等の禁止並びに一定の条件を満たす企業結合についての届出義務(第10条及び第13条から第16条まで)を規定している。公正取引委員会は、これらの規定に従い、企業結合審査を行っている。
また、公正取引委員会は、いわゆる第2次審査を行って排除措置命令を行わない旨の通知をした場合等について、当該審査結果を公表するほか、届出を受理した事案等のうち、企業結合を計画している事業者の参考に資すると思われる事案については、一定の取引分野の画定の考え方や独占禁止法上の判断の理由等についてできるだけ詳細に記載し、その内容を公表している。
独占禁止法第9条第1項及び第2項の規定では他の国内の会社の株式を取得し、又は所有することにより事業支配力が過度に集中することとなる会社の設立・転化を禁止しており、当該会社及び子会社(注)の総資産合計額が、①持株会社については6000億円、②銀行業、保険業又は第一種金融商品取引業を営む会社(持株会社を除く。)については8兆円、③一般事業会社(①及び②以外の会社)については2兆円を超える場合には、①毎事業年度終了後3か月以内に当該会社及び子会社の事業報告書を提出すること(独占禁止法第9条第4項)、②当該会社の新設について設立後30日以内に届け出ること(独占禁止法第9条第7項)が義務付けられている。
平成24年度において、独占禁止法第9条第4項の規定に基づき提出された会社の事業報告書の件数は99件であり、独占禁止法第9条第7項の規定に基づき提出された会社設立届出書の件数は1件であった。
(注) 会社がその総株主の議決権の過半数を有する他の国内の会社をいう。この場合において、会社及びその一若しくは二以上の子会社又は会社の一若しくは二以上の子会社がその総株主の議決権の過半数を有する他の国内の会社は、当該会社の子会社とみなす。
独占禁止法第11条第1項の規定では、銀行業又は保険業を営む会社が他の国内の会社の議決権をその総株主の議決権の5%(保険会社は10%)を超えて取得・保有してはならないとされている。ただし、あらかじめ公正取引委員会の認可を受けるなど一定の要件を満たした場合は、同項の規定の適用を受けない(同条第1項ただし書、第2項)。
平成24年度において、公正取引委員会が認可した銀行業又は保険業を営む会社の議決権取得・保有の件数は5件であり、全て独占禁止法第11条第2項の規定に基づくものであり、銀行業を営む会社に係るものであった。また、外国会社に係るものはなかった(なお、銀行又は保険会社の議決権取得・保有の制限に係る認可についての詳細は、附属資料4-1表参照)。
(1) 一定の条件を満たす会社が、株式取得、合併、分割、共同株式移転及び事業譲受け等(以下「企業結合」という。)を行う場合には、それぞれ独占禁止法第10条第2項、第15条第2項、第15条の2第2項及び第3項、第15条の3第2項又は第16条第2項の規定により、公正取引委員会に企業結合に関する計画を届け出ることが義務付けられている(ただし、合併等をしようとする全ての会社が同一の企業結合集団に属する場合等については届出が不要である。)。
企業結合に関する計画の届出が必要な場合は、具体的には次のとおりである。
(2) 平成24年度において、独占禁止法第10条第2項等の規定に基づく企業結合に関する計画の届出を受理した件数は349件であった。
(3) 公正取引委員会は、企業結合により一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるかについて調査を行っている。
平成24年度に届出を受理した349件のうち、届出受理の日から独占禁止法第10条第9項(第15条第3項、第15条の2第4項、第15条の3第3項及び第16条第3項の規定により準用する場合を含む。)に規定する報告等の要請を行う日の前日まで(報告等の要請を行わない場合は、排除措置命令を行わない旨の通知を行う日まで)の期間に行う第1次審査で終了した件数は340件、報告等の要請を行う日から排除措置命令前の通知を行う日まで(同通知をしない場合は、排除措置命令を行わない旨の通知を行う日まで)の期間に行う第2次審査に移行した件数は6件であった。
