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公的再生支援に関する競争政策上の考え方

公的再生支援に関する競争政策上の考え方

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平成28年3月31日
公正取引委員会

はじめに

 我が国では,様々な政策目的に基づいて,公的再生支援が行われている。
 他方,公的再生支援は,市場における競争の結果,本来であれば市場から退出するはずであった事業者を再生させるものであり,競争の結果,非効率的な事業者が市場から退出し,効率性に優れた事業者が市場で生き残るという市場メカニズムに介入し,競争に影響を与えることとなる。
 本考え方は,公的再生支援機関が公的再生支援を行う必要がある場合において,公的再生支援による事業再生が可能となることを前提にしつつ,公的再生支援が我が国の市場における競争に与える影響を最小化するために,公的再生支援機関が競争政策の観点から留意すべき事項等を明らかにするものである。
 公的再生支援機関においては,本考え方に十分留意し,必要に応じ規制当局とも連携しながら,あらかじめ競争への影響を検討・評価した上で公的再生支援の内容を決定することが望ましい。また,公的再生支援機関が本考え方に基づいて,公的再生支援による競争への影響を評価する場合には,必要に応じ公正取引委員会と相談することを期待するものである。

第1 本考え方の対象となる公的再生支援等

 本考え方においては,次の用語は,以下のような意味を持つものとする。

1 公的再生支援

 公的再生支援とは,様々な政策目的を達成するために政府(政府が出資する法人を含む。)が出資して特別の法律により設立された法人が,有用な経営資源を有しながら市場における競争の結果として経営が困難な状況に陥った事業者の事業継続能力を回復することを目的として行う事業再生支援をいう(注1)。
(注1)自然災害等の不可抗力によって経営が困難な状況に陥った事業者に対する救済的な支援については,市場における競争の結果として経営が困難な状況に陥った事業者に対する支援とは区別し,本考え方における公的再生支援には含まれないものとする。

2 公的再生支援機関

 公的再生支援機関とは,公的再生支援を行う法人をいう。

第2 公的再生支援が競争に与える影響に関する基本的な考え方

1 公的再生支援が競争に与える影響

 市場における競争の結果,経営が困難な状況に陥った非効率的な事業者が,経営が破綻し市場から退出することは,効率性に優れた事業者が市場で生き残るという市場メカニズムを維持するために必要なものである。
 公的再生支援は,本来であれば市場から退出するはずであった事業者を再生させることでこのような市場メカニズムに介入するものであり,以下のような弊害を生み,当該市場における競争に影響を与えるおそれがある(注2)。
[1] 非効率的な被支援事業者が市場に存続することによって,効率的な既存の事業者又は新規参入事業者への需要の移転や人的・物的な資源の適正な配分が妨げられ,さらに,公的再生支援を梃(て)子に非効率的な被支援事業者が効率的な事業者に対して競争上優位に立つ場合には,非効率的な事業者への需要の移転や資源の配分が過大になる。
[2] 経営が困難な状況に陥った際に公的再生支援が受けられることを見込んで,効率的な事業活動を行わなくても,最終的に公的再生支援を受けることで市場に存続できるという期待が生じることから,事業を効率化しようとするインセンティブが弱まるというモラルハザードが生じる。
(注2)[1]や[2]のような弊害を生むおそれがあることから,存続すべき事業を継承する新規事業者が参入しやすいような環境を整備するなど,公的再生支援による事業再生によらずとも,支援によって追求しようとする政策目的が達成できるようにすることが重要である。

2 被支援事業者の事業規模等が競争に与える影響の違い

 公的再生支援が競争に与える影響の程度は,支援内容等の他の条件を一定とした場合,以下のように被支援事業者の売上高や生産量等の事業規模,市場シェア,市場集中度によって異なる(注3)。
[1] 被支援事業者の絶対的な事業規模が大きい場合には,効率的な事業者である競争事業者への需要の移転や資源の適正な配分が妨げられる程度が大きくなるなどから,公的再生支援が競争に与える影響の程度は大きくなる。
[2] 被支援事業者の市場シェアが大きい場合には,前記[1]と同様の理由から,公的再生支援が競争に与える影響の程度は大きくなる。
[3] 事業者数が少なく市場集中度が高い市場であって,当該市場における事業者同士の市場シェアが拮(きっ)抗している場合には,効率的な事業者である競争事業者への需要の移転や資源の配分への影響がより直接的であるため公的再生支援が競争に与える影響の程度も大きくなる。この場合,事業者数が少ないほど,公的再生支援が競争に与える影響の程度が大きくなる。
(注3)中小企業の取扱い
 中小企業については,一般的にはその絶対的な事業規模が小さいことから,中小企業に対する公的再生支援が競争に与える影響の程度は限定的であると考えられる。そのため,中小企業に対して公的再生支援を行う場合において,公的再生支援機関が競争に与える影響を最小化するために具体的な検討を行う必要性はその他の場合と比べて基本的には小さいと考えられる。

