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「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」の運用基準

「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」の運用基準

平成17年6月29日
事務総長通達第9号
改正:平成22年1月1日
改正:平成23年6月23日

はじめに

1 公正取引委員会は、大規模小売業者の納入業者に対する優越的地位の濫用行為を規制する基本的ルールとして「百貨店業における特定の不公正な取引方法」(昭和二十九年公正取引委員会告示第七号(平成十七年十一月一日廃止予定)。以下「旧告示」という。)を定め、これを運用してきた。
 旧告示は、いわゆる百貨店、スーパー等を規制対象とするものであるが、近年、大規模小売業者については、百貨店、スーパーのほか、ホームセンター、衣料、家電等の専門量販店、ドラッグストア、コンビニエンスストア本部、通信販売業など業態が多様化するとともに、その規模等も拡大している。
 このような中で、旧告示の規制対象とならない大規模小売業者による納入取引上の問題や、旧告示に規定していない不当な協賛金の負担要請などの行為が納入業者から強く指摘されている。また、公正取引委員会が行ってきた納入取引に関する実態調査においても、前記と同様の問題がみられるなど、旧告示は、必ずしも流通の実態にそぐわなくなっている。
 大規模小売業者と納入業者の取引においては、大規模小売業者がいわゆるバイイングパワーを利用して、不当な協賛金の負担要請や不当な返品など事前の契約とは関係のない、あるいは、あらかじめ合意された取引条件を事後的に変更するような取引を行わせる場合がしばしば見られる。大規模小売業者のこのような行為により、納入業者は、取引における自由かつ自主的な判断をゆがめられるとともに、あらかじめ計算できない不利益を受け、他の納入業者との関係で競争上不利となり、一方、不当な行為による利益を享受する大規模小売業者は、他の小売業者との関係で競争上有利となるなど、納入業者間及び小売業者間の公正な競争が阻害される。
 また、大規模小売業者によるこのような行為は、自らの合理的な取引条件の設定を妨げ、コスト意識に基づく合理的な経営行動に逆行するものである。さらに、この結果、市場メカニズムに基づく公正な取引が阻害されることにより市場の効率性が損われ、効率化のメリットが消費者に還元されなくなる場合も考えられる。
 そこで、このような大規模小売業者による優越的地位の濫用行為を効果的に規制するため、旧告示を見直し、納入取引の実態に即した取引上の地位の不当利用を規制する新たなルールとして、平成十七年五月十三日、「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」(以下「告示」という。)を指定したところであるが、告示の運用の透明性を確保し、事業者の予測可能性を高めるため、「『大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法』の運用基準」(以下「本運用基準」という。)を策定することとした。

2 本運用基準は、まず、第1において、告示の適用対象となる大規模小売業者及び納入業者の範囲を明らかにし、第2において、告示で規定する禁止行為の内容を、問題となる行為事例とともに明らかにしている。
 本運用基準は、どのような行為が告示の規定に該当するか判断するため、第2の各項に問題となる行為事例を掲げているが、これらはあくまで例示であって、本運用基準に取り上げられていない行為が告示の規定に該当するか否かは、同規定に照らして個別具体的に判断されるものである。なお、大規模小売業者が自己の取引上の地位を不当に利用して納入業者と取引する行為については、告示のほか、独占禁止法第二条第九項第五号(優越的地位の濫用)又は「不公正な取引方法」(昭和五十七年公正取引委員会告示第十五号)の適用もあるため、留意する必要がある。
 (注)独占禁止法第2条第9項第5号に該当する優越的地位の濫用に対しては、同号の規定のみを適用すれば足りるので、当該行為に独占禁止法第2条第9項第6号の規定により指定する優越的地位の濫用の規定が適用されることはない。

第1 大規模小売業者及び納入業者の定義

1 備考第一項(大規模小売業者の定義)

(1) 大規模小売業者とは、「一般消費者により日常使用される商品の小売業を行う者」であって、(1)前年度の総売上高が百億円以上(第一号)、又は(2)一定以上の店舗面積の店舗を有する者(第二号)をいう。
 ここで、「小売業を行う者」とは、一般消費者により日常使用される商品を当該消費者に販売する者をいう。生協、農協であっても実態として消費者に販売している場合には、本項でいう「小売業を行う者」に該当する。なお、例えば、サービス提供事業において商品を販売する場合には、その販売が客観的にみて当該サービス提供事業の付随的な業務と認められる場合には、小売業を行っていることにはならない。

