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(平成16年度:事例12)PSジャパン株式会社及び大日本インキ化学工業株式会社のポリスチレン事業の統合について

(平成16年度:事例12)PSジャパン株式会社及び大日本インキ化学工業株式会社のポリスチレン事業の統合について

第1 本件の概要

 本件は,ポリスチレン(以下「PS」という。)等の製造販売業を営むPSジャパン株式会社(以下「PSJ」という。)及び大日本インキ化学工業株式会社(以下「大日本インキ」という。)が,PSJが大日本インキからPS事業の営業を譲受け,大日本インキはPSJに出資を行うことにより,両社のPS事業を統合することを計画したものである。
 当該統合について事前相談があったので,その検討を行い,後記第3及び第4の検討結果を踏まえ,独占禁止法上の問題点の指摘を行ったところ,当事会社は,問題解消措置等を検討した結果,本件行為を取りやめることとした。
 本件の関係法条は,独占禁止法第10条及び第16条である。

第2 製品の概要

 PSは,ナフサから生成されるエチレン及びベンゼンを原料として生産されるスチレンモノマー(以下「SM」という。)を重合して製造される汎用合成樹脂である。PSは,一般成形用の汎用PS(以下「GPPS」という。)と,GPPSにゴム成分を加えた耐衝撃性PS(以下「HIPS」という。)に大別される。
 PSは,一般的に,包装用,発泡用,電気・工業用及び雑貨用の4用途の原料として使用されており,国内市場における各用途の構成比は,包装用が約4割で,その他の用途がそれぞれ約2割となっている。
 なお,GPPSとHIPSは,それぞれ,いずれの用途にも使われており,PSを原料とする製品に持たせたい性質によって使い分けがなされている。
 また,PSには,製品仕様の違いによって各種グレード(銘柄)が存在しており,PSメーカー間において汎用性のある「汎用グレード」と,ユーザー個別の仕様に応じた「特殊グレード」とに分かれる。国内PSメーカーが自社の売上げを伸ばすために,ユーザーが求める細かい仕様にその都度対応してきた結果,多数のグレードが存在する(グレード数は,メーカーによって異なるが,約50から約90程度。)が,近年,グレードの過多がコストアップ要因となっていることから,各メーカーはグレードを削減する傾向にある。

第3 独占禁止法上の考え方

1 一定の取引分野

 一定の取引分野の画定については,ユーザーにとって機能・効用が同種であるか否かなどの観点から検討した。
 PSは,GPPS及びHIPSの品種があるが,おおむね同一の用途で使用することが可能であり,また,基本的な製造工程は同一であって,それぞれ製造設備に重要な変更を加えることなく生産することが容易であることから,GPPS及びHIPSの両品種を合わせたPSの製造販売分野を一定の取引分野と画定した。また,地理的範囲については,全国市場として画定した。

2 市場の状況

(1) 国内市場規模

 PSの平成16年における国内市場規模は,販売数量ベースで約80万トン,販売金額ベースで約1300億円である。また,ユーザーの生産拠点の海外移転等により需要が縮小傾向にあったが,平成13年以降,需要の縮小傾向に歯止めがかかっており,今後数年間は需要が横ばいで推移することが見込まれている。

(2) PSメーカー及びその国内販売数量シェア

 国内PSメーカーのうち3社は,出資会社又は出資会社の関連会社にSMを製造しているメーカーがおり,それらからSMの供給を受けているのに対し,大日本インキは,資本関係のないSMメーカーからSMを調達してPSを製造している。
 平成16年の販売数量シェアを基にすると,本件行為により,当事会社のPSの合算販売数量シェアは,約50%・第1位となる(統合後のHHI約3,600・HHIの増加分約900)。

順位 会社名 シェア
1 PSJ 約35%
2 A社 約30%
3 B社 約20%
4 大日本インキ 約15%
5 輸入品 5%未満
(1) 当事会社合算 約50%
  合計 100%

 (出所:調査結果を基に当委員会において作成)
(注)1 自社の関連会社で自家消費している場合があり,上記シェアは当該自家消費分を除いて算出したものである。
(注)2 四捨五入をしているため,合計は必ずしも一致しない。

(3) 国内PSメーカーの供給余力

 平成16年における国内PSメーカー平均の稼働率は非常に高く,当事会社以外の国内競争業者の供給余力はほとんどない状態である。

(4) 国内PSメーカーによる値上げ状況

 国内のPS市場は寡占状態にあって,各社は相互に生産能力を容易に知り得る状況にあると同時に,生産費用に占める原材料の割合が大きく費用構造が類似しており,報道等で各社の価格引上げが容易に確認できるため,競争業者が互いの行動を高い確度で予測することが可能な状況にある。
 実際に,平成16年は,国内PSメーカー各社によって同時期に3回のPS価格の値上げが行われている。

(5) 輸入の状況

 PSの輸入は,内外価格差の大小にかかわらず大きな変動はなく,輸入比率はおおむね3%~6%程度で推移しており,主として,韓国,台湾から輸入されている。
 関税率は,過去,段階的に引き下げられており,GPPSでは平成7年には11.2%であったが,現在は6.5%と約半分に,HIPSは,同4.6%から3.1%へ引き下げられている。ただし,関税率の引下げが輸入量の増加をもたらしていない状況が見られる。
 現在,中国におけるPSの需要増加による供給不足を背景として,日本への主な輸出国である韓国,台湾等のアジア各国で生産されたPSの多くが中国向けに輸出され,日本向けの輸出が増えない状況である。今後,中国国内においてPSプラントを増設する計画があるが,PSの原料であるSMについてもアジア全体で供給不足が継続する見込みであるため,この傾向は当面継続される見込みである。