第3 公的再生支援が競争に与える影響を最小化するための基本的な考え方

1 競争に与える影響を最小化するために踏まえるべき原則

 前記第2の基本的な考え方を踏まえると,公的再生支援機関は,競争に与える影響をあらかじめ注意深く考慮した上で,競争に与える影響を最小化するために,以下の三つの原則を踏まえて公的再生支援を実施すべきである。

 [1] 補完性の原則

 公的再生支援は,様々な政策目的を達成するために事業再生が必要であるが,民間だけでは円滑な事業再生が不可能であり,公的再生支援機関が事業再生に対する公的な支援を行わざるを得ない場合に限って,民間の機能を補完するために実施されるようにすべきである。

 [2] 必要最小限の原則

 公的再生支援は,様々な政策目的を達成するために事業再生が必要である場合において,当該事業再生のために必要最小限となるような規模・手法等で行われるようにすべきである。

 [3] 透明性の原則

 公的再生支援が市場メカニズムにどのような影響を与えるのかを明確にし,競争事業者が公的再生支援による競争に与える影響について意見を提出したり,被支援事業者の行為に適切に対応したりすることができるように,支援基準や支援手続といった一般的な事項に関する情報だけではなく,可能な限り,個別の事案に関する情報について,迅速性や情報へのアクセスの容易性に配慮しつつ開示されるようにすべきである。

2 公的再生支援開始後における競争回復措置についての考え方

 前記1の三原則に基づき,競争に与える影響を最小化した上で公的再生支援を開始したにもかかわらず,被支援事業者が当初の想定以上に競争上優位になることがあり得る。この場合,競争に与える影響を最小化するために事後的に競争回復措置を採ることは,
[1] 被支援事業者の事業再生に向けた効率性改善のインセンティブを損なうおそれがあること
[2] 被支援事業者に対して資金の貸付けを行っている金融機関等の被支援事業者のステークホルダーが事業再生に関与しようとするインセンティブを損なうおそれがあることから,適当ではない。

第4 公的再生支援が競争に与える影響に係る支援内容ごとの評価及びそれを最小化するための支援内容の調整に係る考慮事項

1 支援の規模

(1) 競争に与える影響の評価

 支援の規模については,支援金額等の絶対的な大きさ,被支援事業者の事業規模を踏まえた相対的な大きさのいずれであっても,支援の規模が大きいほど競争に与える影響は大きくなる。

(2) 競争に与える影響を最小化するための考慮事項

 支援の規模を必要最小限とするために,例えば以下のような事項を考慮する必要がある。
[1] 偶発的なリスク等に対応するために十分な規模の支援を行うことは必要最小限の範囲内のものと考えられるが,リスクを過大に考慮して規模を上乗せすることは,必要最小限には当たらない。
[2] 公的再生支援によるいわゆる呼び水効果があることを踏まえつつ,あらかじめ被支援事業者においてできる限り民間の金融機関等からの借入れや増資を自ら行うように,被支援事業者に対して求めることが適当である。
[3] 被支援事業者が過大な債務を抱えている場合には,被支援事業者の債権者に対して十分な債権放棄を行うように求める必要があるが,まずは株主に責任を果たさせる観点から,減資等の形で被支援事業者の損失を負担するように株主に対して求めることが望ましい。

2 支援の期間・回数

(1) 競争に与える影響の評価

 支援の期間については,支援の期間が長いほど,競争に与える影響は大きくなる。
 また,支援の回数については,支援が繰り返し行われると,事業者の効率性改善のインセンティブを損ないやすい(モラルハザードが生じやすい)という意味において,一度しか行われない支援と比べて競争に与える影響は大きくなる。

(2) 競争に与える影響を最小化するための考慮事項の手法

[1] 支援の期間は可能な限り短くした上で,原則として期間の延長は行わないこと。 
[2] 公的再生支援は原則として一度限りとし,経営が困難になるたびに支援を繰り返さないこと。

3 支援の手法

(1) 競争に与える影響の評価

 支援の手法については,[1]資金の貸付けや債務保証等の流動性支援(注4)や株式等の取得による出資といった金融支援,[2]債権者間調整や専門家の派遣といった非金融支援が挙げられる。これらは,資金の充足を通じて直接又は被支援事業者の信用力の補完等を通じて間接的に,被支援事業者に競争上の優位をもたらし,競争に影響を与えることとなる。
 特に,金融支援のうち出資は,流動性支援と比べて,返済の必要がない点や,被支援事業者の信用力が補完される効果がある点等から,競争に与える影響がより大きくなる。
 公的再生支援機関は,金融支援,非金融支援のどちらを行う場合においても,当該支援の内容について前記第3の1の三原則を踏まえた上で決定する必要があるところ,非金融支援は金融支援に比べて競争に与える影響が間接的かつ多様であることから,後記(2)では金融支援に限定して考え方を整理することとする。
(注4)流動性支援とは,事業再生を行う上で,被支援事業者の運転資金の不足によって事業の継続が困難になった場合等に,公的再生支援機関がその資金の流動性を確保するために行う金融支援である。

