第2部 各論

第10章 消費税転嫁対策特別措置法に関する業務

第1 概説

消費税転嫁対策特別措置法は,消費税率の引上げに際し,消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保することを目的として,平成25年6月5日に成立し,同年10月1日に施行された。

消費税転嫁対策特別措置法は,消費税の転嫁拒否等の行為の是正に関する特別措置を定めており,平成26年4月1日以後に特定供給事業者から受ける商品又は役務の供給に関して,特定事業者の遵守事項として,①減額又は買いたたき(第3条第1号),②商品購入,役務利用又は利益提供の要請(第3条第2号),③本体価格での交渉の拒否(第3条第3号),④報復行為(第3条第4号)を定め,公正取引委員会は,その特定事業者に対し,これらの行為を防止し,又は是正するために必要な指導又は助言をする旨を定め(第4条),また,これらの消費税の転嫁拒否等の行為(以下「転嫁拒否行為」という。)が認められた場合には,速やかに消費税の適正な転嫁に応じることその他必要な措置を採るべきことを勧告する旨を定めている(第6条)。

消費税転嫁対策特別措置法は,消費税の転嫁及び表示の方法の決定に係る共同行為に関する特別措置を定めており,事業者又は事業者団体が公正取引委員会に届出をしてする特定の共同行為について,独占禁止法の適用を除外する旨を定めている(第12条)。

第2 消費税の転嫁拒否等の行為の是正に関する特別措置

1 転嫁拒否行為に関する情報収集

(1) 相談窓口における対応

公正取引委員会は,本局及び全国の地方事務所等に相談窓口を設置しており,当該窓口において転嫁拒否行為等に関する事業者からの相談や情報提供を一元的に受け付けている。

また,平成26年4月1日の消費税率の引上げ時に集中する相談に対応するため,休日専用ダイヤルを設け,平成26年3月及び4月の毎週土曜日に,電話相談を受け付けるなど相談対応の強化を図った。

平成26年度においては,1,370件の相談に対応した。

(2) 書面調査

公正取引委員会は,転嫁拒否行為を受けた事業者にとって,自らその事実を申し出にくい場合もあると考えられることから,転嫁拒否行為を受けた事業者からの情報提供を受動的に待つだけではなく,書面調査を実施し,中小企業・小規模事業者等(売手側)から転嫁拒否行為に関する情報収集を積極的に行っている。

平成26年度においては,中小企業庁と合同で,中小企業・小規模事業者等(売手側。約400万名)に対する悉皆的な書面調査を実施した。また,中小企業庁と合同で,個人事業者(売手側。約350万名)に対する書面調査を実施した。さらに,中小企業庁と合同で,大規模小売事業者及び大企業等(買手側。約4万名)に対して,報告義務を課した書面調査を実施した。

(3) 大規模小売事業者を含む大企業等に対する集中的な立入検査

公正取引委員会は,大規模小売事業者を含む大企業等の特定事業者に対して,平成26年4月に96件の集中的な立入検査を実施した。

(4) 事業者及び事業者団体に対するヒアリング調査

公正取引委員会は,平成26年度において,様々な業界における転嫁拒否行為に関する情報や取引実態を把握するため,8,744名の事業者及び1,263の事業者団体に対してヒアリング調査を実施した。

(5) 移動相談会

公正取引委員会は,事業者にとって,より一層相談しやすい環境を整備するため,全国各地で移動相談会を実施することとし,平成26年度においては,移動相談会を47回実施した。

(6) 下請法の書面調査の活用

公正取引委員会は,下請法の書面調査を通じて,転嫁拒否行為に関する情報も併せて収集し,当該調査を通じて転嫁拒否行為に関する情報が得られた場合には,速やかに調査を行った。

(7) 下請法との一体的な運用

公正取引委員会は,消費税転嫁対策特別措置法に基づく調査において,下請法に違反する事実(発注書面不交付・不備,受領拒否,割引困難な手形の交付等)が判明した場合には,下請法に基づき迅速かつ厳正に対処した。

2 転嫁拒否行為に対する調査・措置等

(1) 転嫁拒否行為に対する調査件数及び勧告・指導件数

公正取引委員会は,様々な情報収集活動によって把握した情報を踏まえ,立入検査等の調査を積極的に実施し,転嫁拒否行為に対しては,指導により転嫁拒否行為に係る不利益の回復などの必要な改善措置を講ずるよう迅速かつ厳正に対処している。また,重大な転嫁拒否行為が認められた場合には勧告を行うとともに,特定事業者名,違反行為の概要等を公表している。

平成26年度において,1,456件の調査に着手し,19件について勧告を行い,316件について指導を行った(第1表参照)。

第1表 転嫁拒否行為に対する対応状況

(注1) 平成25年度は平成25年10月以降の件数。以下第2表から第5表において同じ。括弧内の件数は,大規模小売事業者に対する勧告又は指導の件数で内数である。

第2表 勧告及び指導件数の内訳(業種別)

(注2) 複数の業種にわたる事業者が勧告又は指導の対象となった場合は,当該事業者の主な業種を1件として計上している。

(注3) 「その他」は,医療福祉,旅行業,自動車整備業・機械等修理業,労働者派遣業等である。

(2) 行為類型別件数

平成26年度において勧告又は指導が行われた違反行為を行為類型別にみると,買いたたき(消費税転嫁対策特別措置法第3条第1号後段)が287件,減額(同法第3条第1号前段)が35件,商品購入,役務利用又は利益提供の要請(同法第3条第2号)が22件及び本体価格での交渉の拒否(同法第3条第3号)が15件となっている(第3表参照)。

