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ガソリン等の流通における不当廉売、差別対価等への対応について

ガソリン等の流通における不当廉売、差別対価等への対応について

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令和4年11月11日
公正取引委員会

第1 不当廉売への対応について

1 不当廉売の規制の内容

(1) 独占禁止法が禁止する不当廉売

 不当廉売については、独占禁止法第2条第9項第3号において「正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであつて、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの」と規定され、同項第6号に基づく不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)第6項において「法第2条第9項第3号に該当する行為のほか、不当に商品又は役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること。」と規定されている。
 また、公正取引委員会では、不当廉売の規制の考え方を明らかにした「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」(平成21年12月18日公正取引委員会。以下「一般不当廉売ガイドライン」という。)を発出している。

(2) ガソリン等の取引実態を踏まえた考え方

 問題となる廉売の態様としては、「正当な理由がないのに、供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給」する場合(独占禁止法第2条第9項第3号)と、「不当に低い対価で供給」する場合(不公正な取引方法第6項)の2つがあり、このような廉売によって、「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」がある場合に不当廉売に該当する。
 この不当廉売の規制基準に関し、ガソリン等の取引実態に即した考え方は、次のとおりである。

 「供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給」する場合

(ア) 「供給に要する費用を著しく下回る対価」の考え方

a 一般不当廉売ガイドラインでは、「供給に要する費用を著しく下回る対価」にいう「供給に要する費用」とは、総販売原価であるとし、通常の販売業における総販売原価とは、仕入原価に販売費及び一般管理費を加えたものであるとしている(注1)。また、廉売対象商品を供給しなければ発生しない費用(以下「可変的性質を持つ費用」という。)を下回る価格は、「供給に要する費用を著しく下回る対価」であると推定されるとしている。

(注1)ここでの「総販売原価」とは、当期の販売活動全体に要した費用のことではなく、廉売対象商品の販売に要した費用の合計額のことである。
 販売費及び一般管理費のように複数の事業に共通する費用については、これが各事業にどのように配賦されるかが問題となるところ、企業会計上は、当該費用の発生により各事業が便益を受ける程度等に応じ、各事業者が実情に即して合理的に選択した配賦基準(売上高、売上総利益、利用割合等)に従って配賦されることが一般的である。複数の事業に共通する費用の配賦基準については、このほかにも様々な方法があるが、廉売行為者が実情に即して合理的に選択した配賦基準を用いていると認められる場合には、当該配賦基準に基づき各事業に費用の配賦を行った上で、総販売原価の算定を行うものとする。その上で、複数の商品に共通する費用についても、実情に即して合理的に配賦することにより、廉売対象商品の総販売原価の算定を行うものとする。

b どのような費用が可変的性質を持つ費用となるかについては、廉売対象商品の供給量の変化に応じて増減する費用か、廉売対象商品の供給と密接な関連性を有する費用かという観点から評価される。

c 廉売対象商品の供給量の変化に応じて増減する費用かという観点からは、変動費(操業度に応じて総額において比例的に増減する原価をいう。)は、可変的性質を持つ費用となる。また、明確に変動費であると認められなくても、費用の性格上、廉売対象商品の供給量の変化に応じてある程度増減するとみられる費用は、特段の事情がない限り、可変的性質を持つ費用と推定される(注2)。さらに、費用の性格からそのように推定するまでは至らないものであっても、個別の事案において、廉売期間中、供給量の変化に応じて増減している費用は、原則として、可変的性質を持つ費用として取り扱われる。

(注2)例えば、クレジットカード決済手数料は、特段の事情がない限り、可変的性質を持つ費用と推定される。

d 廉売対象商品の供給と密接な関連性を有する費用かという観点からは、仕入れに係る費用項目のうち、仕入原価は、特段の事情がない限り、可変的性質を持つ費用と推定され、仕入原価のうち仕入価格は、可変的性質を持つ費用となる。また、販売費のうち、運送費等の廉売対象商品の注文の履行に要する費用は、可変的性質を持つ費用となる。

(a) 仕入原価とは、仕入価格と運送費等の仕入れに付随する諸経費との合計額である。

(b) 仕入価格については、名目上の仕入価格ではなく、廉売対象商品に関する値引き等(実質的な値引きと認められるリベートを含む。)を考慮に入れた実質的仕入価格で判断することとしている。例えば、次のようなリベート、販売促進費等については、廉売対象商品についての実質的仕入価格の判断において仕入価格の引下げ(値引き等)として考慮しないこととする。

