第2部 各論

第2章 違反被疑事件の審査及び処理

第1 違反被疑事件の審査及び処理の状況

1 排除措置命令等

独占禁止法は,事業者が私的独占又は不当な取引制限をすること,不公正な取引方法を用いること等を禁止している。公正取引委員会は,一般から提供された情報,自ら探知した事実,違反行為をした事業者からの課徴金減免申請等を検討し,これらの禁止規定に違反する事実があると思料するときは,独占禁止法違反被疑事件として必要な審査を行っている。

平成27年4月に施行された平成25年独占禁止法改正法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律〔平成25年法律第100号〕をいう。以下同じ。)により,意見聴取手続の制度が導入されたところ,平成27年度においては,審査事件のうち必要なものについては独占禁止法の規定に基づく権限を行使して審査を行い(第47条),違反する事実があると認められ,排除措置命令等をしようとするときは,意見聴取を行い(第49条等),意見聴取官が作成した意見聴取調書及び意見聴取報告書の内容を参酌し(第60条),排除措置命令等を行っている。

なお,平成25年独占禁止法改正法施行前に,平成25年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第49条第5項に基づき排除措置命令の名宛人となるべき者に対し,予定される排除措置命令の内容等を通知し,意見を述べ,及び証拠を提出する機会の付与を行った(第49条第3項)審査事件については,提出された意見や証拠を踏まえて,排除措置命令を行っている(平成25年独占禁止法改正法附則第2条)。

また,排除措置命令を行うに足る証拠が得られなかった場合であっても,違反の疑いがあるときは,関係事業者等に対して警告を行い,是正措置を採るよう指導している(注)。

さらに,違反行為の存在を疑うに足る証拠は得られなかったが,違反につながるおそれのある行為がみられた場合には,未然防止を図る観点から注意を行っている。

なお,法的措置又は警告をしたときは,その旨公表している。また,注意及び打切りについては,競争政策上公表することが望ましいと考えられる事案であり,かつ,関係事業者から公表する旨の了解を得た場合又は違反被疑対象となった事業者が公表を望む場合は,公表している。

平成27年度における審査件数(不当廉売事案で迅速処理したもの〔第1-2表〕を除く。)は,前年度からの繰越しとなっていたもの11件及び年度内に新規に着手したもの127件の合計138件であり,このうち年度内に処理した件数は123件であった。123件の内訳は,排除措置命令が9件,警告が6件,注意が106件及び違反事実が認められなかったため審査を打ち切ったものが2件となっている(第1-1表参照)。

(注)公正取引委員会は,警告を行う場合にも,公正取引委員会の審査に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第5号)に基づき,事前手続を経ることとしている。

第1-1表 審査事件処理状況の推移(不当廉売事案で迅速処理(注1)を行ったものを除く。)

(注1) 申告のあった不当廉売事案に対し可能な限り迅速に処理する(原則2か月以内)という方針に基づいて行う処理をいう。

(注2) ( )内の数字は,平成17年独占禁止法改正法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律〔平成17年法律第35号〕をいう。以下同じ。)による改正前の独占禁止法に基づく課徴金納付命令に係る審判開始決定を行った関係人数である。

(注3) 平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法に基づく課徴金の納付を命ずる審決に係る金額を含み,同法に基づく審判手続の開始により失効した課徴金納付命令に係る金額を除く。

(注4) 平成17年独占禁止法改正法による改正後の独占禁止法に基づく課徴金納付命令については当初命令額を記載している。

第1-2表 不当廉売事案における注意件数(迅速処理によるもの)の推移

第1図 法的措置件数と対象事業者等の数の推移

平成27年度における処理件数を行為類型別にみると,価格カルテル7件,入札談合(官公需)4件,受注調整(民需)1件,その他のカルテル8件,不公正な取引方法90件,その他13件となっている(第2表参照)。法的措置は9件であり,この内訳は,価格カルテル2件,入札談合(官公需)4件,受注調整(民需)1件,事業者団体による構成事業者の機能又は活動の不当な制限2件となっている(第2表及び第3表参照)。

第2表 平成27年度審査事件(行為類型別)一覧表

(注1) 複数の行為類型に係る事件は,主たる行為に即して分類している。

(注2) 価格カルテルとその他のカルテルが関係している事件は,価格カルテルに分類している。

(注3) 事業者団体が事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにする行為(独占禁止法8条第5号)は,不公正な取引方法に分類している。

(注4) 「その他」とは,事業者団体による構成事業者の機能又は活動の不当な制限等である。

第3表 法的措置件数(行為類型別)の推移

(注1) 複数の行為類型に係る事件は,主たる行為に即して分類している。

(注2) 価格カルテルとその他のカルテルが関係している事件は,価格カルテルに分類している。

(注3) 「その他」とは,事業者団体による構成事業者の機能又は活動の不当な制限等である。

2 課徴金納付命令等

(1) 課徴金納付命令の概要

独占禁止法は,カルテル・入札談合等の未然防止という行政目的を達成するために,行政庁たる公正取引委員会が違反事業者等に対して金銭的不利益である課徴金の納付を命ずることを規定している(第7条の2第1項,第2項及び第4項,第8条の3,第20条の2,第20条の3,第20条の4,第20条の5並びに第20条の6)。

