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(平成21年度:事例3)三井金属鉱業(株)と住友金属鉱山(株)による伸銅品事業の統合

(平成21年度:事例3)三井金属鉱業(株)と住友金属鉱山(株)による伸銅品事業の統合

第1 本件の概要

 本件は,三井金属鉱業株式会社(以下「三井金属」という。)が,その営む伸銅品事業を,住友金属鉱山株式会社(以下「住友鉱山」という。)の子会社で同業を営む住友金属鉱山伸銅株式会社に統合するものである。関係法条は独占禁止法第15条の2(吸収分割)である。

第2 一定の取引分野

 本件行為により,当事会社は伸銅品事業を営むことを目的として,同業を営む会社に共同出資することとなり,当事会社間には共同出資会社(以下「本件共同出資会社」という。)を通じた結合関係が形成されることとなることから,伸銅品について,本件行為による競争上の影響が生じるものと考えられる。
 一方,当事会社は,統合対象である伸銅品に限らず,多くの商品について事業上競合しているが,電気銅(電解精製等により銅成分99.99%以上に精製した銅製品をいう。以下同じ。)以外については,伸銅品との関わりが薄いことから,本件行為による競争上の影響はないものと考えられる。
 しかしながら,電気銅(注1)については,電気銅が伸銅品にとって不可欠の原材料であること,及び,電気銅の約40%は伸銅品に使用され,電気銅メーカーにとって伸銅品メーカーは重要な顧客となっていることから,電気銅と伸銅品は密接に関連する商品であると認められる。
 したがって,本件行為により,当事会社間で電気銅に係る情報が共有化されることで,電気銅について,競争上の影響が生じるものと考えられるため,伸銅品だけでなく,電気銅についても独占禁止法上の検討を行った。
地理的範囲については,いずれの商品についても,物流面による制約はなく,全国のユーザーに対して販売されていることから,「日本全国」を地理的範囲として画定した。
(注1)三井金属は同社が約34%出資するパンパシフィック・カッパー株式会社(以下「PPC」という。)において,また,住友鉱山は自ら,それぞれ電気銅事業を営んでいる。

1 伸銅品

 伸銅品には様々な形状があるところ,住友鉱山は条(コイル状に巻かれた形状の製品で,厚さ0.1mm以上3.0mm以下のものをいう。以下同じ。)のみを製造販売しているが,三井金属は条,板,棒及び線を製造販売している。そして,形状ごとに製造方法が異なり,また,ユーザーは,加工目的に応じて形状を選択しており,異なる形状の伸銅品間には代替性は認められないため,当事会社間で競合している「条」の伸銅品について以下検討する。

(1)純銅条

 銅の含有率が99.90%以上のものを純銅といい,純銅条には,タフピッチ銅条,りん脱酸銅条及び無酸素銅条の3種類がある。3種類の純銅条は,それぞれ成分及び特性が異なることから,需要の代替性は認められないものの,いずれも原材料として調達すべき電気銅の仕様が異なるだけであり,純銅条の製造工程はほとんど同様である。多くのメーカーは,これら3種類の純銅条をともに製造販売していることからも,これら3種類の純銅条間には供給の代替性があるものと考えられる。
 したがって,「純銅条」全体を商品範囲として画定した。

(2)黄銅条

 銅に亜鉛を加えた合金を黄銅といい,黄銅条には,丹銅条1種~4種,黄銅条1種~3種等10種類以上の種類があるところ,これらの各種黄銅条は,純銅条と同様,それぞれ成分,特性が異なり,ユーザーはそれぞれの用途に応じてこれらの黄銅条を使い分けていることから,各種黄銅条の間に需要の代替性はないものと考えられる。
 一方,黄銅条1種及び2種は同一の製造設備で製造することが可能であるのに対して,黄銅条3種及び丹銅条1種~4種については,必ずしも同一の製造設備で製造することはできず,必要とされる製造ノウハウ等も異なる。
 したがって,「黄銅条1種及び2種」,「黄銅条3種」及び「丹銅条1種~4種」を,それぞれ商品範囲として画定した。

(3)特殊銅合金条

 微量の金属を含有した特殊銅合金条については,それぞれの特殊銅合金条ごとにユーザーが用途に応じて使い分けていることから,各種特殊銅合金条の間に需要の代替性は認められない。また,それぞれの特殊銅合金条の種類ごとに含有金属が異なり,焼鈍条件等製造技術も異なることから,供給の代替性も認められない。
 したがって,各種特殊銅合金条の間には代替性が認められないため,当事会社間で競合している「すず入り銅合金条」を商品範囲として画定した。

2 電気銅

 国内で販売されている電気銅は,いずれもLME(ロンドン金属取引所)規格を満たす高純度の電気銅であるが,電気銅の販売形態としては,地金のまま販売される電気銅地金と,電気銅メーカーにおいて一次加工を行って型銅(地金を溶解して鋳型に流し込んだ鋳塊をいう。以下同じ。)として販売される電気銅型銅がある。
 電気銅のユーザーは,電気銅の使用用途や自社の設備・製造工程等に応じて,両者を使い分けており,電気銅地金と電気銅型銅との間の需要の代替性は低いと考えられる。一方,電気銅メーカーが地金を電気銅型銅に一次加工するには電気銅型銅鋳造設備一式が必要であることから,供給の代替性も低いと考えられる。
 したがって,電気銅地金と電気銅型銅の間には,代替性が認められないため,当事会社間で競合している「電気銅地金」を商品範囲として画定した。

