平成29年7月12日
公正取引委員会事務総局
競争政策研究センター
競争政策研究センターは,人材と競争政策に関する検討を行うため,以下のとおり,関係の有識者からなる「人材と競争政策に関する検討会」を開催する。
1 背景
終身雇用の変化やインターネット上で企業と人材のマッチングが容易になったことなどを背景として,フリーランスや副業など就労形態が多様化し,雇用契約以外の契約形態が増加している。技能人材など一部職種については,需給が逼迫しているとの指摘がある(注1)。
(注1) 例えば,2016年度に行われた調査によれば,IT企業の20.3%がIT人材が大幅に不足していると認識しており,同66.6%がIT人材がやや不足していると認識している(「IT人材白書2017」独立行政法人情報処理推進機構)。
就労形態を問わず,国民が自由に就労し,働きがいを得るとともに,その労働の価値を適切に踏まえた正当な報酬を受け,また,他方で,使用者が有為な人材を適切に獲得することができるためには,使用者による人材獲得競争が適切に行われることが重要となる可能性がある。
(参考) 米国では,IT人材について一部企業間での労働者の引き抜き防止協定についての競争法上の事件を背景に(注2),そのような協定の締結など一定の行為が反トラスト法に違反する旨のガイドラインが昨秋,公表された(司法省等)。
(注2) Adobe Systems Inc.らに対する件(司法省の提訴を受け,2011年3月17日連邦地裁判決),eBay Inc.らに対する件(司法省の提訴を受け,2014年9月2日連邦地裁判決)
2 「人材と競争政策に関する検討会」の設置
就労形態を巡る上記の環境変化を踏まえ,使用者の人材獲得競争等に関する独占禁止法の適用関係(適用の必要性,妥当性)を理論的に整理するため,「人材と競争政策に関する検討会」を設置する。
検討会においては,主として,複数又は単独の使用者による引き抜きの防止,賃金の抑制に関する協定の締結,転職・転籍や取引先の制限といった競争を制限する可能性のある行為に関して,内外の実態・判例(注3)(注4),労働関係法制における規律の状況,一般的な財とは異なる人材の獲得競争の特殊性,当事者の自治の状況,使用者による人材投資を促進する必要性等を踏まえつつ,独占禁止法や競争政策上の課題を理論的に整理する。
なお,特定の業種・職種固有の事項や個別の取引慣行の評価は検討対象としない。
(注3) 米国及びEUでは,人的特殊性を有する技能人材であるスポーツ選手の移籍(サッカー,アメリカンフットボール等)に関して,競争法の観点からも取り扱った判例等が複数存在する。
(注4) 我が国においても,「松竹株式会社ほか5名に対する件」(昭和38年3月20日不問決定。参考参照)があるほか,高度な技能を要する一部の職種について,独立・移籍を制限する慣行が存在するとの指摘がある。
3 今後の予定
検討会は,別紙に掲げる有識者により構成する。また,文部科学省(スポーツ庁),厚生労働省及び経済産業省がオブザーバーとして参加する。
なお,庶務は,公正取引委員会事務総局(経済取引局経済調査室)において処理する。
・ 月1回を目途として検討会を開催する。
(初回開催は平成29年8月4日(金曜))
・ 検討会は,委員による自由闊達な意見交換の妨げにならないよう,原則として,非公開とするが,議事要旨を速やかに公表する。
人材と競争政策に関する検討会委員名簿
荒木 尚志 | 東京大学大学院法学政治学研究科教授 |
大橋 弘 | 東京大学大学院経済学研究科教授 |
風神 佐知子 | 中京大学経済学部准教授 |
川井 圭司 | 同志社大学政策学部教授 |
神林 龍 | 一橋大学経済研究所教授 |
座長 泉水 文雄 | 神戸大学大学院法学研究科教授 |
高橋 俊介 | 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授 |
多田 敏明 | 日比谷総合法律事務所 弁護士 |
土田 和博 | 早稲田大学法学学術院教授 |
中窪 裕也 | 一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授 |
中村 天江 | リクルートワークス研究所労働政策センター長 |
和久井 理子 | 大阪市立大学大学院法学研究科特任教授 |
(オブザーバー)
文部科学省(スポーツ庁)
厚生労働省
経済産業省
[五十音順,敬称略,役職は平成29年7月12日現在]
参考
松竹株式会社ほか5名に対する件
(昭和38年3月20日不問決定)
松竹株式会社,東宝株式会社,大映株式会社,東映株式会社,株式会社新東宝および日活株式会社の6社(以下「6社」という。)は,いずれも映画の製作,配給および興行を営む者である。6社のうち日活株式会社を除く5社は,昭和28年9月,5社以外の映画製作業者が5社と雇傭または出演契約をした芸術家または技術家を出演させて製作した映画を5社の系統上映館に配給しない旨の条項を含む協定を行ったが,昭和32年7月18日,この協定にさらに日活株式会社が参加して前記5社の協定と同趣旨の協定を締結した。この協定にもとづき,6社は,独立映画株式会社が東映株式会社と雇傭契約をしていた芸術家を出演させて製作した映画を,同年7月下旬,6社の系統館に配給することを拒否した。
以上の事実によれば,6社は,それぞれ,6社以外の製作業者が6社と契約している芸術家または技術家を使用して製作した映画を,不当に6社の系統館に配給しないことにしているものであって,法第19条(一般指定の1該当)に違反する疑いがあった。
しかしながら,株式会社新東宝がこの協定から脱退したのを機として,5社は,昭和38年2月11日,前記協定中違反の疑いのある条項を削除し,その後このような行為を繰り返しておらず,違反被疑行為は消滅したと認められたので,本件は不問に付した。
(出典:公正取引委員会年次報告(昭和37年度),124頁)
関連ファイル
(印刷用)(平成29年7月12日)「人材と競争政策に関する検討会」の開催について(PDF:258KB)
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