(2) 競争に与える影響を最小化するための考慮事項

 公的再生支援機関が金融支援を行う場合には,前記1の支援の規模や前記2の支援の期間・回数の考慮事項を踏まえつつ,被支援事業者の財務状況を十分に検討した上で,被支援事業者にとってどのような手法による支援が必要かを的確に把握し,適切な金融支援の内容となるように,以下の点に留意する必要がある。
[1] 金融支援を行う際には,その資金の使途を被支援事業者の事業再生に必要な範囲に限定すること。
[2] 前記1(2)[2]のとおり,公的再生支援には呼び水効果があることを踏まえた上で金融支援の手法や内容を決定すること。
[3] 流動性支援を行う場合には,競争への影響をできる限り小さくするために,利子や貸付保証料を課すことで何らかの対価を求めることとするほか,その水準を含めて民間の金融機関等の条件に近付けること(注5)。
[4] 出資は,流動性支援と比べて,競争に与える影響がより大きくなることから,出資を行う場合にはその必要性について慎重に検討を行うこと(注6)。
 また,出資の必要性が認められた場合であっても,被支援事業者に対して出資を行う前にあらかじめ民間の出資者を募り,そのような民間の出資者が見付からない部分に限って,公的再生支援機関が出資を行うこと。
(注5)流動性支援を行う場合において,利子や貸付保証料を課すことにより,被支援事業者が早期に借入れを返済しようとするインセンティブが強くなることで早期に事業再生が完了し,また,民間の金融機関等から借り入れる場合に比べて利子や貸付保証率の水準等の条件の乖(かい)離が小さいほど,被支援事業者が民間の金融機関等から借り入れる場合との差異が小さくなり,競争への影響が小さくなると考えられる。
(注6)公的再生支援機関が出資を行う場合には,独占禁止法の規定に基づく公正取引委員会による企業結合規制の対象となる。

(備考)公的再生支援機関が出資により取得した株式等の支援終了時における処分の方法
 公的再生支援機関が公的再生支援として出資により株式等を取得した場合に,支援終了時に当該株式等を処分する方法の有力な選択肢として公的再生支援機関が入札等を通じて被支援事業者のスポンサーを選定する経営支配権オークションがあるほか,株式市場への当該株式の上場等の方法もある。
 この場合において,被支援事業者以外の事業者が当該株式等を取得しようとするときは,独占禁止法の規定に基づく公正取引委員会による企業結合規制の対象となる。

4 公的再生支援と法的整理の併用

(1) 競争に与える影響の評価

 事業再生には,法令上の手続にのっとり裁判所の管理下において行われる民事再生や会社更生といった法的整理があり,公的再生支援と法的整理が併用される場合がある。
 この場合,公的再生支援と法的整理は,事業再生を支援するという点において機能が一部共通するため,併用することで支援内容が事業再生に必要な最小限の範囲を超えて過大になるおそれがあり,併用しない場合と比べて競争に与える影響が大きくなることがある。

(2) 競争に与える影響を最小化するための考慮事項

 公的再生支援と法的整理を併用しようとする場合には,あらかじめその必要性について慎重に検討する必要がある。必要性が認められるのは,基本的には事業再生のために法的整理固有の機能を利用しなければならないような場合であり,例えば以下のようなものが考えられる。
 [1] 貸借対照表上に記載されていない債務である簿外債務が顕在化するリスクを遮断し,被支援事業者の債務を確定する必要がある場合。
 [2] 事業再生のために必要な再建計画について債権者全員から同意を得ることが困難であり,債権者の多数決で同意を得る必要がある場合。
 [3] 債権者間調整の対象範囲が,貸付け等の金融債権者だけでなく,社債権者や商取引における商事債権者等多岐にわたる場合。
 [4] 被支援事業者の事業の継続に必要な資産が,個別の債権の強制執行によって差し押さえられることを防ぐ必要がある場合。
 また,公的再生支援と法的整理を併用する必要性が認められ,実際に併用する場合には,競争に与える影響を最小化するために,法的整理の併用によって結果として公的再生支援の内容が過大になるおそれがあることに十分に留意し,法的整理によってもたらされる効果を踏まえて公的再生支援の内容を厳格に調整することが適当である。

