第2部 各論

第11章 国際関係業務

第1 独占禁止協力協定等

近年,複数の国・地域の競争法に抵触する事案,複数の国・地域の競争当局が同時に審査を行う必要のある事案等が増加するなど,競争当局間の協力・連携の強化の必要性が高まっている。このような状況を踏まえ,公正取引委員会は,二国間独占禁止協力協定等に基づき,関係国の競争当局に対し執行活動等に関する通報を行うなど,外国の競争当局との間で緊密な協力を行っている。

1 独占禁止協力協定

(1) 日米独占禁止協力協定

日本国政府は,米国政府との間で,平成11年10月7日に「反競争的行為に係る協力に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」に署名し,同協定は同日に発効した。同協定は,両政府の競争当局間における執行活動に係る通報,協力,調整,執行活動の要請,重要な利益の考慮等を規定している。

(2) 日欧州共同体独占禁止協力協定

日本国政府は,欧州共同体との間で,平成15年7月10日に「反競争的行為に係る協力に関する日本国政府と欧州共同体との間の協定」に署名し,同協定は同年8月9日に発効した。同協定は,前記日米独占禁止協力協定とほぼ同様の内容となっている。

(3) 日加独占禁止協力協定

日本国政府は,カナダ政府との間で,平成17年9月6日に「反競争的行為に係る協力に関する日本国政府とカナダ政府との間の協定」に署名し,同協定は同年10月6日に発効した。同協定は,前記日米独占禁止協力協定とほぼ同様の内容となっている。

2 競争当局間の協力に関する覚書等

平成25年度に締結したフィリピン司法省及びベトナム競争庁との協力に関する覚書等に加え,平成26年度においては,更に以下の2つの競争当局との間で覚書を締結した。

(1) ブラジル経済擁護行政委員会との協力に関する覚書

公正取引委員会は,ブラジル連邦共和国の競争当局である経済擁護行政委員会との間で,平成26年4月24日に「日本国公正取引委員会とブラジル連邦共和国経済擁護行政委員会との間の協力に関する覚書」に署名し,同覚書に基づく協力が開始された。同覚書は,両競争当局間における執行活動に係る通報,協力,調整,執行活動の要請,重要な利益の考慮等を規定している。

(2) 韓国公正取引委員会との協力に関する覚書

公正取引委員会は,大韓民国の競争当局である公正取引委員会との間で,平成26年7月25日に「日本国公正取引委員会と大韓民国公正取引委員会との間の協力に関する覚書」に署名し,同覚書に基づく協力が開始された。同覚書は,前記ブラジル経済擁護行政委員会との協力に関する覚書とほぼ同様の内容となっている。

第2 競争当局間協議

公正取引委員会は,我が国と経済的交流が特に活発な国・地域の競争当局等との間で競争政策に関する協議を定期的に行っている。平成26年度における協議の開催状況は,次のとおりである。

第1表 平成26年度における競争当局間協議の開催状況

第3 経済連携協定への取組

近年における経済のグローバル化の進展と並行して,地域貿易の強化のため,現在,多くの国が,経済連携協定や自由貿易協定の締結又は締結のための交渉を行っている。競争政策の観点からは,経済連携協定が市場における競争を一層促進するものとなることが重要であり,公正取引委員会は,このような観点から我が国の経済連携協定締結に関する取組に参画している。我が国がこれまでに締結した経済連携協定のうち,次のものには,競争に関する規定が設けられ,両国が反競争的行為に対する規制の分野において協力することが盛り込まれている。

第2表 我が国が締結した経済連携協定のうち競争に関する規定が設けられているもの

(注1) 平成19年3月に両国間で見直しのための改正議定書が署名され,同年9月に発効した。競争に関する章については,実施取極において,シンガポール側における競争法導入及び競争当局設立に伴う修正が行われた。

(注2) 平成20年4月に日本及び全ASEAN構成国の署名が完了した。

(注3) 日本とシンガポール,ラオス,ベトナム及びミャンマーとの間では平成20年12月に,ブルネイとの間では平成21年1月に,マレーシアとの間では同年2月に,タイとの間では同年6月に,カンボジアとの間では同年12月に,フィリピンとの間では平成22年7月に発効した。インドネシアとの間では未発効である。

