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海外当局の動き

海外当局の動き

最近の動き(2024年3月更新)

米国

FTC、「AI及びクリエイティブ分野のパネルディスカッション」から得られた要点に関するスタッフレポートを公表

2023年12月18日 米国連邦取引委員会 公表

原文

【概要】
 米国連邦取引委員会(以下「FTC」という。)のスタッフは、2023年10月に開催された、テキスト、画像、音声等をコマンドボタン押すだけで生成できるツールである生成人工知能(以下「生成AI」という。)が、音楽、映画制作、ソフトウェア開発、その他のクリエイティブ分野における専門家ら(以下「クリエイター」という。)にどのように使用され、どのような影響を及ぼしているかを検証した公開バーチャル会議の要点について詳述したスタッフレポートを作成した。
 
 公開バーチャル会議では、アーティスト、作家、俳優、ミュージシャン、その他のクリエイティブ分野を代表する現役のクリエイターらが、生成AIには自分たちの作業を助ける可能性があるなどの利点がある一方で、以下のような懸念があることも表明した。
 
・ 同意のない収集:参加者であるクリエイターは、過去の契約が拡大解釈されるなどして、彼らの同意や認識なしに過去の作品が収集され、生成AIモデルを訓練するために使用されていることを指摘した。
・ 非開示: 参加者はまた、多くの生成AI開発者が、どのような作品を学習データに使用しているかを公表していないため、自分の作品が使用されていることすら把握できていないかもしれないとの懸念を表明した。
・ 作品における生成AIとの競合: 参加者は、クリエイターが作品を競い合う場に生成AIによる生成結果が現れ始めており、消費者や将来性のあるコンテンツ提供事業者が人間の手による作品を見つけることを難しくしている可能性があると述べた。
・ スタイルの模倣:生成AIツールが独自のスタイル、ブランド、声、肖像を模倣するために使用され、見知らぬ人や元顧客が合成音声や画像を含む模倣品を製造できるようになることについて懸念を表明した参加者もいた。
・ 虚偽の推薦: 参加者によると、生成AIは、アーティストが決して推薦していない商品を販売する虚偽の描写を作成したり、クローン音声を使用して攻撃的なコンテンツを生成する荒らしに使用されたりしているという。
 
 参加者は、アーティストが自分の作品を生成AIに使用させないオプトアウト方式を選択できるようにし始めている生成AI事業者もいるが、この方式は、急速に変化する市場における意図しない使用を監視するコストをクリエイターに強いることになる上、将来の事案にしか対応できず、生成AI開発者側の透明性の欠如を考えると、実施は難しいと指摘した。そして、オプトアウト方式ではなく、生成AI開発者に対し、アーティストの作品を使用する際に、アーティストが自分の作品を生成AIに使用させるかどうかをコントロールできるようにするオプトイン方式を採用するよう促した。
 
 本スタッフレポートは、公開バーチャル会議で提起された懸念事項の多くはFTCの所掌範囲を超えるものであるものの、FTCが既存の権限を使って生成AI関連市場において的を絞った執行を行うことは、公正な競争を保護し、不公正又は欺瞞的な行為や慣行を防止するのに役立つと指摘している。本スタッフレポートは、FTCが引き続き生成AI業界の動向を注意深く監視し、公正な競争を促進し、消費者を保護し、この変革を続ける技術から人々が利益を得られるようにするために、いつでも法執行及び政策手段を駆使することができると述べている。
 
 FTCは、3対0の賛成多数で議決し、本スタッフレポートを発行することを決定した。

英国

CMA、環境サステナビリティ協定に関する初の非公式な助言(ガイダンス)を公表

2023年12月14日 英国競争・市場庁 公表
 英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は、2023年10月に公表した環境サステナビリティ協定に関するガイダンス(Green Agreements Guidance)に規定されたオープンドア・ポリシーに基づき、フェアトレード財団(Fairtrade Foundation)(注1)からの照会に対して、初の非公式な助言(ガイダンス)を公表した。
 
