ホーム >報道発表・広報活動 >報道発表資料 >平成27年 >7月 >

(平成27年7月29日)テレビ番組制作の取引に関する実態調査報告書

(平成27年7月29日)テレビ番組制作の取引に関する実態調査報告書

平成27年7月29日
公正取引委員会

関連資料

第1 調査の趣旨・方法等

1 調査の趣旨

 公正取引委員会は,独占禁止法上の優越的地位の濫用規制及び下請法に基づき,事業者に不当に不利益を与える行為に対して厳正に対処するとともに,違反行為の未然防止に係る取組を行っている(注1) 。また,この未然防止の取組の一環として,公正取引委員会は,優越的地位の濫用規制上又は下請法上問題となり得る事例が見受けられる取引分野について,従前から取引の実態を把握するための調査を実施している。
 テレビ番組制作の取引については,近年,世界的金融危機やインターネット広告の成長などの影響によりテレビ局の広告収入が減少し,制作予算が削減されるなど,テレビ番組制作会社が厳しい取引環境に置かれているといわれている。
このような実情を踏まえ,公正取引委員会は,今般,テレビ番組制作の取引において,優越的地位の濫用規制上又は下請法上問題となり得る行為が行われていないかについて,実態調査を実施することとした。

(注1)公正取引委員会は平成25年度以降,放送番組制作に関わる事業者に対する下請法講習会を実施してきている。

2 調査方法

(1) 書面調査
 本調査では,テレビ局とテレビ番組制作会社(テレビ局の子会社又は兄弟会社を除く。)との間のテレビ番組制作に係る取引を調査対象とした。
 また,テレビ局が,テレビ番組制作を,当該テレビ局と資本関係があるテレビ番組制作会社(テレビ局と同一株主の傘下にあるなど同一企業グループに属している場合を含む。以下「局系列テレビ番組制作会社」という。)に委託し,当該局系列テレビ番組制作会社がテレビ番組制作会社(局系列テレビ番組制作会社の子会社又は兄弟会社を除く。)に再委託している場合における,局系列テレビ番組制作会社と当該テレビ番組制作会社との間の取引についても調査対象とした(下図参照)。

 テレビ番組制作の取引を行っていると思われるテレビ局500名及び局系列テレビ番組制作会社76名(以下テレビ局と局系列テレビ番組制作会社を合わせて「テレビ局等」という。)並びにテレビ番組制作会社(テレビ局若しくは局系列テレビ番組制作会社の子会社又は兄弟会社を除く。以下同じ。)800名を対象として,調査票を送付し,書面調査を実施した。
 調査票の発送数及び回答者数は,下表のとおりである。

対象事業者

発送数(A) 回答者数(B)(B/A)
テレビ局 500名 379名(75.8%)
局系列テレビ番組制作会社 76名 54名(71.1%)
テレビ番組制作会社 800名 280名(35.0%)

 本調査では,書面調査における回答者のうち,[1]テレビ番組制作の取引を行っていると回答したテレビ局254名及び局系列テレビ番組制作会社29名(合計283名)からの,全ての取引先テレビ番組制作会社との取引についての回答並びに[2]テレビ番組制作の取引を行っていると回答したテレビ番組制作会社109名からの,テレビ番組制作に係る年間取引高が多いテレビ局等(自社の親会社又は兄弟会社を除く上位5名。以下「主要な取引先テレビ局等」という。)との取引についての回答を基に結果を取りまとめている。

