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流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針

流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針

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平成3年7月11日
公正取引委員会事務局
改正:平成17年11月1日
改正:平成22年1月1日
改正:平成23年6月23日
改正:平成27年3月30日
改正:平成28年5月27日
改正:平成29年6月16日

はじめに

1 流通・取引に関する慣行は,歴史的,社会的背景の中で形成されてきたものであり,世界の各国において様々な特色を持っているが,その在り方については,常に見直され,より良いものへと変化していくことが求められている。我が国の流通・取引慣行についても,経済活動のグローバル化や,技術革新等によって,日々目まぐるしく進展・変化してきている。このような状況において,事業者の創意工夫を発揮させ,消費者の利益が一層確保されるようにするためには,公正かつ自由な競争を促進し,市場メカニズムの機能を十分に発揮し得るようにしていくことが重要である。具体的には,[1]事業者の市場への自由な参入が妨げられず,[2]それぞれの事業者の取引先の選択が自由かつ自主的に行われ,[3]価格その他の取引条件の設定がそれぞれの事業者の自由かつ自主的な判断で行われ,また,[4]価格,品質,サービスを中心とした公正な手段による競争が行われることが必要である。
 本指針は,我が国の流通・取引慣行について,どのような行為が,公正かつ自由な競争を妨げ,独占禁止法に違反するのかを具体的に明らかにすることによって,事業者及び事業者団体の独占禁止法違反行為の未然防止とその適切な活動の展開に役立てようとするものである。

2 本指針第1部は,部品メーカーと完成品メーカー,メーカーと卸売業者や小売業者といった,事業者間の取引における取引先事業者(特段の記載がない場合には直接又は間接の取引先事業者をいう。以下同じ。)の事業活動に対する制限に関して,第2部は,事業者による取引先の選択に関して,また,第3部は,国内市場全域を対象とする総代理店に関して,独占禁止法上の指針を示したものである。
 本指針は,主として商品の取引について独占禁止法上の考え方を示したものであるが,役務の取引についてもその考え方は基本的には同様である。

3 本指針は,流通・取引慣行に関し,独占禁止法上問題となる主要な行為類型についてその考え方を示したものであるが,独占禁止法上問題となる行為はこれに限られるものではない。例えば,価格カルテル,供給量制限カルテル,購入数量カルテル,入札談合などは原則として独占禁止法に違反するものであることはいうまでもない。したがって,本指針に取り上げられていない行為が独占禁止法上問題となるかどうかは,同法の規定に照らして個別具体的に判断されるものである。

第1部 取引先事業者の事業活動に対する制限

1 対象範囲
(1) 事業者が,例えば,マーケティングの一環として,卸売業者や小売業者といった流通業者の販売価格,取扱商品,販売地域,取引先等に関与し,影響を及ぼす場合には,ブランド間競争(メーカー等の供給者間の競争及び異なるブランドの商品を取り扱う流通業者等の間の競争をいう。以下同じ。)やブランド内競争(同一ブランドの商品を取り扱う流通業者等の間の競争をいう。以下同じ。)を減少・消滅させる効果を生じることがある。
 第1部では,事業者が,取引先事業者に対して行う,販売価格,取扱商品,販売地域,取引先等の制限及びリベートの供与について,不公正な取引方法に関する規制の観点から,独占禁止法上の考え方を明らかにしている(注1)。
 Eコマースの発展・拡大に伴い,様々なビジネスモデルが創出され,事業者は,広告や流通経路などにおいて,インターネットの利用を活発に行っている。特に,インターネットを利用した取引は,実店舗における取引といった従来の取引方法と比べ,より広い地域や様々な顧客と取引することができるなど,事業者にとっても顧客にとっても有用な手段となっている。以下において,このようなインターネットを利用した取引か実店舗における取引かで基本的な考え方を異にするものではない。
 また,ショッピングモール,オンラインマーケットプレイス,オンライン旅行予約サービス,家庭用ゲーム機など,消費者と商品を提供する事業者といった異なる二つ以上の利用者グループを組み合わせ,それぞれのグループの利用の程度が互いに影響を与え合うような,いわゆるプラットフォームを運営・提供する事業者(以下「プラットフォーム事業者」という。)による,当該プラットフォームを利用する事業者に対する行為についても,基本的な考え方を異にするものではない。

(2) 大規模小売業者と納入業者との関係などでみられるように,事業者間の取引において,自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が,取引の相手方に対し,その地位を利用して,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは,当該取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに,当該取引の相手方はその競争者との関係において競争上不利となる一方で,行為者はその競争者との関係において競争上有利となるおそれがあるものである。このような行為は,公正な競争を阻害するおそれがあることから,不公正な取引方法の一つである優越的地位の濫用として独占禁止法により規制される。具体的には,「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(平成22年11月30日)によって,その規制の考え方が明らかにされている。
 このほか,不当廉売及びこれに関連する差別対価については,「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」(平成21年12月18日)等によって,その規制の考え方が明らかにされている(注1)。

(注1) これらの行為によって,市場における競争が実質的に制限され,私的独占として違法となる場合の考え方については,例えば「排除型私的独占に係る独占禁止法上の指針」(平成21年10月28日。以下「排除型私的独占ガイドライン」という。)等によって,その考え方が明らかにされている。

2 垂直的制限行為が競争に及ぼす影響についての基本的な考え方

 独占禁止法は,事業者が不公正な取引方法等の行為を行うことを禁止し,公正かつ自由な競争を促進することによって,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的としている。
事業者が,取引先事業者の販売価格,取扱商品,販売地域,取引先等の制限を行う行為(以下「垂直的制限行為」といい,垂直的制限行為には,契約によって制限をする場合のほか,事業者が直接又は間接に要請することなどにより事実上制限する場合も含む(注2)。)は,その程度・態様等により,競争に様々な影響を及ぼす。
 例えば,垂直的制限行為によって,事業者の創意工夫による事業活動を妨げたり,ブランド間競争やブランド内競争が減少・消滅したり,参入障壁が高くなって新規参入者を排除したり,消費者の商品選択が狭められたりといった競争を阻害する効果がもたらされる場合がある。
他方,垂直的制限行為によって,新商品の販売が促進されたり,新規参入が容易になったり,品質やサービスが向上するといった競争を促進する効果がもたらされる場合もある。
 このように,垂直的制限行為は,競争に影響を及ぼす場合であっても,競争を阻害する効果を生じることもあれば,競争を促進する効果を生じることもある。
公正かつ自由な競争が促進されるためには,各取引段階において公正かつ自由な競争が確保されていることが必要であり,ブランド間競争とブランド内競争のいずれか一方が確保されていれば他方が失われたとしても実現できるというものではない。

(注2) 取引先事業者の株式の取得・所有や取引先事業者の経営に対する関与等を背景として垂直的制限行為が行われる場合もある(取引先事業者の株式の取得・所有や取引先事業者の経営に対する関与自体が直ちに独占禁止法上問題となるものではない。)。このような場合においても,下記3の垂直的制限行為に係る適法・違法性判断基準や後記第1及び第2において述べる考え方に従って違法性の有無が判断される(行為者と取引先事業者が親子関係等にある場合については,(付)「親子会社・兄弟会社間の取引」を参照)。

3 垂直的制限行為に係る適法・違法性判断基準

(1) 垂直的制限行為に係る適法・違法性判断基準についての考え方

 垂直的制限行為は,上記2のとおり,競争に様々な影響を及ぼすものであるが,公正な競争を阻害するおそれがある場合に,不公正な取引方法として禁止されることとなる。垂直的制限行為に公正な競争を阻害するおそれがあるかどうかの判断に当たっては,具体的行為や取引の対象・地域・態様等に応じて,当該行為に係る取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討した上で,次の事項を総合的に考慮して判断することとなる。
 なお,この判断に当たっては,垂直的制限行為によって生じ得るブランド間競争やブランド内競争の減少・消滅といった競争を阻害する効果に加え,競争を促進する効果(下記(3)参照)も考慮する。また,競争を阻害する効果及び競争を促進する効果を考慮する際は,各取引段階における潜在的競争者への影響も踏まえる必要がある。

[1] ブランド間競争の状況(市場集中度,商品特性,製品差別化の程度,流通経路,新規参入の難易性等)

[2] ブランド内競争の状況(価格のバラツキの状況,当該商品を取り扱っている流通業者等の業態等)

[3] 垂直的制限行為を行う事業者の市場における地位(市場シェア,順位,ブランド力等)

[4] 垂直的制限行為の対象となる取引先事業者の事業活動に及ぼす影響(制限の程度・態様等)

[5] 垂直的制限行為の対象となる取引先事業者の数及び市場における地位

 各事項の重要性は個別具体的な事例ごとに異なり,垂直的制限行為を行う事業者の事業内容等に応じて,各事項の内容も検討する必要がある。例えば,プラットフォーム事業者が行う垂直的制限行為による競争への影響については,プラットフォーム事業者間の競争の状況や,ネットワーク効果(注3)等を踏まえたプラットフォーム事業者の市場における地位等を考慮する必要がある。

(注3) ネットワーク効果には直接的な効果と間接的な効果がある。例えば,あるプラットフォームの利用者の便益・効用が,当該利用者と同一の利用者グループに属する利用者の増加によって向上するような場合には,直接的なネットワーク効果が働いているといえる。また,例えば,プラットフォーム事業者を介して取引を行う二つの利用者グループ間において,一方の利用者グループに属する利用者が増加するほど,他方の利用者グループに属する利用者にとって当該プラットフォーム事業者を介して取引を行うことの便益・効用が向上するような場合には,間接的なネットワーク効果が働いているといえる。

(2) 公正な競争を阻害するおそれ

 垂直的制限行為には,再販売価格維持行為(詳細は後記第1参照)と,取引先事業者の取扱商品,販売地域,取引先等の制限を行う行為(以下「非価格制限行為」という。)がある。
再 販売価格維持行為は,流通業者間の価格競争を減少・消滅させることになるため,通常,競争阻害効果が大きく,原則として公正な競争を阻害するおそれのある行為である。
 一方,非価格制限行為は,一般的に,その行為類型及び個別具体的なケースごとに市場の競争に与える影響が異なる。すなわち,非価格制限行為の中には,[1]行為類型のみから違法と判断されるのではなく,個々のケースに応じて,当該行為を行う事業者の市場における地位等から,「市場閉鎖効果が生じる場合」や,「価格維持効果が生じる場合」といった公正な競争を阻害するおそれがある場合に当たるか否かが判断されるもの及び[2]通常,価格競争を阻害するおそれがあり,当該行為を行う事業者の市場における地位を問わず,原則として公正な競争を阻害するおそれがあると判断されるものがある。
 なお,複数の非価格制限行為が同時に行われている場合や再販売価格維持行為も併せて行われている場合に,ある非価格制限行為に公正な競争を阻害するおそれがあるかどうかを判断するに当たっては,同時に行われている他の非価格制限行為又は再販売価格維持行為による影響を踏まえて判断されることもある。

