第2部 各論

第1章 独占禁止法制等の動き

第1 独占禁止法の改正

1 平成25年独占禁止法改正法の施行等

公正取引委員会が行う審判制度の廃止,排除措置命令等を行う際の処分前手続として実施される意見聴取手続の整備等を内容とする「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律」(平成25年法律第100号。以下「平成25年独占禁止法改正法」という。)は,平成25年12月7日,第185回臨時国会において成立し,同月13日に公布された後,平成27年4月1日に施行された。

2 環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案(独占禁止法の一部改正を含む)

(1) 法律案の提出

平成28年2月4日に我が国を含む12か国により署名された環太平洋パートナーシップ(TPP)協定には「各締約国は、自国の国の競争当局に対し、違反の疑いについて、当該国の競争当局とその執行の活動の対象となる者との間の合意により自主的に解決する権限を与える。」とする規定が含まれているところ(第16.2条5),同規定は,現行の独占禁止法上担保されていないことから,同規定を担保するため,独占禁止法を改正し,「合意により自主的に解決する」制度である確約手続を導入することとした。確約手続の導入を内容とする独占禁止法の一部改正を含む環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案は,平成28年3月8日に第190回通常国会へ提出され,同年3月24日に衆議院環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会へ付託された後,同年6月1日に衆議院において閉会中審査とされた。

(2) 法律案の内容

ア 通知

公正取引委員会は,私的独占の禁止等の規定に違反する事実があると思料する場合において,その疑いの理由となった行為について,公正かつ自由な競争の促進を図る上で必要があると認めるときは,当該行為をしている者に対し,当該行為の概要及び違反する疑いのある法令の条項を書面により通知することができることとする。

イ 申請

前記アの通知を受けた者は,疑いの理由となった行為を排除するために必要な措置を自ら策定し,実施しようとするときは,その実施しようとする措置(以下「排除措置」という。)に関する計画(以下「排除措置計画」という。)を作成し,これを当該通知の日から60日以内に公正取引委員会に提出して,その認定を申請することができることとする。

ウ 認定

公正取引委員会は,前記イの申請があった場合において,当該排除措置が,疑いの理由となった行為を排除するために十分なものであり,かつ,確実に実施されると見込まれると認めるときは,その認定をすることとする。

エ 却下

公正取引委員会は,前記イの申請があった場合において,当該排除措置計画が前記ウの要件のいずれかに適合しないと認めるときは,決定でこれを却下しなければならないこととする。

オ 変更

前記ウの認定を受けた者は,当該認定に係る排除措置計画を変更しようとするときは,公正取引委員会の認定を受けなければならないこととする。

カ 認定の効果

前記ウ及びオの認定をした場合において,当該認定に係る疑いの理由となった行為及び排除措置に係る行為については,排除措置命令又は課徴金納付命令をしないこととする。

キ 認定の取消し

公正取引委員会は,前記ウ及びオの認定を受けた排除措置計画に従って排除措置が実施されていないと認めるとき又は前記ウ及びオの認定を受けた者が虚偽若しくは不正の事実に基づいて当該認定を受けたことが判明したときは,認定を取り消さなければならないこととする。

第2 その他の所管政令等の改正等

1 独占禁止法施行令等の改正

平成25年独占禁止法改正法の施行に伴い,「独占禁止法施行令」,「公正取引委員会の審判費用等に関する政令」,「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第47条第2項の審査官の指定に関する政令」及び「公正取引委員会事務総局組織令」について,所要の改正を行った(平成27年政令第15号〔平成27年1月21日公布,4月1日施行〕,平成27年政令第82号〔平成27年3月25日公布,4月1日施行〕及び平成27年政令第181号〔平成27年4月10日公布・施行〕)。概要は以下のとおりである。

(1) 独占禁止法施行令

平成25年独占禁止法改正法の施行により審判制度に関係する条文が削除されることに伴い,引用条文の削除及び修正を行った。

(2) 公正取引委員会の審判費用等に関する政令

平成25年独占禁止法改正法の施行に伴い,独占禁止法第75条の参考人及び鑑定人の旅費等について規定した本政令の題名を「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の調査手続における参考人及び鑑定人の旅費及び手当に関する政令」と改めた。

(3) 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第47条第2項の審査官の指定に関する政令

平成25年独占禁止法改正法の施行に伴い,審査官に指定する者の要件から,「審判に立ち会う」ために必要な法律及び経済の知識経験に係るものを削除した。

(4) 公正取引委員会事務総局組織令

平成25年独占禁止法改正法の施行に伴い,公正取引委員会事務総局の官房,局及び課の所掌事務の範囲につき所要の改正を行ったほか,当委員会の訟務体制を強化するため,審査局訟務官を新設する改正を行った。