(2) ヒアリング
 書面調査における回答者のうち,テレビ局2名及びテレビ番組制作会社28名並びに関係事業者団体3名を対象にヒアリングを実施した。

3 調査対象期間等

(1) 調査票発送日:平成27年2月16日
(2) 回答期限:平成27年3月16日
(3) 調査対象期間:平成26年1月1日から平成26年12月31日

第2 業界の概要

1 テレビ番組制作に関する業務内容

 テレビ番組制作に関する主な業務は,以下のとおりである。
(1) 番組制作の遂行・管理
 番組の企画や制作費の管理を担当するプロデューサーと演出を担当するディレクターが中心となり,番組の制作スタッフの編成,番組制作の遂行及び管理を行う業務。
(2) 美術関係業務
 番組制作に必要な大道具,小道具,衣装等に関する業務。
(3) 技術関係業務
 番組制作に必要なカメラ,音声,照明,VTR,スタジオ,中継車等の機材及び場所の提供並びに当該機材を操作する業務。
(4) ポストプロダクション業務
 番組の録画,録音,編集のための機材及び場所を,機材を操作する専門のスタッフとともに時間貸しする業務。
 なお,美術関係業務,技術関係業務又はポストプロダクション業務のみを発注する取引については,本件の調査対象外とした。

2 市場規模

 「メディア・ソフトの制作及び流通の実態に関する調査研究 報告書(平成26年9月〔総務省 情報通信政策研究所〕)」によれば,我が国の平成24年のコンテンツ市場規模は11兆2401億円となっており,そのうち地上テレビ番組の市場規模は2兆7589億円(注2) ,衛星・CATV番組の市場規模は8884億円(注3) となっている。また,同報告書によれば,平成24年の地上テレビ番組の制作金額は1兆7348億円,衛星テレビ番組の制作金額は1425億円,CATV番組の制作金額は168億円となっている。

(注2)一次流通市場の市場規模(地上テレビ番組の放送によって地上テレビ放送局が得る放送事業収入及び受信料収入の合計)とマルチユース市場の市場規模(衛星放送,CATV,ビデオにおいて地上テレビ番組が二次利用された割合を推計し,衛星テレビ放送局,CATV局の事業収入にその割合を乗じることで算出)を合計した金額。

(注3)衛星テレビ番組市場の一次流通の市場規模,マルチユース市場の市場規模,CATV番組の一次流通市場の市場規模を合計した金額。


我が国の平成24年のコンテンツ市場規模

3 テレビ番組を放送する事業者及び制作する事業者の概要

(1) テレビ番組を放送する事業者
 テレビ番組を放送する事業者には,地上波による放送を行っている日本放送協会及び地上系民間放送事業者(以下「地上系放送事業者」という。),人工衛星による放送を行っている衛星放送事業者,ケーブルによる放送を行っている有線テレビジョン放送事業者(以下「ケーブルテレビ事業者」という。)等があり,民間放送事業者数は以下のとおりとなっている。

                   民間放送事業者の推移 (注4)                  (単位:名)
  21年度 22年度 23年度 24年度 25年度
地上系民間放送事業者 127 127 127 127 127
衛星放送事業者 113 113 108 92 72
ケーブルテレビ事業者 自主放送を行う者 540 526 556 545 539
再放送のみを行う者 536 565 386 256 253

(注4) 出典:地上系民間放送事業者及び衛星放送事業者の事業者数については平成26年版情報通信白書(総務省),ケーブルテレビ事業者の事業者数についてはケーブルテレビの現状(平成12~25年度)(総務省統計局)

