第1 本件の概要
1 建材薄板事業
本件は,日鉄鋼板株式会社(以下「日鉄鋼板」という。)と住友金属建材株式会社(以下「住金建材」という。)が,会社分割により,住金建材の建材薄板事業を日鉄鋼板に承継させることによって,両社の建材薄板事業を統合することを計画したものである。
関係法条は,独占禁止法第15条の2である。
2 住宅用金属屋根事業
本件は,住金建材の住宅金属屋根事業を日鉄鋼板の子会社である日鉄鋼板メタル建材株式会社に事業譲渡することによって,両社の住宅用金属屋根事業を統合することを計画したものである。
関係法条は,独占禁止法第16条である。
第2 一定の取引分野
本件において,当事会社間で競合する製品のうち建材用カラー鋼板については,統合後における当事会社の地位が高くなること等から,当該品目について,競争に及ぼす影響の有無を詳細に検討した。
建材用カラー鋼板とは,建材用溶融亜鉛めっき鋼板(冷延鋼板の表面に,亜鉛,アルミニウム等を付着させ,耐食性を高めた薄板)の表面をカラー塗装し,意匠性・耐食性を高めた鋼板であり,主な用途は,屋根材,壁材等である。
なお,建材用溶融亜鉛めっき鋼板自体も,屋根材,壁材等に用いられる。
第3 本件企業結合が競争に与える影響の検討
1 市場規模
平成17年度における建材用カラー鋼板の市場規模は,約1600億円である。
2 市場シェア・HHI
建材用カラー鋼板の市場における各社のシェアは,下表のとおりである。
本件企業結合により,当事会社の合算シェア・順位は,約40%・第1位となる。
また,本件企業結合後のHHIは約3200,HHI増加分は約600である。
順位 | メーカー | シェア |
---|---|---|
1 | 日鉄鋼板 | 約30% |
2 | A社 | 約20% |
3 | B社 | 約20% |
4 | C社 | 約15% |
5 | 住金建材 | 約10% |
6 | 輸入品 | 0~5% |
その他 | 0~5% | |
(1) | 当事会社合算 | 約40% |
合計 | 100% |
(注1) 平成17年度実績。
(注2) 日鉄鋼板のシェアには,同社と資本関係のある建材用カラー鋼板メーカーのシェアを含む。
(出所:当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)
3 競争事業者の存在
市場には,10%以上のシェアを有する競争事業者が複数存在する。
4 取引先変更の容易性
建材用カラー鋼板の原板となる建材用溶融亜鉛めっき鋼板については,鋼板メーカー間における品質差はなく,また,表面に塗布する塗料及び塗装技術にもメーカー間における品質差はほとんどないことから,建材用カラー鋼板については,基本的に国内メーカー間における品質差はないといえる。ただし,同種の色であっても塗料メーカーごとに微妙な色合いの違いがあること,製品によっては特殊仕様の塗装が行われているものがあること等により,調達先を変更する際に一定の時間やコストを要する場合があるが,新製品の発売時や在庫製品の切替え時等には,比較的容易に取引先を変更することが可能である。
5 供給余力
当事会社及び競争事業者は十分な供給余力を有している。
6 輸入
(1) 輸入の現状及び今後の見通し
現時点における輸入比率は0~5%と小さいが,ここ数年の輸入の動向をみると緩やかに増加しており,10年前と比較すると約3倍となっている。
日本に輸入される建材用カラー鋼板の約7~8割を占める韓国の状況についてみると,大手メーカーの建材用カラー鋼板の生産能力のうち約40%は輸出に回されており,また,塗装技術も十分な水準に達している。現時点において韓国の建材用カラー鋼板の日本向け輸出が少ない理由としては,日本国内における需要が低調であること,日本国内における建材用カラー鋼板の価格が他国に比べて安いため,韓国メーカーにとっては日本向けに輸出するインセンティブが働かないためとみられている。
このため,今後,日本国内において需要の増加や価格の上昇等が生じた場合には,建材用溶融亜鉛めっき鋼板の分野で既に販売実績を有する韓国メーカーは,日本向けの輸出を増やすことができるものと考えられる。
また,当委員会が実施したユーザーに対するアンケート調査によれば,有効回答のうちの約10%の者は,現在は輸入品を購入していないが,今後購入する方向で検討していると回答しており,輸入品を使用することに対する抵抗感はさほど大きくないものとみられる。
これらのことにかんがみれば,今後,内外価格差が逆転すれば,建材用カラー鋼板の輸入量は増加するものと考えられる。
(2) 輸入建材用溶融亜鉛めっき鋼板による競争圧力
海外から輸入した安価な建材用溶融亜鉛めっき鋼板に塗装を行うことにより,低コストで建材用カラー鋼板を製造することが可能となるところ,最近では,安価な建材用溶融亜鉛めっき鋼板の輸入量が増えてきており,こうした輸入材料の存在は,当事会社及び競争事業者による価格引上げに対する牽制力となり得ると考えられる。
第4 独占禁止法上の評価
1 単独行動による競争の実質的制限についての検討
ユーザーにとっては新製品の発売時や在庫製品の切替え時等において,比較的容易に取引先を変更することができること及び10%以上のシェアを有する競争事業者が複数存在し,それら事業者が十分な供給余力を有していることに加えて,今後は,輸入品及び輸入材料による競争圧力が高まっていくと考えられること等にかんがみれば,当事会社の単独行動により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。
2 協調的行動による競争の実質的制限についての検討
ユーザーにとっては新製品の発売時や在庫製品の切替え時等において,比較的容易に取引先を変更することができること及び当事会社を含む競争事業者が供給余力を有していること,また,今後は輸入品及び輸入材料による競争圧力が高まっていくものと考えられること等にかんがみれば,当事会社と競争事業者の協調的行動により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。
第5 結論
以上の状況から,本件行為により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。