平成24年度に届出を受理した349件のうち、独占禁止法第10条第8項ただし書(第15条第3項、第15条の2第4項、第15条の3第3項及び第16条第3項の規定により準用する場合を含む。)の規定に基づき、企業結合をしてはならない期間を短縮した件数は127件であった。
(4) 平成24年度において、独占禁止法第10条第1項、第15条第1項、第15条の2第1項、第15条の3第1項又は第16条第1項の規定に違反するとして、同法第17条の2第1項の規定に基づき排除措置命令を行ったものはなかった。
(5) 平成24年度において、届出会社が一定の適切な措置(問題解消措置)を講じることを前提に独占禁止法上の問題はないと判断した件数は3件であった。
(6) 平成24年度において、産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法(平成11年法律第131号)第13条第1項の規定に基づく協議を受けた件数は5件であった。
第1表 最近の株式取得等の届出受理等の状況
平成24年度における株式取得の届出受理件数は、285件であり、前年度の届出受理件数224件に比べ増加している(対前年度比27.2%増)。
平成24年度における合併の届出受理件数は、14件であり、前年度の届出受理件数15件に比べ減少している(対前年度比6.7%減)。
平成24年度における分割の届出受理件数は、15件であり、前年度の届出受理件数10件に比べ増加している(対前年度比50.0%増)。
平成24年度における共同株式移転の届出受理件数は、5件であり、前年度の届出受理件数6件に比べ減少している(対前年度比16.7%減)。
平成24年度における事業譲受け等の届出受理件数は、30件であり、前年度の届出受理件数20件に比べ増加している(対前年度比50.0%増)。
平成24年度に届出を受理した企業結合を国内売上高合計額別、総資産額別、態様別、業種別及び形態別でみると、次のとおりである(第2表から第14表。企業結合の詳細な統計については、附属資料4-2以下参照)。
平成24年度の企業結合に関する計画の届出受理件数について、それぞれ国内売上高合計額別にみると、次のとおりである。
株式取得会社の国内売上高合計額が1000億円以上の会社による株式取得が過半を占めている(第2表参照)。
存続会社の国内売上高合計額が1000億円以上の会社による合併が過半を占めている(第4表参照)。
(ア) 共同新設分割
分割対象部分に係る国内売上高が200億円以上500億円未満の会社を含む共同新設分割が1件あり、他に届出はなかった(第6表参照)。
(イ) 吸収分割
事業を承継する会社の国内売上高合計額が1000億円以上のものが過半を占めている(第8表参照)。
国内売上高合計額が500億円未満の会社による共同株式移転が過半を占めている(第10表参照)。
国内売上高合計額が1000億円以上の会社による事業譲受け等が過半を占めている(第12表参照)。
平成24年度の企業結合に関する計画の届出受理件数について、それぞれ総資産の規模別にみると、次のとおりである。
総資産額が1000億円以上の会社による株式取得が過半を占めている(第3表参照)。
存続会社の総資産額が100億円以上の会社による合併が過半を占めている(第5表参照)。
(ア) 共同新設分割
総資産額が50億円以上100億円未満の会社を含む共同新設分割が1件あり、他に届出はなかった(第7表参照)。
(イ) 吸収分割
事業を承継する会社の総資産額が100億円以上の吸収分割が過半を占めている(第9表参照)。
総資産額が500億円以上の会社を含む共同株式移転が過半を占めている(第11表参照)。
総資産額が50億円以上の会社による事業譲受け等が過半を占めている(第13表参照)。
平成24年度の企業結合に関する計画の届出受理件数を態様別にみると、合併については、総数14件の全てが吸収合併であった。分割については、総数15件のうち、1件が共同新設分割で14件が吸収分割であった。また、事業譲受け等については、総数30件のうち、26件が事業譲受け(全体の86.7%)、4件が事業上の固定資産の譲受け(同13.3%)であった。