ア 日本放送協会
 日本放送協会(以下「NHK」という。)は,放送法の規定により設立された公共放送を行う特殊法人である。放送法では,NHKの目的は,「公共の福祉のために,あまねく日本全国において受信できるように豊かで,かつ,良い放送番組による国内基幹放送を行う」(同法第15条)ことなどとされている。
イ 地上系民間放送事業者
 「キー局」と呼ばれる在京のテレビ局5社(日本テレビ放送網株式会社,株式会社TBSテレビ,株式会社フジテレビジョン,株式会社テレビ朝日及び株式会社テレビ東京)は,それぞれネットワークと呼ばれる放送網を組織しており,地方のテレビ局の多くはいずれかのネットワークに属している(注5) 。このネットワークを通じて,キー局等が制作又は購入して放送する番組が,地方のテレビ局においても放送されることが多く,地方のテレビ局はネットワークから提供を受ける番組に大きく依存している状況にある。
ウ 衛星放送事業者
 衛星放送事業者には,放送衛星を利用したBS放送を行う事業者と通信衛星を利用したCS放送を行う事業者がおり,それぞれ,放送衛星又は通信衛星を利用して番組の電波を中継し,各家庭に番組を提供することにより放送を行っている。
 衛星放送事業者には,地上系民間放送事業者のキー局のグループ会社等の無料放送を行う事業者,株式会社スカパー・ブロードキャスティング等の専門チャンネルの有料放送を行う事業者等がある。
エ ケーブルテレビ事業者
 ケーブルテレビ事業者は,光ファイバーケーブルや同軸ケーブルを利用して各家庭に番組を配信することにより放送を行う事業者である。
 ケーブルテレビ事業者には,株式会社ジュピターテレコム(J:COM)のように全国を営業区域とする事業者もあるが,その多くは特定のエリアを営業区域としており,中には,地方公共団体,地方公共団体が出資する第三セクターの事業者もある。
オ その他
 前記ア~エの放送事業者のほか,スマートフォン向けの放送やインターネット向けの放送(注6) といった新たな形態の放送を行う事業者もある。

(2) テレビ番組を制作する事業者
 テレビ番組を制作する事業者には,テレビ局,局系列テレビ番組制作会社及びテレビ番組制作会社がある。
 テレビ番組制作会社には,自らテレビ番組を制作している事業者のほか,機材や編集設備を持たず,プロデューサーやディレクターのみが在籍して番組制作の遂行・管理のみを行っている事業者や自社の従業員をテレビ局等に派遣し,テレビ局等の指揮命令下においてテレビ番組制作に関する業務を行う事業者がある。

(注5) 出典:日本民間放送年鑑2014(平成26年11月〔一般社団法人日本民間放送連盟〕)
平成26年3月末現在,各ネットワークの事業者数は,日本テレビ系列が30社,TBS系列が28社,フジテレビ系列が28社,テレビ朝日系列が26社及びテレビ東京系列が6社となっている。
なお,ネットワークに属していないテレビ局(独立局)は13社となっている。

(注6)インターネット向けの放送は,放送法上の放送には該当しない。

4 テレビ局等とテレビ番組制作会社との間の主な取引形態

 テレビ局等とテレビ番組制作会社との間の主な取引形態は以下のとおりである。
 なお,各取引形態の呼称は事業者によって異なる。
(1) 完パケ(「完全パッケージ」の略称)
 テレビ番組制作会社が,テレビ局等からテレビ番組の全部の制作について委託を受け,当該テレビ局等に対し,テレビ番組を放送できる状態で納品する取引。
 例えば,テレビ番組制作会社が,テレビ局から2時間ドラマ1本の制作の委託を受け,当該番組を放送できる状態で納品する場合が該当する。

(2) 一部完パケ
 テレビ番組制作会社が,テレビ局等からテレビ番組のコーナーなどテレビ番組の一部の制作について委託を受け,当該テレビ局等に対し,テレビ番組のコーナーなどを放送できる状態で納品する取引。
 例えば,テレビ番組制作会社が,テレビ局から1時間の情報番組のうち5分間のグルメ特集コーナーの制作の委託を受け,当該コーナーを放送できる状態で納品する場合が該当する。

(3) 制作協力
 テレビ番組制作会社が,テレビ局等が制作するテレビ番組に関する演出業務等,一部の業務の委託を受け,当該業務を行う取引。
 例えば,テレビ番組制作会社が,テレビ局が制作する1時間のバラエティ番組のうち,演出業務の委託を受け,当該業務を行う場合が該当する。

(4) 人材派遣
 テレビ番組制作会社が,テレビ局等に対し人材を派遣し,テレビ局等の指揮命令下で業務を行う取引。
 例えば,テレビ番組制作会社が,テレビ局に対し人材を派遣し,テレビ局の指示でアシスタントディレクター業務を行う場合が該当する。