課徴金の対象となる行為は,①事業者又は事業者団体の行うカルテルのうち,商品若しくは役務の対価に係るもの又は商品若しくは役務について供給量若しくは購入量,市場占有率若しくは取引の相手方を実質的に制限することによりその対価に影響することとなるもの,②いわゆる支配型私的独占で被支配事業者が供給する商品若しくは役務について,その対価に係るもの又は供給量,市場占有率若しくは取引の相手方を実質的に制限することによりその対価に影響することとなるもの,③いわゆる排除型私的独占のうち供給に係るもの,④独占禁止法で定められた不公正な取引方法である,共同の取引拒絶,差別対価,不当廉売及び再販売価格の拘束のうち,一定の要件を満たしたもの並びに優越的地位の濫用のうち継続して行われたものである。

平成27年度においては,延べ31名に対し総額85億1076万円の課徴金納付命令を行った(第5表参照)。このうち,違反行為において主導的な役割を果たした場合の割増算定率が適用された事業者は2事件における4名であった。また,早期に違反行為をやめた場合の軽減算定率が適用された事業者は3事件における11名であった。

(2) 課徴金減免制度の運用状況

平成27年度における課徴金減免制度に基づく事業者からの報告等の件数は102件であった(課徴金減免制度導入〔平成18年1月〕以降の件数は938件)。

なお,平成27年度においては,7事件19名の課徴金減免申請事業者について,当該事業者からの申出により,これらの事業者の名称,免除の事実又は減額の率等を公表した(注)。

(注)公正取引委員会は,課徴金減免制度の適用を受けた事業者から公表の申出がある場合には,課徴金納付命令を行った際に,当委員会のウェブサイトに,当該事業者の名称,所在地,代表者名及び免除の事実又は減額の率等を公表することとしていたが,平成28年6月1日以降に課徴金減免制度に基づく報告等を行い同制度の適用を受けた事業者については,課徴金納付命令を行った際に,当委員会の上記ウェブサイト等に,上記の内容を一律に公表することとした。

第2図 課徴金額等の推移

(注1) 平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法に基づく課徴金の納付を命ずる審決に係る金額を含み,同法に基づく審判手続の開始により失効した課徴金納付命令に係る金額を除く。

(注2) 平成17年独占禁止法改正法による改正後の独占禁止法に基づく課徴金納付命令については,当初命令額を記載している。

3 申告

平成27年度においては,独占禁止法の規定に違反する事実があると思われ,公正取引委員会に報告(申告)された件数は6,331件であった(第3図参照)。この報告が書面で具体的な事実を摘示して行われた場合には,措置結果を通知することとされており(第45条第3項),平成27年度においては,5,826件の通知を行った。

また,公正取引委員会は,独占禁止法違反被疑行為の端緒情報をより広く収集するため,平成14年4月からインターネットを利用した申告が可能となる電子申告システムを当委員会のウェブサイト上に設置しているところ,平成27年度においては,同システムを利用した申告が1,100件あった。

第3図 申告件数の推移

4 事業者団体等への要請・申入れ等

公正取引委員会は,独占禁止法違反行為についての審査の過程において,競争政策上必要な措置を講じるべきと判断した事項について,事業者団体等に要請や申入れを行っている。平成27年度においては,以下のとおり要請を行った。

日本水先人会連合会及び国土交通省に対する要請(平成27年4月15日)(事件詳細については後記第22参照)

5 審査官の処分に対する異議申立て及び任意の供述聴取に係る苦情申立て

独占禁止法第47条の規定に基づいて審査官がした立入検査,審尋等の処分を受けた者が,当該処分に不服があるときは,公正取引委員会の審査に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第5号)第22条第1項の規定により,当該処分を受けた日から1週間以内に,その理由を記載した文書をもって,公正取引委員会に異議の申立てをすることができる。

また,任意の供述聴取については,聴取対象者等が,聴取において独占禁止法審査手続に関する指針(平成27年12月25日公正取引委員会決定。以下5において「指針」という。)第2の「2 供述聴取」に反する審査官等による言動等があったとする場合には,原則として,当該聴取を受けた日から1週間以内に,書面により,公正取引委員会に苦情を申し立てることができる(指針第2の4)。

平成27年度において申し立てられた苦情に係る処理状況については第4表のとおりであり,異議の申立てについてはなかった。

第4表 任意の供述聴取に係る苦情申立ての状況

第5表 平成27年度法的措置一覧表

(注)課徴金納付命令対象事業者数の合計(延べ数)である。

第6表 課徴金制度の運用状況(注1)

(注1) 平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法に基づく課徴金の納付を命ずる審決を含み,同法に基づく審判手続の開始により失効した課徴金納付命令を除く。

(注2) 平成15年9月12日,協業組合カンセイに係る審決取消請求事件について,審決認定(平成10年3月11日,課徴金額1934万円)の課徴金額のうち967万円を超えて納付を命じた部分を取り消す判決が出された(同判決は確定した。)。

(注3) 平成16年2月20日,土屋企業㈱に係る審決取消請求事件について,審決認定(平成15年6月13日,課徴金額586万円)の課徴金額のうち302万円を超えて納付を命じた部分を取り消す判決が出された(同判決は確定した。)。

(注4) 三菱樹脂㈱に対する審判事件について,平成28年2月24日,課徴金納付命令(平成21年2月18日,課徴金額37億2137万円)のうち,37億1041万円を超えて納付を命じた部分を取り消す旨の審決を行った。

(注5) エア・ウォーター㈱に係る審決取消請求事件について,審決を取り消す旨の判決が出され,同判決が確定したことを受け,平成26年10月14日,課徴金納付命令(平成23年5月26日,課徴金額36億3911万円)のうち,7億2782万円を超えて納付を命じた部分を取り消す旨の審決を行った。