平成24年度の企業結合に関する計画の届出受理件数を業種別にみると、次のとおりである(第14表参照)。
その他を除けば、製造業が84件(全体の29.5%)と最も多く、以下、卸・小売業が52件(同18.2%)、運輸・通信・倉庫業が27件(同9.5%)と続いている。
製造業の中では、紙・パルプ業が29件と多くなっている。
卸・小売業が5件(全体の35.7%)と最も多く、以下、製造業が3件(同21.4%)と続いている。
製造業の中では、非鉄金属、金属製品及び機械業が各1件となっている。
製造業が7件(全体の46.7%)と最も多く、以下、卸・小売業及びサービス業が各4件(同26.7%)と続いている。
製造業の中では、機械業が5件となっている。
5件全てがその他であった。
その他を除けば、製造業及び卸・小売業が各13件(全体の43.3%)と最も多く、以下、建設業及びサービス業が各1件(同3.3%)と続いている。
製造業の中では、機械業が8件となっている。
平成24年度の企業結合の形態別(注)の件数は、次のとおりである。
なお、形態別の件数については、複数の形態に該当する企業結合の場合、該当する形態を全て集計している。そのため、件数の合計は企業結合に関する計画の届出受理件数と必ずしも一致しない。
水平関係が171件(全体の60.0%)と最も多く、以下、垂直関係(前進)が66件(同23.2%)、混合関係(地域拡大)が62件(同21.8%)と続いている。
14件全てに水平関係があり(全体の100.0%)、混合関係(地域拡大)が4件(同28.6%)、垂直関係(前進)が3件(同21.4%)であった。
水平関係が10件(全体の66.7%)と最も多く、以下、垂直関係(後進)が5件(同33.3%)、垂直関係(前進)及び混合関係(地域拡大)が各3件(同20.0%)であった。
水平関係が4件(全体の80.0%)と最も多く、以下、垂直関係(前進)及び混合関係(地域拡大)が各2件(同40.0%)と続いている。
水平関係が21件(全体の70.0%)と最も多く、以下、混合関係(地域拡大)が8件(同26.7%)、垂直関係(後進)が6件(同20.0%)と続いている。
(注) 企業結合の形態の定義については、附属資料4-2参照。
第2表 国内売上高合計額別株式取得届出受理件数
第3表 総資産額別株式取得届出受理件数
第4表 国内売上高合計額別合併届出受理件数
第5表 総資産額別合併届出受理件数
第6表 国内売上高合計額別共同新設分割届出受理件数
第7表 総資産額別共同新設分割届出受理件数
第8表 国内売上高合計額吸収分割届出受理件数
第9表 総資産額別吸収分割届出受理件数
第10表 国内売上高合計額別共同株式移転届出受理件数
第11表 総資産額別共同株式移転届出受理件数
第12表 国内売上高合計額別事業譲受け等届出受理件数
第13表 総資産額別事業譲受け等届出受理件数
第14表 業種別届出受理件数
平成24年度の株式取得・所有、合併、分割、共同株式移転及び事業譲受け等の主要事例は、次のとおりである。
本件は、金融商品取引法(昭和23年法律第25号)の規定に基づき内閣総理大臣の免許を受けて金融商品市場を開設している㈱東京証券取引所等を子会社とする会社である㈱東京証券取引所グループ(以下、㈱東京証券取引所を「東証」という。)が、東証と同様に免許を受けて金融商品市場を開設している㈱大阪証券取引所(以下「大証」という。)の株式を取得し、議決権の過半数を取得すること(以下「本件統合」という。)を計画したものである。関係法条は、独占禁止法第10条である。
本件においては、新興市場における上場関連業務、株式の売買関連業務及び日本株に関する株価指数先物取引の売買関連業務について、当事会社が公正取引委員会に申し出た問題解消措置を前提とすれば、本件統合が一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。また、これら以外の取引分野については、いずれも、本件統合が競争を実質的に制限することとはならないと判断した。
前記の問題解消措置が講じられることとなった取引分野に係る審査結果の詳細は、後記2から5までのとおりである。