5 テレビ番組の著作権の帰属の基本的な考え方

 テレビ番組は,著作権法上,基本的に「映画の著作物(注7) 」として保護されており,映画の著作物の著作者は,「制作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者 (注8)」とされている。また,映画の著作物の著作権については,「その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加していることを約束しているときは,当該映画製作者に帰属する (注9)」ものとされている。
 なお,映画の著作物を制作するに当たって用いられた原作である小説,脚本,音楽等の著作物の著作者は,映画の著作物そのものの著作者とはならないが,それぞれの著作物の著作権について著作権法において保護されている。
 映画製作者については,「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者(注10) 」とされており,テレビ局等とテレビ番組制作会社のどちらが映画製作者となるのかについて考え方が対立することがある。この点については,個々の事案ごとに制作の実態を踏まえて判断されることとなるが,完パケについては制作の委託を受けた番組全体について,一部完パケについては制作の委託を受けた番組の一部について,一般的に,テレビ番組制作会社が映画製作者として発意と責任を有し,テレビ番組制作会社に著作権が帰属するものと考えられている(注11) 。また,制作協力についてはその関与の度合いによってはテレビ番組制作会社にも著作権が帰属する場合がある。

(注7)著作権法第2条第3項
(注8)著作権法第16条
(注9)著作権法第29条
(注10)著作権法第2条第1項第10号
(注11)放送コンテンツの製作取引適正化に関するガイドライン【第三版】(平成26年3月〔総務省〕)によれば,「完全製作委託型番組」とは,「製作会社の発意と責任により製作され,企画,撮影,収録,製作及び編集までをすべて自社の責任で行い,技術的な仕様を満たしていつでも放送できる状態の番組として放送事業者に納品されたものをいう。民放において『完全パッケージ番組』,『完パケ』と呼ばれているものが一般にこれに該当する。このような形態の場合,原則として受注した製作会社に著作権が帰属することになる。」とされている。

6 テレビ番組の二次利用と窓口業務

 テレビ番組は,当初の放送以外に再利用(二次利用)される場合がある。テレビ番組の二次利用の形態は,「再放送への利用」,「ビデオ化(DVD,ブルーレイディスク,CD-ROM等を含む。)」,「番組素材やフォーマット等のコンテンツの利用」,「インターネットによる配信」,「他のテレビ局への番組販売」,「海外への番組販売」等様々である。
 また,テレビ番組を二次利用する際に,取引の相手方との交渉窓口となって契約を行ったり,著作権を有する者に収益配分を行う等の業務のことを窓口業務という。一般的には,窓口業務を行った事業者は,窓口業務の手数料を収受した上で,残りの収益を著作権を有する者に配分している。
 なお,こうした二次利用を行う際には,テレビ番組自体の著作権を有する者のほか,原作である小説,脚本,音楽等の著作権を有する者からも二次利用に関する許諾を得ることが必要である。

第3 調査結果のまとめと評価

1 テレビ局等及びテレビ番組制作会社の概要

(1) 資本金の額
 テレビ局等の多くが資本金5000万円超(87.9%)の事業者である一方,テレビ番組制作会社の多くが資本金5000万円以下(91.7%)の事業者であり,回答のあったテレビ局等とテレビ番組制作会社の多くが下請法の適用対象となり得る事業者であった。

(2) 年間売上高
 テレビ局等の多くが年間売上高10億円超(83.6%)の事業者である一方,テレビ番組制作会社の多くが年間売上高5億円以下(72.2%)の事業者であった。

(3) テレビ番組制作会社の取引先テレビ局等の数
 取引先テレビ局等の数が3名以下のテレビ番組制作会社は42.1%に上り,また,取引先テレビ局等の数が1名のテレビ番組制作会社も15.9%に上っていた。