(注6) 日本トイザらス㈱に対する審判事件について,平成27年6月4日,課徴金納付命令(平成23年12月13日,課徴金額3億6908万円)のうち,2億2218万円を超えて納付を命じた部分を取り消す旨の審決を行った。

第2 法的措置

平成27年度においては,9件について法的措置を採った。これら9件の違反法条をみると,独占禁止法第3条後段(不当な取引制限の禁止)違反7件,及び同法第8条4号(事業者団体による構成事業者の機能又は活動の不当な制限)違反2件となっている。

これら9件の概要は次のとおりである。

1 独占禁止法第3条後段違反事件

(1) 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構が発注する北陸新幹線消融雪設備工事(注1)の入札参加業者らに対する件(平成27年(措)第8号)

(注1) 「北陸新幹線消融雪設備工事」とは,独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下「鉄道・運輸機構」という。)が,北陸新幹線の長野・金沢間の軌道上における雪害対策を目的として,平成23年10月以降,条件付一般競争入札の方法により発注する融雪基地機械設備工事(注2)及び消雪基地機械設備工事(注3)(これらの工事が併せて発注されるもの及びこれらの工事以外の工事が併せて発注されるものを含む。)をいう。

(注2) 「融雪基地機械設備工事」とは,温めた不凍液を,線路脇に設置した融雪パネルの内部に流すことで,融雪パネルの上に積もった雪をとかす設備を設置する工事をいう。

(注3) 「消雪基地機械設備工事」とは,河川等から取水した水を温めて,線路脇に設置したスプリンクラーから散水することで,軌道上に降った雪をとかす設備を設置する工事をいう。

ア 関係人

(注4) 表中の「○」は,その事業者が排除措置命令の対象であることを示している。

(注5) 表中の「-」は,その事業者が課徴金納付命令の対象ではないことを示している。

(注6) 表中の「※」を付した事業者は,本件と同一の事件について不当な取引制限の罪により罰金の刑に処せられ,同裁判が確定していることから,独占禁止法第7条の2第19項の規定に基づき,当該罰金額の2分の1に相当する金額を控除した額を課徴金額としている。

イ 違反行為の概要

前記アの表記載の11社(以下「11社」という。)は,平成23年9月14日,東京都内の飲食店において開催した会合において,北陸新幹線消融雪設備工事について,受注価格の低落防止等を図るため

(ア) 11社を順番に受注予定者とすること及びその順番

(イ) 前記(ア)の順番を変更する場合は,関係各社間の協議によること

(ウ) 受注予定者以外の者は,受注予定者が受注できるように協力すること

を合意することにより,公共の利益に反して,北陸新幹線消融雪設備工事の取引分野における競争を実質的に制限していた。

ウ 排除措置命令の概要

(ア) 11社は,それぞれ,次の事項を,取締役会において決議しなければならない。

a 前記イの合意が消滅していることを確認すること。

b 今後,相互の間において,又は他の事業者と共同して,鉄道・運輸機構が北陸新幹線の軌道上における雪害対策を目的として発注する融雪基地機械設備工事及び消雪基地機械設備工事(これらの工事が併せて発注されるもの及びこれらの工事以外の工事が併せて発注されるものを含む。)について,受注予定者を決定せず,各社がそれぞれ自主的に受注活動を行うこと。

(イ) 11社は,それぞれ,前記(ア)に基づいて採った措置を,自社を除く10社及び鉄道・運輸機構に通知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。

(ウ) 11社は,今後,それぞれ,相互の間において,又は他の事業者と共同して,前記(ア)b記載の工事について,受注予定者を決定してはならない。

(エ) 11社のうちダイダン㈱,㈱三晃空調,三機工業㈱,㈱柿本商会及び新菱冷熱工業㈱を除く6社は,次のaからdまでの事項を行うために必要な措置を,ダイダン㈱,三機工業㈱及び㈱柿本商会は,次のa,b及びdの事項を行うために必要な措置を,㈱三晃空調及び新菱冷熱工業㈱は,次のa及びbの事項を行うために必要な措置を,それぞれ,講じなければならない。

a 官公需の受注に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の自社の従業員に対する周知徹底(㈱朝日工業社にあっては当該行動指針の作成及び自社の従業員に対する周知徹底,ダイダン㈱にあっては当該行動指針の改定及び自社の従業員に対する周知徹底)

b 官公需の受注に関する独占禁止法の遵守についての,前記(ア)b記載の工事の営業担当者に対する定期的な研修及び法務担当者による定期的な監査

c 独占禁止法違反行為に関与した役員及び従業員に対する処分に関する規程の作成又は改定

d 独占禁止法違反行為に係る通報又は調査への協力を行った者に対する適切な取扱いを定める規程の作成又は改定

エ 課徴金納付命令の概要

課徴金納付命令の対象事業者は,平成28年5月10日までに,それぞれ別表「課徴金額」欄記載の額(総額10億3499万円)を支払わなければならない。

なお,ダイダン㈱及び高砂熱学工業㈱は,新日本空調㈱と共同して(以下,ダイダン㈱,高砂熱学工業㈱及び新日本空調㈱のことを「3社」という。),前記イの違反行為をすることを企て,かつ,11社のうち3社を除く8社に対し当該違反行為をすることを唆すことにより,当該違反行為をさせたことが認められたため,独占禁止法第7条の2第8項第1号に該当する者であることから,同項の規定に基づき,5割加算した算定率を適用している。