(2) 本項では、「小売業を行う者」に中小小売商業振興法(外部サイトへリンク 新規ウインドウで開きます)に規定する特定連鎖化事業を行う者を含めているが、この特定連鎖化事業を行う者とは、同事業を行う者であって、実質的に小売業を行っていると認められる者をいう。例えば、コンビニエンスストアのように、特定連鎖化事業を行うフランチャイザー(本部)がフランチャイジー(加盟者)に特定の商標等を与えるとともに、加盟者の物品販売等について統一的な方法で統制、指導、援助を行い、本部と加盟者が特定の商標の下に一体となって、消費者に販売を行っていると認められるような場合には、当該フランチャイザーは、本項でいう「小売業を行う者」に該当する。
 また、第二号の店舗面積の範囲についての考え方は、大規模小売店舗立地法第二条第一項の「店舗面積」の範囲の考え方と同じである。

2 備考第三項(納入業者の定義)

(1) 納入業者とは、「大規模小売業者又はその加盟者が自ら販売し、又は委託を受けて販売する商品を当該大規模小売業者又は当該加盟者に納入する事業者(その取引上の地位が当該大規模小売業者に対して劣っていないと認められる者を除く。)」をいう。
 ここで、商品を「納入する事業者」とは、商品の引渡しを内容とする取引を行う事業者をいい、実質的に取引関係が認められる事業者を含むものである。すなわち、製造業者が卸売業者を介して商品を納入している場合(形式的な契約当事者としては卸売業者と大規模小売業者の場合)であっても、例えば、大規模小売業者と製造業者との間で実質的な取引条件の交渉が行われ、卸売業者がそこで決められた取引条件により大規模小売業者に商品を納入しているような場合には、当該卸売業者のほか当該製造業者が当該大規模小売業者に「納入する事業者」に該当することとなる。
 大規模小売業者からみた納入業者からの仕入形態には、一般に買取仕入れ、委託仕入れ及び売上仕入れ(消化仕入れ)があるが、これらの仕入形態を用いて納入を受ける場合は、いずれもその納入する事業者が本項の納入業者に該当する。
 また、本項の納入業者は、大規模小売業者が販売する商品を当該大規模小売業者に納入する事業者であることから、例えば、大規模小売業者が社内事務で使用する消耗品のように、大規模小売業者が販売しない商品を納入する事業者は、本項の納入業者に該当しない。

(2) 納入業者の「取引上の地位が当該大規模小売業者に対して劣っていないと認められる」かどうかの具体的な判断に当たっては、(1)納入業者の当該大規模小売業者に対する取引依存度、(2)当該大規模小売業者の市場(注)における地位、(3)納入業者にとっての取引先変更の可能性、(4)その他当該大規模小売業者と取引することの必要性を示す具体的事実(納入業者の売上高等)を総合的に勘案することとなる。
 (1)の取引依存度については、一般に、当該大規模小売業者との取引の額を納入業者の売上高で除して算出されるが、納入業者の取り扱う商品が多様な場合には、各商品群ごとに取引依存度をみる必要が生ずることもある。
 (2)の当該大規模小売業者の市場における地位としては、例えば、当該大規模小売業者の市場におけるシェアの大きさ、その順位等が考慮されることとなる。
 (3)の納入業者にとっての取引先変更の可能性としては、他の事業者との取引開始や取引拡大の可能性、当該大規模小売業者との取引に関連して行った投資等が考慮される。
 一方、(4)のその他当該大規模小売業者と取引することの必要性を示す具体的事実としては、納入業者の売上高、当該大規模小売業者にとって取引の対象となる商品を取り扱うことの重要性、当該大規模小売業者の今後の成長可能性、当該大規模小売業者との取引の額、当該大規模小売業者と取引することによる納入業者の信用の確保、納入業者の取り扱う商品の需給関係等が考慮されることとなる。例えば、納入業者の取り扱う商品の需給関係等については、納入業者の取り扱う商品が、強いブランド力を有するなど消費者に人気がある(需要が高い)こと等が考慮されることとなる。
 したがって、売上高が小さな中小の納入業者は、その取扱商品が強いブランド力を有するなど例外的な場合を除いて、一般には告示の「納入業者」に該当する。また、売上高の大きな納入業者であっても、当該大規模小売業者に対する取引依存度が高い場合や、当該大規模小売業者を取引先とすることが重要な場合には、告示の「納入業者」に該当することとなる。

 (注) 市場については、取引実態に応じて地域レベルでみるほか、全国レベルでみることもある。

第2 禁止行為について

1 告示第一項(不当な返品)