(4) 取引依存度
 最も年間取引高の多い取引先テレビ局等に対する取引依存度が30%を超えるテレビ番組制作会社は45.4%に上り,また,同取引依存度が50%を超えるテレビ番組制作会社も27.8%に上っていた。

 このように,テレビ番組制作会社は,テレビ局等に比べて事業規模が小さく,特定の取引先テレビ局等との取引に依存している傾向がみられた。

2 テレビ局等とテレビ番組制作会社との取引の状況

(1) 取引形態
 テレビ番組制作会社の主要な取引先テレビ局等との主な取引形態については,「完パケ」が71.7%,「制作協力」が16.5%,「人材派遣」が7.7%,「一部完パケ」が4.2%であった。

(2) テレビ番組のジャンル別の割合
 テレビ番組制作会社の主要な取引先テレビ局等との取引対象となったテレビ番組のジャンル別の割合は,「ニュース・報道・情報」が47.2%と最も多く,次いで「バラエティ」が24.3%であった。

(3) 取引条件の内容
 発注内容,支払金額及び支払期日といった主要な取引条件については,多くのテレビ局等(95%超)がテレビ番組制作の委託を行うに当たり,あらかじめ定めていた。
著作権に関する取引条件については,多くのテレビ局等(71.9%)が「著作権の譲渡・許諾の範囲」についてあらかじめ定めていたものの,「著作権の譲渡対価」は33.5%,「二次利用の窓口業務に関する事項」は28.8%,「二次利用の収益配分に関する事項」は20.3%にとどまり,「著作権の譲渡・許諾の範囲」に比べてあらかじめ定めていた割合が低くなっていた。

(4) 支払制度
 支払制度については,多くのテレビ局等(95.4%)が毎月末日締切,翌月末日支払等(締切日から支払日までが1か月以内)と定めていた。
 また,代金の支払に関する締切基準については,多くのテレビ局等が,完パケ,一部完パケ及び制作協力については「納品日」(86.2%),人材派遣については「派遣日」(88.9%)と定めていたが,「放送日」と定めていたテレビ局等も一定数(完パケ,一部完パケ及び制作協力については27.9%,人材派遣については11.1%)見受けられた。

(5) 書面の交付状況

 取引条件等を記載した書面の交付状況については,多くのテレビ局等が書面を交付していた(84.1%)が,「交付していない」又は「交付しなかったことがある」とのテレビ局等も一定数見受けられた(15.9%)。

(6) 優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為を受けたテレビ番組制作会社の状況
 「採算確保が困難な取引(買いたたき)」,「著作権の無償譲渡等」等の不利益を受け入れたテレビ番組制作会社の全てが,「要請を断った場合に,今後の取引に影響があると自社が判断したため」又は「テレビ局等から今後の取引への影響を示唆されたため」を理由として回答していた。このように,テレビ番組制作会社は,テレビ局等との取引の継続への影響などを考慮して,やむを得ず不利益を受け入れているものであり,こうしたテレビ局等の行為は優越的地位の濫用規制上問題となり得るものである。
 優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為を受けたテレビ番組制作会社の状況は表1のとおりであり,主要な取引先テレビ局等から,優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為を1つ以上受けたと回答したテレビ番組制作会社数は43名(39.4%)であった。
 行為の内容別の状況をみると,「採算確保が困難な取引(買いたたき)」について回答したテレビ番組制作会社が22名(20.2%)と最も多く,次いで「著作権の無償譲渡等」が14名(12.8%)となっていた。

