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海外当局の動き

海外当局の動き

最近の動き(2025年10月更新)

米国

DOJ、米国最大の家主Greystarとの同意判決案を提案、アルゴリズムによる価格設定スキーム終了へ

2025年8月8日 米国司法省 公表

原文

【概要】

背景   
1 2025年8月8日、米国司法省(以下「DOJ」という。)反トラスト局は、全米の賃貸市場におけるアルゴリズムを通じた協調その他の反競争的行為に対する継続的な執行措置の一環として、Greystar Management Services LLC(以下「Greystar」という。)に対する司法省の申立てを解決するための 同意判決案を裁判所に提出した。

2 Greystarは、サウスカロライナ州チャールストンに本社を置き、住宅不動産管理業を営んでいる。米国最大の家主であるGreystarは、全米で約95万戸の賃貸物件を管理している。訴状によれば、Greystar及び共同被告5社を含む他の家主は、競争上機微なデータを共有し、RealPage(テキサス州リチャードソンに本社を置く不動産管理ソフトウェア企業)のアルゴリズムを使用して推奨賃貸料を生成していた。同アルゴリズムには、競合他社間の価格を一致させるような反競争的な仕組みも組み込まれていた。また、Greystar及び他の家主は、価格戦略、賃料、RealPageのソフトウェアで使用する特定パラメータなど競争上機微な事項についても直接協議していた。

3 パメラ・ボンディ司法長官は、次のように述べた。
「米国の偉大さは常に市場における自由な競争にかかっている。住宅を再び手頃な価格にする上で競争ほど重要なものはない。我々は、引き続き、トランプ大統領の消費者を重視する政策を強力に推進していく。」

4 アビゲイル・スレーターDOJ反トラスト局長は、次のように述べた。
「トランプ・バンス政権は、労働者階級の米国民が家賃を含む生活必需品を支払えるよう競争促進に取り組んでいる。密室での協議であれ、アルゴリズムを通じたものであれ、競合他社と競争上機微な情報を共有したり、米国の消費者を害するような価格調整を行ったりしてはならない。」

5 裁判所が承認した場合、Greystarは、同意判決により、以下の義務を負う。
 (1) 競合他社の競争上機微なデータを使用して推奨賃貸料を生成する反競争的アルゴリズム、又は特定の反競争的な仕組みを含むアルゴリズムを使用しないこと。
 (2) 競争上機微な情報を競合他社と共有しないこと。
 (3) 同意判決で定められた条件(注1)に基づいて認証されていない第三者の価格設定アルゴリズムを使用する場合、裁判所によって任命された監督者を受け入れること。
 (4) 競合する家主が参加するRealPage主催の会合に出席・参加しないこと。
 (5) RealPageに対する米国における独占的行為に関する訴訟(注2)に協力すること。
(注1)①他の事業者の非公開データを利用して推奨価格を生成しないこと、②自社物件の競争上機微な情報を競合他社と共有しないこと。 
(注2)2025年1月7日に、RealPageのアルゴリズムによる価格設定に参加し、賃借人に損害を与えたとして全米最大手の家主6社(Greystarを含む)を被告に追加する修正訴状をDOJ及び州が裁判所に提出している。

6 Tunney法の規定に基づき、同意判決案は競争上の影響に関する記述とともに連邦官報に掲載される。何人も60日間の意見募集期間中に、DOJ反トラスト局技術・デジタルプラットフォーム課長代理宛てに同意判決案に関する意見書を提出することができる。ノースカロライナ州中部地区連邦地方裁判所は、60日間の意見募集期間終了後、公共の利益に適うと判断した場合、最終判決を下すことができる。

その他

オーストラリア

グーグル、オーストラリアにおけるグーグル検索に関する競争法違反を認める

2025年8月18日 オーストラリア競争・消費者委員会 公表
原文

【概要】

1 オーストラリア競争・消費者委員会(以下「ACCC」という。)は、本日、Google Asia Pacific Pty Ltd(以下「グーグル・アジア」という。)に対して、競争制限的合意に基づく行為に関し、連邦裁判所に対する訴訟手続を開始した。すなわち、グーグル・アジアは、かつてTelstra 及びOptus(注1)とそれぞれアンドロイド携帯にグーグル検索を事前搭載する旨の合意(以下「本件合意」という。)をしたことを認めている。
(注1)いずれもオーストラリア国内の主要な通信事業者。