(1) 本項は、大規模小売業者が、「納入業者から購入した商品の全部又は一部を当該納入業者に対して返品すること」を原則として禁止するものである。
 ただし、その例外として、

(1) 「納入業者の責めに帰すべき事由」がある場合(第一号)

(2) 「商品の購入に当たって納入業者との合意により返品の条件を定め、その条件に従って返品する場合」(第二号)

(3) 「あらかじめ納入業者の同意を得て、かつ、商品の返品によって当該納入業者に通常生ずべき損失を大規模小売業者が負担する場合」(第三号)

(4) 「納入業者から商品の返品を受けたい旨の申出があり、かつ、当該納入業者が当該商品を処分することが当該納入業者の直接の利益となる場合」(第四号)

は返品が認められる。

(2)ア 例えば、次のような返品を行うことは、第一号又は第三号に該当する場合を除き、本項の不当な返品に該当する。

  •  展示に用いたために汚損した商品を返品すること。
  •  小売用の値札が貼られており、商品を傷めることなくはがすことが困難な商品を返品すること。
  •  大規模小売業者がメーカーの定めた賞味期限とは別に独自にこれより短い販売期限を定め、この販売期限が経過したことを理由として返品すること(注1)。
  •  大規模小売業者のプライベート・ブランド商品を返品すること。
  •  月末又は期末の在庫調整のために返品すること。
  •  セール終了後に売れ残ったことを理由に返品すること(注2)。
  •  大規模小売業者の独自の判断に基づく店舗又は売場の改装や棚替えを理由に返品すること(注3)。
  •  購入客から大規模小売業者に返品されたことを理由に返品すること。

(注1) ただし、消費者が通常、商品購入後、賞味するまで一定期間を要することを考慮して、短期間の賞味期限を残して返品する場合であって、第二号に該当する場合を除く。

(注2) ただし、納入業者が大規模小売業者のセールによって自社商品の在庫処分を図るために納入した場合であって、第二号に該当する場合を除く。

(注3) ただし、季節商品の販売時期の終了時の棚替えに伴う返品であって、第二号に該当する場合を除く。

 本項の返品には、「購入契約を委託販売契約に切り替えて返品する」場合、すなわち、納入業者といったん購入契約を締結しておきながら、大規模小売業者が返品するために、途中で委託販売契約に変更し、変更前に納入された商品を返品する場合や、「他の商品と取り替える」場合、例えば、売れ行きの悪い甲商品を売れ行きのよい乙商品に交換させるなど、実質的に甲商品を返品する場合が含まれる。

ウ 特定連鎖化事業を行う大規模小売業者の場合、納入業者から商品を購入する主体が加盟者となるケースがあるが、このようなケースであっても、当該大規模小売業者が当該加盟者に指示をして返品させるような場合には、当該大規模小売業者がその加盟者をして返品するものであるから、本項に該当するものとして取り扱う(第五項、第九項及び第一〇項も同様の考え方である。)。

(3)ア 例外として認められる返品について、第一号の「納入業者の責めに帰すべき事由」がある場合とは、商品に瑕疵がある場合や注文した商品と異なる場合、納期に間に合わなければ販売目的が達成できない場合(例えば季節商品)等をいう。
 ただし、「商品を受領した日から相当の期間内に」、「相当と認められる数量の範囲内で返品する場合」に限る。ここで、「相当の期間」については、個々の事情により判断されるべきであるが、例えば、直ちに発見できる瑕疵がある場合や注文品と異なっている場合には、商品の受領後、検品に要する標準的な期間内に速やかに返品する必要がある。また、このような場合であっても、無制限に返品することは認められず、例えば、瑕疵のある商品や注文と異なる商品であれば、その商品を返品することは認められるが、これに併せて他の商品も(セットでなければ販売の用をなさないものを除く。)返品することは、「相当と認められる数量の範囲内」の返品とは認められない。

