6 事業者団体による製品の耐用年限等の設定

 事業者団体が,ユーザーの安全の確保に資するため,会員事業者が製造・販売する製品の耐用年限及びその算定基準を設定することについて,具体的な耐用年限の設定は独占禁止法上問題となるおそれがあるが,耐用年限の算定のための客観的な基準を設定することは,直ちに独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

1 相談者

 X協会(製品Aのメーカーの団体)

2 相談の要旨

(1) X協会は,製品Aのメーカーの団体であり,国内において製造・販売される製品Aの約90パーセントは,X協会の会員事業者が供給している。

(2) 製品Aは,ユーザーにおいて長期間使用されることから,経年劣化による事故・故障等が懸念される。そこで,X協会は,製品Aのメンテナンスの必要性の認識と適正使用の推進を目的として,これまで明確には定められていなかった製品Aの耐用年限について,適切な保守により品質・安全性が維持できる期間として一律に最低α年とする自主基準を定めるとともに,客観的な試験方法に基づく耐用年限の算定基準も定めることを検討している。
 当該最低耐用年限に従うかどうかは会員事業者の任意であり,この最低耐用年限より短い,あるいは,長い製品を製造販売することが制限されるものではない。

(3) X協会は,耐用年限を最低α年とする理由として,製品Aのメーカーは,これまで自社の製品Aの耐用年限を明確には定めておらず,取扱説明書等にも明示はしていないが,多くのメーカーが修理・保守等の経験に基づきα年程度の耐久性の製品Aを製造していること,製品Aに類似した製品の耐用年限を各メーカーともα年程度としていること,減価償却期間が税法上α年とされていること等を挙げている。

(4) X協会では,製品Aの耐用年限の設定に当たり,ユーザーの実際の使用期間,故障・修理の実績等についての実態調査は行っていない。また,X協会によれば,通常,ユーザーは製品Aをβ年(α年よりも長い)以上使用することが多く,これまで経年劣化による事故は発生していないとしている。

概要図

 このようなX協会の取組は,独占禁止法上問題ないか。

3 独占禁止法上の考え方

(1) 一般に,事業者団体が,会員事業者が供給する商品又は役務の種類,品質,規格等に関連して,生産・流通の合理化や消費者の利便向上を図るため規格の標準化に係る自主基準,安全の確保等の社会公共的な目的に基づく必要性から品質に係る自主規制等を設定することは,独占禁止法上の問題を特段生じないものも多い。しかしながら,活動の内容・態様等によっては,会員事業者による多様な商品又は役務の開発・供給等に係る競争を阻害することとなる場合があり,この場合独占禁止法上問題となるおそれがある(独占禁止法第8条第1項第3号,第4号又は第5号)。
 また,自主規制等の利用・遵守については,会員事業者の任意の判断にゆだねられるべきであって,事業者団体が自主規制等の利用・遵守を会員事業者に強制することは,一般的には独占禁止法上問題となるおそれがある(独占禁止法第8条第1項第4号)。

(2) X協会が,会員事業者が製造する製品Aについての最低耐用年限をα年とする自主基準を設けたとしても,この最低耐用年限より短い,あるいは,長い製品を製造販売することが制限されるものではないが,

ア 通常,ユーザーはβ年(α年よりも長い)以上使用し,これまで特段経年劣化による事故も発生していないとのことであり,このような使用状況を踏まえると,最低耐用年限をα年とすることに合理的な理由があるとは認められず,また,これは,ユーザーに不必要な買替えを促すことにもつながるおそれがあり,

イ ユーザーによっては,耐用年限は短くとも価格の安い製品を望んでいる者もあると思われるが,こうした製品の製造を抑制する効果

ウ 多くの会員事業者が耐用年限をα年程度としている実態から,α年以上の製品の製造を妨げないとしても,各会員事業者が最低の耐用年限α年の製品しか製造しないようにさせてしまう効果

を有するものと考えられ,会員事業者間の競争を阻害するおそれがあるものである。

(3) 各会員事業者が,経年劣化による事故等の予防のために,ユーザーに対して,製品Aの交換の目安としての耐用年限を示すことは,必要性が認められるものであり,X協会が,会員事業者が製品Aの耐用年限を定める際の参考となるように算定基準を定めることは,これが,(1)耐用年限を算定するための耐久テストの客観的な試験方法であって,(2)会員事業者にこの基準の利用を強制するものでなく,(3)不当に差別的なものでなければ,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答の要旨

 X協会が,会員事業者が製造する製品Aの具体的な耐用年限を設定することは,独占禁止法上問題となるおそれがあるが,会員事業者が耐用年限を定める際の参考となるように算定基準を定めることは,これが,耐用年限を算定するための耐久テストの客観的な試験方法であって,その利用を会員事業者に強制するものではなく,不当に差別的なものでなければ,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。

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