平成26年9月12日
公正取引委員会
1 はじめに
公正取引委員会は,今般の消費税率の引上げに当たり,消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保する観点から,消費税の転嫁拒否等の行為(以下「転嫁拒否行為」という。)の未然防止のための取組と,転嫁拒否行為に対する迅速かつ厳正な対処のための取組を進めてきた。
公正取引委員会は,転嫁拒否行為に関する情報を積極的に収集するため,消費税率の引上げが実施された本年4月以降,中小企業庁と合同で,中小企業・小規模事業者等に対する悉皆的な書面調査や,大規模小売事業者及び大企業等に対する書面調査を実施したところであり,これらによって把握した情報等に基づき,転嫁拒否行為に対して迅速かつ厳正に対処しているところである。
また,本年4月から7月までに計6件の勧告・公表を行ったほか,本年8月に1件の勧告・公表を行うとともに,中小企業庁長官から消費税転嫁対策特別措置法第5条の規定に基づく3件の措置請求を受けたところである。
今後も引き続き,転嫁拒否行為に対して迅速かつ厳正に対処していくとともに,重大な転嫁拒否行為が認められた場合には勧告・公表を積極的に行うこととしている。また,転嫁拒否行為の未然防止のための取組についても,引き続き実施していく。
2 転嫁拒否行為に対する迅速かつ厳正な対処のための取組
(1) 転嫁拒否行為に関する情報収集
ア 中小企業・小規模事業者等に対する悉皆的な書面調査
公正取引委員会は,平成26年4月から6月にかけて,中小企業庁と合同で,中小企業・小規模事業者等(売手側)から転嫁拒否行為に関する情報提供を求めるため,中小企業・小規模事業者等全体に対して,広く調査票を送付又は配布して,書面調査を実施したところである。
転嫁拒否行為は,今後も行われる可能性があることから,平成26年度内にわたって違反行為を監視するため,本年7月以降も書面調査を引き続き実施している。
イ 事業者及び事業者団体に対するヒアリング調査
公正取引委員会は,転嫁拒否行為に関する情報等を把握するため,これまでに4,529社の事業者及び1,436の事業者団体に対してヒアリング調査を実施した(平成26年8月末時点)。
(2) 転嫁拒否行為に対する調査及び勧告・指導
公正取引委員会は,様々な情報収集活動によって把握した情報を踏まえ,立入検査等の調査を積極的に実施しており,違反行為が認められた事業者に対しては転嫁拒否行為に係る不利益の回復などの必要な改善措置を迅速に行っている。また,重大な転嫁拒否行為が認められた場合には,勧告・公表を積極的に行っている(公正取引委員会及び中小企業庁における平成25年10月から平成26年8月までの対応実績は別紙参照)。
公正取引委員会及び中小企業庁は,本年8月に18件の指導を行い,平成25年10月から平成26年8月までの指導件数の合計は1,305件である。また,公正取引委員会は,本年8月に1件の勧告を行い,平成25年10月から平成26年8月までの勧告件数の合計は7件である(別添1)。
違反行為類型別では,買いたたき(消費税転嫁対策特別措置法第3条第1号後段)が1,026件,本体価格での交渉の拒否(同法第3条第3号)が237件,役務利用・利益提供の要請(同法第3条第2号)が62件及び減額(同法第3条第1号前段)が15件となっている(合計1,340件)。
(3) 平成26年8月における転嫁拒否行為に対する措置
公正取引委員会は,本年8月に1件の勧告を行っており,同月における勧告の概要は以下のとおりである。
また,公正取引委員会及び中小企業庁は,本年8月に18件の指導を行っており,同月における主な指導事例は別添3のとおりである。
〇 産業機械健康保険組合に対する件(平成26年8月1日勧告)
ア 産業機械健康保険組合は,厚生労働大臣の認可を受け設立された法人であり,健康保険の保険給付事業を行うほか,保健事業又は福祉事業として健康診断,保養施設の運営等を行う事業者である。
イ 同組合は,病院又は診療所を営む事業者(以下「健診機関」という。)と健康診断に関する委託契約を締結し,当該契約において健康診断の種類ごとに委託料金を定めて,健診機関から,継続して健康診断の役務の供給を受けている。
ウ 同組合は,平成26年4月1日以後の健康診断の委託料金について,消費税率の引上げ分を上乗せしないことを決定し,この旨を平成26年2月下旬に,健診機関に対し,文書により通知した。