イ 第二号の「商品の購入に当たって納入業者との合意により返品の条件を定め」る場合とは、商品購入に当たってあらかじめ納入業者との間で返品条件について定めている場合をいう。「商品の購入に当たって」であるから、商品を購入した後に納入業者と合意したとしても返品は認められない。
 ここで「合意」とは、当事者の実質的な意思が合致しているということであって、納入業者との十分な協議の上に納入業者が納得して合意しているという趣旨であり、合意という形式的な形さえ整えればよいというものではない(他の項における「合意」の考え方も同様である。)。
 また、納入業者との合意により返品条件を定める場合であっても、それが、当該商品の「受領の日から一定の期間内における一定の数量の範囲内での返品又は受領した商品の総量に対して一定の数量の範囲内での返品」(以下「一定の範囲内での返品」という。)が、「大規模小売業者と納入業者との取引以外の一般の卸売取引において正常な商慣習となっており、かつ、当該商慣習の範囲内で返品の条件を定める場合」に返品が認められる。ここで、「大規模小売業者と納入業者との取引以外の一般の卸売取引」とは、主として大規模小売業者以外の中小小売業者と納入業者の卸売取引をいう。また、「正常な商慣習」とは、公正な競争秩序の維持・促進の立場から是認される商慣習をいい、事業者の行為が既に存在する商慣習に合致していることをもって、それが直ちに正当化されるものではない。
 ある商品についての一定の範囲内での返品が、「大規模小売業者と納入業者との取引以外の一般の卸売取引において正常な商慣習となって」いる場合とは、一般の卸売取引において、当該返品が商慣習として広くみられ、かつ、当該返品についての危険負担が、当該取引に係る諸条件からみて、納入業者に不利益なものとなっていない場合をいう。

ウ 第三号では「あらかじめ納入業者の同意を得て」いることが必要であるが、ここで、「納入業者の同意を得て」とは、納入業者から了承という意思表示を得るということであって、納入業者が納得して同意しているという趣旨であり、同意という形式的な形さえ整えればよいものではないことは、前記イと同じである。また、時間的にも、大規模小売業者が返品を行う直前になって同意を得ればよいというものではなく、納入業者が同意の是非を検討できるだけの十分な時間的余裕を設けた上で、同意を得る場合をいう(他の項における同用語の意味も同様である。したがって、大規模小売業者が納入業者に対して事実上同意を余儀なくさせていると認められる場合には、本号の「納入業者の同意」を得ているとは認められない。)。
 「通常生ずべき損失」とは、返品により発生する相当因果関係の範囲内の損失をいう。例えば、(1)当該商品の市況の下落や時間の経過による当該商品の使用期限の短縮に伴う商品価値の減少等に相当する費用、(2)当該商品の返品に伴う物流に要する費用、(3)当該商品の廃棄処分費用等をいう。
 なお、大規模小売業者が客観的に相当と認められる損失を負担していない場合には、たとえ納入業者が同意したときであっても、「通常生ずべき損失を大規模小売業者が負担する場合」とはいえず、第三号に該当するとは認められない(第五項ただし書の考え方も同様である。)。

エ 第四号に該当する場合としては、例えば、納入業者が新商品の販売促進のために、大規模小売業者の店舗で売れ残っている自己の納入した旧商品を回収して、新商品を納入した方が納入業者の利益となるような場合である。ここで、「直接の利益」とは、実際に利益が生じるということであって、返品を受けることにより将来の大規模小売業者との取引が有利になるというような間接的な利益は含まれない。

2 告示第二項(不当な値引き)

(1) 本項は、大規模小売業者が、納入業者の責めに帰すべき事由がある場合を除いて、当該「納入業者から商品を購入した後において、当該商品の納入価格の値引きを当該納入業者にさせること」を禁止するものである。

(2)ア 例えば、次のような値引きを行うことは、納入業者の責めに帰すべき事由がある場合を除き、本項の不当な値引きに該当する。

  •  セールで値引販売したことを理由に、値引販売した額に相当する額を納入業者に値引きさせること。
  •  在庫商品について、従来の店頭表示価格から値引販売しているところ、当該値引販売に伴う利益の減少に対処するために必要な額を納入業者に値引きさせること。
  •  毎月、一定の利益率を確保するため、当該利益率の確保に必要な金額を計算して、それに相当する額を納入業者に値引きさせること。

 ここで、「購入した」時点とは、売買契約が成立した時点であることから、大規模小売業者が商品の納入を受ける前であっても、口頭、書面のいかんを問わず、売買契約が成立していれば「購入した後」になる。

ウ 「当該商品の納入価格の値引きを当該納入業者にさせること」には、特定連鎖化事業を行う大規模小売業者が、加盟者が購入した商品の納入価格の値引きを納入業者にさせることも含まれる(第三項及び第四項も同様の考え方である。)。

(3) 例外として認められる場合の「納入業者の責めに帰すべき事由」とは、前記1(3)アと同じ考え方である。したがって、納入業者の責めに帰すべき事由があるとして値引きを行うことが認められる場合であっても、無制限に値引きすることは認められず、「相当と認められる金額の範囲内」で値引きを行う必要がある。例えば、商品に瑕疵がある場合であれば、その瑕疵の程度に応じて正当に評価される金額の範囲内で値引きを行う必要があり、これを超えて値引きを行う場合には、本項に該当する。

