平成26年10月14日
公正取引委員会
公正取引委員会は,平成25年11月19日,被審人エア・ウォーター株式会社(以下「被審人」という。)に対し,独占禁止法第66条第2項の規定に基づき,被審人の審判請求を棄却する旨の審決を行った。被審人は,同年12月19日,審決取消訴訟を東京高等裁判所に提起したところ,平成26年9月26日,同裁判所は審決を取り消す旨の判決をし,同年10月10日の経過をもって同判決は確定した。
当委員会は,同判決の趣旨に従い,審判官から提出された事件記録並びに被審人から提出された異議の申立書及び被審人から聴取した直接陳述に基づいて,審判官から提出された審決案を更に新たに調査した結果,平成26年10月14日,独占禁止法第66条第3項の規定に基づき,平成23年5月26日付けの課徴金納付命令(平成23年(納)第60号)の一部を取り消す旨の審決を行った(本件平成23年(判)第81号審決書については,当委員会ホームページの「報道発表資料」及び「審決等データベース」参照。)。
1 被審人の概要
事業者名 |
エア・ウォーター株式会社 |
---|---|
本店所在地 | 札幌市中央区北三条西一丁目2番地 |
代表者 | 代表取締役 青木 弘 |
2 主文の内容
平成23年5月26日付けの課徴金納付命令(平成23年(納)第60号。課徴金額36億3911万円)のうち,7億2782万円を超えて納付を命じた部分を取り消す。
3 被審人の審判請求の趣旨
主文と同旨。
4 本件の経緯
平成23年
5月26日 排除措置命令及び課徴金納付命令
7月22日 被審人から課徴金納付命令に対して審判請求(注1)
10月5日 審判手続開始
11月15日 第1回審判
↓
平成25年
4月24日 第9回審判(最終意見陳述を終了)
7月2日 審決案送達
7月16日 審決案に対する異議の申立て及び直接陳述の申出
10月3日 直接陳述の聴取
11月19日 審判請求を棄却する審決
12月19日 審決取消訴訟の提起
平成26年
9月26日 東京高等裁判所判決(審決を取り消す判決)
10月10日 同日の経過により同判決の確定
10月14日 課徴金納付命令の一部を取り消す審決
(注1) 被審人は,排除措置命令に対しては審判請求を行わず,同命令は確定している。
5 審決の概要
(1) 原処分の原因となる事実
被審人は,他の事業者と共同して,遅くとも平成20年1月23日までに,特定エアセパレートガス(注2)の販売価格について,同年4月1日出荷分から,現行価格より10パーセントを目安に引き上げることを合意することにより,公共の利益に反して,我が国における特定エアセパレートガスの販売分野における競争を実質的に制限していた。
被審人の本件違反行為の実行期間は,独占禁止法第7条の2第1項の規定により,平成20年4月1日から平成22年1月18日までであり,独占禁止法第7条の2の規定により算出された課徴金の額は36億3911万円である。
(注2) 「特定エアセパレートガス」とは,エアセパレートガス(空気から製造される酸素,窒素及びアルゴン)のうち,タンクローリーによる輸送によって供給するもの(医療に用いられるものとして販売するものを除く。)をいう。
(2) 本件の争点
ア 本件違反行為に係る取引について,被審人の業種を小売業又は卸売業以外と認定して10パーセントの課徴金算定率を適用すべきか,それとも,卸売業と認定して2パーセントの課徴金算定率を適用すべきか。(争点1)
イ 本件の他の違反行為者の業種を卸売業と認定したのに,被審人の業種を小売業又は卸売業以外と認定して,異なる課徴金算定率を適用することは,憲法第14条第1項に違反するか。(争点2)
(3) 争点に対する判断の概要
ア 課徴金の計算における業種の認定について
(ア) 課徴金の計算に当たり,違反行為に係る取引について,小売業又は卸売業に認定されるべき事業活動とそれ以外の事業活動の双方が行われていると認められる場合には,実行期間における違反行為に係る取引において,過半を占めていたと認められる事業活動に基づいて単一の業種を決定すべきである。