(2) 東北地区(注1),新潟地区(注2)及び北陸地区(注3)の地方公共団体が発注するポリ塩化アルミニウム(注4)の製造販売業者に対する件(平成28年(措)第1号・第2号・第3号)

(注1) 「東北地区」とは,青森県,岩手県,宮城県,秋田県,山形県及び福島県の区域をいう。

(注2) 「新潟地区」とは,新潟県の区域をいう。

(注3) 「北陸地区」とは,富山県,石川県及び福井県の区域をいう。

(注4) 「ポリ塩化アルミニウム」とは,水酸化アルミニウムと塩酸を主な原料として製造される液体の化学薬品であり,水中の微小な土砂等の浮遊物質を凝集沈殿させる効果を有するものをいう。

ア 関係人

(注5) 表中の「○」は,その事業者が排除措置命令の対象事業者であることを示している。

(注6) 表中の「―」は,その事業者が排除措置命令又は課徴金納付命令の対象とはならない違反事業者であることを示している。

(注7) 表中の「/」は,その事業者が当該地区における違反事業者ではないことを示している。

イ 違反行為の概要
(ア) 東北地区における特定ポリ塩化アルミニウム(注8)

違反事業者6社(前記アの表の番号1ないし4,7及び10記載の事業者)は,遅くとも平成23年3月10日以降,東北地区における特定ポリ塩化アルミニウムについて,販売価格の低落防止を図るため

a 納入先浄水施設(注9)ごとに,毎年度

(a) 順番に該当する者を供給すべき者(以下「供給予定者」という。)とする

(b) 入札等の時点で当該納入先浄水施設に供給している者を供給予定者とする

b 前記aを原則としつつ,年度ごとに一定数量等の供給を希望する者に対しては,多木化学㈱(以下「多木化学」という。)及び大明化学工業㈱(以下「大明化学工業」という。)が,納入先浄水施設の購入予定数量等を勘案し,納入先浄水施設を指定して供給予定者とする

などにより,供給予定者を決定し,供給予定者が供給できるようにすることにより,公共の利益に反して,東北地区における特定ポリ塩化アルミニウムの販売分野における競争を実質的に制限していた。

(注8) 「特定ポリ塩化アルミニウム」とは,地方公共団体が一般競争入札,指名競争入札及び見積り合わせ(以下「入札等」という。)の方法により発注する,浄水施設で使用されるポリ塩化アルミニウムであって,受注者(受注者が販売業者である場合には,当該販売業者を介して入札等に参加したポリ塩化アルミニウムの製造販売業者(水澤商事㈱を含む。))が自社又は製造委託先等の製造拠点又は出荷拠点から,直接,当該施設に供給するもの(特定の製造販売業者1社又は特定の一つの製品名を指定して発注されるものを除く。)をいう。また,新潟地区及び北陸地区の「特定ポリ塩化アルミニウム」には,浄水施設以外で使用されるものが併せて発注される場合には当該浄水施設以外で使用されるものを含む。

(注9) 「納入先浄水施設」とは,入札等において納入先として定められた一又は複数の浄水施設をいう。

(イ) 新潟地区における特定ポリ塩化アルミニウム

違反事業者6社(前記アの表の番号1ないし3,6,9及び10記載の事業者)は,遅くとも平成23年3月15日以降,新潟地区における特定ポリ塩化アルミニウムについて,販売価格の低落防止を図るため,納入先浄水施設ごとに,毎年度

a 順番に該当する者を供給予定者とする

b 入札等の時点で当該納入先浄水施設に供給している者を供給予定者とする

などにより,供給予定者を決定し,供給予定者が供給できるようにすることにより,公共の利益に反して,新潟地区における特定ポリ塩化アルミニウムの販売分野における競争を実質的に制限していた。

(ウ) 北陸地区における特定ポリ塩化アルミニウム

違反事業者5社(前記アの表の番号2,3,5,8及び10記載の事業者)は,遅くとも平成23年3月15日以降,北陸地区における特定ポリ塩化アルミニウムについて,販売価格の低落防止を図るため,納入先浄水施設ごとに,毎年度

a 順番に該当する者を供給予定者とする

b 入札等の時点で当該納入先浄水施設に供給している者を供給予定者とする

などにより,供給予定者を決定し,供給予定者が供給できるようにすることにより,公共の利益に反して,北陸地区における特定ポリ塩化アルミニウムの販売分野における競争を実質的に制限していた。

ウ 排除措置命令の概要

前記イの違反行為ごとに,次のとおり排除措置命令を行った。

(ア) 排除措置命令の対象事業者(以下「名宛人」という。)は,それぞれ,次の事項を,取締役会等において決議しなければならない。

a 前記イの行為を取りやめていることを確認すること。

b 今後,相互の間において,又は他の事業者と共同して,各地区における特定ポリ塩化アルミニウムについて,供給予定者を決定せず,各社がそれぞれ自主的に販売活動を行うこと。

(イ) 名宛人は,それぞれ,前記(ア)に基づいて採った措置を,自社を除く名宛人,特定ポリ塩化アルミニウムを発注する各地区の地方公共団体及び自社の取引先である各地区における特定ポリ塩化アルミニウムの販売業者に通知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。