3 告示第三項(不当な委託販売取引)

(1) 本項は、大規模小売業者が納入業者に対して、「正常な商慣習に照らして納入業者に著しく不利益となるような条件」で委託販売取引をさせることを禁止するものである。

(2)ア 「正常な商慣習に照らして納入業者に著しく不利益となるような条件」とは、例えば、買取仕入れにおいては商品の売れ残りリスク等を大規模小売業者が負うことを考慮すると、買取仕入れから委託仕入れに変更した場合、通常の取引条件の交渉であれば、その委託手数料は従来の買取仕入れにおける粗利に比べると相当程度低くなるにもかかわらず、委託手数料を従来の買取仕入れにおける粗利と同じとするような取引条件を設定するような場合が挙げられる。

イ 例えば、次のような場合は、本項の不当な委託販売取引に該当する。

 ○ 従来、甲商品の粗利をA円として買取仕入れにより仕入れてきたところ、突然、仕入方法を買取仕入れから委託仕入れに変更し、他の取引条件等が変わらないにもかかわらず、委託仕入れにおける委託手数料を従前の粗利と同じA円とすること。

4 告示第四項(特売商品等の買いたたき)

(1) 本項は、大規模小売業者がセール等を行うために購入する商品について、「自己等への通常の納入価格に比べて著しく低い価格を定め」て納入させることを禁止するものである。

(2)ア 「著しく低い価格を定め」て納入させているかどうかについては、通常の納入価格とのかい離の状況を中心に、納入業者の仕入コスト、他社の仕入価格、納入業者との協議の状況等も勘案して判断することになる。
 なお、セール等を行うために通常よりも大量に仕入れるため、通常の納入価格よりも低い価格とすること自体は、いわゆるボリュームディスカウントであり、本項に直ちに該当するものではない。

イ 例えば、次のような場合は、本項の特売商品等の買いたたきに該当する。

 ○ 自社のセールに供する商品について、納入業者と協議することなく、納入業者の仕入価格を下回る納入価格を定め、その価格で納入するよう一方的に指示して、自社の通常の納入価格に比べて著しく低い価格をもって納入させること。

5 告示第五項(特別注文品の受領拒否)

(1) 本項は、大規模小売業者がプライベート・ブランド商品など特別な規格等を指定した上で、納入業者に商品 を納入させることを契約した後において商品の受領を拒むことを、納入業者の責めに帰すべき事由がある場合、又はあらかじめ当該納入業者の同意を得て、かつ、商品の受領を拒むことによって納入業者に通常生ずべき損失を大規模小売業者が負担する場合を除いて、禁止するものである。

(2)ア 「特別の規格、意匠、型式等を指示して」納入させる商品であることから、いわゆるプライベート・ブランド商品がこれに該当する。また、プライベート・ブランド商品以外の商品であっても、大規模小売業者が納入業者に対して特別に仕様を指示して納入させるような商品はこれに該当する。

イ 例えば、次のような場合は、本項の特別注文品の受領拒否に該当する。

  •  納入業者が大規模小売業者の発注に基づきプライベート・ブランド商品を製造し、当該商品を納入しようとしたところ、売れ行き不振を理由に当該商品の受領を拒否すること。
  •  納入業者が大規模小売業者の発注に基づきプライベート・ブランド商品を製造し、当該商品を納入しようとしたところ、売場の改装や棚替えに伴い当該商品が不要になったとして、当該商品の受領を拒否すること。

(3) 例外として認められる場合の「納入業者の責めに帰すべき事由」とは、前記1(3)アと同様、商品に瑕疵がある場合や注文した商品と異なる場合、納期に間に合わなければ販売目的が達成できない場合(例えば季節商品)等をいう。また、「通常生ずべき損失」とは、受領拒否により発生する相当因果関係の範囲内の損失をいう。

6 告示第六項(押し付け販売等)

(1) 本項は、大規模小売業者が取引関係を利用して、「正当な理由がある場合」を除き、納入業者が購入等を希望しないにもかかわらず、「自己の指定する商品を購入させ、又は役務を利用させること」を禁止するものである。

(2)ア 「正当な理由がある場合」の例としては、大規模小売業者が納入業者に対してプライベート・ブランド商品の製造を委託する際に、当該商品の内容を均質にするなど合理的な必要性から、納入業者に対して当該商品の原材料を購入させるような場合が挙げられる。
 「自己の指定する」とは、例えば、自己の指定する商品であれば、大規模小売業者が自ら販売する商品だけでなく、自己の関連会社の商品を指定して購入させる場合も含む。