ア 市場閉鎖効果が生じる場合

 「市場閉鎖効果が生じる場合」とは,非価格制限行為により,新規参入者や既存の競争者にとって,代替的な取引先を容易に確保することができなくなり,事業活動に要する費用が引き上げられる,新規参入や新商品開発等の意欲が損なわれるといった,新規参入者や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じる場合をいう。
 「市場閉鎖効果が生じる場合」に当たるかどうかは,上記 (1)の適法・違法性判断基準の考え方に従って判断することになる。例えば,このような制限を行う事業者の市場における地位が高いほど,そうでない場合と比較して,市場閉鎖効果が生じる可能性が高くなる。また,この判断に当たっては,他の事業者の行動も考慮の対象となる。例えば,複数の事業者がそれぞれ並行的にこのような制限を行う場合には,一事業者のみが行う場合と比べ市場全体として市場閉鎖効果が生じる可能性が高くなる。
 なお,「市場閉鎖効果が生じる場合」に当たるかどうかの判断において,非価格制限行為により,具体的に上記のような状態が発生することを要するものではない。

イ 価格維持効果が生じる場合

 「価格維持効果が生じる場合」とは,非価格制限行為により,当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ,当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し,当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれが生じる場合をいう。
 「価格維持効果が生じる場合」に当たるかどうかは,上記(1)の適法・違法性判断基準の考え方に従って判断することになる。例えば,市場が寡占的であったり,ブランドごとの製品差別化が進んでいて,ブランド間競争が十分に機能しにくい状況の下で,市場における有力な事業者によって厳格な地域制限(後記第2の3(3)参照)が行われると,当該ブランドの商品を巡る価格競争が阻害され,価格維持効果が生じることとなる。また,この判断に当たっては,他の事業者の行動も考慮の対象となる。例えば,複数の事業者がそれぞれ並行的にこのような制限を行う場合には,一事業者のみが行う場合と比べ市場全体として価格維持効果が生じる可能性が高くなる。
 なお,「価格維持効果が生じる場合」に当たるかどうかの判断において,非価格制限行為により,具体的に上記のような状態が発生することを要するものではない。

(3) 垂直的制限行為によって生じ得る競争促進効果

 垂直的制限行為によって,新商品の販売が促進される,新規参入が容易になる,品質やサービスが向上するなどの場合には,競争促進的な効果が認められ得る。この典型例としては,次のような場合がある。

ア 流通業者は,他の流通業者がある事業者の商品について販売前に実施する販売促進活動によって需要が喚起されている場合,自ら販売促進活動を行うことなく当該商品を販売することができる。このような場合に,いずれの流通業者も,自ら費用をかけて積極的な販売促進活動を行わなくなり,本来であれば当該商品を購入したであろう消費者が購入しない状況に至ることがあり得る。このような状態は,「フリーライダー問題」と称されている。フリーライダー問題が起きやすい条件の一つは,消費者の商品に対する情報が限られていることである。例えば,新商品や消費者からみて使用方法等が技術的に複雑な商品では,消費者の持つ情報は不足し,需要を喚起するためには,流通業者による当該商品についての情報提供や販売促進活動が十分に行われる必要がある。さらに,消費者が,販売促進活動を実施する流通業者から対象商品を購入せずに,販売促進活動を実施していない他の流通業者から購入することによる購入費用節約の効果が大きいことも必要である。この効果は,通常,当該商品が相当程度高額である場合に大きくなる。このような条件が満たされ,フリーライダー問題が現実に起こるために,購入に必要な情報が消費者に十分提供されなくなる結果,商品の供給が十分になされなくなるような高度の蓋然性があるときに,当該事業者が,一定の地域を一流通業者のみに割り当てることなどが,フリーライダー問題を解消するために有効となり得る。ただし,このような制限に競争促進効果があると認められるのは,当該流通業者が実施する販売促進活動が当該商品に関する情報を十分に有していない多数の新規顧客の利益につながり,当該制限がない場合に比べ購入量が増大することが期待できるなどの場合に限られる。また,そうした販売促進活動が,当該商品に特有のものであり,かつ,販売促進活動に要する費用が回収不能なもの(いわゆる埋没費用)であることが必要である。

イ 事業者が,自社の新商品について高品質であるとの評判を確保する上で,高品質な商品を取り扱うという評判を有している小売業者に限定して当該新商品を供給することが,販売戦略上重要といえる場合がある。このような場合において,当該事業者が流通業者の販売先を当該小売業者に限定することが,当該新商品について高品質であるとの評判を確保する上で有効となり得る。

ウ 事業者が新商品を発売するために,専用設備の設置等の特有の投資を流通業者に求めることがある。このとき,他の流通業者がそのような投資を行わずに当該新商品を販売することができるとなると,投資を行った流通業者が当該投資を回収できず,結果として,そのような投資が行われなくなることがある。このような場合において,当該事業者が,一定の地域を一流通業者のみに割り当てることが,特有の投資を流通業者に求める上で有効となり得る。

エ 部品メーカーが,完成品メーカーの求める特定の要求を満たす部品を製造するための専用機械や設備の設置等の特有の投資を行う必要がある場合には,当該部品メーカーが当該完成品メーカーに対し,一定数量の当該部品の購入を義務付けることなどが,特有の投資を行う上で有効となり得る。

オ 事業者が,自社商品に対する顧客の信頼(いわゆるブランドイメージ)を高めるために,当該商品の販売に係るサービスの統一性やサービスの質の標準化を図ろうとする場合がある。このような場合において,当該事業者が,流通業者の販売先を一定の水準を満たしている者に限定したり,小売業者の販売方法等を制限したりすることが,当該商品の顧客に対する信頼を高める上で有効となり得る。

(4) 市場における有力な事業者

 垂直的制限行為には,「市場における有力な事業者」によって当該行為が行われた場合に不公正な取引方法として違法となるおそれがあるものがある。後記第2の2(自己の競争者との取引等の制限)の各行為類型,同3(3)(厳格な地域制限)及び同7(抱き合わせ販売)がこれに当たる。
 「市場における有力な事業者」と認められるかどうかについては,当該市場(制限の対象となる商品と機能・効用が同様であり,地理的条件,取引先との関係等から相互に競争関係にある商品の市場をいい,基本的には,需要者にとっての代替性という観点から判断されるが,必要に応じて供給者にとっての代替性という観点も考慮される。)におけるシェアが20%を超えることが一応の目安となる。ただし,この目安を超えたのみで,その事業者の行為が違法とされるものではなく,当該行為によって「市場閉鎖効果が生じる場合」又は「価格維持効果が生じる場合」に違法となる。
 市場におけるシェアが20%以下である事業者や新規参入者がこれらの行為を行う場合には,通常,公正な競争を阻害するおそれはなく,違法とはならない。

第1 再販売価格維持行為

1 考え方

(1) 事業者が市場の状況に応じて自己の販売価格を自主的に決定することは,事業者の事業活動において最も基本的な事項であり,かつ,これによって事業者間の競争と消費者の選択が確保される。
 事業者がマーケティングの一環として,又は流通業者の要請を受けて,流通業者の販売価格を拘束する場合には,流通業者間の価格競争を減少・消滅させることになることから,このような行為は原則として不公正な取引方法として違法となる。

(2) 事業者が設定する希望小売価格や建値は,流通業者に対し単なる参考として示されているものである限りは,それ自体は問題となるものではない。しかし,参考価格として単に通知するだけにとどまらず,その価格を守らせるなど,事業者が流通業者の販売価格を拘束する場合には,上記(1)の行為に該当し,原則として違法となる(注4)。

(注4) 事業者が希望小売価格等を設定する場合においては,再販売価格を拘束すること(再販売価格の拘束に当たるかどうかについては,下記2において述べる考え方に基づき判断される。)にならなければ,通常問題となるものではない。
 なお,希望小売価格等を流通業者に通知する場合には,「正価」,「定価」といった表示や金額のみの表示ではなく,「参考価格」,「メーカー希望小売価格」といった非拘束的な用語を用いるとともに,通知文書等において,希望小売価格等はあくまでも参考であること,流通業者の販売価格はそれぞれの流通業者が自主的に決めるべきものであることを明示することが,独占禁止法違反行為の未然防止の観点から望ましい。

2 再販売価格の拘束

(1) 事業者が流通業者の販売価格(再販売価格)を拘束することは,原則として不公正な取引方法に該当し,違法となる(独占禁止法第2条第9項第4号(再販売価格の拘束))(注5)。すなわち,再販売価格の拘束は,流通業者間の価格競争を減少・消滅させることになることから,通常,競争阻害効果が大きく,原則として公正な競争を阻害するおそれのある行為である。このため,独占禁止法においては,事業者が,流通業者に対して,「正当な理由」がないのに再販売価格の拘束を行うことは,不公正な取引方法として違法となると規定されている。換言すれば,再販売価格の拘束が行われる場合であっても,「正当な理由」がある場合には例外的に違法とはならない。

(注5) 役務の提供価格を拘束する場合には,一般指定12項(拘束条件付取引)に該当する。基本的な考え方は独占禁止法第2条第9項第4号に該当する場合と同様である。

(2) 「正当な理由」は,事業者による自社商品の再販売価格の拘束によって実際に競争促進効果が生じてブランド間競争が促進され,それによって当該商品の需要が増大し,消費者の利益の増進が図られ,当該競争促進効果が,再販売価格の拘束以外のより競争阻害的でない他の方法によっては生じ得ないものである場合において,必要な範囲及び必要な期間に限り,認められる。
 例えば,事業者が再販売価格の拘束を行った場合に,当該再販売価格の拘束によって前記第1部の3(3)アに示されるような,いわゆる「フリーライダー問題」の解消等を通じ,実際に競争促進効果が生じてブランド間競争が促進され,それによって当該商品の需要が増大し,消費者の利益の増進が図られ,当該競争促進効果が,当該再販売価格の拘束以外のより競争阻害的でない他の方法によっては生じ得ないものである場合には,「正当な理由」があると認められる。

(3) 再販売価格の拘束の有無は,事業者の何らかの人為的手段によって,流通業者が当該事業者の示した価格で販売することについての実効性が確保されていると認められるかどうかで判断される。
 次のような場合には,「流通業者が事業者の示した価格で販売することについての実効性が確保されている」と判断される。