第4 多国間関係

1 国際競争ネットワーク(ICN:International Competition Network)

(1) ICNの概要

ICNは,競争法執行における手続面及び実体面の収れんを促進することを目的として平成13年10月に発足した各国競争当局を中心としたネットワークであり,平成27年3月31日現在,118か国・地域から131の競争当局が参加している。このほか,国際機関,研究者,弁護士等の非政府アドバイザー(Non-Governmental Advisors,NGA)もICNに参加している。

ICNは,主要な20の競争当局の代表者で構成される運営委員会(Steering Group)により,その全体活動が管理されている。公正取引委員会委員長は,ICNの設立以来,運営委員会のメンバーとなっている。このほか,当委員会は,ICN成果物の唱導及び実施(Advocacy and Implementation)を担当しており,他のICNに加盟する競争当局と協力し,ICN成果物の唱導及び実施ネットワークサポートプログラム(AISUP,平成20年8月に当委員会の主導により設立されたICN成果物を用いて経験の浅い競争当局の法改正等を支援するためのプログラム)の運用を行っている。

ICNは,運営委員会の下に,テーマごとに①カルテル作業部会,②企業結合作業部会,③単独行為作業部会,④アドボカシー作業部会及び⑤競争当局有効性作業部会の5つの作業部会並びにICNの組織及び運営等に関する作業部会を設置している。これらの作業部会においては,電話会議,質問票の活用,各国競争当局からの書面提出等を通じて,それぞれの課題に対する検討が行われているほか,テーマごとにワークショップが開催されている。公正取引委員会は,これらの活動に積極的に取り組んでおり,平成23年度の第10回年次総会から平成26年度の第13回年次総会までの間はカルテル作業部会の共同議長を,第13回年次総会以降は同作業部会サブグループ(SG1)の共同議長を務めている。また,ICNは,これらの作業部会の成果の報告,次年度のワークプランの策定等のため,年次総会を開催しており,平成26年度の第13回年次総会は,平成26年4月22日から同月25日にかけてモロッコ・マラケシュにおいて開催され,当委員会からは委員長ほか事務総局の職員5名がパネリスト等として参加した。

平成26年度における主な会議の開催状況は,次のとおりである。

第3表 平成26年度におけるICNの主な会議の開催状況

(2) 企業結合審査に係る国際協力枠組み

企業活動のグローバル化に伴い,複数の国の競争当局が同時に審査を行う必要があるような国際的な企業結合が増加していることから,個別の企業結合事案についての情報交換を含む競争当局間の実質的な協力が,より体系的に行われる必要がある。こうした問題意識から,公正取引委員会は,ICNにおいて,企業結合審査に係る国際協力枠組みの構築を提唱し,これを「ICNにおける企業結合審査の協力のための枠組み」として取りまとめた。平成24年4月20日,ブラジル・リオデジャネイロにおいて開催された第11回年次総会において,当該協力枠組みの構築が承認された。

当該協力枠組みは,ICNに加盟する競争当局間における企業結合審査に関する効率的かつ効果的な執行協力の促進を目的としており,①ICNに加盟する競争当局における連絡窓口となる担当官の連絡先リストの作成・管理,②関連する競争当局への接触及び情報交換の方法等を内容とするものである。

公正取引委員会は,連絡先リストの取りまとめ及び管理を担当するなどして当該協力枠組みの利用促進に協力している。

(3) 各作業部会の活動状況

平成26年度における各作業部会の活動状況は,次のとおりである。

ア カルテル作業部会

カルテル作業部会は,反カルテル執行における国内的及び国際的な諸問題に対処することを目的として設置された作業部会である。同作業部会には,ハードコア・カルテルの定義等の基本的な概念について検討を行う一般的枠組みサブグループ(SG1)及び個別の審査手法に関する情報交換等を通じてカルテルに対する法執行の効率性を高めることを目的とした審査手法サブグループ(SG2)が設置されている。

