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8 印刷機器のインクボトルへのICチップの搭載

8 印刷機器のインクボトルへのICチップの搭載

 印刷機器のメーカーがICチップを搭載したインクボトルを使用しなければ起動しない機能を備えた印刷機器を販売することは,インクボトルを提供する競争業者の事業活動を困難にするおそれがない場合には,直ちに独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

1 相談者

 A社(印刷機器メーカー)

2 相談の要旨

(1) A社は印刷機器Xを製造・販売する事業者であり,印刷機器の市場におけるA社のシェアは60%である。印刷機器Xを利用するには,専用のインクボトル(以下「A社用インクボトル」という。)が必要であるが,当該インクボトルについては,A社以外に独立系事業者も供給しており,現在,A社用インクボトル市場におけるA社のシェアは90%,独立系事業者のシェアは10%である。また,A社用インクボトルの小売価格は,独立系事業者の製品の価格がA社の製品の価格を20%ほど下回っている。

(2) 印刷機器Xについては,使用されるインクの色等に応じた調整が必要であるところ,A社は,現在,インクの色等に応じてボトルの形状に差を設け,印刷機器Xに当該形状を読み取らせ必要な調整を行わせるという方法を用いている。しかしながら,A社は,インクボトルにICチップを搭載し,それにインクに関する様々な情報を入力することにより,印刷機器Xが当該情報をもとに必要な調整を行うことができる新技術を開発した。

(3) 当該新技術が導入されることで,印刷機器Xは従来よりも微妙な調整を行い,最適な印刷環境を整えることが可能となる。また,インクボトルの形状が統一されることにより,インクボトルの生産・管理コストが大幅に削減される。一方で,印刷機器Xに当該新技術が導入されると,ICチップを搭載したインクボトルのみが使用可能となるが,独立系事業者でも,市販のICチップを用い,公開される所定の情報を入力することにより,当該新技術が導入された印刷機器Xで使用可能なインクボトルを生産することができる。
 A社が当該新技術を導入した印刷機器Xを販売することは,独占禁止法上問題ないか。

3 独占禁止法上の考え方

(1) 本件については,印刷機器の市場において高いシェアを有するA社が,自らの供給する印刷機器Xの性能の向上及びインクボトルの生産・管理コストを削減する目的で研究開発の成果を利用するものである。しかしながら,A社は,同社の印刷機器X用インクボトル市場(A社用インクボトル市場)においても非常に高いシェアを持つことから,自社の印刷機器Xの性能の向上及びインクボトルの生産・管理コストの削減を達成するために合理的に必要と認められる範囲を超えて印刷機器Xの機能等を変更し,その結果,A社用インクボトル市場において競争関係にある独立系事業者の事業活動を困難にするおそれがある場合には,独占禁止法上の問題を生じる。

(2) A社が開発した新技術については,同技術が導入された印刷機器Xでは,所定の情報を入力したICチップを搭載したインクボトルのみが使用できるようになり,既存のインクボトルは使用できなくなることから,独立系事業者の事業活動にも一定の影響を及ぼし得るものである。
 しかしながら,

ア インクボトルに搭載するICチップは市販されているものであり,独立系事業者でも容易に入手可能であること

イ 当該ICチップを付けたインクボトルを印刷機器Xで利用するために必要は情報は,A社のマニュアルなどで一般に公開されており,独立系事業者にも自由に利用可能となること

から,合理的に必要な範囲を超えた機能変更とは認められず,また,独立系事業者の事業活動を困難にするおそれがあるとまでは認められないことから,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答の要旨

 A社が,所要の情報を入力したICチップを搭載したインクボトルに対応する印刷機器Xを開発し,販売することは,インクボトルを販売する他の独立系事業者の事業活動を困難にするおそれがあるとは認められないことから,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。

 <参考>
 平成16年10月21日キヤノン株式会社に対する独占禁止法違反被疑事件の処理について(新聞発表文別紙)

 レーザープリンタに装着されるトナーカートリッジへのICチップの搭載とトナーカートリッジの再生利用に関する独占禁止法上の考え方

 近年,レーザープリンタに使用されるトナーカートリッジ(以下「カートリッジ」という。)にICチップが搭載される事例が増えている。レーザープリンタのメーカーがその製品の品質・性能の向上等を目的として,カートリッジにICチップを搭載すること自体は独占禁止法上問題となるものではない。しかし,プリンタメーカーが,例えば,技術上の必要性等の合理的理由がないのに,あるいは,その必要性等の範囲を超えて

(1) ICチップに記録される情報を暗号化したり,その書換えを困難にして,カートリッジを再生利用できないようにすること

(2) ICチップにカートリッジのトナーがなくなった等のデータを記録し,再生品が装着された場合,レーザープリンタの作動を停止したり,一部の機能が働かないようにすること

(3) レーザープリンタ本体によるICチップの制御方法を複雑にしたり,これを頻繁に変更することにより,カートリッジを再生利用できないようにすること

などにより,ユーザーが再生品を使用することを妨げる場合には,独占禁止法上問題となるおそれがある(第19条(不公正な取引方法第10項[抱き合わせ販売等]又は第15項[競争者に対する取引妨害])の規定に違反するおそれ)。
 なお,前記の考え方は,インクジェットプリンタに使用されるインクカートリッジにICチップを搭載する場合についても,基本的に同様である。

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