[1] 例えば次のように,文書によるか口頭によるかを問わず,事業者と流通業者との間の合意によって,当該事業者の示した価格で販売するようにさせている場合

a 事業者の示した価格で販売することが文書又は口頭による契約において定められている場合

b 事業者の示した価格で販売することについて流通業者に同意書を提出させる場合

c 事業者の示した価格で販売することを取引の条件として提示し,条件を受諾した流通業者とのみ取引する場合

d 事業者の示した価格で販売し,売れ残った商品は値引き販売せず,当該事業者が買い戻すことを取引の条件とする場合

(具体例)
 X社は,X社製キャンプ用品について,翌シーズンに小売業者が販売を行うに当たっての販売ルール(以下「販売ルール」という。)を次のとおり定めていた。
ア 販売価格は,X社製キャンプ用品ごとにX社が定める下限の価格以上の価格とする。
イ 割引販売は,他社の商品を含めた全ての商品を対象として実施する場合又は実店舗における在庫処分を目的として,X社が指定する日以降,チラシ広告を行わずに実施する場合に限り認める。
 X社はX社製キャンプ用品について,自ら又は取引先卸売業者を通じて
ア 継続して取引を行う小売業者に対しては,翌シーズンの取引について商談を行うに当たり,X社が定めた下限の価格を記載した見積書を提示するなどして,販売ルールに従って販売するよう要請し
イ 新たにX社製キャンプ用品の取引を希望する小売業者に対しては,取引開始に当たり,販売ルールに従って販売するよう要請し
X社が他の小売業者にも販売ルールに従って販売させることを前提に,小売業者から販売ルールに従って販売する旨の同意を得て,当該小売業者に販売ルールに従って販売するようにさせていた。
 このようなX社の行為は,独占禁止法第2条第9項第4号イ及びロに該当し,独占禁止法第19条の規定に違反する。(平成28年6月15日排除措置命令,平成28年(措)第7号)

[2] 例えば次のように,事業者の示した価格で販売しない場合に経済上の不利益を課し,又は課すことを示唆する等,何らかの人為的手段を用いることによって,当該価格で販売するようにさせている場合

a 事業者の示した価格で販売しない場合に出荷停止等の経済上の不利益(出荷量の削減,出荷価格の引上げ,リベートの削減,他の製品の供給拒絶等を含む。以下同じ。)を課す場合,又は課す旨を流通業者に対し通知・示唆する場合

b 事業者の示した価格で販売する場合にリベート等の経済上の利益(出荷価格の引下げ,他の製品の供給等を含む。以下同じ。)を供与する場合,又は供与する旨を流通業者に対し通知・示唆する場合

c 事業者の示した価格で販売しているかどうかを調べるため,販売価格の報告徴収,店頭でのパトロール,派遣店員による価格監視,帳簿等の書類閲覧等の行為を行うことによって事業者の示した価格で販売するようにさせている場合

d 商品に秘密番号を付すなどによって,安売りを行っている流通業者への流通ルートを突き止め,当該流通業者に販売した流通業者に対し,安売り業者に販売しないように要請することによって事業者の示した価格で販売するようにさせている場合

e 安売りを行っている流通業者の商品を買い上げ,当該商品を当該流通業者又はその仕入先である流通業者に対して買い取らせ,又は買上げ費用を請求することによって事業者の示した価格で販売するようにさせている場合

f 安売りを行っている流通業者に対し,安売りについてのその他の流通業者の苦情を取り次ぎ,安売りを行わないように要請することによって事業者の示した価格で販売するようにさせている場合

(4) 再販売価格の拘束の手段として,取引拒絶やリベートの供与等についての差別取扱いが行われる場合には,その行為自体も不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定2項(その他の取引拒絶)又は4項(取引条件等の差別取扱い))。

(5) 上記(3)において,事業者が流通業者に対し示す価格には,確定した価格のほか,例えば次のような価格も含まれる。

a 希望小売価格の○%引き以内の価格

b 一定の範囲内の価格(□円以上△円以下)

c 事業者の事前の承認を得た価格

d 近隣店の価格を下回らない価格

e 一定の価格を下回って販売した場合には警告を行うなどにより,事業者が流通業者に対し暗に下限として示す価格

(6) 上記(3),(4)及び(5)の考え方は,事業者が直接の取引先事業者に(例えばメーカーが卸売業者に)対して行う場合のみならず,事業者が間接の取引先事業者に(例えばメーカーが小売業者や二次卸等に)対し,直接の取引先事業者を通じて,あるいは自ら直接に,その販売価格を拘束する場合にも当てはまる(独占禁止法第2条第9項第4号,一般指定2項又は4項)。

(7) なお,次のような場合であって,事業者の直接の取引先事業者が単なる取次ぎとして機能しており,実質的にみて当該事業者が販売していると認められる場合には,当該事業者が当該取引先事業者に対して価格を指示しても,通常,違法とはならない。

[1] 委託販売の場合であって,受託者は,受託商品の保管,代金回収等についての善良な管理者としての注意義務の範囲を超えて商品が滅失・毀損した場合や商品が売れ残った場合の危険負担を負うことはないなど,当該取引が委託者の危険負担と計算において行われている場合

[2] メーカーと小売業者(又はユーザー)との間で直接価格について交渉し,納入価格が決定される取引において,卸売業者に対し,その価格で当該小売業者(又はユーザー)に納入するよう指示する場合であって,当該卸売業者が物流及び代金回収の責任を負い,その履行に対する手数料分を受け取ることとなっている場合など,実質的にみて当該メーカーが販売していると認められる場合

(具体例)
[1] インターネットを用いた音楽配信業務において,コンテンツプロバイダーA社が,ポータルサイトを運営するプラットフォーム事業者B社との間で,A社が指示する価格で音楽配信することを定めた委託販売契約を締結することは,A社がB社に対し,A社の提供する楽曲のB社のサーバーへのアップロード及び代金徴収業務のみを委託するものであり,実質的にはA社が自らの保有する楽曲を利用者に直接提供するものと認められ,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。(平成16年度相談事例集「3 音楽配信サービスにおけるコンテンツプロバイダーによる価格の指定」)

[2] 産業用部品AのメーカーであるX社が,同社のユーザーであるZ社との間で,産業用部品Aの販売価格を取り決め,X社の代理店であるY社に対し,当該価格でZ社に納入するよう指示すること(具体的には,Y社にZ社向け産業用部品Aの物流,代金回収及び在庫保管の責任を負ってもらうこととし,その履行に対する手数料は,Y社のZ社への納入価格とY社のX社からの購入価格との差額とする。)は,Y社は物流,代金回収及び在庫保管の責任を負うが,Y社が負う在庫管理に伴う危険負担は極めて低いと考えられることから,実質的にみてX社がZ社へ直接販売していると認められる。また,X社が指示するのはY社がZ社に納入する価格のみであり,Y社がZ社以外のユーザーに販売する際の価格や,Y社以外の代理店が販売する際の価格を指示するものではないことから,X社の産業用部品Aについての価格競争に与える影響はほとんどないと考えられる。したがって,独占禁止法上問題となるものではない。(平成21年度相談事例集「2 代理店の再販売価格の拘束」)

3 流通調査

事業者が単に自社の商品を取り扱う流通業者の実際の販売価格,販売先等の調査(「流通調査」)を行うことは,当該事業者の示した価格で販売しない場合に当該流通業者に対して出荷停止等の経済上の不利益を課す,又は課す旨を通知・示唆する等の流通業者の販売価格に関する制限を伴うものでない限り,通常,問題とはならない。

第2 非価格制限行為

1 考え方

(1) 事業者の非価格制限行為は,前記第1部の3のとおり,その行為類型及び個別具体的なケースごとに市場の競争に与える影響をみて,違法となるか否かが判断される。以下では,主な行為類型ごとにその適法・違法性判断基準の考え方等を示す。

(2) 事業者が非価格制限行為を行っているかどうかについては,前記第1の2で述べた再販売価格についての拘束と同様,事業者が取引先事業者に対し契約等で制限している場合だけでなく,事業者の要請に従わない取引先事業者に対し経済上の不利益を課すなど何らかの人為的手段を用いることによって制限の実効性が確保されている場合にも,制限行為が行われていると判断される。

2 自己の競争者との取引等の制限

(1) 取引先事業者に対する自己の競争者との取引や競争品の取扱いに関する制限

ア 事業者は,例えば,マーケティングの一環として,取引先事業者に対し,自己の競争者との取引等の制限を行うことがあり,これらについては経営上の利点も指摘される。しかし,このような制限を行う事業者の市場における地位等によっては,このような制限が,既存の競争者の事業活動を阻害したり,参入障壁を高めたりするような状況をもたらす可能性がある。

イ 市場における有力な事業者が,例えば次のように,取引先事業者に対し自己又は自己と密接な関係にある事業者(注6)の競争者と取引しないよう拘束する条件を付けて取引する行為,取引先事業者に自己又は自己と密接な関係にある事業者の競争者との取引を拒絶させる行為,取引先事業者に対し自己又は自己と密接な関係にある事業者の商品と競争関係にある商品(以下「競争品」という。)の取扱いを制限するよう拘束する条件を付けて取引する行為を行うことにより,市場閉鎖効果が生じる場合には,当該行為は不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定2項(その他の取引拒絶),11項(排他条件付取引)又は12項(拘束条件付取引))。
 なお,「市場閉鎖効果が生じる場合」に当たるかどうかについては,前記第1部の3(1)及び(2)アにおいて述べた考え方に基づき判断される。例えば,このような制限を行う事業者の商品が強いブランド力を有している場合や競争者の供給余力が総じて小さい場合には,そうでない場合と比較して,取引先事業者にとって当該事業者から商品の供給を受けることがより重要となり,当該制限の実効性が高まることから,市場閉鎖効果が生じる可能性が高くなる。また,制限の期間が長期間にわたるほど,制限の相手方の数が多いほど,競争者にとって制限の相手方との取引が重要であるほど,そうでない場合と比較して,市場閉鎖効果が生じる可能性が高くなる。複数の事業者がそれぞれ並行的にこのような制限を行う場合には,一事業者のみが制限を行う場合と比べ市場全体として市場閉鎖効果が生じる可能性が高くなる。

[1] 市場における有力な原材料メーカーが,完成品メーカーに対し,自己以外の原材料メーカーと取引する場合には原材料の供給を打ち切る旨通知し,又は示唆して,自己以外の原材料メーカーとは取引しないよう要請すること(一般指定11項)

[2] 市場における有力な完成品メーカーが,有力な部品メーカーに対し,自己の競争者である完成品メーカーには部品を販売せず,又は部品の販売を制限するよう要請し,その旨の同意を取り付けること(一般指定11項又は12項)

[3] 市場における有力なメーカーが,流通業者に対し,取引の条件として自社商品のみの取扱いを義務付けること(一般指定11項)

[4] 市場における有力なメーカーが,流通業者に対し,競争品である輸入品など特定の商品又は特定事業者の商品の取扱いを制限する条件を付けて取引すること(一般指定12項)

[5] 市場における有力なメーカーが,取引の条件として流通業者の取扱能力の限度に近い販売数量の義務付けを行うことによって,競争品の取扱いを制限すること(一般指定12項)

[6] 市場における有力なメーカーが,流通業者に対し,新規参入しようとする特定のメーカーからの取引の申込みに応じないようにさせること(一般指定2項)