  •  年度末等に事後的に額が判明するリベート(事後的な価格補填、決算奨励金等を含む。)
  •  給油所の新設、改造、広告宣伝や販売活動の援助として供与される奨励金、転籍の際又は転籍後に石油元売会社等卸売業者(以下単に「元売」という。)から提供される資金援助等

e 本社組織である人事部や経理部における人件費、交通費及び通信費は、費用の性格上、廉売対象商品の供給量の変化に応じて増減する費用ではなく、廉売対象商品の供給と密接な関連性を有する費用でもないので、可変的性質を持つ費用とはならないものの、総販売原価には含まれる。
 なお、総販売原価に含めた本社等の経費及び給油所における人件費に適切な範囲の費用が含められているかについては、必要に応じて、廉売を行っている事業者(以下「廉売行為者」という。)にその根拠資料の提出等を求めることとする。

f 事業者は、商品を販売する際に、消費者に対し販売価格の一部又は全部の減額に充当できるポイント(1ポイントを一定の率で金額に換算するなどの方法による。)を提供する場合がある。
 ガソリン等についてのこのようなポイントの提供については、①ポイントを利用する消費者の割合、②ポイントの提供条件(購入額の多寡にかかわらず提供されるものか、一定金額の購入を条件として提供されるものか等)、③ポイントの利用条件(ポイントが利用可能となるタイミング、ポイントの有効期限、利用に当たっての最低ポイント数の設定の有無等)といった要素を勘案し、ポイントの提供が値引きと同等の機能を有すると認められる場合は、「対価」の実質的な値引きと判断される。

(イ) 「継続して」の考え方

 「継続して」とは、相当期間にわたって繰り返し廉売を行い、又は廉売を行っている事業者の営業方針等から客観的にそれが予測されることであるが、毎日継続して行われることを必ずしも要しない。例えば、毎週末等の日を定めて行う廉売であっても、消費者の購買状況によっては継続して供給しているとみることができる。

 「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」の考え方

(ア) 廉売によって他のガソリン等販売業者(以下単に「販売業者」という。)の事業活動を困難にさせるおそれがあるかどうかについては、次の事項等を総合的に考慮して判断することになる。

  •  廉売行為者の事業の規模及び態様(廉売事業者の市場における地位(給油所数、販売規模、シェア、営業地域等)、多角化の状況、給油所の形態(スーパー、ホームセンター等の併設等)等)
  •  廉売対象商品の数量、廉売期間(廉売対象となっているガソリン等の品目数、販売数量、廉売期間の長さ、廉売時期(季節)等)
  •  広告宣伝の状況
  •  廉売対象商品の特性(廉売対象となっているガソリン等の種類等)
  •  廉売行為者の意図・目的
  •  周辺の販売業者の状況(事業規模の大きさ、事業に占める廉売対象商品の販売割合、廉売行為者と周辺の販売業者との販売価格差の程度、他の廉売業者の有無、廉売対象商品の売上高の減少の程度)

(イ) ガソリンについては、給油所の売上高の大きな割合を占めること、実質的仕入価格に格差が生じていることから、周辺の販売業者よりも安く仕入れている販売業者がその実質的仕入価格を下回る価格で継続して販売する場合には、一般的には、周辺の販売業者の事業活動に影響し、特に、大規模な事業者が実施する場合や繰り返し実施する場合には、特段の事情がない限り、周辺の販売業者の事業活動に対する影響が大きいと考えられる。