エ 同組合は,公正取引委員会の調査を契機として,平成26年4月1日以後に健康診断に関する前記イの委託料金について,本年7月までに,消費税率の引上げ分に相当する額を上乗せした額まで引き上げることを健診機関との間で合意し,平成26年4月1日に遡って当該引上げ分相当額を健診機関に対して支払っている。
オ 公正取引委員会は,上記ウの行為が,消費税転嫁対策特別措置法第3条第1号後段(買いたたき)の規定に違反するものであるとして,同法第6条第1項の規定に基づき,同組合に対し,今後,特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むことのないよう,自社の役員及び職員に本勧告の内容について周知徹底すること,同法の研修の実施等の組織体制整備のための措置を講じること,実施した措置を速やかに公正取引委員会に報告すること等を内容とする勧告を行った。
3 転嫁拒否行為の未然防止のための取組
〇 公正取引委員会主催説明会
公正取引委員会は,事業者及び事業者団体を対象として,本年6月以降,公正取引委員会主催の説明会を全国28か所(28回)で開催することとしており,本年6月から8月までに説明会を25回実施したところである。
本年9月以降も順次説明会を実施することとしており,現在,公正取引委員会のホームページ(以下のURL参照)において説明会参加の申込みを受け付けている。
http://www.jftc.go.jp/tenkataisaku/setumeikai.html
当該説明会では,消費税転嫁対策特別措置法で禁止されている転嫁拒否行為の概要やこれまでの勧告・指導事例などについて,公正取引委員会の職員が説明する。
なお,説明会の開催に併せて,転嫁拒否行為を受ける事業者等からの相談を公正取引委員会の職員が受け付ける移動相談会を開催する。
別紙
転嫁拒否行為に対する対応実績(平成26年8月まで)
公正取引委員会
中小企業庁
平成26年8月までの公正取引委員会及び中小企業庁における転嫁拒否行為に対する対応状況は下表のとおりである(勧告事件,措置請求の概要及び主な指導事例については,別添1から別添3までを参照)。
調査着手件数 | 指導件数(注2) | 勧告件数(注3) | 措置請求件数 |
2,656件 | 1,305件 |
7件 |
3件 |
(注1) 公正取引委員会及び中小企業庁の合算。また,平成26年8月までの累計(平成25年10月~平成26年8月)。
(注2) 転嫁拒否行為を行っていると回答した事業者に対する下請代金支払遅延等防止法に基づく中小企業庁の指導を含む。
(注3) 勧告は,公正取引委員会のみが行う。
業種 | 指導 | 勧告 | 合計 |
建設業 | 27件 | 0件 | 27件 |
製造業 | 507件 | 0件 | 507件 |
運輸業(道路貨物運送業等) | 146件 | 0件 | 146件 |
情報通信業 | 126件 | 0件 | 126件 |
卸売業 | 137件 | 0件 | 137件 |
小売業 | 134件 | 2件 | 136件 |
不動産業 | 22件 | 0件 | 22件 |
技術サービス業(広告・建築設計業等) | 94件 | 0件 | 94件 |
事業サービス業(ビルメンテナンス業・警備業等) | 25件 | 0件 | 25件 |
自動車整備業・機械等修理業 | 17件 | 0件 | 17件 |
その他(注5) | 70件 | 5件 | 75件 |
合 計 | 1,305件 | 7件 | 1,312件 |
(注4) 複数の業種にわたる事業者が勧告又は指導の対象となった場合は,当該事業者の主な業種を1件として計上している。
(注5) 「その他」は,医療福祉,旅行業,労働者派遣業等である。
行為類型 | 指導 | 勧告 | 合計 |
減額 | 15件 | 0件 | 15件 |
買いたたき(注6) | 1,019件 | 7件 | 1,026件 |
役務利用・利益提供の要請 | 62件 | 0件 | 62件 |
本体価格での交渉の拒否 | 237件 | 0件 | 237件 |
合 計(注7) | 1,333件 | 7件 | 1,340件 |
(注6) 買いたたきの勧告及び指導件数には,平成26年3月31日以前に減額行為があり,同年4月1日以降に違反のおそれがあるものを含む。
(注7) 事業者の中には,複数の行為を行っている場合があり,表1及び表2に記載の件数とは一致しない。
別添1
勧告事件(平成26年8月まで)
名称 |