第13回年次総会以降,SG1においては,「国際カルテルに対処するための審査権限」及び「国際カルテルに対する制裁」をテーマとした電話セミナーが実施され,公正取引委員会事務総局の職員がモデレーターやスピーカーを務めた。また,当委員会は,SG1の共同議長として,同一テーマにより,アジア太平洋地域に所在する競争当局向けの電話セミナーを主催した。

他方,SG2においては,反カルテル執行マニュアルの「競争当局と調達官庁との関係」に関する章の作成が行われ,第14回年次総会に提出された。また,SG2は,ICNに加盟する競争当局のカルテル審査の実務者がカルテル審査に関する実務上の問題を議論するため,年1回,カルテルワークショップを開催している。平成26年度のワークショップは,平成26年10月,台湾・台北において開催され,「カルテルと闘うための国際協力の強化」をテーマとして議論が行われたところ,公正取引委員会事務総局の職員6名がスピーカー等として参加した。

イ 企業結合作業部会

企業結合作業部会は,企業結合審査の効率性を高めるとともに,その手続面及び実体面の収れんを促進し,国際的企業結合の審査を効率化することを目的として設置された作業部会である。

第13回年次総会以降,同作業部会においては,「企業結合における国際的な執行協力のための実務上の指針」の作成が行われたほか,「問題解消措置」をテーマとした電話セミナーが実施され,主に同セミナーの概要及び後記企業結合ワークショップにおける同テーマに係る議論を取りまとめた「企業結合審査における問題解消措置」に関する中間報告書の作成が行われ,第14回年次総会に提出された。また,企業結合届出・手続テンプレートの改訂が行われた。さらに,平成26年12月,インド・ニューデリーにおいて,企業結合ワークショップが「企業結合審査における国際協力及び問題解消措置」をテーマとして開催され,公正取引委員会事務総局の職員3名がスピーカー等として参加した。

ウ 単独行為作業部会

単独行為作業部会は,事業者による反競争的単独行為に対する規制の在り方等について議論することを目的として設置された作業部会である。

第13回年次総会以降,同作業部会においては,様々な単独行為の形態を分析する手法を取りまとめている単独行為ワークブックのうち,「抱き合わせ及びセット販売」章の作成が行われ,第14回年次総会に提出された。また,同作業部会は,「変化の速い市場における支配的地位の決定」,「非価格的手段による濫用行為の評価方法」及び「規制市場における取引拒絶」をテーマとした電話セミナーを実施した。

エ アドボカシー作業部会

アドボカシー作業部会は,競争唱導活動の有効性を向上させることを目的として設置された作業部会である。

第13回年次総会以降,同作業部会においては,競争当局が競争による利益を説明するための知識・手法や論拠等を提供するプラットフォームが政府及び立法関係者向けにICNのウェブサイト上に作成されたほか,各国・地域における競争影響評価制度の概要をとりまとめた「競争影響評価制度に関するフレームワーク」及び「競争文化に関する報告書」の作成が行われ,第14回年次総会に提出された。また,同作業部会は,「競争影響評価を実施するためのツール」をテーマとした電話セミナーを実施した。さらに,平成26年11月,モーリシャス・バラクラヴァにおいて,アドボカシーワークショップが,「アドボカシーの基礎,戦略及び評価」をテーマとして開催され,公正取引委員会事務総局の職員2名がスピーカーとして参加した。

オ 競争当局有効性作業部会

競争当局有効性作業部会は,競争政策の有効性に関する諸問題とその有効性を達成するために最もふさわしい競争当局の組織設計を検討することを目的として設立された,競争政策の実施に関する作業部会が,平成21年5月に改組されたものである。

第13回年次総会以降,同作業部会においては,各国の審査手続及び実務が当局の意思決定や手続的権利の保護にどのように寄与しているかについてICNメンバー間の理解を深める目的で立ち上げられた審査手続プロジェクトに関して,過去に同プロジェクトにおいて行われた「秘密情報の取扱い」,「透明性」及び「審査ツール」に関する調査結果を基に「審査手続に関するガイダンス」の作成が行われた。また,競争法や競争当局の実務に関する研修教材を作成するICNトレーニング・オン・デマンドプロジェクトに関して,新たに「事情聴取の技術」及び「ICNトレーニング・オン・デマンド入門」をテーマとした二つのビデオ教材の作成が行われた。これらの成果物は第14回年次総会に提出された。さらに,同作業部会は,「ケースマネジメントツール」をテーマとした電話セミナーを実施した。

