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(平成21年度:事例7)パナソニック(株)による三洋電機(株)の株式取得

(平成21年度:事例7)パナソニック(株)による三洋電機(株)の株式取得

第1 本件の概要

 本件は,電気機器等の製造販売業を営むパナソニック株式会社(以下「パナソニック」という。)が,同業を営む三洋電機株式会社(以下「三洋」という。)が発行する株式に係る議決権の過半数を取得し,子会社とするものである。関係法条は独占禁止法第10条である。

第2 一定の取引分野

 当事会社間で競合する87品目のうち,市場規模が大きい,競争に及ぼす影響が大きいなどと考えられる品目は,円筒形二酸化マンガンリチウム電池(住宅用火災警報器用),リチウムイオン二次電池(民生用)及びニッケル水素電池(自動車用)である。

1 円筒形二酸化マンガンリチウム電池(住宅用火災警報器用)

(1)商品範囲

 円筒形二酸化マンガンリチウム電池は,正極材に二酸化マンガン,負極材にリチウムを使用した高容量の一次電池(充電できない使い切りタイプの電池)であり,住宅用火災警報器の電源のほか,ガスメーターの電源やフィルムカメラの主電源及びストロボ電源として使用されている。これらの用途に応じて,電池の内部の処方が異なり,放電特性が大きく異なる上,品質や製造技術も異なる。
 したがって,「円筒形二酸化マンガンリチウム電池(住宅用火災警報器用)」を商品範囲として画定した。

(2)地理的範囲

 円筒形二酸化マンガンリチウム電池(住宅用火災警報器用)は,日本全域で販売されており,価格も地域によって異ならない。また,海外で使用される円筒形二酸化マンガンリチウム電池(住宅用火災警報器用)については,その電流の量が国内で使用される住宅用火災警報器に必要な量に足りないため,使用する機器自体の設計を変更しない限り海外の電池を使用することはできない。
 したがって,「日本全国」を地理的範囲として画定した。

2 リチウムイオン二次電池(民生用)

(1)商品範囲

 リチウムイオン二次電池は,電極材料にリチウム金属酸化物(コバルト酸リチウム,ニッケル酸リチウム等)を使用し,充電して何度も使うことのできる二次電池である。携帯電話やノートパソコンに用いられる民生用のほか,電気自動車の駆動用として用いられる自動車用が存在する。
 リチウムイオン二次電池が使用される機器等は多種多様であるが,いずれもその用途としては当該機器等を起動させるための主電源である点で共通である。また,リチウムイオン二次電池の最終の利用形態は,保護回路が組み込まれた電池パックである。
 したがって,電池パックと合わせて,「リチウムイオン二次電池(民生用)」を商品範囲として画定した。

(2)地理的範囲

 リチウムイオン二次電池の特性,性能及び品質に関しては,電池メーカー又は電池メーカーの国籍による差がみられ,また,各国によって安全基準が異なることから,「日本全国」を地理的範囲として画定した。

3 ニッケル水素電池(自動車用)

(1)商品範囲

 ニッケル水素電池(自動車用)は,ハイブリッドカーなど自動車の駆動用の電源として使用されており,ノートパソコンや携帯電話器などの民生分野で使用されるニッケル水素電池よりも,パワー密度やエネルギー密度などにおいて高いレベルのものが求められ,民生用機器に用いられるニッケル水素電池とは代替性が認められない。
 また,ニッケル水素電池(自動車用)は,車両に搭載するシステム全体として技術開発する必要があることから,各社の製品に適合する形の電池パックで取引が行われている。
 したがって,電池パックと合わせて,「ニッケル水素電池(自動車用)」を商品範囲として画定した。

(2)地理的範囲

 各国の自動車メーカーは,電池メーカーと共同開発を行うに当たり,細かい技術的な議論や,情報交換などを重視して,自国の電池メーカーを研究開発のパートナーとする傾向がある。その後,実際に車両の量産化が始まると,自動車メーカーは,研究開発のパートナーである自国の電池メーカーから電池を調達することとなることから,「日本全国」を地理的範囲として画定した。

第3 本件行為が競争に与える影響

1 円筒形二酸化マンガンリチウム電池(住宅用火災警報器用)

(1)市場シェア

 平成19年度における円筒形二酸化マンガンリチウム電池の国内市場規模は約50億円である。
 本件行為により,当事会社の合算市場シェア・順位は約100%・第1位となる。また,本件行為後のHHIは約10,000,HHIの増分は約4,000であり,水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

本件の概要図

(2)競争事業者の状況

 市場シェアが10%を超える有力な競争事業者は存在しない。

(3)輸入

 現状において,日本市場に輸入品はほとんどなく,輸入圧力は弱いものと認められる。

(4)参入

 参入するためには,ユーザー(住宅用火災警報器メーカー)との間における性能評価及び価格交渉,受注並びに納入に期間を要するほか,ユーザーから信用を得るための実績を築くためには更に期間を要することから,参入圧力は存在しないものと認められる。

(5)需要者からの競争圧力

 市場における事業者は当事会社を含めた3社しかおらず,ユーザーにとってメーカーを容易に変更できる状況にはないことから,需要者からの競争圧力は存在しないものと認められる。

(6)独占禁止法上の評価

ア 競争上の懸念
 上記(2)から(5)までの状況にかんがみれば,本件行為により,当事会社の単独行動又は当事会社と他の競争事業者との協調的行動によって,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるおそれがある。