5 支援内容の調整だけでは看過できないような競争への影響が残る場合の措置

 公的再生支援機関が支援内容を厳格に調整することによって,公的再生支援が競争に与える影響の最小化を図った上でなお,どうしても看過できないような影響が残ることがあり得る。
 このような懸念がある場合,公的再生支援機関は,支援内容の調整に加え,必要に応じ被支援事業者の事業を所管する規制当局とも連携しながら,あらかじめそのような影響を払拭するため,どのような措置(影響最小化措置)を採り得るか検討を行うことが適当である。
 影響最小化措置としては,例えば,
[1] 公的再生支援により被支援事業者の絶対的な事業規模や市場シェアが大きくなり,被支援事業者が著しく競争上優位となることが見込まれる場合には,新たな生産設備や新規事業分野への投資を一定期間制限するといった被支援事業者の事業活動を制約する行動措置
[2] 支援内容を決定する時点において被支援事業者の絶対的な事業規模や市場シェアが大きく,公的再生支援を梃(て)子として被支援事業者が著しく競争上優位となることが見込まれる場合には,事業譲渡や生産設備の売却といった被支援事業者の市場における能力をあらかじめ減少させる構造措置
が考えられる。ただし,行動措置のうち,被支援事業者の事業における価格設定に制限を課すものについては,市場の競争を直接制限する効果を持つおそれがあるため,原則として採るべきではない。
 影響最小化措置を実施する場合には,被支援事業者自らが経営努力を行って効率性を改善しようとしたり,被支援事業者のステークホルダーが事業再生に関与しようとしたりするインセンティブを低下させるおそれがあることに鑑み,影響最小化措置の実施の要否,その内容及び実施時期は支援決定時に決定することが適当である。

第5 公的再生支援が競争に与える影響を最小化するための支援手続における透明性の確保

1 基本的な考え方

 前記第4までの支援内容の調整といった支援の実体面だけでなく,支援の手続面においても,公的再生支援機関が,支援基準や支援手続の流れについて公表するといった一般的な透明性とともに,個別事案に関する情報を公表するといった個別の事案における透明性も確保することは,競争に与える影響を最小化することに資する。

2 支援手続における透明性の具体的な確保策

 公的再生支援機関は,透明性の具体的な確保策として,例えば以下のような対応を採ることが適当である。
[1] 被支援事業者,その競争事業者及び被支援事業者を支援する事業者の予見可能性を高めるために,公的再生支援の支援基準や支援手続の流れを基本的に公表するとともに,公的再生支援の実施過程も積極的に開示する。
[2] 個別の公的再生支援の事案における透明性を確保するために,被支援事業者の絶対的な事業規模や市場シェアが大きい場合や公的再生支援と法的整理を併用する場合等,競争に与える影響が大きいと考えられる場合には,被支援事業者が風評被害を受けることなどによって円滑な事業再生に支障が生じないように留意した上で,可能な範囲で,支援計画の内容とともに,当該事案が競争に与える影響についての評価を公表する。また,競争に与える影響を評価する際には,事業再生に支障が生じない範囲内で,競争事業者や被支援事業者と取引関係のある事業者等から,市場の状況や公的再生支援が行われることによって競争事業者が受ける影響等について,意見を聴取する。

第6 関連する事業規制等の在り方

1 基本的な考え方

 規制当局は,公的再生支援に関連して,被支援事業者やその競争事業者に対し許認可を含む処分等を行うときには,競争条件への影響が必要最小限のものとなるよう留意することが望ましい。
 特に被支援事業者やその競争事業者が公的規制制度の下にあり,公的再生支援を梃(て)子として被支援事業者が著しく競争上優位になる場合には,規制当局が,競争に与える影響を是正し,競争環境を確保する観点も踏まえて,処分等を行うことがあり得る。
 このような場合において,規制当局は,公的再生支援によって競争に与えた影響を把握するために,公的再生支援機関や被支援事業者に対して,必要な情報の提供を求めるなどによって,市場の状況を監視することが適当である。また,監視の結果,必要がある場合には,被支援事業者が経営努力により効率性を改善しようとするインセンティブが低下しないように考慮しつつ,競争の活性化を促すことによって競争環境を確保するという方向で処分等の内容について検討を行うことが望ましい。

2 規制当局の対応

 前記1の考え方から,規制当局が採るべき処分等としては,競争の活性化を促す観点から,例えば以下のような措置が考えられる。
[1] 事業への参入が許認可制である場合において,許認可権を適正に行使することにより潜在的な新規参入事業者の参入を促すこと。
[2] 新規参入事業者を含む競争事業者による事業の実施に不可欠な施設の利用を容易にするような処分等を行うこと。

以上

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