(注6) 「自己と密接な関係にある事業者」とは,自己と共通の利害関係を有する事業者をいい,これに該当するか否かは,株式所有関係,役員兼任・派遣関係,同一のいわゆる企業集団に属しているか否か,取引関係,融資関係等を総合的に考慮して個別具体的に判断される。以下において同じ。

ウ 一方,例えば,次のように,自己の競争者との取引や競争品の取扱いに関する制限について独占禁止法上正当と認められる理由がある場合には,違法とはならない。

[1] 完成品メーカーが部品メーカーに対し,原材料を支給して部品を製造させている場合に,その原材料を使用して製造した部品を自己にのみ販売させること

[2] 完成品メーカーが部品メーカーに対し,ノウハウ(産業上の技術に係るものをいい,秘密性のないものを除く。)を供与して部品を製造させている場合で,そのノウハウの秘密を保持し,又はその流用を防止するために必要であると認められるときに自己にのみ販売させること

エ 上記ア,イ及びウの考え方は,事業者が直接の取引先事業者をしてその取引の相手方に(例えばメーカーが卸売業者をして小売業者に)自己の競争者との取引や競争品の取扱いに関する制限をさせる場合にも当てはまる(一般指定2項又は12項)。

(2) 対抗的価格設定による競争者との取引の制限

ア 事業者が,自社商品の価格を市場の状況に応じて引き下げることは,正に競争の現れであり,競争政策の観点から積極的に評価できよう。しかし,次のイのように競争者に対抗して価格を引き下げた場合には自己との取引を継続することを相手方に約束させることは,競争者の取引の機会を減少させるおそれがある。

イ 市場における有力な事業者が,取引先事業者に対し,自己の競争者から取引の申込みを受けたときには必ずその内容を自己に通知し,自己が対抗的に販売価格を当該競争者の提示する価格と同一の価格又はこれよりも有利な価格に引き下げれば,当該取引先事業者は当該競争者とは取引しないこと又は自己との従来の取引数量を維持することを約束させて取引し,これによって市場閉鎖効果が生じる場合には,当該行為は不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定11項又は12項)。
 なお,「市場閉鎖効果が生じる場合」に当たるかどうかについては,上記(1)「取引先事業者に対する自己の競争者との取引や競争品の取扱いに関する制限」において述べた考え方と同様である。

3 販売地域に関する制限

(1) 事業者は,例えば,マーケティングの一環として,流通業者に対し,販売地域に関し次のような制限を課すことがある。

[1] 事業者が流通業者に対して,一定の地域を主たる責任地域として定め,当該地域内において,積極的な販売活動を行うことを義務付けること(主たる責任地域を設定するのみであって,下記[3]又は[4]に当たらないもの。以下「責任地域制」という。)

[2] 事業者が流通業者に対して,店舗等の販売拠点の設置場所を一定地域内に限定したり,販売拠点の設置場所を指定すること(販売拠点を制限するのみであって,下記[3]又は[4]に当たらないもの。以下「販売拠点制」という。)

[3] 事業者が流通業者に対して,一定の地域を割り当て,地域外での販売を制限すること(以下「厳格な地域制限」という。)

[4] 事業者が流通業者に対して,一定の地域を割り当て,地域外の顧客からの求めに応じた販売を制限すること(以下「地域外顧客への受動的販売の制限」という。)

(2) 責任地域制及び販売拠点制

 事業者が商品の効率的な販売拠点の構築やアフターサービス体制の確保等のため,流通業者に対して責任地域制や販売拠点制を採ることは,厳格な地域制限又は地域外顧客への受動的販売の制限に該当しない限り,通常,これによって価格維持効果が生じることはなく,違法とはならない。
 例えば,インターネットを利用した販売において,事業者が流通業者に対し,一定の地域や顧客を対象として,当該流通業者のウェブサイト又は第三者(プラットフォーム事業者等)のウェブサイト上に広告を掲載させたり,メールマガジンを配信させたりするなど,当該一定の地域や顧客を対象として積極的な販売活動を行うことを義務付けることは,通常違法とはならない。しかし,当該一定の地域や顧客以外の地域や顧客を対象とした販売を制限するなど,厳格な地域制限又は地域外顧客への受動的販売の制限に該当する場合には,下記(3)又は(4)において述べる考え方に基づき判断される。

(3) 厳格な地域制限

 市場における有力な事業者が流通業者に対し厳格な地域制限を行い,これによって価格維持効果が生じる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定12項(拘束条件付取引))(注7)。
 なお,「価格維持効果が生じる場合」に当たるかどうかについては,前記第1部の3(1)及び(2)イにおいて述べた考え方に基づき判断される。例えば,市場が寡占的であったり,ブランドごとの製品差別化が進んでいて,ブランド間競争が十分に機能しにくい状況の下で,市場における有力な事業者によって厳格な地域制限が行われると,当該ブランドの商品を巡る価格競争が阻害され,価格維持効果が生じることとなる。また,複数の事業者がそれぞれ並行的にこのような制限を行う場合には,一事業者のみが行う場合と比べ市場全体として価格維持効果が生じる可能性が高くなる。

(注7) 新商品のテスト販売や地域土産品の販売に当たり販売地域を限定する場合は,通常,これによって価格維持効果が生じることはなく,違法とはならない。

(4) 地域外顧客への受動的販売の制限

 事業者が流通業者に対し地域外顧客への受動的販売の制限を行い,これによって価格維持効果が生じる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定12項)。
 地域外顧客への受動的販売の制限は,厳格な地域制限と比較して,地域外の顧客からの求めに応じた販売をも制限している分,ブランド内競争を制限する効果が大きい。
 例えば,インターネットを利用した販売において,流通業者のウェブサイトを見た顧客が当該流通業者に注文し,その結果販売につながった場合,これは受動的販売に当たる。メールマガジンを受信するなど,当該流通業者からの情報を継続して受け取ることとした顧客が,当該情報を見て当該流通業者に注文し,その結果販売につながった場合も同様である。このような場合において,事業者が流通業者に対し一定の地域を割り当て,顧客の配送先情報等から当該顧客の住所が地域外であることが判明した場合,当該顧客とのインターネットを利用した取引を停止させることは,地域外顧客への受動的販売の制限に当たり,これによって価格維持効果が生じる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる。

(5) 上記(2),(3)及び(4)の考え方は,事業者が直接の取引先事業者をしてその取引の相手方の(例えばメーカーが卸売業者をして小売業者の)販売地域を制限させる場合にも当てはまる(一般指定12項)。

4 流通業者の取引先に関する制限

(1) 事業者は,流通業者に対しその取引先を特定の事業者に制限し,販売活動を行わせることがある。例えば

[1] 事業者が卸売業者に対して,その販売先である小売業者を特定させ,小売業者が特定の卸売業者としか取引できないようにすること(以下「帳合取引の義務付け」という。)

[2] 事業者が流通業者に対して,商品の横流しをしないよう指示すること(以下「仲間取引の禁止」という。)

[3] 事業者が卸売業者に対して,安売りを行う小売業者への販売を禁止すること

等が挙げられる。

(2) 帳合取引の義務付け

 事業者が流通業者に対し帳合取引の義務付けを行い,これによって価格維持効果が生じる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定12項(拘束条件付取引))。
 帳合取引の義務付けは,卸売業者に対して,取引先として一定の小売業者を割り当て,他の卸売業者の帳合先となっている小売業者から取引の申出があっても,その申出に応じてはならないこととなり,これは,流通業者に対し割り当てられた地域外の顧客の求めに応じた販売を制限するのと同様の行為である。このため,「価格維持効果が生じる場合」に当たるかどうかについては,上記3(4)「地域外顧客への受動的販売の制限」において述べた考え方と同様である。

(3) 仲間取引の禁止

 仲間取引の禁止は,取引の基本となる取引先の選定に制限を課すものであるから,その制限の形態に照らして販売段階での競争制限に結び付く可能性があり,これによって価格維持効果が生じる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定12項)。
 なお,仲間取引の禁止が,下記(4)の安売り業者への販売禁止のために行われる場合には,通常,価格競争を阻害するおそれがあり,原則として不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定12項)。

(4) 安売り業者への販売禁止

 事業者が卸売業者に対して,安売りを行うことを理由(注8)に小売業者へ販売しないようにさせることは,事業者が市場の状況に応じて自己の販売価格を自主的に決定するという事業者の事業活動において最も基本的な事項に関与する行為であるため,前記第1「再販売価格維持行為」において述べた考え方に準じて,通常,価格競争を阻害するおそれがあり,原則として不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定2項(その他の取引拒絶)又は12項)。
 なお,事業者が従来から直接取引している流通業者に対して,安売りを行うことを理由(注8)に出荷停止を行うことも,通常,価格競争を阻害するおそれがあり,原則として不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定2項)。

(注8) 「安売りを行うことを理由」にしているかどうかは,他の流通業者に対する対応,関連する事情等の取引の実態から客観的に判断される。

5 選択的流通

 事業者が自社の商品を取り扱う流通業者に関して一定の基準を設定し,当該基準を満たす流通業者に限定して商品を取り扱わせようとする場合,当該流通業者に対し,自社の商品の取扱いを認めた流通業者以外の流通業者への転売を禁止することがある。「選択的流通」と呼ばれるものであり,前記第1部の3(3)のような競争促進効果を生じる場合があるが,商品を取り扱う流通業者に関して設定される基準が,当該商品の品質の保持,適切な使用の確保等,消費者の利益の観点からそれなりの合理的な理由に基づくものと認められ,かつ,当該商品の取扱いを希望する他の流通業者に対しても同等の基準が適用される場合には,たとえ事業者が選択的流通を採用した結果として,特定の安売り業者等が基準を満たさず,当該商品を取り扱うことができなかったとしても,通常,問題とはならない。

6 小売業者の販売方法に関する制限

(1) 小売業者の販売方法に関する制限として,具体的には,事業者が小売業者に対して,

[1] 商品の説明販売を指示すること

[2] 商品の宅配を指示すること

[3] 商品の品質管理の条件を指示すること

[4] 自社商品専用の販売コーナーや棚場を設けることを指示すること

等が挙げられる。

(2) 事業者が小売業者に対して,販売方法(販売価格,販売地域及び販売先に関するものを除く。)を制限することは,商品の安全性の確保,品質の保持,商標の信用の維持等,当該商品の適切な販売のためのそれなりの合理的な理由が認められ,かつ,他の小売業者に対しても同等の条件が課せられている場合には,それ自体は独占禁止法上問題となるものではない。