第3表 勧告及び指導件数の内訳(行為類型別)

(注4) 事業者の中には,複数の行為を行っている場合があり,第1表及び第2表に記載の件数とは一致しない。

(3) 特定供給事業者が被った不利益の原状回復の状況

平成26年度においては,転嫁拒否行為によって特定供給事業者が被った不利益について,特定事業者228名から,特定供給事業者33,094名に対し,総額4億1153万円の原状回復が行われた。

3 勧告事件及び主な指導事例

平成26年度における勧告事件及び主な指導事例は次のとおりである。

(1) 勧告事件

(2) 主な指導事例

第3 消費税の転嫁及び表示の方法の決定に係る共同行為に関する特別措置

1 制度の概要

消費税転嫁対策特別措置法では,消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保するため,消費税の転嫁及び表示の方法の決定に係る共同行為について,公正取引委員会に事前に届け出ることにより独占禁止法に違反することなく行うことができるものとしている。

2 届出の受付等

公正取引委員会は,本局及び全国の地方事務所等において,消費税の転嫁及び表示の方法の決定に係る共同行為の届出を受け付けたほか,事業者又は事業者団体からの届出書の記載方法等に関する相談を受け付けた。

平成26年度においては,消費税の転嫁の方法の決定に係る共同行為(以下「転嫁カルテル」という。)13件,消費税についての表示の方法の決定に係る共同行為(以下「表示カルテル」という。)3件の合計16件の届出を受け付けた(転嫁カルテル及び表示カルテルの届出件数は第4表,業種別届出件数は第5表参照)。転嫁カルテル及び表示カルテルの届出状況は,届出を受け付けた月ごとに取りまとめて,翌月,公正取引委員会のウェブサイトに掲載した。

平成26年度においては,50件の相談に対応した。

第4表 転嫁カルテル及び表示カルテルの届出件数

第5表 業種別届出件数

(注1) 複数の業種にわたる場合の届出があるので,合計の数字は第4表に記載の届出件数と一致しない。

(注2) 「その他」の業種は,運輸業,建設業等である。

3 政令指定組合からの届出に係る主務大臣に対する通知

消費税転嫁対策特別措置法では,法律の規定に基づいて設立された組合であって政令で定めるもの(以下「政令指定組合」という。)は,当該政令指定組合の設置根拠法の規定にかかわらず,転嫁カルテル及び表示カルテルをすることができることとされており(第13条第1項),公正取引委員会は,政令指定組合からの届出を受理したときは,当該政令指定組合を所管する大臣に通知を行うこととされている(第13条第2項)。

平成26年度においては,政令指定組合から,転嫁カルテル4件及び表示カルテル1件を受理し,それぞれの政令指定組合を所管する大臣に通知を行った。

第4 消費税転嫁対策特別措置法の普及・啓発

公正取引委員会は,消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保することを目的として,消費税転嫁対策特別措置法の周知等の転嫁拒否行為を未然に防止するための各種の施策を実施している。

1 消費税転嫁対策特別措置法に係る説明会等

(1) 公正取引委員会主催説明会

公正取引委員会は,消費税転嫁対策特別措置法の内容を広く周知するため,事業者及び事業者団体を対象として,当委員会主催の説明会を実施しており,平成26年度においては,30回の説明会を実施した。

(2) 講師派遣

公正取引委員会は,商工会議所,商工会及び事業者団体が開催する説明会等に,当委員会事務総局の職員を講師として派遣しており,平成26年度においては,職員を59回派遣した。

2 消費税転嫁対策特別措置法に係る広報

(1) リーフレット

公正取引委員会は,消費税転嫁対策特別措置法の内容を簡潔に説明したリーフレットを配布した。

(2) パンフレット

公正取引委員会は,消費税転嫁対策特別措置法等の内容を分かりやすく説明した事業者等向けパンフレットを当委員会のウェブサイトに掲載しているほか,商工会議所,商工会,地方自治体等に配布した。

また,消費税転嫁対策特別措置法の運用を踏まえ,主な違反事例について説明したパンフレットを作成し,公正取引委員会のウェブサイトに掲載したほか,商工会議所,商工会,地方自治体等に配布した。

(3) ウェブサイトの活用

公正取引委員会は,当委員会のウェブサイトに「消費税転嫁対策コーナー」を設けており,リーフレット,パンフレット等の資料,相談窓口(転嫁拒否行為等についての相談窓口)・届出窓口(転嫁カルテル及び表示カルテルの届出窓口),月ごとの転嫁カルテル及び表示カルテルの届出状況,「消費税の転嫁拒否等の行為に関するよくある質問」などを掲載した。

(4) 消費税率の引上げ時期における集中的な広報

公正取引委員会は,消費税率の引上げの時期において,転嫁拒否行為が禁止されていること,転嫁拒否行為に対して当委員会が厳しく監視していること及び転嫁拒否行為に関する積極的な情報提供を求めていることを広く周知するため,①新聞広告,②雑誌広告及び③インターネット広告といった各種の媒体を活用した事業者向け広報を集中的に実施した。