ア 役務範囲
株式の上場関連業務における需要者たる株式会社が株式の新規公開を行う場合、ほとんどの会社が新興市場への上場を選択していることから、株式の上場関連業務においては、役務範囲を「新興市場」における上場関連業務として画定した。
イ 地理的範囲
日本企業による他のアジアの取引所への上場は、上場に要する費用、規制等の面において相当の負担となることから、「日本全国」を地理的範囲として画定した。
ア 市場構造の変化
統合後の当事会社の合算市場シェアは約95%、統合後のHHI は約9、100、HHI の増分は約3、700であることから、水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。
当事会社は、当事会社が直接的に競合していないこと、需要者や隣接市場からの競争圧力が働いていること、効率性が向上すること等を理由に競争を実質的に制限することとはならないと主張していたが、いずれの主張についても認められない。
新興市場については、本件統合により当事会社間の競争は失われ、当事会社の独占に近い状態となり、その市場支配力に対する有効な牽制力が存在しないことから、当事会社がある程度自由に上場関連手数料を引き上げることができる状態が現出し、新興市場における上場関連業務の取引分野について競争を実質的に制限することとなると考えられる。
当事会社は、新興市場における上場関連手数料の決定等を外部の有識者によって構成される取締役会の諮問委員会の判断にかからしめ、当事会社のみでは上場関連手数料等を決定できないようにする問題解消措置を講じることを公正取引委員会に申し出た。
前記諮問委員会の構成員は、全員が当事会社以外の者であり、各諮問委員会の構成員は、企業を新規上場させたいというニーズを有している証券会社の役職員が多数を占めていることから、需要者である上場を希望する企業と利害が共通する傾向があり、当事会社による不適当な手数料の引上げに対する牽制力になり得ると考えられる。当事会社によるこのような措置については、これに加えて、取引所の公共的機能の存在や手数料の変更プロセスに係る金融庁の監督の効果により、当事会社による上場関連手数料の引上げが一定程度制約されている可能性があることを踏まえれば、本件統合による独占禁止法上の問題に対する有効な問題解消措置になると考えられる。
ア 役務範囲
現物商品(注1)の売買関連業務において取り扱われている現物商品は、商品ごとに性質が大きく異なり、需要の代替性が認められないことから、役務範囲を「株式の売買関連業務」として画定した。
(注1) 株式、債券、転換社債型新株予約権付社債、新株予約権証券、上場投資信託、不動産投資信託証券等をいう。
イ 地理的範囲
株式の売買関連業務は日本の取引所及び私設取引システム(以下「PTS」という。)を運営している事業者(以下「PTS 事業者」という。)によって行われていることから、「日本全国」を地理的範囲として画定した。
ア 市場構造の変化
統合後の当事会社の合算市場シェアは約95%、統合後のHHI は約9、300、HHI の増分は約1、000であり、水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。
イ 当事会社の主張と評価
当事会社は、当事会社が直接的に競合していないこと、需要者や隣接市場からの競争圧力が働いていること、効率性が向上すること等を理由に競争を実質的に制限することとはならないと主張していたが、いずれの主張についても認められない。
ウ 競争事業者の状況
PTS 事業者は有力な競争事業者とは認められないが、高性能の売買システム、低額な手数料等を主因として、近時成長している状況にあった。他方、PTS における取引には、「5%ルール」(市場外における株式の買付け等により株券等所有割合の5%を超える場合には公開買付けによらなければならないとする規制をいう。以下同じ。)が適用され、当該規制によりPTS 事業者の新規参入・成長が抑制されていると考えられる。
