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(平成15年度:事例6)住友商事(株)と旭硝子(株)によるソーダ灰の輸入・販売事業の統合について

(平成15年度:事例6)住友商事(株)と旭硝子(株)によるソーダ灰の輸入・販売事業の統合について

第1 本件の概要等

1 本件の概要

 本件は,住友商事株式会社(以下「住友商事」という。)及び旭硝子株式会社(以下「旭硝子」という。)が,販売競争の激化により事業収益が悪化していることから,コスト削減を目的に共同出資会社を設立することにより,米国産のソーダ灰の輸入・販売事業を統合するものである(新会社の名称は「ソーダアッシュジャパン(株)」)。
 当事会社のうち,旭硝子は,ソーダ灰を原料とする板ガラス,ガラス製品(ブラウン管用ガラス等)の製造・販売事業も行っている。
 本件の関係法条は,独占禁止法第10条及び第16条である。

2 製品の概要

 ソーダ灰は,炭酸ナトリウム(Na2CO3)の通称名であって,白色の粉末又は塊状のアルカリ性化合物であり,主に,板ガラスやガラス製品の主原料として使用されている。
 ソーダ灰は,その製法により,[1]天然に産出するトロナ鉱石を溶解・精製して得られる「天然灰」,[2]人工的な化学合成により得られる「合成灰」の2つに分類される。

第2 独占禁止法上の考え方

1 一定の取引分野

 当事会社は,ともに米国産のソーダ灰の輸入・販売事業を行っている。ソーダ灰は,その製法により,天然灰と合成灰に分類されるが,これらは機能・効用に大きな差がないことから,同一の用途に用いることが可能であり,また,価格水準に大きな差がない。
 また,当事会社のうち,旭硝子は,ソーダ灰を原料とする板ガラス,ガラス製品の製造・販売事業も行っており,一方,住友商事は,ガラス製品メーカーの一部に対して,ソーダ灰を販売している。
 このため,本件は,水平的企業結合の観点からソーダ灰の販売分野,垂直的企業結合の観点からソーダ灰の購入・販売分野及びソーダ灰を原料とする板ガラス,ガラス製品の製造・販売分野について一定の取引分野が成立すると判断した。

2 競争への影響

(1) 市場の状況

ア ソーダ灰の販売分野

 本件統合により,当事会社の合算販売数量シェアは約30%・第1位,上位3社累積シェアは約75%となる。

順位 会社名・産地 シェア
1 A社 国内 約25%
2 B社 国内 約20%
3 旭硝子 米国 約20%
4 住友商事 米国 約10%
  C社,D社 米国 約10%
  その他 中国 約15%
(1) 当事会社合算 約30%
  全体合計 100%

(出所:当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)

イ ソーダ灰の購入・販売分野及びソーダ灰を原料とする板ガラス,ガラス製品の製造・販売分野
 ソーダ灰の購入分野については,旭硝子を含む板ガラス,ガラス製品メーカー等が存在する。ソーダ灰の販売分野については,上記アに同じ。
 また,板ガラス,ガラス製品の製造・販売分野については,旭硝子を含む板ガラス,ガラス製品メーカーが存在する。

(2) 考慮事項

ア ソーダ灰の販売分野(水平的企業結合)

(ア) 単独行動による競争の実質的制限

(1) 有力な競争業者の存在
 有力な競争業者として,A社,B社といった国内メーカーが存在し,また,中国産のソーダ灰の輸入業者も,中国産ソーダ灰の品質が向上してきていることや価格が安いこと等から,近年シェアを伸ばしている。

(2) ユーザーの価格交渉力
 ユーザーは,複数購買を行うことにより,ソーダ灰の販売業者を競合させ,安価なところから多く購入するなどの調達方針を採っていること等から,ユーザーの価格交渉力が強くなっている。

(3) 隣接市場からの競争圧力の存在
 ソーダ灰の用途のうち,一部の用途(パルプ・製紙,無機化学及び鉄鋼)においては苛性ソーダ等の競合品が存在し,ユーザーは,どの原料を使用して製品を製造するかをソーダ灰と競合品の価格と機能の見合いで選択している。

(4) 新規参入
 ソーダ灰の輸入に関して,法制度上の規制は存在せず,また,参入に必要な最小資金規模は小さいこと等から,参入は容易であり,実際にも,近年,中国産ソーダ灰の輸入に参入してきた業者が存在する。

(イ) 協調行動による競争の実質的制限

(1) 隣接市場からの競争圧力の存在
 上記(ア)の(3)に同じ。

(2) 新規参入
 上記(ア)の(4)に同じ。

(3) 過去の競争の状況
 過去において,市場シェアは激しく変動しており,また,昭和58年のソーダ灰の輸入カルテル事件以降,国内メーカーや輸入業者との間で,ソーダ灰の価格改定等について協調的行動がとられた事実は存在しない。

イ ソーダ灰の購入・販売分野及びソーダ灰を原料とする板ガラス,ガラス製品の製造・販売分野(垂直的企業結合)

(ア) 単独行動による競争の実質的制限
 旭硝子は,自らが消費するソーダ灰をいずれの輸入業者も経ずに自ら輸入していたことから,本件統合により,他のソーダ灰販売業者が新たにソーダ灰の取引から排除されることとはならない。
 また,旭硝子と競争関係にある板ガラスメーカー,ガラス製品メーカー等の中には,従来住友商事と取引をしてきた者も存在するが,ソーダ灰について他に有力な競争業者が存在することから,当該板ガラスメーカー,ガラス製品メーカー等がソーダ灰を購入できなくなるおそれはないと考えられる。

(イ) 協調行動による競争の実質的制限
 ソーダ灰はガラス原料の一部に過ぎず,製品販売価格に占めるソーダ灰の購入価格の割合はごくわずかとなっていること等から,本件後,仮に旭硝子が他のガラス類メーカーのソーダ灰の購入価格等の情報を入手したとしても,他のガラス製品メーカーのコスト構造を把握できることにはならないため,旭硝子を含むガラス製品メーカー間で協調的行動が生じる可能性は低いといえる。

(3) 独占禁止法上の評価

 ソーダ灰の販売分野においては,有力な競争業者が存在し,また,ユーザーの価格交渉力も強く,市場シェアが激しく変動するなど競争が活発に行われている。ソーダ灰の購入・販売分野及びガラス製品の製造・販売分野においては,ソーダ灰の取引について閉鎖性・排他性の問題が生じることとはならず,また,他のガラス製品メーカーのコスト構造を把握できることとはならないことなどから,旭硝子を含むガラス製品メーカー間で協調的行為が生じることとはならない。
 このため,当事会社の説明を前提とすれば,本件統合により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。

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