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酒類の流通における不当廉売,差別対価等への対応について

平成21年12月18日
公正取引委員会
改正:平成23年6月23日
改正:平成29年6月16日

第1 不当廉売への対応について

1 不当廉売の規制の内容

(1) 独占禁止法が禁止する不当廉売
 不当廉売については,独占禁止法第2条第9項第3号において「正当な理由がないのに,商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであつて,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの」と規定され,同項第6号に基づく不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)第6項において「法第2条第9項第3号に該当する行為のほか,不当に商品又は役務を低い対価で供給し,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること。」と規定されている。
 また,公正取引委員会では,不当廉売の規制の考え方を明らかにした「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」(平成21年12月18日公正取引委員会。以下「一般不当廉売ガイドライン」という。)を発出している。

(2) 酒類の取引実態を踏まえた考え方
 問題となる廉売の態様としては,「正当な理由がないのに,供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給」する場合(独占禁止法第2条第9項第3号)と,「不当に低い対価で供給」する場合(不公正な取引方法第6項)の2つがあり,このような廉売によって,「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」がある場合に不当廉売に該当する。
 この不当廉売の規制基準に関し,酒類の取引実態に即した考え方は,次のとおりである。

 「供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給」する場合

(ア) 「供給に要する費用を著しく下回る対価」の考え方

a 一般不当廉売ガイドラインでは,「供給に要する費用を著しく下回る対価」にいう「供給に要する費用」とは,総販売原価であるとし,通常の販売業における総販売原価とは,仕入原価に販売費及び一般管理費を加えたものであるとしている(注1)。また,廉売対象商品を供給しなければ発生しない費用(以下「可変的性質を持つ費用」という。)を下回る価格は,「供給に要する費用を著しく下回る対価」であると推定されるとしている。

(注1) ここでの「総販売原価」とは,当期の販売活動全体に要した費用のことではなく,廉売対象商品の販売に要した費用の合計額のことである。
 販売費及び一般管理費のように複数の事業に共通する費用については,これが各事業にどのように配賦されるかが問題となるところ,企業会計上は,当該費用の発生により各事業が便益を受ける程度等に応じ,各事業者が実情に即して合理的に選択した配賦基準に従って配賦されることが一般的である。複数の事業に共通する費用の配賦基準については,このほかにも様々な方法があるが,廉売行為者が実情に即して合理的に選択した配賦基準を用いていると認められる場合には,当該配賦基準に基づき各事業に費用の配賦を行った上で,総販売原価の算定を行うものとする。その上で,複数の商品に共通する費用についても,実情に即して合理的に配賦することにより,廉売対象商品の総販売原価の算定を行うものとする。

b どのような費用が可変的性質を持つ費用となるかについては,廉売対象商品の供給量の変化に応じて増減する費用か,廉売対象商品の供給と密接な関連性を有する費用かという観点から評価される。

c 廉売対象商品の供給量の変化に応じて増減する費用かという観点からは,変動費(操業度に応じて総額において比例的に増減する原価をいう。)は,可変的性質を持つ費用となる。また,明確に変動費であると認められなくても,費用の性格上,廉売対象商品の供給量の変化に応じてある程度増減するとみられる費用は,特段の事情がない限り,可変的性質を持つ費用と推定される(注2)。さらに,費用の性格からそのように推定するまでは至らないものであっても,個別の事案において,廉売期間中,供給量の変化に応じて増減している費用は,原則として,可変的性質を持つ費用として取り扱われる。

(注2) 大規模な小売業者は,物流センターを設置し,酒類卸売業者に対して,当該物流センターへの納入を求めるとともに,当該物流センターの使用料(センターフィー)を徴収していることがある。酒類卸売業者が物流センターの使用料として納入金額に比例して支払うセンターフィーは,費用の性格上,廉売対象商品の供給量の変化に応じてある程度増減するとみられる費用であるので,特段の事情がない限り,酒類卸売業者の可変的性質を持つ費用と推定される。

d 廉売対象商品の供給と密接な関連性を有する費用かという観点からは,仕入れに係る費用項目のうち,仕入原価は,特段の事情がない限り,可変的性質を持つ費用と推定され,仕入原価のうち仕入価格は,可変的性質を持つ費用となる。また,販売費のうち,運送費等の廉売対象商品の注文の履行に要する費用は,可変的性質を持つ費用となる。