(注1)英国に本部を置くNPO団体で、従来の貿易における不公正に取り組み、特に英国で小売される製品が国際的に合意されたフェアトレード基準に従って生産されたことを保証するフェアトレード・マークの普及とライセンス供与を通じて、開発途上国の恵まれない生産者を支援することを目的としている。
 
1 フェアトレード財団からの照会内容
(1)フェアトレード財団は、生産に伴う環境負荷を低減する農法等、サステナブルな農法に投資するために必要な保証を生産者に提供することを目的とした「シェアード・インパクト・イニシアティブ」に参加する生産者と小売業者との間で締結するバナナ、コーヒー及びココアのフェアトレード商品に関する長期的な供給契約についての1998年競争法上の考え方をCMAに照会した。
 
(2)シェアード・インパクト・イニシアティブの主な特徴
ア 小売業者は、同イニシアティブに参加することを公表する。
イ 小売業者は、既存のフェアトレード商品の生産者の中から選ばれたグループから商品を調達する。
ウ フェアトレード財団は、生産者から商品を調達することで、生産者が一つの小売業者に過度に依存しないようにし、生産者に更なる安全性を提供する。
エ 小売業者はそれぞれ、バナナ、コーヒー、ココアのどのイニシアティブに参加するか(参加しないことも全て参加することも含む。)、また、シェアード・インパクト・イニシアティブの要件と既存のフェアトレード最低価格及びフェアトレード・プレミアムを条件として、それらを購入する条件を自由に選択することができる。小売業者は、商品を3~5年間購入することを約束する。
オ 小売業者は、シェアード・インパクト・イニシアティブの下で購入された商品に対して、関連するフェアトレード最低価格及び関連するフェアトレード・プレミアムを支払うことが義務付けられる。
カ フェアトレード財団は、第三者と協力してシェアード・インパクト・イニシアティブに関する影響評価を定期的に実施する。
 
2 CMAの判断(非公式な助言)
(1)小売業者間の競争への影響
 同イニシアティブは、小売業者が将来的にフェアトレード商品を追加購入することを公約するに留まり、購入予定数量(最低購入要件をどの程度上回る予定か)に関する情報を交換することはない。また、小売業者による商品の価格調整を伴わず、独自に販売価格を設定する。同イニシアティブへの参加による追加コストをどの程度消費者に転嫁するかは、各小売業者の裁量に委ねられる。さらに、同イニシアティブの対象となるのはわずか3品目であり、同イニシアティブの対象となるこれらの商品の輸入量に占める割合は少ない。CMAは、フェアトレード財団から提供されたデータに基づき、同イニシアティブの対象となるのは、カカオは英国の年間輸入量の10%未満、コーヒーは同5%未満、バナナは同15%未満であると推計している。
 
(2)生産者間の競争への影響
 同イニシアティブへの参加は任意であり、参加する生産者は全体の2~3%に留まるものと推計される。同イニシアティブに参加しない生産者が供給する商品量は市場の大部分を占めるため、これらの生産者が関連市場で競争することに大きな影響を与えるとは考えにくい。
 
(3)結論
 以上のとおり、シェアード・インパクト・イニシアティブの目的や効果によって競争が制限されることはない。今般のCMAの評価に重大な違いをもたらすような関連情報が隠匿されなかったという前提の下で、CMA は同イニシアティブに関して執行措置(差止めや制裁金)を講じることはない。
 ただし、今後、同イニシアティブの範囲や条件について見直し、実質的な修正を行う場合は、CMAに再照会しつつ、フェアトレード財団と小売業者は、競争を保護するために追加的な措置を講じる必要があるかどうかを検討すべきである。