イ 例えば、次のような方法によって自己又は自己の指定する者から商品を購入させ、又は役務を利用させる場合は、本項の押し付け販売等に該当する。

  •  仕入担当者等の仕入取引に影響を及ぼし得る者が購入を要請(注)すること(例えば、仕入担当者から納入業者に対し、自社で販売する中元商品、歳暮商品の購入を要請すること。)。
  •  納入業者に対し、組織的又は計画的に購入を要請すること(例えば、あらかじめ仕入部門ごとに販売目標数を定めた上で、納入業者を対象とする新商品の展示販売会を開催し、仕入担当者から納入業者に対し当該商品の購入を要請すること。)。
  •  購入する意思がないとの表明があった場合、又はその表明がなくとも明らかに購入する意思がないと認められる場合に、重ねて購入を要請し、又は商品を一方的に送付すること。
  •  購入しなければ今後の納入取引に影響すると受け取られるような要請をし、又はそのように受け取られるような販売の方法を用いること。

 (注) 納入業者に一定の数量を割り当てて購入を要請する場合のほか、納入担当者に購入を要請する場合を含む。

7 告示第七項(納入業者の従業員等の不当使用等)

(1) 本項は、大規模小売業者が、自己の業務のために納入業者に従業員等を派遣させて使用すること、又は自らが雇用する従業員等の人件費を納入業者に負担させることを原則として禁止するものである。
 ただし、その例外として、

(1) 「あらかじめ納入業者の同意を得て、その従業員等を当該納入業者の納入に係る商品の販売業務(中略)のみに従事させる場合」(第一号)

(2) 「派遣の条件についてあらかじめ納入業者と合意し、かつ、その従業員等の派遣のために通常必要な費用を大規模小売業者が負担する場合」(第二号)

は納入業者に従業員等を派遣させることが認められる。

(2)ア 例えば、次のような場合は、本項の納入業者の従業員等の不当使用等に該当する。

  •  自社の店舗の新規オープンに際し、あらかじめ納入業者の同意を得ることなく一方的に、当該納入業者が納入する商品の陳列補充の作業を行うよう納入業者に要請し、当該納入業者にその従業員を派遣させること(注1)。
  •  自社の店舗の改装オープンに際し、納入業者との間で当該納入業者の納入する商品のみの販売業務に従事させることを条件として、当該納入業者の従業員を派遣させることとしたにもかかわらず、その従業員を他社の商品の販売業務に従事させること(注1)。
  •  自社の棚卸業務のために、派遣のための費用を負担することなく、当該業務を行うよう納入業者に要請し、当該納入業者にその従業員を派遣させること(注2)。
  •  大規模小売業者が従業員の派遣のための費用を負担する場合において、個々の納入業者の事情により交通費、宿泊費等の費用が発生するにもかかわらず、派遣のための費用として一律に日当の額を定め、交通費、宿泊費等の費用を負担することなく、当該納入業者にその従業員を派遣させること(注2)。
  •  自社の棚卸業務のために雇用したアルバイトの賃金を納入業者に負担させること。

(注1) 後記(3)ア及びイ参照。

(注2) 後記(3)エ参照。

イ 本項は、「納入業者にその従業員等を派遣させ」ることを原則として禁止するものであるが、この「等」には、納入業者の従業員のほか、(1)納入業者が委託した労働派遣事業者の派遣労働者、(2)大規模小売業者から紹介を受けた労働派遣事業者の派遣労働者等が含まれる。

(3)ア 納入業者の従業員等の使用が認められる例外的な場合として、第一号では、納入業者の同意を得た上で、当該納入業者の納入した商品の「販売業務」のみに従事させる場合を挙げている。この「販売業務」とは、主として消費者に商品を売る業務(接客業務)をいい、例外的に商品の陳列業務及び補充業務が含まれる場合もあるが、これら以外の業務は含まない。例えば、新規開店前の什器の設置、トラックからの荷卸し、バックヤード(倉庫)への搬入、開店後のサッカ応援(レジでの袋詰め)、ショッピングカートの整理、社内事務、駐車場整理、棚卸・棚替え、閉店時の商品の撤去、トラックへの積込み(他の店舗への移動)、什器の解体、店内清掃等は、いずれも、前記の「販売業務」には該当しない。