(a)仕入原価とは,仕入価格と運送費等の仕入れに付随する諸経費との合計額である。

(b)仕入価格については,名目上の仕入価格ではなく,廉売対象商品に関する値引き等(実質的な値引きと認められるリベートを含む。)を考慮に入れた実質的仕入価格で判断することとしている。酒類の仕入価格は,小売業者により様々であり,メーカー又は卸売業者から多種多様なリベートが供与されたり,金銭でなく商品が添付されることがあるが,こうしたリベート等のうち,例えば,次のようなものについては,廉売対象商品についての実質的仕入価格の判断において仕入価格の引下げ(値引き等)として考慮しないこととする。

  •  廉売対象商品の仕入れの際に添付される他の商品(食料品,廉売対象商品以外の酒類等)
  •  年度末等に事後的に額が判明するリベート
  •  メーカー又は卸売業者によって広告費や販売活動の補助として供与されるチラシ協賛金,出店協賛金,販売員等

(c)小売業者は,商品を販売する際に,消費者に対し販売価格の一部又は全部の減額に充当できるポイント(1ポイントを一定の率で金額に換算するなどの方法による。)を提供する場合がある。
 酒類についてのこのようなポイントの提供については,(1)ポイントを利用する消費者の割合,(2)ポイントの提供条件(購入額の多寡にかかわらず提供されるものか,一定金額の購入を条件として提供されるものか等),(3)ポイントの利用条件(ポイントが利用可能となるタイミング,ポイントの有効期限,利用に当たっての最低ポイント数の設定の有無等)といった要素を勘案し,ポイントの提供が値引きと同等の機能を有すると認められる場合は,「対価」の実質的な値引きと判断される。

(イ) 「継続して」の考え方

 「継続して」とは,相当期間にわたって繰り返し廉売を行い,又は廉売を行っている事業者の営業方針等から客観的にそれが予測されることであるが,毎日継続して行われることを必ずしも要しない。例えば,ビール・発泡酒等については,ある程度買置きが可能であり,週末に24缶入りの箱又は6缶パックなどでまとめて購入するケースも多くなっている。このような週末に消費者の購入が多い酒類については,週末ごとに行う廉売であっても,継続して供給しているとみることができる。また,ビール・発泡酒等の廉売において日替わり・週替わりでその銘柄を変える場合があるが,このように廉売対象となる酒類について,その銘柄が異なる場合であっても一連の行為としてとらえることができる。

 「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」の考え方

(ア) 廉売によって他の酒類販売業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるかどうかについては,次の事項等を総合的に考慮して判断することとなる。

  •  廉売を行っている事業者(以下「廉売行為者」という。)の事業の規模及び態様(事業規模の大きさ,多店舗展開の状況,総合量販店であるかなど)
  •  廉売対象商品の数量,廉売期間(廉売対象となっている酒類の品目数,販売数量,箱売り等の販売単位,廉売期間の長さ等)
  •  広告宣伝の状況(新聞折込広告で広範囲に広告しているかなど)
  •  廉売対象商品の特性(廉売対象となっている酒類の銘柄等)
  •  廉売行為者の意図・目的
  •  周辺の酒類販売業者の状況(事業規模の大きさ,事業に占める廉売対象商品の販売割合,廉売行為者と周辺の酒類販売業者との販売価格差の程度,他の廉売業者の有無,廉売対象商品の売上高の減少の程度等)

(イ) 例えば,ビール・発泡酒等については,酒類販売において売上高の大きな割合を占めること,実質的仕入価格に格差が生じていることから,周辺の酒類販売業者よりも安く仕入れている酒類販売業者がその実質的仕入価格を下回る価格で継続して販売する場合には,一般的には,周辺の酒類販売業者の事業活動に影響し,特に,大規模な事業者が実施する場合や繰り返し実施する場合には,特段の事情がない限り,周辺の酒類販売業者の事業活動に対する影響が大きいと考えられる。

 「不当に低い対価で供給」する場合

(ア) 「不当に低い対価で供給」する場合に該当し得る行為態様としては,酒類販売業者が可変的性質を持つ費用以上の価格(総販売原価を下回ることが前提)で販売する場合や,可変的性質を持つ費用を下回る価格で短期間販売する場合がある。このような場合であっても,廉売対象商品の特性,廉売行為者の意図・目的,廉売の効果,市場全体の状況等からみて,周辺の酒類販売業者の事業活動を困難にさせるおそれが生じ,公正な競争秩序に悪影響を与えるときは,不公正な取引方法第6項の規定に該当し,不当廉売として規制される。