デジタル市場の新しい競争規制に関するCMAのアプローチ

1 2024年1月11日、英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は、英国議会で審議中のデジタル市場・競争・消費者法案(Digital Markets, Competition and Consumers Bill:DMCCB)の中で提案されているデジタル市場における新たな競争規制の運用方針の概要を公表した。
 
2 同概要は、英国政府閣僚からの要請に応えたもので、CMAの新たな競争規制に対するアプローチの指針となる原則について詳述している。これには、CMAの執行活動を特定の具体的な問題に合わせて調整すること、人々や企業、英国経済に最も大きく影響するものに焦点を当てること、幅広い利害関係者と関わりを持つこと、透明性を確保して活動することなどが含まれる。
 
3 また、CMAは、その活動の優先順位付けの参考とするべく、英国の消費者、企業、技術専門家を代表する協議会を組織することにしたが、これは、昨年(2023年)2月にCMAによって任命された9名のデジタル市場の競争規制に関する技術専門家に続く試みである。
 
4 同概要は、CMAが達成を目指す成果と、CMAが対処を試みる問題の概要を示し、デジタル市場におけるCMAの新たな役割をどのように遂行するかを示す11の原則を定めている。
 
5 デジタル市場における新たな競争規制は、CMAによる証拠に基づく調査と意見募集手続の結果、1つ以上のデジタル活動に関して戦略的市場地位(Strategic Market Status (SMS))を有すると認定した企業(以下「SMS企業」という。)にのみ適用される。CMAは、新法の施行後1年以内に3~4件のSMSの認定に向けた調査を開始する予定である。CMAは、SMS企業と認定された企業に対して、デジタル市場における競争上の問題への対処や未然防止のための措置を講じることが可能となる。
 
6 CMAは、SMS企業がその地位を利用して不公平な競争優位を得ていると判断した場合、的を絞った適切な措置を講じる。場合によっては、デジタル活動に関して、指定されたSMS企業に次に挙げる行動要件を課す。
(1)自社の製品やサービスを優遇することを防止すること、又は、競合他社に対して、データ及び機能へのアクセスを拡大する機会を提供すること。
(2)他社と自社の製品・サービスを併用できるようにすること、又は、利用者に対して効果的な選択肢を提供できるようにすること。
(3)より公正な条件での取引を義務付けるか、又は、(SMS企業が提供する)アルゴリズムに関する透明性を高めることを義務付けること。
 
7 デジタル市場における新たな競争規制の成功には利害関係者の広範な関与が不可欠であり、今回の概要の公表は、CMAの幹部が米国西海岸(訳注:シリコンバレーにあるパロアルト)を訪れ、同地で開催される競争法カンファレンス(Tech Antitrust Conference)において、新たな競争体制がどのように運用されるかを説明し、各社のビジネスや事業環境について理解を深めるために、大手デジタル企業と幅広く面会する時と時期を同じくしている。
 
8 なお、同地にてカーデルCMAチーフエグゼクティブは次のとおり述べる見通しである。
(1)競争的なデジタル市場は投資やイノベーションの面で重要な要素であり、英国経済の発展を支え、英国のビジネス界及び消費者に多大な利益をもたらすデジタル市場の新たな競争規制は、新興のテック企業が、消費者にとって素晴らしい新製品を生み出す、真に革新的で刺激的な新機軸を打ち出す助けとなるものである。CMAに付与される新たな権限は相当なものであり、我々(CMA)は、その施行に際して、ターゲットを絞り、証拠に基づく、適切なアプローチを採ることを約束する。
(2)本日公表した概要は、英国議会の議員のみならず、英国内のデジタル企業や幅広い利害関係者に対して、CMAが意図しているアプローチを明確にするものである。新たな競争規制の運用を最大限効果的なものにするには、大手デジタル企業から新興のテック企業、ユーザーに至るまで幅広い利害関係者と関わり続けることが不可欠である。
(3)DMCCBが議会を通過した後、我々(CMA)は、より詳細なガイダンス案の意見募集を実施する。これにより、我々が新たな規制をどのように運用するつもりなのか、誰にとっても明確になり、意見を述べる機会が与えられることになる。

