流通POS端末のメーカー等が加盟する団体が,ユーザーの利便に資するため,流通POS端末の保守用部品の推奨保有期間を設定することは,直ちに独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
X協会(流通POS端末のメーカー等が加盟する団体)
2 相談の要旨
(1) X協会は,流通POS端末のメーカー等が加盟する団体であり,国内において製造・販売される流通POS端末の約70パーセントは,X協会の会員事業者が供給している。
(2) 流通POS端末は,店舗における販売実績情報の収集等のために用いられ,スーパーマーケット,コンビニエンスストア等に多く導入されており,バーコードスキャナの利用による商品のレジ打ち作業の軽減,仕入・棚卸と販売実績を結びつけた在庫管理・発注管理の精度向上等が図られている。
(3) 近年,流通POS端末は,その大部分がWindows等のパソコン(PC)系のOSを使用した端末(PC-POS)となっており,こうした流通POS端末にはPC部品が採用されている。PCのライフサイクルの短縮化に伴い,PC部品の供給期間が短くなってきているため,ユーザーの使用期間がPCよりも長い流通POS端末においては,ユーザーに適切な保守サービスを提供するために,メーカーは,保守用の部品を一定期間確保しておくことが必要になってきている。
また,X協会が,非会員も含むメーカーに対する保守状況について調査したところ,保守対応期間を定めているメーカーの最短期間は製品製造終了後5年という結果であったが,その一方で,保守対応期間を定めていないとの回答も約3割あった
こうした状況を踏まえ,X協会は,ユーザーのニーズに対応した適切な保守サービスを提供するためには,メーカーは保守用部品を製品の製造終了後最低5年間は保有しておくことが望ましいと考え,これを保守用部品の推奨保有期間としてX協会の非会員も含むメーカーに示すことを検討している。
(4) 当該保有期間は,X協会が,あくまでも目安としてメーカーに推奨する期間であり,メーカーは,これに何ら拘束されるものではない。
このようなX協会の取組は,独占禁止法上問題ないか。
3 独占禁止法上の考え方
(1) 一般に,事業者団体が,会員事業者等の営業の種類,内容,方法等に関して,環境の保全や安全の確保等の社会公共的な目的等に基づく必要性から自主規制等の活動を行うことは,独占禁止法上の問題を特段生じないものも多い。しかしながら,活動の内容,態様等によっては,多様な営業の種類,内容,方法等を需要者に提供する競争を阻害することとなる場合があり,この場合独占禁止法上問題となるおそれがある(独占禁止法第8条第1項第3号,第4号又は第5号)。
また,自主規制等の利用・遵守については,会員事業者の任意の判断にゆだねられるべきであって,事業者団体が自主規制等の利用・遵守を会員事業者に強制することは,一般的には独占禁止法上問題となるおそれがある(独占禁止法第8条第1項第4号)。
(2) 流通POS端末は,通常,製品の価格,性能,デザイン等の面で競争が行われており,保守用部品の保有期間がこれらの競争に著しい影響を及ぼすとは考えにくいが,保守用部品の保有期間は,保守サービスの提供可能期間につながることから,メーカーの競争の手段となり得るものであり,本件により,メーカー間の競争が阻害される場合には問題となるおそれがある。
(3) しかしながら,本件は,ユーザーに適切な保守サービスを提供するために,メーカーが保守用部品を一定期間確保しておくための取組であって,
ア 最低5年間を推奨保有期間とするものであり,各メーカーの保守サービスの期間,料金等について何ら拘束するものではなく,保守サービスという競争手段が制限されるとは考えられないこと
イ メーカー間の流通POS端末の価格,品質等についての競争に直接影響を及ぼすものではないこと
ウ X協会が推奨する保守用部品の保有期間が,各メーカーにとって不当に差別的なものになっているとは考えられないこと
から,メーカー間の競争を阻害するおそれがあるとは認められず,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
4 回答の要旨
X協会が,保守用部品の推奨保有期間をメーカーに示すことは,メーカー間の競争を阻害するおそれがあるとは認められず,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。