(具体例)
[1] 医療機器AのメーカーであるX社が,取引先事業者に対し,自社ブランドの医療機器Aについて,通信販売及び通信販売を行う事業者への販売を禁止すること(具体的な方法として,取引先事業者が,X社の医療機器Aの通信販売を行っている,又は通信販売業者にX社の医療機器Aを販売しているとの情報に接した場合には,当該取引先事業者に対し,通信販売をやめるよう,又は通信販売業者への販売をやめるよう要請し,それでもやめない事業者に対しては,X社の医療機器Aの出荷を停止する。)は,
ア(ア)X社の医療機器Aは,調整が行われないままで販売されると性能の発揮が著しく阻害され,消費者に不利益を与える蓋然性が高いこと
 (イ)X社の医療機器Aの調整は通信販売では行うことができないこと
 (ウ)消費者が販売時の調整を必要としない機器に限定して行う通信販売についてまで禁止するものではなく,必要最小限の制限であること
からすれば,本件取組を行う合理的な理由があると考えられること
イ 全ての取引先事業者について同等の制限が課せられること
ウ 店舗販売を行うX社の取引先事業者の中には,希望小売価格より相当程度低い価格で販売を行う者も存在し,本件が,取引先事業者の販売価格について制限を行うものであるとは考えられないこと
から,X社が取引先事業者の事業活動を不当に制限するものではなく,独占禁止法上問題となるものではない。(平成23年度相談事例集「1 医療機器メーカーによる通信販売の禁止」)

[2] 機械製品AのメーカーであるX社が,小売業者に対して,一般消費者に新商品の機能を説明することを義務付けること(具体的な方法として,店員による説明又は自社が作成した動画の小売業者のショッピングサイトへの掲載を求める。)は,
ア 義務付ける内容が過度なものではなく,新商品の適切な販売のための合理的な理由が認められること
イ 実質的に同等の条件が全ての小売業者に対して課せられていること
から,独占禁止法上問題となるものではない。(平成26年度相談事例集「6 機械製品メーカーによる新商品の機能の説明の義務付け」)

 しかし,事業者が小売業者の販売方法に関する制限を手段として,小売業者の販売価格,競争品の取扱い,販売地域,取引先等についての制限を行っている場合(注9)には,前記第1及び第2の2から4において述べた考え方に従って違法性の有無が判断される(独占禁止法第2条第9項第4号(再販売価格の拘束),一般指定11項(排他条件付取引)又は12項(拘束条件付取引))。

(注9) 例えば,当該制限事項を遵守しない小売業者のうち,安売りを行う小売業者に対してのみ,当該制限事項を遵守しないことを理由に出荷停止等を行う場合には,通常,販売方法の制限を手段として販売価格について制限を行っていると判断される。

(3) また,販売方法の一つである広告・表示の方法について,次のような制限を行うことは,事業者が市場の状況に応じて自己の販売価格を自主的に決定するという事業者の事業活動において最も基本的な事項に関与する行為であるため,前記第1「再販売価格維持行為」において述べた考え方に準じて,通常,価格競争が阻害されるおそれがあり,原則として不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定12項)。

[1] 事業者が小売業者に対して,店頭,チラシ等で表示する価格について制限し,又は価格を明示した広告を行うことを禁止すること

[2] 事業者が自己の取引先である雑誌,新聞等の広告媒体に対して,安売り広告や価格を明示した広告の掲載を拒否させること

(4) 上記(2)及び(3)の考え方は,事業者が直接の取引先事業者をしてその取引の相手方の(例えばメーカーが卸売業者をして小売業者の)販売方法を制限させる場合にも当てはまる(一般指定12項)。

7 抱き合わせ販売

(1) 考え方
 複数の商品を組み合わせることにより,新たな価値を加えて取引の相手方に商品を提供することは,技術革新・販売促進の手法の一つであり,こうした行為それ自体が直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
 しかし,事業者が,ある商品(主たる商品)の供給に併せて他の商品(従たる商品)を購入させることは,当該事業者の主たる商品の市場における地位等によっては,従たる商品の市場における既存の競争者の事業活動を阻害したり,参入障壁を高めたりするような状況等をもたらす可能性がある。

(2) 独占禁止法上問題となる場合

 ある商品(主たる商品)の市場における有力な事業者が,取引の相手方に対し,当該商品の供給に併せて他の商品(従たる商品)を購入させることによって,従たる商品の市場において市場閉鎖効果が生じる場合には(注10),不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定10項(抱き合わせ販売等))。
 なお,「市場閉鎖効果が生じる場合」に当たるかどうかについては,前記第1部の3(1)及び(2)アにおいて述べた考え方に基づき判断される。例えば,抱き合わせ販売を行う事業者の主たる商品の市場シェアが大きいほど,当該行為が長期間にわたるほど,対象とされる相手方の数が多いほど,そうでない場合と比較して,市場閉鎖効果が生じる可能性が高くなる。また,従たる商品の市場における商品差別化が進んでいない場合には,そうでない場合と比較して,当該事業者の従たる商品が購入されることにより競争者の従たる商品が購入されなくなるおそれが高く,市場閉鎖効果が生じる可能性が高くなる。

(具体例)
 X社及びY社はパソコン用ソフトウェアの開発及びライセンスの供与に係る事業を営む者である。X社の表計算ソフト及びY社のワープロソフトは,それぞれ,市場シェア第1位であった。
 X社は,自社と競合するY社のワープロソフトのみがパソコン本体に搭載されて販売されることは,X社のワープロソフトの市場シェアを高める上で重大な障害となるものと危惧し,パソコン製造販売業者に対し,X社の表計算ソフトとワープロソフトを併せてパソコン本体に搭載して出荷する契約を受け入れさせた。これにより,パソコン製造販売業者はX社の表計算ソフトとワープロソフトを併せて搭載したパソコンを発売し,X社のワープロソフトの市場シェアが拡大して市場シェア第1位を占めるに至った。
 このようなX社の行為は,一般指定10項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反する。(平成10年12月14日勧告審決,平成10年(勧)第21号)

(注10) 抱き合わせ販売は,顧客の選択の自由を妨げるおそれがあり,価格,品質,サービスを中心とする能率競争の観点から,競争手段として不当である場合にも,不公正な取引方法に該当し,違法となる。事業者による抱き合わせ販売が競争手段として不当であるか否かは,主たる商品の市場力や従たる商品の特性,抱き合わせの態様のほか,当該行為の対象とされる相手方の数,当該行為の反復,継続性,行為の伝播性等の行為の広がりを総合的に考慮する。

(3) ある商品の供給に併せて購入させる商品が「他の商品」といえるか否かについては,組み合わされた商品がそれぞれ独自性を有し,独立して取引の対象とされているか否かという観点から判断される。具体的には,判断に当たって,それぞれの商品について,需要者が異なるか,内容・機能が異なるか(組み合わされた商品の内容・機能が抱き合わせ前のそれぞれの商品と比べて実質的に変わっているかを含む。),需要者が単品で購入することができるか(組み合わされた商品が通常一つの単位として販売又は使用されているかを含む。)等の点が総合的に考慮される。
 当該商品の供給に併せて他の商品を「購入させること」に当たるか否かは,ある商品の供給を受けるに際し客観的にみて少なからぬ顧客が他の商品の購入を余儀なくされるか否かによって判断される。
 また,ある商品を購入した後に必要となる補完的商品に係る市場(いわゆるアフターマーケット)において特定の商品を購入させる行為も,抱き合わせ販売に含まれる。

第3 リベートの供与

1 考え方

(1) 事業者の取引先事業者に対するリベート(一般的には,仕切価格とは区別されて取引先に制度的に又は個別の取引ごとに支払われる金銭をいう。)の供与の実態をみると,仕切価格の修正としての性格を有するもの,販売促進を目的としたもの等様々である。このように,リベートは,様々な目的のために支払われ,また,価格の一要素として市場の実態に即した価格形成を促進するという側面も有することから,リベートの供与自体が直ちに独占禁止法上問題となるものではない。

(具体例)
 市場における有力な福祉用具メーカーX社が,福祉用具Aを販売するに当たって,インターネット販売業者を対象とせずに,店舗販売業者のみを対象とするリベートを新たに設けること(具体的な方法として,[1]来店した一般消費者に直接適切な商品説明を行うための販売員教育を行うこと,[2]種類ごとに一定の在庫を常時確保することの両方の条件を満たす場合に,当該販売方法を支援するリベートを供与する。当該リベートは,X社の福祉用具Aの販売量によって変動・増減しない固定額で供与される。)は,安値販売を行っているインターネット販売業者についてはリベートを受け取ることができないが,当該リベートは,店舗販売に要する販売コストを支援するためのものであり,インターネット販売業者に対する卸売価格を引き上げるものではなく,その事業活動を制限するものではないことから,独占禁止法上問題となるものではない。(平成25年度相談事例集「4 福祉用具メーカーによる店舗販売業者のみに対するリベートの供与」)

(2) しかし,リベートの供与の方法によっては,取引先事業者の事業活動を制限することとなり,独占禁止法上問題となる場合がある。事業者が供与の基準の不明確なリベートを裁量的に提供する場合,特に,そうした不透明なリベートが取引先事業者のマージンの大きな割合を占める場合には,取引先事業者に対して事業者の販売政策に従わせやすくするという効果を生じ,取引先事業者の事業活動を制限することとなりやすい。このため,事業者においては,リベートの供与の基準を明確にし,これを取引の相手方に示すことが望ましい。

2 独占禁止法上問題となる場合

(1) 取引先事業者の事業活動に対する制限の手段としてのリベート

 取引先事業者に対し,事業者の示した価格で販売しないためにリベートを削減する場合など,リベートを手段として,取引先事業者の販売価格,競争品の取扱い,販売地域,取引先等についての制限が行われる場合には,前記第1及び第2において述べた考え方に従って違法性の有無が判断される(独占禁止法第2条第9項第4号(再販売価格の拘束),一般指定11項(排他条件付取引)又は12項(拘束条件付取引))。
 また,取引先事業者がいくらで販売するか,競争品を取り扱っているかどうか等によってリベートを差別的に供与する行為それ自体も,取引先事業者に対する違法な制限と同様の機能を持つ場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定4項(取引条件等の差別取扱い)以下(2)及び(3)も同様。)。
 なお,いわゆる払込制(事業者が取引先事業者からマージンの全部又は一部を徴収し,これを一定期間保管した後に,当該取引先事業者に払い戻すこと)が,取引先事業者に対する違法な制限の手段となっている場合又は違法な制限と同様の機能を持つ場合も,上記と同様に判断される。

(2) 競争品の取扱制限としての機能を持つリベート

 事業者は,取引先事業者の一定期間における取引額全体に占める自社商品の取引額の割合や,取引先事業者の店舗に展示されている商品全体に占める自社商品の展示の割合(占有率)に応じたリベート(以下「占有率リベート」という。)を供与する場合がある。また,事業者は,例えば,数量リベートを供与するに当たり,一定期間の取引先事業者の仕入高についてランクを設け,ランク別に累進的な供与率を設定する場合がある。このような場合において,リベートの供与が,競争品の取扱制限としての機能を持つことがある。
 このようなリベートの供与が,競争品の取扱制限としての機能を持つものといえるかどうかを判断するに当たっては,リベートの水準,リベートを供与する基準,リベートの累進度,リベートの遡及性等を総合的に考慮して判断することとなる(注11)。