フランス

フランス競争委員会、正規販売店によるオンライン販売を禁止したとして、ロレックスに対して9160万ユーロの制裁金を賦課

2023年12月19日 フランス競争委員会 公表

原文

【概要】
 フランス競争委員会(以下「競争委員会」という。)は、フランスのジュエリーウォッチ産業労働組合(Union de la Bijouterie Horlogerie)と宝石商のPellegrin & Filsからの申告を受け、立入検査を経て、ロレックス・フランスSAS(注1)(以下「ロレックス・フランス」という。)等(注2)に対し、正規販売店による時計のオンライン販売を10年以上禁止したとして、制裁金を課した。
 
(注1)SAS(Société par Action Simplifié)とは、単純型株式会社というフランス法における会社形態の一つである。
(注2)フランス競争委員会は、本件課徴金の支払に関して、ロレックス・フランスと資本的、組織的、法的なつながりがあるロレックス・ホールディング株式会社、ロレックス株式会社及びハンス・ウィルスドルフ財団に対し、連帯して制裁金支払の責任を負わせることとした(後記「3 競争委員会による制裁金参照。)
 
 競争委員会は、ロレックス・フランスと販売代理店との間の契約に定められた選択的流通条項(terms of the selective distribution agreement)が、競争制限的な垂直的合意に当たるとした。ロレックス・フランスは、オンライン販売の禁止は偽造品・並行輸入対策であると抗弁したが、競争委員会は、同じリスクに直面しているロレックスの主な競合他社は、一定の条件下で自社製品のオンライン販売を許可していると指摘し、偽造品・並行輸入対策は、より競争を制限しない手段によって達成可能であるとしてこれを退けた。
 競争委員会は、ロレックス・フランスに9160万ユーロの制裁金を課したほか、受けた処分の公表を行うよう命じた。ただし、正規販売店に対する再販売価格拘束があったとの申告人からの主張に対しては、証拠が十分でなかったとして退けた。
 
【本文】
1 ロレックスの選択的流通制度
 ロレックス・グループは1905年に設立されたスイスのグループ会社で、「Rolex」及び「Tudor」のブランドで高級時計及びその部品の設計、製造、販売を行っている。フランスでは、スイスの会社であるロレックス・ホールディングSA(注3)のフランス支社であるロレックス・フランスがロレックス製品の総輸入元となっている。ロレックスは、フランスの高級時計販売市場において、そのブランド力の高さ、知名度及び市場シェアにより、積極的に展開されており、複数の情報源によれば、当該市場での最大のプレーヤーであるとの見方で一致している。ロレックスは、公認した独立販売店のネットワークのみを利用して時計を販売しており、「ロレックス選択的流通契約」に基づき、時計・宝飾品販売店に自社製品を販売する権利を与えている。
 
(注3)SA(Société Anonyme)は、フランス法における株式会社。
 
2 ロレックスによる正規販売代理店のオンライン販売の禁止
「ロレックス選択的流通契約」は、ロレックスの販売代理店による通信販売のみならずオンラインでの販売を禁止している。ロレックスはこの禁止条項について次のように述べている。「正規販売代理店は、我が社の製品の販売権限がある選ばれた当事者であり、オンライン販売や通信販売を行うことはどのような状況においても許容されない。オンライン販売は、全ての正規代理店が契約している「ロレックス選択的流通契約」に違反する行為である。」
 競争委員会及び判例法は、この種の禁止条項は本質的に競争制限的と判断している。
 ロレックスは、オンライン販売禁止の正当化事由として、ブランドイメージの保護、偽造品対策、ネットワーク外での販売防止を挙げたところ、競争委員会はこれらの目的の正当性は認めつつも目的と手段の均衡を欠くと判断し、その理由として、ロレックスと同様の問題に直面する同社の競争業者が主に技術面からの解決策を導入して、オンライン販売を行っていることや、ロレックスがある販売代理店と共同で、中古時計の真正性を保証するオンライン購入プログラムを開発したことを挙げ、ロレックス製品のオンライン販売の全面的禁止は正当化できないとしている。
 