イ 第一号の「販売業務」に含まれる陳列業務及び補充業務としては、例えば、店舗の開店・改装時における納入業者の納入した商品の陳列及びその商品の品出し、接客業務に伴う商品の補充等が挙げられる。ただし、いずれの場合も、納入業者の「従業員等が有する販売に関する技術又は能力が当該業務に有効に活用されることにより、当該納入業者の直接の利益となる場合」に認められる。したがって、接客業務や陳列業務を行わず、補充業務のみを行わせる場合については、「従業員等が有する販売に関する技術又は能力」とは通常関係ないので、第一号に該当するとは認められない。また、「直接の利益」とは、納入業者が従業員等を派遣することにより自己の商品の販売促進につながる場合、消費者ニーズの動向を直接把握できる場合等をいう。将来の大規模小売業者との取引が有利になるというような間接的な利益は、「直接の利益」には含まれない。
 このほか、「当該納入業者の納入に係る商品」の販売業務のみに従事させる場合に納入業者の従業員等の使用が認められるが、これに併せて他社商品の販売業務に従事させる場合には第一号に該当するとは認められない。

ウ 第一号では、納入業者の従業員等を「販売業務」のみに従事させることを認めているが、納入業者の「従業員等が大規模小売業者の店舗に常駐している場合」には、販売業務に加えて棚卸業務に従事させることも認めている。
 ここで、「従業員等が大規模小売業者の店舗に常駐している場合」とは、納入業者が大規模小売業者の店舗内に自己のブランド名を掲げた売場やコーナー(ブランドショップや銘菓店等)を設けてそこに納入業者の従業員等を長期間にわたって継続的に派遣している場合等をいう。

エ 納入業者の従業員等の使用が認められる例外的な場合の要件として、第二号では、「従業員等の業務内容、労働時間、派遣期間等の派遣の条件についてあらかじめ納入業者と合意」することとしている。「派遣の条件についてあらかじめ納入業者と合意」するとは、大規模小売業者が派遣を求める直前になって合意をすればよいというものではなく、納入業者が従業員等の派遣の是非を検討できるだけの十分な時間的余裕を設けた上で、派遣を求める都度、その派遣の内容に応じ業務内容等の派遣条件について納入業者と合意することを要する。
 なお、納入業者との合意をスムーズにするために、取引先ごとに、従業員の派遣の有無、派遣がある場合にはその業務内容等の基本的な事項についてあらかじめ同意を得ておくことが望ましい。
 さらに、大規模小売業者が「従業員等の派遣のために通常必要な費用」を負担することとされているが、ここで、「通常必要な費用」とは、派遣される従業員等の実際にかかる人件費のほか、交通費や宿泊費等をいう。大規模小売業者がこれらの費用の一部しか負担しない場合には、たとえ納入業者と合意したときであっても、「従業員等の派遣のために通常必要な費用を大規模小売業者が負担する場合」とはいえず、第二号に該当するとは認められない。
 なお、従業員等の派遣のために通常必要な費用を大規模小売業者が負担することになるので、あらかじめ合意する派遣条件の中に、当該費用に関する事項が含まれることはいうまでもない。

8 告示第八項(不当な経済上の利益の収受等)

(1) 本項は、大規模小売業者が、納入業者に対し、決算対策協賛金など「本来当該納入業者が提供する必要のない金銭」等を提供させること及び納入業者の商品の販売促進に一定程度つながるような協賛金や納入業者のコスト削減に寄与するような物流センターの使用料等であっても、「納入業者が得る利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えて」これらを提供させることを禁止するものである。

(2)ア 例えば、次のような場合は、本項の不当な経済上の利益の収受等に該当する。

  •  大規模小売業者の決算対策のために協賛金を要請し、納入業者にこれを負担させること。
  •  店舗の新規オープンに際し、当該店舗の粗利益を確保するため、事前に協賛金の負担額、算出根拠、目的等について明確にすることなく、一定期間にわたり、納入業者の当該店舗に対する納入金額の一定割合に相当する額を協賛金として負担させること。
  •  一定期間に一定の販売量を達成した場合に大規模小売業者にリベートを供与することをあらかじめ定めていた場合において、当該販売量を達成しないのに当該リベートを要請し、納入業者にこれを負担させること。
  •  店舗の新規オープン時のセールにおける広告について、実際に要する費用を超える額の協賛金を要請し、納入業者にこれを負担させること。
  •  物流センター等の流通業務用の施設の使用料について、その額や算出根拠等について納入業者と十分協議することなく一方的に負担を要請し、当該施設の運営コストについて納入業者の当該施設の利用量等に応じた合理的な負担分を超える額を負担させること。
  •  納入業者が納期までに納品できなかった場合に当該納入業者に対して課すペナルティについて、その額や算出根拠等について納入業者と十分協議することなく一方的に定め、納品されて販売していれば得られた利益相当額を超える額を負担させること。
  •  配送条件を変更すること(例えば、従来に比べ配送を小口化し、配送回数を増加させること)により、納入業者の費用が大幅に増加するにもかかわらず、納入業者と十分協議することなく一方的に配送条件の変更を要請し、配送条件の変更に伴う費用増加を加味することなく、従来と同様の取引条件で配送させること。

