平成28年5月25日
公正取引委員会
第1 審査事件に対する公正取引委員会の方針
公正取引委員会は,迅速かつ実効性のある事件審査を行うとの基本方針の下,国民生活に影響の大きい価格カルテル・入札談合・受注調整,中小事業者等に不当に不利益をもたらす優越的地位の濫用や不当廉売など,社会的ニーズに的確に対応した多様な事件に厳正かつ積極的に対処することとしている。
平成27年4月に施行された独占禁止法改正法により,審判制度が廃止され,また,意見聴取手続の制度が導入されたところ,平成27年度においては,同改正法の規定に基づき7件について意見聴取手続を行った。また,独占禁止法審査手続については,その適正性をより一層確保することを求められており,その観点から「独占禁止法審査手続に関する指針」を策定し,職員に周知徹底するとともにその内容を広く一般に共有することとした。
さらに,電子データが事件審査において重要な位置を占めるようになったことを踏まえ,平成27年度には膨大な電子データを迅速に処理できる電子証拠統合管理システムを構築したところであり,これらを活用して電子証拠の解析等に役立てている。
平成27年度における独占禁止法違反事件の処理状況は,次の第2以下のとおりである。
第2 審査事件の概況
1 法的措置等の状況
平成27年度においては,独占禁止法違反行為について,延べ39名の事業者等に対して,9件の法的措置(注1)を採った。法的措置9件の内訳は,価格カルテル2件,入札談合(官公需)4件,受注調整(民需)1件,事業者団体による構成事業者の機能又は活動の不当な制限2件となっている。当該9件の市場規模は,年間約1100億円超である。
(注1) 法的措置とは排除措置命令及び課徴金納付命令であり,1つの事件について,排除措置命令と課徴金納付命令がともに行われている場合には,法的措置件数を1件としている。
図1 法的措置件数と対象事業者等の数の推移
また,法的措置を採るに足る証拠が得られなかった場合であっても,違反の疑いのある行為が認められたときには,関係事業者等に対し,事前説明を行った上で警告・公表を行い,必要に応じ是正措置を採るよう指導しているところであり,平成27年度においては,6件の警告・公表を行った。
2 課徴金納付命令等の状況
平成27年度においては,延べ31名の事業者に対して,総額85億1076万円の課徴金納付命令を行った。一事業者当たりの課徴金額は2億7454万円(注2)であった。
(注2) 一事業者当たりの課徴金額については,1万円未満切捨て。
図2 課徴金額等の推移
(注)課徴金額については,千万円未満切捨て。
図3 一事業者当たりの課徴金額の推移
(注) 課徴金額については,1万円未満切捨て。
価格カルテル・入札談合等の不当な取引制限に対する課徴金算定率については,違反を繰り返した事業者又は違反行為において主導的な役割を果たした事業者に対する算定率の5割の割増し及び早期に違反行為をやめた事業者に対する算定率の2割の軽減が適用されることとなっている(注3)。
平成27年度においては,主導的な役割を果たした事業者に対する割増算定率が2件(注4)における延べ4名に対して,また,早期に違反行為をやめた事業者に対する軽減算定率が3件における延べ11名に対して,それぞれ適用された。
(注3)[1] 調査開始日から遡り,10年以内に課徴金納付命令を受けたことがある場合,又は違反行為において主導的な役割を果たした場合,5割加算した率を適用(例えば,製造業(中小事業者以外)にあっては,課徴金算定率が10パーセントであるところ15パーセントに,また,両方の場合を満たすときは20パーセントに,それぞれ割増しされる。)。
[2] 違反行為の期間が2年未満で,調査開始日の1か月前までに違反行為をやめていた場合,2割軽減した率を適用(例えば,製造業(中小事業者以外)にあっては,課徴金算定率が10パーセントであるところ,8パーセントに軽減される。)。
(注4) 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構が発注する北陸新幹線消融雪設備工事の入札参加業者らによる入札談合事件及び東北地区の地方公共団体が発注するポリ塩化アルミニウムの製造販売業者による入札談合事件において適用。
3 刑事告発の状況
公正取引委員会は,平成2年6月に「独占禁止法違反に対する刑事告発に関する公正取引委員会の方針」(注5)を公表し,価格カルテル・入札談合その他の違反行為であって,国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な事案や違反行為を繰り返す等の公正取引委員会の行政処分では独占禁止法の目的が達成できないと考えられる事案について,積極的に刑事処分を求めて告発を行うこととしている。