(ウ) 名宛人は,今後,それぞれ,相互の間において,又は他の事業者と共同して,各地区における特定ポリ塩化アルミニウムについて,供給予定者を決定してはならない。

エ 課徴金納付命令の概要

課徴金納付命令の対象事業者は,平成28年9月6日までに,それぞれ前記アの表の「課徴金額」欄記載の額(総額1億630万円)を支払わなければならない。

なお,多木化学及び大明化学工業は,東北地区における特定ポリ塩化アルミニウムについて,年度ごとに一定数量等の供給を希望する者の取引の相手方となる地方公共団体を指定していたことが認められたため,独占禁止法第7条の2第8項第2号に該当する者であることから,同項の規定に基づき,5割加算した算定率を適用している。

(3) 農業協同組合等(注1)が北海道の区域において発注する穀物の乾燥・調製・貯蔵施設等(注2)の製造請負工事等(注3)の施工業者に対する件(平成28年(措)4号)

(注1) 「農業協同組合等」とは,農業協同組合,地方公共団体,農業協同組合連合会,任意組合及び事業協同組合をいう(以下「農協等」という。)。

(注2) 「穀物の乾燥・調製・貯蔵施設等」とは,穀物を乾燥,調製若しくは貯蔵する設備のいずれか又は複数を有する施設(低温で貯蔵する施設を除き,玄米の糠(ぬか)層を除去して白米に加工する施設を含む。)をいう。

(注3) 「製造請負工事等」とは,施工業者が,一定の性能等を有する機械,設備,装備等の工場製作,現場での組立て,据付け,調整等を一括して請け負って完成させる製造請負工事並びに当該工事及び建設工事が併せて発注される工事をいう。

ア 関係人

(注4) 表中の「○」は,その事業者が排除措置命令の対象であることを示している。

(注5) 表中の「-」は,その事業者が排除措置命令又は課徴金納付命令の対象ではないことを示している。

イ 違反行為の概要

前記アの表記載の7社(以下「7社」という。)は,遅くとも平成23年4月5日以降,特定農業施設工事(注6)について,受注価格の低落防止等を図るため

(ア)a 受注すべき者(以下「受注予定者」という。)を決定する

b 受注予定者以外の者は,受注予定者が受注できるように協力する

旨の合意の下に

(イ) 7社の営業責任者等による会合を開催するなどして,当該工事それぞれについて,受注を希望する者(以下「受注希望者」という。)は,受注を希望する旨を表明し,

a(a) 受注希望者が1社のときは,その者を受注予定者とする

(b) 受注希望者が複数社のときは,施主である農協等に対する設計等への協力状況,対象となる穀物の乾燥・調製・貯蔵施設等の建設等又は保守点検の実績等を勘案して,受注希望者間の話合いにより受注予定者を決定する

b 受注予定者が提示する入札価格又は見積価格(以下「入札価格等」という。)は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者が連絡した入札価格等以上の入札価格等を提示する

などにより,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,特定農業施設工事の取引分野における競争を実質的に制限していた。

(注6) 「特定農業施設工事」とは,農協等が,北海道の区域において,一般競争入札,一般競争見積,指名競争入札,指名競争見積又は見積り合わせの方法により発注する穀物の乾燥・調製・貯蔵施設等の製造請負工事等をいう。

ウ 排除措置命令の概要

(ア) 排除措置命令の対象事業者(以下「名宛人」という。)は,それぞれ,次の事項を,取締役会において決議しなければならない。

a 前記イの行為を取りやめていることを確認すること。

b 今後,相互の間において,又は他の事業者と共同して,特定農業施設工事について,受注予定者を決定せず,各社がそれぞれ自主的に受注活動を行うこと。

(イ) 名宛人は,それぞれ,前記(ア)に基づいて採った措置を,自社を除く名宛人に通知するとともに,特定農業施設工事の施主である農協等に周知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。

(ウ) 名宛人は,今後,それぞれ,相互の間において,又は他の事業者と共同して,特定農業施設工事について,受注予定者を決定してはならない。

エ 課徴金納付命令の概要

課徴金納付命令の対象事業者は,平成28年9月12日までに,それぞれ別表の「課徴金額」欄記載の額(総額6億7151万円)を支払わなければならない。

(4) アルミ電解コンデンサ(注1)及びタンタル電解コンデンサ(注2)の製造販売業者らに対する件(平成28年(措)5号・6号)

(注1) 「アルミ電解コンデンサ」とは,アルミニウム箔(はく)表面に形成する酸化皮膜を誘電体とするコンデンサ(陰極に導電性ポリマーを利用するものを除く。)をいう。

(注2) 「タンタル電解コンデンサ」とは,タンタル粉体の焼結体表面に形成する酸化皮膜を誘電体とするコンデンサ(陰極に導電性ポリマーを利用するものを除く。)をいう。

ア 関係人
(ア) アルミ電解コンデンサに係る違反事業者

(注3) 表中の「○」は,その事業者が排除措置命令の対象であることを示す。

(注4) 表中の「-」は,その事業者が排除措置命令又は課徴金納付命令の対象ではないことを示す。

(イ) タンタル電解コンデンサに係る違反事業者

(注5) 表中の「○」は,その事業者が排除措置命令の対象であることを示す。

(注6) 表中の「-」は,その事業者が排除措置命令又は課徴金納付命令の対象ではないことを示す。

イ 違反行為の概要
(ア) アルミ電解コンデンサ

a(a) 違反事業者4社(前記ア「(ア) アルミ電解コンデンサに係る違反事業者」の番号1ないし4記載の事業者。後記bにおいて同じ。)のうち日立エーアイシー㈱(以下「日立エーアイシー」という。)を除く3社は,「マーケット研究会」などと称する会合を毎月開催するなどして,アルミ電解コンデンサの販売価格を引き上げる旨を伝え合うなど(注7)により,遅くとも平成22年2月18日までに,アルミ電解コンデンサの販売価格を共同して引き上げることを合意した。