2 独占禁止法審査手続に関する指針の策定・公表

(1) 経緯

平成25年独占禁止法改正法附則第16条において,「政府は、公正取引委員会が事件について必要な調査を行う手続について、我が国における他の行政手続との整合性を確保しつつ、事件関係人が十分な防御を行うことを確保する観点から検討を行い、この法律の公布後一年を目途に結論を得て、必要があると認めるときは、所要の措置を講ずるものとする」こととされた。

平成25年独占禁止法改正法附則第16条の規定に鑑み,内閣府特命担当大臣の下で開催された「独占禁止法審査手続についての懇談会」が取りまとめた報告書の提言を受け,行政調査手続の適正性をより一層確保する観点から,これまでの実務を踏まえて行政調査手続の標準的な実施手順や留意事項等を明確化した「独占禁止法審査手続に関する指針」を策定し,審査官等に周知徹底するとともに,調査手続の透明性を高め,円滑な調査の実施に資するよう,同指針を公表した(平成27年12月25日策定・公表。平成28年1月4日から適用)。

(2) 内容

ア 総論

独占禁止法の目的と公正取引委員会の使命,公正取引委員会における事件調査の体制と監督者の責務及び独占禁止法違反被疑事件の調査に携わる職員の心構えを示した。

イ 事件調査手続

立入検査,供述聴取,報告命令などの行政調査手続の進行段階に応じて,審査官等の調査権限の根拠・法的性格,当該権限の行使時等における手続・説明事項,調査実施の際の留意事項について明確化した。

また,行政調査手続に関する不服申立ての仕組みとして,独占禁止法第47条の規定に基づく審査官の処分に対する異議の申立てや,新たに創設した任意の供述聴取に関する苦情の申立てがあれば,審査官等は当該申立てに係る調査に誠実に対応することを明確化した。

3 消費税転嫁対策特別措置法の失効期限の延長に伴う消費税の転嫁の方法及び消費税についての表示の方法の決定に係る共同行為の届出に関する規則の一部改正等

(1) 消費税の転嫁の方法及び消費税についての表示の方法の決定に係る共同行為の届出に関する規則の一部改正

現下の経済情勢等を踏まえ,デフレ脱却と経済再生の観点から,経済再生と財政健全化を両立するための消費税率の引上げの施行日の変更等,所要の措置を一体として講ずる必要があるため,「所得税法等の一部を改正する法律案」が第189回通常国会に提出された。同法律案は,消費税転嫁対策特別措置法の所要の改正(同法の失効期限の平成29年3月31日から平成30年9月30日への延長等)を含むものであるところ,平成27年3月31日に可決・成立し,同日公布された(平成27年法律第9号〔一部の規定を除き,平成27年4月1日施行〕)。

消費税転嫁対策特別措置法の失効期限が平成29年3月31日から平成30年9月30日に延長されたことを踏まえ,平成27年4月1日より前に公正取引委員会に消費税の転嫁及び表示の方法の決定に係る共同行為の届出をした者の事務負担の軽減を図るため,「消費税の転嫁の方法及び消費税についての表示の方法の決定に係る共同行為の届出に関する規則」について所要の改正を行った(平成27年公正取引委員会規則第6号〔平成27年5月29日公布,同日施行〕)。

(2) 消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法,独占禁止法及び下請法上の考え方の改正

消費税転嫁対策特別措置法の改正に伴い,「消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法,独占禁止法及び下請法上の考え方」(平成25年9月10日公表)について所要の改正を行った(平成27年4月1日改正)。

4 公正取引委員会事務総局組織令の改正

官房にサイバーセキュリティ・情報化参事官を新設することを内容とする公正取引委員会事務総局組織令の改正が行われた(公正取引委員会事務総局組織令の一部を改正する政令(平成28年政令第109号〔平成28年3月31日公布,同年4月1日施行〕)。

第3 独占禁止法と他の経済法令等の調整

1 法令協議

公正取引委員会は,関係行政機関が特定の政策的必要性から経済法令の制定又は改正を行おうとする際に,これら法令に独占禁止法の適用除外や競争制限的効果をもたらすおそれのある行政庁の処分に係る規定を設けるなどの場合には,その企画・立案の段階で,当該行政機関からの協議を受け,独占禁止法及び競争政策との調整を図っている。

2 行政調整

公正取引委員会は,関係行政機関が特定の政策的必要性から行う行政措置等について,独占禁止法及び競争政策上の問題が生じないよう,当該行政機関と調整を行っている。

第4 独占禁止法研究会の開催

公正取引委員会は,法定された算定方法に従って一律かつ画一的に算定・賦課する制度である現行課徴金制度の問題点を解消する観点から,課徴金制度の在り方について検討を行うため,平成28年2月以降,「独占禁止法研究会」(座長 岸井大太郎 法政大学法学部教授)を開催している。

現行課徴金制度の主な問題点は,以下のとおりである。