3 競争委員会による制裁金
 競争委員会は、時計を含む高級品のオンライン流通が過去15年間で急成長している中、本件禁止は消費者及び販売代理店に不利益をもたらし、販売チャネルを閉鎖する深刻な問題行為であると考え、その期間(10年以上)及び性質に照らし、ロレックスに対して9160万ユーロの制裁金賦課を決定した。なお、ロレックス・フランス、ロレックス・ホールディングSA、ロレックスSA及びハンス・ウィルスドルフ財団(注4)との間に資本的、組織的、法的なつながりがあることから、後三者に連帯して制裁金支払の責任を負わせることとした。
 さらに、競争委員会は、ロレックスに対し、その全正規販売店に本決定の概要を送付するよう命じるほか、2か月以内 に連続7日間、本決定の概要をウェブサイトに掲載しなければならないとした。
 最後に、競争委員会はロレックスに対し、ル・フィガロ紙の紙面及びデジタル版、並びにモントレ・マガジンに本決定の概要を掲載するよう命じた。
 
(注4)ロレックス・グループの株主
 
【競争法上の考え方】   
 原則として、メーカーは、自己が適切と考える流通網を組織することは自由であるが、流通網を組織するにあたって、競争制限を生じさせることや、販売業者の商業的自由を制限することがあってはならない。
 販売業者のオンライン販売を禁止することにより、販売業者間の競争を減殺させるだけでなく、オンライン販売流通網におけるメーカーとの間でも行われるべき競争を歪めることになる。この考え方は、本件のように、メーカーの製品が正規販売代理店を通じてのみ排他的又はほぼ排他的に販売しうるネットワークにおいても同様である。

フランス競争委員会、プレイステーション4用ゲームコントローラーの供給に関して支配的地位を濫用していたとして、ソニーに対し1350万ユーロの制裁金を賦課

2023年12月20日 フランス競争委員会 公表

原文

 フランス競争委員会(以下「競争委員会」という。)は、フランスのゲームコントローラーメーカーであるSubsonicからの申告に基づいて審査を行い、4年以上にわたり、プレイステーション4(以下「PS4」という。)用ゲームコントローラーの供給市場における支配的地位を濫用したとして、ソニー(日本の親会社を含む後述のグループ4社。以下本稿では特に断りのない限りこの4社を単に「ソニー」とする。)に対し1350万ユーロの制裁金を課した。

 競争委員会は、以下の2つの行為に対して制裁金を課した。
(1)第一に、ソニーが2015年11月以降、模倣品対策として技術的対抗措置を採ったことで、サードパーティ製ゲームコントローラー(ソニー以外のメーカーが製造し、ソニーの公式ライセンスを取得していないもの)の正常な機能に影響を与え、ゲーム機のオペレーティングシステムのアップデート中に接続が定期的に切断されることをもたらした。

 競争委員会は、模倣品対策という目的の正当性を重視する一方で、全ての「非ライセンス」コントローラーに無差別に影響を与えるという点で、行き過ぎた措置であると指摘している。

(2) 第二に、サードパーティ・メーカーが公式ライセンス及び固有の識別番号を取得する唯一の方法であるOLPパートナーシップ・プログラム(注1)(以下「OLPプログラム」という。)に、PS4互換コントローラーを販売しようとする競合事業者が参加することを妨げる複数の事例が認められた、不透明なライセンスポリシーである。ソニーは、OLPプログラムへのアクセスが接続停止を回避するための唯一の方法であるにもかかわらず、同プログラムへのアクセス条件の説明を求めたメーカーに対してこれを拒否することにより、アクセス条件を恣意的に適用したと判断した。