平成27年度においては,東日本高速道路株式会社東北支社が発注する東日本大震災に係る舗装災害復旧工事の入札談合事件について,平成28年2月29日,入札参加業者10社及び当該10社の当該道路工事の請負等の業務に従事していた者11名を,検事総長に告発した。当該事件は,[1]上場企業を含む全国的に事業活動を行っている事業者により行われたものであり,[2]国費がその財源の大部分を占める舗装災害復旧工事に係るものであって,納税者に損失を与えるものであり,[3]受注調整の対象とされた工事の落札価格の合計が税込み約177億円と巨額にのぼり,[4]被告発会社は過去にも公正取引委員会の行政処分を受けているものであった。
(注5) 同方針(平成17年及び平成21年に一部改定)については,以下のリンク先を参照。
http://www.jftc.go.jp/dk/dk_qa_files/kokuhatsuhoushin.pdf
4 申告の状況
平成27年度において,独占禁止法の規定に違反すると考えられる事実について公正取引委員会に寄せられた報告(申告)の件数は,6,331件であった。
申告が書面で具体的な事実を摘示して行われるなど一定の要件を満たした場合には,申告者に対して措置結果等を通知することとされているところ,平成27年度においては,5,826件の通知を行った。
図4 申告件数の推移
5 課徴金減免制度
課徴金減免制度に基づき,事業者により自らの違反行為に係る事実の報告等が行われた件数は,平成27年度において,102件であった(平成18年1月の制度導入時から平成27年度末までの累計は938件)。
また,平成27年度においては,価格カルテル・入札談合・受注調整事件7件における延べ19名の課徴金減免制度の適用事業者について,当該事業者からの申出により,これらの事業者の名称,減免の状況等を公表した(注6)。
(注6) 公正取引委員会は,課徴金減免制度の適用を受けた事業者から公表の申出がある場合には,課徴金納付命令を行った際に,公正取引委員会のウェブサイト上に,当該事業者の名称,所在地,代表者名及び免除の事実又は減額の率等を公表することとしている。
ウェブサイト http://www.jftc.go.jp/dk/seido/genmen/kouhyou/index.html
表1 課徴金減免申請件数の推移
年度 | 21 (注7) |
22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 累計 (注8) |
申請 件数 |
85 | 131 | 143 | 102 | 50 | 61 | 102 | 938 |
(注7) 平成21年独占禁止法改正法(平成21年法律第51号)により,平成22年1月1日から課徴金減免制度が拡充されている([1]減免申請者数の拡大:調査開始前と開始後で併せて5社まで(ただし,調査開始後は最大3社まで)に拡大する。[2]共同申請:同一企業グループ内の複数の事業者による共同申請を認める。)。
(注8) 課徴金減免制度が導入された平成18年1月4日から平成28年3月末までの件数の累計。
表2 課徴金減免制度の適用状況
年度 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 累計 (注9) |
課徴金減免制度の適用が 公表された法的措置件数 |
21 | 7 | 9 | 19 | 12 | 4 | 7 | 109 |
課徴金減免制度の適用 が公表された事業者数 |
50 | 10 | 27 | 41 | 33 | 10 | 19 | 264 |
(注9) 課徴金減免制度が導入された平成18年1月4日から平成28年3月末までの件数の累計。
第3 行為類型別の事件概要
1 価格カルテル・入札談合・受注調整事件
(1) 価格カルテル事件
平成27年度においては,アルミ電解コンデンサ及びタンタル電解コンデンサの製造販売業者らによる価格カルテル事件について,2件の法的措置を採った。
アルミ電解コンデンサ及びタンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げる旨を合意していた。 (平成28年3月29日 排除措置命令(2件)及び課徴金納付命令) |
(2) 入札談合事件