表1 優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為を受けたテレビ番組制作会社の状況
行為の内容 優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為を受けたテレビ番組制作会社数 テレビ番組制作会社の総数に占める割合
採算確保が困難な取引(買いたたき) 22名 20.2%(22/109)
やり直し 13名 11.9%(13/109)
発注内容の変更 7名 6.4%( 7/109)
発注内容以外の作業等 9名 8.3%( 9/109)
発注内容の取消し 1名 0.9%( 1/109)
商品・サービスの購入・利用要請 8名 7.3%( 8/109)
金銭の提供要請 1名 0.9%( 1/109)
役務の提供要請 1名 0.9%( 1/109)
代金の支払遅延 5名 4.6%( 5/109)
代金の減額 8名 7.3%( 8/109)
著作権の無償譲渡等 14名 12.8%(14/109)
二次利用に伴う収益の不配分等 11名 10.1%(11/109)
合計 (注12) 43名 39.4%(43/109)

(注12)複数の行為の内容に係る優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為を受けているテレビ番組制作会社が存在するところ,行為の内容別のテレビ番組制作会社数を合計すると延べ100名となるが,優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為を1つ以上受けたテレビ番組制作会社数として重複を除いて合計すると43名となる。

(7) 優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為を行ったテレビ局等の状況
 前記(6)のテレビ番組制作会社43名に対して優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為を行った取引先テレビ局等の延べ数は97名であり,当該テレビ局等の業態別の状況は表2のとおりである。優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為を行った取引先テレビ局等の延べ数が最も多かった業態は,「地上系放送事業者」で86名であった。

表2 優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為を行ったテレビ局等の状況
テレビ局等の業態 優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為を行った取引先テレビ局等の延べ数
地上系放送事業者 86名
衛星放送事業者 9名
ケーブルテレビ事業者 2名
合計 97名

(8) テレビ番組制作会社の資本金等との相関
ア 資本金との相関
 前記(6)のテレビ番組制作会社43名の資本金の状況をみると,表3のとおりであり,資本金の額が小さいテレビ番組制作会社ほど,優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為を受けた割合が高くなるという傾向がみられた。

イ 取引依存度との相関
 前記(6)のテレビ番組制作会社43名は,取引先テレビ局等延べ97名との取引において当該テレビ局等から優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為を受けており,このうちテレビ番組制作会社の取引依存度が確認できた当該テレビ局等94名との取引について,テレビ番組制作会社の取引依存度の状況をみると表4のとおりであり,取引依存度が高いほど,優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為を受けた割合が高くなるという傾向がみられた。

(9) 消費税の取扱いについて
 テレビ番組制作会社に対し,平成26年4月の消費税率の引上げに際し,主要な取引先テレビ局等とのテレビ番組制作の取引に係る代金について消費税率引上げ分を上乗せできたかを聞いたところ,回答のあった105名のうち,「全て上乗せできた」が101名(96.2%),「一部上乗せできた」が3名(2.9%),「全て上乗せできなかった」が1名(1.0%)であった。
 また,主要な取引先テレビ局等との代金の価格交渉を「本体価格のみで交渉している」と回答した事業者を除くテレビ番組制作会社18名に対し,平成26年4月の消費税率の引上げ以降にテレビ番組制作の取引に係る代金の価格交渉について,外税方式で行いたい旨の申入れをし,受け入れられなかったことがあるかを聞いたところ,回答のあった16名のうち,「ある」が3名(18.8%),「ない」が13名(81.3%)であった。