2 経済協力開発機構(OECD)・競争委員会(COMP:Competition Committee)

(1) 競争委員会は,OECDに設けられている各種委員会の一つであり,昭和36年12月に設立された制限的商慣行専門家委員会が昭和62年に競争法・政策委員会に改組され,平成13年12月から現在の名称に変更されたものである。我が国は,昭和39年のOECD加盟以来,その活動に参加してきており,公正取引委員会は,同年10月の会合以降,これに参加してきている。競争委員会は,本会合のほか,その下に各種の作業部会及び競争に関するグローバルフォーラムを設け,随時会合を行っている。本会合においては,各加盟国の競争政策に関する年次報告が行われているほか,その時々の重要課題について討議が行われている。平成26年度における会議の開催状況は,次のとおりであり,当委員会は,全ての会合に出席した。

第4表 平成26年度における競争委員会の開催状況

(注) 前記会議の開催場所は,全てフランス・パリである。

(2) 平成26年6月の第121回本会合においては,①競争とジェネリック医薬品に係るラウンドテーブル討議,②航空分野における競争に係るラウンドテーブル討議等が行われた。同年12月の第122回本会合においては,①知的財産権と標準化活動に係るヒアリング,②競争当局の制度設計における変化に係るラウンドテーブル討議等が行われた。

なお,平成26年6月の第121回本会合においては,平成23年10月の第113回本会合以降競争委員会が継続的に取り組むべき中長期的戦略テーマとされていた「競争当局の執行活動に関する影響評価」及び「国際協力」のうち,「国際協力」について引き続き各作業部会において議論が行われることが決定されたほか,「競争中立性」についても中長期戦略テーマの一つとすることにつき検討されることとなった。

(3) 競争委員会に属する各作業部会の平成26年度における主要な活動は,次のとおりである。

ア 第2作業部会では,平成26年6月及び同年12月の2回の会合にわたって,中長期的戦略テーマの一つである「競争当局の執行活動に関する影響評価」について,特定の競争法執行活動の事後評価に係る議論及びヒアリングが行われた。また,同年6月の会合においては,ブロードバンド普及に関するファイナンスに係るラウンドテーブル討議が,同年12月の会合においては,構造分離理事会勧告の見直しに係る討議が,それぞれ行われた。

イ 第3作業部会では,平成26年6月の会合において,もう一つの中長期的戦略テーマである「国際協力」について,競争法執行における加盟国間の協力に関する理事会勧告の改定に係る議論が行われたところ,同理事会勧告は本会合及び理事会の承認を経て同年9月に改定された。また,同年12月の会合においては,リニエンシー制度におけるマーカーの活用に係るラウンドテーブル討議が行われた。

3 東アジア競争政策トップ会合及び東アジア競争法・政策カンファレンス

公正取引委員会は,東アジア競争政策トップ会合及び東アジア競争法・政策カンファレンスにおいて主導的な役割を果たしている。

東アジア競争政策トップ会合は,東アジア地域における競争当局及び競争関連当局のトップが一堂に会し,その時々の課題や政策動向等について率直な意見・情報交換を行うことにより,東アジア地域における競争当局及び競争関連当局間の協力関係を強化することを目的とするものである。同会合においては,競争法・政策の執行に係る課題,効果的・効率的な技術支援のための協力・調整等のテーマについて議論が行われている。

東アジア競争法・政策カンファレンスは,競争当局及び競争関連当局に加え,学界,産業界等からの出席者を交えて,競争法・政策に係るプレゼンテーション・質疑応答等を行い,東アジア地域における競争法・政策の普及・広報に寄与することを主要な目的とするものである。

平成26年度においては,第10回東アジア競争政策トップ会合が平成26年10月に東京において開催された。他方,東アジア競争法・政策カンファレンスについては,その開催に代えて,同月に国際法曹協会(IBA)の年次総会におけるワーキング・セッションとしてアジア競争当局ラウンドテーブルが開催された。

4 アジア太平洋経済協力(APEC)