金融庁は、一定の要件を満たすPTS における取引について、5%ルールの適用を除外するとの改正を行うこととしていたことから(注2)、当該改正により、5%ルールの適用除外となるPTS については、機関投資家による利用の増加が見込まれ、当事会社に対するPTS 事業者の競争圧力が強くなると考えられる。
(注2) 金融商品取引法施行令の一部を改正する政令(平成24年政令第270号)が平成24年10月26日に閣議決定され、同年10月31日に公布及び施行されている。
株式の売買に関する清算業務については、㈱東京証券取引所グループの子会社である㈱日本証券クリアリング機構(以下「JSCC」という。)が、東証及び大証のみならず、地方取引所やPTS 事業者の清算業務も同等の条件で引き受けており、このことが地方取引所やPTS 事業者での株式の売買がカウンターパーティーリスク(取引相手の信用リスク)なく行われるための制度的基盤となっていることから、JSCC によるPTSにおける売買の清算業務の引受けは、PTS 事業者の新規参入・成長を促進するために必要と考えられる。しかし、5%ルールの改正により、PTS 事業者の市場シェアが拡大し当事会社に対して強い競争圧力を有するに至った場合には、JSCC がPTS 事業者を排除又は差別的に取り扱う可能性があると考えられる。
本件統合により、東証に対する実質的に唯一の競争事業者である大証の存在がなくなるが、5%ルールの改正により、今後、PTS 事業者が競争事業者として、当事会社に対する一定の牽制力を有することとなると考えられる。
しかし、JSCC がPTS 事業者を排除又は差別的に取り扱うこととなれば、当事会社に対するPTS 事業者の競争圧力が失われ、当事会社がある程度自由に価格等を左右することができる状態が現出し、株式の売買関連業務について競争を実質的に制限することとなると考えられる。
当事会社は、問題解消措置として、JSCC が当事会社の競争事業者における株式の売買の清算業務の引受けを、今後も、実質的に差別的でなく、かつ、競争上不利にならない条件で行うことを、公正取引委員会に対して申し出た。
当事会社の申出内容が履行されれば、今後もPTS 事業者がJSCC に清算業務を委託できる状況が確保され、当事会社に対するPTS 事業者の競争圧力は失われないと考えられる。
ア 役務範囲
公正取引委員会は、デリバティブ取引(対象となる原資産の経済価値から派生してその経済価値が定められる取引をいう。以下同じ。)については、原資産の違い及び先物取引(将来の一定の時期における決済を前提に、特定の原資産の取引価格等をあらかじめ約定しておく取引をいう。以下同じ。)とオプション取引(あらかじめ定められた将来の一定の時期において、特定の原資産を一定の行使価格で取引する権利を売買する取引をいう。)の違いに着目した。多くの需要者はデリバティブ取引の種類を選択しており、基本的にこれらの間には需要の代替性が認められないことから、役務範囲を「日本株に関する株価指数先物取引の売買関連業務」として画定した。
イ 地理的範囲
需要者は海外の取引所での取引をある程度容易に行えることが認められることから、「世界全体」を地理的範囲として画定した。
(注3) 地理的範囲を世界全体としても、日本株に関する株価指数先物取引を取り扱っている海外の取引所は、後記アにおけるF社及びG社等の数社に限られる。
ア 市場構造の変化
統合後の当事会社の合算市場シェアは約70%、統合後のHHI は約5、300、HHI の増分は約2、000であり、水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。
イ 当事会社の主張と評価
当事会社は、当事会社が直接的に競合していないこと、隣接市場からの競争圧力が働いていること、効率性が向上すること等を理由に競争を実質的に制限することとはならないと主張していたが、いずれの主張についても認められない。
ウ 競争事業者の状況
大証の代表的な日本株に関する株価指数先物取引である日経225先物取引を取り扱う競争者であるF社は、同じく日経225先物取引を取り扱う大証に対して強い競争圧力を有しているが、東証の代表的な日本株に関する株価指数先物取引であるTOPIX 先物取引に対しては有効な競争圧力を有していないと考えられる。
