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(平成19年度:事例1)(株)日立製作所とGeneral Electric 社による原子力事業の統合

(平成19年度:事例1)(株)日立製作所とGeneral Electric 社による原子力事業の統合

第1 本件の概要

 本件は,株式会社日立製作所(以下「日立製作所」という。)とGeneral Electric社(以下「GE社」という。)が世界レベルで原子力関連の事業部門の統合を行うこととしており,このうち日本については,日立製作所が新たに設立した会社に自社の原子力関連の事業部門の吸収分割を行い,GE社が当該会社に対し出資を行うことを計画したものである。
 関係法条は,独占禁止法第10条及び第15条の2である。

第2 一定の取引分野

1 製品概要

 原子炉を制御するための冷却材及び減速材に軽水(普通の水)を使用する原子炉を「軽水炉」といい,さらに,冷却方式の違いにより「沸騰水型」と「加圧水型」に大別される。原子炉内で冷却水が沸騰して生じた蒸気が直接タービンに供給される方式の原子炉を沸騰水型といい,原子炉内を循環する加圧された冷却水(一次冷却材)の熱が蒸気発生器を介して二次冷却材に伝えられ,二次冷却系の冷却水が沸騰して生じた蒸気がタービンに供給される方式の原子炉を加圧水型という。

2 当事会社の事業内容

 当事会社は,沸騰水型軽水炉(以下「沸騰水型」という。)を設置する原子力発電所の設計・建設事業(以下「プラント供給事業」という。)及び保守サービス事業を行っているが,加圧水型軽水炉(以下「加圧水型」という。)を設置する原子力発電所については,いずれの事業も行っていない。
 また,原子力発電所への燃料供給事業については,平成13年に日立製作所,GE社及び競争事業者の3社によってGlobal Nuclear Fuel 社(以下「GNF社」という。)を設立して事業統合しており,GNF社を通じて沸騰水型を設置する原子力発電所の燃料供給事業を世界的に営んでいるところ,我が国でも,GNF社の日本法人を通じて,その製品が販売されている。

3 一定の取引分野の画定

 原子炉には,沸騰水型と加圧水型が存在するが,原子炉としての機能には大きな差はないものの, 設計が大きく異なり,仮に異なる炉型を導入することとした場合には多大な負担が伴うことから,既に採用炉型を決定している国内の一般電力事業者にとって,他方の炉型を選択することは現実的でなく,沸騰水型,加圧水型それぞれのプラント供給事業の間には代替性はない。また,保守サービスについても,沸騰水型と加圧水型とでは,製品仕様,技術等が異なるため,代替性はない。このため,沸騰水型プラント供給事業及び保守サービス事業について商品の範囲を画定した。
 また,沸騰水型プラント供給事業及び保守サービス事業については,各事業者は全国を事業地域としている状況にあり,製品特性等からみて特段の事情も認められないことから,地理的範囲は全国で画定した。

第3 本件企業結合が競争に与える影響の検討

1 沸騰水型のプラント供給に係る発注先の選定

 沸騰水型プラントの需要者は,沸騰水型を採用している電力会社等である。
 需要者は, 沸騰水型プラントの発注先の選定に当たっては,国内の拠点が整備されており,稼動後の保守サービスの適切な供給が期待できる事業者を優先しており,その結果,主に国内事業者に発注している。また,沸騰水型プラントにおける過去の受注実績についてみると,国内事業者が単独でプラント供給を行うことが可能となった昭和50年代以降,一部の例外的なケースを除けば,国内事業者だけで受注している。

2 沸騰水型の保守サービスに係る発注先の選定

 沸騰水型を採用している電力会社等の需要者は,保守サービスの発注先の選定について,原則として,安全性の観点から,当該プラントを供給した事業者に発注しているが,一定の程度の保守業務であれば,需要者自らが行っている。しかし,GE社が供給した沸騰水型プラントに係る保守サービスについては,対応の迅速性の観点から,主に国内事業者に発注している。ただし,GE社が保有している新しい技術やノ ウハウを有している技術が求められる場合については,GE社に発注している。

第4 独占禁止法上の評価

1 沸騰水型プラント供給事業

 当事会社のうち,日立製作所は国内において,沸騰水型プラント供給事業を行っている。他方,GE社は,現在,国内では沸騰水型プラント供給事業を行っていないが,海外市場では,当該事業を行っていることから,国内の当該事業において潜在的な競争事業者の立場にある。
 しかし,GE社は,既に国内事業者(日立製作所及び競争事業者)に沸騰水型プラントに係る技術を移転しているため,国内事業者との間には技術差はなく,需要者は,前記のとおり国内の拠点が整備されており,稼動後の保守サービスの適切な供給が期待できる事業者を優先しており,その結果,主に国内事業者に発注していることから,潜在的競争事業者としてのGE社の競争圧力は非常に小さく,本件統合が競争に及ぼす影響は少ないと考えられる。
 したがって,当事会社の単独行動及び当事会社と競争事業者の協調的行動により,沸騰水型プラント供給事業における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

2 沸騰水型の保守サービス事業

 需要者は,基本的には当該プラントを納入した事業者に保守サービスを発注しているが,対応の迅速性という観点から,国内事業者を優先しているために,GE社が供給した沸騰水型プラントに係る保守サービスについては,主に国内事業者が受注している。
 また,GE社は,技術面で優位にある保守サービス事業を受注しているものの,そうした分野は一部に限られていることから,国内事業者と競合し得る分野におけるGE社の潜在的競争圧力も非常に小さく,本件統合が競争に及ぼす影響は少ないと考えられる。
 したがって,当事会社の単独行動及び当事会社と競争事業者の協調的行動により,沸騰水型の保守サービス事業における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

第5 結論

 以上の状況から,本件行為により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

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