(b) 日立エーアイシーは,他の違反事業者との間でアルミ電解コンデンサの販売価格を引き上げること等を伝え合うことにより,遅くとも平成22年3月2日までに,前記(a)の合意に参加した。

(注7) ただし,ニチコン㈱は当該会合には参加せず,営業責任者級の者による連絡を通じて上記の行為を行っていた。

b 違反事業者4社は,前記(a)の合意をすることにより,公共の利益に反して,我が国におけるアルミ電解コンデンサの販売分野における競争を実質的に制限していた。

(イ) タンタル電解コンデンサ

a 違反事業者4社(前記ア「(イ) タンタル電解コンデンサに係る違反事業者」の番号1ないし4記載の事業者。後記bにおいて同じ。)は,「マーケット研究会」などと称する会合を毎月開催するなどして,タンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げる旨を伝え合うなど(注8)により,遅くとも平成22年6月17日までに,タンタル電解コンデンサの販売価格を共同して引き上げることを合意した。

(注8) ただし,ニチコン㈱は当該会合には参加せず,営業責任者級の者による連絡を通じて上記の行為を行っていた。

b 違反事業者4社は,前記aの合意をすることにより,公共の利益に反して,我が国におけるタンタル電解コンデンサの販売分野における競争を実質的に制限していた。

ウ 排除措置命令の概要

前記イの違反行為ごとに,次のとおり排除措置命令を行った。

(ア) 排除措置命令の対象事業者(以下「名宛人」という。)は,それぞれ,次の事項を,取締役会において決議しなければならない。

a 前記イの合意が消滅していることを確認すること。

b 今後,相互の間において,又は他の事業者と共同して,アルミ電解コンデンサ又はタンタル電解コンデンサの販売価格を決定せず,各社がそれぞれ自主的に決めること。

c 今後,相互に,又は他の事業者と,アルミ電解コンデンサ又はタンタル電解コンデンサの販売価格の改定に関して情報交換を行わないこと。

(イ) 名宛人は,それぞれ,前記(ア)に基づいて採った措置を,自社を除く名宛人に通知するとともに,自社のアルミ電解コンデンサ又はタンタル電解コンデンサの需要者及び取引先である商社等に通知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。

(ウ) 名宛人は,今後,それぞれ,相互の間において,又は他の事業者と共同して,アルミ電解コンデンサ又はタンタル電解コンデンサの販売価格を決定してはならない。

(エ) 名宛人は,今後,それぞれ,相互に,又は他の事業者と,アルミ電解コンデンサ又はタンタル電解コンデンサの販売価格の改定に関して情報交換を行ってはならない。

(オ) 名宛人(ビシェイポリテック㈱を除く。)は,それぞれ,次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。

a 自社の商品の販売活動に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の改定及び自社の従業員に対する周知徹底(ルビコン㈱にあっては当該行動指針の作成及び自社の従業員に対する周知徹底,NECトーキン㈱にあっては自社の従業員に対する当該行動指針の周知徹底)

b アルミ電解コンデンサ又はタンタル電解コンデンサの販売活動に関する独占禁止法の遵守についての,当該商品の営業担当者に対する定期的な研修及び法務担当者による定期的な監査

エ 課徴金納付命令の概要

課徴金納付命令の対象事業者は,平成28年10月31日までに,それぞれ別表の「課徴金額」欄記載の額(総額66億9796万円)を支払わなければならない。

2 独占禁止法第8条違反事件

(1)  東京湾水先区(注1)水先人(注2)会に対する件(平成27年(措)第6号)

(注1) 「東京湾水先区」とは,水先法施行令別表第一において東京湾水先区とされる区域をいう。

(注2) 「水先人」とは,水先法第2条第2項に規定される「一定の水先区について水先人の免許を受けた者」をいう。

(注3) 本件の排除措置命令に係る手続については,平成25年独占禁止法改正法附則第2条の規定によりなお従前の例による。

ア 関係人

イ 違反行為の概要

(ア)a 東京湾水先区水先人会(以下「東京湾水先人会」という。)は,平成20年3月26日に開催した総会において,会員が当直表(注6)上の休暇中でないこと,1日ごとに水先(注7)に係る指名(注8)を受け付ける数について同会が定める上限を超えないこと等の水先に係る指名を受け付ける条件を,設立に伴い定めた引受事務要領(注10)に加えることを決定し,同年4月1日から当該引受事務要領を適用することにより,水先の利用者が,水先に係る指名により水先を利用することを困難にしている。

b 東京湾水先人会は,平成21年7月7日に開催した常勤役員会(注11)において,グループ指名(注12)については同会が指定した会員から成るグループに属していることを条件とするものを受け付ける一方,個人指名(注13)については受け付けないことを決定し,その旨を,同月8日以降,水先の利用者に伝達した。東京湾水先人会は,同月15日頃以降の水先について,個人指名を受け付けていない。

c 東京湾水先人会は,遅くとも平成22年8月頃までに,会員のほとんどを単一のグループに属するよう指定し,それ以降,グループ指名については当該グループに属していることを条件とするもののみを受け付けて輪番制(注14)により配乗している。