(イ) また,独占禁止法第7条の2第1項が小売業又は卸売業について例外的に軽減した課徴金算定率を規定したのは,小売業や卸売業の事業活動の性質上,売上高営業利益率が小さくなっている実態を考慮したためであるから,課徴金の計算に当たっては,一般的には事業活動の内容が商品を第三者から購入して販売するものであっても,実質的にみて小売業又は卸売業の機能に属しない他業種の事業活動を行っていると認められる特段の事情(以下,単に「特段の事情」という。)があるときには,当該他業種と同視できる事業を行っているものとして業種の認定を行うべきである。
(ウ) そして,独占禁止法第7条の2第1項が小売業及び卸売業について例外的に軽減算定率を採用することにした趣旨が,事業活動の実態を反映させるためであることに鑑みれば,特段の事情の有無は,仕入先への出資比率や役員構成,あるいは,運営への関与,出向者数,技術・設備の供与,利益構造などのうちの一つの観点のみから認定すべきものではなく,これらの点や,製造面での関与,業務内容,仕入先の事業者としての実質的な独立性その他の要素を考慮し,事業活動の実態を総合的に検討する必要がある。
イ 被審人と仕入先の株式会社クリオ・エアー(以下「クリオ・エアー」という。)との取引における特段の事情の有無について
(ア) 本件では,被審人のクリオ・エアーに対する出資比率は45パーセントであるところ,一般に,出資者の出資先会社の事業活動への関与の程度ないし出資先会社の事業との一体性は,出資比率のみで定まるものではなく,また,過半を超える出資比率を有していなければ支配的ないし主導的な立場での関与を認めることができないわけではない。
しかしながら,本件では,認定事実によると,クリオ・エアーヘの出資者として,被審人以外に,出資比率55パーセントの会社,すなわち,大阪ガス株式会社(以下「大阪ガス」という。)の100パーセント子会社である株式会社リキッドガス(以下「リキッドガス」という。)が存在するのであり,また,クリオ・エアーの取締役7名中被審人の指名による者が3名であるのに対し,4名がリキッドガスの指名した者である。したがって,リキッドガスは,クリオ・エアーの議決権の過半数を有し,同社の役員の過半数を確保している。しかも,同社の常勤の代表取締役もリキッドガスの指名した者であって,被審人の指名した者は非常勤の代表取締役にすぎない。
そうすると,株主としてのクリオ・エアーに対する支配権という観点から見た場合,また,取締役会における支配構成という観点から見た場合に,クリオ・エアーの事業活動に主導的な役割で関与している者としてリキッドガスが存在しており,そうである以上,これらの観点から,被審人がクリオ・エアーに対して支配的な立場を有しているとか,主導的な役割で関与していると認めることは困難である。
(イ) ただ,認定事実によると,被審人は,クリオ・エアーから特定エアセパレートガスの販売価格決定に必要な当該年度における費用や当期利益等の情報開示を受け,価格決定のための運営協議会等で協議をするとともに,クリオ・エアーの製造する特定エアセパレートガスのほぼ全てを引き取っていることが認められ,クリオ・エアーの販売価格等について相当程度の影響力を行使できた可能性があるということができる。
しかし,認定事実によると,リキッドガスないし大阪ガスグループ(大阪ガス及びその子会社(リキッドガスを含む。)をいう。以下同じ。)という企業グループは,単なる資本関係のみの出資者ではなく,販売価格低減の原因であってそもそもの合弁事業の目的である冷熱の利用について,その冷熱を供給している者であって,クリオ・エアーにおける特定エアセパレートガスの製造はこの冷熱供給に依存しており,製造工場も,大阪ガスの工場敷地内にあり,建物・土地ともに大阪ガスから貸与されたものであって,従業員の大多数も大阪ガスグループからの出向者又は兼務者であるというのであるから,そもそもクリオ・エアーによる特定エアセパレートガスの製造は大阪ガスグループにおける冷熱利用の一環として行われているというべきである。