本件統合後も、有力な競争事業者であるF社が存在し、大証に対しては強い競争圧力を有しているものの、東証のTOPIX 先物取引に対してはF社の競争圧力は直接的に及ばないと考えられる。そのため、本件統合により、特に、TOPIX 先物取引及び日経225先物取引を選択的に利用する程度が高い需要者を主たる対象として、東証が大証に対して積極的に行ってきた競争が失われることとなることから、TOPIX 先物取引に関して、当事会社が単独である程度自由に価格等を左右することができる状態が現出し、本件統合により日本株に関する株価指数先物取引の売買関連業務について競争を実質的に制限することとなると考えられる。
東証は、NYSE Liffe(注4)との契約において、NYSE Liffe のTOPIX 先物取引の取引時間を、東証のTOPIX 先物取引の取引量が多い日本時間の午前9時から午後3時までと重複しないよう制限していたところ、当事会社は当該時間帯においてもNYSE Liffe のTOPIX 先物取引の取引を行うことができるよう、当該時間帯におけるTOPIX の使用に関する合理的な条件のライセンスをNYSE Liffe に提供すること等を、公正取引委員会に対して申し出た。
デリバティブ取引に関して世界有数の取引量を有するNYSE Liffe に対するTOPIXのライセンス等の提供は、既存の競争事業者が牽制力を有することとなるよう強化するものであり、有効な問題解消措置となると考えられる。
(注4) NYSE Liffe は、NYSE Euronext グループに属し、ロンドンに拠点を置く取引所である。各種デリバティブ取引に関して世界有数の取引量がある。2010年から、東証からTOPIX のライセンスを受け、TOPIX 先物取引を取り扱っている。
当事会社が申し出た問題解消措置を前提とすれば、本件統合が一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。
本件は、家電小売業を営む㈱ヤマダ電機(以下「ヤマダ電機」という。)が、家電小売業を営む㈱ベスト電器(以下「ベスト電器」という。)の株式を取得し、議決権の過半数を取得すること(以下「本件株式取得」という。)を計画したものである。関係法条は、独占禁止法第10条である。
本件においては、一部地域における家電小売業について、ヤマダ電機が公正取引委員会に申し出た問題解消措置を前提とすれば、本件株式取得が一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。
審査結果の詳細は、後記2から7までのとおりである。
家電製品を取り扱う小売業者には、実店舗で販売を行う家電量販店、総合スーパー、ホームセンター、ディスカウントストア(以下、総合スーパー、ホームセンター及びディスカウントストアをまとめて「GMS 等」という。)、地域家電小売店(家電メーカーの系列店や地場の電気店を指す。以下同じ。)のほか、通販事業者が存在するが、品ぞろえやアフターサービスを考慮すると、家電量販店の家電小売業とその他家電小売業者の家電小売業との間における代替性の程度は低いと認められることから、「家電量販店における家電小売業」を役務範囲として画定した。
家電量販店においては、店舗ごとに競争が行われており、消費者の買い回りの範囲等から個別店舗ごとの商圏を設定しているところ、当事会社はおおむね「店舗から半径10キロメートル」を商圏として設定していること、また、当事会社以外の家電量販店に対するヒアリングにおいても、同様の見解が多くみられたことから、「店舗から半径10キロメートル」を地理的範囲として画定した。
前記2で画定した一定の取引分野において、当事会社が競合している地域は253地域存在する。