平成27年度においては,独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構が発注する北陸新幹線消融雪設備工事の入札参加業者らによる入札談合事件,並びに東北地区,新潟地区及び北陸地区の地方公共団体が発注するポリ塩化アルミニウムの製造販売業者による入札談合事件について4件の法的措置を採ったほか,東日本高速道路株式会社東北支社が発注する東日本大震災に係る舗装災害復旧工事の入札談合事件について刑事告発を行った。
独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構が発注する北陸新幹線消融雪設備工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。 |
東北地区,新潟地区及び北陸地区における特定ポリ塩化アルミニウムについて,供給予定者を決定し,供給予定者が供給できるようにしていた。 |
東日本高速道路株式会社東北支社が発注する東日本大震災に係る舗装災害復旧工事について,共同して,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。 |
(3) 受注調整事件
平成27年度においては,農業協同組合等が北海道の区域において発注する穀物の乾燥・調製・貯蔵施設工事等の施工業者による受注調整事件について,1件の法的措置を採った。
農協等が発注する穀物の乾燥・調製・貯蔵施設工事等について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。 (平成28年2月10日 排除措置命令及び課徴金納付命令) |
2 中小事業者等に不当に不利益をもたらす不公正な取引方法
(1) 優越的地位の濫用
優越的地位の濫用行為に係る調査を効率的かつ効果的に行い,必要な是正措置を講じていくことを目的とした「優越的地位濫用事件タスクフォース」を設置し,調査を行っているところ,平成27年度においては,51件の注意を行った(別添参照)。
(2) 不当廉売
平成27年度においては,レギュラーガソリンの不当廉売事件について,2件の警告を行った。
このほか,酒類,石油製品,家庭用電気製品等の小売業に係る不当廉売の申告に対し迅速処理(注10)を行い,不当廉売につながるおそれがあるとして841件の注意を行った(表3)。
(注10) 原則として,申告のあった不当廉売事案に対し可能な限り迅速に処理する(原則2か月以内)という方針に基づいて行う処理をいう。
愛知県常滑市において給油所を運営する石油製品小売業者2社が,レギュラーガソリンについて,不当廉売を行っていた疑い。 |
表3 平成27年度の不当廉売事案の注意件数(迅速処理によるもの)
酒類 | 石油製品 | 家電製品 | その他 | 合計 | |
注意件数 | 490 | 341 | 3 | 7 | 841 |
図5 不当廉売事案の注意件数の推移
3 事業者団体による事件
平成27年度においては,水先人会による構成事業者の機能又は活動の不当な制限事件について,2件の法的措置を採った。
また,私立小学校連合会4団体による一定の取引分野における競争の実質的制限事件について,4件の警告を行った。
東京湾水先区水先人会及び伊勢三河湾水先区水先人会は,それぞれ,各会員が自らの判断により水先の利用者と契約して水先を引き受けることを制限し,各会員に代わって水先の利用者から収受した水先料をプールし,頭割りを基本とする計算方法により各会員に配分することにより,構成事業者の機能又は活動を不当に制限している。 |
西日本私立小学校連合会,京都私立小学校連合会,大阪府私立小学校連合会及び兵庫県私立小学校連合会が,それぞれ,加盟校間における児童の転出入を制限し,また,小学校の新設を予定していた学校法人に対し,当該小学校の転入学試験の実施に際して,京都府及びその近隣府県,京都府,大阪府又は兵庫県の私立小学校からの児童の転入を受け入れないことを要望し,各地域における私立小学校が提供する教育サービスの取引分野における競争を実質的に制限していた疑い。 |
4 事業者団体等への要請
○ 日本水先人会連合会及び国土交通省に対する要請(平成27年4月15日)
東京湾水先区水先人会及び伊勢三河湾水先区水先人会による構成事業者の機能又は活動の不当な制限事件において,日本水先人会連合会が,水先の引受けに関する事務要領の雛形に水先の利用者からの指名の制限につながる受付条件を規定し,水先人会に示した行為は,東京湾水先区水先人会及び伊勢三河湾水先区水先人会の違反行為の一部の行為を誘発したものと認められることから,同連合会に対し,雛形を見直すとともに,今後,水先人会が違反行為と同様の行為を行うことのないように,全国の水先人会に対する指導方要請した。 さらに,全国の水先人会を所管する国土交通省に対し,今後,水先人会が違反行為と同様の行為を行うことのないように,全国の水先人会を指導するよう要請を行った。 |