(ウ) 以下の事例は、不当廉売規制の影響要件を満たすと判断され排除措置命令の措置を採った具体例及び不当廉売規制の影響要件を満たすおそれがあったとして警告の措置を採った具体例である。
 なお、公正取引委員会は、排除措置命令や警告に至らない場合であっても、不当廉売につながるおそれのある行為に対して多数の注意を行っている。
〈不当廉売規制の影響要件を満たすと判断された具体例〉
① A社は、3給油所において、レギュラーガソリンをいずれも37日間(平成19年6月28日から同年8月3日まで)、それぞれその仕入価格(運送費を含む。)を最大で10円以上下回る価格で販売した。当該行為により、平成19年7月におけるA社の販売シェアは、同年4月から同年6月までの間における販売シェア(約29%)に比して1ポイント程度増加し、A社は市内におけるレギュラーガソリンの販売数量において第1位の地位を維持した。競争業者は、小規模小売業者以外を中心にレギュラーガソリンの販売価格の引下げを行ったものの、効率的な事業者であっても、通常の企業努力によってはA社の行為に対抗することができず、平成19年7月時点で、B社を除く他の競争業者の販売シェアは、同年4月から同年6月までの間に比して4から5ポイント減少した(平成19年11月27日排除措置命令・平成19年(措)第16号)。
 また、B社は、A社と同じ地区に所在する2給油所において、レギュラーガソリンをいずれも、37日間(平成19年6月28日から同年8月3日まで)、1給油所において36日間(同年6月28日から同年8月2日まで)、それぞれその仕入価格を最大で10円以上下回る価格で販売した。当該行為により、平成19年7月におけるB社の販売シェアは、同年4月から同年6月までの間における販売シェア(約12%)に比して4ポイント程度増加し、B社は市内におけるレギュラーガソリンの販売数量において第2位の地位を占めるに至った。競争業者は、小規模小売業者以外を中心にレギュラーガソリンの販売価格の引下げを行ったものの、効率的な事業者であっても、通常の企業努力によってはB社の行為に対抗することができず、平成19年7月時点で、A社を除く他の競争業者の販売シェアは、同年4月から同年6月までの間に比して4から5ポイント程度減少した(平成19年11月27日排除措置命令・平成19年(措)第17号)。
② C社は、地区における販売量が多い他の有力な石油製品小売業者を排除する意図をもって、レギュラーガソリンを、給油所cにおいて、平成17年8月25日から平成18年1月31日までの期間内に、仕入価格(運送費を含む。)に当該給油所の人件費等の販売経費を加えた価格を下回る価格で106日間、また、そのうち仕入価格(運送費を含む。)を下回る価格で80日間販売するとともに、給油所dにおいて、平成17年11月29日から平成18年1月31日までの期間内に、仕入価格(運送費を含む。)に当該給油所の人件費等の販売経費を加えた価格を下回る価格で43日間、また、そのうち仕入価格(運送費を含む。)を下回る価格で30日間販売した。C社は、当該行為により、当該地区において、平成18年1月のレギュラーガソリンの販売量が第1位の地位を占めるに至った。他の石油製品小売業者は、効率的な事業者であっても、通常の企業努力によってはC社の当該行為に到底対抗することができず、レギュラーガソリンの販売価格の引下げを余儀なくされた上、平成17年8月25日から平成18年1月31日までの期間内における当該石油製品小売業者のレギュラーガソリンの各販売量は、おおむね、前年同期間と比較して減少した。他方、C社の運営する2給油所はいずれも新規出店したものであり、平成18年1月時点で20%弱のシェアを新規に獲得した(平成18年5月16日排除措置命令・平成18年(措)第3号)。