(注1)ソニーの「Official Licensed Product」(OLP)パートナーシップ・プログラム。  このプログラムでは、PS4に対応する特定のコントローラーの製造に関して、ソニーが保有する知的財産権の使用許諾を受けることができる。ソニーによると、「アクセサリーメーカーが、ソニーの正式な承認を受けた製品であることを示すために、その製品のパッケージにソニーのロゴを使用する権利を得ることができる。」というものである。ソニーのコントローラーのように、ライセンスされたコントローラーにも固有の識別番号があり、ソニーはそれを使って識別することができる。

 競争委員会は、これら2つの行為が組み合わさることで、その影響を受けたサードパーティ・メーカーのプレーヤー及び販売店に対するブランドイメージが著しく損なわれ、同市場での事業拡大が遅れ、市場から閉め出される可能性を生じさせたと考えている。

 13,527,000ユーロの制裁金は、以下のソニーグループの子会社3社及び親会社に連帯して賦課される。
・ ソニー・インタラクティブエンタテインメント・ヨーロッパ・リミテッド(欧州におけるライセンスプログラムを分掌)
・ 株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント(PS4のオペレーティング・システム・アップデートを分掌)
・ ソニー・インタラクティブエンタテインメント・フランス(フランスにおけるコントローラーのマーケティングを分掌)
・ ソニーグループ株式会社(親会社)

【本文】
1 PS4コントローラー生産モデル
 PS4はソニーの第8世代ゲーム機である。2019年から販売されており、ソニーがデザインしたデュアルショック4と呼ばれるPS4用コントローラーが付属している。ゲーム機用コントローラーは最も売れているゲーム機用アクセサリーであり、デュアルショック4と同じコントローラーは別売りもされている。

 PS4用コントローラーは以下の3種類がある。
  ・ ソニー製コントローラー
  ・ メーカーがソニーグループからライセンスを受けて生産するコントローラー
  ・ 公式ライセンスを持たないサードパーティ・メーカー製のコントローラー

 ソニーは、そのブランドイメージ、信頼性、品質、PS4本体との完全かつ長期的な互換性により、PS4用コントローラーの供給市場において支配的な地位を占めている。

2 ソニーが築いた参入障壁及び事業拡大の障壁
 競争委員会は、ソニーが次の2つの慣行を同時に実施することで支配的地位を濫用したと認定した。1つは、ソニーが製造・ライセンスしていないコントローラーのPS4本体との接続を切断することを目的とした技術的対抗措置であり、もう1つは、現実に実行が困難なOLPプログラムのみの下での不透明なライセンスポリシーである。

(1)     技術的対抗措置
 ソニー及びOLPプログラムに参加し、公式ライセンスを取得しているメーカーが製造するコントローラーには、固有の識別番号を含むチップが取り付けられており、ソニーは原則として、この識別番号によりコントローラーを識別することができる。競争委員会は、ソニーがPS4本体の特定のアップデートの際に、識別番号のないコントローラー又は大規模に複製された識別番号を持つコントローラーの接続を切断したと認定した。その結果、OLPプログラム以外のサードパーティ・メーカーが製造した全てのコントローラーがこの切断の影響を受けた。競争委員会は、メーカーがユーザーに「修正パッチ」を提供することで、事後的にこの切断に対応できたことを認めたが、同時にこれらのパッチはすぐに利用できるものではなく、インストールが必ずしも容易でなかったことも指摘している。その結果、一部のユーザーが、自分のコントローラーの接続が切断された原因を、これらのコントローラーを製造したメーカー及びその製品の品質が不十分なことに起因すると推認するに至った。
 ソニーは、これらの対抗措置は、知的財産権の侵害への対処であると主張したが、競争委員会は、模倣品対策という目的の正当性は認めつつも、当該措置は同目的に釣り合うものではなかったと指摘している。ソニー製及びライセンス製品以外のビデオゲーム用コントローラーを接続させない行為は、模倣品であるか否かにかかわらず、全てのサードパーティ・メーカー製のコントローラーに影響を及ぼしたからである。競争委員会は、ライセンスを取得していないからといって、コントローラーが模倣品だとは限らないと考えており、結果的に、ソニーは、知的財産権侵害コントローラーとライセンスを取得していないが知的財産権を侵害していないコントローラーの両方に影響を与える無効化措置を採ったこととなる。
 フランスの知的財産、とりわけ特許制度は、本質的に法的な事実認定に依存している。ソニーがフランスの裁判所において模倣の罪を認定されなかった事業者に対して講じた技術的対抗措置は、目的達成に必要な程度に比して過度であり、その結果として生じる競争の制限は正当化されない。