第4 独占禁止法違反に係る行政処分に対する取消訴訟
平成27年度に当委員会が行った独占禁止法違反に係る法的措置について,同年度中に取消訴訟が提起されたものはなかった。
なお,同年度中に当該取消訴訟の出訴期間が徒過した事件はなかった。
第5 審判及び審決等の概要
平成27年度中に係属していた審判事件数(注11)は276件(うち139件は課徴金納付命令に係るもの)である。平成27年度においては,審判手続を開始した事件はなく,1件の審判再開を行い,16件の審決を行った。内訳は,排除措置命令に係る審判請求棄却審決4件,排除措置命令を取り消し,違反行為があった旨等を明らかにする審決2件,排除措置命令の一部を取り消す審決1件,課徴金納付命令に係る審判請求棄却審決7件及び課徴金納付命令の一部を取り消す審決2件である。
この結果,平成28年3月末時点では260件の審判事件が係属中である。
(注11) 審判事件数は,行政処分に対する審判請求ごとに付される事件番号の数である。
図6 審判係属事件数の推移
1 排除措置命令に係る審決
(1) 審判請求棄却審決
平成27年度においては,次の合計4件の排除措置命令に係る審判請求棄却審決を行った。
・ VVFケーブルの製造業者及び販売業者による価格カルテル事件に係るもの1件
・ エアセパレートガスの製造業者及び販売業者による価格カルテル事件に係るもの1件
・ 塩化ビニル管及び同継手の製造販売業者による価格カルテル事件に係るもの2件
(2) 排除措置命令を取り消し,違反行為があった旨等を明らかにする審決
平成27年度においては,次の2件の排除措置命令を取り消し,違反行為があった旨等を明らかにする審決を行った。
・ テレビ用ブラウン管の製造販売業者らによる価格カルテル事件に係るもの2件
(3) 排除措置命令の一部を取り消す審決
平成27年度においては,次の1件の排除措置命令の一部を取り消す審決を行った。
・ 子供・ベビー用品の小売業者による優越的地位の濫用事件に係るもの1件
2 課徴金納付命令に係る審決
(1) 審判請求棄却審決
平成27年度においては,次の合計7件の課徴金納付命令に係る審判請求棄却審決を行った。
・ VVFケーブルの製造業者及び販売業者による価格カルテル事件に係るもの1件
・ テレビ用ブラウン管の製造販売業者らによる価格カルテル事件に係るもの4件
・ エアセパレートガスの製造業者及び販売業者による価格カルテル事件に係るもの1件
・ 塩化ビニル管及び同継手の製造販売業者による価格カルテル事件に係るもの1件〔積水化学工業株式会社〕
(2) 課徴金納付命令の一部を取り消す審決
平成27年度においては,次の合計2件の課徴金納付命令の一部を取り消す審決を行った。
・ 子供・ベビー用品の小売業者による優越的地位の濫用事件に係るもの1件
・ 塩化ビニル管及び同継手の製造販売業者による価格カルテル事件に係るもの1件〔三菱樹脂株式会社〕
第6 審決取消請求訴訟
平成27年度当初において係属中の審決取消請求訴訟の件数(注12)は7件であったが,平成27年度中に新たに5件の審決取消請求訴訟が提起されたため,平成27年度に係属した審決取消請求訴訟は12件となった(別表第10表参照)。
平成27年度においては,これらのうち,東京高等裁判所において,原告の請求を棄却する判決がなされたものが2件(うち1件は上訴期間の経過をもって確定,1件は原告が上訴)あった。また,最高裁判所において,原告からの上訴(上告又は上告受理申立て)に対する終局決定(上告棄却又は上告不受理決定)がなされたものが4件,原告の請求を認容する東京高等裁判所の判決に対し公正取引委員会が行った上告受理申立てに対する上告受理決定及び上告棄却判決がなされたものが1件あった。
この結果,平成28年3月末時点では6件の審決取消請求訴訟が係属中である。
(注12) 審決取消請求訴訟の件数は,訴訟ごとに裁判所において付される事件番号の数である。
関連ファイル
(印刷用)(平成28年5月25日)平成27年度における独占禁止法違反事件の処理状況について(PDF:1,571KB)
問い合わせ先
第1から第4までに関する問い合わせ 公正取引委員会事務総局審査局管理企画課
電話 03-3581-3381(直通)
第5及び第6に関する問い合わせ 公正取引委員会事務総局官房総務課審決訟務室
電話 03-3581-5478(直通)
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