(1) 競争政策・競争法グループ(CPLG)

APECにおいては,APEC域内における競争政策についての理解を深め,貿易及び投資の自由化及び円滑化に貢献することを目的として,貿易投資委員会の下部組織として競争政策・規制緩和グループ(CPDG)が平成8年に設置された。同グループは,平成19年に貿易投資委員会の下部組織から経済委員会(EC)の下部組織に移行し,平成20年には,競争政策・競争法グループ(CPLG)に改称した。公正取引委員会は,平成17年から平成24年12月までCPLG(改称前においてはCPDG)の議長業務を行うなど,APECにおける競争政策に関する取組に対して積極的に貢献を行っている。

平成26年度において,公正取引委員会は,平成27年2月にフィリピン・クラークにおいて開催されたCPLG会合において,我が国の競争法の執行等について報告を行った。

(2) 個別行動計画(IAP)及び共同行動計画(CAP)

APECにおいては,平成6年に合意された「自由で開かれた貿易及び投資」というボゴール目標を達成するための具体的道筋を示す大阪行動指針(平成7年採択)に基づき,APEC参加エコノミーそれぞれの自主的かつ個別的な行動を取りまとめた「個別行動計画」(IAP)及びAPEC参加エコノミーが共同して取り組むべき分野別の行動を取りまとめた「共同行動計画」(CAP)が策定されている。我が国の個別行動計画の競争章においては,競争法の厳正な執行や技術支援の実施等が掲げられており,競争政策分野における共同行動計画としては,情報交換及び対話の促進,競争法・政策に対する理解の増進,技術支援の実施等が掲げられている。

5 国連貿易開発会議(UNCTAD)

昭和55年,UNCTAD主催による制限的商慣行国連会議において,「制限的商慣行規制のための多国間の合意による一連の衡平な原則と規則」(以下「原則と規則」という。)が採択された。さらに,原則と規則は,同年の第35回国連総会において,国連加盟国に対する勧告として採択された。原則と規則は,国際貿易,特に発展途上国の国際貿易と経済発展に悪影響を及ぼす制限的商慣行を特定して規制することにより,国際貿易と経済発展に資することを目的としている。その後,このような制限的商慣行についての調査研究,情報収集等を行うために,昭和56年,制限的商慣行政府間専門家会合が設置され,平成8年のUNCTAD第9回総会において競争法・政策専門家会合と名称変更された後,平成9年12月の国連総会の決議により,競争法・政策に関する政府間専門家会合と名称が再変更された。また,同会合のほか,原則と規則の全ての側面についてレビューを行う国連レビュー会合が5年に1回開催されている。

平成26年度においては,平成26年7月7日から同月10日にかけてスイス・ジュネーブにおいて第14回競争法・政策に関する政府間専門家会合及び特別会合が開催され,公正取引委員会事務総局の職員が同会合に出席した。同会合においては,フィリピン,ナミビア及びセーシェルの競争法・政策に対する審査が行われたほか,競争政策と消費者の利益,個別事件に関する競争当局間の非公式な協力,当局の有効性の向上ツールとしての情報戦略等について議論された。

第5 海外の競争当局等に対する技術支援

近年,東アジア地域等の発展途上国において,競争法・政策の重要性が認識されてきていることに伴い,既存の競争法制を強化する動きや,新たに競争法制を導入する動きが活発化しており,これらの国に対する技術支援の必要性が高まってきている。公正取引委員会は,主として独立行政法人国際協力機構(JICA)を通じて,これら諸国の競争当局等に対し,事務総局の職員の派遣や研修の実施等による競争法・政策分野における技術支援活動を行っている。

公正取引委員会による発展途上国に対する具体的な技術支援の概要は次のとおりである。

1 ベトナムに対する技術支援

ベトナムに対して,公正取引委員会は,競争法の執行能力の強化を目的として,JICAの協力の下,平成20年9月から当委員会事務総局の職員1名をJICA長期専門家としてベトナム競争当局に累次派遣し,現地における技術支援を実施している。また,当委員会は,平成26年5月19日から同月30日にかけてベトナム競争当局の職員8名を,同年11月10日から同月28日にかけてベトナム競争当局等の職員8名を,それぞれ我が国に招へいし,競争法・政策に関する研修を実施した。さらに,平成27年3月17日及び18日にハノイにおいて開催された現地セミナーに当委員会事務総局の職員を派遣した。