ア 占有率リベート

 占有率リベートの供与が,競争品の取扱制限としての機能を持つこととなる場合は,前記第2の2(1)(取引先事業者に対する自己の競争者との取引や競争品の取扱いに関する制限)において述べた考え方に従って違法性の有無が判断される。
 すなわち,市場における有力な事業者が占有率リベートを供与し,これによって取引先事業者の競争品の取扱いを制限することとなり,その結果,市場閉鎖効果が生じる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定4項,11項又は12項)。

イ 著しく累進的なリベート

 累進的なリベートは,市場の実態に即した価格形成を促進するという側面を有するものであるが,その累進度が著しく高い場合には,自社製品を他社製品よりも優先的に取り扱わせる機能を持つ。
 取引先事業者に対する著しく累進的なリベートの供与が,競争品の取扱制限としての機能を持つこととなる場合は,前記第2の2(1)(取引先事業者に対する自己の競争者との取引や競争品の取扱いに関する制限)において述べた考え方に従って違法性の有無が判断される。
 すなわち,市場における有力な事業者がこのようなリベートを供与し,これによって取引先事業者の競争品の取扱いを制限することとなり,その結果,市場閉鎖効果が生じる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定4項,11項又は12項)。

(注11) 個々の考慮事項のより具体的な考え方は,排除型私的独占ガイドライン第2の3(3)ア~エにおいて明らかにされている。

(3) 帳合取引の義務付けとなるようなリベートを供与する場合

 事業者は,間接の取引先である小売業者に対しても,小売業者の当該事業者の商品の仕入高に応じて,直接に,又は卸売業者を通じてリベートを供与する場合がある。事業者がこのようなリベートを供与する場合において,小売業者に対するリベートの供与額を計算するに当たって,当該事業者の商品の仕入高のうち,特定の卸売業者からの仕入高のみを計算の基礎とする場合には,帳合取引の義務付けとしての機能を持つこととなりやすい。
 このようなリベートの供与が,帳合取引の義務付けとしての機能を持つこととなる場合は,前記第2の4(2)(帳合取引の義務付け)において述べた考え方に従って違法性の有無が判断される。
 すなわち,このような機能を持つリベートの供与によって価格維持効果が生じる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定4項又は12項)。

第2部 取引先の選択

1 事業者は,公正かつ自由な競争を通じ,価格,品質,サービス等の取引条件の優劣に基づいた自主的判断によって取引先の選択を行う。また,事業者は取引先を選択するに当たり,個々の取引における価格,品質,サービス等の取引条件の優劣に加え,供給の安定性,技術開発力,自己の要求への対応の弾力性など購入先の事業者総体としての評価をも併せ考慮する場合がある。事業者が取引先の選択をかかる観点から行い,その結果,事業者間の取引が継続的なものとなっているのであれば,独占禁止法上問題となるものではない。
 しかし,事業者が,例えば,既存の取引関係を維持するために他の事業者との間で相互に既存の取引関係を尊重しこれを優先させることを話し合ったり,他の事業者と共同して競争者を排除するような行為を行えば,顧客の獲得を巡って行われる競争が制限されたり,新たな競争者の参入が妨げられ,市場における競争が制限されることとなる。

2 第2部では,自由かつ自主的に行われるべき事業者による取引先の選択において,他の事業者と共同して競争者の新規参入を阻止し又は競争者を排除するような行為等について,独占禁止法上の考え方を明らかにしている。

第1 顧客獲得競争の制限

1 考え方

 事業者が他の事業者と共同して,又は事業者団体が構成事業者の活動を制限して,既存の取引関係を尊重し相互に顧客の争奪を行わないこととしたり,相互に他の事業者が既に事業活動を行っている市場に進出しないこととする行為が行われることがある。また,このような行為が行われると,その実効性を確保するため,新規参入者等を市場から排除しようとする行為が行われやすくなると考えられる。
 このような行為は,顧客の獲得を巡って行われる競争を制限するものであり,原則として違法となる。

2 事業者が共同して行う顧客獲得競争の制限

 事業者が他の事業者と共同して,例えば次のような行為を行い,これによって事業者間の顧客の争奪が制限され,市場における競争が実質的に制限される場合には,当該行為は不当な取引制限に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反する(注1)。

(1) 取引先の制限

[1] メーカーが共同して,相互に他の事業者の顧客と取引しないことを取り決めること

[2] 流通業者が共同して,相互に他の事業者の販売価格を下回る価格で売り込むことによって顧客を奪取することを制限すること

[3] 流通業者が共同して,他の事業者の顧客と取引した場合には調整金を支払うことを取り決めること

[4] メーカーが共同して,各事業者が顧客を登録し,登録した顧客以外とは取引しないことを取り決めること

[5] 流通業者が共同して,各事業者別にその販売先を制限すること

(2) 市場の分割

[1] メーカーが共同して,各事業者別にその販売地域を制限すること

[2] 流通業者が共同して,相互に他の事業者が既に販売活動を行っている地域で新たに販売活動を行わないことを取り決めること

[3] メーカーが共同して,各事業者別にその製造する商品の規格・品種を制限すること

[4] メーカーが共同して,相互に他の事業者が既に製造している種類の商品を新たに製造しないことを取り決めること

(注1) 明示の決定がなされなくても,事業者間に取引先の制限又は市場の分割に関する暗黙の了解又は共通の意思が形成され,これによって市場における競争が実質的に制限されれば独占禁止法に違反する。以下,第2部において同じ。

3 事業者団体による顧客獲得競争の制限

 事業者団体が,構成事業者の活動について上記2(1)[1]~[5]又は(2)[1]~[4]のような行為を行い,これによって構成事業者間の顧客の争奪が制限され,市場における競争が実質的に制限される場合には,当該行為は独占禁止法第8条第1号の規定に違反する。また,これによって市場における競争が実質的に制限されるまでには至らない場合であっても,このような行為は構成事業者の機能活動を不当に制限するものであり,原則として独占禁止法第8条第4号の規定に違反する。

第2 共同ボイコット

1 考え方

 市場における公正かつ自由な競争の結果,ある事業者が市場から退出することを余儀なくされたり,市場に参入することができなかったとしても独占禁止法上問題となることはない。
 しかし,事業者が競争者や取引先事業者等と共同して又は事業者団体が,新規参入者の市場への参入を妨げたり,既存の事業者を市場から排除しようとする行為は,競争が有効に行われるための前提条件となる事業者の市場への参入の自由を侵害するものであり,原則として違法となる。
 共同ボイコットには,様々な態様のものがあり,それが事業者の市場への参入を阻止し,又は事業者を市場から排除することとなる蓋然性の程度,市場構造等により,競争に対する影響の程度は異なる。共同ボイコットが行われ,行為者の数,市場における地位,商品又は役務の特性等からみて,事業者が市場に参入することが著しく困難となり,又は市場から排除されることとなることによって,市場における競争が実質的に制限される場合には私的独占又は不当な取引制限として違法となる。市場における競争が実質的に制限されるまでには至らない場合であっても,共同ボイコットは一般に公正な競争を阻害するおそれがあり,原則として不公正な取引方法として違法となる。また,事業者団体が共同ボイコットを行う場合にも,事業者団体による競争の実質的制限行為又は競争阻害行為(一定の事業分野における事業者の数を制限する行為,構成事業者の機能活動を不当に制限する行為又は事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにする行為)として原則として違法となる。

2 競争者との共同ボイコット

(1) 競争関係にある事業者が共同して,例えば次のような行為を行い,これによって取引を拒絶される事業者が市場に参入することが著しく困難となり,又は市場から排除されることとなることによって,市場における競争が実質的に制限される場合は,当該行為は私的独占又は不当な取引制限に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反する。

[1] メーカーが共同して,安売りをする流通業者を排除するために,安売り業者に対する商品の供給を拒絶し,又は制限すること

[2] 流通業者が共同して,競争者の新規参入を妨げるために,メーカーをして新規参入者に対する商品の供給を拒絶させ,流通業者は新規参入者に対する商品の供給を拒絶すること

[3] メーカーが共同して,輸入品を排除するために,流通業者が輸入品を取り扱う場合には商品の供給を拒絶する旨通知して,当該流通業者をして輸入品を取り扱わないようにさせること

[4] 完成品メーカーが共同して,競争者の新規参入を妨げるために,原材料メーカーが新規参入者に対し原材料を供給する場合には取引を拒絶する旨通知して,当該原材料メーカーをして新規参入者に対する原材料の供給を拒絶させること

(2) 共同ボイコットによって,例えば,次のような状況となる場合には,市場における競争が実質的に制限されると認められる。

[1] 価格・品質面で優れた商品を製造し,又は販売する事業者が市場に参入することが著しく困難となる場合又は市場から排除されることとなる場合

[2] 革新的な販売方法を採る事業者などが市場に参入することが著しく困難となる場合又は市場から排除されることとなる場合

[3] 総合的事業能力が大きい事業者が市場に参入することが著しく困難となる場合又は市場から排除されることとなる場合

[4] 事業者が競争の活発に行われていない市場に参入することが著しく困難となる場合

[5] 新規参入しようとするどの事業者に対しても行われる共同ボイコットであって,新規参入しようとする事業者が市場に参入することが著しく困難となる場合

(3) 競争関係にある事業者が共同して,上記(1)[1]~[4]のような行為を行うことは,これによって市場における競争が実質的に制限されるまでには至らない場合であっても,原則として不公正な取引方法に該当し,違法となる(独占禁止法第19条違反)(独占禁止法第2条第9項第1号又は一般指定1項(共同の取引拒絶))。

(具体例)
[1] X社ら5社は,レコード制作会社又はその子会社であって,着うたを提供する事業(音楽用コンパクトディスク発売用等に製作された原盤を使用して,原盤に録音された歌声等の楽曲(音源)の一部を携帯電話の着信音として設定できるように配信する事業)を営む者である。そして,X社ら5社は,着うたを提供する業務をA社に委託している。
 X社ら5社は,共同して,A社に着うたの提供業務を委託する者以外の着うたを提供する又は提供しようとする事業者に対し,原盤権の利用許諾を行わないようにすることとし,これを拒絶していた。
 このようなX社ら5社の行為は,一般指定1項第1号に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反する。(平成20年7月24日審判審決,平成17年(判)第11号)(東京高判平成22年1月29日,平成20年(行ケ)第19号,第20号,第35号及び第36号)

