第2部 各論

第1章 独占禁止法制等の動き

第1 独占禁止法改正に伴う政令等の整備等

1 独占禁止法施行令等の改正

公正取引委員会が行う審判制度の廃止,排除措置命令等を行う際の処分前手続として実施される意見聴取手続の整備等を内容とする「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律」(平成25年法律第100号。以下「平成25年独占禁止法改正法」という。)は,平成25年12月7日,第185回臨時国会において可決・成立し,同月13日に公布された後,平成27年4月1日に施行された。

平成25年独占禁止法改正法の施行に伴い,「独占禁止法施行令」,「公正取引委員会の審判費用等に関する政令」,「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第47条第2項の審査官の指定に関する政令」及び「公正取引委員会事務総局組織令」について,所要の改正を行った(平成27年政令第15号〔平成27年1月21日公布,4月1日施行〕,平成27年政令第82号〔平成27年3月25日公布,4月1日施行〕及び平成27年政令第181号〔平成27年4月10日公布・施行〕)。概要は以下のとおりである。

(1) 独占禁止法施行令

平成25年独占禁止法改正法の施行により審判制度に関係する条文が削除されることに伴い,引用条文の削除及び修正を行った。

(2) 公正取引委員会の審判費用等に関する政令

平成25年独占禁止法改正法の施行に伴い,独占禁止法第75条の参考人及び鑑定人の旅費等について規定した本政令の題名を「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の調査手続における参考人及び鑑定人の旅費及び手当に関する政令」と改めた。

(3) 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第47条第2項の審査官の指定に関する政令

平成25年独占禁止法改正法の施行に伴い,審査官に指定する者の要件から,「審判に立ち会う」ために必要な法律及び経済の知識経験に係るものを削除した。

(4) 公正取引委員会事務総局組織令

平成25年独占禁止法改正法の施行に伴い,公正取引委員会事務総局の官房,局及び課の所掌事務の範囲につき所要の改正を行ったほか,当委員会の訟務体制を強化するため,審査局訟務官を新設する改正を行った。

2 公正取引委員会規則の制定等

(1) 「公正取引委員会の意見聴取に関する規則」の制定

平成25年独占禁止法改正法により整備された排除措置命令等を行う際の処分前手続として実施される意見聴取,公正取引委員会の認定した事実を立証する証拠の閲覧・謄写に係る手続を定めるため,「公正取引委員会の意見聴取に関する規則」(平成27年公正取引委員会規則第1号〔平成27年1月21日公布,4月1日施行〕)を制定した。概要は以下のとおりである。

ア 平成25年独占禁止法改正法による改正後の独占禁止法第50条第1項の規定による排除措置命令等を行う前の通知は,事件名等を記載した文書の送達により行うこととした。

イ 意見聴取の期日・場所について,当事者は,やむを得ない理由がある場合には,平成25年独占禁止法改正法による改正後の独占禁止法第53条の規定による意見聴取を主宰する職員(以下「指定職員」という。)に対して,その変更を申し出ることができることとした。

ウ 代理人の資格は,書面で証明しなければならないこととした。

エ 平成25年独占禁止法改正法による改正後の独占禁止法第52条第1項の規定による証拠の閲覧・謄写について,請求手続,日時等の指定,謄写の対象となる証拠の範囲等を規定した。

オ 指定職員について,指定の時期,指定した場合の指定職員の氏名の通知等を規定した。

カ 指定職員は,必要があると認めるときは,意見聴取の期日に先立ち,当事者に対し,期日において陳述しようとする事項を記載した書面等の提出を求めることができることを規定した。

キ 指定職員は,意見聴取の適正な進行を図るためにやむを得ないと認めるときは,意見聴取の期日に出頭した者に対し,意見陳述等を制限することができることとした。

ク 証拠の提出に当たって必要な書面,陳述書に必要な記載事項等を規定した。

ケ 意見聴取調書及び意見聴取報告書について,記載する事項,作成した場合の通知,閲覧の手続等を規定した。

(2) その他の関係公正取引委員会規則の改正等

平成25年独占禁止法改正法の施行に伴い,「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第70条の12第1項に規定する審判手続に関する規則」,「公正取引委員会の審判に関する規則」及び「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第53条第1項に規定する審判手続に関する規則」を廃止するとともに,規定の削除,引用条文の修正等が必要となる「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第9条から第16条までの規定による認可の申請、報告及び届出等に関する規則」,「課徴金の納付の督促状の様式等に関する規則」,「公正取引委員会の所管する法令に係る行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律施行規則」及び「公正取引委員会の審査に関する規則」についての所要の改正を行った。

3 独占禁止法審査手続についての懇談会

平成25年独占禁止法改正法附則第16条において,「政府は、公正取引委員会が事件について必要な調査を行う手続について、我が国における他の行政手続との整合性を確保しつつ、事件関係人が十分な防御を行うことを確保する観点から検討を行い、この法律の公布後一年を目途に結論を得て、必要があると認めるときは、所要の措置を講ずるものとする」こととされた。