(イ) 周辺の酒類販売業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるかどうかについては,前記イ(ア)に掲げる事項を総合的に考慮して,個別事案ごとに判断することとなるが,例えば,周辺の酒類販売業者の経営上ビールが重要な商品である場合において,多店舗展開を行っている大規模な事業者,一定の商圏において市場シェアの高い事業者等が,ビールを集中的に廉売する場合は,一般的には,周辺の酒類販売業者の事業活動に影響を与えると考えられるので,可変的性質を持つ費用以上の価格での販売であっても,不公正な取引方法第6項の規定に該当する場合がある。この場合には,廉売対象商品の供給と関連のある費用(仕入原価及び販売費)を下回っているかどうかを考慮する。

(3) なお,前記(2)の考え方は,複数の酒類販売業者が相互に対抗して廉売を繰り返す,いわゆる対抗廉売の場合にも該当する。

2 公正取引委員会の対応

 公正取引委員会は,前記1の考え方を踏まえて,酒類の不当廉売事案に関して,次のような対応を行うこととする。

(1) 申告のあった事案に関しては,処理結果を通知するまでの目標処理期間を原則2か月以内として,迅速に処理を行う。その際,過去に注意を受けたがなお再び注意を受けるような事業者に対しては,事案に応じて,(1)責任者を招致した上で直接注意を行うほか,(2)周辺の酒類販売業者に対する影響が大きいと考えられる場合には,簡易迅速な処理によるのではなく,次の(2)により,厳正に対処する。

(2) 大規模な事業者による不当廉売事案又は繰り返し行われている不当廉売事案であって,周辺の酒類販売業者に対する影響が大きいと考えられるものについては,周辺の酒類販売業者の事業活動への影響等についても調査を行い,問題のみられる事案については厳正に対処し,排除措置命令や警告に至らない場合であっても,責任者を招致するなどした上で,文書により厳重に注意する。

(3) 具体的な事実を摘示して行われた不当廉売事案の申告については,当該申告をした者に調査結果を通知するとともに,通知を受けた申告者から当該通知の内容について問い合わせがあった場合には,事業者の秘密や今後の審査活動に支障を及ぼす事項を除き,可能な範囲で説明する。

(4) 警告,注意等を行った事業者に対しては,再発防止,違反行為の未然防止等の観点から,その後の価格動向について情報収集を行う。

第2 差別対価等への対応について

1 差別対価等の規制の内容

(1) 独占禁止法が禁止する差別対価等

 差別対価については,独占禁止法第2条第9項第2号において「不当に,地域又は相手方により差別的な対価をもつて,商品又は役務を継続して供給することであつて,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの」と規定され,不公正な取引方法第3項において「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第2条第9項第2号に該当する行為のほか,不当に,地域又は相手方により差別的な対価をもつて,商品若しくは役務を供給し,又はこれらの供給を受けること。」と規定されている。
 また,取引条件等の差別取扱いについては,不公正な取引方法第4項において「不当に,ある事業者に対し取引の条件又は実施について有利又は不利な取扱いをすること。」と規定されている。

(2) 差別対価等の規制の基本的な考え方

 経済活動において,取引数量の多寡,決済条件,配送条件等の相違を反映して取引価格に差が設けられることは,広く一般にみられることである。また,地域による需給関係の相違を反映して取引価格に差異が設けられることも通常である。
 このような観点からすれば,取引価格や取引条件に差異が設けられても,それが取引数量の相違等正当なコスト差に基づくものである場合や,商品の需給関係を反映したものである場合等においては,本質的に公正な競争を阻害するおそれがあるとはいえないものと考えられる。
 しかし,例えば,有力な事業者が,競争者を排除するため,当該競争者と競合する販売地域又は顧客に限って廉売を行い,公正な競争秩序に悪影響を与える場合等は,独占禁止法上問題となる。
 また,有力な事業者が同一の商品について,取引価格やその他の取引条件等について,合理的な理由なく差別的な取扱いをし,差別を受ける相手方の競争機能に直接かつ重大な影響を及ぼすことにより公正な競争秩序に悪影響を与える場合にも,独占禁止法上問題となる。
 個々の行為がどのような場合に独占禁止法上の差別対価等に該当するかは,個別具体的な事案において,行為者の意図・目的,取引価格・取引条件の格差の程度,供給に要する費用と価格との関係,行為者及び競争者の市場における地位,取引の相手方の状況,取引形態等を総合的に勘案し,市場における競争秩序に与える影響を勘案した上で判断されるものである。

