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(平成17年度:事例2)株式会社ソルトホールディングスによる讃岐塩業株式会社の株式取得について

(平成17年度:事例2)株式会社ソルトホールディングスによる讃岐塩業株式会社の株式取得について

第1 本件の概要

 本件は,製塩業を営む株式会社日本海水(以下「日本海水」という。)の親会社である株式会社ソルトホールディングス(以下「ソルトホールディングス」という。)が,製塩業を営む讃岐塩業株式会社(以下「讃岐塩業」という。)を子会社化し,その後,ソルトホールディングスと日本海水及び讃岐塩業が順次合併することを計画したものである。
 本件の関係法条は,独占禁止法第10条及び第15条である。

第2 一定の取引分野

1 製品の概要

(1) 製塩方法

 製塩方法には,(1)濾過した海水をイオン交換膜透析槽で濃縮してかん水を作り,これを煮詰める方法(以下「イオン交換膜方式」という。),(2)輸入原塩を溶解・精製する方法,(3)イオン交換膜方式で精製した塩を加工する方法,(4)平釜を用いて海水を煮沸する方法,(5)輸入原塩を粉砕加工する方法がある。
 国内の主要製塩メーカーは,(1)のイオン交換膜方式によって製塩を行っており,「せんごう塩メーカー」と呼ばれる。

(2) 塩の種類

 塩は,食料品その他の加工製品の製造や融氷雪用等に使用される「業務用塩」と,小売店で販売され家庭及び飲食店における食用として使用される「生活用塩」に大別される。
 業務用塩については,(1)~(5)のいずれの製塩方法で製造された塩であっても使用可能である。ただし,(4)の製法は,大量生産に適していないことから,当該製法による塩は業務用塩には使用されていない。
 生活用塩については,(1)~(4)の各製法で製塩された塩が使用されている。せんごう塩メーカーが(1)のイオン交換膜方式によって製造した塩の大部分は,特定の有力な事業者に販売され,同事業者のブランドを付した製品として販売されている。同事業者を通さず,一般の卸売業者を通じて販売される生活用塩は自主取引塩と呼ばれている。自主取引塩の中には,一般消費者にブランドが認知されている製品もあり,生活用塩全体に占める自主取引塩の割合は増加傾向にある。
 なお,業務用塩と生活用塩では取引単位や荷姿が異なり,価格にも大きな差がある。

(3) 当事会社における塩の販売

 当事会社は,いずれもせんごう塩メーカーである。業務用塩については,一般の卸売業者を通じて販売している一方,生活用塩については,特定の有力な事業者に販売するほか,日本海水は,子会社に製造委託した塩を自主取引塩として販売しており,また,讃岐塩業は,原料となる塩を子会社に支給し,当該子会社が自主取引塩として製造販売している。

2 一定の取引分野の画定

 業務用塩の最終ユーザーは事業者,生活用塩の最終ユーザーは一般消費者であり,流通経路,取引単位,荷姿,価格等が異なることから,「業務用塩」及び「生活用塩」のそれぞれについて,一定の取引分野を画定した。
 また,「生活用塩」については,せんごう塩メーカーは生活用塩向けの大部分を特定の有力な事業者に納入しているところ,同事業者の販売する塩のほとんどは国内海水を用いた規格の塩であって,国内せんごう塩メーカーがこれを同事業者に納入していること等から,せんごう塩メーカーによる同事業者向けの塩についても,一定の取引分野を画定した。
 また,当事会社を含む塩の製造販売業者は全国を事業地域としており,商品の特性や輸送費用等からみて特段の事情も認められないことから,地理的範囲は全国で画定した。

第3 本件企業結合が競争に与える影響の検討

1 業務用塩

(1) 市場の状況

 平成15年度における市場規模は約1800千トン,約340億円であり,平成8年度以降,市場規模は微増傾向で推移している。業務用塩の大部分を占める食品加工用などの需要量については,今後,ほぼ横ばいで推移すると予想されるが,融雪用については,その年の天候によって需要量が大きく左右される。
 本件統合により,当事会社の市場シェアは,約30%・第1位(統合後のHHI 約1,500(注),HHI増加分 約250)となる。