〈不当廉売規制の影響要件を満たすおそれがあった具体例〉
① A社が給油所aを平成27年11月18日にオープンしたことを契機として、安値販売を訴求し同年8月に給油所bをオープンさせていたB社が、対抗して販売価格を引き下げ、A社の給油所a及びB社の給油所bのいずれもが、10日間(同年11月18日から同月27日まで)、レギュラーガソリンを、その供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給した。A社、B社ともに、最安値を目指すという価格設定方針であり、周辺事業者とA社及びB社の販売価格差は、最大35円から50円程度の時期があった。周辺事業者は、A社及びB社の廉売による自社の販売数量の減少等の悪影響を懸念していた。B社の運営する給油所bは、廉売期間中に、前月の10日間の販売数量に比して約3倍の数量を販売するとともに、A社の運営する給油所aは新規出店したものであるところ、給油所aも、県平均の販売数量を大きく上回る数量を販売した(平成27年12月24日警告)。
② C社は、自ら又は子会社が運営する13給油所において、平成23年5月から同年12月初旬にかけて、このうちの一定期間、レギュラーガソリンを、その供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給した。C社は約3割のシェアを占める首位事業者であるところ、C社の行為によってC社と周辺給油所の販売価格差は最大で20円程度の時期があり、周辺給油所の販売数量等は減少した。平成23年11月時点で、C社のシェアは2から3ポイント程度増加し、周辺事業者のシェアは2から3ポイント程度減少した(平成25年1月10日警告)。
③ D社ほか6社の計7社は、うち1社の改装開店キャンペーンに対抗して価格引下げを繰り返し、それぞれの給油所において、平成20年12月から平成21年1月までの間の一定期間(おおむね30日から60日弱の間)、レギュラーガソリンについて、その供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給した。7社は、有力な給油所を含み、7社全体では相当程度のシェアに達するところ、周辺事業者の販売数量シェアは大きく減少するといった顕著な影響まではみられなかったものの、多くの周辺事業者の販売数量シェアに影響がみられ、平成21年1月時点で7社の平均販売数量は対前年同月比で3割近く増加し、周辺事業者の平均販売数量は1割近く減少した(平成21年4月3日警告)。
④ E社は、給油所eにおいて、平成15年9月19日から同年11月20日までの間、レギュラーガソリンについて、その供給に要する費用を著しく下回る価格で継続して供給した。また、F社は、E社と同じ地区に所在する給油所fにおいて、平成15年9月20日から同年11月20日までの間、レギュラーガソリンについて、不当に低い価格で供給した。E社、F社は、販売数量等からみて首位又はそれに次ぐ地位にいる有力な事業者であり、両社合計でおおむね50%程度のシェアを有していたところ、E社及びF社の行為により周辺事業者のガソリン売上高、販売数量等は減少し、平成15年10月時点で、E社及びF社の販売シェアは合計で5ポイント程度増加し、周辺事業者の販売シェアは合計で5ポイント程度減少した(平成15年12月17日警告)。
⑤ G社は、給油所gを平成13年11月16日にオープンし、翌日以降平成14年1月末日までの間、ほとんど毎日、レギュラーガソリン及びハイオクガソリンについて、その販売に要する費用を著しく下回る価格で継続して販売した。G社と周辺事業者の販売価格差は数円から十数円程度であり、G社の廉売が市況を押し下げ、周辺事業者の利益率の低下をもたらした。G社は廉売により販売数量が大きく伸びている(対前月比で3割程度の増加)のに対し、周辺の石油製品小売業者のほとんどが販売数量、シェアとも減少した。G社の運営する給油所gは新規出店であったが、平成14年1月時点で20%程度のシェアを新規に獲得しシェア第1位となった(平成14年3月27日警告)。
⑥ H社は、給油所hにおいて、平成13年4月中旬から同年6月中旬までの間、ほとんど毎日、レギュラーガソリン及びハイオクガソリンについて、その販売に要する費用を著しく下回る価格で継続して販売した。H社は、シェア第1位の事業者であったところ、H社と周辺事業者の販売価格差は10円程度であり、H社の廉売が市内の市況を押し下げ、周辺事業者の利益率の低下をもたらした。H社は廉売により販売数量が大きく伸びている(対前年比で2割から3割程度の増加)のに対し、周辺の石油製品小売業者の販売数量は需要期にもかかわらず全体的に横ばいであった。平成13年5月時点でH社の販売シェアは2ポイント程度増加し、他の事業者の販売シェアは2ポイント程度減少した(平成13年8月6日警告)。

 「不当に低い対価で供給」する場合

(ア) 「不当に低い対価で供給」する場合に該当し得る行為態様としては、販売業者が可変的性質を持つ費用以上の価格(総販売原価を下回ることが前提)で販売する場合や、可変的性質を持つ費用を下回る価格で短期間販売する場合がある。このような場合であっても、廉売対象商品の特性、廉売行為者の意図・目的、廉売の効果、市場全体の状況等からみて、周辺の販売業者の事業活動を困難にさせるおそれが生じ、公正な競争秩序に悪影響を与えるときは、不公正な取引方法第6項の規定に該当し、不当廉売として規制される。

(イ) 周辺の販売業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるかどうかについては、前記イ(ア)に掲げる事項を総合的に考慮して、個別事案ごとに判断することとなるが、例えば、多店舗展開を行っている大規模な事業者、一定の商圏において市場シェアの高い事業者等がガソリン等を集中的に廉売する場合は、一般的には、周辺の販売業者の事業活動に影響を与えると考えられるので、可変的性質を持つ費用以上の価格での販売であっても、不公正な取引方法第6項の規定に該当する場合がある。この場合には、廉売対象商品の供給と関連のある費用(製造原価又は仕入原価及び販売費)を下回っているかどうかを考慮する。

 元売が運営委託方式を用いて給油所を経営する場合の考え方

(ア) 元売が運営委託方式(いわゆるコミッションエージェント方式)を用いて給油所を経営する場合における総販売原価とは、ガソリン等の生産に要した費用(原油代、精製費、輸送費、油槽費等。以下「製造原価」という。)に販売費(コミッションフィー、給油所維持費等)及び一般管理費を加えたものである。