概要 | 違反法条 |
|
1 | 株式会社JR東日本ステーションリテイリング |
駅構内等で食料品,衣料品等を販売する株式会社JR東日本ステーションリテイリングは,消費税率の引上げに伴う売上高の減少を防止するため,納入業者に対し,仕入価格を通常支払われる仕入価格に比べ3%程度低く設定することになる販売促進企画への参加を要請した。 | 第3条第1号後段 |
2 | 株式会社三城 |
メガネ等を販売する株式会社三城は,消費税率の引上げに対応するため,店舗の賃貸人のうち,税込価格で賃料を契約している賃貸人に対し,消費税率の引上げ分を上乗せせずに賃料を据え置いた。 | 第3条第1号後段 |
3 | 山形市(山形市立病院済生館) |
山形市立病院済生館は,消費税率の引上げに対応するため,医療材料の納入価格を引き下げることとし,納入業者に対し,平成25年度下期の納入価格に一定率を乗じた額等を減じて算出した医療材料ごとの納入価格の目標値を定めた。 | 第3条第1号後段 |
4 | 一般社団法人東京都自転車商防犯協力会 |
東京都公安委員会が指定する自転車の防犯登録を行う一般社団法人東京都自転車商防犯協力会は,防犯登録業務を委託している自転車販売店等に対し,消費税率の引上げ分を上乗せせずに委託手数料を据え置いた。 | 第3条第1号後段 |
5 | 一般社団法人兵庫県自転車防犯登録会 |
兵庫県公安委員会が指定する自転車の防犯登録を行う一般社団法人兵庫県自転車防犯登録会は,消費税率の引上げに伴う自らの経費の負担を回避するため,防犯登録業務を委託している自転車販売店等に対し,消費税率の引上げ前の額より更に低い委託手数料を定めた。 | 第3条第1号後段 |
6 | 株式会社ルネサンス |
スポーツ施設の運営等の事業を営む株式会社ルネサンスは,消費税率の引上げに対応するため,スポーツ指導を行う個人事業者に対し,免税事業者に該当することを理由として,消費税率の引上げ分を上乗せせずに業務委託料を据え置く等した。 | 第3条第1号後段 |
7 | 産業機械健康保険組合 |
健康保険給付事業及び保健・福祉事業を行う産業機械健康保険組合は,健康診断に関する委託契約を締結している病院等に対し,消費税率の引上げ分を上乗せせずに委託料金を据え置いた。 | 第3条第1号後段 |
別添2
措置請求の概要(平成26年8月)
名称 |
概要 | 違反法条 |
|
1~3 | 吉野家グループ |
中小企業庁が外食チェーンの吉野家グループが支払う店舗の賃料に関して調査を行った結果,店舗所有者(賃貸人)の一部に対して賃料の消費税率の引上げ分の減額,消費税率の引上げ分を上乗せせずに賃料を据え置く違反行為が認められたため,中小企業庁長官は公正取引委員会に対して適当な措置を採るべきことを請求した。 | 第3条第1号前段(減額)及び同号後段(買いたたき) |
別添3
主な指導事例(平成26年8月)
業種 | 概 要 |
小売業 | 大規模小売事業者であるA社は,自社で販売する商品の納入業者(特定供給事業者)に対し,平成26年4月1日以後,税抜きの代金を算出するに当たって,商品ごとに,単価に仕入数量を乗じた額から1円未満の端数を切り捨てていた。 |
業種 | 概 要 |
葬祭業 | 葬祭業者であるB社は,自社が販売する生花の納入業者(特定供給事業者)に対し,平成26年4月1日以後も消費税率の引上げ分を上乗せすることなく,消費税込みの生花の納入価格を据え置いていた。 |
小売業 | 大規模小売業者であるC社は,自社店舗の駐車場の賃貸人のうち,消費税を含む額で賃料を契約している賃貸人(特定供給事業者)に対し,平成26年4月1日以後も消費税率の引上げ分を上乗せすることなく,消費税込みの賃料を据え置いていた。 |
学習支援業 | 学習塾を運営しているD社は,教室等の賃貸人のうち,消費税を含む額で賃料を取り決めている者(特定供給事業者)に対し,平成26年4月1日以後も消費税率の引上げ分を上乗せすることなく,消費税込みの賃料を据え置いていた。 |
医療業 | 医療器材の保守等を委託しているE病院は,当該役務を委託している事業者(特定供給事業者)に対し,平成26年4月1日以後に受ける当該役務の委託代金について値引きを要請した。 |
関連ファイル
(印刷用)(平成26年9月12日)平成26年8月までの消費税転嫁対策の取組について(PDF:210KB)
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