前記253地域について、一般に、同一地域内における事業者数が多い地域ほど、競争が活発であると考えられる。また、本件株式取得が各地理的範囲における競争に与える影響を検討する場合、一般的に、もともと事業者数が多く本件株式取得により事業者数が1社減少する地域よりも、もともと事業者数が少なく本件株式取得により更に1社減少する地域の方が、競争に与える影響が大きいと考えられる。さらに、各家電量販店は、自社店舗の近隣に所在する特定の競合家電量販店の店舗を注視し、当該店舗を強く意識しながら価格設定を行っている実態にある。
当事会社は、家電量販店の出店に関して制度面又は実態面の参入障壁は存在しないと主張しているところ、現に、制度上の参入障壁は低いものと考えられる。しかし、競争事業者からのヒアリングによると、自社の出店戦略により参入意欲を有する地域はおのずと限定されるとしていることから、全ての地域について等しく参入圧力が働いているとは認められない。
なお、競争事業者による具体的な出店計画が明らかになっている地域については、顕在的な参入圧力が働いていると認められる。
当事会社は、地理的に隣接する市場(以下「地理的隣接市場」という。)からの競争圧力が働いていると主張している。この点について、ヤマダ電機から提出された資料によれば、店舗によっては消費者が地理的範囲(店舗を中心に半径10キロメートル)を超えて買い回っている実態が見てとれるケースもあり、また、当事会社は特定の店舗について、地理的範囲の外側に所在する競争事業者の店舗を注視しているケースもあることから、店舗によっては、地理的隣接市場からの競争圧力が働いている場合もあると考えられる。
当事会社は、GMS 等からの競争圧力が働いていると主張している。しかし、家電量販店と比較してGMS 等が取り扱う家電製品の品ぞろえは限定されており、また、ヒアリング調査の結果によると、家電量販店とGMS 等は互いに家電小売業において競争関係にあるとは認識していないとしている。さらに、地方公共団体によって公表されている消費者の購買行動に係るアンケート調査結果や、当事会社が提出した店舗ごとの財務データ等に基づいて行った経済分析の結果においても、GMS 等が商圏内に存在することが競争圧力となっているという事情は一般的には認められなかった。
したがって、個別の地域において具体的な競争圧力となる例外的な事情が認められる場合を除き、GMS 等は、家電量販店に対する競争圧力になっているとはいえないと考えられる。
当事会社は、通販事業者からの強い競争圧力が働いていると主張しているところ、現に、インターネット販売を中心とした通販事業者による販売が家電製品の販売の一定割合を占めており、更に近年増加傾向にあることは認められる。しかし、①ヤマダ電機から提出された資料によれば、通販事業者を買い回り先としている顧客は少数にとどまること、②家電量販店に対するヒアリング調査の結果によると、家電量販店と通販事業者は、ほぼすみ分けられており、強い競争圧力にはなっていないという意見が多くみられたこと、③通販事業者に対するヒアリング調査によると、家電量販店と通販事業者は価格面で全面的な競争関係にはないとしていること、④多くの通販事業者は、家電量販店と同等のアフターサービスや品ぞろえを提供しているわけではないこと等から判断すると、インターネット販売を中心とした通販事業者は、家電量販店に対し、ある程度の競争圧力となっている点は否定できないが、強い競争圧力になっているとまではいえないものと認められる。
当事会社は、ベスト電器が業績不振に陥っているため、本件株式取得は「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」(平成16年5月31日公正取引委員会)第4の2(当事会社グループの経営状況)イ①に定める競争を実質的に制限することとなるおそれは小さい場合に該当する旨主張しているが、ベスト電器の財務状況やベスト電器の第三者割当増資の割当先の選定状況等に鑑みると、直ちに該当するとは認められない。他方、ベスト電器の業績が不振である事実は認められ、競争事業者と比較してベスト電器の事業能力は限定的であると考えられる。
