最近の動き(2026年6月更新)
EU
欧州委、WhatsAppからサードパーティ製AIアシスタントを排除している状況を是正するための暫定措置に関し、メタに新たな異議告知書を送付
2026年4月15日 欧州委員会 公表
1 概要【概要】
欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、メタに対し、2025年10月15日の方針改定前と同一の条件でサードパーティ製AIアシスタントのWhatsAppへのアクセスを回復させるよう命じる補完的異議告知書(注1)を送付した。これは、メタが2026年3月4日に利用規約の修正版を公表したにもかかわらず行われたものである。
本件は、メタが自社のメッセージングアプリであるWhatsAppに対するサードパーティ製AIアシスタントからのアクセスを制限する行為が、支配的地位の濫用に該当する可能性についての調査の一環として、欧州委が実施している暫定措置手続に基づく更なる措置である。欧州委は、2026年2月9日に送付した異議告知書において、メタがWhatsApp上でサードパーティ製AIアシスタントによるユーザーへのアクセス及び相互運用性を排除したことにより、EU競争法に違反したとの予備的見解を示していた。
欧州委は、本日(2026年4月15日)の補完的異議告知書において、WhatsAppへのサードパーティ製AIアシスタントのアクセスを手数料の支払を条件として再開するとのメタの決定は、実質的に、従前のアクセス禁止措置と同等であると暫定的に認定した。メタの行為は、急速に成長しているAIアシスタント市場への競争事業者の参入又は事業拡大を阻害するおそれがある。
これを受けた欧州委は、メタの当該改定が市場に重大かつ回復不能な損害をもたらすことを防止するため、同社の反論及び防御権の行使を担保しつつ、暫定措置を課す意向を表明した。当該暫定措置は、欧州委が本件調査を完了し、メタの行為について最終決定を行うまでの間、適用される。
また、欧州委は、本日、別個の調査開始決定において、イタリア競争当局と協力し、本件調査対象をイタリアにも拡大した。イタリア競争当局が本件について独自に調査を開始していたため、従前はイタリアについては欧州委の調査対象から除外されていた(注2)が、これにより、欧州委の認定は、欧州経済領域(EEA)全域を対象とすることとなる。
(注1)欧州委による正式な調査手続の一環として、関係当事者に対して予備的な調査結果を文書で通知する。当事者は、欧州委の審査記録を閲覧した上で、書面で見解を回答するとともに、欧州委及び各国競争当局の代表者の面前で本件に関する意見を述べるための口頭審理を請求することができる。当事者が防御権を行使した後、欧州委が暫定措置の要件が満たされていると判断した場合には、欧州委は当該措置を課す決定を採択することができる。暫定措置決定の採択は、本件に関する欧州委の最終判断に先入観を与えるものではない。
(注2)イタリア競争・市場保護委員会(AGCM)は、イタリアのAIチャットボット市場における競争を歪めるおそれがあるとして、競合サービスを排除する方針の適用停止を命じる暫定措置命令を発令した。AGCMは、2026年1月に施行予定のWhatsApp Business Solution利用規約の適用を停止するようメタに命じた。
2 欧州委によるこれまでの調査経過
2025年10月15日、メタは、WhatsApp Business Solution利用規約の改定を公表し、2026年1月15日以降、汎用的なサードパーティ製AIアシスタントをWhatsAppから事実上排除することとした。
2025年12月4日、欧州委は、進行中の調査の一環として本件に関する正式審査を開始し、2026年2月9日には、メタの行為が一見するとEU競争法に違反すると暫定的に認められる旨及び暫定措置を課す旨を通知する異議告知書を同社に送付した。2026年3月2日、メタは、異議告知書に対する回答を提出した。
2026年3月4日、メタは、方針の改訂版を公表し、従前のアクセス禁止措置を撤回したが、サードパーティ製の汎用的AIアシスタントに適用される価格体系を導入した。
本日の補完的異議告知書において、欧州委は、メタに対し、方針の改定版はWhatsAppからサードパーティ製AIアシスタントを排除する点で同様の効果を有するため、一見するとEU競争法に違反するおそれがある旨を通知した。
今回の暫定措置に関する補足的異議告知書の送付は、本件調査の結果に予断を与えるものではない。メタは、欧州委の懸念に対して反論する機会を有する。