[2] X社ら10社は,ぱちんこ機の製造に関する多くの特許権等を所有すると同時に,国内において販売されるぱちんこ機のほとんどを供給する製造販売業者である。X社ら 10社は,その所有する特許権等の管理をY連盟に委託するとともに,これらに係る発明等の実施許諾の意思決定に実質的に関与していた。Y連盟が所有又は管理運営する特許権等は,ぱちんこ機の製造を行う上で重要な権利であり,これらに係る発明等の実施許諾を受けることなくぱちんこ機を製造することは困難な状況にあった。
 X社ら10社及びY連盟は,ぱちんこ機の製造分野(川下市場)への参入を排除する旨の方針に基づき,Y連盟が所有又は管理運営する特許権等の集積を図り,これらに係る発明等の実施許諾に係る市場(川上市場)において,既存のぱちんこ機製造業者以外の者に対しては実施許諾を拒絶するなどにより,参入を希望する事業者がぱちんこ機の製造を開始できないようにした。
 このようなX社ら10社及びY連盟の行為は,ぱちんこ機を製造しようとする者の事業活動を排除するものであり,独占禁止法第2条第5項に規定する私的独占に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反する。(平成9年8月6日勧告審決,平成9年(勧)第5号)

3 取引先事業者等との共同ボイコット

(1) 事業者が取引先事業者等と共同して,例えば次のような行為を行い,これによって取引を拒絶される事業者が市場に参入することが著しく困難となり,又は市場から排除されることとなることによって,市場における競争が実質的に制限される場合には,当該行為は私的独占又は不当な取引制限に該当し(注2),独占禁止法第3条の規定に違反する。

[1] 複数の流通業者と複数のメーカーとが共同して,安売りをする流通業者を排除するために,メーカーは安売り業者に対する商品の供給を拒絶し,又は制限し,流通業者は安売り業者に対し商品を供給するメーカーの商品の取扱いを拒絶すること

[2] メーカーと複数の流通業者とが共同して,輸入品を排除するために,流通業者は輸入品を取り扱わず,メーカーは輸入品を取り扱う流通業者に対する商品の供給を拒絶すること

[3] 複数の流通業者とメーカーとが共同して,流通業者の新規参入を妨げるために,メーカーは新規参入者に対する商品の供給を拒絶し,流通業者は新規参入者に対し商品を供給するメーカーの商品の取扱いを拒絶すること

[4] 複数の原材料メーカーと完成品メーカーとが共同して,輸入原材料を排除するために,完成品メーカーは輸入原材料を購入せず,原材料メーカーは輸入原材料を購入する完成品メーカーに対する原材料の供給を拒絶すること

(注2) 不当な取引制限は,事業者が「他の事業者と共同して…相互にその事業活動を拘束」することを要件としている(独占禁止法第2条第6項)。ここでいう事業活動の拘束は,その内容が行為者(例えば,メーカーと流通業者)全てに同一である必要はなく,行為者のそれぞれの事業活動を制約するものであって,特定の事業者を排除する等共通の目的の達成に向けられたものであれば足りる。
 なお,取引先事業者等との共同ボイコットにより,市場における競争が実質的に制限されると認められる場合の例については,上記2(2)を参照。

(2) 事業者が取引先事業者等と共同して,上記(1)[1]~[4]のような行為を行うことは,これによって市場における競争が実質的に制限されるまでには至らない場合であっても,原則として不公正な取引方法に該当し,違法となる(独占禁止法第2条第9項第1号若しくは一般指定1項(共同の取引拒絶)又は2項(その他の取引拒絶))。

4 事業者団体による共同ボイコット

 事業者団体が,例えば次のような行為を行い,これによって取引を拒絶される事業者等が市場に参入することが著しく困難となり,又は市場から排除されることとなることによって,市場における競争が実質的に制限される場合(注3)には,当該行為は独占禁止法第8条第1号の規定に違反する。また,事業者団体が次のような行為を行うことは,これによって市場における競争が実質的に制限されるまでには至らない場合であっても,原則として独占禁止法第8条第3号,第4号又は第5号(独占禁止法第2条第9項第1号若しくは一般指定1項又は2項)の規定に違反する。

[1] 流通業者を構成事業者とする事業者団体が,輸入品を排除するために,構成事業者が輸入品を取り扱うことを禁止すること(独占禁止法第8条第1号又は第4号)

[2] 流通業者及びメーカーを構成事業者とする事業者団体が,構成事業者であるメーカーをして構成事業者である流通業者にのみ商品を供給し,アウトサイダーには商品を供給しないようにさせること(独占禁止法第8条第1号又は第4号)

[3] 流通業者を構成事業者とする事業者団体が,アウトサイダーを排除するために,構成事業者の取引先であるメーカーに対し,アウトサイダーに対し商品を供給しないよう要請する等によって圧力を加えること(独占禁止法第8条第1号又は第5号)

[4] 流通業者を構成事業者とする事業者団体が,構成事業者の競争者の新規参入を妨げるために,構成事業者の取引先であるメーカーに対し,新規参入者に対し商品を供給しないよう要請する等によって圧力を加えること(独占禁止法第8条第1号又は第5号)

[5] 流通業者を構成事業者とする事業者団体が,事業者団体への新規加入を制限するとともに,構成事業者の取引先であるメーカーをして,アウトサイダーに対する商品の供給を拒絶させること(独占禁止法第8条第1号,第3号又は第5号)

[6] 役務を供給する事業者を構成事業者とする事業者団体が,当該事業者団体に加入しなければ事業を行うことが困難な状況において,事業者の新規加入を制限すること(独占禁止法第8条第1号又は第3号)

(注3) 事業者団体による共同ボイコットにより,市場における競争が実質的に制限されると認められる場合の例については,上記2(2)を参照。

第3 単独の直接取引拒絶

1 考え方

 事業者がどの事業者と取引するかは,基本的には事業者の取引先選択の自由の問題である。事業者が,価格,品質,サービス等の要因を考慮して,独自の判断によって,ある事業者と取引しないこととしても,基本的には独占禁止法上問題となるものではない。
 しかし,事業者が単独で行う取引拒絶であっても,例外的に,独占禁止法上違法な行為の実効を確保するための手段として取引を拒絶する場合には違法となり,また,競争者を市場から排除するなどの独占禁止法上不当な目的を達成するための手段として取引を拒絶する場合には独占禁止法上問題となる(注4)。

(注4) このような行為によって,市場における競争が実質的に制限され,私的独占として違法となる場合の考え方については,排除型私的独占ガイドラインによって,その考え方が明らかにされている。

2 独占禁止法上問題となる場合

 事業者が,独占禁止法上違法な行為の実効を確保するための手段として,例えば次の[1]のような行為を行うことは,不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定2項(その他の取引拒絶))。
 また,市場における有力な事業者(注5)が,競争者を市場から排除するなどの独占禁止法上不当な目的を達成するための手段として,例えば次の[2]~[3]のような行為を行い,これによって取引を拒絶される事業者の通常の事業活動が困難となるおそれがある場合には,当該行為は不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定2項)。

[1] 市場における有力なメーカーが,流通業者に対し,自己の競争者と取引しないようにさせることによって,競争者の取引の機会が減少し,他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなるようにするとともに,その実効性を確保するため,これに従わない流通業者との取引を拒絶すること(一般指定11項(排他条件付取引)にも該当する。)

[2] 市場における有力な原材料メーカーが,自己の供給する原材料の一部の品種を完成品メーカーが自ら製造することを阻止するため,当該完成品メーカーに対し従来供給していた主要な原材料の供給を停止すること

[3] 市場における有力な原材料メーカーが,自己の供給する原材料を用いて完成品を製造する自己と密接な関係にある事業者の競争者を当該完成品の市場から排除するために,当該競争者に対し従来供給していた原材料の供給を停止すること

(注5) 「市場における有力な事業者」の考え方については,前記第1部の3(4)において述べた考え方と同様である。

第3部 総代理店

1 事業者は,国内事業者であると外国事業者であるとを問わず,自己の取り扱う商品を供給するに当たって,ある事業者に国内市場全域を対象とする一手販売権を付与する場合がある。このような一手販売権を付与される事業者は総発売元,輸入総代理店等と呼ばれるが(以下一手販売権を付与する事業者を「供給業者」,付与される事業者を「総代理店」,これらの間の契約を「総代理店契約」という。),総代理店契約は,市場に参入するコストや参入に伴うリスクの軽減を図ることができ,また,総代理店となる事業者の組織的販売活動が期待されるところから,外国事業者が国内市場に参入するための手段として活用されることがある。

2 このように,総代理店契約は一般的に競争促進に寄与し得るものであるが,契約対象商品や契約当事者の市場における地位又は行動いかんによっては,市場における競争を阻害することがある。以下では,総代理店契約という取引形態に着目して,不公正な取引方法に関する規制の観点から,独占禁止法上の考え方を明らかにしている。

3 第3部の第1は総代理店契約の一方が他方に対して課す制限を対象としており,総代理店がマーケティングの主体となって流通業者に対して行う再販売価格維持行為,非価格制限行為等は,第1部の対象となる。
 また,第3部の第2は,総代理店契約の中で規定される場合であると,供給業者又は総代理店の行為として行われる場合であるとを問わないものであり,総代理店が自らの判断で流通業者に対して行う行為も対象となる。

第1 総代理店契約の中で規定される主要な事項

1 独占禁止法上問題となる場合

(1) 再販売価格の制限

 供給業者が契約対象商品について,総代理店の販売価格を制限し,又は総代理店をして契約対象商品をそれから購入して販売する事業者(その事業者から当該商品を購入して販売する事業者を含む。以下「販売業者」という。)の販売価格を制限するようにさせることについては,第1部の第1(再販売価格維持行為)で示した考え方が適用される。

(2) 競争品の取扱いに関する制限

[1] 契約期間中における競争品の取扱制限

 供給業者が契約期間中において,総代理店の競争品の取扱いを制限し,又は総代理店をして販売業者の競争品の取扱いを制限するようにさせることについては,第1部の第2の2(1)(取引先事業者に対する自己の競争者との取引や競争品の取扱いに関する制限)で示した考え方が適用される。ただし,契約期間中において,既に総代理店が取り扱っている競争品の取扱いを制限するものでない場合は,原則として独占禁止法上問題とはならない。

[2] 契約終了後における競争品の取扱制限

 供給業者が契約終了後において総代理店の競争品の取扱いを制限することは,総代理店の事業活動を拘束して,市場への参入を妨げることとなるものであり,原則として独占禁止法上問題となる。ただし,秘密情報(販売ノウハウを含む。)の流用防止その他正当な理由があり,かつ,それに必要な範囲内で制限するものである場合には,原則として独占禁止法上問題とはならない。

(3) 販売地域に関する制限

[1] 供給業者が契約対象商品について,総代理店をして販売業者の国内における販売地域を制限するようにさせることについては,第1部の第2の3(販売地域に関する制限)で示した考え方が適用される。

[2] 供給業者が総代理店に対し許諾地域(総代理店に一手販売権が付与される地域をいう。以下同じ。)外において契約対象商品を自ら積極的に販売しない義務を課し,又は総代理店が供給業者をして許諾地域外における当該供給業者の直接の取引先が契約対象商品を許諾地域において自ら積極的に販売しないようにさせることは,原則として独占禁止法上問題とはならない。