イ 問題解消措置
 上記アの競争上の懸念を解消するため,当事会社から問題解消措置の申出があった。

(ア)内容
 三洋が国内向けに出荷している円筒形二酸化マンガンリチウム電池(住宅用火災警報器用)の製造を行っている製造設備である,三洋の鳥取工場の当該電池製造設備,人員,取引先との契約等を大手電機メーカーの子会社で電池製造販売業を営む他の事業者に譲渡する。平成22年3月末までに当該譲渡に係る契約を締結し,当該契約締結後3か月以内に譲渡を実行する。

(イ)評価
 当事会社から譲受会社に対して製造ライン及びそれに付随する商権が譲渡されることから,譲受会社が主体的に円筒形二酸化マンガンリチウム電池(住宅用火災警報器用)の事業を行うことができるものと考えられる。
したがって,当事会社が申し出た問題解消措置が確実に履行されれば,譲受会社は,有力な競争事業者となり得るものと評価できる。

ウ 独占禁止法上の評価
 当事会社が申し出た問題解消措置が確実に実施された場合には,本件行為により,当事会社の単独行動又は当事会社と他の競争事業者との協調的行動によって,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

2 リチウムイオン二次電池(民生用)

(1)市場シェア

 平成19年度におけるリチウムイオン二次電池の国内市場規模は約940億円である。
 本件行為により,当事会社の合算市場シェア・順位は約70%・第1位となる。また,本件行為後のHHIは約5,300,HHIの増分は約800であり,水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

本件の概要図

(2)競争事業者の状況

 市場シェアが10%を超える有力な競争事業者が存在する。また,国内全体での生産設備の稼働率に余裕があるほか,競争事業者による生産能力の増強も行われていると考えられる。
 したがって,競争事業者の供給余力が十分存在すると認められる。

(3)輸入

 韓国及び中国からの輸入があり,これらの輸入品を評価するユーザーも多数存在する。特に,韓国メーカーの製品は,我が国のメーカーと比して価格や品質に差がなく,今後,その輸入が増加していくものと考えられる。
 したがって,輸入圧力が一定程度存在するものと認められる。

(4)参入

 参入するために必要な,ユーザー(ノートパソコンメーカー,携帯電話メーカー等)との間における性能評価及び価格交渉,受注並びに納入の期間は,比較的短い。
 また,近年,大手電子部品メーカーを含む複数の事業者が新規参入しており,今後,供給量が増加するものと考えられる。
 したがって,参入圧力が一定程度存在するものと認められる。

(5)需要者からの競争圧力

 ユーザーである携帯電話,ノートパソコン等のメーカー間の競争が活発であることを反映して,リチウムイオン二次電池(民生用)の価格も下落しており,需要者からの競争圧力が存在するものと認められる。

(6)独占禁止法上の評価

 上記(2)から(5)までの状況にかんがみれば,本件行為により,当事会社の単独行動又は当事会社と他の競争事業者との協調的行動によって,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

3 ニッケル水素電池(自動車用)

(1)市場シェア

 平成19年度におけるニッケル水素電池(自動車用)の国内市場規模は約580億円である。
 本件行為により,当事会社の合算市場シェア・順位は約100%・第1位となる。また,本件行為後のHHIは約10,000,HHIの増分は約200であり,水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

本件の概要図

 (注)パナソニックEVエナジー株式会社は,大手自動車メーカーが60%,パナソニックが40%出資している。

(2)隣接市場からの競争圧力

 ニッケル水素電池(自動車用)の技術革新は実質的に終了しており,現在,電池メーカー各社は,リチウムイオン二次電池(自動車用)の研究開発に注力している。リチウムイオン二次電池(自動車用)は,ニッケル水素電池(自動車用)に比べ,パワー密度や充電効率に優れている,メモリー効果がない,高効率である,耐久性に優れているなどの利点がある。
 その結果,リチウムイオン二次電池は,これまでは,安全性の面から自動車用電池として採用されなかったが,近年,自動車メーカーと電池メーカーの共同研究などにより,リチウムイオン二次電池(自動車用)の安全性が確立しつつあり,当事会社以外にも,自動車メーカーと電池メーカーとの合弁で設立された有力な競争事業者が多数存在する。
 今後,各自動車メーカーから,順次,リチウムイオン二次電池(自動車用)を搭載した電気自動車等の発売も予定されており,こうしたリチウムイオン二次電池(自動車用)の実用化及び量産化の動きに伴い,今後,ニッケル水素電池(自動車用)からリチウムイオン二次電池(自動車用)への代替が急速に進むと考えられる。
 したがって,リチウムイオン二次電池(自動車用)は,ニッケル水素電池の市場における当事会社の価格引上げに対する牽制力となっており,隣接市場からの競争圧力が存在すると認められる。

(3)需要者からの競争圧力

 ユーザー(自動車メーカー)間の競争は活発であり,過去の価格交渉の状況によれば,ユーザーからメーカーへの価格要請は厳しく,需要者からの競争圧力が存在すると認められる。

(4)独占禁止法上の評価

 上記(2)及び(3)の状況にかんがみれば,本件行為により,当事会社の単独行動によって,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

第4 結論

 以上の状況から,本件行為により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

(参考)海外当局との連絡調整

 本件行為については,公正取引委員会のほか欧州,米国等10か国・地域の競争当局も,同時期に審査を行った。各海外競争当局は,検討対象市場の地理的範囲については各国(欧州においては,欧州経済地域)として画定しているものの,商品分野については共通点も多いことから,公正取引委員会は,審査当初より,当事会社の了解を得て,欧州及び米国の競争当局との連絡調整を行いつつ,審査した。

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