2 グーグル・アジアは ACCC に協力し、自己に責任があることを認め、連邦裁判所に対し、総額5500万豪ドル(約60億円)の制裁金を課すべき旨を共同で裁判所に申し立てたところである。同裁判所が当該制裁金及び他の命令の妥当性を審理することになる。 

3 本件合意は、2019年12月から2021年3月まで存在し、Telstra及びOptus に対し、販売するアンドロイド携帯においてグーグル検索を独占的に事前搭載し、他の検索エンジンを搭載しないことを要求するものであった。その対価として、両社はグーグルが当該端末上でグーグル検索 を用いて表示される広告から得られる収益の一部を受領していた。グーグル・アジアは、本件合意が競争を実質的に制限する効果をもたらした可能性が高いことを認めている。

4 グーグル(注2)は、ACCCが指摘する、より広範な競争上の懸念に対処するため、2017年以降のグーグルとアンドロイド端末メーカー、オーストラリア通信事業者間の契約について、法的拘束力のある確約をACCCに提出し、受理された。グーグルはACCCが指摘した懸念の全てに同意するものではないが、これらの懸念に対処するための確約を提案した。
(注2)本件の被告はグーグル・アジアである。ただし、ACCC公表文中における「Google」は、親会社であるGoogle LLCを含むグループ全体を指すものであり、以下では「グーグル」と記載する。

5 確約の中で、グーグルは、アンドロイド端末メーカーや通信事業者との契約から、特定のプリインストール(訳注:端末出荷時にグーグル検索のみをあらかじめインストールすること)及びデフォルト検索エンジンの制限を撤廃することを約束した。

6 グーグルのこの確約は、昨年(2024年)、Telstra、Optus及びTPGが提出した法的拘束力のある確約に追加されるものである。ACCCは、通信事業者とグーグルとの契約に関する競争上の懸念を解消するため、これらの通信事業者による確約を受け入れた。これらの通信事業者は本日開始された訴訟の当事者ではない。

7 ACCCのゴットリーブ委員長は、次のように述べた。
 (1) 競争を制限する行為は、通常、消費者の選択肢減少、コスト上昇、サービス悪化を意味するため、オーストラリアでは違法である。
 (2) 本日の結果と、Telstra、Optus及びTPGによる確約により、将来的に数百万のオーストラリア人がより多くの検索選択肢を得られる可能性が生まれた。また、競合する検索プロバイダーがオーストラリアの消費者に対して実質的な接触機会を得る可能性も生まれた。
 (3) 重要なのは、こうした変化が、AI検索ツールが情報検索の方法を刷新し、新たな競争を生み出している時期に起こっている点である。

8 ACCCがTelstraとOptus(2024年6月)、TPG(2024年8月)から受け入れた法的拘束力のある確約において、各社は供給するアンドロイド端末において、グーグル検索を独占的にプリインストールし、デフォルト検索機能に設定することを要求する契約を更新し、又は新規に締結しないことを約した。

9 これらの通信事業者3社は、検索サービスを端末ごとに設定でき、その設定がグーグルの設定と一致しない場合もある。また、他の検索プロバイダーとプリインストール契約を結ぶことも可能である。

10 本日の手続は、ACCCのデジタルプラットフォームサービスを対象にした調査の一環として公表された 検索デフォルトと選択画面に関する報告書(2021年10月28日公表)(注3)で、グーグル検索の契約条件に関し広範な競争上の懸念が指摘された後、ACCCによる長期間にわたる調査を経て行われたものである。
(注3)同報告書は、競争上の懸念として、①検索エンジンのデフォルト設定による排他性、②選択画面の不備、③新しい検索エンジンに対する参入障壁の存在を挙げている。

11 ゴットリーブ委員長は、次のように述べた。
(1)AI検索ツールがますます普及するにつれ、消費者はモバイル端末で検索サービスを試すことが可能となる。
(2)ACCCとの協力は推奨される。これにより長期化・高額化する訴訟を回避でき、競争促進につながる。市場における競争の活性化は経済の活力を生むが、市場が十分に競争的でない場合、その逆もまた生じる。
(3)今後も、ACCCは、このような反競争的行為やカルテル行為への対応に注力する。デジタル経済における競争問題は現在の重点分野である。