2 中国に対する技術支援

中国に対して,公正取引委員会は,JICAの協力の下,平成27年1月15日及び16日に北京において開催された現地セミナーに当委員会事務総局の職員を派遣した。

3 フィリピンに対する技術支援

フィリピンに対して,公正取引委員会は,JICAの協力の下,平成26年5月21日及び22日にセブにおいて開催された裁判官向け現地セミナーに公正取引委員会委員及び事務総局の職員を,また平成27年1月28日及び29日にセブにおいて開催された裁判官向け現地セミナーに当委員会事務総局の職員を,それぞれ派遣した。また,当委員会は,フィリピンの企業結合審査ガイドライン案に関する指導及び助言業務を行うため,平成27年2月16日から18日にかけて,当委員会事務総局の職員をマニラに派遣した。

4 その他の発展途上国に対する技術支援

公正取引委員会は,JICAの協力の下,平成6年度以降,競争法制を導入しようとする国や既存の競争法制の強化を図ろうとする国の競争当局等の職員を我が国に招へいし,競争法・政策に関する研修を実施している。平成26年度においては,発展途上国4か国から6名の参加を得て,平成26年8月14日から同年9月12日にかけて,実施した。

また,公正取引委員会は,アジア開発銀行研究所(ADBI)との共催により,平成26年6月9日から同月13日にかけて,競争法制を導入し又は既存の競争法制の強化を図ろうとするアジア諸国の競争当局等の職員20名を我が国に招へいし,競争法・政策に関する研修を実施した。

このほか,公正取引委員会は,発展途上国に対する技術支援として,OECD,世界銀行等の国際機関や外国政府等が東アジアやアフリカ地域において実施する競争法・政策に関するセミナーに当委員会事務総局の職員や学識経験者を積極的に派遣している。

第6 海外調査

公正取引委員会の競争政策の企画・運営に資するため,諸外国・地域の競争政策の動向,競争法制及びその運用状況等について情報収集や調査研究を行っている。平成26年度においては,米国,EU,その他主要なOECD加盟諸国やアジア各国を中心として,競争当局の政策動向,競争法関係の立法活動等について調査を行い,その内容の分析とウェブサイト等による紹介に努めた。

第7 海外への情報発信

我が国の競争政策の状況を広く海外に周知することにより公正取引委員会の国際的なプレゼンスを向上させるため,報道発表資料や所管法令・ガイドライン等を英訳し,英文ウェブサイトに掲載している。平成26年度においては,前年度に引き続き,英語版報道発表資料の一層の充実及び速報化に努めた。

このほか,外国の競争当局,弁護士会等が主催するセミナー等に積極的に公正取引委員会委員及び事務総局の職員を派遣したり,海外のメディアに寄稿を行ったりするなどの活動を行っている。平成26年度においては,平成26年5月に中国・北京において開催された米国法曹協会(ABA)アジア反トラスト会議,同年9月に東京において開催された競争法フォーラム・アジア競争協会年次大会及び韓国・ソウルにおいて開催された第8回ソウル国際競争フォーラム,平成27年3月にドイツ・ベルリンにおいて開催されたドイツ競争当局主催新興競争当局向けワークショップ等に,それぞれ公正取引委員会委員長又は委員がスピーカーとして参加した。また,平成26年6月にアメリカ・ニューヨークで開催されたニューヨーク州弁護士会主催国際カルテルプログラム,同年11月にアメリカ・ワシントンD.C.において開催されたABA反トラスト法部会秋季会合,同月にブルガリア・ソフィアにおいて開催されたUNCTAD・ブルガリア競争当局共催ソフィア競争法セミナー,同年12月にフィリピン・マニラにおいて開催されたフィリピン競争当局主催第1回全国競争会議,平成27年1月にアメリカ・ニューヨークで開催されたニューヨーク州弁護士会年次総会等に,当委員会事務総局の職員がスピーカー等として参加した。