当事会社は、自社の各店舗の販売価格を全国統一的に定めていることなど、自社の価格設定方法に鑑み、本件株式取得後に特定の店舗のみ価格を引き上げることはないとも主張している。しかし、当事会社から提出された実売価格のデータ等に基づき経済分析を行ったところ、各店舗において極端に大きな価格差はみられないものの、店舗ごとに一定程度の価格差がみられること等から、当該主張のみをもって、当事会社が一部店舗の価格を引き上げることができないとは必ずしもいえないと考えられる。また、本件株式取得により、価格面とは別に品ぞろえ等の観点からの競争が制限される可能性も考えられる。
当事会社が競合している地域は253地域存在するが、各地域における競争状況を詳細に検討すると、ベスト電器の経営不振により同社の事業能力が限定的であることもあり、多くの地域において、当事会社間における競争と比較して同等又はより激しい競争が、当事会社と別の競争事業者との間で展開されている実態にあると認められる。具体的には、ヤマダ電機にとって注視する対象の店舗がベスト電器以外の地域や、ヤマダ電機がベスト電器の店舗を注視しているものの、同一の地理的範囲内又は地理的隣接市場内に、当事会社の店舗と遜色ない競争力を有する競争事業者の店舗の存在が認められる地域が、合計243地域存在する。同地域では、本件株式取得後も引き続き活発な競争が展開されることが想定されるとともに、地域によっては具体的な参入計画が存在し顕在的な参入圧力が認められること及び通販事業者からの一定程度の競争圧力が認められることを併せて考えれば、本件株式取得により、当事会社の単独行動又は競争事業者との協調的行動によって競争が実質的に制限されることとはならないと考えられる。
他方、残りの10地域(注)(以下「10地域」という。)については、ヤマダ電機がベスト電器の店舗を注視しており、同一の地理的範囲内又は地理的隣接市場内に当事会社の店舗と比較して遜色ない競争力を有する競争事業者の店舗の存在は認められず、本件株式取得により当該地理的範囲における競争が実質的に制限されることとなると認められる。
(注) ①甘木地域(福岡県)、②唐津地域(佐賀県)、③島原地域(長崎県)、④諫早地域(長崎県)、⑤大村地域(長崎県)、⑥人吉地域(熊本県)、⑦種子島地域(鹿児島県)、⑧宿毛地域(高知県)、⑨四万十地域(高知県)、⑩秩父地域(埼玉県)
前記4のとおり、本件株式取得により、10地域における競争が実質的に制限されることとなることから、ヤマダ電機は、公正取引委員会に対して次の問題解消措置を講じることを申し出た。
(1) ヤマダ電機は、10地域それぞれについて、当該地域に所在する当事会社の店舗のうち1店舗を第三者に譲渡することとし、平成25年6月30日までに譲渡の契約を締結する(当該地域に所在する当事会社のフランチャイズ店舗〔以下「FC 店舗」という。〕が第三者のFC 店舗となることを選択した場合には、譲渡があったものとみなす。)。ただし、④諫早地域と⑤大村地域は互いに隣接していることから、両地域に所在する当事会社の店舗のうち1店舗を譲渡する。同様に、⑧宿毛地域と⑨四万十地域についても、両地域に所在する当事会社の店舗のうち1店舗を譲渡する(合計8店舗の譲渡)。同日までに譲渡の契約が締結されなかった地域又は同日までに譲渡の契約が締結されたがその後譲渡が実行されなかった地域においては、適切かつ合理的な方法及び条件で、当該地域に所在する当事会社の店舗(FC 店舗を除く。)について速やかに入札手続を行う。
(2) ヤマダ電機は、店舗の譲渡が完了するまでの間、対象店舗の事業価値を毀損しないようにするとともに、各対象店舗において消費者に不当に不利な価格設定を行わない。
(3) ヤマダ電機は、店舗の譲渡が完了するまでの間、定期的に、各対象店舗等の家電製品の販売価格について公正取引委員会に報告するとともに、店舗の譲渡の実施状況等について、その内容を当委員会に速やかに報告する。
ヤマダ電機の申し出た措置は構造的措置であり、10地域において当事会社の店舗を譲渡することにより、当該地域において新規の独立した競争者を創出するものであることから、適切な措置であると評価できる。
ヤマダ電機が申し出た問題解消措置により、本件株式取得が10地域における競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。