ドイツ

CO₂パイプライン協力プロジェクトに関する競争法の観点からの検討

2025年8月5日 ドイツ連邦カルテル庁 公表
原文

【概要】

1 ドイツ西部で最大のガス送管事業者であるOpen Grid Europe GmbH(以下「OGE」という。)は、ドイツ東部のガス送管事業者であるONTRAS Gastransport GmbH(以下「ONTRAS」という。)及びベルギーのガス送管事業者であるFluxys S.A.(以下「Fluxys」という。)それぞれとの協力により、2件のCO₂パイプライン建設プロジェクト(以下「協力プロジェクト」という。)を計画している。OGEは、投資額が数十億ユーロに及ぶことを理由に、これらの協力プロジェクトに関し競争法上の懸念があるか否かについて、ドイツ連邦カルテル庁(以下「連邦カルテル庁」という。)にガイダンス(注1)を求めていた。
(注1)事業者は、連邦カルテル庁に対し、競争法上の懸念の有無を確認するための「非拘束的なインフォーマルガイダンス(informal guidance)」を求めることができる。

2 連邦カルテル庁ムント長官は、次のように述べた。
 「現時点において、この協力がなかったとしても、関係企業が数年以内に競合するようなパイプラインプロジェクトを推進するとは考えにくいため、両協力プロジェクトに関して重大な競争上の懸念は生じない。しかしながら、具体的に協力プロジェクトを進めるにあたり、当事者は競争法の基本的枠組みを厳守する必要がある。関係企業は他の分野において競合関係にあるとみなされるため、プロジェクトを実施するために必要な範囲での協力に限定する必要がある」

3 有害なCO₂排出削減に向けて、将来的には一部の産業プロセスに由来するCO₂を回収し、地下又は海中に長期間貯留させる、いわゆる「CCS(Carbon Capture and Storage)技術」が利用される。本件では、廃棄物焼却及び石灰・セメントの製造に伴って排出されるCO₂を回収することが想定されている。建設計画中のCO₂パイプラインは、回収されたCO₂を、北海及びデンマーク本土に所在する既存又は計画中の海洋貯留施設へ輸送することを目的としている。

4 OGEとONTRAS間の協力プロジェクトにおいては、両社は排出量の多い産業地域と輸出拠点とするのにふさわしい地域とを結ぶCO₂パイプラインを建設し、各社がそれぞれの区間を担当する計画とされている。一方、OGEとFluxys間の協力プロジェクトにおいては、OGEがドイツ西部及び南部からベルギーとの国境までのパイプライン網を構築し、同国境以降はFluxysがベルギー国内を経由し、ゼーブルージュ(Zeebrugge)を終点とするCO₂パイプラインを建設する計画である。既存の天然ガスパイプラインはCO₂輸送への転用が不可能であるため、両協力プロジェクトにおいて新規パイプラインの建設が不可欠である。新たに建設されるパイプラインはこれら企業の既存の天然ガスパイプラインインフラにほぼ沿った形で敷設される見込みである。

5 両協力プロジェクトでは、各社が自らの建設を担当するパイプライン区間について事前に合意済である。CO₂パイプラインの規模やルートの調整には、インフラ管理を行う各社間の一定の情報交換も必要とされる。また、投資の確実性を確保するため、いわゆる「アンカー顧客」(注2)との長期契約の設定も計画に含まれている。
(注2)事業に対する投資回収や収益確保を安定させる基幹的な顧客のこと。

6 両協力プロジェクトの競争法上の評価に際しては、同プロジェクトがまだごく初期段階にあることを考慮すべきである。また、CO₂輸送市場は急速に変化していることから、将来的に個々の要素を再評価する必要性が生じるかもしれない。CO₂輸送の需要が急激に高まった場合、競合するプロジェクトが現れる可能性もある。そのような新規プロジェクトは、競争法に基づくより厳格な審査が求められるだろう。一般的に、関係企業は、他社との協力が競争法に準拠していることを確保する責任がある。

 

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