3 考慮事項

(1) 供給余力がない中で一層高度な寡占市場となること

ア 市場シェア及びその順位等
 本件統合により,当事会社の合算販売数量シェアは,約50%・第1位となるとともに,競争業者が4社から3社に減少し,一層高度に寡占的な市場になって,国内競争業者3社でシェア95%超を占めるようになることに加え,唯一SMを製造しているメーカーとの資本関係がなく,SMの調達状況が異なる大日本インキがPS事業についてPSJと統合することとなる。

イ 国内競争業者の供給余力
 国内競争業者の供給余力はほとんどなく,さらに,当事会社は本件統合後,一部の製造設備の廃棄を予定していることから,国内市場におけるPSの需給はより一層ひっ迫することとなる。

(2) 輸入品による競争圧力が認められないこと

ア 品質等の面における問題があること
 当事会社の販売数量の多くを占める食品容器向けPS(包装用及び発泡用の一部)については,品質面で輸入品は国内品よりもユーザーの評価が低く,当該用途のユーザーにとっては輸入品を使用することが困難である。
 なお,その他の用途については,輸入品も使用されているが,輸入品は国内品に比較してグレード数が少なく,ユーザーが必要とするグレードが輸入品にはない場合がある。

イ 供給面の問題があること
 輸入品は,通常,1回当たりの取引単位がコンテナ単位(15トン~20トン程度)と大きく,ある程度使用量の多いユーザーでなければ輸入品を購入することが困難である。
 なお,輸入品に対して,国内品と比較して供給の安定性に不安を持っているユーザーもいる。

ウ 輸入品・国内品の価格差が輸入量の増減に影響を与えていないこと
 輸入品・国内品の価格差について,輸入品の方が安い時期においても,わずかな輸入量の増加しかなく,内外価格差の幅に応じて輸入量の増減が生じている状況が必ずしも見られないことから,国内市場の価格形成に対して輸入圧力が十分に働いているとはいえない。

エ 輸出国から日本向けに供給される蓋然性が低いこと
 現在,中国におけるPSの需要増加による供給不足を背景として,日本へのPSの主な輸出国である韓国,台湾等のアジア各国で生産されたPSの多くが中国向けに輸出されているため,日本への輸出が増えない状況であり,今後もこの傾向が当面継続すると考えられる。PSの原料であるSMについても,その供給不足がアジア全体で継続する見込みであることから,中国においてPSの生産能力増強が行われていることを考慮しても,中国を含めたアジア全体におけるPSの生産が十分にできず,中国国内の供給不足解消にはいたらないと見込まれている。したがって,アジア各国で生産されたPSが,輸入圧力となる蓋然性は低い。

(3) 新規参入の蓋然性が認められないこと

 平成13年以降,市場規模はほぼ横ばいで推移しており,今後も大幅な伸びは期待できない状況にあること及び製造設備の新増設のためのコストが多大であることから,新規参入は期待できない。

(4) 隣接市場からの競争圧力が認められないこと

 PSと他の樹脂との間では,その機能,価格が異なることから,現在PSで製造している製品について,技術面及びコスト面から他の樹脂に代替することは困難である。平成16年以降,PS価格が大幅に上昇したため,代替樹脂への切り替えがみられるが,それはごく一部の大手ユーザーに限られるものであり,それをもって,国内PSメーカーによるPS価格の引上げ等をある程度妨げる要因となっているとは認められない。

第4 独占禁止法上の評価

1 単独行動による競争の実質的制限の評価

 現在の国内の製造業者は4社であり,これら国内の競争業者に供給余力がほとんどないこと,輸入品については,品質や供給面の問題があって一部代替できないユーザーがいることに加え,アジア市場の需給がひっ迫していることにより輸出国に供給余力がない状態が当分継続すること,新規参入及び隣接市場からの十分な競争圧力がないこと,これらにより,ユーザーにおいて取引先を自由に変更することは極めて困難であり,ユーザー側に十分な価格交渉力がない状態にあることが認められる。
 このような国内市場の状況の下,本件行為により,当事会社の国内販売数量シェアが約50%となって下位メーカー2社との格差が拡大し,当事会社の価格引上げに対する他の事業者の牽制力は弱くなると考えられるため,単独でPSの価格等をある程度自由に左右することができる状態が容易に現出することとなると考えられる。

2 協調的行動による競争の実質的制限の評価

 輸入品,新規参入及び隣接市場からの十分な競争圧力があるとは認められない。また,高度に寡占的な市場であるところ,各社は相互に生産能力を容易に知り得る状況にあると同時に,生産費用に占める共通の原材料の割合が大きく,費用構造が類似しているため,競争業者が互いの行動を高い確度で予測することが可能な状況にある。
 このような国内市場の状況の下,本件行為により,原材料の調達状況が異なる競争業者が1社減少し,一層高度に寡占的な市場となるため,当事会社とその競争業者が協調的行動をとることによりPSの価格等をある程度自由に左右することができる状態が容易に現出することとなると考えられる。

第5 結論

 前記第4から,本件統合が行われる場合,当事会社が単独で,又は競争業者と協調して,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるおそれがあると考えられる。

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