3 背景となる事実関係
メタは、米国に本社を置く多国籍テクノロジー企業である。同社の主力製品は、Facebook、Instagram等のソーシャルネットワーク及びWhatsApp、Messenger等の消費者向けコミュニケーションアプリである。また、オンライン広告サービス、仮想現実(VR)製品及び拡張現実(AR)製品も提供している。メタは、汎用的AIアシスタントであるMeta AIを提供しており、最近では同様の製品であるManus AIを買収している。
4 テレサ・リベラ上級副委員長による声明
AIのような急速に進化する市場において競争事業者を排除することは、まさに暫定措置が必要とされるような場合に該当する。法的な禁止に代えて同様の効果を持つ価格設定を行ったとしても、メタの行為がAIアシスタント市場における競争に重大な損害を与えるおそれがある(支配的地位の濫用に該当する可能性がある)という我々の懸念を払拭するものではない。これが、我々が暫定措置に向けた手続を継続する理由であり、欧州委が本件を全面的に分析するまでの間、競合するAIアシスタントのWhatsAppへの完全なアクセスが保証されることになる。
その他
オーストラリア
オーストラリアの新たな企業結合規制は良好な滑り出し
2026年4月9日 オーストラリア競争・消費者委員会 公表
1 運用開始から最初の3か月間のデータによると、オーストラリアの新たな企業結合規制は制度設計どおりに機能しており、オーストラリア競争・消費者委員会(以下「ACCC」という。)はタイムリーに決定を行っていることが明らかになった。新たな企業結合規制(注1)が施行された2026年1月1日から3月31日までの間に、ACCCは50件の届出と108件の届出免除申請(waiver applications)(注2)を受理した。【概要】
なお、事業者が自主的に届出を行うことが認められていた移行期間中(2025年7月1日から同年12月31日まで)に13件の届出があった。
(注1)一定の要件を満たす買収案件について、事業者は事前にACCCに届出することが義務付けられた。当該事業者は、ACCCからの承認なしに買収を実行することは禁じられている。
(注2)当事会社間で競合する事業領域が全くない又は限定的である、当事会社の市場シェアが著しく低いなどといった要件を満たす場合、事業者はACCCに対し届出免除を申請することができる。ACCCから申請が認められれば、買収が届出基準に達している場合でも、届出が不要となる。
https://www.accc.gov.au/system/files/merger-process-quick-guide-for-businesses-december-2025.pdf
2 ACCCは第1次審査(Phase 1)において39件の届出を承認し、2件の届出はより詳細な審査を行う第2次審査(Phase 2)に移行した。新たな企業結合規制の下では、オーストラリア財務大臣が定めた届出基準を満たす買収案件について、事業者はACCCへの届出が義務付けられている。事業者はACCCの承認を得るまで当該買収を実行することができない。
3 ACCCは、各届出の詳細及び主要な決定事項を「企業結合事案一覧表」(Acquisitions Register)(注3)で公表している。ACCCは、第1次審査において、期間が延長されない限り15~30営業日以内に、買収を承認するか又はより詳細な審査を行う必要があるかを決定しなければならない。ACCCは、当該買収がいずれかの市場において競争を実質的に減少させる可能性が高いと判断した場合、第2次審査が必要であると決定することができる。第2次審査の期間は、延長が許容される一定の場合を除き、最長90営業日である。
(注3)届出された買収及び届出免除の申請に関する記録が掲載されている。
4 第1次審査においては、ACCCが承認の決定を行うまでに平均18営業日を要した。競争上の重大な懸念が生じないことが明らかでより単純な買収案件に係る簡素化された手続である届出免除については、平均11営業日で決定された。ACCCは70件の届出免除を認め、6件は認められなかった。届出免除が認められなかった買収案件については、届出基準を満たす場合、買収を実行する前にACCCに正式に届け出る必要がある。
5 ACCCのゴッドリーブ委員長は、次のように述べた。