第4 公正取引委員会の対応

 本調査の結果,テレビ番組制作に関する一部の取引において,テレビ局等による優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為が行われていることが明らかとなった。公正取引委員会としては,テレビ局等によりテレビ番組制作会社に対する優越的地位の濫用規制上問題となるような行為が行われることがないよう注視していく必要がある。
 本調査結果においてテレビ番組制作会社が優越的地位の濫用規制上問題となり得るとされた行為を受けた割合を行為の内容別にみると,採算確保が困難な取引(買いたたき)ややり直しのほかに,「著作権の無償譲渡等」が12.8%,「二次利用に伴う収益の不配分等」が10.1%と著作権の取扱いについての行為が比較的高い割合になっているという特徴があった。これについては,著作権の取扱いに関する契約内容について回答のあったテレビ局等の71.9%が「著作権の譲渡・許諾の範囲」について定めていたものの,「著作権の譲渡対価」については33.5%,「二次利用の窓口業務に関する事項」については28.8%,「二次利用の収益配分に関する事項」については20.3%のテレビ局等が定めているにすぎず,著作権の取扱いに関する事項が十分に明確にされていないことが背景にあると考えられる。この点については,役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針(注13) (以下「役務取引ガイドライン」という。)において,「委託者が成果物等に係る権利の譲渡等に対する対価が含まれることを明示した委託費用を提示するなど,取引条件を明確にした上で交渉する必要がある。また,違反行為を未然に防止するなどの観点からは,可能な場合には,委託者が委託費用を提示する際に権利の譲渡等に対する対価を明示していることが望ましい。」とされているように,テレビ局等はテレビ番組制作会社との間であらかじめ著作権の取扱いについて十分に協議し可能な限り明確にしておくことが必要となる。他方,「著作権の帰属先について協議を求めれば,何らかのプレッシャーがあるかもしれないので,当社からアクションを起こしたことはない」,「著作権の譲渡対価が支払われないことについて不満はあるが,テレビ局等側から今後の取引への影響を示唆されたり,当社側で今後の取引への影響を考慮したりすると,他社が応じている中で当社が応じないわけにはいかない」というように,テレビ番組制作会社側から,著作権の取扱いについてテレビ局等に協議を求めること自体が難しいとする回答もみられるなど,テレビ番組制作会社が厳しい取引環境に置かれていることがうかがえる。公正取引委員会としては,テレビ局等がテレビ番組制作会社に今後の取引に影響が生じる旨を示唆するなどして,著作権の取扱いについて,一方的に自己に有利な条件を定めたり,協議の要請自体をさせないようにする行為は,優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為であることを周知していく必要がある。
 さらに,こうした行為が,下請法上の資本金区分に該当するテレビ局等とテレビ番組制作会社との間で行われた場合,優越的地位の濫用規制上問題となり得ることはもとより,下請法上も問題となり得るところ,本調査の結果においては,優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為を受けたテレビ番組制作会社43名と当該行為を行った取引先テレビ局等延べ97名との取引の約8割が,資本金区分から下請法の適用対象となり得るものであった。中でも,著作権の取扱いに関しては,発注内容に著作権を含まない場合に,テレビ番組制作会社に帰属する著作権をテレビ局等に無償譲渡させる行為は,不当な経済上の利益の提供要請として,また,発注内容に著作権を含む場合に,テレビ局等が著作権の譲渡対価について一方的に著しく低い対価を設定する行為は,買いたたきとして,それぞれ下請法上問題となり得ることに留意する必要がある。
 このため,公正取引委員会は,違反行為の未然防止及び取引の公正化の観点から,本調査結果を公表するとともに,以下の対応を行うこととする。
1(1) テレビ局等を対象とする講習会を実施し,本調査結果並びに役務取引ガイドラインにおける著作権の取扱いに関する考え方も含め優越的地位の濫用規制及び下請法の内容を説明する。
(2) テレビ局等の関係事業者団体に対して,本調査結果を示すとともに,テレビ局等がテレビ番組制作に関する取引の問題点の解消に向けた自主的な取組を行えるよう,改めて優越的地位の濫用規制及び下請法の内容を傘下会員に周知徹底するなど,業界における取引の公正化に向けた自主的な取組を要請する。

2 公正取引委員会は,今後とも,テレビ番組制作に関する取引実態を注視し,優越的地位の濫用規制上又は下請法上問題となるおそれのある行為の把握に努めるとともに,これらの法律に違反する行為に対しては,厳正に対処していく。

(注13)役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針(平成10年3月17日)第2,7(1)参照

問い合わせ先

問い合わせ先 公正取引委員会事務総局経済取引局取引部企業取引課
電話  03-3581-3373(直通)
ホームページ http://www.jftc.go.jp

ページトップへ