(イ) 可変的性質を持つ費用を下回る価格は、「供給に要する費用を著しく下回る対価」であると推定される。製造に係る費用項目のうち、製造原価は、特段の事情がない限り、可変的性質を持つ費用と推定され、製造原価のうち製造直接費(直接材料費、直接労務費及び直接経費)は、可変的性質を持つ費用となる。また、販売費のうち、運送費等の廉売対象商品の注文の履行に要する費用は、可変的性質を持つ費用となる。

(ウ) なお、元売が、運営委託方式により経営する給油所において、同一商圏の系列特約店への卸売価格を下回る小売価格を設定し、系列特約店又は販売店の競争機能に直接かつ重大な影響を及ぼすことにより公正な競争秩序に悪影響を与える場合には、独占禁止法上問題となることがある。

2 公正取引委員会の対応

 公正取引委員会は、前記1の考え方を踏まえて、ガソリン等の不当廉売事案に関して、次のような対応を行うこととする。

(1) 申告のあった事案に関しては、処理結果を通知するまでの目標処理期間を原則2か月以内として、迅速に処理を行う。その際、過去に注意を受けてもなお再び注意を受けるような事業者に対しては、事案に応じて、①責任者を招致した上で直接注意を行うほか、②周辺の販売業者に対する影響が大きいと考えられる場合には、簡易迅速な処理によるのではなく、次の(2)により、厳正に対処する。

(2) 大規模な事業者による不当廉売事案(例えば、以下の①又は②のような場合)又は繰り返し行われている不当廉売事案(例えば、以下の③のような場合)であって、周辺の販売業者に対する影響が大きいと考えられるものについては、周辺の販売業者の事業活動への影響等についても調査を行い、問題のみられる事案については、厳正に対処し、排除措置命令や警告に至らない場合であっても、責任者を招致するなどした上で、文書により厳重に注意する。
① 大規模な給油所(月商750KL以上)に係る事案
② 新規参入した事業規模の大きな事業者の給油所と周辺の販売業者の給油所との対抗的な値下げの事案
③ 1年以内に注意を受けた給油所に係る実質的仕入原価割れの事案

(3) 複数の給油所を運営する事業者が繰り返し注意を受けている場合にあっては、事案に応じて本社の責任者に対して注意を行うこととする。

(4) 具体的な事実を摘示して行われた不当廉売事案の申告については、当該申告をした者に調査結果を通知するとともに、通知を受けた申告者から当該通知の内容について問い合わせがあった場合には、事業者の秘密や今後の審査活動に支障を及ぼす事項を除き、可能な範囲で説明する。

(5) 警告、注意等を行った事業者に対しては、再発防止、違反行為の未然防止等の観点から、その後の価格動向について情報収集を行うこととし、特に、繰り返し注意を受けた事業者については、必要に応じて、販売価格、仕入価格等について報告を求めるなどして問題がみられる場合には早期に対処する。

第2 差別対価等への対応について

1 差別対価等の規制の内容

(1) 独占禁止法が禁止する差別対価等

 差別対価については、独占禁止法第2条第9項第2号において「不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもつて、商品又は役務を継続して供給することであつて、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの」と規定され、不公正な取引方法第3項において「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第2条第9項第2号に該当する行為のほか、不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもつて、商品若しくは役務を供給し、又はこれらの供給を受けること。」と規定されている。
 また、取引条件等の差別取扱いについては、不公正な取引方法第4項において「不当に、ある事業者に対し取引の条件又は実施について有利又は不利な取扱いをすること。」と規定されている。

(2) 差別対価等の規制の基本的な考え方

 経済活動において、取引数量の多寡、決済条件、配送条件等の相違を反映して取引価格に差が設けられることは、広く一般にみられることである。また、地域による需給関係の相違を反映して取引価格に差異が設けられることも通常である。
 このような観点からすれば、取引価格や取引条件に差異が設けられても、それが取引数量の相違等正当なコスト差に基づくものである場合や、商品の需給関係を反映したものである場合等においては、本質的に公正な競争を阻害するおそれがあるとはいえないものと考えられる。
 しかし、例えば、有力な事業者が、競争者を排除するため、当該競争者と競合する販売地域又は顧客に限って廉売を行い、公正な競争秩序に悪影響を与える場合は、独占禁止法上問題となる。
 また、有力な事業者が同一の商品について、取引価格やその他の取引条件等について、合理的な理由なく差別的な取扱いをし、差別を受ける相手方の競争機能に直接かつ重大な影響を及ぼすことにより公正な競争秩序に悪影響を与える場合にも、独占禁止法上問題となる。
 個々の行為がどのような場合に独占禁止法上の差別対価等に該当するかは、個別具体的な事案において、行為者の意図・目的、取引価格・取引条件の格差の程度、供給に要する費用と価格との関係、行為者及び競争者の市場における地位、取引の相手方の状況、取引形態等を総合的に勘案し、市場における競争秩序に与える影響を勘案した上で判断されるものである。