(4) 取引先に関する制限

[1] 供給業者が契約対象商品について,総代理店の販売先を制限し,又は総代理店をして販売業者の取引先を制限するようにさせることについては,第1部の第2の4(流通業者の取引先に関する制限)で示した考え方が適用される。

[2] 供給業者が総代理店に対し契約対象商品を自己又はその指定する者からのみ購入する義務を課すことは,原則として独占禁止法上問題とはならない。

(5) 販売方法に関する制限

 供給業者が契約対象商品について,総代理店の販売方法を制限し,又は総代理店をして販売業者の販売方法を制限するようにさせることについては,第1部の第2の6(小売業者の販売方法に関する制限)で示した考え方が適用される。

2 独占禁止法上問題とはならない場合

 供給業者は,契約対象商品の一手販売権を付与する見返りとして,総代理店に対し,次のような制限・義務を課すことがあるが,これらは原則として独占禁止法上問題とはならない。

[1] 契約対象商品の最低購入数量若しくは金額又は最低販売数量若しくは金額を設定すること

[2] 契約対象商品を販売するため最善の努力をする義務を課すこと

第2 並行輸入の不当阻害

1 考え方

(1) 総代理店契約が輸入品について行われる場合において,第三者が契約当事者間のルートとは別のルートで契約対象商品を輸入することがある(以下これを「並行輸入」といい,商標権を侵害しないいわゆる真正商品の輸入を前提としている。)。
 並行輸入は一般に価格競争を促進する効果を有するものであり,したがって,価格を維持するためにこれを阻害する場合には独占禁止法上問題となる。

(2) 並行輸入品と称する商品が真正商品でなく偽物である場合には,商標権侵害を理由にその販売を差し止めることができる。このほか,次のような場合において,商標の信用を保持するために必要な措置を採ることは,原則として独占禁止法上問題とはならない。

[1] 商品仕様や品質が異なる商標品であるにもかかわらず,虚偽の出所表示をすること等により,一般消費者に総代理店が取り扱う商品と同一であると誤認されるおそれのある場合

[2] 海外で適法に販売された商標品を並行輸入する場合に,その品質が劣化して消費者の健康・安全性を害すること等により,総代理店の取り扱う商品の信用が損なわれることとなる場合

(3) 国内品について並行輸入の不当阻害と同様の行為が行われる場合においても基本的な考え方は上記と同様であるので,以下の考え方が適用される。

2 独占禁止法上問題となる場合

(1) 海外の流通ルートからの真正商品の入手の妨害

 並行輸入業者が海外の流通ルートから真正商品を入手してくることを妨げて,契約対象商品の価格維持を図ろうとすることがある。このような行為は,総代理店が取り扱う商品と並行輸入品との価格競争を減少・消滅させるものであり,総代理店制度が機能するために必要な範囲を超えた行為である。
 したがって,総代理店又は供給業者が以下のような行為をすることは,それが契約対象商品の価格を維持するために行われる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定12項(拘束条件付取引)又は14項(競争者に対する取引妨害))。

[1] 並行輸入業者が供給業者の海外における取引先に購入申込みをした場合に,当該取引先に対し,並行輸入業者への販売を中止するようにさせること

[2] 並行輸入品の製品番号等によりその入手経路を探知し,これを供給業者又はその海外における取引先に通知する等の方法により,当該取引先に対し,並行輸入業者への販売を中止するようにさせること

(2) 販売業者に対する並行輸入品の取扱制限

 並行輸入品を取り扱うか否かは販売業者が自由に決定すべきものである。総代理店が並行輸入品を取り扱わないことを条件として販売業者と取引するなど,販売業者に対し並行輸入品を取り扱わないようにさせることは,それが契約対象商品の価格を維持するために行われる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定12項又は14項)。

(3) 並行輸入品を取り扱う小売業者に対する契約対象商品の販売制限

 卸売業者が総代理店から仕入れた商品をどの小売業者に販売するかは卸売業者が自由に決定すべきものである。卸売業者たる販売業者に対し,並行輸入品を取り扱う小売業者には契約対象商品を販売しないようにさせることは,それが契約対象商品の価格を維持するために行われる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定12項又は14項)。

(4) 並行輸入品を偽物扱いすることによる販売妨害

 商標権者は,偽物の販売に対しては商標権侵害を理由として,その販売の差止めを求めることができる。
 しかし,並行輸入品を取り扱う事業者に対し,十分な根拠なしに当該商品を偽物扱いし,商標権の侵害であると称してその販売の中止を求めることは(注1),それが契約対象商品の価格を維持するために行われる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定14項)。

(注1) このような行為が行われると,当該商品が真正商品であり,並行輸入業者がその旨を証明できるときであっても,当該小売業者は,訴えられること自体が信用を失墜するおそれがあるとして並行輸入品の取扱いを避ける要因となる。

 なお,並行輸入品を偽物扱いすることと同様に並行輸入品の販売妨害効果が生じるとして独占禁止法上の問題が指摘されたものとして,次の事例がある。

(具体例)
 X社は,A国所在の医療機器メーカーY社が製造する医療機器及び同機器で使用する消耗品の輸入総代理店である。X社が,自社の取り扱う消耗品について,並行輸入品の品質を疑問視するユーザーからの要望もあって,正規輸入品と並行輸入品とを区別するために,当該消耗品に「X社検査済み」のシールを貼ること及び「このボトルの製品はX社の品質管理試験を通ったものであることを証明します。X社の品質管理試験を経ない製品によるデータや機器の責任は負いかねますのでご留意願います。」というシールを貼ることは,並行輸入品を偽物扱いするものではないが,
[1] 当該消耗品の品質検査や品質管理試験は,メーカーであるY社自身も既に行っているものであり,X社が実施しているのは,消耗品の効能についての抜取り検査程度にとどまるため,独自の品質管理等を行っているかのような印象を与える表示を行うことは,ユーザーに対し,並行輸入品は,品質保証がなされていない旨の誤解を生ぜしめるおそれもあること
[2] メーカーであるY社自身が品質管理を行っている真正の並行輸入品であっても,流通過程で並行輸入品に生じた欠陥が原因で本体装置に異常が生じた場合には,X社は保証の責任を負わないのであるから,X社の行為に正当な理由があるとはいえず,むしろ当該シールの貼付が並行輸入品の取引を妨害する手段として用いられるおそれも否定できないこと
から,並行輸入品を偽物扱いすることと同様,販売妨害効果を生じると考えられ,並行輸入品の取引を妨害する手段として行われる可能性もあるため,独占禁止法上問題となる。(不公正な取引方法に関する相談事例集(平成3年7月~平成7年3月)「11 並行輸入された消耗品を使用した場合に本体装置の性能を保証しない旨の文書の作成等」)

(5) 並行輸入品の買占め

 小売業者が並行輸入品の販売をしようとすると,総代理店が当該小売業者の店頭に出向いてこれを買い占めてしまい,これによって並行輸入品の取引が妨げられることがあるが(注2),このような行為が契約対象商品の価格を維持するために行われる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定14項)。

(注2) 小売業者としては,例えば,一般消費者向けに広告しているのに総代理店に買い占められると,その購入を目的に来店した消費者からおとり広告ではないかとのクレームが付き,次の販売についての信用を失うことになる場合がある。また,小売業者にとって並行輸入品を販売しないようにとの心理的圧迫となり,この取扱いを避ける要因となる。

(6) 並行輸入品の修理等の拒否

 総代理店は自己の供給する数量に対応して修理体制を整えたり,補修部品を在庫するのが通常であるから,並行輸入品の修理に応じることができず,また,その修理に必要な補修部品を供給できない場合もある。したがって,例えば,総代理店が修理に対応できない客観的事情がある場合に並行輸入品の修理を拒否したり,自己が取り扱う商品と並行輸入品との間で修理等の条件に差異を設けても,そのこと自体が独占禁止法上問題となるものではない。
 しかし,総代理店若しくは販売業者以外の者では並行輸入品の修理が著しく困難であり,又はこれら以外の者から修理に必要な補修部品を入手することが著しく困難である場合において,自己の取扱商品でないことのみを理由に修理若しくは補修部品の供給を拒否し,又は販売業者に修理若しくは補修部品の供給を拒否するようにさせることは,それらが契約対象商品の価格を維持するために行われる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定14項)。

(7) 並行輸入品の広告宣伝活動の妨害

 並行輸入品の広告宣伝活動の態様によっては商標権を侵害したり,また,広告宣伝の類似性などから総代理店の営業との間に混同が生じて不正競争防止法に違反することがある。このような場合には当該広告宣伝活動の中止を求めることができる。
 しかし,このような事由がないのに,総代理店がその取引先である雑誌,新聞等の広告媒体に対して,並行輸入品の広告を掲載しないようにさせるなど,並行輸入品の広告宣伝活動を妨害することは,それが契約対象商品の価格を維持するために行われる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定12項又は14項)。

(付) 親子会社・兄弟会社間の取引

 事業者(親会社)が他の事業者(子会社)の株式を所有している場合において,親子会社間の取引又は同一の親会社が株式を所有している子会社(以下「兄弟会社」という。)間の取引が不公正な取引方法による規制の対象となるかどうかという点については,次のとおりである。

1 親会社が株式の100%を所有している子会社の場合には,通常,親子会社間の取引又は兄弟会社間の取引は実質的に同一企業内の行為に準ずるものと認められ,これらの取引は,原則として不公正な取引方法による規制を受けない。

2 親会社の株式所有比率が100%に満たない子会社(原則として株式所有比率が50%超)の場合についても,親子会社間の取引又は兄弟会社間の取引が実質的に同一企業内の行為に準ずるものと認められるときには,これらの取引は,原則として不公正な取引方法による規制を受けない。

3 親子会社間の取引又は兄弟会社間の取引が実質的に同一企業内の行為に準ずるものと認められる場合において,例えば,子会社が取引先事業者の販売価格を拘束していることが親子会社間の契約又は親会社の指示により行われている等,親会社が子会社の取引先である第三者の事業活動を制限する場合には,親会社の行為は不公正な取引方法による規制の対象となる。

4 上記2及び3において,親子会社間又は兄弟会社間の取引が実質的に同一企業内の行為に準ずるものと認められるかどうかは,

[1] 親会社による子会社の株式所有の比率

[2] 親会社からの子会社に対する役員派遣の状況

[3] 子会社の財務や営業方針に対する親会社の関与の状況

[4] 親子会社間・兄弟会社間の取引関係(子会社の取引額に占める親会社・兄弟会社との取引の割合等)

等を個別具体的な事案に即して,総合的に判断する。
 なお,親会社(又は子会社)が子会社(又は兄弟会社)以外の取引先事業者に対しても同様の制限を課している場合には,通常は,子会社(又は兄弟会社)に対しても一取引先事業者として制限を課していると認められ,原則として不公正な取引方法による規制の対象となる。

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