2 医薬品メーカーによる対面での販売の義務付け

 医薬品メーカーが,取引先事業者に対し,当該メーカーの医薬品について積極的な商品説明等を対面で行うよう義務付けることは,独占禁止法上問題となるおそれがあると回答した事例

1 相談者 X社(医薬品メーカー)

2 相談の要旨

(1) X社は,医薬品Aのメーカーである。我が国の医薬品Aの販売市場におけるX社のシェアは約90パーセント(第1位)である。

(2) X社は,自社ブランドの医薬品Aを,薬局等の小売業者(以下「取引先事業者」という。)を通じて消費者に販売している。

(3) X社の医薬品Aは,医薬品の中ではリスクが比較的低いとされる第三類医薬品に分類されるものであって,法令上,販売時に積極的に情報提供を行う必要はなく,かつインターネット等を利用した販売(以下「通信販売」という。)が禁止されているものでもない。このようなことから,X社の医薬品Aについては,現在,相当数が通信販売の方法によって販売されており,また,通信販売においては,店舗販売に比べて相当程度低い価格で販売されている。

(4) X社の医薬品Aは,使用方法に特徴があり,X社は,自社の医薬品Aの発売当初から,取引先事業者に対し,このような特徴を消費者への販売時に積極的に説明するよう求めている

(5) X社に寄せられる消費者からの問い合わせの中には,前記(4)のX社の医薬品Aの特徴について理解していないと思われるものが多く,X社は,取引先事業者による販売時の説明が十分ではないと感じている。また,X社は,自社の医薬品Aの特徴を理解していない消費者が,医薬品Aの本来得られる効果を得ないままに服用をやめてしまうと,結果的に消費者からの信頼の喪失につながってしまうのではないかと懸念している。
 なお,X社は,自社に寄せられた問い合わせが,店舗販売と通信販売のどちらの方法により購入した消費者からのものかについては把握していない。

(6) そこで,X社は,取引先事業者との間で,X社の医薬品Aを販売する際には,積極的な商品説明及びアフターサービスを対面で行うよう義務付ける内容の契約(以下「本件契約」という。)を締結することを検討している。
 なお,X社によれば,本件契約の締結後,通信販売の方法によりX社の医薬品Aを販売する取引先事業者については,本件契約を遵守できる可能性がないことから,今後,一切の出荷を停止するとしているが,仮に店舗販売を行っている取引先事業者が本件契約で義務付けられる積極的な商品説明等を行わなかったとしても,出荷を停止することはないとしている。

 ○ 本件の概要図

 このようなX社の取組は,独占禁止法上問題ないか。

3 独占禁止法上の考え方

(1) メーカーが小売業者に対して,販売方法(販売価格,販売地域及び販売先に関するものを除く。)を制限することは,商品の安全性の確保,品質の保持,商標の信用の維持等,当該商品の適切な販売のための合理的な理由が認められ,かつ,他の取引先小売業者に対しても同等の条件が課せられている場合には,それ自体は独占禁止法上問題となるものではない。 しかし,メーカーが小売業者の販売方法に関する制限を手段として,小売業者の販売価格,競争品の取扱い,販売地域,取引先等についての制限を行っている場合には,再販売価格の拘束(独占禁止法第2条第9項第4号,第19条),排他条件付取引(不公正な取引方法第11項,独占禁止法第19条),拘束条件付取引(不公正な取引方法第12項,独占禁止法第19条)の観点から違法性の有無が判断される。
 例えば,当該制限事項を遵守しない小売業者のうち,安売りを行う小売業者に対してのみ,当該制限事項を遵守しないことを理由に出荷停止等を行う場合には,通常,販売方法の制限を手段として販売価格について制限を行っていると判断される(流通取引慣行ガイドライン第2部第2-5〔小売業者の販売方法に関する制限〕)。

(2) 本件取組は ア (1)X社の医薬品Aは法令上通信販売が禁止されるものではないこと,(2)X社の医薬品Aの特徴は通信販売でも十分説明が可能であると考えられることから,本件契約を締結する合理的な理由があるとはいえないこと
イ X社は,店舗販売を行っている取引先事業者が本件契約で義務付けられる積極的な商品説明等を行わなかったとしても,医薬品Aの出荷を停止するなどの措置を採るつもりはないとしており,店舗販売の方法によりX社の医薬品Aを販売する取引先事業者と通信販売の方法によりX社の医薬品Aを販売する取引先事業者に同等の制限が課せられているとはいえないこと
ウ 現在,X社の医薬品Aについては,相当数が通信販売の方法によって販売されており,通信販売では店舗販売に比べて相当程度低い価格で販売されていることから,X社が取引先事業者の販売方法の制限を手段として販売価格について制限を行うものである可能性が高いこと
 から,X社の取引先事業者の事業活動を不当に制限し,独占禁止法上問題となるおそれがある。

4 回答の要旨

 X社が,取引先事業者に対し,X社の医薬品Aについて積極的な商品説明等を対面で行うよう義務付けることは,独占禁止法上問題となるおそれがある。

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