2 公正取引委員会の対応

 公正取引委員会としては、ガソリン等の取引における差別対価等の問題については、申告の疎明資料等により、次のような事実があると思料する場合には、必要な調査を開始し、前記1の考え方に照らし判断するものとする。

(1) 元売A社と継続的な取引関係にある販売業者甲社及び乙社(甲社又は乙社がA社の出資会社である場合も含む。以下同じ。)が同一の商圏内に所在している場合において、A社と甲社又は乙社との取引内容(取引高、決済条件、ガソリン等の配送条件等。以下同じ。)が同等とみられるにもかかわらず、A社の甲社又は乙社に対する同一種類のガソリン等の実質的な卸売価格に著しい相違がみられる疑いがある場合

(2) 元売A社と継続的な取引関係にある販売業者甲社及び乙社が同一の商圏内に所在している場合において、A社と甲社又は乙社との取引内容が同等とはみられないものの、A社の甲社又は乙社に対する同一種類のガソリン等の実質的な卸売価格にその取引内容の相違を超えた著しい相違がみられる疑いがある場合

(3) 元売A社と継続的な取引関係にある販売業者甲社と乙社が同一の商圏内に所在している場合において、A社が一方の販売業者に対してのみ、通常の賃貸料を著しく下回る賃貸料でA社所有の給油所の施設を貸与することにより、当該販売業者に対し著しく有利な取扱いをしている疑いがある場合

(4) その他元売A社の販売業者甲社又は乙社に対する同一種類のガソリン等の取引価格等について、前記(1)、(2)又は(3)に類似する著しい相違がみられる疑いがある場合(例えば、元売のカードによって販売したガソリンの決済を行うシステムに加入している給油所であれば、全国のどの給油所においても当該カードの発券を行った事業者が定めた販売価格で給油を受けることができる場合において、元売が、当該カードの発券を行う事業者に対し、一般の系列特約店に対する卸売価格に比し、取引内容の相違を超えて著しく低い卸売価格で販売している疑いがあるとき)

第3 その他

 元売が販売業者とのガソリン等の取引において、次のような行為を行うことは、独占禁止法上問題となるものであり、公正取引委員会は、元売による販売業者に対するこのような行為に対し、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(平成3年7月11日公正取引委員会事務局)で明らかにした考え方等を踏まえ、厳正に対処することとする。

  •  元売が他の元売と共同して、正当な理由がないのに、共同仕入れを行おうとする販売業者との取引を拒絶すること(独占禁止法第2条第9項第1号)
  •  系列特約店に対して優越的な地位(注3)にある元売が系列特約店に対する卸売価格を一方的に決定するなどにより、正常な商慣習に照らして不当に、系列特約店に不利益となるように取引の条件を設定すること(独占禁止法第2条第9項第5号)
  •  元売が系列特約店に対して他の系列特約店から自社製品を購入することを禁止することにより、系列特約店の事業活動を不当に拘束する条件をつけて系列特約店と取引をし、又は正常な商慣行に照らして不当に、系列特約店に不利益となるように取引の条件を設定すること(不公正な取引方法第12項、独占禁止法第2条第9項第5号)
  •  元売が販売業者とのガソリンの取引に当たり、灯油、潤滑油等、他の石油製品についても合わせて購入させるなど、取引先の販売業者に対して、他の元売との取引を不当に制限すること(不公正な取引方法第10項、第11項又は第12項)

(注3)系列特約店は、特定の元売と取引するに際し、その元売に関連する投資を行っているなど、取引先を他の元売等に変更することが事業経営上大きな支障をもたらすことが多い。したがって、一般に、元売は、系列特約店に対して優越的な地位にある。元売は、系列特約店に対する卸売価格等を決定する際には、系列特約店との間で十分に協議する必要がある。

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