(イ) 東京湾水先人会は,水先をする船舶によって水先料(注15)が異なるため,輪番制による配乗の結果,会員間で収入の格差が生じることのないよう,遅くとも平成20年3月11日までに開催した常勤役員会において,各会員に代わって水先の利用者から収受した水先料をプールし,頭割りを基本とする計算方法により各会員に配分すること(以下「水先料の調整配分」という。)を決定し,平成20年4月頃以降,当該決定に基づき,会員を構成員とする複数の組合を通じて水先料の調整配分を実施している。

(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,東京湾水先人会は,各会員が自らの判断により水先の利用者と契約して水先を引き受けることを制限し,水先料の調整配分を行うことにより,構成事業者の機能又は活動を不当に制限している。

(注6) 「当直表」とは,水先人会が,会員の就業時間帯及び場所を定めた表をいう。

(注7) 「水先」とは,水先法第2条第1項に規定される「水先区において,船舶に乗り込み当該船舶を導くこと」をいう。

(注8) 「水先に係る指名」とは,水先の利用者(注9)が,水先を求めるに当たって,水先人について一定の条件を付すことをいう。

(注9) 本項において「水先の利用者」とは,船舶の運行会社,その代理店等,東京湾水先区において水先を利用する者をいう。

(注10) 「引受事務要領」とは,水先人会が,会則の規定に基づき定めている,会員のする水先の引受けに関する事務を統合して行うに当たっての事務要領をいう。

(注11) 「常勤役員会」とは,総会及び理事会の決議の対象としていない会務の執行に関する事項について決定していた,会長,副会長等で構成する会合をいう。

(注12) 「グループ指名」とは,水先に係る指名のうち,当該指名を行う水先の利用者と事前に契約を締結した複数の水先人から成るグループに属していることを条件とするものをいう。

(注13) 「個人指名」とは,水先に係る指名のうち,特定の水先人を指定するものをいう。

(注14) 本項において「輪番制」とは,東京湾水先人会が,当直表を作成し,水先の利用者から求めがあった水先に対し,当該当直表に基づき,当該水先が行われる時間帯及び場所で就業する会員を当該水先を行う水先人として選任する方法をいう。

(注15) 「水先料」とは,水先人が水先の対価として,水先法第46条第1項において,船舶所有者又は船長に対して請求することができることとされているものをいう。

ウ 排除措置命令の概要

(ア) 東京湾水先人会は,各会員が自らの判断により水先の利用者と契約して水先を引き受けることを制限している行為及び水先料の調整配分を取りやめなければならない。

(イ) 東京湾水先人会は,前記(ア)の行為を取りやめる旨及び今後,前記(ア)の行為と同様の行為を行わない旨を,理事会において決議しなければならない。

(ウ) 東京湾水先人会は,前記(ア)の行為を取りやめるに当たり設定する水先に係る指名を受け付ける条件について,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。

(エ) 東京湾水先人会は,前記(ア)及び(イ)に基づいて採った措置を会員に通知し,かつ,水先の利用者に周知しなければならない。

(オ) 東京湾水先人会は,今後,前記(ア)の行為と同様の行為を行ってはならない。

エ 日本水先人会連合会に対する要請について

本件及び後記(2)の審査の過程において,以下の(ア)及び(イ)の事実が認められた。

(ア) 日本水先人会連合会は,平成20年3月頃,水先人会の引受事務要領の雛(ひな)形となる標準引受事務要領に水先人会が水先に係る指名を受け付ける条件(以下「指名受付条件」という。)として水先人会の会員が当直表上の休暇中でないこと等を規定し,水先人会に示した。

(イ) 東京湾水先人会及び伊勢三河湾水先区水先人会は,それぞれ,前記1の標準引受事務要領の内容も踏まえて,平成20年3月頃,水先人会の会員が当直表上の休暇中でないこと等の指名受付条件を引受事務要領に加えることを決定し,同年4月1日から当該引受事務要領を適用することにより,水先の利用者が,水先に係る指名により水先を利用することを困難にしている。

以上のことから,前記(ア)の行為は,前記イ及び後記(2)の伊勢三河湾水先区水先人会におけるイの違反行為を誘発したものと認められる。よって,公正取引委員会は,日本水先人会連合会に対し,標準引受事務要領を見直すとともに,今後,水先人会が前記(ア)の行為と同様の行為を行うことのないように,全国の水先人会を指導するよう要請した。

オ 国土交通省に対する要請について

公正取引委員会は,国土交通省に対し,今後,水先人会が前記イ及び後記(2)イの行為と同様の行為を行うことのないように,全国の水先人会を指導するよう要請した。

(2) 伊勢三河湾水先区(注1)水先人会に対する件(平成27年(措)第7号)

(注1) 「伊勢三河湾水先区」とは,水先法施行令別表第一において伊勢三河湾水先区とされる区域をいう。

(注2) 本件の排除措置命令に係る手続については,平成25年独占禁止法改正法附則第2条の規定によりなお従前の例による。

ア 関係人

イ 違反行為の概要

(ア)a 伊勢三河湾水先人会は,平成20年3月25日に開催した臨時総会において,会員が当直表上の休暇中でないこと,1日ごとに水先に係る指名を受け付ける数について同会が定める上限を超えないこと等の水先に係る指名を受け付ける条件を,設立に伴い定めた引受事務要領に加えることを決定し,同年4月1日から当該引受事務要領を適用することにより,水先の利用者が,水先に係る指名により水先を利用することを困難にしている。

b(a) 伊勢三河湾水先人会は,平成21年7月23日付けの同会会長名の文書により,グループ指名については同会が指定した会員から成るグループに属していることを条件とするものを受け付けることを会員に通知する一方,遅くとも同月31日に開催した理事会までに,特定の水先の利用者との間で独自に事前の契約を締結していた会員から成る複数の既存のグループを,同会が指定した会員から成るグループに併合することとし,同年8月頃以降,グループ指名については同会が指定した会員から成るグループに属していることを条件とするもののみを受け付けている。