平成25年独占禁止法改正法附則第16条の規定に鑑み,内閣府特命担当大臣の下で「独占禁止法審査手続についての懇談会」(座長:宇賀克也東京大学大学院法学政治学研究科教授)が,平成26年2月から開催された。同懇談会は,同年12月に報告書を取りまとめ,内閣府特命担当大臣に提出した(平成26年12月24日公表)。

第2 その他の所管法令等の改正

1 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第九条から第十六条までの規定による認可の申請,報告及び届出等に関する規則の改正

(1) 経緯

「規制改革実施計画」(平成26年6月24日閣議決定)を踏まえ,独占禁止法第9条に基づく事業に関する報告及び届出制度について,簡素化のための手法を検討し,「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第九条から第十六条までの規定による認可の申請,報告及び届出等に関する規則」(昭和28年公正取引委員会規則第1号)を改正した(平成27年3月31日公布,同年4月1日施行)。

(2) 内容

事業報告書又は会社設立届出書の様式について,以下のとおり改正した。

ア 会社名等を記載する子会社及び実質子会社の限定

(ア) 子会社及び実質子会社(注1)のうち,総資産額等が一定の規模に満たない会社については,会社名,総資産額,事業分野,売上額等の記載を不要とした。

(イ) 子会社及び実質子会社のうち,連結子会社以外の会社であり,持分法の適用のない会社については,会社名,総資産額,事業分野,売上額等の記載を不要とした。

(注1) 「実質子会社」とは,会社の議決権保有比率が25%超50%以下であり,かつ,会社の議決権保有比率が最も高い(他に同率の株主がいる場合を除く。)他の国内の会社をいう。

イ 提出会社グループ(注2)の総資産合計額の計算に含める会社の限定

①提出会社及び子会社の総資産合計額並びに②提出会社,子会社及び実質子会社(金融会社を除く。)の総資産合計額の報告に当たっては,連結子会社以外の会社で持分法の適用のない会社を計算の対象から除いた総資産合計額が一定の基準を満たす場合は,当該総資産合計額をそれぞれ報告することができることとした。

(注2) 「会社グループ」とは,会社,子会社及び実質子会社により構成されるグループをいう。

ウ 提出会社の議決権保有比率の記載欄の削除

子会社及び実質子会社それぞれについての提出会社の議決権保有比率(子会社が保有する分を含む。)の記載を不要とした。

エ 記載する事業分野の限定

記載を要する提出会社又は子会社の事業分野を,当該会社にとって売上額が最も多いもののみとした。

オ 市場占拠率(シェア)10%以上である場合の報告

提出会社及び子会社それぞれについての売上額の市場占拠率(シェア)が10%以上である場合(10%以上であると推定される場合も含む。)の報告に当たっては,最近の政府統計を用いて市場占拠率(シェア)を算出することができることを明示した。

2 所得税法等の一部を改正する法律の制定に伴う消費税転嫁対策特別措置法の改正等

(1) 消費税転嫁対策特別措置法の改正

現下の経済情勢等を踏まえ,デフレ脱却と経済再生の観点から,経済再生と財政健全化を両立するための消費税率の引上げの施行日の変更等,所要の措置を一体として講ずる必要があるため,「所得税法等の一部を改正する法律案」が第189回通常国会に提出された。同法律案は,消費税率の引上げの施行日の変更に伴う消費税転嫁対策特別措置法の所要の改正(同法の失効期限の平成29年3月31日から平成30年9月30日への延長等)を含むものであるところ,平成27年3月31日に可決・成立し,同日公布された(平成27年法律第9号。一部の規定を除き,平成27年4月1日施行)。

(2) 消費税の転嫁の方法及び消費税についての表示の方法の決定に係る共同行為の届出に関する規則の一部改正

消費税転嫁対策特別措置法の失効期限が平成29年3月31日から平成30年9月30日に延長されたことを踏まえ,平成27年4月1日より前に公正取引委員会に消費税の転嫁及び表示の方法の決定に係る共同行為の届出をした者の事務負担の軽減を図るため,「消費税の転嫁の方法及び消費税についての表示の方法の決定に係る共同行為の届出に関する規則」について所要の改正を行った(平成27年公正取引委員会規則第6号。平成27年5月29日公布,同日施行)。

(3) 消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法,独占禁止法及び下請法上の考え方の改正

消費税転嫁対策特別措置法の改正に伴い,「消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法,独占禁止法及び下請法上の考え方」(平成25年9月10日公表)について所要の改正を行った(平成27年4月1日改正)。

第3 独占禁止法と他の経済法令等の調整

1 法令協議

公正取引委員会は,関係行政機関が特定の政策的必要性から経済法令の制定又は改正を行おうとする際に,これら法令に独占禁止法の適用除外や競争制限的効果をもたらすおそれのある行政庁の処分に係る規定を設けるなどの場合には,その企画・立案の段階で,当該行政機関からの協議を受け,独占禁止法及び競争政策との調整を図っている。

2 行政調整

公正取引委員会は,関係行政機関が特定の政策的必要性から行う行政措置等について,独占禁止法及び競争政策上の問題が生じないよう,当該行政機関と調整を行っている。