イ 本項の「本来当該納入業者が提供する必要のない金銭」とは、具体的には、自己の利益を確保するために用いる決算対策協賛金等の協賛金や、納入業者の商品の販売促進に直接寄与しない催事、売場の改装、広告等のための協賛金等をいい、納入業者の商品が含まれていない催事や広告のための協賛金、納入業者の商品が置かれている売場とは関係ない場所での売場の改装のための協賛金等がこれに該当する。協賛金、協力金、リベート、寄付金等名称のいかんを問うものではない。

ウ また、本項の「納入業者が得る利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えて」提供させる「金銭、役務その他の経済上の利益」とは、具体的には、例えば、納入業者の商品の販売促進に一定程度つながるような協賛金や多頻度小口配送(配送の小口化とそれに伴う配送回数の増加)、納入業者のコスト削減に寄与するような物流センターの使用料等であっても、納入業者が得る利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えていれば、これに該当する。
 「納入業者が得る利益等を勘案して」の「等」には、大規模小売業者が金銭等を提供させる目的や金銭等の内容(協賛金や物流センターの使用料であればその額、多頻度小口配送であれば配送の頻度)及びその算出根拠、納入業者との協議の状況等が含まれる。例えば、広告協賛金のように、広告に納入業者の納入する商品を掲載するため、広告を作成・配布する費用の一部を求めることは、納入業者にとってもその広告により自己の納入する商品の販売促進にもつながることから、直接の利益があるといえる。しかしながら、その広告に係る費用を超えて納入業者に金銭の負担を求めることになる場合には、合理的であると認められる範囲を超えた金銭の負担となる。
 このほか、ここで問題となり得る金銭としては、受発注オンライン・システム、商品マスター登録システム、棚割用画像データシステム並びにPOSデータ及び来店客の購買履歴データ提供システムの利用料、いわゆる欠品ペナルティー(欠品粗利補償)等が該当する。また、役務としては、大規模小売業者の担当者が本来行うべき資料作成・データ処理等を納入業者にさせること等が該当する。

9 告示第九項(要求拒否の場合の不利益な取扱い)

(1) 本項は、第一項から第八項についての要求を拒否した納入業者に対し、代金の支払遅延、取引停止等の不利益な取扱いをすることを禁止するものである。

(2)ア 「前各項に規定する行為に係る要求」は、例えば、第一項の不当な返品の場合には納入業者に対する返品の受入れの要求を、第五項の特別注文品の受領拒否の場合には納入業者に対する受領拒否の受入れの要求をいう。
 納入業者に対する不利益な取扱いとして「代金の支払を遅らせ」る場合としては、納入業者に対する代金の全部の支払を遅らせる場合だけでなく、一部の支払を遅らせる場合も含む。「取引の数量を減じ、取引を停止」する場合についても、一部の取引の数量を減じたり、一部の取引を停止する場合が含まれる。
 代金の支払遅延や取引停止以外の「その他不利益な取扱い」としては、商品の陳列場所を現在よりも不利な(消費者の目に触れにくい)場所に変更するような場合等が含まれる。

イ 例えば、次のような場合は、本項の要求拒否の場合の不利益な取扱いに該当する。

  •  従業員の派遣要請を拒否した納入業者に対し、拒否したことを理由に一方的に、これまで当該納入業者から仕入れていた商品の一部の発注を停止すること。
  •  決算対策協賛金の負担を拒否した納入業者に対し、拒否したことを理由に一方的に、当該納入業者からの仕入数量を減らすこと。

10 告示第一〇項(公正取引委員会への報告に対する不利益な取扱い)

(1) 本項は、納入業者が公正取引委員会に対し、第一項から第九項の「事実を知らせ、又は知らせようとしたことを理由として」、当該納入業者に対し、代金の支払遅延、取引停止等の不利益な取扱いをすることを禁止するものである。

(2) 「事実を知らせ、又は知らせようとした」ことについて、知らせる手段は、書面、口頭等を問うものではない。また、公正取引委員会の書面調査に協力して違反事実を知らせた場合もこれに該当する。「代金の支払を遅らせ、取引の数量を減じ、取引を停止し」の解釈は、第九項と同じである。

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