(2)     不透明なライセンスポリシー
 ソニーは、前述の技術的対抗措置と並行して、OLPプログラムへのアクセスを不透明にしていた。競争委員会は、特に、ソニーが、知的財産のライセンスと、接続を維持するための固有の識別番号の両方を、OLPプログラムの会員のみに付与していたことを指摘した。
 競争委員会は、ライセンス及び識別番号にアクセスするための条件が、それらを要求する全てのメーカーに伝えられておらず、恣意的な適用が可能なほど不正確であると認定した。その結果、Subsonicは他のメーカーと同様、ソニーのOLPプログラムの会員資格を取得することができなかった。したがって、競争委員会は、ソニーのライセンスポリシーは不透明で、理解しにくく、実際にライセンスを受けることは困難であったと考えている。
 その結果、これらのライセンスを持たない事業者は、ライセンスプログラムに参加することができないまま、ソフトウェアのアップデートの一環としてソニーによって実施されるタイミングの悪い接続の切断への対応を余儀なくされた。
 こうした行為は、ライセンスを持たない事業者のブランドイメージを傷つけた。この点に関して、競争委員会は、不満を持つユーザーが、ライセンスを持たないサードパーティ・メーカー製のコントローラーの購入を思いとどまっただけでなく、彼らの否定的なコメントにより、他のユーザーが購入を思いとどまり、その結果、これらの新規購入者が、ソニー製コントローラー又はライセンスプログラムの一環としてソニーが承認したコントローラーに合理的に選択を切り替えたと認定した。

3 ソニーに1352万7000ユーロの制裁金
 競争委員会は、ソニーが2015年11月から2020年4月までの4年間以上、すなわちPS4ゲーム機の存続期間のほとんどにおいて、支配的地位を濫用したと認定し、①ソニー・インタラクティブエンタテインメント・ヨーロッパ・リミテッド(欧州におけるライセンスプログラムを分掌)、②株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント(PS4のオペレーティング・システム・アップデートを分掌)、③ソニー・インタラクティブエンタテインメント・フランス(フランスにおけるコントローラーのマーケティングを分掌)、及び④ソニーグループ株式会社(親会社)の4社に対し、連帯して制裁金を賦課した。
 競争委員会は、PS4用ゲームコントローラー市場における競争が開放され、同市場における競合他社の発展が可能だった期間を通じて、ソニーが違法な措置を継続的に実施したと認定した。ソニーは、ライセンス許諾を受けないコントローラーは必然的に商標権又は特許権を侵害するものであると主張したが、競争委員会は、ソニーが主張した特許は、実施期間中に失効したか、失効間近であったと指摘し、この主張を退けた。したがって、技術的対抗措置は、当該発明がパブリックドメインになった(特許権の保護期間が終了した)後も、特許存続期間中に認められた排他的権利を保持する効果を持ちうることとなった。
 したがって、競争委員会は、ソニーの反競争的行為は特に重大であると判断し、制裁金に関する手続告示に基づいて、13,527,000ユーロの制裁金を課した。

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