2 公正取引委員会の対応

(1) 調査開始基準の明確化

 不当廉売事案の調査結果等によれば,酒類の取引においては,小売業者間において,仕入価格に格差が生じている状況がみられる。また,メーカーや卸売業者が供与するリベートについては,その供与の基準が不明確なものが存在している状況もみられる。
 公正取引委員会としては,酒類の取引における差別対価等の問題については,申告の疎明資料等により,次のような事実があると思料する場合には,必要な調査を開始し,前記1の考え方に照らし判断することとする。

 メーカー・卸関係

(ア) メーカーA社と継続的な取引関係にある卸売業者甲社及び乙社が同一の商圏内に所在している場合において,A社と甲社及び乙社との同一商品の取引内容(取引高,決済条件,受発注条件,配送条件,容器の種類等。以下同じ。)が同等とみられるにもかかわらず,A社の甲社及び乙社に対する実質的な販売価格(リベート等を考慮したもの。以下同じ。)に著しい相違がみられる疑いがある場合

(イ) メーカーA社と継続的な取引関係にある卸売業者甲社及び乙社が同一の商圏内に所在している場合において,A社と甲社及び乙社との同一商品の取引内容が同等とはみられないものの,A社の甲社及び乙社に対する実質的な販売価格にその取引内容の相違を超えた著しい相違がみられる疑いがある場合

(ウ) その他メーカーA社の卸売業者甲社及び乙社に対する同一商品の取引条件について,前記(ア)又は(イ)に類似する著しい相違がみられる疑いがある場合

 卸売(小売業者と直接の取引がある卸売業者を指す。)・小売関係(注3)

(ア) 卸売業者A社と継続的な取引関係にある小売業者甲社及び乙社が同一の商圏内に所在している場合において,A社と甲社及び乙社との同一商品の取引内容が同等とみられるにもかかわらず,A社の甲社又は乙社に対する実質的な販売価格に著しい相違がみられる疑いがある場合

(イ) 卸売業者A社と継続的な取引関係にある小売業者甲社及び乙社が同一の商圏内に所在している場合において,A社と甲社及び乙社との同一商品の取引内容が同等とはみられないものの,A社の甲社又は乙社に対する実質的な販売価格にその取引内容の相違を超えた著しい相違がみられる疑いがある場合

(ウ) その他卸売業者A社の小売業者甲社及び乙社に対する同一商品の取引条件について,前記(ア)又は(イ)に類似する著しい相違がみられる疑いがある場合

(注3) 卸売業者から小売業者へのリベートの供与等について差別対価等に該当するか否かを判断するに際しては,メーカーから小売業者に対して供与されているリベート等の状況を考慮に入れる必要がある。
 また,メーカーから小売業者に対して供与されているリベート等が前記イ(ア)から(ウ)までと同様に著しく相違する疑いがあるときは,メーカーによる取引条件等の差別取扱いに該当するおそれもある。ただし,その判断に際しては,卸売業者から小売業者に対するリベートの供与等の状況についても考慮に入れる必要がある。

(2) リベート等の供与基準の明確化

 供与基準の不明確なリベートが裁量的に提供される場合,特にそうした不透明なリベートが取引の相手方のマージンにおいて大きな割合を占めている場合には,独占禁止法に違反する取引条件等の差別取扱いが生じたり,取引の相手方の事業活動を制限するおそれがある。
 このため,メーカー又は卸売業者が供与するリベート等については,独占禁止法に違反する行為の未然防止という観点からは,供与の基準を明確にし,これを取引の相手方に示すことが望ましい。

第3 廉売問題に関連するその他の規制

 有力な小売業者が卸売業者又はメーカーに対し,購買力を濫用して行き過ぎた低価格での納入を強要することや,不当に不利益を与えることとなるような協賛金の負担を要請すること等は,独占禁止法第2条第9項第5号(優越的地位の濫用)に該当するおそれがある。 
 公正取引委員会は,有力な小売業者による卸売業者に対する優越的地位の濫用行為に対し,「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」の運用基準(平成17年事務総長通達第9号),「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(平成22年11月30日公正取引委員会)で明らかにした考え方等を踏まえ,厳正に対処することとする。

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