順位 会社名 シェア
1 日本海水 約25%
2 A社 約15%
3 B社 約10%
4 C社 約10%
5 讃岐塩業 約5%
  輸入塩等 約35%
(1) 当事会社合算 約30%
  合計 100%

 (出所:当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)
 (注) HHIについては,輸入塩等に含まれる事業者ごとのシェアが不明であるため,販売数量が判明している事業者のうち,最も販売数量の少ない事業者(讃岐塩業)と輸入塩等に含まれる事業者のシェアを同等とみなして算出したものである。実際には,輸入塩等に含まれる事業者数は400社以上になるため,HHIの数値はより低くなる。

(2) 取引先変更の容易性

 業務用塩には品質差がないため,業務用塩の流通業者である卸売業者との間における価格交渉に際しては,相見積りの請求等があり,常に他のメーカーとの間で価格競争が行われている。

(3) 参入・輸入状況

 規制緩和による専売制廃止や輸入自由化を受けて法規制上の参入・輸入障壁はなくなり,参入のためのコストの低下や参入までの期間の短縮を背景として,輸入塩を原料とした特殊製法塩等の国内製塩メーカーの参入が相次いで起こり,現在では,400社以上参入している。実際に,最終製品としての輸入塩及び輸入塩を原料とした特殊製法塩等を含めた平成15年度における輸入塩のシェアは約35%と非常に大きな地位を占めており,輸入圧力が十分に働いていると認められる。

2 生活用塩

(1) 市場の状況

 平成15年度における市場規模は約240千トン,約70億円であり,平成8年度以降,市場規模は微減傾向で推移している。生活用塩の市場動向は,ほぼ人口に比例するため,今後,国内の人口は減少することが見込まれていることから,市場規模は今後も縮小していくことが予想される。
 生活用塩のうちせんごう塩メーカーによる特定の有力な事業者向けの取引分野では,本件統合により,当事会社の市場シェアは,約55%・第1位(HHI 約3,700,HHI増加分 約1,400)となる。

順位 会社名 シェア
1 日本海水 約35%
2 讃岐塩業 約20%
3 A社 約15%
3 B社 約15%
5 C社 約15%
(1) 当事会社合算 約55%
  合計 100%

 (出所:当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)
 なお,生活用塩全体では,当事会社の合算シェアは5%程度に過ぎず,本件企業結合により直ちに競争が実質的に制限されることとはならないと判断した。

(2) その他の考慮事項

 せんごう塩メーカーによる特定の有力な事業者向けの塩の取引分野について,当事会社は,自主取引塩としての自社ブランドの開拓は容易ではなく,特定の有力な事業者は安定した販売数量の見込める大口需要家であることから,同事業者からの受注を確保したいとしている。同事業者は,各せんごう塩メーカーから取った見積価格を基に,最も安い価格を提示したせんごう塩メーカーを調達先としており,さらに,同事業者は,せんごう塩メーカーから調達する塩のほかに,せんごう塩メーカー以外のメーカーから調達した輸入塩を原料とした塩についても独自にブランドを付して販売しているところ,せんごう塩メーカーの塩を原料とした製品の販売を輸入塩を原料とした塩を原料とした製品の販売に切り替えることも可能であることから,同事業者は強い価格交渉力を有しているものと認められる。

第4 独占禁止法上の評価

1 業務用塩

 業務用塩については,ユーザーの取引先変更が容易であること,輸入塩等のシェアが高く,輸入塩を原料とした特殊製法塩等の国内製塩メーカーは400社以上と多数存在しており,参入・輸入圧力が十分に働いていると認められること等から,当事会社の単独行動により一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。
 また,輸入塩等のシェアが高く,製塩メーカーが多数存在しており,参入・輸入圧力が十分に働いていると認められること等から,当事会社と競争事業者の協調的行動により一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

2 生活用塩に係るせんごう塩メーカーによる特定の有力な事業者向けの取引分野

 せんごう塩メーカーによる特定の有力な事業者向けの取引分野については,同事業者に価格交渉力があり,当事会社等がある程度自由に価格を引き上げることを妨げる要因となっていること等から,当事会社が単独で又は他社と協調して,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

第5 結論

 以上の状況から,本件行為により,上記第2の2で画定した一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

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