(1) まだ初期段階ではあるものの、新制度の進捗状況には満足している。初期の業績指標は、システムとプロセスが設計どおりに機能していることを示しており、新たな企業結合規制が順調に始動していることを示している。
(2) 特に重要なのは、新たな企業結合規制により各分野における企業統合の動向についての理解を深めることができる点である。
(3) ACCCは、80%の買収案件について20営業日以内(第1次審査(早期承認)又は届出免除のいずれかによる)に判断を下すことを目指していた。現在はこの目標を達成しており、実際に91%の案件が20営業日以内に決定されている。
(4) 透明性の向上は新たな制度の重要な特徴であり、これにより関係者はACCCに届け出られた買収案件の内容やACCCの判断理由を確認できるようになる。
(5) ACCCは、新たな企業結合規制を透明かつ効率的に運用することに注力しており、運用実績や主要な動向について引き続き報告していく。
トルコ
トルコ競争庁、AIに関するセクター調査を開始
2026年4月7日 トルコ競争庁 公表
1 今日、AIは、単なる技術開発の新たな分野にとどまらず、競争のルールを書き換え、市場支配力を変容させ、経済のバランスに根本的な影響を与えるツールとなっている。特に生成AIの急速な発展は、データ、処理能力及びプラットフォーム・エコシステムを軸とした新たな競争環境を生み出している。この新たな環境においては、競争がどのように形成・維持され、誰によって決定されるかが再定義されつつある。
【概要】
2 トルコ競争庁(以下「競争庁」という。)は、この変革が市場に及ぼす影響を統合的な視点から評価し、新たに生じつつある競争上のリスクを早期に特定するため、AIエコシステムに関する包括的なセクター調査を開始した。
3 AIのバリューチェーンは、インフラからモデル開発、アプリケーションに至るまで、多層的かつ戦略的な構造に依存している。特に、このバリューチェーンにおける主要モデルの構築段階においては、データ、処理能力、技術的専門知識、資金等の投入資源へのアクセスが決定的な役割を果たす。これらの資源に早期かつ集中的にアクセスできる事業者は、バリューチェーンの複数の層で地位を確立し、垂直統合的な構造を形成することで、市場支配力を急速に強化することが可能となる。これは、競争の機能を形作る根本的な力学に直接的な影響を及ぼす。
4 一方、AIバリューチェーンの中核をなす主要モデルの汎用性は、当該力学を更に顕在化させる。大規模データセットで学習され、様々な用途に統合することが可能なこれらのモデルは、単なる技術的構成要素ではなく、エコシステムの方向性を決定付ける重要な要素となっている。このような状況下において、先行者利益を獲得した事業者が、その地位をさらに強固なものとすることは、参入障壁の上昇、利用者の特定エコシステムへのロックイン、競争事業者による不可欠な投入資源へのアクセスを困難にする等のリスクを伴う。そのため、不可欠な投入資源へのアクセス条件、エコシステム内の関係性及び流通チャネルの支配が市場構造に及ぼす影響について、統合的な検討を行うことが重要である。
5 また、AI技術と大手デジタルプラットフォームの既存の製品・サービスとの統合は、競争法上、更に重大な問題を提起している。このような統合は、自社優遇、排除、抱き合わせ販売、アクセス制限、切替えコストの増大といった行為が生じる土台となり得るものであり、現在の市場構造のみならず、将来の競争及びイノベーションの動向にも影響を及ぼし得る。
6 さらに、競争庁が最近審査した企業結合は、合併規制の観点からも、AI分野の動向がますます重要になっていることを示している。AI技術が直接的に関連市場を構成しているような取引もあれば、データ優位性、補完性、潜在的競争及びイノベーションの保護を考慮した評価が必要となるような取引もあった。
7 今回開始されたセクター調査では、特に主要モデルを中心にAIエコシステムが具体的にどのように形成されているか、バリューチェーンの各層間の関係、不可欠な投入資源へのアクセス条件、大手テクノロジー企業と新興・革新的事業者との相互運用性並びにデータ及び処理能力が競争に及ぼす影響を分析する。
8 本調査は、AI分野において生じている構造的な傾向及び潜在的な反競争的リスクを早期に特定し、得られた知見を競争的な市場構造を維持するための政策決定プロセスや介入手段として活用することを目的としている。
9 競争庁は、AI分野における変革を注視するとともに、この変革がトルコ経済及び競争環境のバランスに及ぼす影響を慎重に精査している。