(b) 伊勢三河湾水先人会は,遅くとも平成22年9月頃までに,会員の大部分を単一のグループに属するよう指定し,それ以降,グループ指名については当該グループに属していることを条件とするもののみを受け付けて輪番制(注3)により配乗している。

(イ) 伊勢三河湾水先人会は,水先をする船舶によって水先料が異なるため,輪番制による配乗の結果,会員間で収入の格差が生じることのないよう,平成23年1月頃以降,伊勢三河湾パイロット(注5)を通じて,各会員に代わって水先の利用者(注4)から収受した水先料をプールし,頭割りを基本とする計算方法により各会員に配分すること(以下「水先料の調整配分」という。)を実施している。

(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,伊勢三河湾水先人会は,各会員が自らの判断により水先の利用者と契約して水先を引き受けることを制限し,水先料の調整配分を行うことにより,構成事業者の機能又は活動を不当に制限している。

(注3) 本項において「輪番制」とは,伊勢三河湾水先人会が,当直表を作成し,水先の利用者から求めがあった水先に対し,当該当直表に基づき,当該水先が行われる時間帯及び場所で就業する会員を当該水先を行う水先人として選任する方法をいう。

(注4) 本項において「水先の利用者」とは,船舶の運行会社,その代理店等,伊勢三河湾水先区において水先を利用する者をいう。

(注5) 「伊勢三河湾パイロット」とは,水先料の調整配分を伊勢三河湾水先人会に代わり,同会の会員について実施すること等を目的として,平成23年1月1日,同会の全ての会員を構成員として設立された組合をいう。

ウ 排除措置命令の概要

(ア) 伊勢三河湾水先人会は,各会員が自らの判断により水先の利用者と契約して水先を引き受けることを制限している行為及び水先料の調整配分を取りやめなければならない。

(イ) 伊勢三河湾水先人会は,前記(ア)の行為を取りやめる旨及び今後,前記(ア)の行為と同様の行為を行わない旨を,理事会において決議しなければならない。

(ウ) 伊勢三河湾水先人会は,前記(ア)の行為を取りやめるに当たり設定する水先に係る指名を受け付ける条件について,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。

(エ) 伊勢三河湾水先人会は,前記(ア)及び(イ)に基づいて採った措置を会員に通知し,かつ,水先の利用者に周知しなければならない。

(オ) 伊勢三河湾水先人会は,今後,前記(ア)の行為と同様の行為を行ってはならない。

第3 警告

平成27年度において警告を行ったものの概要は,次のとおりである。

第7表 平成27年度警告事件一覧表

第4 告発

私的独占,カルテルなどの重大な独占禁止法違反行為については,排除措置命令等の行政上の措置のほか罰則が設けられているところ,これらについては公正取引委員会による告発を待って論ずることとされている(第96条及び第74条第1項)。

公正取引委員会は,平成17年10月,平成17年独占禁止法改正法の趣旨を踏まえ,「独占禁止法違反に対する刑事告発及び犯則事件の調査に関する公正取引委員会の方針」を公表し,独占禁止法違反行為に対する抑止力強化の観点から,積極的に刑事処罰を求めて告発を行っていくこと等を明らかにしている。

平成27年度においては,東日本高速道路㈱(以下「東日本高速道路」という。)東北支社が発注する東日本大震災に係る舗装災害復旧工事の入札談合事件について,以下のとおり,検事総長に告発した。

東日本高速道路㈱東北支社が発注する東日本大震災に係る舗装災害復旧工事の入札談合事件に係る告発(平成28年2月29日告発)

(1) 告発について

ア 被告発人

(ア) 被告発会社(下表記載の10社)

(イ) 前記被告発会社10社で道路工事の請負等の業務に従事していた者11名(以下「被告発人11名」という。)

イ 告発の根拠
(ア) 事実

被告発会社10社は,いずれも道路工事の請負等の事業を営む事業者であり,被告発人11名は,それぞれの所属する被告発会社の従業者として,東日本高速道路東北支社が発注する東北自動車道等の舗装工事の受注等に関する業務に従事していたものであるが,被告発人11名は,それぞれその所属する被告発会社の他の従業者及び被告発会社10社と同様の事業を営む他の事業者の従業者らと共謀の上,被告発会社の業務に関し,平成23年7月上旬頃から同年9月中旬頃までの間,仙台市所在の被告発会社の東北支店等において,面談等の方法により,同年7月以降に東日本高速道路東北支社が条件付一般競争入札の方法により順次発注する東日本大震災に係る舗装災害復旧工事について,受注予定事業者を決定すること及び当該受注予定事業者が受注できるような価格で入札を行うことなどを合意した上,同合意に従って,前記舗装災害復旧工事についてそれぞれ受注予定事業者を決定するなどし,もって被告発会社等が共同して,前記舗装災害復旧工事の受注に関し,相互にその事業活動を拘束し,遂行することにより,公共の利益に反して,前記舗装災害復旧工事の受注に係る取引分野における競争を実質的に制限したものである。

(イ) 罰条

独占禁止法第89条第1項第1号,第95条第1項第1号及び第3条並びに刑法第60条