そして,上記のような事実関係の下,クリオ・エアーの製造する特定エアセパレートガスの販売価格の決定等についてはリキッドガスも関与していること,及び前記(ア)に説示したところからすると,販売価格等についての協議においても,その主導権を握りやすい立場にあるのは,被審人ではなくリキッドガスないし大阪ガスグループである。
また,被審人がクリオ・エアーの製造する特定エアセパレートガスのほぼ全てを引き取っていること自体も,被審人のクリオ・エアーに対する相当程度の影響力をうかがわせる事情の一つであるが,これのみから被審人のクリオ・エアーに対する支配的又は主導的立場を導くことはできない。
これらを考え合わせると,被審人が,クリオ・エアーの生産計画や販売価格について主導的な影響力を行使することができたと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠もない。
そうすると,クリオ・エアーが,特定エアセパレートガスの製造について,被審人の支配の下にある生産拠点であるとみることはできない。
なお,冷熱利用によるメリットの享受という観点からみても,確かに,本件合弁事業の仕組み上,クリオ・エアーの製造する特定エアセパレートガスのほぼ全てを引き取る被審人は冷熱利用によるコスト低減メリットを享受できる立場にあったといえるが,他方で,リキッドガスもクリオ・エアーに対する冷熱の供給に係る収入を得られるというメリットを享受できる立場にあったといえることからすれば,本件の事実関係の下,被審人による上記コスト低減メリットの享受のみをもって,被審人が自社で特定エアセパレートガスを製造しているのと同様の実態にあったと認めることはできず,他にそのような事実を認めるに足りる的確な証拠もない。
(ウ) さらに,認定事実によると,被審人は従業員の出向や製造設備及び技術の供与等を行い,クリオ・エアーの運営や同社における特定エアセパレートガスの製造に一定程度関与していると認めることができるものの,前記(イ)のとおり,本件の事実関係においては,クリオ・エアーによる特定エアセパレートガスの製造は大阪ガスグループにおける冷熱利用の一環として行われているというべきであり,リキッドガスによるクリオ・エアーの運営や同社における特定エアセパレートガスの製造への関与を考慮すれば,クリオ・エアーにおける特定エアセパレートガス事業は,製造の実態からみても,被審人における事業活動の一環として行われているとか,被審人の一部門と同視し得るほどに被審人と密接な関係があるとか,被審人が自社で特定エアセパレートガスを製造しているのと同様ないしはそれに近い実態があるなどということはできない。
(エ) 以上に検討したところを総合考慮すると,被審人が,クリオ・エアーから仕入れた特定エアセパレートガスに係る取引につき,実質的にみて小売業又は卸売業以外の業種,すなわち製造業としての事業活動を行っていると認められる特段の事情を認定することはできない。
(オ) なお,審査官は,被審人がクリオ・エアーを含む3社以外の関係会社から仕入れた特定エアセパレートガス並びに子会社及び関連会社以外の仕入先から仕入れた特定エアセパレートガスに係る取引について,特段の事情が認められると具体的に主張しておらず,これらの取引について特段の事情を認めるに足りる証拠もない。
ウ 被審人に対する課徴金算定率
以上によれば,少なくとも,被審人がクリオ・エアーから仕入れた特定エアセパレートガス,クリオ・エアーを含む3社以外の関係会社から仕入れた特定エアセパレートガス並びに子会社及び関連会社以外の仕入先から仕入れた特定エアセパレートガスに係る取引については特段の事情が認められず,それらの合計は,被審人における特定エアセパレートガスの製造数量及び仕入数量の合計の過半に達する。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,被審人に対する課徴金の計算に当たっては,被審人が卸売業に係る事業活動を行っているものとして,2パーセントの課徴金算定率を適用すべきこととなる。
関連ファイル
(印刷用)(平成26年10月14日)エア・ウォーター株式会社に対する審決について(PDF:206KB)
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