第3 本件行為が競争に与える影響

1 伸銅品

 伸銅品については,純銅条,黄銅条1種及び2種,黄銅条3種,丹銅条1~4種並びにすず入り銅合金条の5商品いずれも,本件行為後のHHIの水準及び本件行為によるHHIの増分が水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当することから,本件行為により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

2 電気銅地金

(1)市場シェア

 平成19年度における電気銅地金の国内市場規模は約1兆円である。
 本件行為により,当事会社の合算市場シェア・順位は約55%・第1位となる。また,本件行為後のHHIは約3,500,HHIの増分は約1,400であり,水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

本件の概要図

(2)競争事業者の状況

 市場シェアが10%を超える有力な競争事業者が複数存在する。

(3)輸入

 日本市場における輸入品のシェアは10%未満で推移している。海外メーカーの電気銅地金と国内メーカーの電気銅地金との間には最終的な調達価格に差がないところ,ユーザーは,安定調達を優先して,輸送時間が掛かる海外メーカーよりも国内メーカーから購入しており,今後もこうしたユーザーの調達傾向に大きな変化があるとは考えにくく,輸入圧力は弱いものと認められる。

(4)参入

 電気銅地金市場への新規参入に当たっては数百億円規模の巨額の投資が必要とされることから参入は容易ではなく,参入圧力は存在しないものと認められる。実際,過去40年間新規参入はない。

(5)隣接市場からの競争圧力

 用途によっては,電気銅地金が軽量のアルミニウムや大容量通信が可能な光ファイバー等に代替されるケースも増えているものの,銅には他の素材に比べて電気伝導率が高く,軟かく加工が容易である等の固有のメリットがあることから,必ずしもすべての用途において他の商品に代替されるわけではなく,隣接市場からの競争圧力は弱いものと認められる。

(6)需要者からの競争圧力

 電気銅地金のユーザー(電線メーカー及び伸銅品メーカー並びにその顧客である電気機器メーカー及び自動車部品メーカー等)は大企業であるものの,過去の価格交渉の状況によれば,ユーザーの価格交渉力は必ずしも大きくないとみられる。
 したがって,需要者からの競争圧力は弱いものと認められる。

(7)独占禁止法上の評価

ア 競争上の懸念
 上記(2)から(6)までの状況にかんがみれば,本件行為による当事会社間における電気銅地金に関する情報の共有化により,当事会社の単独行動又は当事会社と他の競争事業者との協調的行動によって,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるおそれがある。

イ 問題解消措置
 上記アの競争上の懸念を解消するため,当事会社から問題解消措置の申出があった。

(ア) 内容
[1] 三井金属及び本件共同出資会社は,本件行為により,当事会社間で電気銅地金に関する情報が共有されることを防ぐため,情報遮断措置の設計,実行及び監視を責任を持って行う体制を構築すること

[2] 三井金属及び本件共同出資会社は,電気銅に係る秘密情報(注2)(電気銅の研究,開発,製造,販売及びマーケティングに係る非公知の情報をいう。以下同じ。)に接する必要性のある者(以下「アクセス者」という。)がそれ以外の者に対して電気銅に係る秘密情報を開示又は漏洩すること及び目的外に使用することを禁止するとともに,アクセス者以外の者による電気銅に係る秘密情報へのアクセスを禁止し,パスワード管理,施錠管理等により,アクセス者以外の者によるアクセスを防止すること

[3] 当事会社は,上記[2]に違反した者に対する懲戒事項を設けること

[4] 当事会社は,PPCと本件共同出資会社との間で,一方の会社の役員である者(過去に役員であった者を含む。)を他方の会社の役員に選任しないこと及び一方の会社のアクセス者のうち電気銅に係る秘密情報を知得した者は,他方に出向又は転籍させないこと(注3)

(注2)三井金属においては,PPCにおいて営む電気銅事業に係る秘密情報を指し,本件共同出資会社においては,住友鉱山において営む電気銅事業に係る秘密情報を指す。

(注3)過去に一方の会社のアクセス者であった者については,原則として,他方の会社に出向又は転籍させないこととし,やむを得ず出向又は転籍させる必要がある場合には,電気銅に係る秘密情報を知得した最後の日から起算して5年を経過した日以降に,出向又は転籍させることとしている。

(イ) 評価
 本件行為における競争上の懸念は,本件行為によって当事会社間で電気銅地金に関する情報が共有化されることである。このような情報の共有化を防ぐためには,いずれかの当事会社の電気銅事業と伸銅品事業との間で情報遮断を徹底し,両事業の間の人的関係を制限することが必要である。
 したがって,当事会社が申し出た問題解消措置が確実に履行されれば,上記懸念は払拭されるものと評価できる。

ウ 独占禁止法上の評価
 当事会社が申し出た問題解消措置が確実に実施された場合には,本件行為による当事会社間の電気銅地金に関する情報の共有化により,当事会社の単独行動又は当事会社と他の競争事業者との協調的行動によって,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

第4 結論

 以上の状況から,本件行為により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

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